説明

医療用多層チューブ、および医療用輸液バッグ

【課題】耐熱性、およびポリエチレンバッグとコネクタの両方に対する密着性に優れた医療用多層チューブ、および該医療用多層チューブを備えた医療用輸液バッグを提供する。
【解決手段】高密度ポリエチレンを含む樹脂材料からなる外層11と、ランダムポリプロピレンおよび/またはブロックポリプロピレンを含む樹脂材料からなる内層12とを有することを特徴とする医療用多層チューブ10、およびこれを備えた医療用輸液バッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用輸液バッグのチューブポートとして好適な医療用多層チューブ、および医療用輸液バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輸液バッグやチューブポートなどの医療用具には、可塑剤を含有した軟質ポリ塩化ビニルが広く用いられていた。軟質ポリ塩化ビニルは、柔軟性、耐熱性、強度に優れ、またチューブとしてのキンク性にも優れる。
しかし、軟質ポリ塩化ビニルは主鎖中に塩素原子を含むため、廃棄焼却する際にダイオキシンが発生しやすかった。また、軟質化させる目的で含まれるフタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤は輸液に溶出することがあり、これが環境ホルモンとされる懸念がある。
【0003】
そこで、軟質ポリ塩化ビニルに代わり、ポリプロピレンを主体とした医療用具が開発されている。
ポリプロピレンは耐熱性に優れるものの、低温において非常に脆くなりやすいため、ポリプロピレン製の輸液バッグを低温環境下で使用した場合にバッグが破れるなどといった耐寒性に乏しいことによる問題が発生している。また、ポリプロピレンには劣化を防ぐために抗酸化剤などの添加剤が含まれる場合が多い。そのため、ポリプロピレンの場合も添加剤の輸液への溶出が懸念される。
【0004】
そこで、ポリプロピレンに代わる材料として、ポリエチレンが注目されている。ポリエチレンは耐寒性に優れると共に、添加剤の量を低減できるので輸液への溶出成分が少ない。加えてポリエチレンは安価であるため製造コストを削減できる。
しかし、一般的なポリエチレンは耐熱温度が110℃程度であり、ポリプロピレンに比べて耐熱性が低かった。例えば輸液バッグの場合、輸液を注入した後で121℃の高温にて滅菌処理されるため、ポリエチレンによりバッグを製造するには、ポリエチレンの耐熱性の向上が求められていた。
近年、121℃の高圧蒸気滅菌処理に耐えうるポリエチレンが開発され、輸液バッグの材料として注目されている。
【0005】
ところで、輸液バッグに輸液を注入する際は、通常、輸液を収容するバッグ本体にチューブポートと呼ばれるチューブを溶着し、該チューブから輸液をバッグ本体に注入する。輸液を注入した後は、メンブレンで液密を取ったツイフトオフスパイクポート等のコネクタを、チューブの先端に差し込むことにより、チューブに栓をしてから高圧蒸気滅菌処理する。また、点滴の際は、コネクタに輸液ライン先端のニードルを突刺して行うのが一般的である。
従って、高圧蒸気滅菌処理は輸液バッグのバッグ本体にチューブが溶着した状態で行われるため、チューブにも優れた耐熱性が求められる。加えて、バッグ本体とチューブ、およびチューブとコネクタの接触部分が、液漏れすることなく密着している必要がある。
【0006】
チューブとしては、例えば特許文献1には、軟質ポリ塩化ビニルまたはポリウレタン系共重合体を主成分とする外層と、塩素化ポリエチレンまたはマレイン酸系共重合体を主成分とする中間層と、ポリエチレンまたはエチレンとα−オレフィンの共重合体を主成分とする内層の3層により構成された医療用チューブが開示されている。
また、特許文献2には、外層と中間層と内層を含む多層チューブが開示されている。具体的には、内層または外層が、ポリプロピレン、エチレンとアクリル酸エステルとのコポリマー、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマーの三成分混合物85%と、エチレンとプロピレンとのコポリマー15%の組成物からなる多層チューブが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−269403号公報
【特許文献2】特許第3689486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の医療用チューブは、ポリエチレンバッグへの密着性に劣っていた。
また、特許文献2には、121℃の高圧蒸気滅菌処理に対する耐性を付与するための具体的な開示は一切なく、特許文献2に記載の多層チューブは必ずしも耐熱性を満足するものではなかった。
