説明

医薬組成物の調製におけるバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用

本発明は、抗アテローム性動脈硬化作用及び抗虚血作用を有する医薬組成物の調製におけるバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用、並びにアテローム性動脈硬化症及び虚血性(例えば、心臓)疾患を予防及び治療するための方法におけるその使用に関する。本発明はさらに、バイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーを特定できるスクリーニング方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アテローム性動脈硬化作用及び抗虚血作用を有する医薬組成物の調製におけるバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用、並びにアテローム性動脈硬化症及び虚血性(例えば、心臓)疾患を予防及び治療するための方法におけるその使用に関する。本発明はさらに、バイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーを特定できるスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
バイグリカン及び心臓血管系におけるその役割
バイグリカンは、小型ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)ファミリーのメンバーであり、ロイシンリッチ反復アミノ酸モチーフの存在を特徴とする[Fisher,L.W.,Termine,J.D.,and Young,M.F.:「骨由来小型プロテオグリカンI(バイグリカン)の推定タンパク質配列は、様々な種において、プロテオグリカンII(デコリン)及びいくつかの非結合組織タンパク質と相同性を示す(Deduced protein sequence of bone small proteoglycan I(biglycan)shows homology with proteoglycan II(decorin)and several nonconnective tissue proteins in a variety of species.)」J.Biol.Chem.264,4571〜4576(1989)]。
【0003】
最近の結果により、プロテオグリカンは、細胞外基質の単なる硬質成分であるだけでなく、コラーゲンの堆積、サイトカイン及び成長因子の活性化及び不活性化において重要な役割を果たすことが示されている。バイグリカンの医薬的応用に関しては、米国特許出願第20050059580号が、バイグリカンが、異常なジストロフィン結合タンパク質複合体(DAPC)に伴う病態、特に筋ジストロフィーの治療及び予防のための方法に応用できることを開示していることが挙げられる。
【0004】
バイグリカンは、我々の体内のほぼすべての組織において見出されているが、器官内において均一に分布しているわけではない。細胞表面、細胞周囲上及び細胞外基質内部において発現することが示されている[Bianco P.,Fisher,L.W.,Young,M.F.,Termine,J.D.,and Gehron Robey,P.:「2種の小型プロテオグリカンであるバイグリカン及びデコリンの、ヒト骨格組織及び非骨格組織の発達における発現及び局在(Expression and localization of the two small proteoglycans biglycan and decorin in developing human skeletal and non−skeletal tissues.)」J.Histochem.Cytochem.38,1549〜1568(1990);Wadhwa S,Embree MC,Bi Y,Young M:「バイグリカンの制御、制御活性及び機能(Regulation,regulatory activities,and function of biglycan.)」Crit Rev Eukaryot Gene Expr.2004;14(4):301〜315.]。その発現パターンは、様々な病態において変化する。
【0005】
バイグリカンの発現は、転写及び非転写の機序により制御される。バイグリカンの機能は、その微環境に依存しており、したがって、バイグリカンの機能は、研究される組織及び病理に依存する。心臓血管系において、バイグリカンは、アテローム性動脈硬化において重要な役割を果たすと思われる[Fedarko,N.S.,Termine,J.D.,Young,M.F.,and Robey,P.G.:「ヒト骨細胞による、インビトロのヒアルロン酸及びプロテオグリカン代謝の一時的制御(Temporal regulation of hyaluronan and proteoglycan metabolism by human bone−cells invitro.)」J.Biol.Chem.265,12200〜12209(1990);Klezovitch,O.and Scanu,A.M.:「血管細胞外基質のバイグリカンのタンパク質コアへの結合に関与するアポリポタンパク質Eのドメイン:このアポリポタンパク質の滞留及び抗動脈硬化特性の間の潜在的関係(Domains of Apolipoprotein E Involved in the Binding to the Protein Core of Biglycan of the Vascular Extracellular Matrix:Potential Relationship between Retention and Anti−Atherogenic Properties of this Apolipoprotein.)」Trends Cardiovasc.Med.11,263〜268(2001)]。心臓におけるバイグリカンの発現はいたるところに存在し、心臓弁尖の中心層における強い線維状のひもである[Latif,N.,Sarathchandra,P.,Taylor,P.M.,Antoniw,J.,and Yacoub,M.H.:「ヒト心臓弁における細胞外基質成分の局在及び発現パターン(Localization and pattern of expression of extracellular matrix components in human heart valves.)」J.Heart Valve Dis.14,542〜548(2005)]。
【0006】
様々なプロテオグリカン(PG)型が、大動脈壁の構造的完全性並びにリポタンパク質の酸化及び血液の凝集などの、いくつかの生物学的機能に関与する大動脈層に、可変量で存在することが実証されている[Wight,T.N.,Kinsella,M.G.and Qwarnstrom,E.E.:「細胞接着、遊走及び増殖におけるプロテオグリカンの役割(The role of proteoglycans in cell adhesion,migration and proliferation.)」Curr.Op.Cell Biol.4,793〜801(1992)並びにCamejo,G.,Hurt−Camejo,E.,Wiklund,O.,and Bondjers,G.:「アポBリポタンパク質と動脈プロテオグリカンとの関連:病理学的意義及び分子的機序(Association of apo B lipoproteins with arterial proteoglycans:Pathological significance and molecular basis.)」Atherosclerosis 139,205〜222(1998)]。
【0007】
動脈血管において、平滑筋細胞がバイグリカンを合成する。血管における動脈硬化性プラークの形成は、バイグリカン発現の増加と関連がある。[Riessen,R.,Isner,J.M.,Blessing,E.,Loushin,C,Nikol,S.,and Wight,T.N.:「アテローム硬化性及び再狭窄のヒト冠状動脈の細胞外基質における、プロテオグリカンであるバイグリカン及びデコリンの分布における地域格差(Regional differences in the distribution of the proteoglycans biglycan and decorin in the extracellular matrix of atherosclerotic and restenotic human coronary arteries.)」Am.J.Pathol.144,962〜974(1994)]。TGF−βは、バイグリカン発現の正の制御因子として特定された[Breuer,B.,Schmidt,G.,and Kresse,H.:「様々な形態の小型のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸プロテオグリカンの生合成に関する、形質転換成長因子−βの不均一な影響(Non−uniform influence of transforming growth factor−beta on the biosynthesis of different forms of small chondroitin sulphate/dermatan sulphate proteoglycan.)」Biochem.J.269,551〜554(1990)]。
【0008】
病変部周辺の動脈における異常な機序のストレスは、TGF−βの制御を介したバイグリカン発現の増加をもたらす。動脈硬化性プラークに関連する因子は、バイグリカンの発現の増加を起こすこともまた示されている[Chang,M.Y.,Tsoi,C.,Wight,T.N.,and Chait,A.:「リゾホスファチジルコリンは、バイグリカン及びマクロファージコロニー刺激因子のプロテオグリカン形態の合成を制御する(Lysophosphatidylcholine Regurates Synthesis of Biglycan and the Proteoglycan Form of Macrophage Colony Stimulating Factor.)」Arterioscler Thromb Vase Biol 23,809〜815(2003)]。
【0009】
上記の論文(Fedarko et al.、Klezovitch et al.、Riessen et al.and Chang et al.を参照されたい)に基づいて、当業者であれば、バイグリカンのレベルの増加が、動脈硬化性プラークの形成を容易にするはずである、すなわち、それはこの障害において負の作用を発揮するはずであるという結論を導き出すであろう。
【0010】
近年、バイグリカンの発現は、炎症性メディエーターである一酸化窒素(NO)により下方制御されることが示された[Schaefer,L.,Beck,K.F.,Raslik,I.,Walpen,S.,Mihalik,D.,Micegova,M.,Macakova,K.,Schonherr.E.and others:「バイグリカン、一酸化窒素により制御された遺伝子はメサンギウム細胞の接着、成長及び生存に作用する(Biglycan,a Nitric Oxide−regulated Gene,Affects Adhesion,Growth,and Survival of Mesangial Cells.)」J.Biol.Chem.278,26227〜26237(2003)]。NOは、その血管拡張性、抗酸化性、抗血小板性及び抗好中球の作用を介する重要な心臓保護分子であり、NOは、正常な心臓機能のために必須である[Ferdinandy,P.and Schulz,R.:「心筋虚血−再かん流障害及びプレコンディショニングにおける一酸化窒素、超酸化物及びペルオキシ亜硝酸(Nitric oxide,superoxide,and peroxynitrite in myocardial ischaemia−reperfusion injury and preconditioning.)」Br.J.Pharmacol.138,532〜543(2003)]。NOは、3種のNOシンターゼ(NOS):神経型(nNOS)、誘導型(iNOS)及び内皮型(eNOS)のイソ型の群により、インビボで産生される。3種のNOSイソ型のすべては、ヒトの心臓において見出される。構成的に発現されるNOSのイソ型(nNOS及びeNOS)とは異なり、iNOSは、主に転写レベルにおいて制御される。普通、検出可能なiNOSの発現は、いずれの細胞型においても、あったとしてもわずかである。しかし、実質的にすべての有核細胞型において、炎症性サイトカイン又はエンドトキシンに反応して、iNOSのmRNA及びタンパク質の強い上方制御がある[Nathan,C:「誘導型一酸化窒素シンターゼ:何が違うのか?(Inducible nitric oxide synthase:What difference does it make?)」J.Clin.Invest100,2417〜2423(1997)]。
