説明

半有機絶縁被膜付き電磁鋼板

【課題】クロム化合物を含有せず、耐食性および耐水性の劣化がなく、打ち抜き性に優れ、さらにTIG溶接性に優れた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を提供する。
【解決手段】表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板において、該無機成分として、Zr化合物、Si化合物およびアルカリ土類金属化合物をそれぞれ、乾燥被膜中における比率で、Zr化合物(ZrO2 換算):20〜70質量%、Si化合物(SiO2 換算):10〜50質量%、アルカリ土類金属化合物(酸化物MO換算。但し、M=Mg,Ca,Sr,Ba):2〜20質量%含有し、残部は有機樹脂を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム化合物を含有せず、耐食性等の諸特性に優れ、特に溶接強度に優れた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜には、層間抵抗だけでなく、加工成形時における利便性および保管、使用時における安定性など種々の特性が要求される。特に小型変圧器や小型モータの鉄心は、複雑な形状に能率よく仕上げるために、打ち抜き加工後、積層してその端面の一部に溶接を施して鉄心に成形する。従って、電磁鋼板の絶縁被膜には、打抜性と溶接性を両立させることが必要となる。
【0003】
絶縁被膜は、大別して
(1) 溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機被膜、
(2) 打抜性、溶接性の両立を目指し歪取り焼鈍に耐える樹脂含有の無機被膜(すなわち、半有機被膜)、
(3) 特殊用途で歪取り焼鈍不可の有機被膜
の3種に分類されるが、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは、上記(1),(2)に示した無機成分を含む被膜であり、従来は両者ともクロム化合物を含むものであった。
【0004】
しかしながら、昨今、環境意識の高まりに伴い、電磁鋼板の分野においても、クロム化合物を含まず、耐食性や耐水性に優れた絶縁被膜を有する製品が需要家等からも望まれている。クロム化合物を含有しない被膜としては、打抜性および歪取り焼鈍の観点から、半有機被膜が有望である。
【0005】
有機成分を含む被膜では、クロム化合物の含有の有無に係わらず、電磁鋼板を打ち抜いた後、積層して端面を溶接する際、溶接ビード部分にブローホールと呼ばれる気泡状の欠陥が発生する。ブローホールは、被膜中の有機成分が加熱分解して発生したガスが溶接部を抜けた跡であり、この改善については種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、鋼板表面の粗度を大きくしてガスの溶接部以外への散逸量を高める方法が示されている。また、特許文献2には、酸素を固定する金属物質としてAl,Siを被膜/鋼板間または被膜中に含有させることでブローホールを低減する手法が開示されている。
【0006】
これに対し、無機被膜は、溶接しても分解して多量のガスが発生することは少なく、ブローホールの発生は見られない。一方で、無機成分は通常、分解溶融することもないためビード内へ拡散することがなく、ビード溶け込み部分に被膜が残存する。Crを含有する被膜では、溶接時、被膜中の酸化クロムが溶鋼中Siにより還元され、Crとして鋼中に拡散するため、被膜の残存は少ない。しかしながら、Cr化合物以外の無機被膜では、必ずしも被膜成分が鋼中に取り込まれるわけではないため、ビード溶け込み部分に被膜が残存し、溶接ビード方向における引張強度(以下、溶接強度という)が低下する場合がある。
この溶接強度の低下は、無機成分に由来するものであり、従来の有機成分由来のブローホール発生の観点から見た溶接性とは異なる。
【0007】
クロム化合物を含まない絶縁被膜を有する電磁鋼板については、本出願人も先に、例えば特許文献3,4のような提案をしている。
すなわち、特許文献3では、ZrおよびPを含有すると共に、Mg,Caのうちの一つ以上を含有させることで、耐食性の良好な絶縁被膜を提案している。
また、特許文献4では、Zr,SiおよびBを特定の比率で含有させることで、クロム化合物の含有なしでも耐食性および耐水性の劣化がなく、また耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性、TIG溶接性および打抜性に優れ、しかも焼鈍後の被膜外観の均一性にも優れる半有機被膜を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭52-48586号公報
【特許文献2】特開平8-325746号公報
【特許文献3】特開2008-127664号公報
【特許文献4】特開2011-99141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、発明者らが、特許文献3,4に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板について検討したところ、Zrは酸素と強く結合して強固な被膜を作る一方で、溶接強度を低下させる場合があることが判明した。この原因は、Zrが強固かつ高融点の被膜を形成するためであると考えられ、特にP化合物を複合含有する場合にはさらに被膜が強固となり、溶接強度が低下する。
