説明

医療用投与器具

【課題】 安全かつ高い信頼性でもって薬液の注射を行うことが可能な医療用投与器具を提供する。投与時に、注射ボタンを押す力が皮膚に刺した注射針を更に深く刺す方向に働くのを防ぐとともに、注射針がぐらつかず安定した状態で投与することを可能とし、投与患者の肉体的、精神的苦痛を軽減する。
【解決手段】 注射針(4)と平行でない角度に開閉する扉を経由して薬剤カートリッジ(52)を装着し、また注射針(4)と平行でない角度から注射ボタン(3)を押す構造とすることにより、注射ボタンを押す力などが当初注射針を皮膚に刺したときより更に深く皮膚に刺さるように伝わることを防止し、安定した状態で投与できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インシュリン等の薬液の投薬に使用される医療用投与器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用投与器具は、インシュリンあるいはホルモン製剤等の薬液を投与する場合に多く使用される。一般的にこの種の医療用投与器具は、注射針と注射器本体及び、注射ボタンがほぼ直線上に配置されており、注射器本体に内蔵される薬液カートリッジの注射液を注射針に対して平行に注射ボタンで押し出すように構成されている。図24、図25に、その代表的な2つの従来例を示す。
【0003】
図24において、201は医療用投与器具本体(以下、注射器本体とも称す)、202は医療用投与器具本体201の内部に吸い込まれた注射液、203は注射ボタン、204は注射針、205は注射ボタン203と連結し、注射液202を直接押し出す部分のプランジャーである。
【0004】
注射器本体201には注射液202が入っている。注射液を投与する際は、注射針204を皮膚に刺し、注射ボタン203を押し、医療用投与器具本体201内の注射液202を押し出す。そして、注射液202の投与量は注射ボタン203の押す量で加減しながら決定する。
【0005】
即ち、投与者(患者)は注射ボタン203を押すことによって内部プランジャー205が動き、注射液202を注射針204から押し出すことになる。このプランジャー205のスライド量により投与する注射液量が決まる。投与者(患者)は、投与する注射液202量を決定し、注射針204を注射する皮膚の場所に刺し、注射ボタン203を押し込むことにより注射を完了させる。この時、投与者(患者)は注射針204が皮膚に入ったときに、過去の経験等に基づき、皮膚への注射針挿入量を決定しなければならない。
【0006】
このような自己投与に使用される医療用投与器具は、図24に示すような、機械式、ペン方式の物が多かったが、最初に皮膚に注射針を刺したのと同方向に注射ボタンを押すため投与状態が安定しない。これに対し、最近、図25に示すように、上記問題を解決すべく、投与の際皮膚に当たる部分を注射針の近傍に設け、注射針と皮膚との位置を決め投与状態の安定感を図ったものも考案されている。
【0007】
図25において、301は医療用投与器具本体、303は注射ボタン、304は注射針、306はこの従来の医療用投与器具を用いて注射液を投与する際、皮膚に当てる皮膚当て部、307は薬液カートリッジ、302は薬液カートリッジ307内の注射液である。
【0008】
投与の際は、皮膚当て部306を皮膚に当てながら注射針304を皮膚に刺し、注射ボタン303を押し薬液カートリッジ307内の注射液302を押し出す。そして、投与量は注射ボタン303の押す量で加減しながら決定している。
【0009】
また、従来の医療用投与器具は、ほとんどの場合において、注射針は実際に注射液の投与を行う直前に投与器具本体に取り付けられ、注射液に混じって空気を注射するのを防ぐためにいわゆる空打ち(以下、エアー抜きとも称す)を行った後に、決められた量の薬液を人体に投与している。
【0010】
図24に外観図を示す従来の医療用投与器具では、薬液を投与するにあたり、投与器具本体に注射針の取り付けを忘れた状態のままでも、注射ボタンあるいは投与ボタンを押すことが可能である。このため、不用意に注射ボタンあるいは投与ボタンを押して不具合を招くことも起こり得る。
【0011】
また、従来の医療用投与器具は、医師が診断し、投与する注射液量、投与間隔の指示を出し、投与者はその指示に従い自分自身で薬液の自己投与を行うが、投与する注射液量、投与間隔の管理は、投与者自身に任されている。また、医師の診断は定期的に行われ、診断結果と、過去の投与された注射液量と、投与間隔から新しい投与する注射液量、投与間隔を決定し指示を出す。
【0012】
従来はこのような自己投与に使用される医療用投与器具は、図24あるいは図25に示すように機械式のものが多かったが、最近、電子的な装置を付加したものも考案されている。
【0013】
図26及び図27にその代表的な構造図を示す。また、図28に、マイクロプロセッサを中心としたブロック図を示す。図26は正面図を、図27は一部断面を表した上面図である。
【0014】
図26において、403は注射器本体、401は注射針、404は表示部、405は注射液の投与量設定ダイヤル、406は注射ボタンである。
【0015】
図27において、注射器本体403には注射液426の入ったカートリッジ407がセットされている。投与者は注射前に注射ボタン406を引き出す。注射ボタン406を引き出すと、注射ボタン406と共にスリーブ418とナット412も注射ボタン406と同方向にスライドする。
【0016】
スリーブ418がスライドされることにより、スリーブ418のスプライン部416が投与量設定ダイヤル405のスプライン部417と結合される。スリーブ418とプランジャー408の結合部はスライド方向は固定されていないが、回転方向は固定されている。また、スリーブ418とナット412との結合部は、回転方向は固定されていないが、スライド方向は固定されている。
【0017】
その結果、投与者が投与量設定ダイヤル405を回すことにより、スリーブ418が回り、これに伴ってプランジャー408も回り、ナット412の内周に設けられたネジと、プランジャー408の外周に設けられたネジにより、プランジャー408がスライドする。このプランジャー408がスライドする量により投与する注射液量が決まる。注射ボタン406が引き出されていなければ、スリーブ418と投与量設定ダイヤル405とが結合されず、投与量設定ダイヤル405を回転させても、プランジャー408は動かない。
【0018】
投与者は、投与量設定ダイヤル405を回転させ投与する注射液量を決定し、注射針401を注射する場所に刺し、注射ボタン406を押し込むことにより注射を完了させる。注射が完了した際には注射ボタン406、スリーブ418、ナット412が押し込まれた方向にスライドする。このとき、注射ボタン406、スリーブ418、ナット412がスライドしたことを検出するため、スリーブ418に突起420を設け、突起420によりオンまたはオフするスイッチ413を本体403に固定するように設けてある。
【0019】
