説明

単一ポリマー相系を用いる分離方法

本発明は、液体から標的化合物を濃縮する方法であって、2種類の水性相間での差別的な分配によって実施される1以上の単離段階を含む方法に関する。本発明では、かかる相は、溶液が一方の相をポリマーリッチとする1ポリマー二相系に分離するような熱的条件及び他の条件下において熱応答性で自己会合性(即ち、曇り性)の親水性ポリマー及び必要ならば若干の追加塩を水性バイオテクノロジー溶液(例えば、発酵試料又は生物分離プロセスの液流)に添加することで形成される。標的化合物はポリマーが濃縮されていない相中に見出すことができる一方、多いが様々に異なる割合の夾雑物は相界面又はポリマーリッチ相に差別的に分配され得る。軽微な変化又は全く無変化のままで、標的含有相溶液をさらに沈殿、クロマトグラフィー及び濾過のような標準単位操作で処理することにより、標的をさらに精製して残留ポリマーを除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体から標的化合物を濃縮する方法であって、2種類の水性相間での分配の差によって実施される1以上の単離段階を含む方法に関する。これは抗体又は抗体由来の標的に特に適しており、ウイルスワクチン処理のような他の用途にも適している。
【背景技術】
【0002】
最新のバイオ医薬品の開発及びヒトゲノムのマッピングを始めとするバイオテクノロジーの変革は、クロマトグラフィー及び電気泳動のような分離方法の発達によって可能となってきた。かかる方法はスモールスケールでもラージスケールでも使用でき、生物学的物質を含む各種の物質に対して有用な融通のきく方法として知られている。しかし、これらは技術及び設備の点で要求が厳しい。加えて、分取電気泳動のような若干の方法のスケーリングでは、加熱及び冷却要件の非線形スケーリングのために一層複雑な設備が必要となる。このような複雑化はまた、かかる方法のモデル化及び(小容積のマイクロタイターを用いる)高スループットスクリーニング方法によるその最適化を妨げる。
【0003】
代替的な方法は、水性ポリマー相系中の相間における分配である。これは1950年代から研究されてきたが、その商業的応用は良好な処理能力(標的溶解度)を与える経済的に実用可能な(安価な)相系がないことによって厳しく制限されてきた。凝集、結晶化及びサイズ排除のような分離方法と共に、分配は古典的な分離技法と見なされている。それは、2相間において標的及び他の物質を差別的に分配することに関係する。「分配」という用語は、(a)古典的な捕捉クロマトグラフィーにおけるような液体−固体分配、(b)2以上の液相間(それぞれ二相系又は多相系)における分配、(c)移動液相と固相担体の表面に固定化された別の液相との間における分配、及び(d)液相と2相間の相界面との間における粒子の分配を意味し得る。本特許出願の目的のためには、分配はb、c又はdのような状況、即ち液相間での分配をいう。この定義では、標的処理能力は固相表面積でなくむしろ液相容量の関数である。その結果、処理能力は非常に大きくなり得る(下記参照)。分配は1相中の濃度及び別の相中の濃度に関係する係数(K)として表されるのが通例であり、溶質に関しては、Kは一般にブレンステッド式に従う。したがって、Kは静電相互作用及び/又は疎水性相互作用のような各種の相互作用に応じて指数関数的に変化すると予想され、また溶質サイズ(即ち、液相との相互作用面積)に敏感であると予想される。粒子が界面張力によって液−液相界面に保持され得る界面分配の場合には、Kは界面張力及び相組成因子に応じて指数関数的に変化すると予想される。
【0004】
古典的な液−液二相系は、通常は相間における顕著な極性差並びに顕著な界面張力を有する有機及び水性二相系である。かかる系は、タンパク質又は細胞のような生物学的材料に対してあまり有用でない。これは、顕著に非極性溶液及び顕著な界面張力を有する相系の混合に関係する剪断損傷によってかかる生物学的材料が変性される傾向があるからである。生物学的材料に対して一層有用なのは、低張力の水性ポリマー二相系である。後者は、標的溶解度の向上、液相極性の低下、泡立ちの低下、殺菌剤としての作用などのために添加される若干の有機溶媒(例えば、エタノール)その他の有機添加剤を含み得ることが広く認められている。
【0005】
ポリマー二相系は、特定の親水性かつ通例は中性ポリマーを水溶液中で混合することで形成できる。これらのポリマーには、デキストラン(ポリグルコース)及びポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリスクロース(例えば、Ficoll(商標))及びPEG、又は直鎖ポリアクリルアミド及びPEGがある。各ポリマーの典型的な濃度は5〜10%w/wである。かかる濃度では、エントロピーその他の力が二相の形成を推進する傾向があり、両相は通例90%(w/w)を超える水を含むが、極性、水素結合特性、凝固点などについては僅かな差しか示さない。これらの相は、通例は一方のポリマーで富化されていて低い界面張力を有する。相密度の差は、重力又は遠心分離による相の分離を推進する。バイオテクノロジー分野では、PEG及びデキストラン型の二相系の利点の1つは、標的タンパク質をPEGリッチで低密度の上部相に優先的に分配し得る一方、細胞破片や若干の夾雑物を界面または相補的な下部相に分配し得る(又は沈降させ得る)ことである。
【0006】
バイオプロセスの液流に2種のポリマーを添加し、次いでこれらを除去するという問題とは別に、デキストラン−PEG及び類似のポリマー二相系の大きな欠点はポリマーのコストである。これは特に、バイオプロセス相系中で使用するためにはそれ自体を精製しなければならない天然のバイオプロダクトであるデキストランについて言える。かかるコストを低減させようとして、科学者達は2つの道を検討してきた。第1の道は、デキストランをデンプンその他の安価なポリマーで置き換えることである。しかし、かかるポリマーは純度が低く、MWの制御が容易でなく、一層粘稠な相を形成し、しかも独自の問題を引き起こす場合が多い(Josefine Persson,Dana C.Andersen,Philip M.Lester,Biotechnology and Bioengineering,vol.90,(2005)442−451)。別のアプローチは、比較的高い濃度(10%w/w)のPEG及び硫酸カリウムのような塩(3%w/w)を合わせることで形成される二相系を用いて仕事することであった。