説明

半導体シリコンプロセス技術によって作製した試料台

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、メッシュのように表面の平坦度の問題やバックグランドノイズとなることが無く、試料の追加加工が可能であって、その作製に熟練技術を要しないでピンポイントサンプリングした試料を固定することができる試料台を提供することにある。
【解決手段】 本発明の試料台は、シリコン基板を素材として、形状と10μm以下の厚さ構造を半導体シリコンプロセス技術によって作製し、本発明の試料台は、試料部分がかからないように半切りメッシュ上に試料台を貼着した。また、試料が取り付けられる箇所が同一基板上に複数個配置されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピンポイントサンプリングしたTEM観察試料等の微小試料を固定し、追加工を容易にする試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム(FIB)装置を用いて試料の特定箇所から微小試料片を切り出すピンポイントサンプリングを行って、これを試料台に固定する手法は従来から種々提示されている。例えば、半導体デバイスの断面観察用の透過型電子顕微鏡(TEM)試料作製方法には、1)ウエハの特定箇所を含む部分をブロック状に機械的に切り取ってそれをFIB加工によって薄片化する方法、2)ウエハの特定箇所の前後をFIBで穴掘り加工し、更にFIBによって薄片化仕上げ加工まで施してからピックアップしてメッシュに移送して固定する方法(リフトアウト法:特許文献1参照)、3)ウエハの特定箇所の前後をFIBで穴掘り加工し、微小ブロックの形態でピックアップし試料台に固定した後、更にFIBによって薄片化仕上げ加工を施す方法(特許文献2参照)などが提示されている。1)の方法はダイシングで加工するため、割れや欠けの問題が付いて回るし、熟練技術をしても厚さ加工は10μmが限界である。2)の方法は試料片が超微細であるため一旦見失ってしまうと回収不可能であるし、ピックアップ後の再加工も出来ない。微小ブロックの形態でピックアップする3)の方法は、該微小ブロックをマイクロマニピュレータで操作されるプローブの先端に一旦FIBCVDで固定し、試料台まで移送した後切り離すという熟練を要する厄介な作業を伴う。
【0003】
非特許文献1には、再加工が可能である3)の方法について開示されている。リフトアウトした試料を、カーボンメッシュに貼り付ける2)の方法によると再加工が出来なくなるので、最初に、メッシュに代わる試料台を作製する。すなわち、Siウエハを10μm近い厚さになるようにダイシング法で研磨し、その上にTEM観察する際、電子が透過するのに邪魔にならないための溝と、リフトアウトした試料を引っ掛ける壁をFIBで加工し図7左上の図に示すような試料台イを作製する。試料をリフトアウトするまでの工程はリフトアウト法と同じであるが、リフトアウト後に追加工をする必要があるため、観察部を2〜3μm厚残して試料に対するFIB加工を一旦終える。FIB加工部からマイクロマニピュレータを操作してリフトアウトした微小試料片ロ(観察部)を、Siウエハで作製した先の試料受け台イに引っ掛ける(図7右上の図に示す状態)。この試料台イに載置した微小試料片ロを試料台ごと再びFIB加工部に戻し(図7左下の図に示す状態)、試料ロの両端と底をタングステン等のFIBデポジションで試料台イに固定する(図7右下の図に示す状態)。試料ロが固定されたなら、薄片化の再加工を施すという手順で試料を作製するものである。
【0004】
ピンポイントサンプリングした試料を追加工する場合、メッシュなどの試料台のバックグランドを下げるために、試料台も大きく加工するか、加工部を少なくするために、メッシュの厚さを薄くすることや、ダイシングで試料台を作製し、試料片を乗せる部分の厚さを薄くする工夫が成されている。しかし、メッシュを薄くするとハンドリングが難しく、強度がなくメッシュを直ぐ曲げてしまう。更に、エッチングで作製したメッシュ表面は一様でなく、うねりや凹凸があり、微小な小片を垂直に固定するには不向きである。また、ダイシングでSiウエハを加工して試料台を作製すると非常に良いものが作製できるが、手作業であるため熟練技術が必要であり、量産が難しく、高価なものになってしまうという問題があった。さらに、ダイシング加工では、チッピング(割れや欠け)を起こしやすいので、試料固定面の幅は、頑張っても10μm以下にすることは難しく、通常は、20μm程度になっていた。TEM試料作製の場合、試料台のバックグランドを下げるために、試料台もエッチングするので、試料台が厚いとその分加工時間も長くなるという問題も有った。