注射ボタン406が引き出された状態では、スイッチ413はオンし、注射ボタン406が押し込まれた状態ではオフする。このスイッチ413の状態を見ることにより注射が完了したことを検出する。スイッチ413の状態により注射完了を判断する手段は図28のマイクロプロセッサ425等を用い、スイッチ413の導通状態を判定することで判断する。
【0020】
なお、417は設定ダイヤル405のスプライン部、419a,419bは光センサ、414は液晶表示部、415は基板、421は回転板、421aは回転板スリットである。また、図28において、422はマイクロプロセッサ425のメモリ、423はカレンダ、424は時計、404は液晶表示部414との表示用インターフェイスである。
【0021】
図29は、投与完了を検出する部分の拡大図である。また、投与する注射液量を設定する際には投与量設定ダイヤル405、スリーブ418が回転する。投与する注射液量は投与量設定ダイヤル405が回転することによるプランジャー408の移動量で決定される。したがって投与量設定ダイヤル405、スリーブ418が回転したこと及び回転量を検出することで、投与する注射液量を検出する方法が用いられている。なお、416はスリーブスプライン部、417は設定ダイヤルスプライン部である。
【0022】
ここで、例えば、図30に示すように、投与量設定ダイヤル405と同時に回転する回転板421を設け、回転板421には図31のようにスリット421aが設けられ、光がスリット421aを横切る位置に2つの光センサー419a及び419bが設けられている。投与量設定ダイヤル405が回転すると、回転板421も回転し、回転板421に設けられたスリット421aが光センサ419a及び419bの光を透過又は遮断する。光センサ419a及び419bは光量に応じオン又はオフの信号を出力するため、光センサ419a及び419bの出力のオン又はオフにより回転及び回転量が検出できる。
【0023】
なお、2つの光センサ419a及び419bを用いるのは、投与量設定ダイヤル405の回転方向により、投与する注射液量が増える場合と減る場合があるためである。2つの光センサ419a及び419bの出力のオン又はオフの位相差により回転方向を判断し、光センサ419a及び419bの出力のオン及びオフの回数をカウントすることにより、投与する注射液量を検出する。前述のように、光センサ419a及び419bの出力の位相差により回転方向を判断し、光センサ419a及び419bの出力のオン及びオフの回数をカウントすることにより投与する注射液量を検出する手段は、図32に示すように、マイクロプロセッサ425等を用いている。
【0024】
更に、投与完了時の時刻、日付の記録または表示等についてもマイクロプロセッサ425及びメモリ422を設けることにより行っている。また、光センサ419aと419bは光センサでなくスイッチ等を利用したものも考案されている。
【0025】
しかしながら、上記図24に示す従来の医療用投与器具においては、投与時に注射針204を皮膚に刺し、更に注射ボタン203を注射針204が皮膚に刺しこまれた方向と同方向に押しながら注射液202を投与するため、最初皮膚に注射針204が刺さった状態から更に注射針を深く皮膚に刺し込む形となり、投与時に患者の痛みが増してしまう。
【0026】
また、図25に示す様に、医療用投与器具に皮膚当て部306が設けられている場合の投与においても、皮膚当て部306を皮膚に当てながら注射針304を皮膚に刺し、注射ボタン303を注射針304が皮膚に刺しこまれた方向と同方向に押しながら注射液302を投与するため、最初皮膚に注射針304が刺さった状態から更に注射針304を深く皮膚に刺し込む形となることは、前記の記述どおりである。なぜなら、皮膚当て部306が設けられていても、実際の皮膚には弾力があり、実際に注射器ボタン303を押せばその押した力の分だけ、注射針304は皮膚に深く刺さってしまうからである。
【0027】
これを防ぐためには、投与中に、注射器ボタン303を押す側の腕を空中で固定するか、或いは何らかの方法で慎重に固定させて行う必要があるが、これは自分自身で薬液の投与を行う場合では、極めて困難である。
【0028】
そして、投与中に注射針が皮膚に対して深く刺さると言うことは、患者の痛みが増すこととなり、肉体的、精神的にも苦痛を伴うだけでなく、場合によっては投与者(患者)の人体に多大な影響を及ぼし、生命に危険な状態を招きかねない、という問題があった。
【0029】
また、図24または図25に示す従来の医療用投与器具においては、注射針が必ずしも一定ではなく、注射針の種類によってその長さが異なるため、注射針の皮膚に入る量がばらつき、その量によっては、注射による失敗や痛みの負担などが大きく、投与者(患者)の人体に多大な影響を及ぼし、生命に危険な状態を招きかねない。
【0030】
また、図24に示す従来の医療用投与器具においては、投与器具本体への注射針の取り付けを忘れた場合でも、注射ボタンあるいは投与ボタンを押すことが可能であるため、以下のような問題がある。
【0031】
一つには、注射針を取り付けずに注射ボタンあるいは投与ボタンを押すと図33の漏れた薬液221aや逆流した薬液221bのように、薬液が注射ボタンあるいは投与ボタンと反対方向の先端部から漏れたり、また、注射ボタンあるいは投与ボタンの方向に薬液が逆流して漏れたり、更には、図34のように、薬液の入ったガラス管そのものが注射ボタンあるいは投与ボタンが押されることによって生じる圧力によってひび227が入ったり、破裂したりして割れてしまい、薬液が外に漏れてしまうなどの種々の問題が発生している。
【0032】
また、成長ホルモン製剤等のように、二種の薬液を混合させて投与したり、あるいは、薬剤と薬液とを溶解混合させて投与したりする場合においても、注射針を取り付けてから混合を行う必要があるため、注射針を付け忘れると、混合ができないばかりでなく、前記の記述のように、薬液の逆流、漏れ、あるいは薬液カートリッジのガラス管のひび割れ、破裂等が発生し問題となっている。前述の問題の多くは、特に、患者自身が自分で投与を行う場合に多く発生している。
【0033】
また、図24ないし図27に示す従来の医療用投与器具においては、医師又は看護婦が投与する場合では事故の可能性は低いであろうが、患者自身が投与する場合においては、投与前に必ず行う注射器のエアー抜き操作を常に意識していないとこれを忘れる可能性がある。そして、エアー抜きを忘れた場合、人によっては人体に多大な影響を及ぼし、生命に危険な状態を招きかねない。
【0034】
また、図26または図27に示す従来の医療用投与器具においては、電子的な表示装置に、投与を行った注射液量を表示できるが、投与前に必ず行うエアー抜き操作時における注射液量、日付、時間までがメモリ422に記録されてしまうことになり、メモリ422の容量をいたずらに減らすだけでなく、エアー抜き操作時における注射液量をも本来の注射液量と同様に表示してしまうため、医師が投与者(患者)の診断結果と過去の投与履歴を確認して、その後の治療方法を決定する場合に、誤判断をしてしまう可能性がある。医師がこのような誤判断をしてしまうと、投与者(患者)の人体に多大な影響を及ぼし、生命に危険な状態を招きかねない。
【0035】
本発明は、上記のような従来のものの問題点を解決するためになされたもので、安全かつ高い信頼性でもって薬液の注射を行うことが可能な医療用投与器具を提供することを目的としている。
