説明

半可塑性体の切断装置

【課題】例えば軽量気泡コンクリート(ALC)パネル等を製造する際に未養生のALC等の半可塑性体をパネル状その他所望形状に切断するための切断装置に係り、構造の簡素化によるメンテナンス作業の容易化と走行ワイヤへの負担軽減、切断面の平滑化を図る。
【解決手段】緊張状態に配置した切断用のワイヤと、未養生のALC等の半可塑性体とを相対移動させて上記半可塑性体を所望の大きさ形状に切断する半可塑性体の切断装置において、上記半可塑性体Fに対する相対移動方向前側と後側とに配置して上記半可塑性体の同一箇所を切断する前後一対のワイヤW1,W2を、上記相対移動方向と交差する方向に複数対並べて設け、その各前側のワイヤW1を緊張状態で所定位置に配置固定すると共に、上記各後側のワイヤW2を、切断時に1回の切断作業が終了するまでワイヤ長手方向に連続的に走行移動させるように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば軽量気泡コンクリート(以下、ALCという)パネル等を製造する場合などにおいて、未養生のALC等の半可塑性体をパネル状その他所望形状に切断するための切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルを製造する場合、一般に原料スラリーを所定の型枠内に流し込んで所望形状に成形し、その成形体が所定硬さの半可塑状態に固まったところで型枠を外し、その半可塑性体をピアノ線等のワイヤにより所定の寸法に切断した後、オートクレーブ等で蒸気養生して所定の大きさ形状のALCパネルを得る。
【0003】
この場合、上記のようなワイヤを用いた切断方法としては、緊張状態に固定したワイヤを未養生のALC等の半可塑性体に対して相対移動させることによって切断するワイヤ固定切断方式が多く用いられてきた。しかし、ワイヤを単に半可塑性体に押し当てて相対移動させるだけでは、その切断面がケバ立って平滑に切断できない等の不具合がある。またケバ立ちは外観体裁を損ねるとともに、ALCパネルにあっては施工時にケバ立ちが剥れて周囲をALC粉で汚す等の問題を発生する原因となっていた。
【0004】
しかも、切断時のALC等の半可塑性体内部の硬化状態は必ずしも一様ではなく、例えば材料の分布や外気温度等の影響等により、部位毎に硬化の進み方が異なる。そのため、上記従来のように緊張状態に固定したワイヤによる切断方式では、切断中にワイヤに加わる切断抵抗は逐次変化することとなり、緊張装置の緩衝作用が都度作用することで、半可塑性体とワイヤの相対速度も逐次変化する。その結果、切断面に切断時のワイヤと半可塑性体との相対速度変化によってワイヤ跡が生じ、このワイヤ跡は微小な凹凸となり外観体裁を損ねる原因となっていた。
【0005】
そこで、例えば下記特許文献1,2のように、ワイヤを揺動させたり、往復運動させた状態で切断する方法が提案されている。このような方法によれば、部分的にケバ立ちを抑えつつALC等の半可塑性体を切断することが可能となる。しかし、ワイヤを揺動させたり往復運動させる場合、その揺動終点もしくは往復運動の移動方向が切り替わる度毎にワイヤが一時的に停止した状態となり、ワイヤが実質的に固定状態で半可塑性体を切断することとなるため、切断面にケバ立ちが生じたり、ワイヤが停止することにより生ずる凹凸模様により、切断面に周期的なワイヤ跡が生じて外観体裁を損ねる等の不具合があった。
【0006】
また上記のような不具合を解決するために、下記特許文献3のように前後同一箇所を通る2本のワイヤをその長さ方向にそれぞれ往復動作させて、後続するワイヤが先行するワイヤにより形成された切断面を平滑に整える方法が提案されているが、前記ワイヤが一時的に停止する時に生じるワイヤ跡の発生を完全には防ぐことができていない。
【0007】
さらに下記特許文献4、5のように、ワイヤの両端部をそれぞれ巻取ドラムに巻付け、そのワイヤを一方の巻取ドラムから他方の巻取ドラムに向かって走行移動させながら切断することで、前記の不具合を減少させる切断方法も提案されている。この方法によれば、ケバ立ちが抑えられ、ワイヤ跡がそこそこ少ない切断面を得ることができる。しかし、開示された実施例からも明らかなように、装置が大型化してしまうため、一箇所の切断には適しているが複数箇所を同時に切断するには適しておらず、実際の操業に使えない。
