説明

医療用保護シーツ

課題皮膚を傷付ける危険性を低減させるべく、動摩擦係数と実質的に同じ静摩擦係数を有する低摩擦材料から形成された医療用保護シーツを提供することにある。
【解決手段】動摩擦係数と実質的に同じ静摩擦係数を有する低摩擦材料から形成された、スリップシートまたは包帯用カバーの形態をなす医療用保護シーツ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の取扱いに有効でかつ患者の皮膚が負傷しているか、圧力を受けるような場合に、皮膚を傷付ける危険性を低減させるように設計された医療用保護シーツに関する。
【背景技術】
【0002】
患者に寝返りを打たせたり、ベッドと手押し車との間で患者を持上げるのに使用される患者取扱い用シーツは知られている。該シーツはときどき「スライドシーツ」と呼ばれており、以下、本明細書でもこの呼び方を用いることにする。患者が重傷を負っている場合には、既知のスライドシーツを用いて患者をベッドと手押し車との間で移動させることは困難である。なぜならば、スライドシーツに使用されている材料は、スライディングに対する高い初期抵抗を生じること、すなわち、シーツが引っ張られるときに摩擦係数が急激に高くなって、実際にスライディングが生じる前にピークに達してしまうからである。そのとき、シーツは、あたかも「分離した(UNSTUCK)」状態になる。高い摩擦抵抗からのこの突然的な解放により、特に患者の皮膚が火傷を負っている場合または表皮が負傷している場合には、しばしば皮膚を傷付けてしまう。ある場合には、これによって、皮膚と表皮との結合が分離されてしまうことがある。
【0003】
表皮が最初に負傷していない場合でも、圧力による皮膚の局部領域の血流低下によって褥瘡すなわち床ずれが生じることがある。体位を頻繁に変えることにより、この問題は解決できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
寝具類または衣類と擦れ合う包帯等の手当て用品についても他の問題が生じる。この場合も、包帯等とこれらが接触する材料との間の高い摩擦係数によって、包帯等に皺(しわ)を引起こしかつ表皮を負傷させることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、動摩擦係数と実質的に同じ静摩擦係数を有する低摩擦材料から形成された医療用保護シーツが提供される。
【0006】
このような材料の長所は、該材料が隣接材料(該隣接材料も同じ材料で構成できる)上で正に移動し始めようとする瞬間に、突然移動(ジャーキング)することなくスムーズで優しい移動開始および加速が可能なことである。かくして表皮の負傷が制限される。スライドシーツが本発明の材料で作られる場合には、患者のケアを行う人に要求される労力も少なくて済む。床ずれの懸念がある状況では、患者自身が寝返りを打つことができ、また、本発明の材料上に寝ている患者を頻繁に移動させるべくケアを行う人の労力も少なくて済む。
【0007】
好ましい材料は、0.4より小さい摩擦係数を有する。
【0008】
ある程度の「呼吸」を行うことができるように、材料は織成ファブリックが好ましい。材料は粗過ぎてはならず、1000〜40デシテックス(DECITEX)の線密度をもつ材料が満足できるものであると考えられる。470、350または50デシテックスの材料を試用したところ、首尾良く機能している。材料の重量は、それぞれ、350および50デシテックス材料の場合に、180および61.7GM/Mである。試験で良い結果が得られた最も繊細な材料は、ナイロン経糸ヤーン50F15T143および50F15T1943を有するデュポン(DUPONT)社のTACTEL(R)であった。470T743として識別されるより粗いファブリックも首尾良く使用できる。DUPONT社の350T749として識別される中間重量のファブリックも首尾良く使用できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面およびグラフを参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
スライドシーツおよび包帯カバーを作ったDUPONT社の平織ナイロンファブリックのサンプル(DTI)を作り、下記表1に示すような試験結果を得た。