【0036】
即ち、本発明は、図26または図27に示すような電子的な装置を付加した従来の装置の問題点を解決するためになされたものであり、投与者が投与時に行うエアー抜き操作時の投与液量、日付、時刻については、メモリ422に記録できないようにし、信頼性のある投与履歴が残せる医療用投与器具を提供することを目的とするものである。
【発明の概要】
【0037】
上記目的を達成するために、本願の請求項1の発明に係る医療用投与器具は、投与器具本体と、投与器具本体の側面に設けられ、薬液カートリッジをセットする開閉式の扉と、薬液カートリッジの内部に収納されている注射液を、注射針を経由して投与するための注射ボタンと、投与器具本体の内部に配置され、注射ボタンと連結されて、注射ボタンが押された時に、注射液を押し出すプランジャーと、注射ボタンの押圧力を、プランジャーに伝達する押圧力伝達部と、を備え、扉の開閉する角度、注射ボタンを押圧する方向、及び、押圧力伝達部の伝達する方向は、注射針を刺す方向に対して、それぞれ平行でない角度に配置されるようにしたものである。
【0038】
これにより、注射ボタンを押したときの力が、最初、注射針を皮膚に刺したときより更に深く皮膚に刺し込まれるように伝わることがなく、投与患者の肉体的、精神的苦痛を増すことがない。
【0039】
また、本願の請求の範囲第2項の発明に係る医療用投与器具は、請求項1に記載の医療用投与器具において、前記押圧力伝達部は、前記注射ボタンの押圧方向と同方向に延在するラックと、該ラックの長手方向のー側面に形成された歯形と噛合する第1の歯車と、
該第1の歯車と噛合する第2の歯車と、前記ラックの延在する方向と直交する方向のー側面に前記第2の歯車と噛合する歯形を有する可動ピースとを有し、前記注射ボタンの押圧操作により前記可動ピースは前記薬液カートリッジのプランジャーを押圧するようにしたものである。
【0040】
これにより、注射ボタンを押したときの力が、最初、注射針を皮膚に刺したときより更に深く皮膚に刺し込まれるように伝わることがなく、投与患者の肉体的、精神的苦痛を増すことがない。
【0041】
さらに、本願の請求の範囲第3項の発明に係る医療用投与器具は、請求項1に記載の医療用投与器具において、投与する注射液量が設定できる注射液量設定部を備えるようにしたものである。
【0042】
これにより、投与時は、注射ボタンを押すだけで、投与量目盛を見ることがなく、投与患者の負担が軽減される。
【0043】
また、本願の請求の範囲第4項の発明に係る医療用投与器具は、請求項3に記載の医療用投与器具において、前記注射液量設定部は、前記プランジャーと一体化され前記可動ピースを貫通し、且つ、該ピースと噛合するスリーブと、該スリーブの前記プランジャーとは反対側に取り付けられ、投与者が回転する方向を変えることで前記可動ピースを前記薬液カートリッジの内部で前,後に移動させる投与量調節つまみとを有するようにしたものである。
【0044】
これにより、投与量調節つまみを操作することで事前に投与量を設定しておくことで、実際の投与時には、注射ボタンを押すだけで、投与量目盛を見ることがなく、投与患者の負担が軽減される。
【0045】
また、本願の請求の範囲第5項の発明に係る医療用投与器具は、請求項1に記載の医療用投与器具において、投与後に、注射ボタンを押した指を離すと注射ボタンを元の位置に戻す注射ボタン復帰部を備えるようにしたものである。
【0046】
これにより、投与後に、投与患者が再度投与を行うために注射ボタンを戻す必要が無く、投与患者の負担を軽減する。
【0047】
さらに、本願の請求の範囲第6項の発明に係る医療用投与器具は、請求項5に記載の医療用投与器具において、前記注射ボタン復帰部は、前記ラックの前記注射ボタンとは反対側の端面と医療用投与器具本体の内側面との聞に介在されたばねからなるものとしたものである。
【0048】
これにより、簡単な構成を付加するだけで、投与後に、投与患者が再度投与を行うために注射ボタンを戻す必要が無く、投与患者の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態1における医療用投与器具の斜視図である。
【図2】同医療用投与器具の一部を破断して示す斜視図である。
【図3】同医療用投与器具を実際に手で握った状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態2における医療用投与器具の斜視図である。
【図5】同医療用投与器具の一部断面図である。
【図6】同医療用投与器具の斜視詳細図である。
【図7】本発明の医療用投与器具の注射針と皮膚当て部との寸法関係詳細図である。
【図8】本発明の実施の形態3における医療用投与器具の一部を切り欠いて内部構造を説明する斜視図である。
【図9】同医療用投与器具の動作原理を説明するための投与ボタン(あるいは注射ボタン)とイジェクトレバーとの位置関係を示す斜視図である。
【図10】同医療用投与器具の動作原理を説明するための投与ボタン(あるいは注射ボタン)とイジェクトレバーとの位置関係を示す斜視図である。
【図11】同医療用投与器具の薬液カートリッジ取り付け状態を示す一部断面図である。
【図12】(a)同医療用投与器具における、注射針を取り付けないときの検知機構と注射ボタンとの位置関係図である(b)同医療用投与器具における、注射針を取り付けないときの検知機構と注射ボタンとの位置関係図である。
【図13】(a)同医療用投与器具における、注射針を取り付けたときの検知機構と注射ボタンとの位置関係図である(b)同医療用投与器具における、注射針を取り付けたときの検知機構と注射ボタンとの位置関係図である。
【図14】同医療用投与器具における、注射針を取り付けないときの検知機構と固定、解除機構との位置関係図である。
【図15】同医療用投与器具における、注射針を取り付けたときの検知機構と固定、解除機構との位置関係図である。
【図16】本発明の実施の形態4における注射針取り付け前の医療用投与器具の斜視図である。
【図17】同医療用投与器具の一部断面図である。
【図18】同医療用投与器具におけるブロック図である。
【図19】同医療用投与器具を説明するためのブロック図である。
【図20】本発明の実施の形態5における医療用投与器具の斜視図である。
【図21】同医療用投与器具の一部断面図である。
【図22】本発明の実施の形態5の変形例における医療用投与器具の斜視図である。
【図23】同医療用投与器具の一部断面図である。
【図24】従来の医療用投与器具を示す斜視図である。
【図25】従来の他の医療用投与器具を示す斜視図である。
【図26】従来の医療用投与器具における正面図である。
【図27】従来の医療用投与器具における一部断面を示す上面図である。
【図28】従来の医療用投与器具を説明するためのブロック図である。
【図29】従来の医療用投与器具の投与完了を検出する手段を示す断面図である。
【図30】従来の医療用投与器具の注射液量を検出する手段を示す断面図である。
【図31】従来の医療用投与器具の注射液量を検出する手段を示す側面図である。
【図32】従来の医療用投与器具を説明するためのブロック図である。
