説明

半導体デバイスの高周波特性測定方法及び装置

【課題】
従来のネットワークアナライザー等による測定に比べて、測定帯域を数十THzにまで拡大する。
【解決手段】
一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定法である。光パルスを用いて、3端子半導体素子の選択された電極間を導通させることで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成させ、入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により、半導体デバイスから空間に放射される電磁波の波形を時間領域で検出し、検出された時間波形情報を処理して該半導体デバイスの高周波特性を測定する。好ましい態様では、光パルスを、半導体デバイスの半導体基板における選択された部位に直接照射することで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの高周波特性を測定する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの高周波特性は、半導体デバイスに様々な電気信号を入力信号として導入し、それに対する半導体デバイスの応答である電気信号を、ネットワークアナライザー等の装置を用いて周波数領域で測定することで行っていた。
【0003】
しかしながら、現在入手可能なネットワークアナライザーでは測定帯域が110GHz程度までであり、現状の半導体デバイス(特に、高周波動作が可能なFET,HEMT等)の動作可能周波数よりはるかに低いため、非常に速い応答時間を持つ半導体デバイスの最高動作周波数近くでの特性を正確に測定することが出来ないという不具合がある。従来のネットワークアナライザーによる半導体デバイスの周波数特性の測定では、110GHz以上の高周波領域における半導体デバイスの応答に関しては、適当な理論を用いて外挿していたに過ぎなかった。
【0004】
半導体デバイスの高周波特性を評価する他の方法として、短いパルス幅の光パルスを用いて、光−半導体または光−非線形結晶間の相互作用を利用して短いパルス幅の電気信号を発生させ、この電気信号を入力信号として被測定素子である半導体デバイスに導入し、半導体デバイスの応答である電気信号を、上記相互作用を利用して測定する方法も提案されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載の手法においては、上記相互作用を利用して入力信号である電気パルスを生成させる機構、電気パルスを半導体デバイスの入力端子まで伝搬させる機構、その応答を検出機構まで伝搬させる機構、そして上記相互作用を利用して出力信号である電気パルスを測定する検出機構、が必要であり、通常これらの機構(測定用回路)は被測定素子である半導体デバイスとは別に作製しなければならない。
【0006】
具体的には、電気パルスを測定用回路上の電極を伝搬させるため、電極形状を正確に設計し、その特性インピーダンスを一定に保つことが必要であるが、この電極には同時に直流バイアスを印加するための工夫も必要であり、そのため電極構造が複雑で、その特性インピーダンスを一定に保つことが非常に困難である。従って、この技術では、被測定素子である半導体デバイスの形状や種類ごとに、最適化された電気パルスを伝搬させる為の電極形状を形成しなければならず、様々な種類の半導体デバイスの測定や、ウエハ上に多種多数作製された半導体デバイスの測定には向いていない。
【0007】
同様に、入力信号に応答した出力信号を取り出して検出するためには、出力信号を伝搬させる機構が必要となるが、出力信号が伝送路やケーブルを伝搬すると、信号が減衰してしまうという不具合がある。ここで、半導体素子から大気中に放射された電磁波を測定すること自体は公知であり、例えば、非特許文献2、3に記載されている。しかしながら、半導体デバイスの高周波特性との関係で、半導体素子から大気中に放射された電磁波を測定する文献は存在しない。
【特許文献1】特開平11−211785
【非特許文献1】“Optoelectronic TransientCharacterization of Ultrafast Devices”, Michael Y. Frankel, et al., IEEEJournal of Quantum Electronics, Vol. 28, No. 10,October 1992
【非特許文献2】“1.55-μm Photonic System for Microwave andMillimeter-Wave Measurement”, Tadao Nagatsuma et al., IEEETransactions on Microwave Theory and Techniques Vol. 49, No. 10, October 2001
