説明

医療用滅菌装置

【課題】滅菌時に水が生成されないようにすることで、滅菌時間を短縮するとともに、滅菌処理の適用範囲を拡大する。
【解決手段】医療用滅菌装置1は、通気性を有する包装材101で包装された状態の滅菌対象物100が収容される滅菌室Rを有している。滅菌室R内には、オゾンと、水の生成を抑止する気体を充満させる。オゾンにより菌を死滅させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療行為時に使用される医療器具等の滅菌対象物を滅菌する滅菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の医療用滅菌装置として、過酸化水素とプラズマを利用したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の滅菌装置は、滅菌対象物が収容される滅菌室と、滅菌室に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、滅菌室にオゾンを供給するオゾン供給装置と、滅菌室内を減圧する真空引き装置と、滅菌室内にプラズマを発生させるプラズマ発生器とを備えている。
【0003】
特許文献1の滅菌装置を用いて滅菌対象物を滅菌する際には、まず、滅菌室を真空引き装置で減圧した後、過酸化水素供給装置により過酸化水素を滅菌室に供給するとともに、オゾン供給装置によりオゾンを滅菌室に供給する。過酸化水素及びオゾンが滅菌対象物に付着している菌を死滅させる。このとき、過酸化水素がオゾンが反応して滅菌室内に水が生成される。
【0004】
その後、真空引き装置で滅菌室を減圧した後、プラズマ発生器を作動させる。これにより、過酸化水素及びオゾン雰囲気下でプラズマが発生してラジカルが生成される。滅菌対象物に菌が残存している場合には、その菌がラジカルによって死滅する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−204889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、医療行為時には、滅菌処理を早く終わらせたい場合がある。例えば、人工血管や人工心臓弁は様々な種類があり、このような器具は各医療機関で用意している数が少なく、そのため予備も殆どなく、仮に取扱い時の不手際によって再滅菌が必要になった場合を想定すると、その場ですぐに滅菌しなければならない事態が起こり得る。
【0007】
しかしながら、従来の滅菌装置では、滅菌室に水が生成されるので、水が滅菌対象物に付着することになる。この水が滅菌対象物に残留していると、患者への使用時に障害となるので、滅菌処理後に乾燥工程が必要になり、滅菌に要する時間が長くなるという問題がある。また、滅菌室内にプラズマを発生させる際には、滅菌室内を所定の低い圧力となるように減圧しなければならないが、滅菌対象物に水が付着していると、水が蒸発することによって減圧に要する時間が長くなり、ひいては、滅菌時間が長くなってしまう。
【0008】
また、従来の滅菌装置を用いてリネン、綿布、ガーゼ等の繊維からなる滅菌対象物を滅菌すると、水が毛細管現象によって滅菌対象物の内部へ入り込んでしまう。こうなると、乾燥工程に要する時間が長くなり、実用的でない。
【0009】
つまり、従来の滅菌装置は、滅菌処理に要する時間が長くかかるとともに、適用範囲が狭いという問題があった。
【0010】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、滅菌時に水の生成を抑止することで、滅菌時間を短縮するとともに、適用範囲を拡大することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、水の生成を抑止する気体を滅菌室に供給するようにした。
【0012】
第1の発明では、医療行為時に使用される滅菌対象物を滅菌する医療用滅菌装置であって、滅菌対象物が収容される滅菌室と、上記滅菌室内に水の生成を抑止する気体を供給する気体供給装置と、上記滅菌室内にオゾンを充満させるオゾン発生器と、上記滅菌室を減圧する真空引き装置とを備えている構成とする。