【0011】
iNOSの発現の誘導は、iNOSプロモーター内の特異的配列要素に直接結合できる、IFN制御因子−1及びNF−κBなどのサイトカイン誘導性転写因子によって媒介される[Kamijo R,Harada H,Matsujama T,Bosland M,Gerecitano J,Shapiro D,Le J,Koh SI and others:「マクロファージ内のNOシンターゼの誘導における転写因子IRF−1の必要条件(Requirement for transcription factor IRF−1 in NO synthase induction in macrophages.)」Science 263,1612〜1615(1994);Xie,Q.W.,Cho,H.,Kashiwabara,Y.,Baum,M.,Weidner,J.R.,Elliston,K.,Mumford,R.,and Nathan,C:「誘導型一酸化窒素シンターゼのカルボキシル末端。NADPHの結合及び酵素活性に対する寄与(Carboxyl terminus of inducible nitric oxide synthase.Contribution to NADPH binding and enzymatic activity.)」J.Biol.Chem.269,28500〜28505(1994)]。
【0012】
eNOS及びnNOSによるNOの産生は、脈動的であり、カルシウム依存性であるが(カルシウム/カルモジュリン複合体がNOSの活性化に必要である)、一方、iNOSによるNOの産生は、継続的であり、カルシウム非依存性である[Blatter,L.A.,Taha,Z.,Mesaros,S.,Shacklock,P.S.,Wier,W.G.,and Malinski,T.:「ブラジキニンにより刺激された血管内皮細胞における、Ca2+及び一酸化窒素の同時測定(Simultaneous Measurements of Ca2+ and Nitric Oxide in Bradykinin−Stimulated Vascular Endothelial Cells.)」Circ Res 76,922〜924(1995)]。近年、バイグリカンが、マクロファージ内のp38、ERK及びNF−κBを介して、TNF−α及びマクロファージ炎症性タンパク質−2(MIP−2)を活性化する、前炎症性タンパク質として作用することが示された[Schaefer,L.,Babelova,A.,Kiss,E.,Hausser,H.J.,Baliova,M.,Krzyzankova,M.,Marsche,G.,Young,M.F.and others:「基質成分であるバイグリカンは、前炎症性であり、マクロファージ内のトール様受容体4及び2を介してシグナル伝達する(The matrix component biglycan is proinflammatory and signals through Toll−like receptors 4 and 2 in macrophages.)」J.Clin.Invest.115,2223〜2233(2005)]。
【0013】
本発明者らの目的は、細胞間シグナル伝達、特に血管及び心臓におけるNO媒介性機序に関するバイグリカンの役割を研究することであった。
【0014】
この記述のいくつかの他の部分において、「バイグリカン」という用語は広い意味で使用されることをここに強調すべきであり、「用語の定義」の部分を参照されたい。
【0015】
虚血性心疾患及び心臓保護:脂質異常症の役割
虚血性心疾患は、先進工業国において死亡の主因である。この病態の治療は、心筋の虚血領域に血流を迅速に戻すことができる手法、すなわち再かん流療法により、死亡率をおよそ半分にできる新しい時代に入っている。
【0016】
しかし、再かん流は、心収縮機能の低下(スタニング)及び不整脈などのさらなる合併症をもたらし得る。さらに、不可逆的細胞損傷がネクローシスをもたらし、アポトーシスは再かん流によって促進され得るという実験的証拠がある。したがって、心筋機能の改善、不整脈の発生の低減、ネクローシス発生の遅延及び虚血再かん流期間中の総梗塞範囲の制限のために、抗虚血性(抗虚血作用は、抗虚血治療が虚血/再かん流の損傷に対して心臓組織を保護する場合、心臓保護と称される)の薬剤を開発することが、臨床的に非常に重要である。
【0017】
虚血/再かん流による損傷の結果を軽減するための初期の薬理学的研究は、実験的有効性に限定されていた、又は有用な臨床治療に結びつけることができなかった。しかし最近になって、心臓は、虚血/再かん流のステレスに対して順応する、並みはずれた能力を保有することが示され、虚血/再かん流における心臓のこの分子の可塑性が、基本的機序が治療的開発を受け入れ得るという希望において、熱い調査の焦点となっている。虚血プレコンディショニングは、虚血が短時間発生することにより、続いて起こる虚血性損傷に耐える心臓の能力が著しく増強するという、よく知られた適応反応である[総説:Przyklenk K,Kloner RA.「虚血プレコンディショニンング:パラドックスの探索(Ischemic preconditioning:exploring the paradox.)」Prog.Cardiovasc.Dis.40(6):517〜47(1998)を参照されたい]。
【0018】
さらに、長期間の虚血の後に短い周期で虚血/再かん流を適用することは、心筋の虚血/再かん流の結果に対する心臓保護である、虚血ポストコンディショニングと呼ばれる現象をさらにもたらす。内因性抗虚血性心臓保護の機序のこれら2つの主要な形態の発見は、虚血/再かん流された心筋を保護するための新しい方法の開発を推進し、損傷の分子基盤及び虚血/再かん流期間の生存に関する本発明者らの知見を広げた。[総説:Baxter GF,Ferdinandy P.「心筋のプレコンディショニングの遅延:最新展望(Delayed preconditioning of myocardium:current perspectives.)」Basic Res.Cardiol.96:329〜44(2001)を参照されたい]。心臓が虚血性ストレスに順応できる機序は、かなり複雑であるが、一酸化窒素(NO)が、重要な役割を持っていると思われる[総説:Ferdinandy P,Schulz R.「心筋の虚血−再かん流による損傷及びプレコンディショニングにおける一酸化窒素、超酸化物及びペルオキシ亜硝酸(Nitric oxide,superoxide,and peroxynitrite in myocardial ischemia−reperfusion injury and preconditioning.)」Br.J.Pharmacol.138:532〜543(2003)を参照されたい]。
【0019】
ヒトにおける虚血性心疾患は、他の全身性疾患及び病態により起こる、又はそれに伴う複合疾患であるが、心臓保護に関する大部分の実験的研究は、他の疾患過程及び心臓血管疾患の危険因子が存在しない状態で虚血/再かん流が与えられた、幼若動物モデルにおいて始められていた。虚血性心疾患はいくつかの病因危険因子の結果として発生し、常に他の疾患状態と共存している。これらは、全身性動脈性高血圧及び関連する左心室肥大、脂質異常症及びアテローム性動脈硬化、糖尿病及びインスリン耐性、心不全及び老化を含む。これらの全身性疾患及び老化は、心臓に、虚血/再かん流による損傷それ自体の発生に潜在的に影響を及ぼし得る複数の生化学的作用を発揮し、抗虚血性心臓保護の介入に対する反応を妨げる。
【0020】
したがって、本発明者らは、同様にヒトにおいて脂質異常症が、プレコンディショニング作用の喪失をもたらすことを示している[Ungi I Ungi T.,Ruzsa Z.,Nagy E.,Zimmermann Z.,Csont T.,Ferdinandy P.「高コレステロール症が、冠静脈血管形成術の間のプレコンディショニングの抗虚血作用を低減させる(Hypercholesterolemia attenuates the ischemic effect of preconditioning during coronary angioplasty.)」Chest 128:1623〜1628(2005)]。したがって、虚血心臓を保護するための合理的治療法の開発は、心臓保護、具体的に複合疾患状態及び脂質異常症などの危険因子に関して検査する、前臨床試験を必要とする。脂質異常症がストレス適応機序の心臓保護作用に干渉する機序は、ペルオキシ亜硝酸を含む遊離のラジカルの形成が増加することによる、NO依存性経路の崩壊を含む[総説:Ferdinandy P.,Szilvassy Z.,Baxter GF.「疾患状態における心筋ストレスに対する適応は、健康な心臓現象をプレコンディショニングするか?(Adaptation to myocaridial stress in disease states:is preconditioning a healthy heart phenomenon?)」Trends Pharmacol.Sci.19:223〜9(1998);Ferdinandy P.「心筋の虚血/再かん流による損傷及びプレコンディショニング:高コレステロール血症/脂質異常症の作用(Myocaridial ischaemia/reperfusion injury and preconditioning:effects of hypercholesterolaemia/hyperlipidaemia.)」Br.J.Pharmacol.138:283〜5(2003);Ferdinandy P,Schulz R,Baxter GF.「心臓血管の危険因子と心筋の虚血/再かん流による損傷、プレコンディショニング及びポストコンディショニングとの相互作用(Interaction of cardiovascular risk factors with myocaridial ischemia/reperfusion injury,preconditioning and postconditioning.)」Pharmacol Rev 59:418〜458(2007);及び上記を参照されたい]。
【0021】
本発明者らは、以前に、脂質異常症がペルオキシ亜硝酸の形成の促進及び左心室拡張終期圧の上昇を特徴とする軽い収縮不全をもたらすことを示した[Onody A.,Csonka C,Giricz Z.,Ferdinandy P.「ラットの心臓において、コレステロールに富んだ食事により誘導される脂質異常症は、ペルオキシ亜硝酸形成の促進をもたらす(Hyperlipidemia induced by a cholesterol−rich diet leads to enhanced peroxynitrite formation in rat hearts.)」Cardiovasc.Res.58:663〜70(2003)]。Ahmed他は、心不全のラットの左及び右両方の心室の非虚血組織における心筋のバイグリカンmRNAレベルが、偽手術されたラットと比較して、ラットの心筋梗塞モデルにおいて実質的に上昇したことを示した。彼らは、バイグリカンの発現は心筋梗塞後の虚血性心不全に関連することを提唱し、バイグリカン遺伝子の発現の薬理学的阻害が有益な作用を有することを推進した[Ahmed MS.,Oie E.,Vinge LE.,Yndestad A.,Andersen G.GO.,Andersson Y.,Attramadal T.,Attramadal H.:「ラットの心不全における心筋のバイグリカンの誘導−AT(1)受容体の拮抗作用により標的とされる細胞外基質成分(Induction of myocardial biglycan in heart failure in rats − an extracellular matrix component targeted by AT(1)receptor antagonism.)」Cardiovasc.Res.60:557〜568(2003)]。