かかる系中におけるタンパク質分配に関しては、Andrews,Nielsen,Asenjo,1996及びAzevedo et al.,2007(以下に一層詳しく論議される)を参照されたい。他方、プラスミド分配に関する最新の総説については、F.Rahimpour,F.Feyzi,S.Maghsoudi,R.Hatti−Kaul,Biotechnology and Bioengineering,95,627−637,2006を参照されたい。残念ながら、PEG濃度および塩濃度の増加は、プロセスのコストにマイナスの影響を与える問題を生み出す。これらの問題には、粘稠な相、塩試薬のコスト、塩処理及び設備腐食の問題、並びに処理能力に関係する標的溶解度の問題がある。例えば、これらの系における抗体処理能力は多くの場合に1g/Lであり、これは10g/Lの発現抗体を含む(清澄化)発酵ブロスを分配に先立って10倍に希釈しなければならないことを意味している。それはまた、相系を構築するために1リットル当たり5ドルかかるとすれば、商品のコストに1グラム当たり少なくとも5ドルが加算されることも意味している。このような希釈並びにそれに関連するプロセス容量、プロセス時間及びコストの増加は大きな妨げである。
【0007】
ある種の親水性ポリマーは逆熱溶解度を示す。その結果、温度がポリマーの低臨界溶解温度(LCST)に関係する一定の曇り温度(Tc)を超えて上昇すると、それは自己会合して特有のポリマーリッチ相を形成し始める。一般の文献中には、エチレンオキシド(EO)及びプロピレンオキシド(PO)モノマー基の混合物を用いて形成されるコポリマー又はブロックコポリマー(いわゆるEOPOポリマー)、EO、PO又は類似の基で修飾された多糖類(例えば、エチルヒドロキシエチルセルロース又はEHEC)、及びN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAM)を用いて形成されるポリマーを始めとして、かかるポリマーのいくつかの例が示されている。希薄緩衝液中でのPEG(重合EO)のTcは約100℃であり、したがって大抵のバイオテクノロジー用途には適さないのに対し、EOPO及びNIPAAMポリマーのTcは、溶液の塩組成及び他の因子に応じて20〜40℃というバイオテクノロジー的に一層有用な範囲内にあることが多い。熱応答性ポリマーに加えて、ある種の親水性ポリマーはpH依存性の自己会合を示す(例えば、国際公開第2004/082801号)。国際公開第2004/020629号(Tjerneld)は、EOPOポリマーの逆熱溶解度を利用して、2ポリマー相系中で既に分配されたプラスミドの分離をさらに容易にすることに関する。室温では、EOPO及びデキストランポリマーを用いて形成される2ポリマー二相系は、PEG−デキストラン系と同様にして生じる。EOPO−デキストランポリマーの水性二相系から、低密度の上部EOPOリッチ相が単離される。次いで、EOPOリッチ相の温度を約37℃に(即ち、Tcより高くまで)上昇させると、上部相は水リッチ相及び自己会合EOPOポリマーリッチ相へのさらなる相分離を受ける。有利には、水リッチ相は所望の標的を含むはずである。一般に、この種のEOPO−デキストラン系は、相ポリマー成分の再循環及び効率的な二段分配分離プロセスの設計に関して利点を提供する。しかし、欠点はやはり、生物学的に導かれる高価なデキストランポリマーを用いる相の構築に関連するコストである。かかる系中のデキストランをデンプンポリマーのような一層安価なポリマーで置き換えることもできるが(Persson et al,2005)、プロセス液流に2種のポリマーを添加し、次いでこれらを除去しなければならないことに関連する問題はなおも存在している。
【0008】
上記の文献例では、一般の文献と同じく、インタクト細胞又は溶解細胞及び細胞破片を含む相発酵ブロスに遠心分離を施すことで形成された清澄化供給液から標的を精製するために相系が使用されている。
【0009】
バイオテクノロジー分野では、2種のポリマーを用いて形成され、又は顕著な添加塩の存在下で1種のポリマーを用いて形成される水性ポリマー二相系が広く関心を集めている。これは、一層大きな容量にスケールアップする場合にも効率の損失又はコストの劇的な変化を生じることなく、かかるポリマー二相系がスモールスケールの分離並びにラージスケールの分離で容易に利用されるからである。また、電荷に基づく分離、疎水性に基づく分離、親和性に基づく分離、又はサイズに基づく分離のような任意の標準的分離アプローチをポリマー二相系中で実施することもできる。一般に、多くの不要成分(例えば、細胞破片、内毒素、核酸、ウイルス)は、PEG−デキストラン又はPEG−塩二相系中の下部相(それぞれデキストランリッチ相又は塩リッチ相)にはっきりと分配される傾向がある。したがって、上部相(PEGリッチ相)への良好な標的分配をもたらす系を見出すことができれば、効果的な一次分離および標的濃度を得ることができる。しかし、処理能力(即ち、溶解度)、相成分のコスト、相成分の除去、及び他の(下流)単位操作や設備に対する相成分の影響の点で4つの大きなハードルがなおも存在している。特に後者は、既存の標準プロセス中にある種の相系を上流単位操作として容易に組み込むことを妨げる。
【0010】
標準的なクロマトグラフィー及び/又は濾過処理におけるインターフェーシングに関する欠点を解消し、また理論的分配段階が単位操作当たりただ1つであるという限定を解消しようという努力に際し、1相を該相を優先的に濡らすことができるクロマトグラフィー用又は他の固体担体上に固定化することで、PEG−デキストラン又はPEG−塩のような液−液分配二相系をクロマトグラフィー用途に適合させることが行われた。次いで、相補的な相をカラム中にポンプで送り込むことで、移動相と固定相との間における平衡化の機会を繰り返し提供する。これは、E.Merck社(ダルムシュタット)のW.Muller et al.によって1980年代に商業的に開発された(米国特許第4,756,834号)。
【0011】
上記のアプローチ及び他の相形成ポリマーの様々な組合せが可能である。米国特許第5,093,254(Giuliano et al)は、上部相としてポリビニルピロリドン(PVP)及び下部相としてマルトデキストリンを使用し、タンパク質分配のための低コスト系を提供する水性二相タンパク質分配系に関する。この系はまた、クロロトリアジン色素の特定の誘導体と共に使用することもできる。かかる誘導体はPVPに対して非共有結合的に結合し、分離すべきタンパク質に対するリガンドとして役立つ。先行技術のPEG−ヒドロキシプロピルデンプン系において共有結合を形成するために必要なクロマトグラフィー抽出や溶媒抽出を行う必要なしに、かかる色素をポリマー相に対して容易に結合できるので、この系の利点はそのコスト効率にあると述べられている。