【0013】
この構成によれば、滅菌室内に水の生成を抑止する気体とオゾンとが供給される。滅菌対象物に付着した菌はオゾンにより死滅する。このとき、滅菌室内で水の生成が抑止されるので、乾燥工程が不要になり、滅菌処理に要する時間が短くなる。また、水の生成が抑止されることで、毛細管現象の起こる繊維からなる滅菌対象物も滅菌することが可能になる。
【0014】
第2の発明では、第1の発明において、滅菌室内にプラズマを発生させるプラズマ発生器を備えている構成とする。
【0015】
この構成によれば、プラズマの発生により生成されたラジカルの酸化作用によっても滅菌効果が得られる。
【0016】
第3の発明では、第1または2の発明において、通気性を有する包装材に包装された滅菌対象物を滅菌する構成とする。
【0017】
この構成によれば、オゾンが包装材を通過して内部に導入され、このオゾンにより滅菌対象物が包装材で包装された状態で滅菌される。
【0018】
第4の発明では、第1から3のいずれか1つの発明において、滅菌室内に配設され、上記滅菌対象物を支持する支持部と、上記支持部に接続され、電圧の印加によって上記滅菌室内の電荷粒子を加速させて該滅菌対象物に衝突させる加速器とを備えている構成とする。
【0019】
この構成によれば、滅菌対象物に菌が残存している場合には、電荷粒子がその菌に衝突することになるので、そのときの衝撃力により菌を死滅させることが可能になる。

第5の発明では、第4の発明において、支持部には、滅菌対象物を包装する包装材が有する導電部と導通する導通部が設けられている構成とする。
【0020】
この構成によれば、導通部を介して滅菌対象物と支持部とを導通させることが可能になる。これにより、包装材の内部の電荷粒子を滅菌対象物に勢いよく衝突させることが可能になる。
【0021】
第6の発明では、第5の発明において、包装材の内面と滅菌対象物との間には、隙間が形成されている構成とする。
【0022】
この構成によれば、包装材の内部の電荷粒子を滅菌対象物に衝突させる前に十分に加速することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、滅菌時に水の生成を抑制できるので、滅菌処理を短時間で完了できるとともに、繊維からなる滅菌対象物も滅菌でき、滅菌装置の適用範囲を拡大できる。
【0024】
第2の発明によれば、ラジカルの作用により滅菌処理を確実に行うことができる。
【0025】
第3の発明によれば、オゾンを包装材の内部に導入できるので、滅菌対象物を包装材で包装したまま、短時間で、かつ、確実に滅菌でき、滅菌室から取り出した後も滅菌対象物の滅菌状態を維持できる。
【0026】
第4の発明によれば、電荷粒子の物理的作用により菌を確実に死滅させることができる。
【0027】
第5の発明によれば、包装材の内部の電荷粒子を滅菌対象物に勢いよく衝突させることができるので、より確実な滅菌を行うことができる。
【0028】
第6の発明によれば、包装材の内面と滅菌対象物との間の隙間を利用して電荷粒子を加速させることができるので、菌へ衝撃力を十分に与えて死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態1に係る医療用滅菌装置の概略構成図である。
【図2】医療用滅菌装置のブロック図である。
【図3】包装材の断面図である。
【図4】実施形態2に係る図1相当図である。
【図5】実施形態2に係る図2相当図である。
【図6】(a)は交流パルス波形を示す波形図であり、(b)は直流パルス波形を示す波形図である。
【図7】滅菌対象物を包装した包装材の斜視図である。
【図8】変形例に係る直流パルス波形を示す波形図である。
【図9】変形例に係る図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0031】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る医療用滅菌装置1の概略構造を示すものである。この医療用滅菌装置1は、医療器具等の滅菌対象物100を滅菌する場合に用いられるものである。