【0022】
別の研究は、心筋梗塞後のバイグリカンの発現の増加は、治癒過程の間の心臓の線維症に関連することを提唱したが、バイグリカンと心臓保護の関係は示唆されなかった。さらに、この研究において、バイグリカンの発現の増加が梗塞後心収縮機能障害に関係し得る[Yamamoto,K.,Kusachi,S.,Ninomiya,Y.,Murakami,M.,Doi,M.,Takeda,K.,Shinji,T.,Higashi,T.and others:「ラットに実験的に誘導された心筋梗塞の後の梗塞領域において、I型コラーゲンmRNAと密接な共局在化発現を示す、バイグリカンmRNAの発現増加(Increase in the Expression of Biglycan mRNA Expression Co−localized Closely with that of Type I Collagen mRNA in the Infarct Zone After Experimentally−Induced Myocardial Infarction in Rats.)」J.Mol.Cell.Cardiol.30,1749〜1756(1998)]。
【0023】
ここで本発明者らは、これらの関連する先行技術に基づいて、当業者はバイグリカンのレベルの増加が急性心筋梗塞に関連する心機能障害を促進するはずである、すなわちこの障害において負の作用を発揮するはずである、という結論を導くべきであることを強調しようと思う。
【0024】
本発明の発明者らの目的は、アテローム性動脈硬化症及び心機能障害、特に、脂質異常症の存在下又は不在下の梗塞の大きさにより測定した、動脈硬化性プラークの形成及び虚血再かん流による損傷に関する、バイグリカンの作用をさらに研究することであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
驚いたことに、バイグリカン(「用語の定義」の部分を参照されたい)は、強力な抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血(例えば心臓保護)作用を示すことが見出された。さらに、本発明者らの実験によれば、これらの作用は脂質異常症の有無に依存しない。
【0026】
以下に記載した本発明者らの実験に基づき、本発明者らは、バイグリカンが心臓リモデリングにおいて重要な役割を有しており、心臓保護を媒介していることを見出した。さらに、結果に基づき、バイグリカンの添加により、低酸素/虚血及び再かん流/再酸素化により誘導される任意の損傷から、細胞が保護される又は治療されることが推測でき、これらの損傷の治療は、抗虚血治療という用語によって包含される。
【0027】
本発明者らの目的は、標的組織又は器官、好ましくは心臓において、特に、バイグリカンの局所レベルを上昇させること、及び/又はエンハンサーによりバイグリカンの特異的活性を上昇させることにより、バイグリカン活性を増強することである(「用語の定義」の部分を参照されたい)。これは、以下の方法:
a)標的組織又は器官においてバイグリカンの発現を上昇させること、
b)外来性バイグリカン遺伝子又はタンパク質を、
i)遺伝子療法:裸のDNAとしての、又はリポソーム中に取り込まれた、又はアデノウィルス、レトロウィルス若しくはバキュロウィルス中にパッケージングされた、組換えDNAの標的組織又は器官への送達、
ii)体細胞療法:バイグリカンタンパク質を過剰発現する筋芽細胞の導入、
iii)幹細胞療法:バイグリカンタンパク質を過剰発現する造血幹細胞又は胚幹(ES)細胞の導入、
iv)インビトロで哺乳動物細胞において産生された、又は哺乳動物組織(例えば、関節軟骨)から精製された組換えバイグリカンタンパク質の、標的組織又は器官への送達
によって標的組織又は器官に導入すること
の1つによって達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
したがって、本発明は、以下の主題に関する。
1.アテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば心臓)疾患の予防又は治療のための医薬組成物の調製における有効成分としてのバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用。
2.アテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば心臓)疾患の予防又は治療において有効成分として使用するためのバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサー。
3.アテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば心臓)疾患の予防又は治療における有効成分としてのバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用。
4.それを必要とする哺乳動物においてアテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば心臓)疾患を予防又は治療する方法であって、前記哺乳動物に有効量のバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーを有効成分として投与することを含む方法。
5.有効成分が、以下の群:バイグリカン、好ましくはデコリン、バイグリカンの誘導因子又は活性化因子、バイグリカンをコードする核酸を含む送達系、及びバイグリカンをコードする核酸(裸の核酸)から選択される、上記項目1から4のいずれかに記載の使用又は生成物又は方法。
6.有効成分が、内因性(天然)バイグリカンの過剰発現の活性化因子又は誘導因子である、上記項目5に記載の使用又は生成物又は方法。
7.内因性(天然)バイグリカンの過剰発現が、小型分子によって、好ましくはオリゴペプチド若しくはポリペプチド又はサリチル酸ナトリウム又はオキシステロール又はリゾ脂質によって活性化される、項目6に記載の使用又は生成物又は方法。
8.有効成分が、バイグリカンをコードする核酸を含む遺伝子送達系であり、前記遺伝子送達系が、好ましくは遺伝子又は細胞(体細胞及び幹細胞を含む)療法技術によるバイグリカンの組換え過剰発現を確実にする、上記項目5に記載の使用又は生成物又は方法。
9.有効成分が、バイパス手術、好ましくは冠動脈バイパス手術の場合、移植前にエクスビボで自家移植片に組み込まれている、上記項目1から8のいずれかに記載の使用又は生成物又は方法。
10.抗虚血性疾患が急性又は慢性の虚血性心疾患であり、心臓保護作用が脂質異常症の存在下又は不在下で発揮される、上記項目1から9のいずれかに記載の使用又は生成物又は方法。
11.急性又は慢性の虚血性心疾患が、以下の群:脂質異常症の存在下又は不在下における、急性心筋虚血、安定又は不安定狭心症、心筋梗塞、心不全、心臓手術により起こる心筋の虚血から選択される、上記項目10に記載の使用又は生成物又は方法。
12.抗アテローム性動脈硬化作用が、冠動脈硬化症、頸動脈硬化症、末梢動脈硬化症などの、任意の動脈硬化性プラークの形成と関連する疾患に対して発揮される、上記項目1から9のいずれかに記載の使用又は生成物又は方法。
【0029】
さらに本発明は、バイグリカンの活性を上昇させる、このようなバイグリカン活性のエンハンサーを特定できるスクリーニング方法に関する。したがって、本発明は以下のさらなる主題に関する。
13.抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血(例えば心臓保護)作用を発揮するバイグリカン活性のエンハンサーを特定する方法であって、
a)候補エンハンサーを基本細胞と、前記基本細胞におけるバイグリカンの発現に適した条件下で接触させ、
b)前記基本細胞における、バイグリカンの抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血(例えば心臓保護)作用に特異的な遺伝子又はタンパク質の発現レベル及び/又は活性を検出し、
c)検出された発現レベル及び/又は活性レベルを、
候補エンハンサーを用いずに基本細胞において得られた基準レベル、及び/又は
バイグリカンを過剰発現する他の細胞において得られた基準レベル
と比較し、
前記特異的遺伝子又はタンパク質のレベル又は活性が、基本細胞及び/又は過剰発現する他の細胞において規定された基準レベルと比較して増強されると、それぞれの候補エンハンサーが抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血(例えば心臓保護)作用を発揮するバイグリカン活性のエンハンサーである事実を示すものとみなされる
ことを特徴とする方法。
14.バイグリカンの発現が、好ましくはバイグリカンプロモーター−EGFP構築体の使用により、インビトロで検出される、項目13に記載の方法。
15.タンパク質レベルがステップb)において検出され、ステップc)の基準レベルがバイグリカンを過剰発現する細胞に由来する、項目13又は14に記載の方法。
16.バイグリカンの抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血(例えば心臓保護)作用に特異的な前記検出タンパク質が、以下の群:i−NOS、n−NOS、e−NOS、シナプタグミン、Mcl−1及びPyk2から選択される、項目15に記載の方法。
17.前記基準レベルがPanorama Ab Microarray Cell Signaling Kit(Sigma、CSAA1)により特定される、項目16に記載の方法。
【0030】
本発明の別の実施形態において、バイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーは、細胞培養液若しくは組織培養液、又は移植前の器官の保存に使用する溶液への補助剤として使用できる。いずれの細胞型もこれらの補助剤から恩恵を受け得る。したがって、本発明は、さらに以下の主題に関する。
18.バイグリカン好ましくはデコリン又はバイグリカン活性のエンハンサーを公知の助剤と共に含む、細胞培養液若しくは組織培養液、又は移植前の器官の保存に使用する溶液への補助剤。
19.バイグリカン活性のエンハンサーが、以下の群:バイグリカン発現の誘導因子又は活性化因子、バイグリカンをコードする核酸(遺伝子)を含む送達系及びバイグリカンをコードする核酸(裸の核酸)から選択される、項目187に記載の補助剤。
【0031】
「公知の助剤」という用語は、担体、添加剤、溶液、及び細胞培養液若しくは組織培養液、又は移植前の器官の保存に使用する溶液への補助剤の調製において一般的に用いられる他の公知の成分を包含する。
【0032】
(発明の詳細な説明)
上記の適用性は、好ましくはバイグリカンレベルの上昇から起こる、バイグリカン活性の上昇は、冠動脈硬化症、頸動脈硬化症、末梢動脈硬化症などの任意の動脈硬化性プラークの形成と関連するアテローム性動脈硬化症において、並びに虚血性疾患、例えば、急性虚血性心疾患、例えば、急性の心筋虚血及び/又は不安定狭心症及び/又は心筋梗塞、及び/又は心筋の虚血を伴う心臓手術の手法などの心疾患において強力な予防作用及び/又は治療作用を有することを証明する、本発明者らの実験結果に基づく。さらに、心臓保護作用は、梗塞の大きさの縮小、梗塞後の心筋機能及び/又は脂質異常症誘導性心機能障害の改善を包含する。上記の作用は、脂質異常症の存在下及び/又は不在下のどちらにおいても発生する。
【0033】
見出された抗虚血作用に基づいて、本発明は、虚血性ストレスに関連するいくつかの他の疾患(虚血性疾患)の場合、例えば、虚血性脳梗塞、虚血性の腎臓、肝臓、皮膚、骨格筋及び脳の損傷、並びに末梢血管障害において、有用性を有する。本発明は、バイグリカンが大部分の組織において遍在する分子であり、治療された動物又はヒトの全身において、その抗虚血作用を発揮するはずであるため、顕著な重要性を有する。