【非特許文献3】“Millimeter wave emission from GaNhigh electron mobility transistor”, Y. Deng, et al., Applied Physics Letters,Volume 84, Number 1, 5 January 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のネットワークアナライザー等による測定に比べて、測定帯域を数十THzにまで拡大することができる高周波特性測定方法及び装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、光パルスにより生成された電気信号を入力信号とする半導体デバイスの高周波特性測定において、光パルスを用いて入力信号を生成させるための外部信号伝送機構、入力信号に応答する半導体デバイスの出力信号を検出するための外部信号伝送機構、のうち少なくとも一つを無くすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が採用した第1の技術手段は、一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定法であって、光パルスを用いて、3端子半導体素子の選択された電極間を導通させることで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成させ、入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により、半導体デバイスから空間に放射される電磁波の波形を時間領域で検出し、検出された時間波形情報を処理して該半導体デバイスの高周波特性を測定する、ものである。光パルスを用いて生成された入力信号に応答する電流変化(変調)により半導体デバイスから空間に放射された電磁波の波形を時間領域で検出し、検出された時間波形情報を処理して半導体デバイスの高周波特性を測定するということは、全く新しい知見である。電磁波の時間波形情報を用いることで、振幅情報(あるいはパワー情報)と位相情報の2つの情報を同時に測定することができ、周波数領域で取得した情報に比べて情報量が多い。また、時間波形情報そのものから、あるいは、時間波形情報をフーリエ変換した周波数情報から、カットオフ周波数を求めることができる。
【0011】
一つの好ましい態様では、光パルスを、半導体デバイスの半導体基板における選択された部位に直接照射することで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成する。半導体基板は、光伝導性(導電性)半導体から形成されている。一つの態様では、前記選択された部位は、その間を導通させることで入力端子に入力信号が生成される電極間である。こうすることで、入力信号を被測定デバイス内で直接生成することができるので、入力信号を伝搬させるための伝送路やケーブルが不要となる。
【0012】
他の好ましい態様では、光パルスを、3端子半導体素子の一つの電極に導通する外部電極と3端子半導体素子の他の一つの電極に導通する外部電極との間の領域(当該領域は、光照射により外部電極間を導通可能なような物質から形成されていればよく、好ましくは、GaAs半導体のような半導体が例示されるが、空気のような気体から形成されていてもよい)に照射して外部電極間を導通させることで、外部電極を介して、前記一つの電極と前記他の一つの電極間を導通させて、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成する。これらの外部電極は、半導体素子に電圧を印加するために用いるプローバーであってもよい。こうすることで、半導体素子の半導体基板の材料の種類に関係なく、電気パルスを生成することができる。
【0013】
本発明が採用した第2の技術手段は、一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定法であって、光パルスを、半導体デバイスの半導体基板における選択された部位に直接照射することで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成させ、入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により、半導体デバイスから出力される出力信号を検出し、検出された情報を処理して半導体デバイスの高周波特性を測定する、ものである。一つの態様では、前記選択された部位は、その間を導通させることで入力端子に入力信号が生成される電極間である。第2技術手段において、前記検出情報は、放射された電磁波の波形を時間領域で検出した時間波形情報を含む。さらに、前記検出情報は、時間波形情報を周波数変換して得た周波数情報を含む。あるいは、前記検出情報は、放射された電磁波を周波数領域で検出した周波数情報を含む。
【0014】