【0012】
最新のバイオ医薬品の多くは、モノクローナル抗体(通例はIgG型)又は関連する抗体フラグメント(Fab)又は抗体の誘導体に基づいている。抗体精製のために相系を使用することは、デキストラン及びPEG並びに関連する2ポリマーの二相系中における血漿タンパク質分配を含めるならば、30年以上にわたって研究されてきた。さらにコスト効率のよいPEG−塩系及び他の系を用いる分配による抗体のラージスケール処理の実行可能性に向けられた研究は、10年以上にわたって文献中に見られてきた。
【0013】
B.A.Andrews,S.Nielsen及びJ.A.Asenjo(Partitioning and purification of monoclonal antibodies in aqueous two−phase systems,Bioseparation 6,(1996)306−313)は、様々な系を検討し、要因配置実験を用いて抗体分配のために最適と考えられる若干の系(例えば、7%w/w PEG、14%リン酸Na及び12% NaCl)を見出した。かかる系は、100の抗体分配K値(下部相に対する上部相中のタンパク質濃度の比)を与えた。彼らはプロセス供給液流夾雑物を表すために血清アルブミン、トランスフェリン及び若干の他のタンパク質を使用し、抗体に関して示されたものとは差別的な分配を実証した。加えて、彼らはハイブリドーマ細胞培養物からのモノクローナル抗体試料のスモールスケール処理を試みた。Persson et al.2005及びAzevedo et al.,2007と同じく、彼らは遠心分離で清澄化した(無細胞の)試料溶液を用いて研究した。ハイブリドーマによって産生された抗体試料に関する実験において、彼らは純粋なタンパク質試料について得られたK値が試料溶液の複雑さによって損なわれるように見えることに注目した。しかし、彼らは1相中への抗体の良好な分配を達成することができた。彼らは、一層低いNaClを含む系を用いて標的分子を相補的な相中に分配する場合を含め、複数回の抽出を用いて純度を高め得ることを示している。
【0014】
Andrews et al.もまた、PEG−塩系によるタンパク質分配一般、特に抗体分配にとって何が主な障害になっているかに注目した。それは、(高い塩濃度のために)タンパク質溶解度が低い(大抵は1g/L)ことである。抗体及び他の組換えタンパク質が10g/L以上のレベルで発現され得ることを考えると、分離プロセスの初期にかかる系を使用するには、プロセス容量を10倍に増加させることが必要となり、これは処理スケール、コスト及び時間が数倍に増加することを伴う。これらに加えて、塩の除去及びポンプや他の金属設備の腐食の可能性を含め、塩成分に関係するコストも存在する。10年後、Azevedo et al.(Ana M.Azevedo,Paula A.J.Rosa,I.Filipa Ferreira,M.Raquel Aires−Barros,Optimisation of aqueous two−phase extraction of human antibodies,Journal of Biotechnology 132(2007)209−217)は、抗体の工業スケールプロセスのために適したPEG−塩系を発見する努力を拡大した。彼らの最適化方法は、Andrews et al.のものに類似した系(即ち、12%PEG6000、10%リン酸Na(pH6)、15%NaCl)を見出した。これは、Mabを部分的に精製するために使用した場合、濃縮(及び清澄化)チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養上澄み液からは88%の全収率を与え、ハイブリドーマ培養上澄み液からは90%の全収率を与えた。しかし、その標的タンパク質濃度はやはり約1g/Lであった。
【0015】
さらに最近になって、Aires−Barros et al(I.Filipa Ferreira,Ana M.Azevedo,Paula A.J.Rosa,M.Raquel Aires−Barros,Purification of human immunoglobulin G by thermoseparating aqueous two−phase systems,Journal of Chromatography A,1195(2008)94−100)は、MW 2000〜5100のUCON(登録商標)EOPO50/50コポリマー(Dow Chemical社)を含む系中における抗体分配に関し、2ポリマー熱分離性相系を検討した。彼らは、8%w/w UCON及び5%デキストランT500を含む系中の相間における清澄化CHO培養上澄み液(0.1g/LのAb)からのIgGの分配を研究した。上部(EOPOポリマーリッチ)相中への抗体分配を促進するため、彼らは20%w/wトリエチレングリコール−ジグルタル酸(TEG−COOH)及び10mMリン酸Na(pH8)を添加した。(上記の最終ポリマー濃度及びTEG−COOH濃度を達成するため)清澄化上澄み液を50%で系に添加することができた。若干の実験では、標的タンパク質を約1g/Lに増加させるためにポリクローナルIgG(Gammanorm(商標),Octapharma AG)を添加した。二段階(2ポリマー二相分配、次いで上部相のポリマーリッチ相及び水リッチ相への熱分離、上記参照)の分配プロセスにより、85%(これは商業的に魅力あるプロセスにとっては比較的低い)の抗体が88%の純度(これはGammanormの添加によって支援されたのかもしれない)で得られた。Tcは約50℃に生じたが、これは第2段階の抽出において相系の加熱を必要とした。これらの系は低い塩濃度を提供するものの、相当量のTEG−COOHを必要とする。これは、それが存在しないと、(UCON−デキストラン相系の)上部UCONリッチ相中におけるIgGの回収率は50%より低い(即ち、K<1)からであった。
【0016】