【0010】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、溶接ビード中に無機被膜が残存することによる溶接強度の低下を効果的に改善した半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
さて、発明者は、上記の問題を解決すべく鋭意検討した結果、Zr被膜中に適正な比率でアルカリ土類金属化合物を含有させることよって所期した目的が達成させることを見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板であって、
該無機成分として、Zr化合物、Si化合物およびアルカリ土類金属化合物をそれぞれ、乾燥被膜中における比率で、Zr化合物(ZrO2 換算):20〜70質量%、Si化合物(SiO2 換算):10〜50質量%、アルカリ土類金属化合物(酸化物MO換算。但し、M=Mg,Ca,Sr,Ba):2〜20質量%含有し、残部が有機樹脂を含むことを特徴とする半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【0013】
2.前記被膜中に、さらに乾燥被膜中における比率で、B化合物をB23 換算で0.1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【0014】
3.前記被膜中の有機樹脂が、乾燥被膜中における比率で5〜40質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Cr化合物やP化合物を含むことなしに、耐食性に優れるのは言うまでもなく、溶接強度に優れた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、絶縁被膜の成分として、アルカリ土類金属化合物、Zr化合物、Si化合物および有機樹脂を、前記の成分範囲に限定した理由について説明する。
なお、成分の質量%は、乾燥被膜中における比率である。
【0017】
アルカリ土類金属化合物:酸化物MO換算(但し、M=Mg,Ca,Sr,Ba)で2〜20質量%
本発明において、アルカリ土類金属の化合物の形態としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物および有機酸塩などを挙げることができる。これらは、単独使用は勿論のこと、2種以上複合して使用することもできる。
【0018】
これら化合物は、本発明に用いるZr化合物を含む塗液に溶解して使用しても良いし、微粒子状またはスラリー状に分散させて使用することもできる。また、キレート剤を使用して、安定的に溶解、分散させてもよい。キレート剤としては、アルカリ土類金属元素をキレート化できるものであれば特に制限されない。例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)およびこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0019】
かようなアルカリ土類金属化合物は、成膜時に被膜中のZr成分と複合酸化物を形成するが、アルカリ土類金属化合物により複合酸化物の組成が共晶組成に近づくことで融点が下がり、溶接時に高温に晒された際に被膜が溶融することで溶鋼中に取り込まれる。このため、溶接ビード中に無機成分が被膜形状を保ったまま残存することはない。その結果、溶接ビード部分の強度劣化を抑制することが可能となる。
ここに、アルカリ土類金属化合物の乾燥被膜成分中における比率が、酸化物MO換算(但し、M=Mg,Ca,Sr,Ba)で2質量%に満たないとその添加効果に乏しく、また溶接ビード部分に被膜が残存しやすく、一方20質量%を超えると被膜中への過剰添加により、耐食性が劣化するので、アルカリ土類金属化合物の含有量は上記の範囲に限定した。
【0020】
Zr化合物:ZrO2 換算で20〜70質量%
本発明において、Zr化合物としては、例えば、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸ナトリウムジルコニウム、六フッ化ジルコニウムカリウム、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートおよびジルコニウムトリブトキシステアレート等が挙げられる。これらは、単独使用は勿論のこと、2種以上複合して使用することもできる。
【0021】
かようなZr化合物は、酸素との結合力が強く、Fe表面の酸化物、水酸化物などと強固に結合することができる。また、Zr化合物は3つ以上の結合手を持つため、Zr同士、もしくは他の無機化合物とネットワークを形成することでクロムを使用することなく強靭な被膜を形成することができる。しかしながら、Zr化合物の乾燥被膜中における比率が、ZrO2 換算で20質量%に満たないと密着性が劣化し、耐食性、耐粉吹き性が劣化する。一方、70質量%を超えると耐食性および耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性も劣化する。それ故、Zr化合物はZrO2 換算で20〜70質量%の範囲に限定した。
