説明

単一の読み出しを用いる汎用的なキナーゼ/ホスファターゼアッセイ法

本発明はキナーゼまたはホスファターゼ活性の検出のための汎用的な方法に関する。本方法は、以下の工程を含む:(a)キナーゼまたはホスファターゼ活性試料を、検出可能な読み出しを有する蛍光体または蛍光体の消光剤として働く芳香族基を有する分子のいずれかを含むキナーゼまたはホスファターゼ基質分子と共にインキュベートする工程、(b)工程(a)の混合物を、蛍光体または芳香族基を有する分子のいずれかを含む検出物質および結合パートナーと共にインキュベートする工程であって、基質分子および検出物質は結合パートナーと結合可能であり、かつ基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合は、蛍光体の読み出しを変化させる、工程、ならびに、(c)工程(b)の混合物中の蛍光体の読み出しを測定する工程であって、ブランクと比較して変化した蛍光体の読み出しは、試料中のキナーゼまたはホスファターゼ活性の存在を示す、工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キナーゼまたはホスファターゼ活性を検出するための汎用的なアッセイならびに生命科学および薬物発見におけるその使用を目的とする。
【背景技術】
【0002】
ここ数年の間、インビトロ薬理学およびハイスループットスクリーニング(HTS)における使用のために、ペプチドまたはタンパク質のリン酸化(キナーゼ活性)または脱リン酸化(ホスファターゼ活性)の検出のためのいくつかの方法が開発されている。このような用途のもっとも魅力的なものは、均質の、混合-および-測定アッセイであり、それゆえ小型化に適する、蛍光体読み出しを用いる検出方法である。共通のアッセイはリン酸基への特異的抗体の結合に基づくが、しかしながら、抗体に基づくアッセイはホスホセリンまたはホスホトレオニンに対する抗体が配列特異的であるため、汎用的でない。固定化金属イオン親和性に基づくアッセイ(IMAP)は、抗体を用いず、それゆえ汎用的である。キナーゼ活性の検出のための別の汎用的なアッセイは、ADPの生産を測定するトランスクリーナーアッセイである。これらすべてのアッセイにおいて、キナーゼ/ホスファターゼ活性の検出は、蛍光偏向(FP)または蛍光共鳴エネルギー転移(FRET、TR-FRET、HTRF)に基づく。
【0003】
しかしながら、これらの蛍光測定は、偏向、波長、時間遅延検出などの異なる光学パラメーターの複数の読み出しを必要とし、単純な蛍光強度測定よりもより高性能な機器を必要とする。ADPアッセイは高いATP/ADP濃度および酵素の高いターンオーバーにのみ適当であり、反応の直線範囲を容易に逸脱する。さらに、特異的でなく、特異的ホスファターゼまたはキナーゼ基質の(脱)リン酸化ではないと考えられるATP/ADP消費がモニターされるため、検出は間接的にのみである。
【0004】
それゆえ、キナーゼまたはホスファターゼ活性の効率的な検出を可能とする、改善された汎用的なキナーゼおよびホスファターゼアッセイが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、確固とした信頼できる蛍光読み出しによりこの必要性を達成するキナーゼ活性またはホスファターゼ活性を検出するための方法を提供することである。
【0006】
この方法は、以下の工程を含む:
(a)キナーゼまたはホスファターゼ活性試料を、検出可能な読み出しを有する蛍光体を含むキナーゼまたはホスファターゼ基質分子と共にインキュベートする工程、
(b)工程(a)の混合物を、芳香族基を含む検出物質および結合パートナーと共にインキュベートする工程であって、リン酸化基質分子および検出物質は結合パートナーと結合可能であり、基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合は、蛍光体の読み出しを変化させる、工程、ならびに、
(c)工程(b)の混合物中の蛍光体の読み出しを測定する工程であって、ブランクと比較して変化した蛍光体の読み出しは試料中のキナーゼまたはホスファターゼ活性の存在を示す、工程。
【0007】
第二の目的において、本発明はキナーゼ活性またはホスファターゼ活性を検出するための方法を目的とする。該方法は、以下の工程を含む:
(a)キナーゼまたはホスファターゼ活性試料を、芳香族基を含む基質分子と共にインキュベートする工程、
(b) 工程(a)の混合物を、検出可能な読み出しを有する蛍光体を含む検出物質および結合パートナーと共にインキュベートする工程であって、リン酸化基質分子および検出物質は結合パートナーと結合可能であり、基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合は、蛍光体の読み出しを変化させる、工程、ならびに、