【表1】

【0011】
P470ファブリックのサンプルは、その性能を、リネン対リネンベース、P470対P470、P470対リネン、およびリネン対P470に関してリネンと比較する目的で、図1に示す試験装置に供された。
【0012】
フラット測定技術のブロックを使用した(図1)。試験ファブリックT内に包まれた50×50MMの寸法の「そり」を、試験すべき第二ファブリックTのシートで覆われた平板F上で引っ張った。そりは、INSTRON社の機械試験システムLCによるスチールワイヤおよびプーリPを用いて、1MM/秒の一定速度で引っ張った。そりを引っ張るのに必要な荷重は摩擦荷重を与えるものであり、試験の全体を通して記録された。そりには、試験中に、40Nの垂直荷重を与えるウェイトWが負荷された。摩擦係数は、摩擦力を、加えられた荷重で除した値として計算した。
【0013】
この結果は図2に概略的に示されており、主な特徴は表2に記されている。最大摩擦値は、リネンに対してリネンを摩擦する場合に記録され、この場合の静摩擦係数は0.67、動摩擦係数は0.44であった。これに対し、P470の上でP470を摩擦する場合には、静摩擦係数および動摩擦係数は、ともに約0.2であった。また、リネン上でP470を摩擦する場合、またはP470上でリネンを摩擦する場合には、結果は非常に良く似ており、約0.3の動摩擦係数と、これより僅かに大きい静摩擦係数とを有している。図2から抽出した図3は、荷重を加えた時点からリネンが伸びるまで、静摩擦係数が急激に増大することを示している。次にリネンは突然にスライドし始め、この時点で動摩擦係数は急激に低下する。
【表2】

【0014】
リネンに対するP470の比較試験の完了後に、第二シリーズの試験を行って、P470材料の経糸と緯糸との間のような相対方向の効果を測定した。第一シリーズの試験に使用したのと同じ装置(図1)を使用した。
【0015】
第二シリーズの試験の第一組では、荷重はチャートレコーダにより記録され、次に、デジタル結果を得るためスキャンおよびデジタル化された。第二組の測定については、荷重は、データロギングシステムによりデジタル形態で直接的に記録された。
【0016】
この結果は図2に概略的に示されており、主な特徴は表3に記されている。最大摩擦値は、リネンに対してリネンを摩擦する場合に記録され、この場合の静摩擦係数は0.67、動摩擦係数は0.44であった。これに対し、P470の上でP470を摩擦する場合には、静摩擦係数および動摩擦係数は、ともに約0.2であった。また、リネン上でP470を摩擦する場合、またはP470上でリネンを摩擦する場合には、結果は非常に良く似ており、約0.3の動摩擦係数と、これより僅かに大きい静摩擦係数とを有している。P470上でP470を摩擦する全ての試験について、摩擦結果の間の差は極く僅かであった。
【0017】
この形式の測定の不確実性について信頼性ある研究はなされていないが、摩擦測定の広い経験は、約0.2の平均摩擦レベルでの摩擦係数測定の不確実性は約0.03であることを示唆している。
【0018】
表3には他の結果が示されている。ここで、「横断方向(ACROSS)」とは、供給されるサンプルの緯糸に対して平行なP470ファブリック上の方向をいう。また、「沿い方向(ALONG)」とは、この方向とは垂直で、経糸に対して平行な方向をいう。
【表3】