【0022】
Si化合物:SiO2 換算で10〜50質量%
本発明において、Si化合物としては、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、アルコキシシランおよびシロキサン等が挙げられる。これらは、単独使用は勿論のこと、2種以上複合して使用することもできる。
【0023】
このSi化合物は、Zr化合物を単独で添加した場合の問題の解決に有用である。すなわち、Zr化合物を単独で用いた場合には耐食性や耐粉吹き性が劣化し、歪取り焼鈍板での耐キズ性も著しく劣化する傾向が見られたが、Si化合物を適量配合することによって、耐粉吹き性を大幅に改善することができる。
ここに、Si化合物の乾燥被膜中における比率がSiO2 換算値で10質量%に満たないと十分な耐食性が得られず、一方50質量%を超えると耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性も劣化するのでSi化合物は10〜50質量%の範囲に限定した。
【0024】
また、本発明では、上記成分の他、さらにB化合物をB23 換算で0.1〜5質量%の範囲で含有させることができる。
本発明において、B化合物としては、ホウ酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、メタホウ酸ナトリウムおよび四ホウ酸ナトリウム等が挙げられ、これらを単独または複合して使用することができる。しかしながら、本発明におけるB化合物は、これらに限定されるものではなく、例えば、水に溶けてホウ酸イオンを生じさせるような化合物でもよく、またホウ酸イオンは直線型や環状に重合していてもよい。
【0025】
このB化合物は、Si化合物と同様、Zr化合物を単独で添加した場合の問題の解決に有利に寄与する。すなわち、Zr化合物を単独で添加した場合には耐食性や耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性が著しく劣化する傾向が見られた。この理由は、Zr化合物単独では、焼付けた際の体積収縮が大きいために被膜割れが生じやすく、部分的に素地が露出する箇所が発生するためと考えられる。
この点、B化合物をZr化合物に対して適量配合することにより、Zr単独の場合に発生していた被膜割れが効果的に緩和され、耐粉吹き性を著しく改善することができる。
ここに、B化合物の乾燥被膜中における比率がB23 換算で0.1質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方5質量%を超えると被膜中の未反応物が残存して、歪取り焼鈍後に被膜同士が融着する不具合(スティック)が発生するので、B化合物はB23 換算で0.1〜5質量%の範囲に限定した。
【0026】
また、本発明では、上記成分の他、有機樹脂を含有させる。この有機樹脂の含有量は、乾燥被膜中における比率で5〜40質量%とすることが好ましい。
本発明において、有機樹脂としては特に制限はなく、従来から使用されている公知のものいずれもが有利に適合する。例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフイン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂およびメラミン樹脂等の水性樹脂(エマルジョン、ディスパーション、水溶性)が挙げられる。特に好ましくはアクリル樹脂やエチレンアクリル酸樹脂のエマルジョンである。
【0027】
かかる有機樹脂は、耐食性、打抜き性の改善に有効に寄与するが、乾燥被膜中における配合割合が5質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方40質量%を超えると溶接時にブローホールが発生するため、有機樹脂の配合割合は固形分換算で10〜40質量%程度とすることが好ましい。
【0028】
なお、固形分換算とは、鋼板の表面に形成した被膜を乾燥させた後の各成分の割合であり、有機樹脂の固形分換算値は、有機樹脂液の200℃,10分における乾燥後残存率から求めることができる。
【0029】
また、本発明では、被膜中に、不純物としてHfやHfO2 、TiO2 、Fe23 などが混入することがあるが、これらの不純物の総量が乾燥被膜中1質量%以下であれば、特に問題はない。
【0030】
さらに、本発明では、上記した成分の他、通常用いられる添加剤や、その他の無機化合物や有機化合物の含有を妨げるものではない。
かような添加剤は、絶縁被膜の性能や均一性を一層向上させるために添加されるもので、界面活性剤や防錆剤、潤滑剤、酸化防止剤等が挙げられる。なお、かかる添加剤の配合量は、十分な被膜特性を維持する観点からは、乾燥被膜中の配合割合を10質量%以下程度とすることが好ましい。
【0031】