(c)工程(b)の混合物中の蛍光体の読み出しを測定する工程であって、ブランクと比較して変化した蛍光体の読み出しは試料中のキナーゼまたはホスファターゼ活性の存在を示す、工程。
【0008】
本発明の態様において、蛍光体は、フルオレセイン、ローダミンB、テトラメチルローダミン、ATTO 590、ATTO 655、ATTO 680、Atto 700、MR 121、Bodipy 630/650およびBodipy FLからなる群より選択される。好ましい蛍光体は、MR 121、ATTO 590、ATTO 655、Atto 680およびATTO 700からなる群より選択される。本発明の方法における使用のために特に好ましい蛍光体は、MR 121およびAtto 700である。これらの蛍光体のいくつかの分子構造は、Bioconjugate Chem. 2003, 14, 1133-1139に見ることができる。ATTO分子は、Atto-Tec GmbH, Siegen, Germanyより市販されている。
【0009】
本発明の別の態様において、芳香族基は芳香族系を有するアミノ酸の群より選択され、好ましくはトリプトファンである。本発明の方法における使用のための別の適当な芳香族基は、cGMPまたはcAMP誘導体のような分子より選択される。
【0010】
基質分子は、好ましくは、少なくともチロシンおよび/またはセリンおよび/またはトレオニンを含むペプチドである。
【0011】
別の態様において、方法はチロシンキナーゼ活性を検出するためのものであり、基質ペプチドは少なくともチロシンを含む。
【0012】
さらに別の態様において、方法はセリンキナーゼ活性を検出するためのものであり、基質ペプチドは少なくともセリンを含む。
【0013】
さらに別の態様において、方法はトレオニンキナーゼ活性を検出するためのものであり、基質ペプチドは少なくともトレオニンを含む。
【0014】
さらなる態様において、方法はホスファターゼ活性を検出するためのものであり、基質分子はリン酸基、好ましくはホスホチロシンまたはホスホセリンまたはホスホトレオニンを含むペプチドである。
【0015】
さらなる態様において、検出物質は、ホスホチロシンおよび/またはホスホセリンおよび/またはホスホトレオニンを含むペプチドである。
【0016】
別の態様において、基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合は、イオン性相互作用を含む。好ましくは、結合パートナーは、硬いルイス酸金属イオン(例えば、In3+)、またはその表面にイオンを有するビーズなどの固体、例えばIMAPビーズなどから選択される。
【0017】
第三の目的において、本発明は、検出可能な読み出しを有する標識を含むキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性基質、検出物質および結合パートナーを含む、キナーゼまたはホスファターゼ活性を検出するためのキットに関する。
【0018】
第四の目的において、本発明は、芳香族基を含むキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性基質、検出可能な読み出しを有する標識を含む検出物質および結合パートナーを含む、キナーゼまたはホスファターゼ活性を検出するためのキットに関する。
【0019】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「キナーゼ活性」という用語は、キナーゼによる基質のリン酸化を意味する。
【0020】
本明細書で用いる「ホスファターゼ活性」という用語は、ホスファターゼによる基質の脱リン酸化を意味する。
【0021】
本明細書で用いる「蛍光体」は、分子を蛍光性にする分子の成分を意味する。それは、特定の波長のエネルギーを吸収し、異なる(しかし同様に特有の)波長にてエネルギーを再放出する分子内の官能基である。
【0022】
本明細書で用いる「基質分子」という用語は、キナーゼまたはホスファターゼにより改変される分子を意味する。
【0023】
本明細書で用いる「検出物質」は、例えば蛍光体などの検出可能な読み出しを有する標識を担持する分子、または、例えばチロシン、トリプトファン、cGMP、cAMP誘導体などの芳香族基を含む分子を意味する。
【0024】
本明細書で用いる「結合パートナー」は、例えば、リン酸化基質分子および検出物質の両方に結合可能な分子などの物質を意味する。
【0025】
本発明は、蛍光体、例えば、オキサジン色素MR121またはAtto 700などが、非蛍光性基底状態複合体を形成する、例えばトリプトファンなどの芳香族基を有する分子により効率的に消光されるという事実に基づく、汎用的なキナーゼ/ホスファターゼアッセイについて記載する。この考えは、非蛍光性基底状態複合体の形成(「静的消光」)または衝突消光(「動的消光」)のいずれかによる分子軌道の直接的相互作用による消光が、芳香族基を含む物質および蛍光体物質の結合パートナーへの結合により起こることができるように、芳香族基を有する物質および蛍光体を極めて接近させることである。