本発明の対象となる半導体デバイスには、個別半導体素子、集積回路を構成する半導体素子、さらに、半導体集積回路が含まれる。本発明の対象となる3端子半導体素子には、トランジスタ、サイリスタが含まれる。本発明に係る3端子半導体素子には、3端子半導体(トランジスタやサイリスタ)としての機能を有するものであれば、4つ以上の端子を有する素子も含まれる。トランジスタには、電界効果型トランジスタ、バイポーラトランジスタが含まれる。被測定素子が電界効果型トランジスタの場合には、典型的には、入力端子はゲートであり、光パルスの照射により、ゲートとソース間を瞬間的に導通させてゲート電圧を変化させることで入力信号を生成し、ドレイン・ソース間のチャネル電流の変化により放射される電磁波を検出する。被測定素子がバイポーラトランジスタである場合には、トランジスタ内のどこからの信号を見たいのか、あるいはどの端子を入力端子に選ぶのかによって導通させる電極(第2技術手段においては、光パルスを直接照射する場所)が異なる。例えば、バイポーラトランジスタのベースを入力(スイッチング)端子に選び、エミッタ・コレクタ間の電流の高速応答を調べたいという要求があった場合には、ベースとエミッタの間の半導体を光で照射して導通させ、エミッタ・コレクタ間を流れる電流が放射する電磁波を検出する。半導体デバイスが集積回路の場合には、入力信号を入力したい端子を選択し、入力信号の応答を見たい箇所から放射される電磁波を測定することで、集積回路の高周波特性を取得する。半導体デバイスが個別半導体の場合には、請求項の記載における半導体デバイスは半導体素子に置き換えることができる。
【0015】
本発明において、3端子半導体素子の各電極には、所定のバイアス電圧を印加しておくことが望ましい。尚、本発明は、バイアス電圧を印加しない状態の半導体素子を排除するものではなく、例えば、半導体デバイスの構造や材料特性等によって、半導体デバイス自体に電界が生じているような場合には、本発明の高周波特性測定法を適用することができ得る。
【0016】
本発明によって取得される高周波特性は、典型的には、カットオフ周波数である。カットオフ周波数は、放射された電磁波の波形を時間領域で検出した時間波形情報、時間波形情報を周波数変換して得た周波数情報、放射された電磁波を周波数領域で検出した周波数情報のいずれからも求めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって測定帯域が数十THzにまで拡大され、半導体デバイスの応答速度(周波数)を、従来のネットワークアナライザー等で測定することが出来なかった高周波領域まで直接測定することが可能となった。
【0018】
半導体デバイスから空間に放射された電磁波を処理することで入力信号に対する半導体デバイスの応答を測定することで、出力信号を伝播させる導波路や、出力信号を検出する為の電極等を形成する必要がない、出力信号の周波数成分に関わらず出力信号を殆ど減衰させることなく検出することが可能となる。
【0019】
半導体デバイスに直接光パルスを照射するものでは、半導体デバイスの外部で高周波入力信号を発生させて半導体デバイスの入力端子まで伝播させる困難を回避することができる。被測定半導体デバイスに最適化した電気パルスを生成・伝播させる為の電極形状を形成する必要がなくなった為、様々な種類の半導体デバイスの測定や、ウエハ上に多種多数作製された半導体デバイスの測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明に係る高周波特性測定装置の全体構成を示す図である。高周波特性測定装置は、被測定物である半導体素子を励起する為の光パルスを発生させる光パルスレーザーと、半導体素子に直流電圧(直流電流)または低周波の交流電圧(交流電流)を印加する電源装置と、半導体素子から放射された電磁波を検出する電磁波検出素子と、電磁波検出素子で検出された信号を測定する測定装置と、から構成される。
【0021】
3端子半導体素子の選択された電極間を導通させるように光パルス照射を行い、選択された電極を導通させることで、電気パルスを入力信号として半導体素子に入力する。光パルスレーザーとしては、光パルスの時間幅がピコ秒もしくはフェムト秒の光パルスを出射するレーザー装置が例示される。光パルスは主に光学系を通じて半導体素子に導入されるが、光パルスは、場合によっては光学系を通じて電磁波検出素子にも導入される。
【0022】
電磁波検出素子としては、光伝導アンテナ、非線形光学結晶、ボロメータ、が例示される。放射された電磁波は、大気中、もしくは損失の少ないガス中、あるいは真空中を伝播させることが望ましい。また放射された電磁波を電磁波検出素子まで伝播させる為に、電磁波の伝播経路にはミラーやレンズや偏光子やフィルターなどで構成された光学系や分光装置が置かれる場合もある。また、測定装置としては、ミラーやビームスプリッターやレンズや偏光子やフィルターや光検出器などで構成された光学系、電流計、電圧計、電流増幅器、電圧増幅器、ロックインアンプ、オシロスコープ、パーソナルコンピューターなどで構成される。