【0034】
(用語の定義)
本発明の定義及び考察(すなわち、説明及び一連の請求項において)において用いられる最も重要な用語を以下に定義する。他の用語は、当業者に公知の、それらの一般的意味に従って用いるべきである。
【0035】
バイグリカン
バイグリカンは、小型ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)ファミリーのメンバーであり[ロイシンリッチリピート(LRR)タンパク質とも称される]、N末端のSer−Gly部位で2つのグルコサミノグリカン鎖で置換された、38kDaのコアタンパク質からなる。コアタンパク質は、両側にジスルフィド結合安定化ループが隣接する10個のロイシンリッチリピートを含む。コアタンパク質は、ロイシンリッチリピート内にグリコシル化のためのさらなる部位(N結合型グリコシル化部位)を含む。グルコサミノグリカンの性質は、長さ及び構成の両方に関連して変化する。グルコサミノグリカン鎖の骨格は、N−アセチルガラクトサミン及びグルクロン酸の反復二糖類単位からなり、後者は多くの場合、炭素5におけるエピマー化を介して、イズロン酸に転換されている。鎖は伸長されているので、それらは、硫酸化によって修飾されそれぞれコンドロイチン硫酸及びデルマタン硫酸がもたらされる。エピマー化及び硫酸化の度合いは、組織間で変化する。単独のグルコサミノグリカンにより置換されたバイグリカンのイソ型もまた存在する(http://www.cmb.lu.se/ctb/html/Biglycan.htm)。
【0036】
上の定義によりもたらされるように、「バイグリカン」という用語は、ヒトの場合においても同様の化合物のファミリーを包含する[ヒトバイグリカンは、例えば、Fischer et al.「骨由来小型プロテオグリカン(bone small proteoglycan)」J.Biol.Chem.264:4571(1989);GenBank受託番号J04599に記載されている]。当然のことながら、同様の化合物は、他の動物にも見出すことができる。
【0037】
さらに「バイグリカン」という用語は、米国特許出願第20050059580号において用いられたバイグリカンの定義と一致して、類似体、誘導体及び上記の化合物の一部を包含することを意図する。以下の部分に、この文献のバイグリカンの総合的な議論の最も重要な部分を引用する(明細書の段落000054を参照されたい)が、この文献の全体を、参照として本明細書に組み込むことを、本発明者らはここに強調する。例えば、このようなバイグリカン類似体の好ましい例は、プロテオグリカンII(デコリン)である。
【0038】
「バイグリカン」という用語は、さらに、ヒト又は他の動物に由来するバイグリカンの、少なくとも1つの生物活性を有するプロテオグリカンを指す。好ましいバイグリカンは、TorpedoDAG−125(米国特許出願第20050059580号における配列番号1〜3を含む)、ヒトバイグリカン並びにそれらのホモログを含む。好ましいホモログは、少なくとも約70%の同一性、少なくとも約75%の同一性、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約85%の同一性、少なくとも約90%の同一性、少なくとも約95%の同一性、及びさらにより好ましくは、少なくとも約98又は99%の同一性を有する、プロテオグリカン又はタンパク質又はペプチドである。さらにより好ましいホモログは、ヒトバイグリカン又はTorpedoDAG−125と、特定のパーセントの相同性(又は同一性)を有し、これらのプロテオグリカンの少なくとも1つの生物活性を有するものである。バイグリカンという用語は、完全長バイグリカンに限定されるものではなく、バイグリカンの少なくとも1つの活性を有する部分もまた含む。
【0039】
ここで用いる「バイグリカン」という用語は、上記のすべての変形を含む。
【0040】
バイグリカン活性のエンハンサー
所望の活性の増加は、バイグリカンの使用によって、又は以下の群:
−バイグリカンの発現の誘導因子又は活性化因子、
−バイグリカンをコードする核酸(遺伝子)を含む送達系、及び
−バイグリカンをコードする核酸(裸の遺伝子)
から選択され得るバイグリカン活性のエンハンサーによって達成され得る。
【0041】
バイグリカンの発現の誘導因子又は活性化因子
これらの用語は、
a)バイグリカン、好ましくは内因性(天然)バイグリカンの発現の誘導によってバイグリカンの発現を増加させる(これらの物質を本明細書において「誘導因子」又は「バイグリカンの誘導因子」と称する)、又は
b)バイグリカン、好ましくは内因性(天然)バイグリカンの特異的活性を増加させる(これらの物質を本明細書において「活性化因子」又は「バイグリカンの活性化因子」と称する)
ことにより、標的組織又は器官においてバイグリカンの活性を増強させるような物質に関する。
【0042】
「バイグリカンの内因性(天然)発現」という用語は、疾患を治療又は予防すべきヒト又は動物の身体の自然機能である、バイグリカンのこのような発現に関する。
【0043】
バイグリカンの誘導因子
誘導因子は、例えば、
i)サリチル酸ナトリウムなどの無機化合物、オリゴペプチド又はポリペプチドなどの小型有機分子、分子量5kD未満を有する遺伝子又はタンパク質など、
ii)形質転換成長因子β(TGF−β)などのサイトカイン及び
iii)補助因子、すなわち、正常な又は増強されたバイグリカン活性に必要な、内在性の小型分子又はペプチドであり得る。
【0044】
好ましい実施形態において、バイグリカン産生のための誘導因子は様々な成長因子であり得、当分野において公知の小型分子、例えば形質転換成長因子−β(TGF−β)[Ungefroren H,Groth S,Ruhnke M,Kalthoff H,Fandrich F.「GADD45β遺伝子の形質転換成長因子−β(TGF−β)I型受容体/ALK5依存性活性化は、TGF−βによるバイグリカン発現の誘導を媒介する(Transforming growth factor−beta(TGF−beta)type I receptor/ALK5−dependent activation of the GADD45beta gene mediates the induction of biglycan expression by TGF−beta)」J.Biol Chem.280:2644〜52(2005);Kaji,T.,Yamada,A.,Miyajima,S.,Yamamoto,C,Fujiwara,Y.,Wight,T.N.,and Kinsella,M.G.:「形質転換成長因子−β1による、培養ウシ大動脈内皮細胞における、プロテオグリカン合成の細胞密度依存的制御(Cell Density−dependent Regulation of Proteoglycan Synthesis by Transforming Growth Factor−beta 1 in Cultured Bovine Aortic Endothelial Cells.)」J.Biol.Chem.275,1463〜1470(2000)]、オキシステロール(例えば、7−ケトコレステロール及び7−β−ヒドロキシコレステロール)及びリゾ脂質(例えば、リゾホスファチジルコリン及びリゾホスファチジン酸)[Chang MY,Tsoi C,Wight TN,Chait A.「リゾホスファチジルコリンは、バイグリカン及びマクロファージコロニー刺激因子のプロテオグリカン型の合成を制御する(Lysophosphatidylcholine regulates synthesis of biglycan and the proteoglycan form of macrophage colony stimulating factor.)」Arterioscler Thromb Vasc Biol.23:809〜15(2003)]並びにサリチル酸塩、好ましくはNa−サリチル酸[Silva AM,Reis LF.「サリチル酸ナトリウムは、イムノフィリンFKBP51及びバイグリカン遺伝子の発現を誘導し、p34cdc2 mRNAをインビトロ及びインビボの両方において阻害する(Sodium salicylate induces the expression of the immunophilin FKBP51 and biglycan genes and inhibits p34cdc2 mRNA both in vitro and in vivo.)」Biol Chem.275(46):36388〜93(Nov 17,2000)]が、バイグリカンを誘導することが示されている。
【0045】
一般的用語において、誘導因子は、無機化合物、又はタンパク質、核酸(遺伝子)、ペプチド(オリゴペプチド及びポリペプチド)、ペプチド模倣薬、炭水化物若しくは脂質のような有機化合物であり得る。このような化合物を含む化学ライブラリーは、公知のスクリーニング技術(例えば、ハイスループット分析)により、又は本発明によるインビトロのスクリーニング方法により、バイグリカン発現の誘導因子を特定するためにスクリーニングされ得る。
【0046】
好ましくは、誘導因子は「小型」有機分子、すなわち、5kD未満、好ましくは4kD、より好ましくは3kDの分子量を有する分子である。
【0047】
バイグリカンの活性化因子
バイグリカンの活性化因子は、例えば、不活性のバイグリカンから活性バイグリカンの形成を増強する、又は任意の他の方法によりバイグリカンの活性を増強する物質であり得る。例えば、バイグリカンの特定の実施形態がバイグリカンのコアタンパク質である場合、翻訳後グリコシル化により活性化され得る。
【0048】
一般的用語において、活性化因子は、無機化合物、又はタンパク質、核酸(遺伝子)、ペプチド(例えば、オリゴペプチド及びポリペプチド)、ペプチド模倣薬、炭水化物若しくは脂質のような有機化合物であり得る。このような化合物を含む化学ライブラリーは、公知のスクリーニング技術(例えば、ハイスループット分析)により、又は本発明によるスクリーニング方法により、バイグリカン活性のエンハンサーを特定するためにスクリーニングされ得る。
【0049】
好ましくは、誘導因子は「小型」有機分子、すなわち、5kD未満、好ましくは4kD、より好ましくは3kDの分子量を有する分子である。
【0050】
標的器官又は組織
「標的器官又は組織」という用語は、疾患が予防又は治療されるべきヒト又は動物の身体の一部に関し、例えば、心臓、腎臓、肝臓、骨格筋、皮膚、脳組織であり得る。心臓保護作用の場合、それは心臓内であり、好ましくは虚血性発作が起こる可能性のある又は発生した心臓の部分又はそれらの隣接部などである。抗アテローム性動脈硬化作用の場合、それは動脈硬化性プラークの形成が起こる可能性のある又は発生した、ヒト又は動物の身体の部分又はそれらの隣接部である。
【0051】
組換えDNA
組換えDNAは、組換え技術により作製されたDNAなどを意味する。それは、天然遺伝子が組換え技術により作製された場合、この語句が、それもまた包含することを意味する。
【0052】
組換えタンパク質/バイグリカン
組換えタンパク質/バイグリカンは、組換え技術により作製された遺伝子から発現されたタンパク質/バイグリカンなどを意味する。それは、天然タンパク質/バイグリカンが組換え技術により作製された天然遺伝子から発現した場合、この語句が、それもまた包含することを意味する。
【0053】
遺伝子療法
この用語は、外来性のバイグリカン遺伝子又はタンパク質を、標的組織又は器官へ導入するために適用できる方法の第1のグループを包含する。
【0054】
この語句は、バイグリカンをコードする組換え遺伝子の、バイグリカンをコードする遺伝子を含む送達系(すなわち、組換えベクター若しくはリポソーム内、又はウィルス中にパックされた)又はさらに裸の遺伝子形態のどちらかによる、標的組織への任意の送達を包含する。
【0055】
遺伝子療法の好ましい実施形態は、標的組織又は器官における組換えバイグリカンの発現である。この実施形態は疾患を治療又は疾患から予防されるべき、ヒト又は動物の身体の自然の機能ではない、バイグリカンの発現などに関する。適用できる方法は、米国特許出願第20050059580号に詳述されている。以下の部分に、この方法の総合的な議論の最も重要な部分を引用する(明細書の段落0079から0081を参照されたい)が、この文献の全体を、参照として本明細書に組み込むことを、本発明者らはここに強調する。