【0026】
現在の消光アッセイと比較して、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)のような双極子-双極子相互作用にまさる、このような消光メカニズムの利点は、相互作用距離が非常に短く、消光が、非常に高い、典型的にはmMの局所濃度でのみ起こることである。エネルギー転移には、ドナーおよびアクセプター間のスペクトル重複が必要である。このことは、二つの適当な分子での二重標識、およびアクセプターが溶液中で遊離している場合にはドナー発光の吸収の残存を意味する。本明細書全体で記載するより好ましい消光システムは、より少ない非特異的シグナルおよびより高い感度をもたらす。
【0027】
芳香族基または蛍光体のいずれかが、調べられるキナーゼまたはホスファターゼ活性用の基質ペプチドの一部であり、一方、他方が検出物質の一部である。結合パートナーは、リン酸化基質ペプチドおよび検出物質と結合するが、非リン酸化基質ペプチドとは結合しないことから、キナーゼ活性は蛍光体読み出し(蛍光強度)の減少により測定され、一方、ホスファターゼ活性は蛍光体読み出し(蛍光強度)の増加を引き起こす。蛍光体読み出しは、例えば、蛍光強度、蛍光偏光、発光波長分布または蛍光寿命であり得る。
【0028】
結合パートナーは、リン酸基を結合できる物質であり、好ましくは、硬いルイス酸金属イオン(例えば、In3+)、または表面上にイオンを有するビーズなどの固体(例えば、IMAPビーズ)または同様なものである。
【0029】
図1は、適当な蛍光体(例えば、MR121またはAtto 700)で標識された例示的なキナーゼ基質ならびにリン酸基およびトリプトファンを含む検出物質のためのアッセイ原理を示す。基質は、キナーゼによりリン酸化される。生化学的な反応が終了した後、結合パートナーおよび検出物質を加え、蛍光を測定する。より多くの基質がリン酸化されるほど、検出される蛍光が少なくなる。
【0030】
確固とした高感度な蛍光読み出しおよび用いるのに単純で簡単なプロトコルにより、本発明のアッセイはまた、例えば、高密度マイクロタイタープレートにおけるアッセイのミニチュア化、またはマイクロフルイディクスシステムにおける処理および読み出しに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】一般的なアッセイ原理を示す。蛍光的に標識された基質(例えば、MR121またはAtto 700で標識された)がキナーゼによりリン酸化される。リン酸化基質を検出するために、結合パートナーならびにリン酸基およびトリプトファンを含む検出物質を基質に加える。リン酸化基質および検出物質の両方が結合パートナーに結合することにより、トリプトファンによる蛍光の消光が導かれる。
【図2】InCl3の存在下でのMR121(□)およびAtto 700(□)蛍光の減少を示す。20nMのMR121-CGpYまたはAtto 700-CGpYを1μMのWGpYおよび異なる濃度のInCl3と混合し、MR121およびAtto 700蛍光を測定した。MR121物質の最大の消光(初期MR121蛍光の20%)は、40μMから60μMのInCl3にて達し、Atto 700物質では(初期Atto 700蛍光の15%)、10μMから100μMにて達する(b)。
【図3】一定のMR121-CGpYおよびInCl3濃度(20 nM MR121-CGpY、50μM InCl3)でのWGpYの滴定を示す。700nMのWGpYにて最大消光に達する。
【図4】一定のWGpYおよびInCl3濃度(800 nM WGpY、50μM InCl3)でのMR121-CGpYの滴定を示す。
【図5】MR121-CGpYおよびMR121-CGYの混合によるMR121-CGYペプチドの0%から100%リン酸化を示す。800nMのWGpYおよび50μMのInCl3を検出物質および結合パートナーとして使用した。蛍光強度は、リン酸化の増加とともに初期蛍光の20%まで減少する。z'ファクター(クロス)はリン酸化が20%より大きいと0.5を上回り、リン酸化が40%より大きいと0.7を上回る。
【図6】一定のMR121-CGpY濃度(最終濃度20nM)でのWGpY(a)およびIMAPビーズ(b)の滴定を示す。(a)では、IMAPビーズの希釈は1:1000であり、(b)では、WGpYの最終濃度は80μMであった。蛍光強度はWGpY濃度の増加とともに、80μMのWGpYで初期強度の20%まで減少する。ビーズ希釈1:500または1:1000で、蛍光強度は同様に初期強度の20%まで消光され、より高いビーズ希釈では消光はより効果的でない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
材料および方法