【図33】従来の医療用投与器具の動作状態を示す斜視図である。
【図34】従来の医療用投与器具の他の動作状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(実施の形態1)
この実施の形態1は、注射ボタンを押す方向が、注射針が皮膚に刺しこまれた方向と異なる方向となるように装置を構成することで、注射ボタンの操作時にさらに注射針を深く刺し込むことがないようにしたものである。
【0051】
以下では、本発明の実施の形態1について、図1ないし図3を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る医療用投与器具の外観を示す斜視図、図2は本発明の実施の形態1に係る医療用投与器具の一部を破断して内部構造を示す斜視図、図3は本発明の実施の形態1に係る医療用投与器具を実際に手で握った状態を示す。
【0052】
図1において、1は医療用投与器具本体、2は注射液、3は注射ボタン、4は注射針、6は皮膚当て部、7は薬液カートリッジ、8は液晶表示部、9は投与量調整つまみである。また、注射ボタン3は、注射針4の延びる方向に対してほぼ垂直方向にこれを押すように構成されている。この注射ボタン3を押し込む方向は、注射針4の延びる方向と平行でなければ、垂直方向に限るものではなく、患者の身体への痛みを和らげる方向であれば、他の角度でもかまわない。
【0053】
注射液の投与手順として、まず、薬液カートリッジ7を医療用投与器具本体1にセットし、注射針4を取り付け、投与したい注射液2の量を設定するため、投与量調整つまみ9を図中の矢印で示すように右方向あるいは左方向に回転させる。次に、注射針を真上に向け、注射ボタン3を注射針4の先から注射液2が出るまで押してエアー抜きを行う。このエアー抜き完了後、図3のように医療用投与器具を手19で握り、皮膚当て部6を投与患部の皮膚に当てながら注射針4を皮膚に刺し、注射ボタン3を人差し指18で図3の矢印方向に押しながら投与を行う。
【0054】
次に、図2を用いて、注射液量の設定方法及び前記記述の注射ボタン3を押したときに注射液2が注射針4から出てくる仕組みについて説明する。
【0055】
まず、注射液量の設定方法から説明する。投与量調整つまみ9とスリーブ10とは、回転方向は固定されているがスライド方向は固定されていない。また、スリーブ10と可動ピース14内を経由しているプランジャー15とは一体部材で構成されている。可動ピース14の内側には、スリーブ10と可動ピース14内で係合できる内ネジ16が切ってあり、スリーブ10の可動ピース14内に入っている部分については、可動ピース14内で係合できる外ネジ16が切ってある。
【0056】
また、プランジャー15は、薬液カートリッジ7内のプランジャー20とは別部材で構成されており、プランジャー20とは離間している。プランジャー20の先端には、薬液カートリッジ7内で注射液2を押し出せるようにゴム材で形成され、プランジャー20と固定されたプランジャー21が設けられている。また、可動ピース14のスライド量はばね17による規制で常に一定となるように構成されている。
【0057】
今、投与量調整つまみ9を投与量が増加する方向に回転させると、プランジャー15は可動ピース14から注射針の方向に長く出てくる。すると、プランジャー15とこれとは別体のプランジャー20との離間距離が短くなる。また、プランジャー20は、プランジャー15から押されない限り動かない。そして、注射ボタン3を押したときの可動ピース14のスライド量は常に一定であるため、プランジャー15のプランジャー20を押す距離が投与時の注射液量となる。つまり、投与する注射液量に関係なく、投与時の注射ボタンのストロークは常に同じであり、プランジャー15の可動ピース14からのスライド量(でしろ)で投与量が決定される。
【0058】
次に、注射ボタン3を押したとき、注射液2が注射針4から出てくる仕組みについて説明する。図2において、注射ボタン3を矢印方向に押すと、これと一体部材で構成されたラック11も矢印方向にスライドする。ラック11の注射ボタン3と反対側の端面には、ばね(注射ボタン復帰部)17が、注射ボタン3を押したとき圧縮され、注射ボタン3を押すのをやめると弾性により復帰するような形で設けられている。このため、注射ボタン3を押すのをやめると、ばね17の復帰力により、注射ボタン3は元の位置に戻る。
【0059】
ラック11の側面には、歯型11aが設けられており、この歯型11aと噛み合うように歯車(第1の歯車)12が、また、歯車12と噛み合うように歯車13(第2の歯車)が設けられている。また、可動ピース14の側面には歯車13と噛み合うように歯型が設けられている。これらラック11、歯車12、歯車13は注射ボタン3の押圧力を注射針4の延びる方向と異なる角度でプランジャー15に伝達する押圧力伝達部を構成する。
【0060】
注射ボタン3を押すと、ラック11がスライドし、歯車12が反時計方向に回転し、歯車13は時計方向に回転する。すると、可動ピース14は、プランジャー15と一体となって、プランジャー20及びプランジャー21を押す方向にスライドする。すると、プランジャー21は薬液カートリッジ7内の注射液2を圧縮する方向にスライドし、圧縮された注射液2は、注射針4の先端から押し出される。
【0061】
本実施の形態1に示す医療用投与器具は、前記の記述のように、注射ボタン3を人差し指18で図3の矢印方向に押したときの力が、注射針4を、最初皮膚に刺したときより更に深く皮膚に刺し込ませるようには伝わらない構造となっている。
【0062】
このため、本実施の形態1によれば、薬液の投与時に、注射ボタンを押す力が、当初注射針を皮膚に刺したときよりさらに深く皮膚に刺さるように伝わることを防止し、安定した状態で薬液を投与することが可能となる。
(実施の形態2)
この実施の形態2は、薬液を投与する際に投与者の皮膚に当たる皮膚当て部を注射針の長手方向にスライドさせて固定可能とすることで、注射針の種類,大きさに関係なく針先が皮膚に刺さる量が一定となるように調節することが可能となり、薬液を投与する際の痛みを軽減できるようにしたものである。
【0063】
以下では、本発明の実施の形態2について、図4ないし図7を用いて説明する。図4は、本発明の形態2に係る医療用投与器具の外観を示す斜視図、図5は本発明の形態2に係る医療用投与器具の一部断面図、図6は本発明の形態2に係る医療用投与器具の斜視詳細図、図7は本発明の医療用投与器具の注射針と皮膚当て部との関係詳細図を示す。
【0064】
図4において、31は医療用投与器具本体、32は注射液、33は注射ボタン、34は注射針、36は皮膚に当てる皮膚当て部、37は皮膚当て部分調整ボタン、40は皮膚当て幅調整ピース(皮膚当て面積可変部、皮膚当て幅調節部)、41は皮膚当て幅調整ボタンである。皮膚当て部分調整ボタン37は皮膚当て部36と一体化されており、矢印43のいずれの方向にもスライドできるように構成されている。
【0065】
図5において、皮膚当て部36は皮膚当て部分調整ボタン(皮膚当て位置可変部)37と一体となっており、皮膚当て部36、皮膚当て部分調整ボタン37は所望の位置でストップし固定できるように、皮膚当て部分調整ボタン37にダボ(凸形状)38を、医療用投与器具本体31の側面に凹形状39を、嵌合固定部として、それぞれ設けている。