【0056】
本明細書中で使用する場合、「形質移入」という用語は、核酸、例えば発現ベクターを受容細胞中に核酸媒介遺伝子導入によって導入することを意味する。「形質導入」という用語は、核酸の形質移入が、核酸のウィルス送達による場合に本明細書中において一般的に使用される。本明細書中で使用する場合、「形質転換」は、細胞の表現型が、外来性DNA又はRNAの細胞内への取り込みの結果として改変される操作を指し、例えば、形質転換細胞は、ポリペプチドの組換え型を発現し、又は、転写された遺伝子からのアンチセンス発現の場合、組換えタンパク質の自然発生型の発現は崩壊する。
【0057】
本明細書中で使用する場合、「トランス遺伝子」という用語は、細胞に導入された核酸配列を指す。トランス遺伝子が導入された細胞に由来する子細胞もまたトランス遺伝子を含むと言われている(欠失されない限り)。トランス遺伝子は、例えば、部分的又は全体に非相同な、すなわち、導入されたトランスジェニック動物又は細胞に対して外来である又は導入されたトランスジェニック動物又は細胞の内在性遺伝子に対して相同であるが、挿入されるように設計された、又は挿入された細胞のゲノムを改変するような方法で動物のゲノムに挿入された(例えば、天然の遺伝子の位置とは異なる位置に挿入された)ポリペプチドをコードできる。或いは、トランス遺伝子は、エピソームにおいても存在できる。トランス遺伝子は、1つ又は複数の転写制御配列及び任意の他の核酸(例えば、イントロン)を含むことができ、それは選択されたコード配列の最適な発現にとって必要と思われる。
【0058】
本明細書中で使用する場合、「ベクター」という用語は、連結される別の核酸分子に運搬できる核酸分子を指す。好ましいベクターの1つは、エピソーム、すなわち、染色体外複製ができる核酸である。好ましいベクターは、自己複製及び/又は連結された核酸の発現が可能なベクターである。動作可能に連結された遺伝子の発現を誘導することができるベクターは、本明細書中において「発現ベクター」と称される。一般的に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、多くの場合、ベクターの形態では染色体と結合しない、環状二本鎖DNAループを一般的に指す「プラスミド」の形態である。本明細書において、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も普通に使用される形態であるので、互換的に使用される。しかし、本発明は、同等の機能を果たし、今後当分野で公知となるような、発現ベクターの他の形態も包含することを意図する。
【0059】
本発明のプロテオグリカンをコードする遺伝子は、構成的プロモーター又は誘導プロモーターの調節下であり得る。これらの分子生物学的用語は、当分野において周知である。
【0060】
米国特許出願第20050059580号に開示された、いくつかの他の遺伝子療法技術もまた適用でき、例えばレトロウィルスに基づくベクター、アデノウィルスに基づくベクター(特に、明細書の段落0132から0139を参照されたい)を参照されたい。
【0061】
さらに、非ウィルス的方法を用い、ヒト又は動物の組織においてタンパク質の発現を起こすことに使用することもまた可能である。適用できる方法は、米国特許出願第20050059580号に詳述されている。以下の部分に、この方法の総合的な議論の最も重要な部分を引用する(明細書の段落0140から0145を参照されたい)が、この文献の全体を、参照として本明細書に組み込むことを、本発明者らはここに強調する。
【0062】
遺伝子移入の大部分の非ウィルス的方法は、巨大分子の取り込み及び細胞内輸送のための哺乳動物細胞により使用される正常な機序を利用する。好ましい実施形態において、本発明の非ウィルス的遺伝子送達系は、標的細胞による遺伝子の取り込みのためのエンドサイトーシス経路に頼っている。この型の例示的遺伝子送達系は、リポソームに由来する系、ポリリシン接合体及び人工ウィルスエンベロープを含む。
【0063】
代表的実施形態において、対象となるタンパク質をコードする遺伝子は、それらの表面に正の電荷を担持し(例えば、リポフェクチン)、(場合により)標的組織の細胞表面抗原に対する抗体で標識された、リポソームに封入できる。(Mizuno et al.,(1992)No Shinkei Geka 20:547〜551;PCT公報WO91/06309;特願平1047381;及び欧州特許公報EP−A−43075)。例えば、筋肉、神経及び心臓の細胞のリポフェクチンは、特定の組織関連抗原に対するモノクロナール抗体で標識されたリポソームを使用して実施できる(Mizuno et al.,(1992)Neurol.Med.Chir.32:873〜876)。
【0064】
さらに別の例示的実施形態において、遺伝子送達系は、抗体又はポリリシンなどの遺伝子結合剤と架橋する細胞表面リガンドを含む(例えば、PCT公報WO93/04701、WO92/22635、WO92/20316、WO92/19749及びWO92/06180を参照されたい)。例えば、任意の対象遺伝子構築体は、ポリカチオン、例えばポリリシンに接合された抗体を含む、可溶性ポリヌクレオチド担体を使用して、インビボで特定の細胞に形質移入するために使用できる(米国特許第5,166,320号を参照されたい)。対象核酸構築体の、エンドサイトーシスによって媒介された有効な送達は、エンドソーム構造からの遺伝子の脱出を増強する薬剤を使用して改善され得ることがさらに理解されるであろう。例えば、アデノウィルス全体又はインフルエンザHA遺伝子産物の融合ペプチドは、DNA含有エンドソームの効果的な崩壊を誘導するための送達系の一部として使用できる(Mulligan et al.,(1993)Science 260〜926;Wagner et al.,(1992)PNAS USA 89:7934;及びChristiano et al.,(1993)PNAS USA 90:2122)。
【0065】
バイグリカンタンパク質をコードする核酸は、例えば、Carson他による米国特許第5,679,647号及び関連特許、WO90/11092及びFelgner et al.(1990)Science 247:1465に記載されたように、「裸」のDNAとして対象に投与することもできる。
【0066】
臨床背景において、遺伝子送達系は、いくつかの方法のいずれかによって患者に導入され得、これらの方法はそれぞれ当分野において良く知られている。例えば、遺伝子送達系の医薬製剤は、例えば、静脈注射によって全身的に導入でき、標的細胞における構築体の特定の形質導入は、遺伝子送達媒体により提供される形質移入の特異性、遺伝子の発現を調節する転写制御配列による細胞型発現又は組織型発現又はそれらの組合せから主に起こる。他の実施形態において、組換え遺伝子の初期送達はより限定されており、動物への導入は非常に局所的である。例えば、遺伝子送達媒体は、カテーテル(米国特許第5,328,470を参照されたい)又は定位注射(例えばChen et al.,(1994)PNAS USA 91:3054〜3057)によって導入され得る。
【0067】
臨床背景において、組換えバイグリカンは、経皮冠動脈インターベンションの際の急性心筋梗塞において、冠動脈カテーテルによって冠動脈に導入できる。
【0068】
カテーテルによって組換え遺伝子が導入される場合、それは経皮冠動脈インターベンションの際に冠動脈を対象とし得る。
【0069】
体細胞療法
この用語は、外来性のバイグリカン遺伝子又はタンパク質を、標的組織又は器官へ導入するために適用できる方法の第2のグループを包含する。
【0070】
好ましい実施形態において、心臓細胞を発現する活性組換えバイグリカンの産生及びそれらの心臓組織への導入は、以下の方法により実施できる。
i)16日齢の胚に由来する心臓細胞は、単離し、細胞培養液において維持できる。培養した心臓細胞は、バイグリカンタンパク質をコードする組換えDNAを用いて形質転換できる。形質転換の効率は非常に高く(最大80%)、したがって、その後の選択は必要なく、形質転換させた細胞は、心臓組織に容易に再導入できる。
ii)胚幹細胞の使用:様々な哺乳動物の胚盤胞から胚幹細胞(ES)を単離するための、十分確立された方法がある。ES細胞由来のこれらの胚盤胞は、培養液において維持でき、様々な組換えDNA構築体を用いて、エレクトロポレーションにより形質転換できる。適切な条件下で、形質転換細胞は、インビトロで筋芽細胞に分化できる。[Sachinidis A,Fleischmann BK,Kolossov E,Wartenberg M,Sauer H,Hescheler J.「マウス胚幹細胞の心臓特異的分化(Cardiac specific differentiation of mouse embryonic stem cells.)」Cardiovasc Res.,58:278〜91(2003);Guo XM,Wang CY,Tian XC,Yang X.「胚幹細胞由来の人工心臓組織(Engineering cardiac tissue from embryonic stem cells.)」Methods Enzymol.;420:316〜38(2006)]。その後、バイグリカンタンパク質を過剰発現するこれらの形質転換筋芽細胞を、心筋又は冠動脈に再導入できる。
【0071】
幹細胞療法
この用語は、以下の方法の1つを使用して、外来性のバイグリカン遺伝子又はタンパク質を、標的組織又は器官へ導入するために適用できる方法の第3のグループを包含する。
【0072】
胚幹細胞の使用:様々な哺乳動物の胚盤胞から胚幹細胞(ES)を単離するための、十分確立された方法がある。ES細胞由来のこれらの胚盤胞は、培養液において維持でき、様々な組換えDNA構築体を用いて、エレクトロポレーションにより形質転換できる。形質転換細胞は、適切な抗生物質溶液中で選択し、クローン化できる。バイグリカンタンパク質を過剰発現するクローン化されたES細胞は、心筋又は冠動脈に導入できる。ES細胞を産生するバイグリカンの分化は、インサイツで、心臓において、様々な成長因子により起こるであろう。
【0073】
造血幹細胞の使用:造血幹細胞は骨髄から単離でき、インビトロで標準的方法を使用して維持でき、組換えバイグリカン構築体を用いて形質転換できる。バイグリカンタンパク質を過剰発現する形質転換造血幹細胞は静脈に注射でき、その場所で、損傷した心臓細胞から放出される様々な成長因子により引き付けられ、心臓に向かって移行を始める。バイグリカンが、蛍光性分子で標識された、又はEGFP若しくはDsRedなどの蛍光タンパク質に結合された場合、造血幹細胞を産生するバイグリカンの蓄積及び分化は、それらの蛍光発光に基づいて観察できる。
【0074】
組換え又は天然の精製バイグリカンタンパク質の送達
この用語は、外来性のバイグリカン遺伝子又はタンパク質を、標的組織又は器官へ導入するために適用できる方法の第4のグループを包含する。
【0075】
したがって、好ましい実施形態において、組換えDNA技術により哺乳動物細胞において産生された、又は哺乳動物の軟骨から精製されたバイグリカンタンパク質は、標的器官の血管系に注射できる。例えば、皮下注射又は埋め込みによる他の投与経路もまた適用できる。
【0076】
哺乳動物細胞において、バイグリカンは翻訳後の修飾を受け、2つのクロンドロイチン/デルマタン硫酸グルコサミノグリカン鎖がコアタンパク質に付加する。組換えバイグリカンタンパク質は、CMV−バイグリカン組換えDNA構築体を形質移入し、その後G418において選択した後、筋芽細胞培養液(すなわちH9C2)において産生され得る。6×His−標識バイグリカンタンパク質は、Ni−NTA樹脂を用いて、筋芽細胞から迅速に精製できる[Crowe J,Masone BS,Ribbe J..「6×His標識及びNi−NTA樹脂を用いた組換えタンパク質のワンステップ精製(One−step purification of recombinant proteins with the 6xHis tag and Ni−NTA resin.)」Mol Biotechnol.1995.Dec;4(3):247〜58].