【0019】
図4に「交差方向(CROSSED)」と記された曲線番号21は、そりファブリックおよび平ファブリックが、経糸対緯糸方向、すなわち沿い方向/横断方向に配向されていることを示す。
【0020】
第二シリーズの比較試験から、P470材料は他のP470サンプルに対して、両経糸が平行である場合に最も良く整合すること、移動できる方のシーツが経糸の方向に引っ張られること、および驚くべきことに静摩擦の方が動摩擦よりも僅かに小さいことが証明された。最も好ましくない相対方向は、P470材料が経糸対緯糸方向すなわち「交差方向」に配置される場合である。しかしながら、P470がP470上でスライドするように配置される限りでは、あらゆる相対方向について摩擦係数に大きな差異はなかった。いずれの相対方向にも大きい差異はなく、殆どの場合に同じ静摩擦係数および動摩擦係数を有する。このことは、図3に示したリネンの上でリネンを摩擦する場合とは異なり、P470とP470とを重ねて使用する場合には、突然に動いてしまう傾向は全く生じない。この突然移動(ジャーキング)は、制御不能な突然移動を引起こしてしまう。
【0021】
P470とP470とを重ねて使用するのが好ましいが、P470とリネンとを重ねた場合の試験結果も、リネンとリネンとを重ねて使用した場合よりかなり良好であることを証明している。また、P470とリネンとを重ねて使用する場合には、リネン上でP470を経糸方向に引っ張るのが最良である。従って、スリップシート(多くは、約120×70CMまたは145×72CM)を作る場合には、シートの長辺が経糸と平行になるように材料を裁断するのが好ましい。明らかなことではあるが、サイズ範囲は、長さ約200CMおよび幅約100CMまで供給できる。
【0022】
スライドシーツとして本発明の材料を使用する場合、体重Wの患者の下のシーツを引っ張るのに要する力Fは、摩擦係数をΜ、重力の加速度をGとすると、F=2ΜGWとなる。ここで、静摩擦係数Μ(ΜS)は動摩擦係数ΜDに比べて非常に大きいので、患者の移動を開始させる力Fは非常に大きい。概略的にいえば、本発明の材料は、リネン上でリネンをスライドさせる場合に比べて、約1/2程度の努力(力F)で済むことが証明されている。また、材料は、任意の所与の重量に対して強くすることができる。一般に、静摩擦係数ΜSは動摩擦係数ΜDより20%を超えて大きくすべきではなく、両摩擦係数とも0.4より小さくすべきである。
【0023】
例えば図5に示すように、LYCRA(R)カラー32、調節可能なVELCRO(R)クローザ33および外部シーム34を備えたブーツ30の形態をなす包帯用カバーとして本発明の材料を使用する場合には、P50のような、より繊細な材料が好ましい。他の形態の包帯用カバー(図示せず)を提供することもでき、これらのカバーは、身体の他の特定部位の形状に形成される。ブーツは、そのつま先部分を切断して、通気できるようにすることもできる。
【0024】
本発明によるカバーの特定用途は、感染から保護しまたは治癒を高める活性材料を含有するヒドロコロイド等の進歩した材料を備えた包帯を保護することにある。これらの包帯は慣用の包帯より高価になるが、本発明のカバーにより与えられる保護は、これらの進歩した包帯をより長時間に亘って所定位置に留めることを可能にし、従ってコスト節約が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の材料を試験する試験装置を示す概略図である。
【図2】相対摩擦係数を表示すべく、本発明による材料とリネンとを比較する図1の装置から得られた試験結果を示すグラフである。
【図3】図2の結果から抽出した部分を示すグラフである。
【図4】図1の試験装置から得られた1組の試験結果を示すグラフであり、本発明による同じ材料のサンプル間の相対方向を変えることによりサンプル間の摩擦が如何に変化するかを示すものである。
【図5】本発明による材料で作られたブーツを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
11 P470材料の上にP470材料を重ねた場合の摩擦係数を示す曲線
12 リネン材料の上にリネン材料を重ねた場合の摩擦係数を示す曲線
13 リネン材料の上にP470材料を重ねた場合の摩擦係数を示す曲線
14 P470材料の上にリネン材料を重ねた場合の摩擦係数を示す曲線
21 交差方向
22 斜め方向
23 横断方向−横断方向
24 沿い方向−沿い方向
30 ブーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動摩擦係数と実質的に同じ静摩擦係数を有する低摩擦材料から形成されていることを特徴とする医療用保護シーツ。
【請求項2】
前記材料は0.4より小さいの摩擦係数を有することを特徴とする請求項1記載の医療用保護シーツ。
【請求項3】
前記材料は織成されていることを特徴とする請求項1または2記載の医療用保護シーツ。
【請求項4】
前記材料の線密度は1000〜40デシテックスの間にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の医療用保護シーツ。
【請求項5】
前記線密度は470、350または50デシテックスであることを特徴とする請求項4記載の医療用保護シーツ。
【請求項6】
前記材料の重量は、200〜50GM/Mの間にあることを特徴とする請求項4または5記載の医療用保護シーツ。
【請求項7】
前記材料の重量は、350デシテックス材料の場合は180GM/Mであり、50デシテックス材料の場合は62GM/Mであることを特徴とする請求項4記載の医療用保護シーツ。
【請求項8】
前記材料の1つ以上の層を備えたブーツとして形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の医療用保護シーツ。
【請求項9】
前記ブーツは、つま先が除去された形態に形成されていることを特徴とする請求項8記載の医療用保護シーツ。
【請求項10】
本明細書で説明したいずれか1つの形態および/または図5に示した形態と実質的に同じであることを特徴とする医療用保護シーツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−520246(P2007−520246A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516475(P2006−516475)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002740
【国際公開番号】WO2005/000183
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505473880)エーピーエー パラフリクタ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】