説明

半導体試験装置の保守システムおよび保守方法

【課題】従来、予防リミット値を適切に設定するのは、容易ではなかった。
【解決手段】一実施形態に係る保守システムは、自己診断機能を有するLSIテスタ1を保守するシステムであって、自己診断実行部3、記憶部5、および統計処理部7を備えている。自己診断実行部3は、LSIテスタ1の自己診断テストを実行するとともに、当該自己診断テストの結果を表す測定値が基準範囲内にあるか否かを判断する。記憶部5は、上記測定値を記憶する。また、統計処理部7は、記憶部5に記憶された過去の測定値に基づいて、上記基準範囲を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己診断機能を有する半導体試験装置を保守するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体試験装置の一つであるLSIテスタは、半導体ウエハ上に製造されたデバイスの電気的テスト工程で使用される。デバイスの高速化や微細化に伴い、LSIテスタに求められる要求性能は高まっており、LSIテスタの経時変化による測定精度ばらつきの許容値は減少している。このため、LSIテスタの経時変化による測定精度の劣化を未然に検出し、測定精度が劣化したテスタによる半導体テストを防止する手段の必要性が高まっている。
【0003】
特許文献1には、自己診断機能を有するLSIテスタを保守する方法が開示されている。同文献に記載の方法においては、LSIテスタの自己診断テストの結果と基準値との差が所定の予防リミット値内であるか否かを比較判定し、判定結果が否である場合に警告表示を出力している。予防リミット値は任意に設定される値である。同方法のフローチャートを図7に示す。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、特許文献1の他に、特許文献2が挙げられる。同文献には、LSIテスタを構成する回路の正常動作が保証される電源電圧範囲内の中間値、上限値および下限値のそれぞれについて、上記回路の性能検査を実行する方法が記載されている。同方法のフローチャートを図8に示す。同図において、「設定値」が上述の電源電圧範囲内の中間値に相当する。
【特許文献1】特開2002−174674号公報
【特許文献2】特開平9−264930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法においては、比較判定に用いる予防リミット値をLSIテスタまたは自己診断プログラムに予め与えておく必要がある。予防リミット値は任意に設定される数値であるが、LSIテスタの異常を効果的に発見するためには、この予防リミット値を適切に設定することが重要である。しかしながら、従来、このように予防リミット値を適切に設定するのは、容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による半導体試験装置の保守システムは、自己診断機能を有する半導体試験装置を保守するシステムであって、上記半導体試験装置の自己診断テストを実行する実行手段と、上記実行手段により実行された上記自己診断テストの結果を表す測定値が、基準範囲内にあるか否かを判断する判断手段と、上記測定値を記憶する記憶手段と、上記記憶手段に記憶された過去の上記測定値に基づいて、上記基準範囲を定める設定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明による半導体試験装置の保守方法は、自己診断機能を有する半導体試験装置を保守する方法であって、上記半導体試験装置の自己診断テストを実行する実行ステップと、上記実行ステップにおいて実行された上記自己診断テストの結果を表す測定値が、基準範囲内にあるか否かを判断する判断ステップと、上記測定値を記憶手段に記憶させる記憶ステップと、上記記憶手段に記憶された過去の上記測定値に基づいて、上記基準範囲を定める設定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