【0077】
天然バイグリカンタンパク質は、様々な哺乳動物種の軟骨細胞から、他の場所[Pogany G,Hernandez DJ,Vogel KG.「プロテオグリカンとI型コラーゲンとのインビトロの相互作用は、リン酸塩により調節される(The in vitro interaction of proteoglycans with type I collagen is modulated by phosphate.)」Arch Biochem Biophys.1994 Aug 15;313(1):102〜11;Schonherr E,Witsch−Prehm P,Harrach B,Robenek H,Rauterberg J,Kresse H.「バイグリカンとI型コラーゲンの相互作用(Interaction of biglycan with type I collagen.)」J Biol Chem.1995 Feb 10;270(6):2776〜83.;Roughley PJ,Melching LI,Recklies AD.「ヒトの関節の軟骨におけるデコリン及びバイグリカンの発現の、年齢及びTGF−βによる制御に伴う変化(Changes in the expression of decorin and biglycan in human articular cartilage with age and regulation by TGF−beta.)」Matrix Biol.1994 Jan;14(1):51〜9.]に記載された上記の方法を使用して、精製できる。
【0078】
他の好ましい実施形態においてバイパス移植又は任意の静脈自己移植は、移植前に、上記の方法を用いてエクスビボで処理できる。
【0079】
スクリーニング方法
本発明は、バイグリカン活性のエンハンサーを特定できるスクリーニング方法もまた提供する。
【0080】
好ましい実施形態において、遺伝子又はタンパク質のこのようなレベルは、バイグリカンの抗アテローム性動脈硬化作用/心臓保護作用に特異的な前記基本細胞における特定のために適用される。この場合、検出された発現レベルは、候補分子を使用しない基本細胞において、又はバイグリカンを過剰発現する他の細胞において得られた特異的レベルと比較する。これらの特異的レベルは、それぞれ所望の抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は心臓保護作用を発揮するそれら候補を選択するために適している。
【0081】
「候補」という用語は、バイグリカンの活性を増加させるために適用できる任意の物質を包含し、特に、バイグリカン、バイグリカの発現の誘導因子又は活性化因子及び遺伝子療法のツールの定義の下に列挙された物質を参照されたい。
【0082】
i)好ましい実施形態における、バイグリカン発現の誘導因子:哺乳動物の細胞系(H9C2などの好ましい筋芽細胞培養液)が、バイグリカンプロモーターにより駆動されるレポーター遺伝子によって、安定に形質転換される、インビトロのレポーターアッセイに基づくスクリーニング方法。レポーター遺伝子は、EGFP、DsRed、ルシフェラーゼ又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの、容易に特定可能な任意の遺伝子であり得る。小型分子によるバイグリカン発現の誘導に際して、細胞は、緑(EGFP)又は赤(DsRed)の蛍光発光を放射するであろう。発光(ルシフェラーゼ)又は酵素活性の強化は、放射能(CAT)により定量的に測定できる。細胞のレポーターアッセイは、胎児性へモグロビンに関して前に記載したように、バイグリカンプロモーターの調節下で、大型のゲノム遺伝子座(エピソ−ム、人工染色体)にレポーター遺伝子を挿入することによって実施できる(ゲノムレポーターアッセイ、GRAと呼ばれる)。[Vadolas J,Wardan H,Orford M,Williamson R,loannou PA.「胎児性へモグロビンの誘導因子のスクリーニング及び評価のための細胞ゲノムレポーターアッセイ(Cellular genomic reporter assays for screening and evaluation of inducers of fetal hemoglobin.)」Hum Mol Genet.,13(2):223〜33(Jan 15,2004)]。相同的組換えによる、バイグリカンプロモーターの調節下での、内在性バイグリカン遺伝子座へのレポーター遺伝子の挿入は、さらなる選択肢である。
ii)バイグリカンの特異的活性のエンハンサー:これらのスクリーニング方法は、バイグリカンタンパク質と相互作用又は/及び結合でき、グリコシル化によって、又は分子内の構造変化により起こるかのどちらかでその活性が増強するタンパク質の特定に基づく。タンパク質−タンパク質相互作用は、伝統的な酵母ツーハイブリッド(two−hybrid)系により研究できる。別のハイスループット法は、タンパク質のチップの使用である。バイグリカンタンパク質を、ガラス表面に固定でき、薬剤処理した心臓細胞/筋芽細胞に由来する心臓細胞溶解物をチップに適用できる。その後に続く洗浄ステップの後で、バイグリカンに結合したタンパク質を特定できる。その後、精製タンパク質のエンハンサーの活性を、インビトロで、心臓細胞培養液において試験できる。
【0083】
細胞培養液又は保存溶液への補助剤
本発明は、細胞培養液又は組織培養液への、又は移植前の器官を保存するために使用できる溶液への補助剤もまた提供し、これはバイグリカン活性のエンハンサーを含む。
【0084】
補助剤に添加される化合物の量は、小規模な実験、例えば、細胞又は器官を本発明の特異的エンハンサーの増加量と共にインキュベートすることによって決定できる。好ましい細胞は、真核細胞、例えば筋肉細胞、神経細胞及び心臓細胞を含む。
【0085】
医薬組成物
本発明によれば、バイグリカン活性のエンハンサーは、医薬として許容し得る補助剤及び場合により、他の治療薬と共に適用できる。「許容し得る」という用語は、組成物の他の成分と相溶性であり、それらの受容者にとって有害でないことを意味する。
【0086】
前記医薬組成物は、例えば、任意の標準的参考文献、例えば、Gennaro et al.,Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.,Mack Publishing Company、1990、特にPart 8:Pharmaceutical Preparations and Their Manufactureを参照されたい)に記載されたような、薬学の従来の方法によって調製できる。医薬組成物の例は、錠剤、カプセル、ピル、小袋、溶液、懸濁液及び乳剤などの経口投与用の液体形態、一般に経口投与又は腸内投与用の放出制御形態、注射可能な形態などの非経口投与用の形態である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】QRT−PCRにより分析した、トランスジェニックマウス及び対照マウスの大動脈及び心臓におけるバイグリカンのmRNA発現を示した図である。 略語の意味: C:対照(野生型動物); Bg+/+:バイグリカン過剰発現
【図2】対照及びトランスジェニックの心臓試料における、iNOS、eNOS及びnNOS(パートA)、pyk2及びシナプトタグミン(パートB)のウェスタン分析を示した図である;発現は内在性マウスβ−アクチンのレベルに対して正規化した。 略語の意味: C:対照(野生型動物); β−act:βアクチン; Tg:トランスジェニック動物
【図3】試験動物における、血清コレステロールのレベルを示した図である。
【図4】様々な試験動物における、大動脈流の値を示した図である。
【図5】様々な試験動物における、心筋の超酸化物のレベルを示した図である。
【図6】様々な試験動物における、大動脈プラーク面積の値を示した図である。 図3から6における略語の意味: 対照:野生型動物; Chol:高コレステロール食を用いて処理した動物 ApoB:ApoBトランスジェニック動物
【図7】低酸素状態及び再酸素化に供された心筋細胞における、様々な濃度の外来性バイグリカンの細胞保護作用(抗虚血作用に基づく)を示した図である。
【図8】低酸素状態及び再酸素化に供された心筋細胞における、様々な濃度の、外来性バイグリカンコアタンパク質の細胞保護作用を示した図である。
【図9】低酸素状態及び再酸素化に供された心筋細胞における、様々な濃度の、外来性バイグリカン類似体であるデコリンの細胞保護作用を示した図である。 図7から9における略語の意味: BGN:バイグリカン; :p<0.05対低酸素の対照(LSDポストホックテスト後のANOVA;図8の場合、低酸素BGN−コア100nM群は、この群の中で変動が多かったので統計に含まなかった)。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0088】
本発明を、以下の実施例によりさらに例示する。
【0089】
(実施例1)
バイグリカントランスジェニック標本の作製及びバイグリカンによる、心臓における血管保護及び心臓保護の細胞内伝達経路の誘発
この研究において、本発明者らは、ヒトバイグリカン遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製した。トランスジェニック子孫の心臓タンパク質のプロフィールを、プロテオミクスを使用して調査した。
【0090】
トランスジェニック構築体は、CMVプロモーターに結合したヒトバイグリカンcDNAを含んだ。V5エピトープ及び6×His標識配列もまた、cDNAの3’末端に結合した。新生児は、PCRを使用して遺伝子型が同定され、PCR陽性トランスジェニックマウスの様々な組織(肝臓、脳、心臓及び筋肉)からのトランス遺伝子の発現を、定量的リアルタイムPCT(QRT−PCR)に基づき、Taqmanプローブを使用して試験した。(データ非掲載)。ヒトバイグリカンmRNAを最も高いレベルで発現するトランスジェニック系1052を、さらなる研究のために選択した。トランスジェニックマウス及び年齢の一致する対照マウスの大動脈及び心臓において、ヒトバイグリカンのmRNAレベルにおける発現を、QRT−PCRにより評価した(図1)。
【0091】
QRT−PCR及び抗体のアレイを使用して、本発明者らは、TGF−β1及びTGF−β2の遺伝子発現レベルの上昇(データ非掲載)並びにPyk2、RAF−1及びmcl−1のタンパク質レベルの上昇(表1)を検出した。バイグリカンは、TGF−βと高い親和性で結合する。TGF−βは、濃厚及び希薄な内皮細胞の両方におけるバイグリカンの合成を促進する[Kaji,T.,Yamada,A.,Miyajima,S.,Yamamoto,C,Fujiwara,Y.,Wight,T.N.,and Kinsella,M.G.:「培養ウシ大動脈内皮細胞における、形質転換成長因子−β1によるプロテオグリカン合成の細胞密度依存的制御(Cell Density−dependent Regulation of Proteoglycan Synthesis by Transforming Growth Factor−beta 1 in Cultured Bovine Aortic Endothelial Cells.)」J.Biol.Chem.275,1463〜1470(2000)]。近年、心筋のバイグリカンの誘発が、相互作用のこの平衡を変えることができ、心筋組織におけるTGF−βの活性を増強することが示された[Ahmed,M.S.,Oie,E.,Vinge,L.E.,Yndestad,A.,Andersen,G.O.,Andersson,Y.,Attramadal,T.,and Attramadal,H.:「ラットの心不全における心筋バイグリカンの誘発−AT1レポーターの拮抗作用により標的とされる細胞外基質成分(Induction of myocardial biglycan in heart failure in rats− an extracellular matrix component targeted by AT1 receptor antagonism.)」Cardiovasc.Res.60,557〜568(2003)]。TGF−βによるヘテロ二量化は、TGF−βの可用性(局所濃度において)及びTGF−βの活性の両方に作用する。TGF−βは、線維芽細胞の増殖及び細胞外基質成分、特にコラーゲン及びフィブロネクチン合成の重要なメディエーターである[de Andrade,C.R.,Cotrin,P.,Graner,E.,Almeida,O.P.,Sauk,J.J.,and Coletta,R.D.:「形質転換成長因子−β1の自己分泌刺激は、遺伝的歯肉線維腫症における線維芽細胞の増殖を制御する(Transforming growth factor −beta 1 autocrine stimulation regulates fibroblast proliferation in hereditary gingival fibromatosis.)」J.Periodontol.1726〜1733(2001)]。心不全における、心筋のリモデリング及び線維症におけるTGF−βの重要性を指摘する、いくつかのデータがある。[Lijnen,P.J.,Petrov,V.V.,and Fagard,R.H.:「形質転換成長因子−β1による心臓線維症の誘発(Induction of Cardiac Fibrosis by Transforming Growth Factor−[beta]1.)」Mol.Gen.Metabol.71,418〜435(2000)]。
【0092】
