説明

医薬組成物

【課題】 手指の消毒効果と手荒れ防止効果を兼ね備えた新規な医薬組成物を提供すること。
【解決手段】 ビグアナイド系カチオン殺菌消毒剤グルコン酸クロロヘキシジン又はその塩、エタノール、油性基剤、高級脂肪族アルコール、親油性と親水性の非イオン界面活性剤、水溶性多価アルコール、及びグルコン酸を含み、前記グルコン酸クロロヘキシジンが殺菌消毒剤全重量あたり0.1−1重量%であり、かつ、手指消毒評価による殺菌効果が少なくとも3時間持続することを特徴とする医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールの速効性と強塩基性のグルコン酸クロロヘキシジンの優れた残留性による持続効果を併せ持ち、かつクリームによる油分補給により手あれを防止でき、既存のアルコール含有消毒剤に比して低濃度エタノールを含有するヒト手指および皮膚の殺菌・消毒可能な医薬組成物に関する。前記医薬組成物は、エタノールを10〜23重量%含有するハンドクリーム剤等の乳化組成物、あるいはエタノールを上限濃度45重量%を含有する乳状液剤でポンプ式またはエアゾール剤として提供される。
【背景技術】
【0002】
グルコン酸クロロヘキシジンは、1950年代に英国で開発された強い抗菌活性を有する強塩基性物質である。その作用機序は、低濃度域では細菌の細胞膜に障害を与え、細胞質成分の不可逆的漏出や酵素阻害を起こし、高濃度領域では細胞内の蛋白質や核酸の沈着を起こすことにより、殺菌或いは抗菌活性を示す。現在、グルコン酸クロロヘキシジンは多くの手指衛生製品に処方されており、手指・皮膚の消毒、手術部位の皮膚消毒、医療用具の消毒等に水溶液或いはエタノール溶液で使用されている(非特許文献1)。
また、CDC(米国疾病管理予防センター)から発表された「保健医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン 2002」において、グルコン酸クロロヘキシジンは皮膚上の細菌数を有効に減少させ、活性の強い手指消毒剤として紹介されている(非特許文献2)。
【0003】
また、従来からグルコン酸クロロヘキシジンは、殺菌消毒剤としてはその持続時間が長いことから世界の医学界で推奨されてきた。また、その製剤としては、高濃度エタノール(60〜80%)を含有する速乾性手指消毒剤として液剤、ゲル剤が医療従事者等に利用されてきた。しかし、高濃度エタノールによる殺菌直接効果は強いものの、高濃度エタノールによる手指の皮脂流失・皮脂量減少により医療従事者に手あれを生じさせ、荒れた角質は病原菌を付着させる原因になるとともに、アルコールによる刺激が手指の消毒義務が怠りがちになり二次感染を引き起こす原因の一つとされてきた。未だ医療従事者の50%が手荒れに悩んでいるのが現状である。
【0004】
さらに看護士の約25%が手指に皮膚炎の兆候を持ち、85%もの人が皮膚に問題を持った経験があると報告されている(非特許文献3)。手指衛生剤や洗浄剤を繰り返し使用すると、医療従事者の慢性刺激性接触皮膚炎を引き起こす重要な原因となる。すなわち、角層タンパクの変性を引き起こし、細胞内脂質を変化させ、角化細胞の結合を減少させ、角層の保湿性を消失し、皮膚にダメージを与える。皮膚障害を受けた手指には肌荒れ、落屑、亀裂が生じ皮膚細菌叢の変化を起こし、ブドウ球菌やグラム陰性桿菌の定着を増加させ、人から人へ伝播の結果、院内感染拡大等の危険性がある。
【0005】
この解決策としてハンドクリームの使用が推奨されているが、医療現場では頻繁に消毒行為が行う必要性があるため、効果は不十分である。解決策として湿潤剤等が配合された製剤の特許文献に開示され、手指消毒剤として製品化されているものがあるが、既存製品ではいずれも、手あれの予防効果が期待できるには程遠い実情である(特許文献1〜5)。
【0006】
同時に、液剤は効果持続時間が長いものの高濃度エタノールによる手あれを誘発し、ゲル剤は増粘剤により手荒れの誘発は多少抑えられるものの塗布直後効果が弱いこと、ローション剤は、持続時間が短いことなど、殺菌直後効果、持続効果、手荒れの抑制と全てを満足させる製剤はこれまで得られていなかった。
【0007】
院内感染は大きな問題であるが、近年は高齢化に伴い介護問題も深刻でこれによって介護従事者の手指の消毒も重要な課題である。
【0008】
医療現場での手指消毒剤は、これまでエタノールを高濃度(60〜80%)含有するカチオン殺菌消毒剤グルコン酸クロロヘキシジン0.2〜0.5%を主剤とした液剤、ゲル剤が汎用されている。これは、エタノールの蛋白変性作用による直接作用とグルコン酸クロルヘキシジンの持続性のある殺菌効果による。高濃度エタノール含有液剤は、使用時の液垂れによる床の汚染、損傷および多量のエタノールによる皮脂量流失・減少による手あれが大きな問題であった。手あれは、皮膚への菌の付着が多く、二次感染を引き起こす悪循環の原因になっている。この解決策として湿潤剤を組み合わせた液剤また皮脂量の損失を防ぐ目的でカーボポール等の増粘剤を利用した液垂れのない高濃度エタノール含有ゲル剤も開発されている。しかし、病院従事者、介護従事者らはこれらの高濃度エタノール含有製剤を感染防止の徹底から頻回に使用せざるを得ないため、手あれ防止の問題は未だ解決せず、市販のハンドクリームを多用しているのが現状である。