なお、本発明は、クロム化合物を添加せずに良好な被膜特性を得ることを目的している。したがって、本発明の絶縁被膜は製造工程および製品からの環境汚染を防止する観点からCrを実質的に含まないことが好ましい。不純物として許容されるクロム量としては、被膜の全固形分質量に対しCrO3 換算で0.1質量%以下とすることが好ましい。
また、P化合物についても、添加により被膜強度は向上するが、一方で溶接ビード中に被膜が残存しやすくなり、溶接強度は劣化するため、実質的にP化合物を含まないことが好ましい。溶接強度を劣化させない範囲のP化合物量としては、被膜の全固形分質量に対しP23 換算で0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
本発明において、素材である電磁鋼板としては、特に制限はなく、従来から公知のものいずれもが適合する。
すなわち、磁束密度の高いいわゆる軟鉄板(電気鉄板)やSPCC等の一般冷延鋼板、また比抵抗を上げるためにSiやAlを含有させた無方向性電磁鋼板などいずれもが有利に適合する。
【0033】
次に、被膜の形成方法について説明する。
本発明では、素材である電磁鋼板の前処理については特に規定しない。すなわち、未処理でもよいが、アルカリなどの脱脂処理や、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理を施すことは有利である。
そして、この電磁鋼板の表面に、アルカリ土類金属化合物、Zr化合物およびSi化合物、さらにはB化合物や、必要に応じて添加剤等を、有機樹脂と共に所定の割合で配合した処理液を塗布し、焼き付けることにより絶縁被膜を形成させる。絶縁被膜用処理液の塗布方法は、一般工業的に用いられるロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター等種々の方法が適用可能である。また、焼き付け方法についても、通常実施されるような熱風式、赤外式、誘導加熱式等が可能である。焼付け温度も通常レベルであればよく、到達鋼板温度で150〜350℃程度であればよい。
【0034】
本発明の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板は、歪取り焼鈍を施して、例えば、打抜き加工による歪みを除去することができる。好ましい歪取り焼鈍雰囲気としては、N2雰囲気、DXガス雰囲気などの鉄が酸化されにくい雰囲気が適用される。ここで、露点を高く、例えばDp:5〜60℃程度に設定し、表面および切断端面を若干酸化させることで耐食性をさらに向上させることができる。また、好ましい歪取り焼鈍温度としては700〜900℃、より好ましくは750〜850℃である。歪取り焼鈍温度の保持時間は長い方が好ましいが、2時間以上がより好ましい。
【0035】
半有機絶縁被膜の付着量は特に限定しないが、片面当たり0.05〜5g/m2程度とすることが好ましい。付着量、すなわち本発明の半有機絶縁被膜の全固形分質量は、アルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。また、付着量が少ない場合には蛍光X線とアルカリ剥離法との検量線から測定することができる。付着量が0.05g/m2未満では耐食性ばかりか絶縁性が不足するし、付着量が5g/m2超では密着性が低下し、塗装焼付時にふくれが発生するなど塗装性が低下する。より好ましくは0.1〜3.0g/m2である。半有機絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。また、目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜としても構わない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
乾燥後の半有機絶縁被膜の成分が表1に示す割合になるように、アルカリ土類金属化合物、Zr化合物およびSi化合物、さらにはB化合物を、有機樹脂と共に、脱イオン水に添加し、処理液とした。なお、脱イオン水に対する添加濃度は50g/lとした。
これらの各処理液を、板厚:0.5mmの電磁鋼板〔A230(JIS C 2552(2000))〕から幅:150mm、長さ:300mmの大きさに切り出した試験片の表面にロールコーターで塗布し、熱風焼付け炉により焼付け温度(到達鋼板温度):250℃で焼付けした後、常温に放冷して、半有機絶縁被膜を形成した。被膜の乾燥後付着量は0.5g/m2とした。
かくして得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の溶接強度、溶接性(ブローホール)、耐食性および耐粉吹き性について調べた結果を、表2に示す。
さらに、窒素雰囲気中にて750℃、2時間の歪取り焼鈍を行ったのちの耐キズ性、ならびにスティッキング性、打抜性について調査を行い、得られた結果を表2に併記する。
【0037】
なお、Zr化合物の種類は表3に、Si化合物の種類は表4に、B化合物の種類は表5に、有機樹脂の種類は表6に、それぞれ示したとおりである。
【0038】
また、各特性の評価方法は次のとおりである。なお、各評価とも◎〜○を合格とする。
(1)溶接強度
供試材を30mmの厚みになるように、0.39MPa(4kgf/cm2 )の圧力で積層し、その端部に対して、次の条件でTIG溶接性を実施した。