すべてのペプチド基質は、Biosyntan GmbH, Berlinから95%の純度で合成した。蛍光体MR121の反応形態は、Roche Diagnostics, Penzbergにより提供され、Atto 700の反応形態は、Atto-Tec GmbH, Siegen, Germanyより提供された。MR121-マレイミドおよびAtto 700-マレイミドの基質ペプチドのシステイン残基のスルフヒドリル基への共有結合は、マレイミド基質を用いる標識用の標準的なプロトコルにしたがって室内で行い、C18カラム(Marchery-Nagel, cc125/4, Nucleosil 100-5, protect 1)を用いて、分析用HPLC(Merck Hitachi D-6000)上で精製した。
【0033】
InCl3(Sigma-Aldrich Co., Catalog No. 303440)を結合パートナーとして用いる場合、反応緩衝液は、pH5.2にて100mM NaAc/HAc(NaAc無水物、>99%、S8750、Sigma-Aldrich Co.)であった。結合パートナーとしてIMAPビーズを用いる場合、緩衝液は、IMAPキット(Molecular Devices, 1311 Orleans Drive, Sunnyvale, CA 94089)で提供される80%の1x IMAP結合緩衝液Aおよび20%の1x IMAP結合緩衝液Bであった。すべての実験のため、10μlのトリプトファン物質、10μlの蛍光体物質および20μlの結合パートナーを混合し、全アッセイ量を40μlとした。蛍光強度を読み取る前に、プレートを60分間室温にて暗所でインキュベートした。
【0034】
すべての測定を384穴マイクロタイタープレート(Cornig B.V., Koolhovenlaan 12, 1119 Schiphol-Rijk, Netherlands, ref.#3723, ユニバーサル光学プレート、透明、非-結合表面)中で行った。すべての蛍光強度測定を、MR121には630 nm(バンド幅50 nm)で励起フィルターおよび695 nm(バンド幅55 nm)で吸収フィルター(emission filter)、ならびに、Atto 700には655 nm(バンド幅50 nm)で励起フィルターおよび710 nm(バンド幅40 nm)で吸収フィルターを用い、高圧キセノンアークランプを備えたプレート::ビジョンマルチモードリーダー(Evotec Technologies GmbH, Schnackenburgallee 114, 22525 Hamburg, Germany)を使って行った。蛍光強度は、減衰フィルターを用い、曝露時間を変えることにより使用したCCDカメラの最大シグナルの約60%に調節した。
【0035】
結果
A.結合パートナーとしてのInCl3
PO32-は、硬いルイス塩基であり、硬いルイス酸金属イオンと複合体を形成する。リン酸基の酸素は、単一の金属イオンに配位結合するかまたはいくつかの金属イオンに架橋して、ポリマータイプの複合体を形成することができる。それゆえ、硬いルイス酸金属イオンを結合パートナーとして用いて、蛍光体物質およびトリプトファン物質を極めて接近させ、非蛍光性基底状態複合体を形成することができる。原理の証明のため、短いペプチドを、蛍光体物質として、ならびに、ホスホチロシン、チロシンおよび/またはトリプトファンを含むトリプトファン物質としてそれぞれ用いた。Cys残基にてMR121およびAtto 700で標識された配列Cys-Gly-Tyrのリン酸化および非リン酸化ペプチド(以下、MR121-CGY、MR121-CGpY、Atto 700-CGYおよびAtto 700-CGpY)を蛍光体物質として用い、検出物質はpTyrがリン酸化チロシンである配列Trp-Gly-pTyr(以下、WGpY)のペプチドであった。図2は、固定されたMR121-CGpYまたはAtto 700-CGpYおよびWGpY濃度(最終濃度:MR121- CGpY 20 nM、Atto 700-CGpY 20 nM、WGpY 1μM)での結合パートナーとしてのInCl3の滴定を示す。MR121の蛍光発光は、50μMから100μMのInCl3の存在下で、初期MR121蛍光(InCl3の非存在下での蛍光)の20%にまで消光される。InCl3のより高い濃度では、MR121蛍光は初期MR121蛍光の70%にまで増加し(図2a)、MR121物質およびトリプトファン物質が、もはや同じ複合体内に結合していないことを示す。図2bは、最適InCl3濃度を見つけるために、10μMから140μMのInCl3を拡大して示す。Atto 700蛍光は、10μMのInCl3にてすでに初期蛍光の15%にまで消光される。MR121物質と同様に、Atto 700蛍光はより高いInCl3濃度で再度増加する。すべての引き続く実験を50μMのInCl3およびMR121物質で行った。次の工程で、WGpY濃度を最適化した。図3は、20 nMのMR121-CGpY(最終濃度)および50μMのInCl3(最終濃度)でのWGpYの滴定を示す。