【0009】
市販のハンドクリームはべたつき感が強く、特有の臭いや製品によっては患者に注射する際に手がすべる等の問題があり、実際には業務の合間に使用せざるをえない制限があった。また、ハンドクリーム含有成分は成分表示されている場合が多いが、クロロヘキシジンは陽イオン性分子であるためその活性は天然石鹸、種々の無機イオン、陰イオン性乳化剤等によりその効果は減弱されると報告されているが、表示成分を見分けるのは容易ではない(非特許文献4)。
【0010】
医療従事者らは、手あれ改善を目的として市販のハンドクリームを多用している。海外では消毒剤販売会社にハンドクリームを無償で提供する義務があるとまで指摘されている。更に、手術執刀医は、長時間手術する場合、術中頻繁にゴム手袋の交換を求められる。そのため、持続効果を有し、手あれがより少なく持続効果のある手指消毒剤が望まれていた。
【0011】
【非特許文献1】 日本薬局方解説書編集委員会編、第十四改正日本薬局方解説書、東京、広川書店、2001年、P.1225−1229
【非特許文献2】 保健医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン 2002−保健医療感染制御対策諮問委員会およびHICPAC/SHEA/APIC/IDSA手指衛生特別委員会の推奨−訳:鳥取県立厚生病院 藤井 昭
【非特許文献3】 Heart Lung(1997);26:404−412 :Prevalence and correlates of skin damage on the hands of nurses.
【非特許文献4】 J.of Hospital Infection(1987)9.30−33:The effect of handcream on the antibacteriaactivity of chlorhexidine gluconate
【特許文献1】 特開2002−193706号公報
【特許文献2】 特開平11−349418号公報
【特許文献3】 特開平10−265408号公報
【特許文献4】 特開平10−265391号公報
【特許文献5】 特開平8−119811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、手指の消毒効果と手荒れ防止効果を兼ね備えた新規な医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、市販ハンドクリーム処方内容(添加物)を検討し、グルコン酸クロロヘキシジンの安定性、効果に悪影響を及ぼす添加物をスクリーングした。同時に乳化物の可能なエタノール含有率と殺菌・消毒効果、持続時間を検討した。そして、グルコン酸クロロヘキシジン或いはその塩を0.1〜1%およびエタノール、油分、湿潤剤を含有するクリーム製剤であり、手指消毒評価法で是認される殺菌効果において少なくとも3時間殺菌効果を持続し、手荒れ防止効果も示し、上記課題が解決されることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、ビグアナイド系カチオン殺菌消毒剤グルコン酸クロロヘキシジン又はその塩、エタノール、油性基剤、高級脂肪族アルコール、親油性と親水性の非イオン界面活性剤、水溶性多価アルコール、及びグルコン酸を含み、前記グルコン酸クロロヘキシジン濃度は殺菌消毒剤全重量あたり0.1〜1重量%であり、かつ、手指消毒評価による殺菌効果が少なくとも3時間持続することを特徴とする医薬組成物である。
【0015】
本発明の医薬組成物は、ハンドクリーム剤等の乳化組成物、エアゾール剤等の乳状液剤として提供される。
【0016】
前記医薬組成物において、エタノール濃度は、クリーム剤においては殺菌消毒剤全重量あたり10〜23重量%、乳状液剤においては上限45重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の医薬組成物には、さらに以下の成分が含有されていてもよい:
乳化安定剤としてC12〜22の高級飽和・不飽和脂肪族アルコールを殺菌消毒剤全重量あたり1〜5重量%;
親油性非イオン界面活性剤としてHLB値8以下のグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルと皮膚安全性の高い親水性(HLB値10以上)の非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等から選ばれる2種以上を組み合わせ全重量あたり2〜8重量%;