【0023】
本発明の一つの好ましい形態は、光パルスで半導体素子を直接励起することによって入力信号である電気パルスを半導体素子内に直接生成し、その入力信号に対する半導体素子の応答を、半導体素子から放射された電磁波を処理することで測定するものである。
【0024】
光パルスで半導体素子を直接励起して電気パルスを半導体素子内に直接生成する手法は、次のような有利な点を有する。第1に、半導体素子の外部で高周波入力信号を発生させて半導体素子の入力端子まで伝播させる困難を回避することができる。第2に、被測定半導体素子に最適化した電気パルスを生成・伝播させる為の電極形状を形成する必要がなくなった為、様々な種類の半導体素子の高周波特性の測定や、ウエハ上に多種多数作製された半導体素子の高周波特性の測定が可能となる。
【0025】
一つの実施形態では、被測定半導体デバイスは、電界効果型トランジスタである。図2において、Gはゲート、Sはソース、Dはドレインであり、ドレインとソース間に流れるドレイン電流(チャネル電流)をゲート電圧によって制御するようになっている。電界効果型トランジスタの各電極には予め所定のバイアス電圧を印加しておき、光パルスをゲートとソース間の半導体基板に照射する。被測定物である電界効果型トランジスタにおいて、少なくともゲートとソース間の半導体基板は、光伝導性(導電性)半導体から形成されており、当該半導体基板は光パルスにより励起されて、ゲートとソースとの間が瞬間的に導通されてゲート電圧が変化する。
【0026】
光パルスによる入力信号の生成機構、入力信号に応答した出力信号の生成機構について説明する。光パルスを照射することによってゲート電極にステップ関数的な電気信号が発生する(図3(a)参照)。それに対する応答としてチャネルの電流がステップ的に変調される(図3(b)参照)。そして、チャネルの電流変化の時間微分に対応した電磁波が放射される(図3(c)参照)。従って、放射された電磁波波形がトランジスタの過渡応答、即ちチャネルの電流変化の時間応答に関する情報を持っているので、被測定半導体素子の高周波応答を測定することが出来る。
【0027】
前記実施の形態をまとめると、(1)測定用回路を使用することなく、電圧を印加した入力端子電極(ゲート)と他の電極(ソース)間の半導体を光パルスで励起してショートさせることにより、直接半導体素子内で電気パルスを発生させてこれを入力信号とし、(2)入力信号によって変調させたチャネル電流から電磁波を放射させ、(3)電磁波を大気中、損失の少ないガス中、あるいは真空中を伝搬させ、(4)伝搬した電磁波を時間領域で検出することで電子素子の高周波特性を測定するものである。
【実施例】
【0028】
図4は本発明の一実施例を示し、電磁波検出素子に光伝導アンテナを用いた場合の実施例である。半導体素子であるトランジスタには予めゲート電極とソース電極間、ドレイン電極とソース電極間に電圧を印加しておく。光パルスレーザーから出射したレーザー光を、ビームスプリッターを用いて2つの光路に分離する。
【0029】
一方のレーザー光は、鏡やレンズや光ファイバーなどで構成された光学系を利用して被測定物である電界効果型トランジスタのゲート電極とソース電極の電極間の半導体を励起する。半導体素子を形成する半導体には光伝導性がある為、光パルスが照射されていないときは絶縁されているが、光パルスが照射されている間は導電体となってゲート電極からソース電極へ半導体素子表面の半導体内を電流が流れる。その結果、ゲート電極から半導体素子中のチャネルに及ぼしている電界の絶対値は低下し、この電圧の変化に伴ってチャネルを流れている電流量が変化する。このとき、半導体素子から大気中へ、電流量の変化(電流の変調)に伴って、電磁波が放射され、この電磁波が持つ周波数成分は電流が変調されるときの速さに依存し、通常、超高速半導体素子の電流変調はピコ秒前後のオーダーで起きるので、GHzからTHz領域の周波数成分を持った電磁波が大気中に放射される。
【0030】
チャネルから大気中に放射された電磁波は鏡やレンズなどで構成された光学系を利用して電磁波検出素子である光伝導アンテナに集光する。ビームスプリッターで分離されたもう一方のレーザー光は、鏡やレンズや光ファイバーなどで構成された光学系を利用して時間遅延素子に導入し、さらに鏡やレンズや光ファイバーなどで構成された光学系を利用して光伝導アンテナに照射される。光伝導アンテナでは、レーザー光を照射しているときだけ作動状態となり、この作動状態の間に光伝導アンテナに到達した電磁波の電界に比例した電流が光伝導アンテナに生じる。
【0031】
光伝導アンテナを流れる電流は、電流増幅器を通じて増幅され、さらにロックインアンプを通じて光パルスの変調周波数と、または、ドレイン電極とソース電極の間に印加した電圧の繰り返し周波数と同期検出されることによって雑音が除去される。ロックインアンプの出力信号は、信号処理装置であり、且つ、測定信号表示装置でもあるパーソナルコンピューターに入力される。この信号を時間遅延素子で与える時間遅延の量を変えながら測定することで、半導体素子から放射された電磁波の時間領域波形を測定できる。そして、測定された電磁波の時間領域波形から、あるいは電磁波の時間領域波形についてフーリエ変換などの計算処理を行うと、半導体素子の高周波特性を知ることが出来る。