【特許文献1】特開2001−141620号公報 「透過電子顕微鏡用試料の切り込み加工法」 平成13年5月25日公開
【特許文献2】特開2003−35682号公報「試料ホルダ及び試料分析方法」 平成15年2月7日公開
【非特許文献1】坂田大祐 「追加工できるFIBリフトアウト法」 日本電子顕微鏡学会第58回学術講演会発表要旨集 247頁 2002年5月14日〜16日 日本電子顕微鏡学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、メッシュのように表面の平坦度の問題やバックグランドノイズとなることが無く、試料の追加加工が可能であって、その作製に熟練技術を要しないで薄片化試料を固定することができる試料台を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の試料台は、シリコン基板を素材として、二次元形状と10μm以下の厚さ構造を半導体シリコンプロセス技術によって作製した。
また、その二次元形状と厚さ構造は雛壇形態とし、試料固定部分は雛壇の最上段に設けるようにした。
また、本発明の試料台は、試料部分がかからないように半切りメッシュ上に試料台を貼着した。
また、本発明の試料台は、試料が取り付けられる箇所が同一基板上に複数個配置されるようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の試料台は、シリコン基板を素材として、形状と10μm以下の厚さ構造を半導体シリコンプロセス技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)によって作製したので、熟練技術を必要とすることなく試料固定面のサブミクロンの精度で平坦性を出すと共に、試料固定面の幅を5μm程度に小さく加工できる。試料台そのものの大きさを小さく加工できるため、照射電子の散乱に基づくバックグランドの少ないTEM試料を作製することができる。このことは従来バックグランドノイズを減らすために行っていた試料台そのものの厚さを薄くする加工が不必要となり、加工時間の短縮につながる。また、一度に多数のものを作製できることから、1個当たりの加工時間の短縮が実現でき、高品質のものを安価に供給することができる。
【0008】
また、本発明の試料台は、試料固定面に個々の試料片を植設形態で固定するものであるから、試料の固定後も観察後においても追加加工が可能である。
また、本発明の試料台の形状は、雛壇形態とし、試料固定部分は雛壇の最上段に設けるようにしたものであるから、シリコン基板をエッチッグする領域をステップ状に狭くしていくことで容易に作成することが出来る。
また、本発明の試料台は、試料部分がかからないように半切りメッシュ上に試料台を貼着したので、試料台そのものが微小であっても取り扱いが容易であると共に、試料片部分にはメッシュが存在しないので、バックグランドノイズとならない。
また、本発明の試料台は、試料が取り付けられる箇所が同一基板上に複数個配置されるようにしたので、関連する一連の試料を1つの試料台上に載置することができ、比較観察等の試験が短時間で容易に実施できるし、試料の管理利用にも便利である。更に、追加工するときにも複数の試料片が1つの試料台に固定されているため、真空状態などチャンバ内環境条件を保ったまま順次複数試料の加工が出来、加工時間の短縮となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では10 0〜120μmの厚さのシリコンウエハを素材とし、半導体シリコンプロセス技術によって試料台を形成する。本発明の試料台の一般構造は図1に示されるように雛壇形状であって、その雛壇の最上段が試料固定面となる。この雛壇形状をシリコンウエハの厚み方向にリソグラフィーの手法で形成する。すなわち、1)シリコンウエハの表面にレジスト膜を形成し、2)マスクパターンを用いて現状の厚さを維持させる領域に露光を施して保護膜を形成させ、3)レジスト膜を除去させると共に、保護膜のない領域のシリコンを所望厚さまでエッチングする。4)再度ウエハの表面にレジスト膜を形成させ、5)マスクパターンを用いて現状の厚さを維持させる領域に露光を施して保護膜を形成させ、6)レジスト膜を除去させると共に、保護膜のない領域のシリコンを所望厚さまでエッチングする。