【0009】
これまで、軟質ポリ塩化ビニルに代わる輸液バッグの材料としては、ポリプロピレンが主流であったため、チューブもポリプロピレン系樹脂で作られていた。このため非塩化ビニル系輸液バッグの関連部材に関してはチューブに取付けるツイフトオフスパイクポート等のコネクタも、一般にポリプロピレン製のチューブに接続することを前提としており、ポリプロピレン製が多い。
従って、121℃の高圧蒸気滅菌処理に耐えるポリエチレン製輸液バッグに組み合わせるチューブには、耐熱性に優れることはもちろんのこと、材質の異なる医療用具、すなわちポリエチレンバッグと、ポリプロピレン製のコネクタの両方に対する密着性も求められる。
【0010】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、耐熱性、およびポリエチレンバッグとコネクタの両方に対する密着性に優れた医療用多層チューブ、および該医療用多層チューブを備えた医療用輸液バッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の医療用多層チューブは、高密度ポリエチレンを含む樹脂材料からなる外層と、ランダムポリプロピレンおよび/またはブロックポリプロピレンを含む樹脂材料からなる内層とを有することを特徴とする。
また、前記外層と内層との間に、接着層が設けられたことが好ましい。
さらに、前記外層が、高密度ポリエチレンと接着樹脂を含む樹脂材料からなることが好ましい。
また、本発明の医療用輸液バッグは、ポリエチレンフィルムが袋状に成形された輸液を収容するバッグ本体と、該バッグ本体の下部に溶着し、バッグ本体から輸液を排出するチューブポートとを具備する医療用輸液バッグであって、本発明の医療用多層チューブを前記チューブポートとして用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性、およびポリエチレンバッグとコネクタの両方に対する密着性に優れた医療用多層チューブ、および該医療用多層チューブを備えた医療用輸液バッグを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の医療用多層チューブの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の医療用輸液バッグの一例を示す正面図である。
【図3】図2に示す医療用輸液バッグのチューブに、コネクタが取り付けられた状態の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[医療用多層チューブ]
図1に、本発明の医療用多層チューブの一例を示す。以下、本明細書において、医療用多層チューブを単に「チューブ」と省略する場合がある。
この例のチューブ10は、外層11と、内層12と、これらの層の間に設けられた接着層13とを有する。
なお、図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
【0015】
<外層>
外層11はポリエチレンバッグ、すなわち後述するバッグ本体と接する層であり、高密度ポリエチレンを含む樹脂材料からなる。以下、該樹脂材料を「外層用樹脂材料」という。
外層11が高密度ポリエチレンを含む外層用樹脂材料からなることで、121℃の高圧蒸気滅菌処理にも耐えうる耐熱性を有するチューブが得られる。また、ポリエチレンバッグと、これに接する外層11とが同じエチレン系の材質となるため、ポリエチレンバッグに対する溶着が容易となり、密着性にも優れたチューブが得られる。
【0016】
本発明において「高密度ポリエチレン」とは、密度が0.945g/cm以上であるポリエチレンをいう。密度が0.945g/cm以上であれば、チューブに優れた耐熱性を付与できる。
ポリエチレンの密度は、JIS K 7112 D法に準拠して測定される値である。
【0017】
高密度ポリエチレンとしては、分子量分布Mw/Mnが6以下の高密度ポリエチレンを用いるのが好ましい。分子量分布Mw/Mnが6以下であれば、押出成形によりチューブを製造する際に、外層11が白濁するのを抑制でき、透明性を良好に維持できる。
分子量分布Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、ポリスチレンを標準試料とした検量線を用いて、計算した質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比である。
【0018】
外層11は、高密度ポリエチレンのみから形成されていてもよいが、接着樹脂を含む外層用樹脂材料から形成されていてもよい。接着樹脂を含む外層用樹脂材料を用いることで、後述する接着層13を省略することもでき、外層11と内層12とからなるチューブを得ることができる。