一般に、二段階プロセスでは、熱分離性相はデキストラン(上記のAires−Barros et alを参照されたい)又は類似の多糖類(上記のPersson et al.)と共に使用するのが通常であった。したがって、第1の分配段階では標的及び夾雑タンパク質に対する選択性が生じ、次いで(通例はEOPOポリマーリッチ相の)温度誘起相分離の使用により、標的及びポリマーが自己会合ポリマーリッチ高密度相の上方に浮遊する標的含有水性相中に単離される。独自の系(即ち、1ポリマーであるが塩濃度の低い系)における熱分離性相の使用に関しては、一般的な知識は、それが選択性をほとんど示さないので有用でないことが多く、他のポリマーを含む系中で使用すべきであるというものであった。名高い国際研究グループは、「したがって、水−EOPO系は、疎水性分子(例えば、変性タンパク質又はトリプトファンリッチペプチド)の分配或いは選択的水除去による溶液濃縮のためにしか適さない(同様な議論はミセル二相系についても当てはまる)」と結論するに至った(Hans−Olof Johansson,Gunnar Karlstrom,Folke Tjerneld,Charles A.Haynes,J.Chromatography B,711(1998)3−17)。かかる用途に関しては、別のEOPOポリマー(Breox 50A 1000、50%エチレンオキシド及び50%プロピレンオキシドからなるランダムコポリマー、数平均分子質量3900、Specialty Chemicals社(サウサンプトン、英国)の相分離に対する各種の塩及び他の添加剤の効果が、Cunha et al.(Maria Teresa Cunha,Folke Tjerneld,Joaquim M.S.Cabral,Maria Raquel Aires−Barros,Journal of Chromatography B,711(1998)53−60)によって研究された。
【0017】
Teixeira et al.(Martinha Pereira,You−Ting Wu,Armando Venancio,Jose Teixeira,Biochemical Engineering Journal 15(2003)131−138)は、UCON 50−HBとポリビニルアルコール又はヒドロキシプロピルデンプンとからなる2ポリマー系或いはUCON 50−HBと比較的高い濃度の硫酸アンモニウムとからなる系中におけるエンド−ポリガラクツロナーゼ(endo−PG)の分配を検討した。後者の系は二相の形成を行うために加熱を必要としたが、試薬コストの点及び試薬を(やはり清澄化された)培養上澄み液に予め添加して最終系の70%が清澄化培養ブロスからなるようにできる点で最も有望であった。endo−PGが10倍に濃縮されかつ95%の酵素活性が回収される三段階プロセスにおいて、UCONポリマーを再循環させることができた。この研究に関しては、2つの観察結果が注目に値する。第一に、二相の形成を行うために必要な最小5%のアンモニウム塩濃度(50g/L又は約0.38M)はなおも相当に高く、しかも10%のUCONを必要とした。温度を40℃に上昇させることは、これらの値を3%(0.23M)の塩及び5%のポリマーに減少させただけであった。このように、系はなおも相当量の添加塩を含んでいた。第二に、30℃より高い温度では、Teixeira et alは系中で相の逆転を認めた。即ち、室温で上部のポリマープア低密度相が下部の相になったのである。かかる効果は、興味深いものの、特に沈降する傾向のある細胞及び細胞破片を含む系中におけるラージスケール処理に関しては問題を生じることがある。上述した熱分離性相系に加えて、疎水的に修飾されたEOPO及び類似のポリマーを含む広範囲の熱分離ミセル系が存在している(これの議論に関しては、上記のH.−O.Johansson et al,1998を参照されたい)。上記の2ポリマー熱分離性水性相系に関する多くの特許は、General Electric CompanyグループのG.E.Healthcare社によって現在保有されている。
【0018】
PEG−塩二相系が細胞及び細胞破片を界面に分配させ、したがって部分清澄化を行うために相分配を使用できることは、かなり長い期間にわたって知られていた。Kohler et al.は、直接にバイオリアクター内で7.5%w/w PEG1500−14%リン酸カリウム二相系を形成し、それを用いてE.coli中の組換えタンパク質を精製し(Kristina Kohler,Bjorn Nilsson,Andres Veide,Recovery of extracellular human insulin−like growth factor−I and II as a fusion protein from Escherichia coli culture broth by aqueous two−phase extraction,Bioseparation,3(1992−1993)241−250)、約90%の細胞が標的含有相中にないことを認めた。しかし、かかるプロセスでは完全な相分離を行うためになおバッチ遠心分離が使用され、ラージスケール用途のためには連続遠心分離モードでの実施が提唱された。かかるポリマー−高塩系は、低い塩濃度で形成されるポリマー−ポリマー系よりずっと高い界面張力を有しており、比較的高い界面張力のためにある程度の清澄化を達成するように機能することが期待できる。しかしこれらは、高い塩濃度が要求されるため、恐らくは処理能力(標的溶解度)の点でなお制限を受けるであろう。Kohler et al.は、系に添加されるバイオマスが若干の分配結果に影響を及ぼしたことに注目した。組換えタンパク質(特に抗体)を処理するための最適化系の発見に関する研究の多くは清澄化供給液を用いて行われてきたので、発見された系は清澄化供給液に関しては最適化されていないばかりか、機能さえしない可能性がある。本研究において若干の未清澄化供給液が使用された理由はそこにある。
【0019】