湿潤剤として水溶性多価アルコール(グリコール)のジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等を殺菌消毒剤全重量あたり5〜15重量%;
pH調整・安定化剤としてグルコン酸を殺菌消毒剤全重量あたり0.2〜2重量%;
油性基剤としてワセリンおよびトリオクタン酸グリセリン、スクワラン、流動パラフィン、シリコン油の流動性油分を消毒剤全重量あたり5〜10重量%および所望により高級脂肪酸としてC14〜22の一価の高級飽和・不飽和脂肪酸を全重量あたり0.5〜2重量%。
【0018】
本発明の医薬組成物をクリーム剤として処方する場合、偏光顕微鏡観察での乳化粒子径が約50μm以下の大きさの結晶性または球状粒子が均一に分散していることが望ましい。
【0019】
以上のとおり、本発明は、有効成分として殺菌効果の持続性が期待できるグルコン酸クロロヘキシジン或いはその塩と低濃度アルコールを含有するクリーム製剤であり、手指の消毒効果と共に手荒れ防止効果を兼ね備えた新規な医薬組成物である。
【0020】
本発明にかかる医薬組成物は、医療現場では高濃度エタノールによる殺菌効果の要望もあることから、グルコン酸クロロヘキシジンを主成分としエタノール濃度が45重量%(容量換算で約60%)を上限とする乳状液剤、あるいは使用が簡便なポンプ式またはエアゾールとして提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、従来手指消毒のために多用されてきた速乾性の高濃度エタノール液剤、ゲルの欠点を解消するとともに、手あれ改善を目的に使用されてきた市販のハンドクリームの利点を応用し、持続効果を減弱することなく両者を最適条件で組み合わせることに成功した。本発明によれば、殺菌効果への悪影響が懸念される市販のハンドクリームの使用も必要がなく、同時に経済性も確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の医薬組成物は、表1、2、3の実施例に示すとおり、3時間の持続効果はもとより医療行為の妨げにならない使用感の良い乳化組成物調整の基本構成である。主剤であるグルコン酸クロロヘキシジンの濃度は、0.1%では直後効果はもとより3時間目までの持続効果が得られ、0.2%以上では6時間目でも持続効果が得られた。なお、外傷殺菌を適応とした0.1%濃度の市販品は、ワセリン、グリセリンの多量配合およびエタノール無配合のためか、殺菌作用は全く認められなかった。
【0023】
殺菌効果は、アルコール配合濃度10%未満でも直後の効果はみられるが、表1に示すとおり10重量%以上で医療現場で求められる現行の試験法での3時間目迄の持続性効果がみられる。またエタノール濃度25重量%では40℃の加速試験で2週間後にボトムクリア(2層分離)がみられることからハンドクリームタイプではエタノール濃度は10〜23重量%、望ましくは製造上の防爆設備を考慮すると15重量%程度が最適である。
【0024】
表1,2,3に示すとおり、乳化安定剤としてラウリルアルコール(C12)、ミリスチルアルコール(C14),パルミチルアルコール(C16)、ステアリルアルコール(C18),ベヘニルアルコール(C22)の飽和・不飽和脂肪族高級アルコールが配合可能である。その配合量は、1〜4%が望ましい。また、温度溶解性を考慮するとセトステアリルルコール、ステアリルアルコールが適当である。
【0025】
表1,2,3に示すとおり、本発明で用いられる非イオン界面活性剤は、HLB値8以下の親油性界面活性剤およびHLB値10以上の親水性非イオン界面活性剤の組み合わせで使用する。具体的には、ハンドクリームでは皮膚安全性の高い親油性界面活性剤としてモノステアリン酸グリセリンと付加モル数の多いPOE(60)硬化ヒマシ油の組み合わせが最適である。更にPOE(30)ベヘニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル等をHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)を考慮して2種以上で使用することができる。その重量総和は全重量の2〜4%で十分な乳化物が得られる。
【0026】
また、エタノール40〜45重量%配合の乳状液においては、親油性非イオン界面活性剤としてはグリセリン脂肪酸エステルであるモノステアリン酸グリセリンとポリグリセリン脂肪酸エステルの組み合わせと親水性非イオン界面活性剤としてPOE(40、50モル)硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ステアリン酸PEG40等のポリエチレングリコール脂肪酸エステルの単独または組み合わせが最適である。
その重量総和は、全重量の4〜8%で適当な乳化物が得られる。
【0027】