【0032】
医療用滅菌装置1は、滅菌室Rを有する容器10と、滅菌室R内にプラズマを発生させる広域プラズマ生成器13と、真空ポンプ(真空引き装置)14と、制御装置18(図2に示す)と、気体供給装置19とを備えている。
【0033】
容器10は、真空引きが可能な密閉型の真空容器であり、材質はステンレス等である。また、容器10の容積は滅菌対象物の大きさ等によって任意に設定できるが、例えば、1リットル〜100リットル程度が好ましい。
【0034】
容器10の所定部位には、滅菌対象物100の出し入れが可能な扉(図示せず)が設けられている。容器10内には、滅菌対象物100を載置しておくための支持台9が設けられている。
【0035】
また、容器10には、排気管15が設けられている。排気管15の上流端は、容器10内の滅菌室Rに連通しており、中途部には、真空ポンプ14が設けられている。真空ポンプ14は、周知の構造のものであり、滅菌室R内の圧力を0.1Pa以上50Pa以下の範囲で任意に設定できるようになっている。図2に示すように、真空ポンプ14は制御装置18に接続されている。また、図1に示すように、容器10は接地されている。
【0036】
気体供給装置19は、滅菌室R内に水の生成を抑止する気体を供給するためのものであり、ガス導入管16と、開閉弁17とを備えている。ガス導入管16の下流端は、容器10の滅菌室Rに連通しており、上流端には酸素が供給される酸素配管と、窒素が供給される窒素配管と(図示せず)が接続されている。酸素配管は、本医療用滅菌装置1を病院内で使用する場合には、院内の各所に設けられている酸素配管を接続すればよく、酸素を容易に供給できる。酸素と窒素の導入割合は、配管の中途に流量制御弁を設けることで任意に調整することが可能である。酸素と窒素は、OH基を有していないので、滅菌室R内で水の生成が抑止される。
【0037】
尚、ガス導入管16の上流端には、病院内の各所に設けられている笑気(亜酸化窒素)の配管を接続し、酸素及び窒素の代わりに笑気を用いて滅菌処理を行うようにしてもよい。この笑気もOH基を有していないので、水の生成が抑止される。上記酸素、窒素、笑気は、滅菌室R内に水の生成を抑止する気体である。
【0038】
開閉弁17は電動アクチュエータにより開閉動作されるものであり、図2に示すように、制御装置18に接続されている。ガス導入管16には、細菌や粉塵等が滅菌室Rに侵入するのを防止するためのフィルタを設けておくのが好ましい。
【0039】
広域プラズマ生成器13は、滅菌室R内の広い範囲(滅菌室Rの略全体)にプラズマを生成するためのものである。図1に示すように、広域プラズマ生成器13は、高周波電源13aと、広域プラズマ生成電極13bとを備えており、従来周知の構造のものである。図2に示すように、高周波電源13aは、制御装置18に接続されている。
【0040】
図1に示すように、広域プラズマ生成電極13bは、例えばステンレス製であり、滅菌室Rの上部中央近傍に配設されている。容器10の壁部には、広域プラズマ生成電極13bに電流を供給するための配線が接続される端子26が設けられている。この端子26は、高周波電源13aの出力部に接続されている。
【0041】
図2に示すように、制御装置18は、ガス導入管16の開閉弁17、真空ポンプ14及び高周波電源13aの各々を所定のプログラムに基づいて制御するように構成されている。すなわち、制御装置18は、開閉弁17を所定時間開状態として滅菌室Rに酸素及び窒素を導入してから閉状態とし、また、高周波電源13aを作動させて滅菌室R内にプラズマを生成し、また、真空ポンプ14を作動させて滅菌室R内を減圧する。制御装置18による制御の詳細は後述する。
【0042】
また、図1に示すように、包装材101は、オゾンや窒素等の気体が通過可能な通気性を有する部材で構成されている。この部材としては、通気孔を有する不織布等が挙げられる。この包装材101の通気孔の大きさは、菌が通過不可能な大きさとなっている。包装材101の内部には、滅菌対象物100を収容した状態で、空気も入っている。また、包装材101は滅菌対象物100を収容した状態で膨張可能な柔軟性を有している。包装材101が膨張した状態で滅菌対象物100と包装材101の内面との間には、少なくとも1mm以上の隙間が形成されるようになっている。この隙間の大きさは少なくとも10mm程度が好ましい。また、包装材101の一部は、透明なフィルムで構成されており、滅菌対象物100を外部から視認できるようになっている。