上記の議論からわかる通り、二相分配は複合供給液流からのバイオ医薬品を含むタンパク質のような各種物質の一次処理(清澄化及び標的の部分精製)のための方法として非常に有望である。しかし、これまでのところ、若干の問題が解消されていない。これらの問題には、試薬(ポリマー及び塩、又は2種のポリマー)のコスト、標的含有プロセス液流の所要希釈度に関係する処理能力の問題、標的の分配を増加させるために各種の親和性物質(例えば、TEG−COOH)を添加する必要の可能性、さらなる下流処理段階前又は段階中における相系形成物質の除去、及びさらなる下流処理を可能にするための標的含有相の変更がある。単純さという点から見れば、(ミセル形成や特殊な疎水的に修飾された熱応答性ポリマーの使用を伴わない)熱応答性ポリマー−水系は、通例は中性でありかつ場合によっては生体適合性であるので最も魅力的であり得る。その上、標的含有相中の残留ポリエトキシ及び他のポリマーは比較的不活性の物質と見られるだけではない。これらは、(a)多段階分配によるさらなる処理に際して、(b)標的含有溶液の噴霧乾燥(例えば、Jessica Elversson,Anna Millqvist−Fureby,Aqueous two−phase systems as a formulation concept for spray−dried protein,International Journal of Pharmaceutics 294(2005)73−87)に際して、並びに(c)その公知の凍結防止性及び酸化防止性のため、さらなる処理に先立つ標的含有相溶液の低温中間貯蔵に際して多少の利益を与えることがある。しかし、確立された知識及び経験によれば、その形成には比較的高いポリマー濃度及び塩濃度が必要とされた上、形成された相は選択性をほとんど示さず、かなり高い塩濃度を要求し、しかも清澄化を行うためには働かないことがあった。
【0020】
長年にわたり、バイオ医薬品の発酵、精製及びポリッシング/製剤化は別々のプロセス領域と見られてきた。これの主な理由は、これらがしばしば異なる単位操作及び容量スケールを含んでいたことにある。これらはいずれも、標的物質の濃度に関係し、逆に異なる処理段階で扱われるプロセス容量に関係していた。即ち、発酵は恐らく1mg/mLで行われ、親和性又はイオン交換による精製で濃度は恐らく30mg/mLに上昇し、そしてポリッシング及びそれに続く製剤化段階は標的を100mg/mL(液体)又は100mg/g(固体)に持っていく。その結果、最初の処理段階は製剤化段階より100倍大きいプロセス容量を扱うことがある。抗体及び他のバイオ医薬品は発酵供給液中で30mg/mLに達することがあり、また初期のイオン交換その他の精製段階は100mg/mLを達することがあるので、これらの区別はあいまいである。製剤化はしばしば、タンパク質その他のバイオ医薬品を、Dextran(商標)、ポリ(エチレングリコール)又はPolysorbate(商標)(ポリエトキシル化ソルビタン及びラウレート)を含むポリマー並びにTergitol(商標)又はPluronic(商標)のようなオキシエチレン又はオキシプロピレンの各種市販コポリマー又はブロックコポリマーのような付形剤と合わせることを含んでいる。アルブミンのような他のタンパク質(即ち、帯電した両親媒性バイオポリマー)の使用を含め、付形剤は帯電していることがある。付形剤は貯蔵中にバイオ医薬品を安定化し、凝集を誘起せずに高い濃度を維持し、体内での迅速な溶解及び取込みを可能にする。若干のポリマー付形剤その他の付形剤は、例えばアジュバント作用を介して、薬物の送達ばかりでなくその薬理学的性質を向上させることがある。上記の事実を仮定すれば、生体適合性ポリマーを用いて溶液中の抗体その他の標的タンパク質或いは不溶性複合体を局在させるいかなる分配、沈殿その他の単位操作方法も、バイオ医薬品の精製ばかりでなくその製剤化、貯蔵、送達及び効力に関しても興味の対象とすべきであることは当然である。1つの重要な点として、任意の商業的に実行可能な方法は、タンパク質その他の標的を比較的高い濃度(例えば、>10g/L)で含む複合供給液を取り扱うことができ、しかも顕著な(即ち、>2×の)希釈なしにそれを処理することができなければならない。上記の考察内容は、組換えタンパク質、核酸及び他のバイオ医薬品ばかりでなく、ワクチン及び他のバイオ治療薬や生体粒子にも適用できる。
【0021】
ワクチン、特にウイルスワクチンは、インフルエンザワクチンの処理によって例示される一連の興味深い処理問題を提起する。多くのインフルエンザワクチンは卵中で製造される。これは、ウイルス標的からオボアルブミンタンパク質及び他の夾雑物を除去するという興味深い問題を生じる。これは、大抵はショ糖密度勾配遠心分離によって行われる。しかし、最新の処理は、懸濁培養又は(細胞がコロイド担体に付着して増殖する)付着培養で増殖させた細胞(通例はMDCK又はVero腎細胞株)中でのウイルスワクチン処理に移行しつつある。いずれの場合にも、増殖細胞はウイルスに感染していて、これらは細胞が自然に溶解するか或いは各種の化学的又は物理的処理によって容易に溶解される点まで増殖する。いずれの場合にも、最終結果は、様々な大きい(>1ミクロンの)粒子、細胞破片、(精製すべき標的である)インタクトウイルス及びウイルス関連の破片(例えば、ウイルスタンパク質を含む細胞膜フラグメント)を含む複合供給液である。遠心分離その他の方法を用いて細胞及び関連する破片を除去した後、ショ糖密度勾配法を用いてウイルス関連画分をインタクト画分及び破片画分に分離することができる。もちろん、かかる方法は数十年前からの古い技術であり、水性ポリマー二相分配又はカラムクロマトグラフィーのような新しい分離方法を使用とする試みが行われてきた。ウイルスの分配に関係する研究の大部分は10年以上前に行われ、Lena Hammar(Lena Hammar,Concentration of Biomaterials:Virus Concentration and Viral Protein Isolation,Chapter 62,pp.627−658,in Methods in Enzymology,Volume 228,AqueousTwo−Phase Systems,H.Walter and G.Johansson,Eds.,Academic Press,New York,1994)によって総説されている。そこで彼女は、「大量の材料からのウイルス精製が必要とされる場合及び不安定なウイルスを取り扱う場合には水性ポリマー系における抽出が魅力的な選択肢であり続ける」ことを認めた。Hammarの文献及び関連する文献は、医学的に重要な多種多様のウイルスの分配に関する多くの事例を提供している。ウイルスの不安定は、一般に、単一ポリマー−高塩(例えば、PEG−リン酸ナトリウム)系より低い界面張力を与える2ポリマー(通例はPEG−デキストラン)相系を使用することを要求する。もちろん、かかる系を用いたウイルスの分別は、分配による抗体その他の高分子標的の処理に関係するものと同し欠点の多くを有している。これには、2種のポリマーのコスト、及びプロセスへの独立した分配段階の追加がある。ある種のワクチンプロセスでは、遠心分離による清澄化及びそれに続くショ糖密度勾配法による分別後のウイルス生成物の回収率は僅か20%にすぎないことがある。