なお、外層用樹脂材料に接着樹脂を含有させる場合、高密度ポリエチレンと接着樹脂をペレットブレンドして外層用樹脂材料を調製してもよいが、成形機での混練が不十分である場合には、予め両者を混練しておいてもよい。
【0019】
接着樹脂としては、例えばポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどのエラストマー;無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの無水マレイン酸変性ポリオレフィン;アクリル酸変性ポリエチレン、アクリル酸変性ポリプロピレンなどのアクリル酸変性ポリオレフィン;無水マレイン酸とオレフィンの共重合体、アクリル酸系誘導体とオレフィンの共重合体などのオレフィン系共重合体;エチレン鎖を両末端に有するブロックコポリマー(ポリエチレンとポリプロピレンの相溶化剤)等が挙げられ、さらに、これらの混合物、及びこれらとポリエチレンまたはポリプロピレンとの混合物が挙げられる。
これらの中でも、成形安定性に優れ、医療用途として好適であることから、前記エラストマー、前記エラストマー同士の混合物、ポリエチレンまたはポリプロピレンと前記エラストマーとの混合物、及びエチレン鎖を両末端に有するブロックコポリマーが好ましい。
【0020】
外層用樹脂材料に接着樹脂を含有させる場合、接着樹脂の含有量は、外層用樹脂材料100質量%中、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。接着樹脂の含有量が80質量%を超えると、高密度ポリエチレンの割合が少なくなり、チューブの耐熱性が低下しやすくなる。
接着樹脂の含有量の下限値については特に制限されないが、20質量%以上が好ましい。
【0021】
外層11の厚さは50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。外層11の厚さが50μm以下であれば、チューブ10全体の柔軟性を良好に維持できる。特に、厚さが20μm以下であればチューブ10の透明性がより向上し、厚さが10μm以下であれば従来のポリプロピレン製のチューブに匹敵する柔軟性および透明性を付与できる。
外層11の厚さの下限値については特に制限されないが、3μm以上が好ましい。
【0022】
<内層>
内層12は、多層チューブの最も厚みの厚い主要な層であり、ツイストオフスパイクポート等のコネクタと接する層であり、2層構造のチューブの場合には外層以外の層、3層構造の場合は、外層、接着層以外の層をいう。また、内層12はランダムポリプロピレンおよび/またはブロックポリプロピレンを含む樹脂材料からなる。以下、該樹脂材料を「内層用樹脂材料」という。
内層12がランダムポリプロピレンおよび/またはブロックポリプロピレンを含む内層用樹脂材料からなることで、ポリプロピレン製のコネクタと、これに接する内層12とが同じプロピレン系の材質となるため、プロピレンに対する密着性に優れたチューブが得られる。
【0023】
ランダムポリプロピレンは、プロピレンとエチレンのランダム共重合体である。
ランダムポリプロピレンとしては、エチレンの含有量が3質量%以上、好ましくは6質量%以上のランダムポリプロピレンを用いることが好ましい。エチレンの含有量が3質量%未満であると、コネクタとの密着性が弱くなると共に、チューブの柔軟性が失われ、堅くなる傾向がある。
エチレンの含有量の上限値については特に制限されないが、9質量%以下が好ましい。
【0024】
ブロックポリプロピレンは、プロピレンと、エチレンおよび/または他のオレフィンからなるエラストマー成分をブレンドしたものであり、リアクターブレンドしたものが好ましい。このようなブロックポリプロピレンは、例えばプロピレンの単独重合の途中で、エチレンおよび/または他のオレフィンを添加し、これらとプロピレンを共重合することで得られる。
他のオレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンまたは1−オクテンなどが挙げられる。
【0025】
ブロックポリプロピレンとしては、エラストマー成分の含有量が15質量%以上、好ましくは40質量%以上のブロックポリプロピレンを用いることが好ましい。エラストマー成分の含有量が15質量%未満であると、コネクタとの密着性が弱くなると共に、チューブの柔軟性が失われ、堅くなる傾向がある。
エラストマー成分の含有量の上限値については特に制限されないが、70質量%以下が好ましい。
【0026】