【0043】
次に、上記のように構成された医療用滅菌装置1を用いて滅菌対象物100を滅菌する場合について説明する。滅菌対象物100としては、ガイドワイヤー等のように使用時までの間に外部空気に触れさせてはならないものが適している。滅菌対象物100は、上記包装材101で包装した状態で、図1に示すように支持台9に載置する。
【0044】
そして、制御装置18は、開閉弁17を開状態として病院内の酸素配管から圧送される酸素をガス導入管16から滅菌室Rに導入するとともに、窒素を滅菌室Rに導入する。滅菌室R内の酸素と窒素の体積割合は、1:1が好ましい。その後、開閉弁17を閉状態とする。開閉弁17を開状態としておく時間は、滅菌室R内の空気の大部分が酸素及び窒素に置き換わるのに要する時間である。
【0045】
その後、制御装置18は、真空ポンプ14を作動させて減圧を行う。そして、高周波電源13aを作動させてプラズマを発生させる。このときの滅菌室Rの圧力は0.1Pa以上100Pa以下が好ましい。また、酸素雰囲気下でプラズマを発生させることにより、オゾンが生成され、滅菌室R内にオゾンが充満する。広域プラズマ生成器13がオゾン発生器に相当する。尚、滅菌室Rに笑気を導入した場合も、同様にオゾンを発生させることが可能である。
【0046】
真空ポンプ14を作動させて滅菌室Rをさらに減圧していくと、包装材101はその内側と外側との差圧により膨張する。
【0047】
しかる後、滅菌室Rにガス導入管16から酸素及び窒素を供給し、滅菌室R内の圧力を上昇させ、滅菌室R内の圧力を包装材101の内圧よりも高める。すると、包装材101は通気性を有しているので、滅菌室R内のオゾンが包装材101を通過してその内部に侵入していく。このオゾンにより滅菌対象物100が包装材101で包装された状態で滅菌される。
【0048】
次いで、制御装置18は、高周波電源13a及び真空ポンプ14を停止させ、開閉弁17を再び開状態として滅菌室Rに酸素及び窒素を導入した後、開閉弁17を閉状態とする。その後、再び、真空ポンプ14を作動させて減圧するとともに、高周波電源13aを作動させてプラズマを発生させ、さらに、滅菌室Rに酸素を供給する。これにより、滅菌対象物100に対して2回目の滅菌処理が行われる。このようにして3〜4回程度滅菌処理を繰り返すことで、確実な滅菌が可能になる。滅菌時間としては、滅菌対象物100がシンプルな形状の場合には、10分程度である。
【0049】
尚、滅菌時の容器10内の温度は室温から100℃程度が好ましい。容器10には、内部の温度を調節するヒータ等の温度調節器を設けるのが好ましい。
【0050】
滅菌室Rには、OH基の無い酸素及び窒素を充満させているので、滅菌室R内に水が生成されることはない。
【0051】
以上説明したように、この実施形態1に係る医療用滅菌装置1によれば、滅菌室R内に水の生成が抑止されるので、滅菌対象物100に水が付着することはない。これにより、乾燥工程が不要になり、滅菌処理を短時間で完了させることができる。さらに、水の生成が抑止されるので、毛細管現象を有する繊維からなる滅菌対象物100であっても滅菌処理を行うことができ、滅菌処理の適用範囲を拡大できる。
【0052】
また、滅菌室R内で発生させたオゾンを、包装材101を通過させて滅菌対象物100に接触させることができるので、滅菌対象物100を包装材101で包装したまま、短時間で、かつ、確実に滅菌できる。
【0053】