これらの保守システムおよび保守方法においては、自己診断テストの結果を表す測定値が基準範囲内にあるか否かが判断される。その判断結果が肯であれば半導体試験装置が正常であり、否であれば異常であるとわかる。ここで、上記基準範囲は、記憶手段に記憶された過去の測定値に基づいて決定される。これにより、当該半導体試験装置にとって適切な基準範囲を容易に設定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体試験装置にとって適切な基準範囲を容易に設定することが可能な半導体試験装置の保守システムおよび保守方法が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明による半導体試験装置の保守システムおよび保守方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明による半導体試験装置の保守システムの一実施形態を示すブロック図である。同図の保守システムは、自己診断機能を有するLSIテスタ1(半導体試験装置)を保守するシステムであって、LSIテスタ1およびテスタ保守管理サーバ2を備えている。
【0012】
LSIテスタ1は、自己診断実行部3、自己診断結果出力部4、および記憶部9を有している。自己診断実行部3は、LSIテスタ1の自己診断テストを実行する実行手段である。この自己診断実行部3は、上記自己診断テストの結果を表す測定値が、基準範囲内にあるか否かを判断する判断手段でもある。自己診断実行部3としては、例えばCPUを用いることができる。自己診断結果出力部4は、自己診断実行部3で得られた上記測定値を後述する記憶部5へと出力する出力手段である。また、記憶部9は、自己診断実行部3による自己診断テストの処理手順を記述した自己診断プログラムを記憶する記憶手段(第2の記憶手段)である。記憶部9としては、例えばROMまたはRAM等のメモリを用いることができる。
【0013】
テスタ保守管理サーバ2は、記憶部5、統計処理部7、および変動判定値出力部8を有している。記憶部5は、自己診断結果出力部4から出力された上記測定値を記憶する記憶手段(第1の記憶手段)である。この記憶部5には、統計処理マスタも記憶されている。記憶部5としては、例えばメモリを用いることができる。統計処理部7は、記憶部5に記憶された過去の測定値を統計的に処理することにより、上記基準範囲を定める設定手段である。統計処理部7としては、例えばCPUを用いることができる。また、変動判定値出力部8は、変動判定値を記憶部9へと出力する出力手段である。ここで、変動判定値とは、上記基準範囲の上限値および下限値のことである。
【0014】
図2に示すように、上述の自己診断プログラムは、テスト項目を実行するためのテスト条件・手法、テスタ性能仕様に基づいて規定された判定規格値、および統計処理部7により算出される変動判定値の情報を含んでいる。これらの情報は、自己診断テストで実行するテスト項目に関連付けられている。本例では、判定規格値として、テスタ仕様の上限値(MAX)および下限値(MIN)が設定されている。
【0015】
図3に示すように、上述の統計処理マスタは、テスト項目に関連付けられた、統計処理指定の情報を含んでいる。この統計処理指定は、上記変動判定値を定めるための規則を与えるものである。例えば、統計処理指定が±3σであれば、変動判定値は、μ±3σと定められる。すなわち、基準範囲は、図4に示すように、(μ−3σ)以上(μ+3σ)以下の範囲と定められる。ここで、μおよびσは、統計処理部7による統計処理の結果として得られる、過去の測定値の平均値および標準偏差を表している。このように、統計処理指定は、自己診断テストの測定値の平均値に対して、どれくらいの標準偏差まで許容するかを表している。
【0016】
図5を参照しつつ、本発明による半導体試験装置の保守方法の一実施形態として、図1の保守システムの動作の一例を説明する。まず、LSIテスタ1において、自己診断プログラムの実行が初めてであるか否かが判断される(ステップ201)。その判断結果が肯であればステップ202に、否であればステップ203に移る。ステップ202においては、変動判定値の初期値が、以降の処理で用いられる変動判定値として設定される。この初期値は、自己診断プログラム中に予め記述しておけばよい。
【0017】
次に、自己診断プログラムに従い、自己診断実行部3によって自己診断テストが実行される(ステップ203)。その後、自己診断実行部3によって、自己診断テストの結果を表す測定値と判定規格値との比較判定が実行される(ステップ204)。その比較判定の結果がPASSの場合、すなわち測定値がテスタ仕様の下限値以上で且つ上限値以下である場合、ステップ206に移る(ステップ205)。一方、同結果がFAILの場合には、装置を停止し保守を行う(ステップ207)。
【0018】
ステップ206においては、測定値と変動判定値との比較判定が実行される。その比較判定の結果がPASSの場合、すなわち測定値が基準範囲内にある場合、ステップ210に移る(ステップ208)。一方、同結果がFAILの場合には、変動値判定が不合格であった旨が表示手段(図示せず)に表示される(ステップ209)。この表示があった場合、装置を停止し保守を行う。
【0019】