ブロックポリプロピレンは、ランダムポリプロピレンよりも柔軟性が良好であるため、接着性に優れる。従って、チューブ10が外層11と内層12とからなる場合は、外層11との接着性に優れる点で、内層12は、ブロックポリプロピレンから形成されるのが好ましい。
一方、ランダムポリプロピレンは、ブロックポリプロピレンよりも輸液への溶出が少ない。従って、内層12をランダムポリプロピレンから形成すれば、耐薬品性にも優れたチューブ10が得られる。
【0027】
内層用樹脂材料には、内層12を柔軟化させる目的で、水素化スチレン−ブタジエン−エラストマーなどのスチレン系エラストマー、エチレン−ブテン共重合体などのオレフィン系エラストマー等を、単独あるいは複数を合わせてブレンドすることができる。
【0028】
内層12は、1つの層からなる単層構造であってもよいし、複層の層からなる多層構造であってもよい。
内層12が多層構造である場合、上述した内層用樹脂材料からなる1つ以上の層が外層11側に、これとは別のポリプロピレンからなる層が接液側、すなわち最も内側になるような構成とするのが好ましい。
内層12のうち接液側の層を形成するポリプロピレンとしては、目的に応じて次のような構成とすることができる。
耐薬品性を重視する場合には、輸液への溶出をより抑制できる点で、エラストマー成分を含まないランダムポリプロピレン、またはプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンを用いるのが好ましい。ランダムプロピレンとしては、エチレンの含有量が3質量%以上のランダムポリプロピレンが好ましい。
コネクタとの接着性を重視する場合には、エラストマー成分を含むポリプロピレンを用いるのが好ましい。エラストマー成分を含むポリプロピレンとしては、例えば、ブロックポリプロピレン、ブロックポリプロピレンとエラストマー成分との混合物、ランダムプロピレンとエラストマー成分との混合物などが挙げられる。また、エラストマー成分としては、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、これらエラストマーの混合物などが挙げられる。特にブロックポリプロピレンとエラストマー成分との混合物は、ポリプロピレン製のコネクタだけでなく、ポリカーボネート製のコネクタとの接着性にも優れるため好ましい。
また、チューブ10が外層11と内層12とからなる場合、内層12のうち外層11と接する層は、上述したようにブロックポリプロピレンから形成されるのが好ましい。
【0029】
内層12の厚さは0.35〜9mmであることが好ましく、0.6〜5mmであることがより好ましい。内層12の厚さが0.35mm以上であれば、チューブの強度を良好に維持できる。一方、内層12の厚さが9mm以下であれば、チューブの柔軟性を良好に維持できる。
【0030】
また、内層12が多層構造の場合、接液側の層の厚さは、3〜50μmであることが好ましく、3〜20μmであることがより好ましく、3〜10μmであることがさらに好ましい。
接液側の層がランダムポリプロピレンまたはホモポリプロピレンの場合に、その層の厚さが50μm以下であれば、チューブ10の全体の柔軟性を良好に維持できる。特に、厚さが20μm以下であれば、チューブ10全体の柔軟性がより向上し、厚さが10μm以下であればチューブ10の全体の柔軟性が、接液側の層を含まないチューブの柔軟性と同程度になる。
接液側の層がエラストマー成分を含むポリプロピレンの場合には、その層の厚さが50μm以下であれば、チューブ10の全体の耐薬品性を著しく損なうことがない。特に、厚さが20μm以下であれば、チューブ10全体の耐薬品性をほとんど損なうことがなく、厚さを10μm以下とすることで、チューブ10全体の耐薬品性は接液側の層がない場合とほとんど同じである。
【0031】
<接着層>
接着層13は、外層11と内層12との間に設けられた層であり、両者を接着させる役割を果たす。
接着層13は接着樹脂からなる。接着層13を形成する接着樹脂としては、外層11の説明において先に例示した接着樹脂が挙げられる。中でも、チューブ10全体の柔軟性や、外層11と内層12との接着力に優れ、剥離強度が高くなることから、ポリプロピレンとエラストマーとの混合物、ブロックポリプロピレンとエラストマーとの混合物、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン鎖を両末端に有するブロックコポリマーが好ましい。
【0032】