バイグリカントランスジェニックマウスの心臓における発現が改変されたタンパク質の特定のために、Panorama Ab Microarray Cell Signaling Kit(Sigma,CSAA1)を使用した。このアレイは、アポトーシス、細胞周期、細胞ストレス及びシグナル伝達に関連する細胞内タンパク質に対する224種の抗体を含んだ。抗体の他の群は、構造タンパク質に対するものである(核、細胞骨格及び神経に特異的)。pyk2タンパク質の上方制御は、バイグリカントランスジェニックマウスの心臓組織タンパク質のプロファイリングを使用して検出した。これらのタンパク質は、細胞の生存及びアポトーシスによる細胞死においてきわめて重要な役割を果たす、様々なシグナル伝達経路のカギとなる分子である。関連性接着フォーカルチロシンキナーゼ(RAFTK)としても公知であるPyk2は、心臓のリモデリング及びSrcキナーゼ−p38の下流シグナル伝達を介した心筋細胞におけるアポトーシス経路の活性化において、非常に重要な役割を果たす。[Melendez,J.,Turner,C,Avraham,H.,Steinberg,S.F.,Schaefer,E.,and Sussman,M.A.:「Srcキナーゼを介してRAFTK/pyk2により誘発される心筋のアポトーシスは、パキシリンによって拮抗される(Cardiomyocyte Apoptosis Triggered by RAFTK/pyk2 via Src Kinase Is Antagonized by Paxillin.)」J.Biol.Chem.279,53516〜53523(2004)]。アポトーシスのシグナル伝達に関連するキナーゼのリン酸はこの研究において調査しなかったが、p38並びにアポトーシス経路の他のマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)のメンバーは、抗体マイクロアレイ研究において上方制御されることが示された。バイグリカンmRNAレベルが梗塞により影響を受ける心筋領域において上昇し、梗塞範囲の治癒期間におけるバイグリカンのきわめて重要な役割を示唆し、心臓のリモデリングにおけるその関与を示すことが以前に報告されている[Yamamoto,K.,Kusachi,S.,Ninomiya,Y.,Murakami,M.,Doi,M.,Takeda,K.,Shinji,T.,Higashi,T.and others:「ラットに実験的に誘導された心筋梗塞の後の梗塞領域において、I型コラーゲンmRNAと密接な共局在化発現を示す、バイグリカンmRNAの発現増加(Increase in the Expression of Biglycan mRNA Expression Co−localized Closely with that of Type I Collagen mRNA in the Infarct Zone After Experimentally−Induced Myocardial Infarction in Rats.)」J.MoI.Cell.Card.30,1749〜1756(1998)]。ここで、本発明者らは、Ca++の検出に関連する別のタンパク質、シナプトタグミン(syt)もまた、バイグリカントランスジェニックマウスの心臓において上方制御されることをさらに示す。Sytは、タンデムカルシウム結合C2ドメイン(C2A及びC2B)を含む膜貫通タンパク質であり、シナプス伝達において重要な役割を果たし、シナプトタグミンIは神経伝達物質の同時放出に関する迅速なカルシウムセンサーであると思われる。[Yoshihara,M.,Adolfsen,B.,and Littleton,J.T.:「シナプトタグミンはカルシウムセンサーか?(Is synaptotagmin the calcium sensor?)」Curr.Opin.Neurobiol.13,315〜323(2003)]。
【0093】
抗体アレイにより得られた結果を表Iに要約した。
【表1】


表I.Panorama(商標)Ab Microarrayの抗体のリストであり、これらはバイグリカントランスジェニック心臓におけるタンパク質発現の誘導が認識されている。
【0094】
bg+/+トランスジェニックマウスの心臓において、3種のNOSタンパク質すべてのレベルの上昇が検出された。これらの上昇は、nNOSで2.2倍、eNOSで2.14倍及びiNOSで1.67倍であった。神経生物学の過程において役割を発揮するタンパク質の中で、シナプトタグミンレベルの上昇(1.83倍)が検出された。高レベルのmcl−1が、細胞の生存を促進し、一方その下方制御によりアポトーシスが始まることは公知である。アレイ上に存在するシグナル伝達タンパク質から他のタンパク質の中で、本発明者らは、Mcl−1(1.83倍)及びPyk2(1.99倍)の著しい上昇を見出した。
【0095】
抗体のマイクロアレイ研究により得られた結果を確認するために、ウェスタンブロット実験を実施した(図2のパートA及びパートB)。第1の実験において、対照マウス及びトランスジェニックマウスの心臓由来のiNOS、eNOS及びnNOSの発現レベルを比較した。対照試料と比較し、内在性βアクチンの発現に対して正規化して、eNOSに関しておよそ2倍、iNOSに関して1.9倍及びnNOSに関して1.7倍の過剰発現が、トランスジェニック心臓組織において検出された。シナプトタグミン(2.05倍)及びpyk2(2倍)のタンパク質レベルの上昇が見出された(図2B)。これらのウェスタンブロットの結果により、マイクロアレイ分析により得られたこれまでの発見が立証された。
【0096】
心臓の凍結切片に関する免疫組織化学的分析を、pyk2、シナプトタグミン及びNOSタンパク質の局在を視覚化するために実施した。示された心筋組織及び内皮細胞は、バイグリカントランスジェニック心臓切片において、eNOS及びiNOSに関する免疫反応性が増加した(データ非掲載)。
【0097】
トランスジェニック内皮においてeNOSが十分染色されたことが検出された。iNOSは、心筋全体にわたって細胞質に局在した。トランスジェニック心臓切片において、その分布は変わらないが、強度は明らかに増加していた。シナプトタグミン及びpyk2は、それらの両方が、バイグリカントランスジェニック心臓切片における免疫活性の増加及び細胞間結合部におけるpyk2の蓄積を示したにもかかわらず、細胞質全体にわたって広範囲の染色を示した(図3B)。
【0098】
この研究において、プロテオミクスを使用した、3種のNOSすべての発現の誘導が、バイグリカントランスジェニックマウスの心臓において検出できることが示された。これらのデータは、ウェスタンブロット分析及び免疫組織化学により、さらに確認された。重要なシグナル伝達分子である一酸化窒素は、神経伝達、心臓保護及び免疫防御などの様々な生物学的過程において重要な役割を果たす。NOは、その血管拡張、抗酸化、抗血小板及び抗好中球の作用を介した心臓保護作用を有し、それは正常な心臓機能にとって必須であるが、NOの過剰産生は細胞にとって有毒となり得る[総説:Ferdinandy P,Schulz R.「心筋の虚血/再かん流による損傷及びプレコンディショニングにおける一酸化窒素、超酸化物及びペルオキシ亜硝酸(Nitric oxide,superoxide,and peroxinitrite in myocardial ischemia−reperfusion injury and preconditioning.)」Br.J.Pharmacol.138:532〜543(2003)を参照されたい]。過度の局所NOは、バイグリカン発現を阻害することがあり、この負の制御はSchaefer他により早期に実証されていた[上記を参照されたい]。本発明者らは、心臓保護において重要な役割を有し、本発明者らのバイグリカントランスジェニックマウスに誘導された、心臓のリモデリング及びその考えられる心臓保護の役割におけるバイグリカンの重要性の根底にあるタンパク質のレベルの上昇を見出した。
【0099】
結論として、本発明者らのこの研究は、心臓におけるバイグリカンタンパク質の過剰発現は、心臓のリモデリング、シグナル伝達、心臓保護及びCa++シグナル伝達の機序に関連する、心臓組織のタンパク質プロフィールにおいて多くの改変をもたらすことを明らかにした。
【0100】
(実施例2)
バイグリカンの過剰発現は、アテローム性動脈硬化及び脂質異常症において誘導される心機能障害を予防する
この実施例は、バイグリカンのトランス遺伝子が、実験的アテローム性動脈硬化の発生を減少させ、脂質異常症誘導性の心筋機能障害を低減させることを示す。
【0101】
方法:
野生型(対照、C57/B6×CBA)、ヒトapoB−100タンパク質(apoB)のみを過剰発現するトランスジェニックマウス及びヒトapoB−100及びバイグリカンの両方を過剰発現するダブルトランスジェニックマウス(apoB×BG)に、2%コレステロール強化実験室食又は標準食のどちらかを、17〜19週間与えた。食餌期間の終わりに、心臓の基礎機能及び生化学的パラメーター(ルシゲニンの化学発光を用いた超酸化物の測定)を測定するために心臓を単離し(単離され、鼓動している心臓標本)、大動脈を脂質染色のために取り外した。血液試料を収集し、血清脂質及びグルコールに関して検査した[この実施例において使用した方法の詳細な説明を参照されたい:Onody A,Csonka C,Giricz Z,Ferdinandy P.「コレステロールに富んだ食事により誘導される脂質異常症は、ラットの心臓において、ペルオキシ亜硝酸の形成の強化をもたらす(Hyperlipidemia induced by cholesterol−rich diet leads to enhanced peroxynitrite formation in rat hearts.)」Cardiovasc Res 58:663〜670(2003)]。心筋の収縮機能を確定するために、大動脈流を測定した。
【0102】
結果:
コレステロールに富んだ食餌も、apoB−100トランス遺伝子単独又はバイグリカンとの組合せも、いずれも、普通食を与えた野生型のマウスと比較して、総血清コレステロール及びLDLコレステロールに影響を与えなかった(図3)。しかし、血清コレステロール及びLDLコレステロールは、apoBトランスジェニック動物及びapoB×BGダブルトランスジェニック動物において、コレステロールに富んだ食餌のために、有意に上昇した(図4)。一方、いずれの処理も、HDLコレステロール及び血清グルコースレベルに有意な影響を与えなかった。ApoBトランス遺伝子単独又はバイグリカンとの組合せは、普通食を与えた野生型と比較して、血清中のトリグリセライドのレベルが明らかに増加したが、血清トリグリセライドは、トランスジェニックマウスにおけるコレステロールにより有意に減少した。
【0103】
大動脈流を確定し、単離されたマウスの心臓の心機能を評価した。動物が普通食を与えられた場合、apoBトランス遺伝子及びapoB×BGダブルトランス遺伝子のいずれも、大動脈流に影響を与えなかった(図5)。しかし、コレステロールに富んだ食餌は、ヒトapoB−100トランスジェニックマウスにおいて、大動脈流を有意に悪化させ、野生型又はapoB×BGトランス遺伝子においては作用しなかった(図4)。
【0104】
バイグリカントランス遺伝子が、心筋において超酸化物の産生を減少させ得るかどうかを試験するために、脂質異常症誘導性の心機能障害の主要因子としての心筋の超酸化物含有量[上記のOnody et al.(2003)を参照されたい]を測定した。心臓の超酸化物は、apoBマウスにおいてコレステロールに富んだ食餌により、明らかに増加したが、野生型及びapoB×BGトランス遺伝子においては増加しなかった。ApoBトランス遺伝子単独又はapoB×BGダブルトランス遺伝子は、普通食を与え有られたマウスにおいて、心臓の超酸化物を変化させなかった(図5)。
【0105】
大動脈におけるアテローム性動脈硬化性プラーク面積が、野生型マウスと比較して、apoBマウスにおいて増加することが見出された。コレステロールに富んだ食餌は、apoBトランスジェニックマウスにおいてプラークの形成をさらに増加させた。apoB×バイグリカンダブルトランスジェニックマウスにおけるプラークの形成は増加したが、コレステロールに富んだ食餌はダブルトランスジェニック動物において、アテローム性動脈硬化性プラーク面積を有意に減少させた(図6)。
【0106】
結論:
これは、バイグリカントランス遺伝子の存在が、アテローム性動脈硬化の発生を減少させ、脂質異常症誘導心機能障害を低減させることの第1の実証である。
【0107】
(実施例3)
バイグリカンの過剰発現は、梗塞の大きさ及び梗塞後の心機能障害を含む、心筋の虚血/再かん流による損傷を減少させる
この実施例は、バイグリカントランス遺伝子の存在が、虚血及び再かん流に供されたマウスの心臓において、梗塞の大きさの縮小及び梗塞後の収縮不全を減衰させることを示す。
【0108】
方法:
野生型対照及びバイグリカン遺伝子を過剰発現するトランスジェニック動物の心臓を単離し、Krebs−Henselit溶液を用いてかん流し、30分の虚血及び120分の再かん流に供した。かん流の終わりに、リン酸バッファー(pH7.4)に溶解した5mLの1%塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC、Sigma−Aldrich)を、ゆっくりと5分間にわたって大動脈に投与し、心筋を染色した。TTCにより染色された心臓を凍結し(−20℃)、およそ1mmの厚さの薄片に切断し、ガラスプレートの間でスキャンした。画像の、TTCにより染色された赤及び染色されなかった青白い面積を、面積測定法により定量化した。梗塞の大きさは、全心臓体積のパーセントとして表した[この実施例で使用した方法の詳細な説明を示す:Giricz Z,LaIu MM,Csonka C,Bencsik P,Schulz R,Ferdinandy P.「脂質異常症は、虚血性プレコンディショニングの梗塞サイズ縮小効果を低減する:マトリクスメタロプロテイナーゼ−2阻害の役割(Hyperlipidemia attenuates the infarct−size limiting effect of ischemic preconditioning:role of matrix metalloproteinase−2 inhibition.)」J Pharmacol Exp Ther,316:154〜161(2006)]。