ステップ210においては、ステップ203で実行された自己診断テストの測定値が、自己診断結果出力部4により、テスタ保守管理サーバ2の記憶部5へ送信される。この測定値は、記憶部5に記憶される(ステップ211)。
【0020】
次に、統計処理部7は、統計処理マスタに登録された統計処理指定に従い、記憶部5に保管されている測定値に対して統計処理を行なう(ステップ212)。すなわち、統計処理部7は、直近に実施した自己診断テストの結果も含めて、LSIテスタ1についての過去の自己診断テスト結果を読み出す。その後、統計処理部7は、統計処理したい自己診断テスト項目のテスト結果について、平均値μおよび標準偏差σを算出する。そして、変動判定値=μ±統計処理指定という式に従って、変動判定値を算出する。
【0021】
ここで算出された変動判定値は、変動判定値出力部8によりLSIテスタ1の記憶部9へ送信される(ステップ213)。この変動判定値は、記憶部9に記憶される(ステップ214)。本実施形態において変動判定値は、自己診断プログラムに書き込まれる。
【0022】
本実施形態の効果を説明する。本実施形態においては、自己診断テストの結果を表す測定値が基準範囲内にあるか否かが判断される。その判断結果が肯であればLSIテスタ1が正常であるとわかる。一方、否であれば、経時変化による精度劣化が生じており、異常であるとわかる。ここで、上記基準範囲は、記憶部5に記憶された過去の測定値に基づいて決定される。これにより、LSIテスタ1にとって適切な基準範囲を容易に設定することができる。
【0023】
基準範囲(変動判定値)は、過去の測定値を統計処理することにより定められている。これにより、個々の半導体試験装置毎に適切な基準範囲を高精度で算出することができる。このように半導体試験装置の自己診断テストの結果に基づく、個々の装置毎の統計的自己診断判定値を用いることにより、半導体試験装置の経時劣化による測定精度劣化を未然に検出し、測定精度の劣化したテスタによる半導体テストを防止することが可能となる。
【0024】
基準範囲を(μ−d)以上(μ+d)以下(dは正の定数)の範囲と定めた場合、測定値の平均値μが基準範囲の中間値に相当するため、過大な測定値および過小な測定値の双方をバランス良く検出することができる。過大な測定値とは(μ+d)を上回る測定値のことであり、過小な測定値とは(μ−d)を下回る測定値のことである。
【0025】
上記定数dは、σ以上3σ以下であることが好ましい。dを3σ以下とすることにより、半導体試験装置の異常を充分に高い確度で発見することができる。また、dをσ以上とすることにより、半導体試験装置の異常に起因しない測定値のばらつきが充分に許容される。それにより、不要なFAIL判定(図5のステップ208参照)がなされるのを抑制することができる。
【0026】
ところで、適切な基準範囲は、半導体試験装置の個体差にも依存するため、半導体試験装置毎に個別に設定されることが好ましい。しかしながら、従来技術のようにユーザが任意に設定する場合、半導体試験装置毎に適切な基準範囲を設定するには多大な労力を要する。また、半導体試験装置の構成ユニットの実力変動値に対して適正な判定値であるかの判断が困難である。
【0027】
これに対して、本実施形態では、半導体試験装置の自己診断テストの合否判定規格に、過去に実施した自己診断テスト結果から統計処理により算出した変動判定値を追加している。この変動判定値は、従来技術で用いられる、自己診断判定値を基準とした判定値やエンジニアが任意に設定する判定値ではなく、個々の半導体試験装置の自己診断テスト結果から算出された、個々の装置毎の判定値である。このため、装置の性能保証のみでなく、個々の装置の精度ばらつきや精度劣化を監視することができる。
【0028】
本発明による半導体試験装置の保守システムおよび保守方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、図6に示すように、本発明による保守システムは、自己診断プログラムを記憶する記憶部9とは別に、上記基準範囲を記憶する記憶部10(第3の記憶手段)を備えていてもよい。この場合、変動判定値出力部8から送信された変動判定値は、記憶部10に記憶される。自己診断実行部3は、この記憶部10に記憶された変動判定値を参照して、自己診断テストの測定値との比較を行う。
【0029】
図1の保守システムにおいてLSIテスタ1は、最新の変動判定値を自己診断プログラムに書き込む必要があった。そのため、第三者が自己診断プログラムを変更した場合、最新の変動判定値が自己診断プログラムに記述されている保証がない状態となる。これに対して、図6の保守システムでは、自己診断プログラムによらず、常に最新の変動判定値を用いて、自己診断テストの測定値との比較を行うことができる。