接着層13の厚さは3〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。接着層13の厚さが3μm以上であれば、外層11と内層12を均一に接着することができる。特に5μm以上であれば、接着がより均一となり剥離強度のばらつきが少なくなる。一方、接着層13の厚さが100μm以下であれば、チューブ10全体の耐薬品性を著しく損なうことはない。特に50μm以下であれば、チューブ10全体の耐薬品性をほとんど損なうことはない。
【0033】
<チューブの製造方法>
本発明のチューブは、上述した各層が共押出法によって貼り合わされていることが好ましい。
ここで、「共押出」とは、複数の押出機により複数の樹脂材料を同時に押出して、ダイ内またはダイ外で複数の溶融樹脂層を管状に積層することを意味する。具体的には、外層用樹脂材料と、内層用樹脂材料と、必要に応じて接着層を形成する接着樹脂とを同時に押出して管状に積層させ、外層と内層とを有するチューブを得る。
【0034】
このようにして得られるチューブは、チューブの外形が1.1〜20mm程度である。また、その厚さが外径の5〜45%であることが好ましい。チューブの厚さが外径の5%未満であると、チューブの中空形状を保持することが難しく、つぶれて閉塞する場合がある。一方、チューブの厚さが外径の45%を超えると、チューブが堅くなり柔軟性を保つことが難しくなりやすい。
【0035】
本発明のチューブは、上述した外層と内層とを有する。外層は高密度ポリエチレンを含む外層用樹脂材料からなる。従って、本発明のチューブは、121℃の高圧蒸気滅菌処理にも耐えうる耐熱性を有する。
加えて、外層はポリエチレンバッグと同じエチレン系の材質であり、内層はポリプロピレン製のコネクタ同じプロピレン系の材質である。従って、本発明のチューブは、材質の異なるポリエチレンバッグと、コネクタの両方に対する密着性に優れる。
【0036】
[医療用輸液バッグ]
図2に、本発明の医療用輸液バッグの一例を示す。以下、本明細書において、医療用輸液バッグを単に「輸液バッグ」と省略する場合がある。
この例の輸液バッグ100は、輸液を収容するバッグ本体20と、バッグ本体20の下部に溶着された本発明のチューブ10とを具備している。
【0037】
バッグ本体20は、ポリエチレンフィルムが袋状に成形されたポリエチレンバッグである。
ポリエチレンフィルムとしては、多層の場合には、少なくともバッグ本体20の内層がポリエチレンからなるものが挙げられる。具体的には、内層が高密度ポリエチレンを含有する多層構造のポリエチレンフィルムが挙げられる。より具体的に、全ての層がポリエチレンからなる多層構造のポリエチレンフィルムとしては、例えば内層と中間層と外層とからなる3層構造のポリエチレンフィルムが挙げられ、具体的には、内層および外層が高密度ポリエチレンからなり、中間層が直鎖状低密度ポリエチレンからなる3層フィルム;外層が低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの混合物からなり、中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの混合物からなり、内層が高密度ポリエチレンからなる3層フィルムなどが挙げられる。
【0038】
高密度ポリエチレンとしては、密度が0.945g/cm以上のポリエチレンが挙げられる。
直鎖状低密度ポリエチレンとしては、密度が0.945g/cm未満のポリエチレンが挙げられる。
低密度ポリエチレンとしては、密度が0.910g/cm以上、0.930g/cm未満のポリエチレンが挙げられる。
ポリエチレンの密度は、JIS K 7112 D法に準拠して測定される値である。
【0039】
バッグ本体20は、例えば水冷式または空冷式共押出多層インフレーション法や、多層中空成形法により、ポリエチレンフィルムを袋状に成形することで得られる。また、共押出多層Tダイ法、ドライラミネーション法、押出ラミネーション法等により、積層フィルムまたはシートとした後に、これらをヒートシールにより袋状に加工することでも得られる。
【0040】
本発明の輸液バッグ100は、チューブポートとして本発明のチューブ10を用いる。チューブ10をバッグ本体20に溶着させる方法としては特に制限されないが、例えばバッグ本体20の下部にチューブ10を挿入し、これらが接している部分をヒートシールすればよい。
【0041】
本発明の輸液バッグ100は、チューブ10の外層とバッグ本体20とが同じエチレン系の材質であるため、チューブ10とバッグ本体20とは強固に密着できる。
なお、チューブ10とバッグ本体20における密着性に関しては、溶着部分の剥離強度が10N/15mm、すなわち3.3N/5mm以上であれば、チューブ10とバッグ本体20とが密着しているといえる。さらに、溶着部分の剥離強度が30N/15mm、すなわち10N/5mm以上であるか、あるいは剥離試験において溶着部が剥離するのではなくフィルムの方が破断するならば、チューブ10とバッグ本体20とが強固に溶着しているといえる。