尚、包装材101としては、例えば図3に示す変形例のように、滅菌対象物100を包装材101の内部で浮かせるようにしてもよい。変形例に係る包装材101は、滅菌対象物100を下方から支持する支持部材102と、滅菌対象物100の上側を覆う布材103とを備えている。支持部材102は、包装材101の内部へ向けて突出する複数の凸部102a,102a,…を有しており、これら凸部102aの先端部に滅菌対象物100が載置されるようになっている。従って、滅菌対象物100の下面と、包装材101の内面との接触面積が少なくなり、滅菌対象物100の広い範囲にオゾンを接触させることが可能になる。さらに、オゾンが凸部102aと凸部102aとの間を通って移動するようになり、このことによっても、オゾンを滅菌対象物100に確実に接触させることができる。
【0054】
また、複数の滅菌対象物100を滅菌する場合には、支持台9上に並べて置いてもよいし、上下に重ねてもよい。
【0055】
また、上記実施形態1では、オゾンを滅菌室R内で生成するようにしているが、これに限らず、オゾンを外部から供給するようにしてもよい。
【0056】
《発明の実施形態2》
図4は、本発明の実施形態2に係る医療用滅菌装置1を示すものである。この実施形態2の滅菌装置1は、実施形態1のものに対し、非拡散プラズマ生成器11及び補助プラズマ生成器12を備えている点で異なっており、他の部分は同じであるため、以下、同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0057】
非拡散プラズマ生成器11は、拡散が抑制されるプラズマを生成するものである。補助プラズマ生成器12は、プラズマの非拡散領域でのプラズマの生成を補助して、そのプラズマの励起種及びラジカルの量を増大させるためのものであり、公知のプラズマ生成器と物理的作用が同じである。
【0058】
非拡散プラズマ生成器11は、直流パルス電源(加速器)11aと、直流パルス電源11aに接続される電極(支持部)20とを備えている。尚、電極20は、実施形態1の支持台9の代わりとなるものである。
【0059】
電極20は、滅菌室Rの下部近傍に配設されている。容器10の壁部には、電極20に電流を供給するための配線が接続される端子21が設けられている。この端子21は、直流パルス電源11aの出力部に接続されている。電極20は、滅菌対象物100の載置が可能な板状に形成されている。電極20の上面部は、後述する包装材101が有する導電部101aと導通する導通部20aとなっている。この導通部20aは、包装材101の導電部101aを介して滅菌対象物100と電気的に接続され、これにより、滅菌対象物100そのものを電極化することが可能となっている。
【0060】
補助プラズマ生成器12は、補助プラズマ生成用高周波電源12aと、上記電極20とで構成されている。補助プラズマ生成器12と非拡散プラズマ生成器11との電極20は共通化されている。補助プラズマ生成用高周波電源12aは、端子21を介して電極20に接続されている。図5に示すように、直流パルス電源11a及び補助プラズマ生成用高周波電源12aは、制御装置18に接続され、制御装置18により制御されるようになっている。
【0061】
広域プラズマ生成器13は、非拡散プラズマ生成器11及び補助プラズマ生成器12に比べて滅菌室R内の広い範囲にプラズマを生成する。
【0062】
上記直流パルス電源11aは、所定形状の電力波形を生成するように構成されている。直流パルス電源11aが生成する電力波形は、図6(b)に示すように、直流パルス30であり、パルス高さである直流負電圧がVであり、パルス幅がt1である。このパルス30を周期(充電時間)t2で連続的に生成する。直流負電圧Vは、500V〜30kV程度が好ましい。また、パルス幅t1は、数μs〜数ms程度が好ましい。但し、ピーク値は、回路構成要素の設定値以下となるように調整される。また、周期t2は、200pps程度が好ましい。尚、直流パルス30は負電圧に変えて正電圧としても同様な滅菌効果を得ることができる。
【0063】
補助プラズマ生成用高周波電源12aは、所定形状の電力波形を生成するように構成されており、図6(a)に示すように、交流パルス31を周期的に又は連続的に生成する。図6(a)は、周期的に生成する場合を示す。交流パルス31の周波数はfであり、ピーク電圧はKに設定され、パルス幅はt3に設定されている。
【0064】