表1に示すとおり、湿潤剤として多用される水溶性多価アルコールのなかで微生物の栄養源とされ、薬効に悪影響を及ぼす3価アルコールのグリセリンを除く2価のグリセロール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及び1,3ブチレングリコール等は薬効に影響せず、皮膚湿潤剤として有用である。配合量は5〜15重量%が望ましい。
【0028】
グルコン酸クロロヘキシジンは水に不溶であるがグルコン酸2分子とイオン結合し水溶性となる陽イオン性の殺菌消毒剤である。そのため無機イオン、イオン性界面活性剤等、イオンの存在でその活性が減弱することは公知の事実である。そのpH安定領域は4〜6.5とされ、その調整として過量のグルコン酸を主剤量(0.1〜1%)の約2倍量、0.2〜2%配合することで安定性と薬効の持続性が確保された。
【0029】
油性基剤は、使用感に大きな影響を及ぼす。基剤としては表1,2,3の実施例に見られるとおり、トリオクタン酸グリセリン、流動パラフィン、シリコン油、ワセリン、スクワラン、及びホホバ油等の植物油、マクロゴール等を殺菌消毒剤全重量%に対して各1〜5%の範囲で適当に配合することで使用感が調整できる。また、高級脂肪酸は乳化安定剤として全重量%に対して0.5〜2%配合することができる。
【0030】
粒子径で約50mμの粒子が散見されないクリームは全く薬効が確認されなかったことから、クリーム剤の乳化粒子径は偏光顕微鏡観察で約50μmの大きさであって、その結晶性または球状粒子が均一に分散している製剤が好ましい。
【0031】
乳化法は、実施例全てにおいて油相(表1では成分(1)〜(7)、表2,3では(8)まで)と水相を加熱溶解後70℃前後で通常のホモミキサーで攪拌、冷却する他、その他、非水乳化法、2段乳化法など乳化法によって制限されるものではなく、何れの方法でも調整可能である。また、水相に油相を添加してO/W型、水相を油相に添加してW/O型の何れでも薬効に影響を及ぼすものではない。エアゾール剤は、全重量に対して5%のLPガスを配合することで得られる。
【0032】
殺菌消毒効果の判定としては静菌作用として黄色ぶどう球菌を対象にMIC(最小発育阻止濃度)を測定し、グルコン酸クロロヘキシジンの作用が確認された。
【0033】
手指殺菌消毒効果の評価法として、グローブジュース法、パームスタンプ法等が知られるが、今回、本製剤の手指消毒効果の評価法として用いたグローブ・パームスタンプ法は、グローブジュース法の簡便法で、通常の石鹸で手洗い後、本発明品であるクリームまたは乳状液殺菌剤による両手消毒直後、3時間後に手形培地(例えばSCD培地、SCDLP培地等)に片方の手掌全体を押し付けスタンプ(ハンドぺたんチェック;栄研器材社の登録商標)する。スタンプ採取した手形培地を約35℃で18時間培養し、培養後に出現する菌数を測定する消毒評価法である。消毒前の手掌の菌数も前記と同様に測定しベースラインとする。
【0034】
消毒効果は、消毒前菌数に対する消毒後の菌数の減少率等で行なうことができる。減少率は下記式によって求められ、減少率が90%以上の場合に殺菌効果(表1,2,3の有効)が是認される。今回はクリーム剤または乳状液剤を塗布直後、3時間後とも90%以上の場合を有効とした。
【数式1】

【0035】
手あれ防止効果は、10例の主婦および医療従事者にエタノール20重量%配合のクリーム剤を1ヶ月間実際に使用して手あれの発生を検討した結果、手荒れの発生は見られなかった。
【0036】
本発明の殺菌用クリーム組成物は、従来のクロロヘキシジン或いはその塩を含有する消毒剤と同等の即効性を有し、かつ殺菌効果を長時間にわたり持続させるものである。
また、本発明の殺菌用クリーム組成物は、保湿性を有するため、消毒行為を頻繁に行なう医療従事者の手荒れを防止することができる。さらに、従来の液剤と比べ、使用感が良いため医療現場において使用し易く、粘性を有するため液だれ等を防止できる。
【0037】
本発明は、従来品に比して低濃度(10−23%)のエタノールを含有させたハンドクリームタイプおよび上限45重量%の乳状液とそのエアゾール剤で、安定性はもとよりクリームの組成によって従来にない手あれ防止と従来品以上の長時間持続型の殺菌消毒効果を有するため、感染防止として手指殺菌・消毒はもとより皮膚の殺菌・消毒等に有用である。また、クリーム、乳状液として組成物の濃度調整、粒子径、粘度調整も容易であるため、気候(温度、湿度)に応じてさっぱりしたクリーム、乳状液またはしっとりした皮膚保護作用を重視したクリームの提供ができる。
【実施例】
【0038】
以下の処方でクリーム剤を調製しMICの測定とスタンプ法による消毒評価を行った。
クリーム調整法は成分(1)〜(7)の油相と(8)〜(14)の水相を70℃前後でホモミキサーで攪拌、冷却して得られる。
【表1】

【0039】
表1と同様に、以下の処方でクリーム剤を調製し、MICの測定とスタンプ法による消毒評価を行った。調整は成分(1)〜(8)の油相と(9)〜(16)の水相を70℃前後でホモミキサーで攪拌、冷却して得られる。
【表2】

【0040】