剥離強度は、JIS Z 0238に準拠して測定される値である。具体的には、23±2℃、相対湿度50±5%、剥離速度300mm/分の条件で測定される90度剥離強度である。
【0042】
また、チューブ10およびバッグ本体20は耐熱性に優れるので、輸液を輸液バッグ100に注入した後に高圧蒸気滅菌処理しても、十分に耐えることができる。
輸液バッグに輸液を注入した後は、例えば図3に示すように、2本のチューブ10のうち、一方のチューブ10aにはコネクタ30を差し込んで栓をし、他方のチューブ10bはその先端を熱シールにて押し潰して栓をして、その後で高圧蒸気滅菌処理する。
【0043】
なお、本発明のチューブを用いると、単に栓をするだけで高圧蒸気滅菌処理時の熱により、チューブからコネクタを再度取り外すことができない程度に強固に密着させることができる。そのため、高圧蒸気滅菌処理前にヒートシールによりチューブとコネクタを溶着することは不要である。しかし、より確実なシールを望む場合には、栓をした後、栓とチューブとの密着部分とを金型などを用いてヒートシールしてもよい。
また、他方のチューブ10bの先端を熱シールするのに代えて、コネクタを差し込んで栓をしてもよい。
【0044】
コネクタ30としては、ツイフトオフスパイクポートなど、市販のポートを用いることができる。
コネクタ30は、一般的にポリプロピレン製であり、耐熱性に優れる。従って高圧蒸気滅菌処理にも耐えることができる。
また、本発明のチューブ10は、コネクタ30と、該コネクタ30に接するチューブ10の内層とが同じプロピレン系の材質である。よって、チューブ10とコネクタ30との密着性にも優れる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって限定されない。
ここで、各実施例および比較例で実施した評価方法を以下に示す。
【0046】
[評価]
(1)透明性の評価
チューブの透明性について以下のようにして評価した。
ヘイズがおよそ60%及び30%のポリエチレンフィルムを予め用意した。
高圧蒸気滅菌処理後のチューブを切り開いたものと、予め用意したポリエチレンフィルムとを目視で対比して、以下の基準で評価した。
透明:ヘイズ30%のポリエチレンフィルムより透明である。
半透明:ヘイズ30%のポリエチレンフィルムより不透明であるが、ヘイズ60%のポリエチレンフィルムより透明である。
不透明:ヘイズ60%のポリエチレンフィルムより不透明である。
【0047】
(2)耐熱性の評価
チューブの耐熱性の評価として、高圧蒸気滅菌処理後のチューブの外観について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
良:チューブ表面が平滑であり、チューブが変形せず、かつバッグ本体からチューブがとり外れたり、チューブからコネクタがとり外れたりしていない。
不良:チューブ表面にしわや凹凸が発生し、チューブの変形が認められた。
【0048】
(3)密着性の評価
評価1;バッグ本体とチューブの密着性評価
バッグ本体のフィルムとチューブの溶着部分における剥離強度を測定した。
具体的には、高圧蒸気滅菌処理した後、バッグ本体とチューブの溶着部分をバッグの幅方向に幅5mmの短冊状に切り出し、JIS Z 0238に準拠して、23±2℃、相対湿度50±5%、剥離速度300mm/分の条件で剥離試験を行い、90度剥離強度を測定した。
また、剥離試験後のバッグ本体とチューブの状態を目視にて観察し、フィルムの方が破断している場合を「フィルム破断」、溶着部分が剥離している場合を「剥離」とした。
【0049】
評価2;チューブとコネクタの密着性評価
コネクタをチューブに差し込んで高圧蒸気滅菌処理した後、チューブからコネクタを捻って取り外す際の様子と、コネクタごとチューブを切断し、コネクタとチューブの密着部を剥離させた後のコネクタ側の剥離面の様子とから、次の評価基準にて評価した。
A:チューブからコネクタを取り外すことができない。剥離は凝集破壊であり剥離面上にはチューブ片が見られた。
B:チューブからコネクタを取り外すことができない。剥離は界面剥離であり剥離面は平滑であった。
C:チューブからコネクタを取り外すことができる。
【0050】
(4)柔軟性の評価
チューブの柔軟性については、高圧蒸気滅菌処理後にチューブを手で曲げたときの感触で、「柔軟」または「固い」の2段階で評価した。
【0051】
[樹脂の種類]
各実施例および比較例において、チューブの製造に用いた樹脂の物性等について、表1に示す。
なお、MFR(メルフローレート)は、JIS K7210に準拠し、ポリエチレンに関しては190℃、その他の樹脂に関しては230℃で、荷重21.18Nで測定した。