700 nMのWGpYで蛍光強度はその最小値に達する(図3b)。MR121-CGpYのより高い濃度では、蛍光強度はわずかに増加する(20 nMでの初期強度の30%から100 nMでの45%へ)(図4)。最後の実験では、0%から100%の基質リン酸化の蛍光強度が測定された(図5)。MR121-CGpYおよびMR121-CGYを、リン酸化ペプチドの増加とともに20 nMのMR121-CG(p)Y最終濃度となるように混合した。800 nMのWGpYを検出物質として、および50μMのInCl3を結合パートナーとして使用した。蛍光強度は、リン酸化の増加とともに初期濃度の100%から20%に直線的に減少する。アッセイの質の測定として、z'ファクターを算出した。20%のリン酸化からz'ファクターは0.5を上回り(理論的最大値は1)、40%から0.7を上回る。
【0036】
B.結合パートナーとしてのIMAPビーズ
結合パートナーとしてIMAPビーズを用いる実験のため、結合パートナーとしてInCl3を用いた場合のように、同じ短いモデルペプチド、MR121およびトリプトファン物質を用いた。約100 nMの径を有するIMAPビーズは、In3+イオンよりも有意に大きく、それゆえ、WGpYの4倍高い濃度がMR121物質の十分な消光を達成するために必要である。IMAPビーズは、より高い試薬濃度が必要であるという点でInCl3と同様には作用しないが、新規で感受性の高いアッセイにより、結合パートナーとしてこの系が用いられることが可能となる。図6aは、1:1000に希釈されたIMAPビーズを用いて、WGpY濃度の増加とともに20 nMのMR121-CGpYの強度が減少することを示す。80μMのWGpYで、MR121蛍光は初期強度の20%に消光する。80μMのWGpYの一定濃度において、IMAPビーズのより高い希釈はより優れた消光を導かず(図6b)、最適希釈は1:500および1:1000の間にある。
【0037】
結論
本明細書に記載した実施例により、本発明者らは、キナーゼまたはホスファターゼ活性は、適当な蛍光体(例えば、MR121、Atto 700)の蛍光強度の減少(キナーゼ)または増加(ホスファターゼ)を測定することにより検出できることを示す。非蛍光性基底状態複合体の形成による静的消光または衝突消光のいずれかである、トリプトファンによる蛍光体の消光は、短い範囲の相互作用であり、このことは、蛍光体物質およびトリプトファン物質が結合パートナーに結合した場合にのみ起こることを保証する。このことは、アクセプターによるドナー発光の吸収がある通常のFRET測定と対照的に、高濃度の蛍光体での結合パートナーとの結合を伴わない。FP測定と同様に、本明細書に記載した消光アッセイには一つの標識のみが必要であるが、FPでは2つの読み出しが必要である一方、蛍光の消光の測定は単一の読み出しのみを必要とする。確固とした高感度な蛍光読み出しと、用いるのに単純で簡単なプロトコルにより、アッセイはまた、例えば高密度マイクロタイタープレートに、またはマイクロフルイディクスシステムにおける処理および読み出しに適用可能である。例えば、MR121およびAtto 700などを使用する蛍光体は、近赤外線の蛍光発光で赤に励起するので、非常に感受性が高いことが証明され、例えば、化合物、生物学的材料およびプラスチックの自己蛍光との最小の干渉を示す。蛍光体物質、トリプトファン物質および結合パートナーの3つの成分は、互いに滴定でき、特有の柔軟性を提供する各アッセイに最適な条件を見出すことができる。
【0038】
本発明の現在好ましい態様を示し記載したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲の範囲内でさまざまに具体化し実施してもよいことが明確に理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)キナーゼまたはホスファターゼ活性試料を、検出可能な読み出しを有する蛍光体を含むキナーゼまたはホスファターゼ基質分子と共にインキュベートする工程、
(b)工程(a)の混合物を、芳香族基を含む検出物質および結合パートナーと共にインキュベートする工程であって、リン酸化基質分子および検出物質は結合パートナーと結合可能であり、かつ基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合は、蛍光体の読み出しを変化させる、工程、ならびに、
(c)工程(b)の混合物中の蛍光体の読み出しを測定する工程であって、ブランクと比較して変化した蛍光体の読み出しは、試料中のキナーゼまたはホスファターゼ活性の存在を示す、工程
を含むキナーゼ活性またはホスファターゼ活性を検出するための方法。
【請求項2】
(a)キナーゼまたはホスファターゼ活性試料を、芳香族基を含む基質分子と共にインキュベートする工程、