【0032】
図5は上記実施例において、トランジスタから放射された電磁波の時間領域波形を測定したものであり、図6は図5をフーリエ変換して求めた電磁波の周波数成分である。本発明の高周波特性測定法を用いることで、半導体デバイスのカットオフ周波数を決定することができる。図6を処理すると、136GHzというカットオフ周波数が求められる。カットオフ周波数を求める場合、測定上のノイズ成分等の影響を補正するために、(1)応答関数が既知の検出器を用い、測定結果に検出器の応答関数を考慮する、(2)特性が既知の半導体デバイスを予め測定しておき、測定システムの較正を行う、等の処理を行って測定精度を高めることが望ましい。
【0033】
上述の実施形態及び実施例では、被測定物である半導体デバイスとは別に測定用回路の必要がなく、且つ、入力信号は被測定物である半導体デバイス内で直接発生させ、出力信号はその周波数に関わらず減衰の影響を無視出来る大気中を伝播させることによって、入力信号・出力信号の減衰が無い効率の良い測定方法を実現している。さらに本実施例の手法は、様々な種類の半導体デバイスの高周波特性の測定や、ウエハ上に多種多数作製された半導体デバイスの高周波特性の測定にも有利である。
【0034】
図7,8に、本発明の他の実施形態を示す。本発明に係る半導体デバイスの高周波特性は、光パルスを用いて、3端子半導体素子の選択された電極間を導通させて、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成させるものである。半導体デバイスが電界効果型トランジスタの場合には、ゲート電極に印加されている電圧を一瞬のうちに変化させれば良く、上述の実施形態ではゲート電極とソース電極の間の半導体を光励起することによって瞬間的に導通(ショート)させてこれを実現している。しかしながら、ゲート電極とソース電極の間の半導体基板を形成する半導体の材料によっては、直接光励起が困難あるいは不可能な場合もある。
【0035】
そこで、図7に示すものでは、ゲート電極とソース電極に電圧を印加している印加側のそれぞれの外部電極の途中を、光励起で導通させることで、結果的にゲート電極に印加されている電圧の変化を誘起している。ゲート用外部電極はゲートに、ソース用外部電極はソースに、それぞれ接触(導通)しており、ゲート用外部電極とソース用外部電極とは、光照射により励起可能な領域(当該領域は、光照射により外部電極間を導通可能なような物質から形成されていればよく、好ましくは、GaAs半導体のような半導体が例示されるが、空気のような気体から形成されていてもよい)を介して近接する部位を有しており、かかる近接部位の間の領域に光パルスを照射してゲート用外部電極とソース用外部電極とを瞬間的に導通させることでゲート・ソース間を導通させて、ゲート電圧を変化させる。この手法を用いることで、半導体素子を構成している材料に関わらず、半導体デバイスの高周波特性の評価を行うことができる。
【0036】
図8に示すものでは、ゲート電極とソース電極の間に光伝導性の半導体片を直接載置することでマイクロスイッチを構成し、半導体片を直接光励起することで、ゲート・ソース間を瞬間的に導通させる。この手法を用いることで、半導体素子を構成している材料に関わらず、半導体デバイスの高周波特性の評価を行うことができる。尚、電極間に架け渡すように載置したマイクロスイッチ自体は公知であって、例えば、”Fabrication and subbpicosecond optical response of low-temperature-grown
GaAs freestanding photoconductive devices,” R.Adam, et. al., Applied Physics
Letters Volume 81, Number 18, 28 October 2002に記載されている。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、高周波半導体デバイス、例えば、HEMTの高周波特性測定に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る高周波特性測定装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明に係る光パルス照射の実施形態を示す図である。
【図3】光パルス照射の入力信号によるゲート電圧の変化、入力信号に応答するチャネル電流の変化、チャネル電流の変化に伴い放射される電磁波の変化の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例の全体図である。