【0066】
従って、図4に示すように、注射針34に対し、皮膚当て部36、皮膚当て部分調整ボタン37は矢印43方向の所望の凹形状の位置に可変、固定が可能となり、図7のように注射針34と皮膚当て部36とは所望の段階での寸法関係42とすることができる。
【0067】
また、投与の際、毎回同じ種類の注射針34などを使用する場合については、注射針34に対する皮膚当て部36の寸法関係42を、その最適位置に可変したうえでこれを固定すれば、毎回同じ状態での投与が可能となり、投与者(患者)の皮膚に入る注射針34の長さが一定となるため、信頼性の良い投与が可能となる。
【0068】
図6において、皮膚当て幅調整ピース40は皮膚当て幅調整ボタン41と一体化されており、矢印方向44、即ち図中の下方向へスライドし、皮膚当て部36をより広くすることにより、投与の際、投与者が皮膚当て部36を皮膚に当てたとき、よりホールド感の良い安定感のある状態での投与が可能となる。
【0069】
このため、本実施の形態2によれば、注射針の種類、大きさを問わず皮膚に注射針の入る長さを一定にし、皮膚当て部分の位置が可変できるようにし、さらに皮膚当て面積が増加可変できるようにしたので、注射針の種類によってその長さが異なっても注射針の皮膚に入る量がばらつくことがなく、投与状態を安定化することができ、信頼性の高い医療用投与器具を提供することが可能となる。
【0070】
なお、このダボと凹形状に代えて任意の位置で皮膚当て部36を固定できるようにすることで、皮膚当て部36の位置を無段階で調節できるようにしてもよい。
【0071】
また、実施の形態1と同様の内部構造とすることにより、注射ボタンの押圧方向を注射針204が皮膚に刺しこまれた方向と異なるようにすることで、注射の際の痛みを軽減するようにしてもよい。
(実施の形態3)
この実施の形態3は、注射針が投与器具本体に取り付けられていないときには、注射ボタンあるいは投与ボタンを押すことができないようにし、また、混合型薬物投与の場合においても、注射針が投与器具本体に取り付けられていないときには、薬物の混合ができず、投与器具本体内に収納できないようにすることで、薬液の漏れ、逆流、また、薬液の入ったガラス管のひび割れ、破裂等を防ぐようにしたものである。
【0072】
以下では、本発明の実施の形態3について図8ないし図15を用いて説明する。図8は、本発明の実施の形態3に係る医療用投与器具の一部を切り欠いて内部構造を示す斜視図である。図9は、本実施の形態3における医療用投与器具の注射針を取り付けたときの動作原理をわかりやすく説明するための斜視図であり、図10は、同じく、注射針を取り付けないときの動作原理をわかりやすく説明するための斜視図である。図11は、本実施の形態3における医療用投与器具の薬液カートリッジの取り付け動作を説明するため、一部を切り欠いて示す断面図である。図12は、本実施の形態3における医療用投与器具の、注射針を取り付けないときの検知機構と注射ボタンとの位置関係図である。図13は、本実施の形態3における医療用投与器具の、注射針を取り付けたときの検知機構と注射ボタンとの位置関係図である。図14は、本実施の形態3における医療用投与器具の、注射針を取り付けないときの検知機構と固定、解除機構との位置関係図である。図15は、本発明の実施の形態3における医療用投与器具の、注射針を取り付けたときの検知機構と固定、解除機構との位置関係図を示す。
【0073】
図8において、注射の仕組みを簡単に説明する。投与器具66本体内に、薬液カートリッジ52がセットされており、薬液カートリッジ52には、使い捨ての注射針51が取り付けられている。人体に投与する場合、投与量設定つまみ56を投与したい量に調節する。プランジャー55は、投与量設定つまみ56と回転方向に対しては固定されているが、スライド方向に対しては固定されていないため、投与量設定つまみ56を回転させると、注射針と平行な方向に伸縮可能となっている。今、投与量を増やす方向に設定したとき、プランジャー55は、注射針と同方向にその先端方向に向かって移動する。
【0074】
次に投与ボタン54を押すと、注射ボタン一体型駆動レバー57が注射ボタンの押された方向と同一方向に動作する。注射ボタン一体型駆動レバー(注射ボタン、ラック)57の側面の一部は、歯車(第1の歯車)60と噛合う歯車(ラック)となっている。また、歯車(第2の歯車)59は、歯車60と噛合うように、また、プランジャー55の先端部の歯車(ラック)とも噛合うようになっている。プランジャー55の先端には、薬液押し出しプランジャー53があり、薬液カートリッジ52内の薬液と接触している。これら注射ボタン一体型駆動レバー57、歯車60,歯車59はプランジャー55の駆動部を構成する。
【0075】
いま、注射ボタン54を図8の矢印の方向に押すと、注射ボタン一体型駆動レバー57が歯車60を時計方向に回転させる。歯車60の回転により、歯車59は反時計方向に回転しながら、プランジャー55を注射針51の長手方向に、即ちプランジャー55を図8中の左側に向けて移動させる。すると、プランジャー55の先端部に設けられた薬液押し出しプランジャー53が薬液カートリッジ52内の薬液を注射針51から押し出し投与ができる。
【0076】
次に、図9において、イジェクトレバー58の先端部(L字状先端部)58aは、注射針51の樹脂部82と薬液カートリッジ52との間にはさまれた状態にある。このとき、注射ボタン54を矢印方向に押すと、注射ボタン一体型駆動レバー57はイジェクトレバー58の噛合い部分61の中を自由に移動できる状態になっている。これらイジェクトレバー58および注射ボタン一体型駆動レバー57は注射ボタンを押すことによる投与動作を抑止する投与動作抑止部を構成する。また、イジェクトレバー58の先端部(検知部材)58aはイジェクトレバー58の本体と一体のものであり、樹脂部82と一体に形成された注射針51が取り付けられているときは、ばね63によって常に注射針51の方向に応力が加わっている。このばね(ばね部材)63とイジェクトレバー58とは注射針装着検知部を構成している。
【0077】
次に図10のように、注射針51を薬液カートリッジ52から取り外すと、イジェクトレバー58の部分が、ばね63の応力によって注射針51の方向、即ち図9中の左側に移動する。すると、イジェクトレバー58の噛合い部分61は、注射ボタン一体型駆動レバー57との噛合い部分62から外れ、注射ボタン54を矢印方向に押したとき、噛合い部分62がすぐにイジェクトレバー58の側面に当たり、自由に移動できなくなる。つまり、注射針51を取り外すと、注射ボタン54を完全に押し込むことができなくなる。このように、本実施の形態3では、イジェクトレバー58の先端部58aの部分において注射針が取り付けられているか、いないかを検知させている。
【0078】
次に、薬液カートリッジ52を投与器具本体66にセットし、投与器具本体66内に収納する方法を薬剤と薬液を溶解混合させる薬液カートリッジを例にあげ、図11を用いて説明する。
【0079】