直流パルス30は、交流パルス31の立ち上がり時刻よりΔtの時間遅れを伴って立ち上がるようになっている。直流パルス30の各条件と、交流パルス31の各条件を調整することで、プラズマ密度や滅菌時間等を制御することができる。また、周期t2を変更することで、単位時間当たりの直流パルス30の数を変更することもできる。
【0065】
また、包装材101の一部には、炭素繊維等の伝導性を有する繊維が編み込まれている。図7に示すように、包装材101のうち、伝導性を有する繊維を編み込んだ部分が導電部101aであり、この導電部101aは、包装材101の内部及び外部の両方に臨んでいる。尚、導電部101aは、金属線材等で構成してもよい。また、包装材101の形状は箱形等であってもよい。
【0066】
次に、上記のように構成された医療用滅菌装置1を用いて滅菌対象物100を滅菌する場合について説明する。
【0067】
滅菌対象物100は、上記包装材101で包装した状態で、図4に示すように電極20に載置する。このとき、包装材101の導電部101aを電極20の導通部20aに接触させる。また、滅菌対象物100の材質は伝導体であり、導電部101aに接触させておく。
【0068】
その後、実施形態1と同様に、制御装置18は、滅菌室Rに酸素及び窒素を導入させ、真空ポンプ14を作動させて滅菌室Rを減圧しながら、高周波電源13aを作動させてプラズマを発生させる。これにより、滅菌室R内にオゾンが充満する。そして、真空ポンプ14を作動させて滅菌室Rをさらに減圧する。これにより、包装材101にオゾンが導入され、このオゾンにより滅菌対象物100が包装材101で包装された状態で滅菌される。
【0069】
しかる後、滅菌室Rを減圧した状態で、酸素及び窒素を導入する。このときの滅菌室Rの圧力は、0.1Pa以上50Pa以下の範囲で設定するのが好ましい。このとき、包装材101は膨張していて、包装材101の内面と滅菌対象物100との間には、10mm程度の隙間が形成されている。
【0070】
次いで、直流パルス電源11a及び補助プラズマ生成用高周波電源12aから電極20に対し直流パルス波形の電力及び交流パルス波形の電力が供給される。直流パルス30の各条件と交流パルス31の各条件の設定、及び滅菌室Rの圧力条件や気体割合等により、プラズマの発生を制御する。このときの電圧は、700V以上900V以下が好ましいが、より好ましくは、800Vである。
【0071】
このとき、交流パルス31が直流パルス30よりも早いタイミングで電極20に印加される。このとき、包装材101の内部には、滅菌室R内の酸素が侵入しているので、包装材101の内部において滅菌対象物100を取り囲むように、該滅菌対象物100の周囲領域にプラズマが略均一に生成される。このプラズマの作用により、滅菌対象物100が包装材101の内部で滅菌される。
【0072】
交流パルス31が印加された後、Δtの時間遅れで直流パルス30が印加される。直流パルス電力は、放電により、滅菌対象物100の周囲にプラズマを生成する電気的能力を有している。さらに、滅菌対象物100の周囲のプラズマを構成する正イオンと電子(電荷粒子)は、直流パルス30の印加によって静電気力を受ける。電子は、滅菌対象物100の表面または表面近傍から強力に反発されて滅菌対象物100から遠ざかる一方、正イオンは、滅菌対象物100に引き寄せられる。このとき、包装材101の内面と滅菌対象物100との間に10mm程度の隙間が形成されているので、滅菌対象物100の周りには、正イオンを加速するのに十分な空間があり、よって、滅菌対象物100に向けて十分に加速される。加速された正イオンは、運動エネルギーを持ち、滅菌対象物100の表面に存在する菌(微生物)に衝突して打ち込まれ、菌の細胞壁を破壊する。菌は、このような物理的な効果により死滅する。
【0073】
交流パルス31は、直流パルス30により生成されるプラズマの励起エネルギーを更に増大させて励起種及びラジカルの量を補助的に、かつ、広域的に増大させる。プラズマが存在している状況で、そのプラズマを生成させる電極20と同じ電極に印加される直流パルス30の放電により、滅菌対象物100の周囲にはプラズマシースが形成される。このプラズマシースの厚みは、電圧等により変更することができ、1mm以上8mm以下が好ましい。