【0030】
なお、記憶部9と同様に記憶部10としてもメモリを用いることができるが、これらの記憶部9および記憶部10として別個のメモリを用いる必要はない。すなわち、記憶部9および記憶部10で1つのメモリを共有してもよい。ただし、図6の保守システムにおいては、自己診断プログラムと変動判定値とは、当該メモリ内の別々の記憶領域に格納される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による半導体試験装置の保守システムの一実施形態を示すブロック図である。
【図2】自己診断プログラムの構成例を説明するための図である。
【図3】統計処理マスタの構成例を説明するための図である。
【図4】自己診断テストの結果を表す測定値の度数分布の一例を表すグラフである。
【図5】発明による半導体試験装置の保守方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図6】実施形態の変形例に係る保守システムを示すブロック図である。
【図7】特許文献1に記載の方法を示すフローチャートである。
【図8】特許文献2に記載の方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
1 LSIテスタ
2 テスタ保守管理サーバ
3 自己診断実行部
4 自己診断結果出力部
5 記憶部
7 統計処理部
8 変動判定値出力部
9 記憶部
10 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己診断機能を有する半導体試験装置を保守するシステムであって、
前記半導体試験装置の自己診断テストを実行する実行手段と、
前記実行手段により実行された前記自己診断テストの結果を表す測定値が、基準範囲内にあるか否かを判断する判断手段と、
前記測定値を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された過去の前記測定値に基づいて、前記基準範囲を定める設定手段と、
を備えることを特徴とする半導体試験装置の保守システム。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体試験装置の保守システムにおいて、
前記設定手段は、前記過去の測定値を統計的に処理することにより、前記基準範囲を定める半導体試験装置の保守システム。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体試験装置の保守システムにおいて、
前記設定手段は、前記過去の測定値の平均値をμとしたとき、前記基準範囲を(μ−d)以上(μ+d)以下(dは正の定数)の範囲と定める半導体試験装置の保守システム。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体試験装置の保守システムにおいて、
前記過去の測定値の標準偏差をσとしたとき、前記定数dは3σ以下である半導体試験装置の保守システム。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体試験装置の保守システムにおいて、
前記定数dはσ以上である半導体試験装置の保守システム。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の半導体試験装置の保守システムにおいて、
前記実行手段による前記自己診断テストの処理手順を記述した自己診断プログラムを記憶する第2の記憶手段と、
前記基準範囲を記憶する第3の記憶手段と、
を備える半導体試験装置の保守システム。
【請求項7】
自己診断機能を有する半導体試験装置を保守する方法であって、
前記半導体試験装置の自己診断テストを実行する実行ステップと、
前記実行ステップにおいて実行された前記自己診断テストの結果を表す測定値が、基準範囲内にあるか否かを判断する判断ステップと、
前記測定値を記憶手段に記憶させる記憶ステップと、
前記記憶手段に記憶された過去の前記測定値に基づいて、前記基準範囲を定める設定ステップと、
を含むことを特徴とする半導体試験装置の保守方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−248200(P2007−248200A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70807(P2006−70807)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】