以下必要なエッチングを重ね、試料固定面となる最上段が10μm以下の厚さとなるまで加工する。1つの試料台の大きさは縦寸法1000μm以下、横寸法1000〜1500μmで、これを図2に示すように直径3mm、厚さ50μm程度のメッシュ上に貼着固定する。ここで用いるメッシュは全円形状ではなく試料固定部分は切り欠いた半切りメッシュである。それはTEM観察に際して透過電子がメッシュを経由してバックグランドノイズとなることを避けるためである。この手法によって形成した試料台の表面精度は±1μm以下であり、表面ラフネスも0.1μm以下である。因みに従来のダイシングによって作製した試料台の表面精度は数〜数十μm以下、表面ラフネスは数μm以下程度である。なお、図中の寸法は本発明を限定する数値ではなく、一般的な大きさを把握するために例示したものである。
【実施例1】
【0010】
図3に示した本発明に係る試料台の1実施例の製造過程を図4、図5を参照しながら説明する。ベース層11の上に厚さ100μmのシリコン単層12が形成されたシリコン基板1を素材とする。このシリコン基板1の単層12表面に図5のAに示すようにマスク膜2を形成し、その上にリソグラフィー用のレジスト膜3を形成する。次に最下段の雛壇前面を縦寸法400μm×横寸法1100μmに形成すべく、リソグラフィー用のマスクを準備する。このマスクの形状は図4のAに示す形状である。当然のことながらこのマスクパターンは1つだけではなく、ウエハ上に形成できる試料台の数だけマトリックス状に多数配置される。このマスクのパターンを紫外線照射して先のレジスト膜3上に転写する。これによって、図5のBに示すようにマスク膜2上に最下段雛壇の前面部に当たる領域がレジスト31に覆われ、それ以外の部分はマスク膜2が露出する。この状態でマスク膜2のエッチングを行うと図5のCに示すようにレジスト31に覆われた領域以外はシリコン層12が露出する。そしてレジスト剥離液を噴射してレジスト31を除去する。つづいてシリコン層12に対し表面と垂直な方向に異方性エッチングを行い50μmまで進める。これによって図5のDに示すように幅50μmの最下段の雛壇面が形成される。
【0011】
つづいて図5のEに示すように基板表面に再度マスク膜2と、その上にレジスト膜3を形成する。今度は第2段の雛壇前面を縦寸法180μm×横寸法1100μmに形成すべく、リソグラフィー用のマスクを準備し、そのマスクのパターンを紫外線照射して先のレジスト膜3上に転写する。このマスクの形状は図4のBに示す形状が先の図4のAに継ぎ足されたもの(A+B)である。これによって、図5のFに示すようにマスク膜2上に第1段雛壇の前面部と第2段雛壇の前面部に当たる領域がレジスト31に覆われ、それ以外の領域のマスク膜2が露出する。この状態でエッチングを行うとレジスト31に覆われていないこの領域のシリコン層12が露出する。つづいてレジスト31を除去してシリコン層12の表面と垂直な方向に異方性エッチングを行い30μmの深さまで進める。これによって図5のGに示すように第2段の雛壇面が形成される。
【0012】
つづいて図5のHに部分拡大して示すように基板表面に三度マスク膜2と、その上にレジスト膜3を形成する。今度は第3段の雛壇を形成すべく、リソグラフィー用のマスクを準備する。そのマスクの形状は図3のCに示す如く、縦寸法90μm×横寸法1100μmの矩形パターンを先のマスク形状に継ぎ足したもの(A+B+C)とする。そのマスクのパターンを紫外線照射して先のレジスト膜3上に転写する。これによって、図5のIに示されるようにマスク膜2上に第1段から第3段の雛壇の前面部に当たる領域がレジスト31に覆われ、それ以外の部分はマスク膜2が露出する。この状態でエッチングを行うとレジスト31に覆われた領域以外はシリコン層12が露出する。つづいてレジスト31を除去しシリコン層12の表面と垂直な方向に異方性エッチングを行い15μmの深さまでシリコン層12をエッチングする。この段階で図5のJに示すように第3段と最上段の雛壇面が形成されたことになる。
【0013】