【0008】
以上の特許文献1〜5の課題を解決するために、本発明者は下記特許文献6に記載の半可塑性体の切断装置を提案した。その装置は、所定の間隔をおいて配設された複数本のワイヤを小型ブレーキ機構を配した巻戻しドラムから引き出すことで緊張を与える構造とし、その長手方向に折り返し走行させた状態で上記ワイヤに向かって半可塑性体を所定の速度で相対移動させ、上記各ワイヤの折り返し部が半可塑性体に対して同一切断面を通過するようにして、上記折り返し部の前側のワイヤによる切断面を後続するワイヤが通過しつつ切断面を均すようにしたものである。この装置によれば、一度に複数本のワイヤを用いて、それぞれのワイヤの張力を個別に適正にたもちつつ、半可塑性体の切断が実施可能であり、さらにケバ立ちの少ない見栄えの良い平滑な切断面が得られる。
【0009】
しかしながら、上記の方法では、ワイヤに加わる切断抵抗が大きく、走行するワイヤに対して切断抵抗に抗する張力をあたえる機構が複雑化、大型化し、設備を良好な状態に保つ為に多大なメンテナンスを要する不具合があった。また、第1切断工程で使用したワイヤを折り返して第2切断工程にも使用するため、ほとんど切断抵抗が加わらない第2切断工程区間でも、ワイヤには第1切断工程区間と同等の張力が加わったままの状態であり、ワイヤの伸びを助長し、寿命が極端に低下してしまい、ワイヤ張替え頻度の増加を招いていた。
【0010】
【特許文献1】特開昭60−260304号公報
【特許文献2】特開昭64−82905号公報
【特許文献3】特公昭40−28107号公報
【特許文献4】特開昭49−83087号公報
【特許文献5】特開昭56−33295号公報
【特許文献6】特開2005−288642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように半可塑性体の切断面を平滑にするために提案された上記従来の技術では、平滑さを追求すれば装置の大型化もしくは複雑化を招き、多大なメンテナンス作業を要し、かつワイヤ寿命が低下していた。また、装置の簡素化を優先すれば、平滑さを犠牲にしなければならなかった。
【0012】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、構造の簡素化によるメンテナンス作業の容易化と走行ワイヤへの負担軽減を図り、さらに切断面の平滑化を簡単・確実に達成することのできる半可塑性体の切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために本発明による半可塑性体の切断装置は、以下の構成としたものである。すなわち、緊張状態に配置した切断用のワイヤと、未養生のALC等の半可塑性体とを相対移動させて上記半可塑性体を所望の大きさ形状に切断する半可塑性体の切断装置において、上記半可塑性体に対する相対移動方向前側と後側とに配置して上記半可塑性体の同一箇所を切断する前後一対のワイヤを、上記相対移動方向と交差する方向に複数対並べて設け、その各前側のワイヤを緊張状態で所定位置に配置固定すると共に、上記各後側のワイヤを、切断時に1回の切断作業が終了するまでワイヤ長手方向に連続的に走行移動させるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成された本発明による半可塑性体の切断装置によれば、緊張状態で所定位置に配置固定した各前側のワイヤと、半可塑性体との相対移動で該半可塑性体を切断した後、その相対移動方向後側に位置する各後側のワイヤを切断時に1回の切断作業が終了するまで一方向に連続的に走行移動させることによって、上記の切断面を平滑に均すことができる。その際、ワイヤに掛かる切断抵抗は主として前側のワイヤが負担し、後側のワイヤには切断抵抗は殆ど作用しない。そのため、後側のワイヤは、前側のワイヤで既に切断された切断面を専ら均す機能が主となり、切断面を良好に平滑化することができる。また、後側のワイヤには上記のように切断抵抗は殆ど作用しなので、例えば半可塑性体の密度のバラツキや切断抵抗の変動等があっても、後側のワイヤが揺れたり蛇行することがなく、極めて効率よく且つ良好に平滑化することができる。