【図5】検出された電磁波の時間領域における電界振幅を示す図である。
【図6】図5の情報をフーリエ変換したものであり、規格化パワーと周波数との関係を示す図である。
【図7】本発明に係る光パルス照射の他の実施形態を示す図である。
【図8】本発明に係る光パルス照射の他の実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定法であって、
光パルスを用いて、3端子半導体素子の選択された電極間を導通させることで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成させ、
入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により、半導体デバイスから空間に放射される電磁波の波形を時間領域で検出し、検出された時間波形情報を処理して該半導体デバイスの高周波特性を測定する、
半導体デバイスの高周波特性測定法。
【請求項2】
光パルスを、半導体デバイスの半導体基板における選択された部位に直接照射することで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成する、請求項1に記載の高周波特性測定法。
【請求項3】
前記選択された部位は、その間を導通させることで入力端子に入力信号が生成される電極間である、請求項2に記載の高周波特性測定法。
【請求項4】
光パルスを、選択された一つの電極に導通する外部電極と選択された他の一つの電極に導通する外部電極との間の領域に照射して外部電極間を導通させることで、外部電極を介して、前記一つの電極と前記他の一つの電極間を導通させて、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成する、請求項1に記載の高周波特性測定法。
【請求項5】
前記検出情報は、時間波形情報を周波数変換して得た周波数情報を含む、請求項1乃至4いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項6】
前記検出された情報から半導体デバイスのカットオフ周波数を取得することを含む、請求項1乃至5いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項7】
前記3端子半導体素子は、電界効果型トランジスタであり、入力端子はゲートであり、光パルスの照射により、ゲートとソース間を導通させてゲート電圧を変化させる、請求項1乃至6いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項8】
光パルスを、ゲートとソース間の半導体基板に照射することで、ゲート・ソース間を導通させてゲート電圧を変化させる、請求項7に記載の高周波特性測定法。
【請求項9】
光パルスを、ゲートに導通する外部電極とソースに導通する外部電極との間の領域に照射して外部電極間を導通させることで、外部電極を介して、ゲート・ソース間を導通させてゲート電圧を変化させる、請求項7に記載の高周波特性測定法。
【請求項10】
ドレイン・ソース間のチャネル電流の変化により半導体デバイスから空間に放射される電磁波を検出する、請求項7乃至9に記載の高周波特性測定法。
【請求項11】
一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定法であって、
光パルスを、半導体デバイスの半導体基板における選択された部位に直接照射することで、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成させ、
入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により、半導体デバイスから出力される出力信号を検出し、検出された情報を処理して半導体デバイスの高周波特性を測定する、
半導体デバイスの高周波特性測定法。
【請求項12】
前記選択された部位は、その間を導通させることで入力端子に入力信号が生成される電極間である、請求項11に記載の高周波特性測定法。
【請求項13】
前記出力信号は、入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により該半導体デバイスから空間に放射される電磁波である、請求項11,12いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項14】
前記検出情報は、放射された電磁波の波形を時間領域で検出した時間波形情報を含む、請求項13に記載の高周特性測定法。
【請求項15】
前記検出情報は、時間波形情報を周波数変換して得た周波数情報を含む、請求項14に記載の高周波特性測定法。
【請求項16】
前記検出情報は、放射された電磁波を周波数領域で検出した周波数情報を含む、請求項13に記載の高周波特性測定法。
【請求項17】