【0074】
プラズマシースは、滅菌対象物100の表面形状に対応する形状となる。よって、滅菌対象物100が複雑な形状であっても、滅菌対象物100の周囲にプラズマシースによって電荷粒子を加速させるための電気的加速場を略均一に形成できる。加速場の均一化により、滅菌対象物100の全体に均等な滅菌処理を施すことが可能になる。
【0075】
尚、電極20が正に帯電する場合には、電子が菌に打ち込まれることになる。
【0076】
上述の如く直流パルス30は周期的に発生する。従って、先の直流パルス30とその後の直流パルス30との間では、先の直流パルス30の印加により滅菌対象物100の周囲に発生していたイオンシースが消え、アフターグローによりプラズマの中で活性化された励起種であるラジカルが、滅菌対象物100の表面に到達して菌を死滅させる。これは化学的効果による滅菌である。
【0077】
ラジカルは、主に、酸素に起因する酸素ラジカルである。
【0078】
交流パルス31及び直流パルス30が印加されている間、広域プラズマ生成器13を作動させる。すなわち、第2高周波電源13aから広域プラズマ生成電極13bに電圧を印加する。これにより、プラズマの励起種を広域的に増大させて菌の死滅効果が更に高まる。
【0079】
尚、広域プラズマ生成器13は、光源で構成することができる。光源から照射する光の波長は、赤外線領域から紫外線領域までの各種波長が挙げられるが、好ましくは、紫外線領域の波長である。また、広域プラズマ生成器13を光源で構成した場合の光の波長は、260nm付近にピークを持つ波長が好ましい。
【0080】
また、滅菌室R内にヘリウムを導入するようにしてもよい。ヘリウムの量としては、滅菌室Rの容積の数%程度が好ましく、これによりペニング効果による酸素のイオン化を助長できる。
【0081】
このように、本医療用滅菌装置1では、物理的効果と化学的効果とにより菌を死滅させることができるので、短時間で滅菌処理を完了することができる。
【0082】
そして、滅菌処理が終わると、滅菌対象物100を包装材101で包装したまま、滅菌室Rから取り出して医療現場まで搬送して使用する。
【0083】
以上説明したように、この実施形態2に係る医療用滅菌装置1によれば、実施形態1のものと同様に、滅菌室R内に水の生成が抑止されるので、滅菌処理を短時間で完了させることができるとともに、滅菌処理の適用範囲を拡大できる。
【0084】
また、滅菌室Rに水が存在しないことで、導電性を低く保つことができ、高圧の直流パルス30を印加することができる。
【0085】
また、電圧が印加される電極20と、滅菌対象物100を包装する包装材101とを導通させるようにしたので、包装材101の内部に存在する正イオン又は電子を十分に加速して、滅菌対象物100に勢いよく衝突させることができ、包装材101で包装された滅菌対象物100を、短時間で、かつ、確実に滅菌できる。
【0086】
また、図8に示すように、直流パルス30の波形は、負側に立ち上がった後、正側に立ち上がるような形状としてもよい。
【0087】
また、滅菌工程が終わった後、滅菌対象物100の表面に酸化膜があれば、プラズマを生成することでスパッタリング作用を得て、酸化膜を除去することができる。
【0088】
以上説明したように、この実施形態2によれば、実施形態1と同様に滅菌処理を短時間で完了できるとともに、適用範囲を拡大できる。
【0089】
実施形態2では、オゾンによる滅菌、プラズマにより生成されるラジカルによる滅菌、電荷粒子の衝突による滅菌の3種類の滅菌を行うようにしているが、これに限らず、滅菌処理の要求度合いに応じて、3種類のうち、1つまたは2つの滅菌処理を行うようにしてもよい。例えば、オゾンを外部から供給するようにして、滅菌室Rにオゾンを充満させて、オゾンによる滅菌のみを行うようにしてもよい。また、オゾンによる滅菌と、プラズマにより生成されるラジカルによる滅菌との2種類の滅菌を行うようにしてもよい。オゾンのみでの滅菌、オゾン及びラジカルでの滅菌、オゾン、ラジカル及び電荷粒子を用いての滅菌の3つのうち、1つを選択できるように制御装置18を構成することも可能である。この場合、選択スイッチを設けるのが好ましい。