【0015】
さらに上記のように後側のワイヤには切断抵抗が殆ど作用しないので、後側のワイヤに掛かる張力は少なくて済み、ワイヤが破断したり、それを補修もしくは交換する作業を可及的に低減することができる。そのため、上記後側のワイヤのように、その長手方向に走行移動させるものは、巻戻ドラムや巻取ドラム等からの脱着作業に多大な労力と時間を要するが、それらの作業が不要もしくは大幅に軽減することが可能となる。また後側のワイヤには切断抵抗が殆ど作用しないので、そのワイヤに張力を付与する機構の構成や容量を小型化できる共に、使用する原動機などの動力も小さくてよく、全体の構造も簡素化できる等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による半可塑性体の切断装置を図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。図1は本発明による半可塑性体の切断装置の一実施形態を示す正面図、図2(a)はその一部の拡大正面図、同図(b)はその縦断側面図である。
【0017】
本実施形態における半可塑性体の切断装置は、半可塑性体Fの同一箇所を切断する前後一対の切断用ワイヤW1,W2を、その各長手方向が上下方向になるように配置して、正面略長方形状の枠体1の前側と後側とに互いに前後方向に重なるようにして並べて設けると共に、その前後一対のワイヤW1,W2を上記枠体1の幅方向(図1で左右方向)に所定の間隔をおいて複数対並べて設けた構成である。図中、2,3は上記ワイヤW1,W2を上記の配置位置に位置決め保持させるための上下一対の位置決め板で、その各位置決め板2,3は、それぞれ櫛歯状に形成され、上記枠体1の上部と下部とにそれぞれ取付け支持されている。そして、上記各位置決め板2,3に形成した切込溝2a,3aに上記ワイヤW1,W2の上部と下部とを、それぞれ係合して位置決め保持させた構成である。上記各ワイヤW1,W2として、本実施形態においてはピアノ線等の鋼線を用いたものであるが、高強度繊維等を用いることもできる。
【0018】
上記各前側のワイヤW1は、上記枠体1の前側の所定位置に緊張状態で配置固定するようにしたもので、図の場合は各ワイヤW1の上下両端部に鼓形の係止部材4a・4bを取付け、その下側の係止部材4bを上記下側の位置決め板3の下面側に設けた係止フック6に係合保持させると共に、上側の係止部材4aを、エアシリンダ7のピストンロッドに設けた係止フック5に係合保持させ、上記エアシリンダ7を枠体1の上部に連結固定した構成である。上記エアシリンダ7は、図の場合は各ワイヤW1毎に設けられ、その各エアシリンダ7によって各ワイヤW1に所定の張力が付与され、それによって各ワイヤW1が常時緊張した状態に保持されている。
【0019】
また上記各後側のワイヤW2は、上記のように各前側のワイヤW1の後側に位置して、切断時に1回の切断作業が終了するまでワイヤ長手方向に連続的に走行移動させるようにしたもので、図の場合は上記各前側のワイヤW1の後側の枠体1の上部に巻戻ドラム8を各ワイヤW2毎に設け、その各巻戻ドラム8上に予め巻き戻しておいたワイヤW2を、上記各巻戻ドラム8から順に繰り出して、枠体1の下部に設けた巻取ドラム9に順次巻取るように構成したものである。
【0020】
その巻取ドラム9は、図の場合は1つの丸棒状のドラムの外周面に、上記複数個の巻戻ドラム8からそれぞれ繰り出された各ワイヤW2を巻取るための断面V字形の円周溝よりなる巻取部9aを軸方向に複数個設けたもので、その巻取部9aは、本実施形態においては前記ワイヤW1の配置ピッチと等しいピッチで該ワイヤW1(およびワイヤW2)と同数設けられている。また上記巻取ドラム9は、図1において左右一対の軸受部材10を介して上記枠体1の下部に回転自由に設けられ、上記枠体1の図1で左側に設けたモータ等の巻取ドラム駆動用の原動機11によって、駆動スプロケット12とチェーン13および従動スプロケット14とからなる伝動機構15を介して上記巻取ドラム9を所定の巻き取り方向に回動させる構成であり、それによって、上記複数個の巻戻ドラム8から繰り出されたワイヤW2を上記巻取部9aに同時に巻き取るものである。