図11において、薬液カートリッジ押さえ蓋(開閉式の扉)67を図の破線部の状態まで上方向に上げ、薬液カートリッジ52を図の矢印の方向に挿入する。挿入後、薬液カートリッジ押さえ蓋67を下方向に下げ閉じる。次に、注射針51を、注射針キャップ65を被せた状態のまま、薬液カートリッジ52の先端ねじ部にねじ込む。
【0080】
次に、突起部67aを持ち、投与量設定つまみ56の方向にスライドさせる。すると、先ず薬液カートリッジ52内部の後部ゴム部70が投与器具本体66内の溶解ピース72に当たる。更に、スライドさせていくと、溶解ピース72が後部ゴム部70を押すことになり、これにより、後半室に充填された薬液71が分離用ゴム69を、薬剤68を収納している前半室の方向に移動させる。
【0081】
そして、分離用ゴム69が注入溝77まで移動してくると、薬液71が注入溝(大径部)77を通り、薬剤68に流れ込む。更に、突起部67aをもって投与量設定つまみ56の方向にスライドさせていくと、注入溝77から薬液71が全て薬剤68の部屋に流れ込み、結果的に薬剤68と薬液71が混合される。そして、突起部67aをもって更に前記投与量設定つまみ56の方向にスライドさせていくと、後部ゴム部70が分離用ゴム69に当たった時点で、スライドできなくなり、固定される構造となっている。この固定される構造については、図15の説明のところで記述する。そして、この状態で、薬液カートリッジ52が投与器具本体66内に収納されたことになる。
【0082】
次に、図12及び図13に、注射針が取り付けられているときと、取り付けられていないときの検知機構と注射ボタン一体型レバー57との関係を詳しく示す。図12は注射針が取り付けられていないときを、また、図13は、注射針が取り付けられたときの状態を、それぞれ示している。なお、図12ないし図15の説明の中での「注射針」とは、キャップ65が被さった状態での注射針51を指している。
【0083】
図12(a)において、薬液カートリッジ52はスライドピース75の先端に位置した状態で留まっている。そして、スライドピース75の上には、イジェクトレバー58が位置し、スライドピース75の上を注射針取り付け方向と平行に自由に移動可能に構成されている。
【0084】
また、図12(b)は、図12(a)を下側から見た図であり、スライドピース75には、イジェクトノブ76が入る大きさのスリット78とスリット83とが設けられている。また、イジェクトレバー58にも、スリット83と同じ位置にスリット73を設けている。
【0085】
また、スライドピース75とイジェクトレバー58の中央部には、それぞれこれらの重なった部分に、同一幅のスリット81が設けられ、更に、前記スリット81の中には、スライドピース75とイジェクトレバー58の重なった厚み寸法の中で収まるようなばね63がスライドピース75と平行に設けられている。しかも、ばね63は、前記スリット81の内側において、スライドピース75から突出した突起79とイジェクトレバー58から突出した突起80との間で係止されている。また、このときイジェクトレバー58の噛合い部61の位置は、注射ボタン一体型駆動レバー57が噛合い部61の中を自由に動くことができない位置関係となっている。つまり、注射ボタンを押すことができない状態である。
【0086】
次に、図13において、注射針を薬液カートリッジ52に取り付けたとき、イジェクトレバー58の先端58aは、スライドピース75の先端位置まで押される。すると、スリット81の中のばね63は、図12(b)の状態から、圧縮された形でその状態を保つ。一方、イジェクトレバー58の噛合い部61の部分は、注射ボタン一体型レバー57が自由に移動できる位置関係となる。つまり、注射ボタンを押すことが可能な状態である。
【0087】
次に、注射針を薬液カートリッジ52へ取り付けないときと、取り付けた時に薬液カートリッジ52が投与器具本体66内へ収納することができない原理と、できる原理について図14と図15を用いて説明する。
【0088】
図14において、注射針が薬液カートリッジ52に取り付けられていないとき、イジェクトレバー58の先端部58aは、スライドピース75の先端よりも、更に注射針の方に向かって飛び出している。このとき、図示しないばねにより上方向に押圧付勢されているイジェクトノブ76は、イジェクトレバー58上のスリット(開口部)73とスライドピース75上のスリット(開口部)83との二つのスリットを貫通した状態で、スライドピース75を、注射針の方向にも、また、これと逆方向にも動くことができないように係止させている。尚、イジェクトノブ76は、スライドピース75及びイジェクトレバー58に対して、垂直方向に配置され、且つ、図14、図15に対して、常に上方向にバネで押し上げられた状態となっている。
【0089】
次に、図15において、注射針が薬液カートリッジ52に取り付けられると、イジェクトレバー58の先端部58aは、スライドピース75の先端と同じ位置になる。注射針を薬液カートリッジ52にねじ込んで(取り付けて)いく過程で、イジェクトレバー58のスリット73の内側がイジェクトノブ76の傾斜部分76aを矢印方向に押していくため、イジェクトノブ76は、徐々に下方向に押し下げられていく。更に、注射針をねじ込んでいくと、イジェクトレバー58上のスリット73は、イジェクトノブ76の傾斜部76aを更に押し下げる方向に動く。そして、注射針を完全に薬液カートリッジ52に取り付けたとき、イジェクトレバー58上のスリット73はイジェクトノブ76の先端を押し下げて通過しており、イジェクトノブ76はスライドピース75のスリット83の中に位置しており、スライドピース75を矢印と逆方向に係止した形となっている。
【0090】
この状態から、薬液カートリッジ52を投与器具本体66内に収納させようとするには、スライドピース75上に配置されている薬液カートリッジ52をスライドピース75と共に矢印方向にスライドさせながら移動させる。
【0091】
実際には図11のところで説明したように、薬液カートリッジ押さえ蓋67の中に、セットした形で移動させる形となるが、ここでは原理のみを説明する。
【0092】
いま、スライドピース75上の薬液カートリッジ52をスライドピース75と共に矢印方向、即ち図14の右方向に移動させていくと、イジェクトノブ76の傾斜部76aにスリット83が当たる。この時点から更に矢印方向に移動させていくと、イジェクトノブ76はスライドピース75によって下側に押し下げられ、更に、スライドピース75が矢印方向に移動していくと、スライドピース75のスリット78の中にイジェクトノブ76の先端が嵌合し、それと同時に、スライドピース75をイジェクトノブ76の先端がその位置で係止させ、矢印と反対方向に移動できないようにする。
【0093】
この状態を表したのが、図13(a)であり、この状態を解除するためには、イジェクトノブ76と一体となっているスライドつまみが、投与器具本体66の外部につまみとして出ているので、前記スライドつまみを強制的に、指で軽く下方向に押し下げることにより、解除操作が可能となるようにしている。
【0094】
また、これは、例えば、投与器具本体内において、二種の薬液を混合あるいは、図11のところで説明したように、薬剤と薬液を溶解混合させる場合、注射針を取り付けないと投与器具本体内に収納することができないため、混合させることができないことになる。