・溶接電流:75A
・Arガス流量:6リットル/min
・溶接速度:18cm/min
<判定基準>
引張速度:5mm/minで溶接ビード方向における引張強度を測定し、優劣を判定した。
◎:800N以上
○:500N以上、800N未満
×:500N未満
【0039】
(2)TIG溶接性(ブローホール)
供試材を30mmの厚みになるように、9.8MPa(100kgf/cm2 )の圧力で積層し、その端部に対して、次の条件でTig溶接性を実施した。
・溶接電流:120A
・Arガス流量:6リットル/min
・溶接速度:10〜100cm/min
<判定基準>
ブローホールの数が1ビードにつき5個以下を満足する溶接速度により優劣を判定した。
◎:50cm/min以上
○:30cm/min以上、50cm/min未満
×:30cm/min未満
【0040】
(3)耐食性
供試材に対して湿潤試験(50℃、相対湿度≧98%)を行い、48時間後の赤錆発生率を目視で観察し、面積率で評価した。
<判定基準>
◎:赤錆面積率 20%未満
○:赤錆面積率 20%以上、40%未満
×:赤錆面積率 40%以上
【0041】
(4)耐粉吹き性
試験条件;フェルト接触面幅20mm×10mm、荷重:0.37MPa(3.8kg/cm2 )、被膜表面を100回単純往復。試験後の擦り跡を目視観察し、被膜の剥離状態および粉吹き状態を評価した。
(判定基準)
◎:ほとんど擦り跡が認められない
○:若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
×:地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0042】
(5)焼鈍後耐キズ性
試験条件;N2 雰囲気、750℃で2時間保持して焼鈍したサンプル表面を鋼板せん断エッジで引っかき、キズ、粉吹きの程度を判定した。
(判定基準)
◎:キズ、粉吹きの発生がほとんど認められない
○:若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
×:地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0043】
(6)スティッキング性
50mm角の供試材10枚を重ねて荷重:19.6kPa(200g/cm2 )をかけながら窒素雰囲気下で750℃,2時間の条件にて焼鈍を行った。ついで、供試材(鋼板)上に500gの分銅を落下させ、5分割するときの落下高さを調査した。
(判定基準)
◎:10cm以下
○:10cm超、15cm以下
×:15cm超
【0044】
(7)打抜性
供試材に対して、15mmφスチールダイスを用いて、かえり高さが50μmに達するまで打ち抜きを行い、その打ち抜き数で評価した。
<判定基準>
◎:50万回以上
○:10万回以上、50万回未満
×:10万回未満
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
表2に示したとおり、本発明に従い得られたCrおよびP化合物を含まない半有機絶縁被膜付き電磁鋼板(発明例1〜32)はいずれも、TIG溶接における溶接強度および溶接性(ブローホール)に優れるのはいうまでもなく、耐食性、耐粉吹き性に優れ、さらには、焼鈍後の耐キズ性、スティッキング性および打抜性にも優れていた。
これに対し、アルカリ土類金属化合物が適正範囲に満たない比較例1,2では、溶接強度に劣っていた。また、アルカリ土類金属化合物が適正範囲を超える比較例3〜5は、耐食性に劣っていた。さらに、Zr化合物が下限に満たない比較例6では、耐食性、耐粉吹き性、焼鈍後耐キズ性に劣っていた。また、P化合物であるリン酸を含む比較例7では、適正量のアルカリ土類金属化合物を含むものの、溶接強度に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板であって、
該無機成分として、Zr化合物、Si化合物およびアルカリ土類金属化合物をそれぞれ、乾燥被膜中における比率で、Zr化合物(ZrO2 換算):20〜70質量%、Si化合物(SiO2 換算):10〜50質量%、アルカリ土類金属化合物(酸化物MO換算。但し、M=Mg,Ca,Sr,Ba):2〜20質量%含有し、残部が有機樹脂を含むことを特徴とする半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項2】
前記被膜中に、さらに乾燥被膜中における比率で、B化合物をB23 換算で0.1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項3】
前記被膜中の有機樹脂は、乾燥被膜中における比率で5〜40質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。


【公開番号】特開2013−91827(P2013−91827A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234319(P2011−234319)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】