【0021】
一方、上記巻戻ドラム8は、枠体1の上部に設けた支持フレーム16上に一対の軸受部材17・17を介して回転自由に支持され、枠体1の上面に取付けたモータ等の巻戻ドラム駆動用の原動機18によって、駆動プーリ19とベルト20および従動プーリ21とからなる伝動機構22およびブレーキ装置23を介して上記巻取ドラム9に巻き取られたワイヤを上記巻戻ドラム8に巻き戻す構成である。上記原動機18には、その出力軸の回転を停止するためのブレーキが内蔵されているが図には省略した。図中、24,25は上記各ワイヤW1,W2の向きを変更するための転向ローラで、その各転向ローラ24,25よりも上側ではほぼ上下方向に配されている各ワイヤW1,W2を、上記各転向ローラ24,25よりも下側では下方に行くに従って半可塑性体Fの移動方向前側に傾斜するように、上記各ワイヤW1,W2の向きを変更させるたものもので必要に応じて設ける。
【0022】
上記ブレーキ装置23は、本実施形態においては上記各巻戻ドラム8の中心部にそれと一体的に設けた回転軸上において、互いに摩擦接触する一対の摩擦円板を対向させて配置した構成であり、上記各巻戻ドラム8から繰り出されたワイヤW2を巻取ドラム9に巻き取る際には、上記巻戻ドラム駆動用の原動機18の出力軸の回転を、該原動機18内に内蔵されたブレーキでロックした状態で、上記巻取ドラム9が巻き取り方向に回転すると、上記ワイヤW2を介して上記各巻戻ドラム8がワイヤ繰り出し方向に回転し、その巻戻ドラム8の回転軸上のトルクがブレーキ装置23で設定した値に達すると、該ブレーキ装置23の巻戻ドラム8側の摩擦板が、他方の摩擦板との摩擦力に抗して上記巻戻ドラム8と共にそれと同方向に回転し、上記両摩擦板による摩擦力で上記ワイヤW2に対して設定した張力を付与する構成である。
【0023】
一方、上記ワイヤW2を巻戻ドラム8に巻き戻す場合には、上記巻戻ドラム駆動用の原動機18を所定の巻戻し方向に回転させつつ、巻取ドラム駆動用の原動機11により巻取ドラム9を巻取方向と反対方向に回転させてやればよい。このとき、巻戻ドラム8の周速が巻取ドラム9の周速よりも高ければ、ブレーキ装置23が摩擦回転し、その際にブレーキ装置23による摩擦力で、上記ワイヤW2に緊張を与えつつ巻き戻すことができる。
【0024】
なお、上記のように各巻戻ドラム8に巻戻した各ワイヤW2を巻取ドラム9に巻取る際には、上記巻戻ドラム駆動用の原動機の出力軸は、必ずしもその内蔵されたブレーキで停止した状態である必要はなく、上記巻取ドラム9が回転することでワイヤW2が走行する速度以下の周速で送り方向に回転させるか、或いは逆回転させる方法でも可能である。また、前記ブレーキ装置23は、摩擦板を利用した摩擦式ブレーキ装置の他に、例えば液体の抵抗を利用した抵抗式ブレーキ等、種々のものが使用可能であり、使用する装置の大きさや必要となるブレーキ力等により最適なものを適宜選定すればよい。
【0025】
上記の構成において、未養生のALC等の半可塑性体Fを切断するに当たっては、前記各エアシリンダ7によって各前側のワイヤW1に所定の張力を付与して緊張状態に保つと共に、上記各後側のワイヤW2の一端側(上端側)を巻戻ドラム8上に予め巻戻した状態で、巻戻ドラム駆動用の原動機18に内蔵されたブレーキを働かせて該原動機18の出力軸を固定するとともに、ブレーキ装置23により巻戻ドラム8を制動する。そして、巻取ドラム駆動用の原動機11により巻取ドラム9を所定の巻き取り方向に回転駆動させて各巻戻ドラム8から順次繰り出されるワイヤW2を引っ張ることで、上記ブレーキ装置23によって発生する負荷により、上記ワイヤW2には設定した所定の張力を付与しつつ、上記各巻戻ドラム8から巻取ドラム9に順次巻き取っていく。
【0026】
その状態で、未養生のALC等の半可塑性体Fを枠体1内に送り込むか、或いは半可塑性体Fに向かって枠体1を搬送することによって上記半可塑性体Fと枠体1とを相対移動させて該半可塑性体Fを切断するもので、本実施形態においては図2(b)のように、前記各ワイヤW1,W2を備えた枠体1の内方に向かって半可塑性体Fを移動させることによって、該半可塑性体Fを、その移動方向全長にわたって連続的に切断ようにしたものである。
【0027】