(b) 工程(a)の混合物を、検出可能な読み出しを有する蛍光体を含む検出物質および結合パートナーと共にインキュベートする工程であって、リン酸化基質分子および検出物質は結合パートナーと結合可能であり、かつ基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合は、蛍光体の読み出しを変化させる、工程、ならびに、
(c)工程(b)の混合物中の蛍光体の読み出しを測定する工程であって、ブランクと比較して変化した蛍光体の読み出しは、試料中のキナーゼまたはホスファターゼ活性の存在を示す、工程
を含むキナーゼ活性またはホスファターゼ活性を検出するための方法。
【請求項3】
蛍光体が、フルオレセイン、ローダミンB、TMR、ATTO 590、ATTO 655、ATTO 680、Atto 700、MR 121、Bodipy 630/650、およびBodipy FLからなる群、より好ましくはATTO 590、ATTO 655、ATTO 680、Atto 700およびMR 121からなる群より選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
蛍光体が、MR 121またはAtto 700である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
芳香族基が、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンであるアミノ酸からなる群、好ましくはトリプトファンより選択される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
基質分子および検出物質の結合パートナーへの結合がイオン性相互作用を含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
結合パートナーが硬いルイス酸金属イオンまたはその表面上にイオンを有するビーズなどの固体から選択される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
検出物質がホスホチロシンおよび/またはホスホセリンおよび/またはホスホトレオニンを含むペプチドである、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
基質分子が少なくともチロシンおよび/またはセリンおよび/またはトレオニンを含むペプチドである、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
チロシンキナーゼ活性を検出するための方法であって、基質ペプチドが少なくともチロシンを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
セリンキナーゼ活性を検出するための方法であって、基質ペプチドが少なくともセリンを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
トレオニンキナーゼ活性を検出するための方法であって、基質ペプチドが少なくともトレオニンを含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
ホスファターゼ活性を検出するための方法であって、基質分子がリン酸基、好ましくはホスホチロシンまたはホスホセリンまたはホスホトレオニンを含むペプチドである、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
蛍光体読み出しが蛍光強度である、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
検出可能な読み出しを有する蛍光体を含むキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性基質と、検出物質と、結合パートナーとを含む、キナーゼまたはホスファターゼ活性を検出するためのキット。
【請求項16】
芳香族基を含むキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性基質と、検出可能な読み出しを有する蛍光体を含む検出物質と、結合パートナーとを含む、キナーゼまたはホスファターゼ活性を検出するためのキット。
【請求項17】
特に前述の実施例に関して実質的に本明細書に記載した、方法およびキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−538606(P2010−538606A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523310(P2010−523310)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007122
【国際公開番号】WO2009/033580
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】