【0109】
結果:バイグリカントランス遺伝子の存在が、梗塞の大きさにおいて、およそ25〜35%の縮小をもたらし[梗塞の大きさは、野生型において61.2±4.5%から、トランスジェニック群において44.1±5.8%まで縮小した(両方の群でn=6)]、コレステロールを与えた動物及び普通の動物の両方において、虚血後の心機能におよそ20%の改善をもたらした(これらの実験は、少数の動物において実施した)
【0110】
結論:これは、バイグリカンが、梗塞の大きさの縮小及び虚血後の心筋機能の改善を含む、心臓保護作用(抗虚血作用に基づき)を発揮する第1の実証である。
【0111】
(実施例4)
バイグリカンは、心筋細胞を低酸素/再酸素化損傷(虚血/再かん流による損傷のモデル)から保護する
方法:単離された新生児ラットの初代培養の心筋細胞を、2.5時間の模擬虚血及び2時間の再酸素化に供し、不可逆な細胞損傷の範囲を、記載のようにトリパンブルーの取り込みを使用して評価した[Li X,Heinzel FR,Boengler K,Schulz R,Heusch G.「虚血性プレコンディショニングにおけるコネキシン43の役割は、ギャップ結合を介した細胞間コミュニケーションに関与しない(Role of connexin 43 in ischemic preconditioning does not involve intercellular communication through gap junctions.)」J Mol Cell Cardiol.36:161〜163,2004]。細胞を、低酸素/再酸素化の前に、バイグリカンコアタンパク質(BGN−コア)及び完全バイグリカン(BGN)の1nM〜100nMの一連の濃度を用いて、20時間処理した。バイグリカンの場合(図7)、反復実験の数は、以下の通りである:低酸素群においてn=14、BGNが1、3及び30nMの群においてそれぞれn=5、BGN10nM群においてn=12及びBGN100nM群においてn=12。バイグリカンコアタンパク質の場合(図8)、反復実験の数は、以下の通りである:低酸素群においてn=6、BGNが1、3、10及び30nMの群においてそれぞれn=5、BGNが100nMの群においてn=4。
【0112】
さらに、細胞を、デコリン(バイグリカンの化学構造と類似の化学構造を有するが、グルコサミノグリカン側鎖を1つだけ含む別のSLRP)を用いて処理した[Scott PG,Dodd CM,Bergmann EM,Sheehan JK,Bishop PN.「バイグリカン二量体の結晶構造及び二量化がI型小型ロイシンリッチリピートプロテオグリカンのフォールディング及び安定性のために必須であるという証拠(Crystal structure of the biglycan dimer and evidence that dimerization is essential for folding and stability of class I small leucine−rich repeat proteoglycans.)」J.Biol Chem.281:13324〜13332(2006);並びにFisher,L.W.,Termine,J.D.,and Young,M.F.:「骨由来小型プロテオグリカンI(バイグリカン)の推定タンパク質配列は、様々な種において、プロテオグリカンII(デコリン)及びいくつかの非結合組織タンパク質と相同性を示す(Deduced protein sequence of bone small proteoglycan I(bigycan)shows homology with proteoglycan Il(decorin)and several nonconnective tissue proteins in a variety of species.)」J.Biol.Chem.264,4571〜4576(1989)]。デコリンの場合(図9)、実験の数は以下の通りである:低酸素群においてn=7、すべてのデコリン群においてそれぞれn=5。
【0113】
結果:
バイグリカン(図7)及びバイグリカンコアタンパク質(図8)の両方は、低酸素/再酸素化により誘導される細胞死から、筋細胞を濃度依存的に保護した。デコリンもまた、細胞保護を発揮したが、バイグリカンと比較した場合、程度は低かった(図9)。
【0114】
ここで、本発明者らは、バイグリカン及びバイグリカンコアタンパク質の場合、細胞保護の濃度依存性はU字曲線を示し、最大作用はおよそ30nm、例えば、20から40nmの区間の中であると思われることを述べる。(正確な濃度依存性は、さらなる実験的検証を必要とする。)
【0115】
結論:これは、バイグリカン及びその類似体であるデコリンが、低酸素/虚血/再酸素化による損傷において、細胞保護作用を発揮することの第1の実証である。
【0116】
(実施例5)
「バイグリカン模倣薬」のためのスクリーニング方法
この実施例は、任意の標的器官組織において、インビボ又はエクスビボでバイグリカンの作用を模倣する試験分子に対して適用できる、抗体アレイアッセイの基礎を示す。
【0117】
方法:任意の試験物質(小型分子、オリゴペプチド、ポリペプチドなど)で処理した後の組織試料を、実施例1に示したように、i−NOS、n−NOS、e−NOS、シナプトタグミン、Mcl−1及びPyk2に関するタンパク質アレイアッセイに供する。試験物質がこれらのタンパク質の発現パターンを変化させ、この変化が実施例1において見出された変化と統計的に異ならない場合、試験分子は、有効なバイグリカン模倣薬であると考え得る。
【0118】
結論:これは、有効なバイグリカン模倣薬をスクリーニングするための、第1のアッセイ系である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば、心臓)疾患を予防及び治療するための医薬組成物の調製における、有効成分としてのバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用。
【請求項2】
アテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば、心臓)疾患の予防及び治療において有効成分として使用するためのバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサー。
【請求項3】
アテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば心臓)疾患の予防又は治療における有効成分としてのバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーの使用。
【請求項4】
それを必要とする哺乳動物においてアテローム性動脈硬化症及び/又は虚血性(例えば心臓)疾患を予防又は治療する方法であって、前記哺乳動物に有効量のバイグリカン又はバイグリカン活性のエンハンサーを有効成分として投与することを含む方法。
【請求項5】
有効成分が、以下の群:バイグリカン、バイグリカンの類似体、好ましくはデコリン、バイグリカンの誘導因子又は活性化因子、バイグリカンをコードする核酸を含む送達系、及びバイグリカンをコードする核酸(裸の核酸)から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項6】
有効成分が、内因性(天然)バイグリカンの過剰発現の活性化因子又は誘導因子である、請求項5に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項7】
内因性(天然)バイグリカンの過剰発現が、小型分子によって、好ましくはオリゴペプチド若しくはポリペプチド又はサリチル酸ナトリウム又はオキシステロール又はリゾ脂質によって活性化される、請求項6に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項8】
有効成分が、バイグリカンをコードする核酸を含む遺伝子送達系であり、前記遺伝子送達系が、好ましくは遺伝子又は細胞(幹細胞を含む)療法技術によるバイグリカンの組換え過剰発現を確実にする、請求項5に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項9】
有効成分が、バイパス手術、好ましくは冠動脈バイパス手術の場合、移植前にエクスビボで自家移植片に組み込まれている、請求項1から8までのいずれか一項に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項10】
抗虚血性疾患が急性又は慢性の虚血性心疾患であり、心臓保護作用が脂質異常症の存在下又は不在下で発揮される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項11】
急性又は慢性の虚血性心疾患が、以下の群:脂質異常症の存在下又は不在下における、急性心筋虚血、安定又は不安定狭心症、心筋梗塞、心不全、心臓手術により起こる心筋の虚血から選択される、請求項10に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項12】
抗アテローム性動脈硬化作用が、例えば冠動脈硬化症、頸動脈硬化症、末梢動脈硬化症などの、任意の動脈硬化性プラークの形成と関連する疾患に対して発揮される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の使用又は生成物又は方法。
【請求項13】
抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血作用を発揮するバイグリカン活性のエンハンサーを特定する方法であって、
a)候補エンハンサーを基本細胞と、前記基本細胞におけるバイグリカンの発現に適した条件下で接触させ、
b)前記基本細胞における、バイグリカンの抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血作用に特異的な遺伝子又はタンパク質の発現レベル及び/又は活性を検出し、
c)検出された発現レベル及び/又は活性レベルを、
候補エンハンサーを用いずに基本細胞において得られた基準レベル、及び/又は
バイグリカンを過剰発現する他の細胞において得られた基準レベル
と比較し、
前記特異的遺伝子又はタンパク質のレベル又は活性が、基本細胞及び/又は過剰発現する他の細胞において規定された基準レベルと比較して増強されると、それぞれの候補エンハンサーが抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血作用を発揮するバイグリカン活性のエンハンサーである事実を示すものとみなされる
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
バイグリカンの発現が、好ましくはバイグリカンプロモーター−EGFP構築体の使用により、インビトロで検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
タンパク質レベルがステップb)において検出され、ステップc)の基準レベルがバイグリカンを過剰発現する細胞に由来する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
バイグリカンの抗アテローム性動脈硬化作用及び/又は抗虚血作用に特異的な前記検出タンパク質が、以下の群:i−NOS、n−NOS、e−NOS、シナプタグミン、Mcl−1及びPyk2から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記基準レベルがPanorama Ab Microarray Cell Signaling Kit(Sigma、CSAA1)により特定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
バイグリカン、好ましくはデコリン又はバイグリカン活性のエンハンサーを公知の助剤と共に含む、細胞培養液若しくは組織培養液、又は移植前の器官の保存に使用する溶液への補助剤。
【請求項19】
バイグリカン活性のエンハンサーが、以下の群:バイグリカン発現の誘導因子又は活性化因子、バイグリカンをコードする核酸(遺伝子)を含む送達系及びバイグリカンをコードする核酸(裸の核酸)から選択される、請求項18に記載の補助剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−517940(P2010−517940A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545242(P2009−545242)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/HU2008/000003
【国際公開番号】WO2008/084268
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509196888)
【出願人】(509196899)ファーマハンガリー 2000 ケイエフティー. (1)
【Fターム(参考)】