【0095】
このように、本実施の形態3によれば、注射針が投与器具に取り付けられていない時は、注射ボタンあるいは投与ボタンを押すことができず、薬液を押し出すプランジャーが動作しない構成としたので、また、混合型薬物投与の投与器具の場合は、注射針が投与器具に取り付けられていない時は混合できない構成としたので、投与器具本体に注射針が取り付けられていない場合は誤って注射ボタンあるいは投与ボタンを押そうとしてもこれを押すことができず、誤操作による薬液漏れや薬液ガラス管等の破壊を防ぐことが可能となる。
(実施の形態4)
この実施の形態4は、電子的な装置を付加した医療用投与器具において、注射を行う際にエアー抜きを行うように注意を促す警告表示を行うようにしたものである。
【0096】
以下、本発明の実施の形態4について図16ないし図18を用いて説明する。図16は、本発明の実施の形態4に係る医療用投与器具の注射針取り付け前の外観を示す斜視図、図17は実施の形態4の医療用投与器具の一部断面図、図18は、マイクロプロセッサ25を中心としたブロック図である。
【0097】
図16において、102は本体用キャップ、103は医療用投与器具本体、104は表示部、105は投与量設定ダイヤル、106は注射ボタン、127はスピーカである。
【0098】
まず、医療用投与器具の使用が初回であるとして説明する。図16、図17において、本体用キャップ102を医療用投与器具本体103から外すと、医療用投与器具本体103に設けられたスイッチ(第1のスイッチ)110がオンからオフになる。このとき、表示部104に表示される全ての機能表示が全点灯し、何秒か後にカレンダ、時間及び投与量のみが表示される。
【0099】
また、図17において、医療用投与器具本体103の螺合部109a及び109bの部分はそれぞれネジにて係合されている。前記螺合部109a、109bの部分をネジが緩む方向に回転させ、一つの医療用投与器具本体103の状態から二つの螺合体103a、103bに分離させる。分離後、螺合体103aの方に薬液カートリッジをセットし、再び螺合体103aと103bを螺合部109aと109bの部分で係合させ、螺合体103aと103bが固定される方向に回転させ元の医療用投与器具103の形とする。すると、医療用投与器具103の内側に設けられたカートリッジ検出用スイッチ(第2のスイッチ)111がオフからオンになる。
【0100】
この状態になったとき表示部104には、「エアー抜き」の文字が現れ点滅を始める。前記点滅表示と同期してスピーカー127からは「エアー抜きをしてください」の音声が流れる。投与者は注射針101を取り付け、注射針101を上に向け、注射ボタン106を下向きにした状態で注射針101から薬液126が出るまで注射ボタン106を押す。すると、スイッチ113(従来の技術で記載した図32のスイッチ413に相当)が一度オンし再びオフする。このスイッチ113の状態をエアー抜きが終了したことの判定にも利用し、マイクロプロセッサ(エアー抜き表示信号発生部)125でエアー抜き終了と判断させる。
【0101】
尚、前記記載の「エアー抜き」文字の点滅と音声でのアナウンスは、スイッチ113の状態をマイクロプロセッサ125がエアー抜き終了と判断するまで継続される。また、前記スイッチ110及びスイッチ111の状態の判断及び表示部104への表示命令、音声アナウンスの命令は、図18のマイクロプロセッサ(エアー抜き音声信号発生部)125によって行われる。即ち、これらマイクロプロセッサ125、表示部104、スピーカ127はエアー抜き告知部を構成している。また、この図18において、123は日付情報を発生するカレンダ、124は時刻情報を発生する時計である。
【0102】
次に、前記薬液カートリッジ107がすでに医療用投与器具103にセットされた状態、つまり2回目以降の投与の場合について説明する。本体用キャップ102を医療用投与器具103から取り外すと、医療用投与器具本体103に設けられたスイッチ110がオンからオフになる。このとき、表示部104に表示される全ての機能表示が全点灯し、何秒か後にカレンダ、時間及び投与量のみが表示される。
【0103】
次に、表示部104には「エアー抜き」文字が点滅表示され、それと同期してスピーカー127からは「エアー抜きをしてください」の音声が流れる。投与者は注射針101を取り付け、注射針101を上向きに、注射ボタン106を下向きにした状態で注射針101から薬液126が出るまで注射ボタン106を押す。すると、前記初回の使用の場合同様、マイクロプロセッサ125がスイッチ113の状態を見て、エアー抜き終了と判断すると「エアー抜き」文字の表示は消え、更に音声での「エアー抜きをしてください」のアナウンスも停止する。
【0104】
尚、注射が完了したことを検出する手段、投与された注射液量を検出する手段、投与された注射液量を記録する手段、注射が完了したことを検出し、投与された注射液量を検出すると同時に検出された注射液量、日付、時刻をも同時に記録し、表示する手段については、従来の技術で記述したとおりである。
【0105】
なお、上述の説明でエアー抜きを促す表示は、文字以外に記号や図形を用いても良い。また、表示と音声とを何れか一方にて、投与者にエアー抜きの操作を行うように促してもよい。
【0106】
このように、本実施の形態4によれば、注射針が取り付けられる医療用投与器具本体の注射針の取り付け部分を覆うように取り付けられた本体キャップを外したときに、「エアー抜き」の文字を表示部に表示するようにしたので、薬液の投与者に投与前のエアー抜き操作を意識させることができ、「エアー抜き」の操作を促すことができる。
(実施の形態5)
この実施の形態5は、請求項1ないし請求項6の発明に対応するものであり、電子的な装置を付加した医療用投与器具において、エアー抜きの際に空打ちする注射液の量を、本来の注射と区別せずに記憶してしまう不具合を解消できるようにしたものである。
【0107】
以下、本発明の実施の形態5について、図19ないし図23を用いて説明する。図19は、本発明の実施の形態5に係る医療用投与器具のマイクロプロセッサ125を中心としたブロック図である。また、図20は、本発明の実施の形態5に係る医療用投与器具の外観を示す斜視図、図21はその一部断面図、図22は他の実施の形態に係る医療用投与器具の斜視図、図23は図22の医療用投与器具の一部断面図を示す。
【0108】
図20において、102は針刺しアタッチメント、103は医療用投与器具本体、104は表示部、105は投与量設定ダイヤル、106は注射ボタンである。針刺しアタッチメント102は、注射針101を皮膚に刺したときとほぼ同時に、注射ボタン106の方向へスライドできるように構成されている。
【0109】
図21において、針刺しアタッチメント102は、注射針の長さ方向に対して注射針より短くなるように構成され、注射針を皮膚に刺したときスライドし、本体内に設けられたスイッチ(第3のスイッチ)109a及び109bをオンさせる。このスイッチ109aと109bがオンすることで、注射針が皮膚に刺さっているということをマイクロプロセッサ125により判断させている。
【0110】