【0090】
また、包装材100には、プラズマの発生により滅菌が行われた否かを示すインジケータを設けるのが好ましい。インジケータとしては、例えば、包装材100の表側に、ある色の塗膜でベース層を形成し、このベース層の表側に別の色の塗膜を形成しておく。表側の塗膜の厚さは100Å程度である。この包装材100を滅菌室Rに配置してプラズマを発生させると、プラズマの作用によって表側の塗膜を構成する塗料と、ベース層を構成する塗料とが混ざる。一方、プラズマが有効に発生していない場合には、塗料が混ざらない。これにより、プラズマが有効に発生したことが処理後に目視により確認できる。
【0091】
また、包装材101は、図9に示す変形例のようにアルミ箔104aに樹脂フィルム104bを接合してなるラミネート材104を用いて構成してもよい。アルミ箔104aは、包装材101の内部及び外部の両方に臨んでいる。アルミ箔104aが導電部となっている。
【0092】
また、滅菌室Rには、アルゴン、ヘリウム、ネオン、酸素、窒素の各気体を導入するようにしてもよいし、これらを混合した気体を導入してもよい。
【0093】
また、滅菌対象物100としては、例えば、人工血管、人工心臓弁、各種手術用具、ガーゼ、リネン、不織布等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明に係る医療用滅菌装置は、例えば、医療現場や医療機器製造現場等に設置するのに適している。
【符号の説明】
【0095】
1 医療用滅菌装置
10 容器
11 非拡散プラズマ生成器
11a 直流パルス電源(加速器)
12 補助プラズマ生成器
13 広域プラズマ生成器(オゾン発生器)
14 真空ポンプ(真空引き装置)
19 気体供給装置
20 電極(支持部)
20a 導通部
100 滅菌対象物
101 包装材
101a 導電部
R 滅菌室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療行為時に使用される滅菌対象物を滅菌する医療用滅菌装置であって、
滅菌対象物が収容される滅菌室と、
上記滅菌室内に水の生成を抑止する気体を供給する気体供給装置と、
上記滅菌室内にオゾンを充満させるオゾン発生器と、
上記滅菌室を減圧する真空引き装置とを備えていることを特徴とする医療用滅菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用滅菌装置であって、
滅菌室内にプラズマを発生させるプラズマ発生器を備えていることを特徴とする医療用滅菌装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療用滅菌装置において、
通気性を有する包装材に包装された滅菌対象物を滅菌することを特徴とする医療用滅菌装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の医療用滅菌装置において、
滅菌室内に配設され、上記滅菌対象物を支持する支持部と、
上記支持部に接続され、電圧の印加によって上記滅菌室内の電荷粒子を加速させて該滅菌対象物に衝突させる加速器とを備えていることを特徴とする医療用滅菌装置。
【請求項5】
請求項4に記載の医療用滅菌装置において、
支持部には、滅菌対象物を包装する包装材が有する導電部と導通する導通部が設けられていることを特徴とする医療用滅菌装置。
【請求項6】
請求項5に記載の医療用滅菌装置において、
包装材の内面と滅菌対象物との間には、隙間を形成することを特徴とする医療用滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−72490(P2011−72490A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226253(P2009−226253)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(508214271)合同会社ジャパン・メディカル・クリエーティブ (4)
【Fターム(参考)】