つづいて図5のKに示すように基板表面に四度マスク膜2と、その上にレジスト膜3を形成する。今度は最上段の試料固定部を分離形成すべくリソグラフィー用のマスクを準備する。そのマスクの形状はこの実施例では最上段と第3願雛壇部分を分離されるものであるから両者の高さ寸法120μmに合わせ、図4のDに示す如く、縦寸法120μm×横寸法1100μmと200μm横方向に間隔をとって縦寸法120μm×横寸法50μm、更に200μm横方向に間隔をとって縦寸法120μm×横寸法20μm、更に200μm横方向に間隔をとって縦寸法120μm×横寸法30μm、更に200μm横方向に間隔をとって縦寸法120μm×横寸法100μmの5つの矩形パターンをAとBのパターンに継ぎ足したもの(A+B+D)とする。そのマスクのパターンを紫外線照射して先のレジスト膜3上に転写する。これによって、マスク膜2上に第3段と最上段の雛壇の前面部であって分離される領域だけがレジスト31に覆われないでマスク膜2が露出する。この状態でエッチングを行うとレジスト31に覆われていないこの領域はシリコン層12が露出する。つづいてシリコン層12の表面と垂直な方向に異方性エッチングを行いシリコン層12がなくなってベース層11が露出するまで進める。このときエッチングされる部分は図5のK中破線より右側部分である。この加工によって、第3段と最上段の雛壇が5つに分割される。
以上のプロセスによってシリコン加工工程を終えるので、レジスト剥離液を用いてレジストを除去し、つづいてマスク膜2を除去する。このようにして本実施例のシリコン試料台が基板1のベース層11上に多数形成されることになる。
【0014】
この様に本発明ではMEMS技術によって試料台4を作製するようにしたので、極めて薄い試料固定面を形成することが出来る。表面精度は±1μm以下であり、表面ラフネスも0.1μm以下である。この試料台4を図2に示すように厚さ50μm直径3mmほどの半切り円形メッシュ5上に導電性の接着剤を用いて貼着する。導電性の接着剤を用いる理由は試料が荷電粒子照射によってチャージが溜まるなど電気的に浮かないようにするためであり、導電性接着剤を用いる代わりに導電コートを行う処理をしても良い。
雛壇の最上段にピンポイントサンプリングした微細試料切片を固定する。例えば本発明の試料台に微細試料切片を固定した後、TEM観察用試料の場合Gaイオンを用いたFIBで薄片化加工を行うが、その加工によってイオン残留などの問題が残る。その対策としてArイオンを用いたFIBで残留するGaイオンを除去する仕上げ加工をするが、その際、本発明の試料台は極めて薄く作製できるので、図6に示すように下方からのイオン照射でこの加工を行うことが出来る。すなわち10度以下であれば試料台が存在しても試料へのArイオンビームの照射が可能であり、この方向からの照射できることにより、再付着はほとんどないものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
以上本発明の試料台はTEM観察用のピンポイントサンプルを例として説明してきたが、これに限定されるものではなく、DEM試料や他の表面分析装置で用いる微小試料用にも広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のMEMSによって作製された試料台を示す図である。
【図2】メッシュに試料台を貼り付けた形態を説明する図である。
【図3】本発明に係るMEMSによって作製された試料台の1実施例を示す図である。
【図4】実施例の試料台を作製する際に使われるマスクパターンを説明する図である。
【図5】実施例の試料台を作製するプロセスを説明する図である。
【図6】試料台の薄さが下方からのArイオンビームの照射を可能とすることを示す説明図である。
【図7】追加工が出来る従来のリフトアウト法を説明する図である。
【符号の説明】
【0017】
1 シリコン基板 11 シリコン単層
12 ベース層 2 マスク膜
3 レジスト膜 31 現像されたレジスト膜
4 MEMS試料台 5 メッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を素材として、二次元形状と10μm以下の厚さ構造を半導体シリコンプロセス技術によって作製した試料台。
【請求項2】
二次元形状と厚さ構造は雛壇形態とし、試料固定部分は該雛壇の最上段に設けられたものである請求項1に記載の試料台。
【請求項3】
試料部分がかからないように半切りメッシュ上に貼着された請求項1又は2に記載の試料台。
【請求項4】
試料が取り付けられる箇所が同一基板上に複数個配置された請求項1から3のいずれかに記載の試料台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−226970(P2006−226970A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44604(P2005−44604)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】