また、投与完了の検出手段は、図示しないスイッチ(図18のスイッチ113及び従来の技術で記述した図32のスイッチ413に相当)が一度オンし再びオフの状態になったときをマイクロプロセッサ125で判断させることにより行っている。つまり、スイッチ109a及び109bがオンしている間で、しかも上述の図示しないスイッチの状態が投与完了となったときのみ、注射液量と、日付、時刻をメモリ122に記録させるようにマイクロプロセッサ125に判断させる。
【0111】
一方、エアー抜き時は、注射針101を上側に向け、注射ボタン106を下側に位置した状態で、しかも空中で行うため、針刺しアタッチメント102が作動しておらず、スイッチ109a及び109bはオフのままの状態である。このとき、注射ボタン106が押され、スイッチ113が一度オンし再びオフして投与完了となったとしても、スイッチ109a及び109bがオフであるため、マイクロプロセッサ125側では注射液量、日付、時刻の履歴はメモリ122に記録しないものと判断する。こうすることにより、注射針101が実際に皮膚に刺さり、投与完了になったときのみ、注射液量、日付、時刻が履歴としてメモリ122に記録され、エアー抜き時の履歴は記録されない医療用投与器具が可能となる。尚、スイッチ109aと109bは針刺しアタッチメントの形状によっては、どちらか1個でも検出可能である。
【0112】
図22はこのスイッチ109aと109bを1個に集約できるようにしたものであり、図22において、140は針刺し検出スイッチ(第3のスイッチ)、103は医療用投与器具本体、104は表示部、105は投与量設定ダイヤル、106は注射ボタンである。針刺し検出スイッチ140は、投与時に投与器具本体がぐらつかず安定するように設けられた皮膚当て部141の、注射針101と同一面に構成されている。
【0113】
図23において、針刺し検出スイッチ140は、注射針101を皮膚に刺したときとほぼ同時にオンする。この針刺し検出スイッチ140のスイッチがオンすることで、注射針が皮膚に刺さっているということをマイクロプロセッサ125により判断させている。
【0114】
また、投与完了の検出手段は、従来の技術で記述した図27のスイッチ413と同様に、スイッチ(図19には図示せず。図18のスイッチ113に相当)が一度オンし再びオフの状態になったときをマイクロプロセッサ125で判断させることにより行っている。注射液量の検出手段は従来の技術で述べたのと同様である。つまり、針刺し検出スイッチ140のスイッチがオンしている間で、しかも図示しないスイッチの状態が投与完了となったときのみ、注射液量と、日付、時刻をメモリ(注射液量記録部)122に記録させるようにマイクロプロセッサ(制御部)125に判断させる。
【0115】
一方、エアー抜き時は、注射針101を上側にし、注射ボタン106を下側に位置した状態で、しかも空中で行うため、針刺し検出スイッチ140はオフの状態である。このとき、注射ボタン106が押され、スイッチ113が一度オンし再びオフし投与完了となっても、針刺し検出スイッチ140がオフであるため、マイクロプロセッサ125側では注射液量、日付、時刻の履歴はメモリ122に記録しないと判断する。
【0116】
こうすることにより、注射針が皮膚に刺さり、投与完了になったときのみ、注射液量、日付、時刻が履歴としてメモリ122に記録され、エアー抜き時の履歴は、記録されない医療用投与器具が可能となる。尚、針刺し検出スイッチ140の位置は注射針101に近いほど、皮膚に注射針101が当てられたときの検出が有効である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
この発明は、注射液等の注射の投与を行う際に用いられる医療用投与器具に適用可能なものであり、投与時の注射ボタン操作により、皮膚に刺しこんだ注射針をさらに深く刺し込む不具合を解消でき、安全かつ確実に投与を行うのに好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与器具本体と、
前記投与器具本体の側面に設けられ、薬液カートリッジをセットする開閉式の扉と、
前記薬液カートリッジの内部に収納されている注射液を、注射針を経由して投与するための注射ボタンと、
前記投与器具本体の内部に配置され、前記注射ボタンと連結されて、前記注射ボタンが押された時に、前記注射液を押し出すプランジャーと、
前記注射ボタンの押圧力を、前記プランジャーに伝達する押圧力伝達部と、を備え、
前記扉の開閉する角度、前記注射ボタンを押圧する方向、及び、前記押圧力伝達部の伝達する方向は、前記注射針を刺す方向に対して、それぞれ平行でない角度に配置される、
ことを特徴とする医療用投与器具。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用投与器具において、
前記押圧力伝達部は、
前記注射ボタンの押圧方向と同方向に延在するラックと、
該ラックの長手方向のー側面に形成された歯形と噛合する第1の歯車と、
該第1の歯車と噛合する第2の歯車と、
前記ラックの延在する方向と直交する方向のー側面に前記第2の歯車と噛合する歯形を有する可動ピースとを有し、
前記注射ボタンの押圧操作により前記可動ピースは前記薬液カートリッジのプランジャーを押圧する、
ことを特徴とする医療用投与器具。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用投与器具において、
投与する注射液量が設定できる注射液量設定部を備えた、
ことを特徴とする医療用投与器具。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用投与器具において、
前記注射液量設定部は、前記プランジャーと一体化され前記可動ピースを貫通し、且つ、該ピースと噛合するスリーブと、
該スリーブの前記プランジャーとは反対側に取り付けられ、投与者が回転する方向を変えることで前記可動ピースを前記薬液カートリッジの内部で前,後に移動させる投与量調節つまみとを有する、
ことを特徴とする医療用投与器具。
【請求項5】
請求項1に記載の医療用投与器具において、
投与後に、注射ボタンを押した指を離すと注射ボタンを元の位置に戻す注射ボタン復帰部を備えた、
ことを特徴とする医療用投与器具。
【請求項6】
請求項5に記載の医療用投与器具において、
前記注射ボタン復帰部は、前記ラックの前記注射ボタンとは反対側の端面と医療用投与器具本体の内側面との聞に介在されたばねからなる、
ことを特徴とする医療用投与器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2012−250090(P2012−250090A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−210804(P2012−210804)
【出願日】平成24年9月25日(2012.9.25)
【分割の表示】特願2010−281558(P2010−281558)の分割
【原出願日】平成14年12月13日(2002.12.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】