前記検出情報から半導体デバイスのカットオフ周波数を取得することを含む、請求項11乃至16いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項18】
前記3端子半導体素子は、電界効果型トランジスタであり、入力端子はゲートであり、光パルスを、ゲートとソース間の半導体基板に照射することで、ゲート・ソース間を導通させてゲート電圧を変化させる、請求項11乃至17いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項19】
ドレイン・ソース間のチャネル電流の変化により半導体デバイスより空間に放射される電磁波を検出する、請求項18に記載の高周波特性測定法。
【請求項20】
一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定装置であって、
3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成するように、パルス照射を行う光パルス照射手段と、
入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により該半導体デバイスから空間に放射される電磁波の波形を時間領域で検出する電磁波検出手段と、
検出された時間波形情報を処理することで該半導体デバイスの高周波特性を測定する測定手段とからなる、
半導体デバイスの高周波特性測定装置。
【請求項21】
前記光パルス照射手段は、光パルスを、半導体デバイスの半導体基板における選択された部位に直接照射することで、入力端子に入力信号を生成するものである、請求項20に記載の高周波特性測定装置。
【請求項22】
前記選択された部位は、その間を導通させることで入力端子に入力信号が生成される電極間である、請求項21に記載の高周波特性測定装置。
【請求項23】
前記装置は、3端子半導体素子の一つの電極に導通する外部電極と、3端子半導体素子の他の一つの電極に導通する外部電極と、を有し、前記光パルス照射手段は、光パルスを前記外部電極の間の領域に照射して外部電極間を導通させることで、外部電極を介して、前記一つの電極と前記他の一つの電極間を導通させて、3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成するものである、請求項20に記載の高周波特性測定装置。
【請求項24】
前記測定手段は、時間波形情報を周波数変換して周波数情報を得ることを含む、請求項20乃至23いずれかに記載の高周波特性測定法。
【請求項25】
前記測定手段は、半導体デバイスのカットオフ周波数を測定するものである、請求項20乃至24いずれかに記載の高周波特性装置。
【請求項26】
一つあるいは複数の3端子半導体素子を含む半導体デバイスの高周波特性測定装置であって、
3端子半導体素子の入力端子に入力信号を生成するように、該半導体デバイスの半導体基板における選択された部位にパルス照射を行う光パルス照射手段と、
入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により該半導体デバイスから出力される出力信号を検出する信号検出手段と、
検出された情報を処理して半導体デバイスの高周波特性を測定する測定手段とからなる、
半導体デバイスの高周波特性測定装置。
【請求項27】
前記選択された部位は、その間を導通させることで入力端子に入力信号が生成される電極間である、請求項26に記載の高周波特性測定装置。
【請求項28】
前記出力信号は、入力信号に応答する半導体デバイス内の電流変化により該半導体デバイスから空間に放射される電磁波である、請求項26,27いずれかに記載の高周波特性測定装置。
【請求項29】
前記信号検出手段は、該半導体デバイスから空間に放射される電磁波の波形を時間領域で検出するものであり、前記検出情報は、放射された電磁波の波形を時間領域で検出した時間波形情報を含む、請求項28に記載の高周波特性測定装置。
【請求項30】
前記測定手段は、時間波形情報を周波数変換して周波数情報を得ることを含む、請求項29に記載の高周波特性測定装置。
【請求項31】
前記信号検出手段は、該半導体デバイスから空間に放射される電磁波の波形を周波数領域で検出するものであり、前記検出情報は、放射された電磁波を周波数領域で検出した周波数情報を含む、請求項28に記載の高周波特性測定装置。
【請求項32】
前記測定手段は、半導体デバイスのカットオフ周波数を測定するものである、請求項26乃至31いずれかに記載の高周波特性装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−10384(P2007−10384A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189098(P2005−189098)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】