清澄化段階及び密度勾配段階の一方又は両方の代わりに使用されて良好又は一層良好な回収率を与える安価な分配系は、特にそれが固定ライン遠心機内ではなく使い捨てバッグ方式で実施できるならば望ましいものである。ウイルスワクチンの分配処理の商業的実行可能性はまた、優れた選択性を与える新しい安価な系に依存しなければならない。かかる目標は本願において達成される。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、液体から標的化合物を濃縮する方法であって、2種類の水性相間での差別的な分配によって実施される1以上の単離段階を含む方法に関する。本発明では、かかる相は、溶液が一方の相をポリマーリッチとする1ポリマー二相系に分離するような熱的条件及び他の条件下においてただ1種の熱応答性で自己会合性(即ち、曇り性)の親水性ポリマー及び任意には若干の追加塩を水性生物学的溶液(例えば、発酵試料又は生物分離プロセスの液流)に添加することで形成される。標的化合物はポリマーが濃縮されていない相中に見出すことができる一方、多いが様々に異なる割合の夾雑物(例えば、細胞又は細胞破片)は相界面又はポリマーリッチ相に差別的に分配される。したがって、本方法を発酵ブロスその他の複合バイオマス含有溶液に関して実施して顕著な程度の清澄化及び精製を達成することで、クロマトグラフィーのような追加の標準分離操作によって標的含有相をさらに直接処理することが可能となる。
【0023】
本発明者らは、Breoxのような市販の熱応答性ポリマーを少量の添加塩(0.1M以下のリン酸Na)と共に未清澄化発酵ブロスに直接添加し、バイオリアクター培養温度で自己会合ポリマーリッチ相及び標的含有水性相からなる二相系の形成をもたらし得る条件を発見した。未清澄化CHO供給液(ブロス)中の抗体、E.coliブロス中の緑色蛍光タンパク質及び抗体フラグメントのような数種の標的タンパク質が、細胞破片を含まない上部相中にほぼ完全に回収されることが示されている。宿主細胞タンパク質、核酸及び粒子状夾雑物は、ポリマーリッチ相又は相界面に様々に異なる程度に分配される。塩濃度が比較的低いため、標的含有相は次いで、濾過又はクロマトグラフィーのような常用下流処理段階で直接に使用できる。この場合、残留ポリマーは標的の精製に対していかなるマイナスの影響も示さず、単位操作の追加又は顕著な変更を必要としない方法で標的から単離できる。
【0024】
かかる系は、標的濃度が10g/Lを超える濃厚細胞含有溶液を首尾よく処理することができる。分配段階は、使い捨て又は固定のバイオリアンクター或いは他の容器内においてミリリットル乃至数千リットルのスケールで実施でき、有利なコストで一次清澄化、予備標的精製及び若干のプロセス容量低減を行うことができる。それはポリマー再循環又は多回抽出フォーマットでの使用が可能である。それは、培養ブロス或いはさらにはミルク又は血漿のような多種多様の複合生物学的溶液に対する使用に適すると共に、高スループットプロセスの開発又は分析、各種のキットフォーマット及び各種の標的に対して適している。培養真核細胞からのインフルエンザウイルスワクチン製造では、かかる系は、商業的に興味のあるウイルス画分の回収を可能にする条件下で細胞破片の清澄化及びタンパク質の分配を行うことができる。したがって、かかる系は多数のウイルス及び他のコロイド粒子やナノメートル乃至マイクロメートルスケールの粒子の処理に使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のような分配段階を含むプロセス及び含まないプロセスで精製されるモノクローナル抗体又は類似の組換えタンパク質に関する簡易化プロセスフローチャートを示している。
【図2】図2は、本発明に係る分配段階が各種の組換え体発酵供給液中の非標的タンパク質を低減させ得ることを実証するSDSポリアクリルアミド電気泳動ゲルを示している。AはMW標準、Bは粗Mab供給液1、CはMab供給液1を含む0.2M NaP系の上部相、Dは粗Mab供給液2、EはMab供給液2を含む0.2M NaP系の上部相、FはMab供給液2を含む0.1Mクエン酸Na系の上部相である。レーンB〜F中の主要バンドはモノクローナル抗体に関する。
【図3】図3は、本発明に係る分配段階が組換えモノクローナル抗体(Mab)発酵液(供給液2)中の非標的タンパク質を低減させ得ること、及び上部相中のMabを親和性(MabSelect Sure)カラム上に直接装填し得ることを実証する非還元SDSポリアクリルアミド電気泳動ゲル(ゲル勾配8〜25%)を示している。
【図4】図4は、プロテインAに基づくMabSelect(商標)Sure親和性カラム上へのMab含有相の直接適用を示している。後に粗供給液試料も対照として試験した。プロテインAに基づく親和性カラム上に粗供給液を載せることもできるが、これはカラムの汚損を招くので通例は行われないことに注意されたい。
【図5】図5は、本発明に係る1ポリマー熱分離水性相系における分配によって最初に処理されたMabのCapto(商標)MMC多モードクロマトグラフィーを示している。Aは通過液、Bは溶出液、CはCIPである。
【図6】図6は、図5のアフィニティークロマトグラフィーからの溶出液及び他の画分の、Superdex上でのサイズ排除クロマトグラフィー分析結果を示している。様々な曲線は、それぞれ通過液、溶出液及び定置洗浄液(CIP)を表す図5のピークA、B及びCに対応している。供給液もまた含めた。左から右に向かって、ピークは減少するMWのタンパク質を表している。顕著な抗体を含む試料は供給液及び溶出液のみである。
【図7】図7は、表9中の系4の水リッチ上部相からのMabのMabSelect Sure親和性捕捉を示すクロマトグラムである。溶出液ピークは自動的に積分された。カラムは、標準条件下で動作させた標準のHiTrap(商標)5mlベッド容量カラムであった。
【図8】図8は、供給液中のMab濃度のMabSelect Sureアフィニティークロマトグラフィー分析結果であって、小さいピークで表されるモノクローナル抗体(Mab)の存在を示している。2番目のA215nmピークがMabである。標準の1ml HiTrapカラムを通常のMabSelect動作条件下で使用した。
【図9】図9は、系3の上部相(表9及び表10)によって例示される典型的な水リッチ相中のMab濃度のMabSelect Sureカラムに基づく分析結果を示している(図8と比較されたい)。2番目のA215nmピークがMab含有溶出液である。標準の1ml HiTrapカラムを通常のMabSelect動作条件下で使用した。