また、密度はJIS K 7112 D法に準拠して測定した。
また、Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、ポリスチレン換算で求めた。
【0052】
【表1】

【0053】
表1中、「HDPE」は高密度ポリエチレン、「LLDPE」は直鎖状低密度ポリエチレン、「PP」はポリプロピレンである。
また、「PPエラストマーブレンド」はブロックPP1を60質量%、エチレン−ブテン共重合体のオレフィン系エラストマーを20質量%、及びスチレン系エラストマーを20質量%混合した混合物であり、「酸変性ポリプロピレン」は無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学株式会社製、「ゼラスMC721AP」)であり、「ブロック共重合体」はエチレン鎖−エチレン・ブチレン鎖−エチレン鎖構造のブロック共重合体(JSR株式会社製、「ダイナロン6200P」)である。
【0054】
[実施例1]
<チューブの製造>
表2に示すように、外層にHDPE1、内層にブロックPP1、接着層にPPエラストマーブレンドを用い、多層チューブ成形機(株式会社プラ技研製)により、外層と接着層と内層が順次積層した3層で、外径が8mm、内径が6mmのチューブを製造した。各層の厚さを測定したところ、外層が20μm、接着層が10μm、内層が970μmであり、チューブ壁の厚さが1mmであった。
【0055】
<輸液バッグの製造>
まず、外層に低密度ポリエチレン(密度:0.928g/cm)と高密度ポリエチレン(密度:0.956g/cm)を7対3で混合した混合物、中間層に直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.908g/cm)と高密度ポリエチレン(密度:0.956g/cm)を8対2で混合した混合物、内層に高密度ポリエチレン(密度:0.956g/cm)を用い、水冷式共押出多層インフレーション成形機により、外層と中間層と内層が順次積層した3層のポリチレンフィルムを製造した。各層の厚さを測定したところ、外層が25μm、中間層が215μm、内層が25μmであった。このポリエチレンフィルムを袋状になるように所定箇所をヒートシールして、バッグ本体を得た。
ついで、得られたバッグ本体の下部に、2本のチューブをヒートシールにより溶着し、図2に示す輸液バッグを得た。
【0056】
そして、チューブからバッグ本体に精製水を注入した後、コネクタとしてポリプロピレン製のツイフトオフスパイクポート(マルジ社製)をチューブの先端に差し込み、栓をした。これを121℃×30分間の条件で高圧蒸気滅菌処理した。
高圧蒸気減菌処理後のチューブについて、透明性、耐熱性、バッグ本体とチューブの密着性、チューブとコネクタの密着性、及び柔軟性について評価した。評価結果を表3に示す。
【0057】
[実施例2〜9]
外層、内層、および接着層を構成する各樹脂の種類を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、外層と接着層と内層が順次積層したチューブを製造し、得られたチューブを用いて輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
なお、実施例4については、内層をブロックPP1からなる外層側の層(厚さ960μm)、およびPPエラストマーブレンドからなる接液側の層(厚さ10μm)より構成される2層構造とした。
【0058】
[実施例10]
外層を構成する樹脂として、HDPE1とブロック共重合体の50:50の混合物を用い、外層と内層との間に接着層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、外層と内層が積層した2層のチューブを製造し、得られたチューブを用いて輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
[実施例11]
コネクタとしてポリカーボネート製のツイフトオフスパイクポートを用いた以外は、実施例1と同様にして輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
[実施例12]
実施例4と同じチューブを用い、コネクタとしてポリカーボネート製のツイフトオフスパイクポートを用いた以外は、実施例1と同様にして輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
[比較例1]
ブロックポリプロピレンとしてブロックPP1を用い、多層チューブ成形機(株式会社プラ技研製)により、厚さ1mmの単層のチューブを製造した。