その切断プロセスとしては、先ず上記半可塑性体Fに対して、その移動方向前側に位置する前記各前側のワイヤW1が半可塑性体F内に進入して該半可塑性体Fが順次切断された後、その切断された箇所に、各後側のワイヤW2が巻戻ドラム8から巻取ドラム9に向かって一方向、本実施形態においては上から下に向かって走行移動しながら進入して上記の切断された箇所の切断面を上記ワイヤW2が均し、それによって上記の切断面を平滑に仕上げるものである。
【0028】
上記のようにしてワイヤW2を巻戻ドラム8から巻取ドラム9に走行移動させながら半可塑性体Fを切断した後は、巻取ドラム9を巻取方向と反対方向に逆転させると共に、巻戻ドラム8を巻取ドラム9よりも若干速い周速で巻戻し方向(巻戻ドラム8にワイヤW2を巻取る方向)に回転させる。それによって、上記両ドラム8,9の周速の違いによりワイヤW2を介してブレーキ装置23が働き、ワイヤW2に適正な緊張を与えつつ巻取ドラム9から巻戻ドラム8に巻戻すことで、巻戻し時のワイヤW2のたるみを防止する。
【0029】
なお、上記各ワイヤW2は、1回の切断作業が終了するまでは途中で停止したり走行移動方向を反転させることなく、一方向にのみ連続的に走行移動させるもので、図の場合は上記各ワイヤW2を上側の巻戻ドラム8から下側の巻取ドラム9に向かって走行移動させる場合にのみ半可塑性体Fを切断するようにしたが、上記各ワイヤW2を巻取ドラム9から巻戻ドラム8上に巻き戻す際にも半可塑性体Fを切断するようにしてもよい。
【0030】
上記のように本発明による半可塑性体の切断装置は、所定位置に緊張状態で配置固定した各前側のワイヤW1と、半可塑性体Fとの相対移動動作で該半可塑性体を切断した後、その切断位置よりも相対移動方向後側に位置する各後側のワイヤW2で上記の切断面を平滑に均すことができるもので、特に上記各後側のワイヤW2を切断時に1回の切断作業が終了するまでワイヤ長手方向に連続的に走行移動させるようにしたので、上記各ワイヤW2を途中で停止したり走行移動方向を途中で反転した場合のように、それらの痕跡であるワイヤ跡が切断面に生じることなく平滑に均すことができる。
【0031】
また上記の切断時にワイヤに掛かる切断抵抗は主として前側のワイヤW1が負担し、後側のワイヤW2には切断抵抗は殆ど作用しないため、後側のワイヤW2は、前側のワイヤW1で既に切断された切断面を専ら均す機能が主となり、切断面を良好に平滑化することができる。特に、後側のワイヤW2には上記のように切断抵抗は殆ど作用しなので、例えば半可塑性体の密度のバラツキや切断抵抗の変動等があっても、後側のワイヤW2が揺れたり蛇行することがなく、極めて効率よく且つ良好に平滑化することができる。
【0032】
さらに上記のように後側のワイヤW2には切断抵抗が殆ど作用しないので、後側のワイヤW2に掛かる張力は少なくて済み、ワイヤW2の寿命を飛躍的に延ばすことができる。その結果、ワイヤW2が破断するのが可及的に低減され、ワイヤW2の交換作業を大幅に少なくすくことができる。そのため、上記後側のワイヤW2のように、その長手方向に走行移動させるものは、交換時に巻戻ドラム8や巻取ドラム9等からの脱着作業に多大な労力と時間を要するが、それらの作業が不要もしくは大幅に軽減することができる。また後側のワイヤW2には切断抵抗が殆ど作用しないので、そのワイヤW2に張力を付与する機構の構成や容量を小型化できる共に、使用する原動機などの動力も小さくてよく、装置全体の構成や構造も簡素化することができる。
【0033】
実際、上記実施形態においては、4台の巻戻ドラム8を1台の原動機で巻戻す構成であり、その原動機18を4つ設けることで合計16本のワイヤW2を巻き戻すことができるように構成されいる。なお、一般的なALCの製造工程では、原料スラリーを流し込む型枠の幅は1500mmよりも僅かに大きく、上記のように16本のワイヤを配した場合には、約100mm厚さのALCパネルを同時に切断することができるものである。
【0034】
また半可塑性体として未養生のブロック状のALCをパネル状に切断してALCパネルを得る場合であって、養生後のパネル表面にタイル等の役物を接着貼等で貼着する場合には、ワイヤの走行速度を適宜調整してALCの切断面に、わざと微少なケバ立ちが生じるようにすることも可能であり、そのようにすると、ALCパネル表面に上記役物を貼着する際の貼り付け強度を向上させることができる。