【図10】図10は、試料系3の上部相(表9及び表10参照)によって例示される、分配及びMabSelect Sure上での親和性精製後の濃縮されかつ明らかに天然のままのMabに関する、MabSelect Sure親和性カラムに基づく分析結果を示している。この分析のためには、標準の1ml HiTrapカラムを通常のMabSelect動作条件下で使用した。
【図11】図11は、細胞発酵培養物を含むWave(商標)バッグに相形成ポリマー及び塩を直接添加することによって40℃で二相系が形成されることを示している。この例では、可視化を助けるため、バッグは長軸が垂直になるように配置され、したがってベッド高さは大容量条件下で見られるものに似せることができた。相界面に自発的に集まる白色の細胞層を見ることができる。
【図12】図12は、この例では長軸が垂直になるように配置されたWave(商標)バッグ中に管を挿入することでMab標的含有上部相を単離することを示している。下部相は、長軸が垂直になるように配置された場合、バッグの右側下部コーナーにある管を通して集めた。
【図13】図13は、二重反復実験におけるウイルス及び各種夾雑物の回収率を添加ポリマー濃度の関数として示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、生体分子又は標的化合物を単離するために水性ポリマー二相系を有利に使用することに関する。かかる標的化合物とは、化合物並びに分子及び細胞、即ち液体から単離することが望まれる任意の実在物を意味する。
【0027】
かくして本発明は、1種以上の生体分子又は標的化合物を液体から単離する方法であって、容器内で親水性ポリ(エーテル)、1種以上の塩、及び1種以上の生体分子又は標的化合物を含む液体を合わせる段階、得られた液体混合物を少なくとも2相が形成されるまで穏やかに混合する段階、並びに任意には所望の生体分子又は標的化合物を1相から回収する段階を含む方法に関する。
【0028】
本発明で使用される液体混合物及び多相系中で使用されるポリマーは、これらを水と合わせた場合に水性相が形成されるという意味で水性である。さらに、当業者には理解される通り、本発明の文脈中で「液体混合物」という用語は、単に本明細書中で定義された成分の組合せをいう。いかなる条件下でかかる液体混合物が一相、二相又はそれ以上の多相として存在するかは、状態図から推論できる。本発明の液体混合物の利点の1つは、標的含有相中のポリマー濃度が非常に低い(通例<3%w/w)ので、それが生じる相は多くの一般に研究されているポリマー−塩又は2種のポリマーの相系より粘度が低く、光学的に透明であり、さらなる処理が容易であることである。
【0029】
有利な実施形態では、親水性ポリ(エーテル)は、エチレンオキシド単位を含む合成ポリマーである。有利な実施形態では、エチレンオキシドポリマーは、ポリ(エチレン)グリコール(PEG)、ランダムコポリマー型(例えば、Breox(登録商標)又はUCONポリマー)又はブロックポリマー型(例えば、Pluronic(登録商標))のエチレンオキシドプロピレンオキシド(EOPO)、エトキシ含有多糖類及びイソプロピルアクリルアミド修飾ポリマーを含む水溶性ポリ(エーテル)からなる群から選択される。この分野の当業者には理解される通り、これらのポリマーは様々に修飾された形態(例えば、モノメトキシ型のPEG)を含み得る。有利な実施形態では、親水性ポリ(エーテル)はEOPOである。当業者には公知の通り、EOPOはその曇り温度(Tc)より高くなると二相に分離し、したがって熱分離性ポリマーと見なされる。
【0030】
一実施形態では、親水性ポリ(エーテル)の分子量は900〜100000Da、例えば1000〜20000Daの範囲内にある。一実施形態では、分子量は400〜1000000Daという広い範囲内にあり、その範囲内で熱応答性ポリマーを商業的に得ることができる。
【0031】
熱応答性ポリマーは界面活性剤及び他の用途で使用されているので、熱応答性ポリマーの相分離については多くのことが知られている。したがって当業者は、状態図データ及び任意には非常に簡単な日常的実験に基づき、本発明の液体混合物から二相系のような多相系が形成される好適な条件(例えば、pH及び温度)を容易に決定することができる。一実施形態では、本発明の液体混合物のpH値は中性に近い。温度は、バイオプロセシングに適した二相系を形成するためには、4〜50℃、例えば室温乃至40℃の範囲内にあり得る。ポリエチレングリコールのような若干の熱分離性ポリマーは100℃に近いTc値を有することに注意されたい。
【0032】
当業者には理解される通り、本発明のポリ(エーテル)は十分な塩(大抵は200mM)の存在下で水性二相系を形成し得るように選択される。標的含有溶液(例えば、培養ブロス)が0.15M NaClのような塩を含むならば、50〜100mMのリン酸Naその他の塩を添加すれば事足りるであろう。同様に、培養ブロスのような標的含有溶液が既にTc(例えば、37℃)以上であれば、相分離を行うための加熱はほとんど又は全く必要ないかもしれない。本発明の液体混合物から形成される二相系は、ポリマーに結合した親和性リガンドのような他の帯電基及び非帯電基を含むことができる。
【0033】
古典的なポリマー−ポリマー及びポリマー−塩二相系と比べた新規な1ポリマー二相系の若干の利点を表1に示す。
【0034】
本発明の系の具体的な実施形態では、全塩濃度は1〜500mM、例えば100〜300mMの範囲内にある。当業者には理解される通り、二相系を形成するために必要な塩の量はポリマーのMW、濃度および物理的状態によって左右される。
【0035】
有利な実施形態では、塩はNaCl、Na2PO4、KPO4、NaSO4、クエン酸カリウム、(NH4)2SO4、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの組合せからなる群から選択される。他の塩(例えば、酢酸アンモニウム)も使用できる。
【0036】
本発明の液体混合物の全ポリマー濃度は、それぞれの想定される用途に対して最適化することができる。例えば、比較的多量の水溶性ポリマーを添加することで、タンパク質及び他の高分子を溶液から沈殿させ得ることはよく知られている。したがって、本発明に係る系をタンパク質分離において使用する場合、全ポリマー濃度が高すぎると、コスト効率のよい分離を達成するために十分なタンパク質溶解度が得られないであろう。かくして、生体分子及び/又は粒子の単離のために有利な本発明の液体混合物の一実施形態では、全ポリマー含有量は系全体の約4〜20%(w/w)を占める。しかし、相分離後には、1相中のポリマー濃度は通例1〜3%w/wにすぎないことがあり、ポリマーの大部分はポリマーリッチ相中で自己会合している。