以下の処方で乳状液剤を調製し、MICの測定とスタンプ法による消毒評価を行った。調整法は、成分(1)〜(8)の油相と(9)〜(17)の水相を70℃前後でホモミキサーで攪拌、冷却して乳状液が得られる
【表3】

【0041】
エタノールは蛋白変性作用を有し菌に対して直接作用を有するので、殺菌消毒剤には有用であるが、乳化物には溶解目的以外で使用されることはなく、配合しても5%以下である。主剤、高級アルコール、皮膚安全性の高い親油性、親水性非イオン界面活性剤、油性基剤の組み合わせでアルコール含有率と効果を検討した結果、エタノール濃度は10重量%以上から持続性のある効果は濃度依存であることが判明した(表1)。また、ハンドクリーム処方に湿潤剤として汎用されているグリセリン、高級脂肪酸、ワセリン等は配合量によってはグルコン酸クロロヘキシジンの効果に悪影響を示すことが判明した(表1)。
【0042】
同時にグルコン酸を過剰に配合することとカチオン性のグルコン酸クロロヘキシジンの安定性に影響を及ぼさないものとして皮膚安全性の高い非イオン界面活性剤の組み合わせであれば殺菌作用に影響がないことが判明した(表1,2,3)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の医薬組成物は持続的な手指消毒効果と手荒れ防止効果を兼ね備えている。したがって、手荒れがより少なく持続効果のある手指消毒剤が望まれている医療現場において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビグアナイド系カチオン殺菌消毒剤グルコン酸クロロヘキシジン又はその塩、エタノール、油性基剤、高級脂肪族アルコール、親油性と親水性の非イオン界面活性剤、水溶性多価アルコール、グルコン酸及び精製水を含む医薬組成物。
【請求項2】
グルコン酸クロロヘキシジン又はその塩が殺菌消毒剤全重量あたり0.1〜1重量%を含有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
エタノールを、クリーム剤においては殺菌消毒剤全重量あたり10−23重量%、乳状液剤及びLPガス充填したエアゾール剤においてはエタノール上限45重量%を含有する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
乳化安定剤としてC12〜22の高級飽和・不飽和脂肪族アルコールを殺菌消毒剤全重量あたり1〜5重量%含有する請求項1〜3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
親油性非イオン界面活性剤としてHLB値8以下のグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルと皮膚安全性の高い親水性(HLB値10以上)の非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる2種以上を組み合わせて、全重量あたり2−8重量%含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
湿潤剤として水溶性多価アルコール(グリコール)のジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及び1,3−ブチレングリコールから選ばれる少なくとも1種以上を殺菌消毒剤全重量あたり5〜15重量%含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
pH調整・安定化剤としてグルコン酸を殺菌消毒剤全重量あたり0.2−2重量%含有し、製剤のpHは、4〜6.5である請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
油性基剤としてワセリン、スクワラン、流動パラフィン、トリオクタン酸グリセリン、及びシリコン油から選ばれるいずれか1種以上を消毒剤全重量あたり5〜10重量%含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
さらに、C14〜22の一価の高級飽和・不飽和脂肪酸を全重量あたり0.5〜2重量%含有する請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
偏光顕微鏡観察で乳化粒子径が50μmの結晶性または球状粒子が均一に分散しているクリーム剤である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2007−217394(P2007−217394A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69940(P2006−69940)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(506088090)有限会社I−nage (2)
【Fターム(参考)】