【0035】
さらに本発明による半可塑性体の切断装置によれば、例えばALCパネルを使用する目的に合わせて、種々の性状や意匠性等を有するALCパネルを容易に得ることも可能となる。その場合、本発明による半可塑性体の切断装置は、走行移動するワイヤW2が1回の切断作業の途中で停止したり、走行方向が逆転するようなことがないので、切断したALC等の半可塑性体の表面にはワイヤ跡は生じない。
【0036】
また本発明による半可塑性体の切断装置は、従来の技術と比較して装置の小型化が可能であり、設置が容易である。しかも所望するパネル枚数に対応したワイヤを一度に設置できるので、一度の切断作業において複数箇所の切断が可能となり、従来の技術と比較すると生産性が高い。さらに、走行するワイヤW2を交換する際には巻取ドラムごと交換すれば済むため、ワイヤを設置する時間が短縮され、作業性と生産性に優れた切断装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明による半可塑性体の切断装置によれば、所定位置に緊張状態で固定配置した前側のワイヤW1で半可塑性体を切断した後、その後方位置で緊張状態に保たれ、かつ1方向に走行移動する後側のワイヤW2が、上記前側のワイヤW1で切断された切断面を均すので、平滑な切断面が得られる。また上記ワイヤW2は、既に切断済みの箇所を均しながら通過するだけなので、必要とする張力も少なくて済み、ワイヤの寿命が飛躍的に伸び、かつ、装置構造の簡素化が達成される。そのため、例えばALCの半可塑性体の切断に適用すれば、切断面が平滑で高品位のALCパネルが得られる。このようにして得られた切断面が平滑なALCパネルは、その表面に生じるケバ立ちや細かい凹凸の剥れによる粉の発生が無く、高品位感が得られ、且つ施工現場への搬入時などに辺りを汚すことがない。また表面が平滑で且つワイヤ跡も無いので、パネル表面を塗装仕上げする際の塗料も少なくて済み経済的であり、またALCに限らず、その他各種半可塑性体の切断方法として有効に適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による半可塑性体の切断装置の一実施形態を示す正面図。
【図2】(a)は上記切断方法の一部の拡大正面図、(b)はその縦断側面図。
【符号の説明】
【0039】
1 枠体
2、3 位置決め板
4a、4b 係止部材
5、6 係止フック
7 エアシリンダ
8 巻戻ドラム
9 巻取ドラム
9a 巻取部
10 軸受部材
11 巻取ドラム駆動用原動機
12 駆動スプロケット
13 チェーン
14 従動スプロケット
15 伝動機構
16 支持フレーム
17 軸受部材
18 巻戻ドラム駆動用原動機
19 駆動プーリ
20 ベルト
21 従動プーリ
22 伝動機構
23 ブレーキ装置
24、25 転向ローラ
W1、W2 ワイヤ
F 半可塑性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張状態に配置した切断用のワイヤと、未養生のALC等の半可塑性体とを相対移動させて上記半可塑性体を所望の大きさ形状に切断する半可塑性体の切断装置において、
上記半可塑性体に対する相対移動方向前側と後側とに配置して上記半可塑性体の同一箇所を切断する前後一対のワイヤを、上記相対移動方向と交差する方向に複数対並べて設け、その各前側のワイヤを緊張状態で所定位置に配置固定すると共に、上記各後側のワイヤを、切断時に1回の切断作業が終了するまでワイヤ長手方向に連続的に走行移動させるように構成したことを特徴とする半可塑性体の切断装置。
【請求項2】
上記一対のワイヤを、その各長手方向が上下方向になるようにして配置すると共に、上記各後側のワイヤを上から下に向かって走行移動させるように構成した請求項1に記載の半可塑性体の切断装置。

【図1】
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【図2】
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