得られたチューブを用いた以外は実施例1と同様にして輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0062】
[比較例2]
外層を構成する外層用樹脂材料としてLLDPEを用いた以外は、実施例1と同様にして、外層と接着層と内層が順次積層したチューブを製造し、得られたチューブを用いて輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
[比較例3]
外層を構成する外層用樹脂材料としてLLDPEを用いた以外は、実施例1と同様にして、外層と接着層と内層が順次積層したチューブを製造した。得られたチューブを用い、滅菌処理の温度を115℃に変更した以外は実施例1と同様にして輸液バッグを製造し、各評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表1から明らかなように、各実施例で得られたチューブは、121℃で高圧蒸気滅菌処理しても透明または半透明であり、透明性を維持できた。
また、これらのチューブを備えた輸液バッグは、121℃で高圧蒸気滅菌処理してもバッグ本体とチューブの溶着部分の剥離強度が十分な値を示し、ポリエチレン製のバッグ本体とチューブが強固に密着していた。加えて、チューブが変形せず、かつバッグ本体からチューブがとり外れたり、チューブからコネクタがとり外れたりするようなことはなかった。
【0067】
一方、比較例1で得られたチューブは、121℃で高圧蒸気滅菌処理しても透明であり、透明性を維持できた。また、このチューブを備えた輸液バッグは、121℃で高圧蒸気滅菌処理してもチューブが変形せず、かつバッグ本体からチューブがとり外れたり、チューブからコネクタがとり外れたりするようなことはなかった。
しかし、比較例1の輸液バッグは、バッグ本体とチューブの溶着部分の剥離強度が9N/5mmと低く、密着性が不十分であった。
【0068】
比較例2で得られたチューブを備えた輸液バッグは、121℃で高圧蒸気滅菌処理してもバッグ本体とチューブの溶着部分の剥離強度が各実施例で得られた輸液バッグと同程度の値であった。また、チューブからコネクタがとり外れたりするようなことはなかった。
しかし、比較例2の輸液バッグは、121℃で高圧蒸気滅菌処理するとチューブが変形した。この結果より、直鎖状低密度ポリエチレンからなる外層を備えたチューブは、耐熱性に劣ることが示された。また、高圧蒸気滅菌処理後のチューブは不透明であった。
【0069】
比較例3で得られたチューブは、115℃で滅菌処理しても透明であり、透明性を維持できた。また、このチューブを備えた輸液バッグは、115℃で滅菌処理してもバッグ本体とチューブの溶着部分の剥離強度が各実施例で得られた輸液バッグと同程度の値であった。なお、比較例3の場合は、滅菌処理温度が115℃と低かったため、この温度においては、チューブは耐熱性を維持できた。
しかし、比較例3の輸液バッグは、チューブからコネクタが外れやすく、チューブとコネクタの密着性が不十分であった。
【符号の説明】
【0070】
10:医療用多層チューブ、11:外層、12:内層、13:接着層、20:バッグ本体、30:コネクタ、100:医療用輸液バッグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度ポリエチレンを含む樹脂材料からなる外層と、ランダムポリプロピレンおよび/またはブロックポリプロピレンを含む樹脂材料からなる内層とを有することを特徴とする医療用多層チューブ。
【請求項2】
前記外層と内層との間に、接着層が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の医療用多層チューブ。
【請求項3】
前記外層が、高密度ポリエチレンと接着樹脂を含む樹脂材料からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の医療用多層チューブ。
【請求項4】
ポリエチレンフィルムが袋状に成形された輸液を収容するバッグ本体と、該バッグ本体の下部に溶着し、バッグ本体から輸液を排出するチューブポートとを具備する医療用輸液バッグであって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の医療用多層チューブを前記チューブポートとして用いたことを特徴とする医療用輸液バッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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