【0037】
【表1】

【0038】
相系自体は、その用途及び必要に応じて配合及び混合することができる。相及び相混合の粘度及び界面張力が比較的低いことは、磁気撹拌棒による撹拌、使い捨ての(Wave(商標))バイオリアクターバッグの前後揺動、又は固定反応器内の通常の機械的撹拌パドルを用いるような各種の標準アプローチで混合を達成し得ることを意味している。
【0039】
一実施形態では、相系はポリエチレングリコール(PEG)ポリマーで修飾された親和性リガンドを含んでいる。EOPOは自己会合するので、かかるポリマーはEOPOポリマーリッチ相から排除される。かかるPEG−親和性リガンドは、ポリマーブア相中への標的移動を促進するために使用できる。Brij(登録商標)及びMrij(登録商標)系列のもののような市販のPEG−脂肪アシル界面活性剤である若干の疎水性リガンドを始めとして、多くの公知PEG−親和性リガンドが存在している。具体的な実施形態では、多相系は1以上のクロマトグラフィーリガンドを含んでいる。かかるクロマトグラフィーリガンドは、本発明の液体混合物を生体分子又は化合物の単離のために適用する場合にツールとして使用できる。そのような場合、リガンドは特定の標的化合物と結合し、前記標的化合物を該リガンドによって好まれる相に分配することができる。一実施形態では、リガンドは親和性リガンドであり、受容体とリガンド又は抗体−抗原のような「鍵穴/鍵」型の極めて特異的な相互作用によって標的分子と結合することができる。例示的な親和性リガンドは、例えば、プロテインA又はプロテインAベースのリガンドである。有利な実施形態では、親和性リガンドは特異的な相への分配を促進するために修飾されている。別の実施形態では、修飾された親和性リガンドを添加することで、相互作用する標的をポリマープア相に分配する。
【0040】
本発明の方法で単離される生体分子又は標的化合物は、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、細胞、ウィルス或いは上述のもののいずれか1つの任意の部分、フラグメント又は融合生成物であり得る。このように、一実施形態では、標的化合物はモノクローナル抗体のような抗体或いはそのフラグメント又は融合生成物である。例示的な抗体フラグメントは、例えばFabフラグメントである。別の実施形態では、標的化合物はDNAまたはRNAのような核酸であり、例えばプラスミド、ゲノムDNA、アプタマー又はオリゴヌクレオチドである。追加の実施形態では、標的化合物は真核細胞又は原核細胞のような細胞であり、例えば成体細胞又は前駆細胞である。このように、本発明の方法の一実施形態では、生体分子は抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。別の実施形態では、標的化合物はFabフラグメントである。
【0041】
一実施形態では、生体分子又は標的化合物はポリマープア相から単離される。有利な実施形態では、ポリマープア相は少なくとも二相の上部相である。
【0042】
一態様では、本発明は、1種以上の生体分子又は標的化合物を単離する多段階方法であって、親水性ポリ(エーテル)及び1種以上の塩を含む多相系の相間における分配を用いて供給液の清澄化を実施し、次いでアフィニティークロマトグラフィーのような1以上の捕捉段階を実施することを含む方法である。有利には、分配段階はまた、清澄化標的リッチ相中における宿主細胞タンパク質(HCP)及び他の夾雑物のレベルを低下させる。供給液は、細菌細胞又は真核細胞発酵培養物を含む発酵ブロス又は生物学的液体のような、生体分子又は標的化合物を産生させた任意の液体である。必要ならば、本方法は、本発明に係る二相系での清澄化に先立ち、細胞を溶解して生体分子又は標的化合物を放出させる段階を含む。
【0043】
有利な実施形態では、水性二相系は発酵を実施した容器(例えば、発酵容器)内で形成される。
【0044】
別の有利な実施形態では、標的リッチ相はポリマープア相であり、これは好ましくは少なくとも二相の上部相である。発酵容器又は使い捨て容器内では、下部相及び相界面を除去してさらなる処理のために利用できる上部の標的含有相を残すことにより、上部相の捕集が一層簡便に達成できる。
【0045】
別の実施形態では、ポリマーが濃縮されていない相中における約1〜3%の残留ポリマーは標的タンパク質その他の物質に対して多少の保護効果をもたらすことができる。例えば、溶液中におけるポリエーテルの凍結防止効果及び酸化防止効果は共によく知られている。したがって残留ポリマーは、付形剤として、及び精製される薬剤の効力を一層高めるために有用であり得る。別の実施形態では、標的を含む相中の残留ポリマーは、例えば米国特許出願公開第2007/213513号(GE Healthcare社)に従って捕捉クロマトグラフィーを向上させるという点で、さらなる下流処理を助けることができる。
【0046】
このように一実施形態では、新規な水性二相系は、供給液の簡単かつ効果的な清澄化並びに標的化合物又は生体分子の一次濃縮(容量の低減)及び精製(非標的濃度の低下)をもたらす。これは、プラスチックマイクロタイタープレート並びに固定金属発酵容器又は使い捨てプラスチック発酵容器のような各種の容器内で、広い液体スケール範囲(ミリリットル(グラム)乃至千リットル(メートルトン))にわたって実施できる。我々の結果は、残留量(大抵は1%)の生体適合性ポリマーしか含まない水性相中に標的を非常に高いレベルで回収でき、かかるポリマーは通常のやり方ではさらなる下流処理にマイナスの影響を及ぼさず、また標準の単位操作又は関連する手順の顕著な変更も必要としないことが示唆される。
【0047】
上述した方法は、標的化合物及び生体分子を希釈せず、しかも不当に高い塩濃度を必要としたり、過度に粘稠な溶液中に標的化合物を生じたりすることのないやり方で標的化合物及び生体分子を分配するのに有効であるので、かかる方法はスタックディスク遠心分離からクロマトグラフィー及び濾過にまでわたる他の常用分離段階と容易にインライン連結することができる。したがって、標的生体分子又は化合物を含む相はさらに、僅かな変更又は変更なしで1以上の液体クロマトグラフィー段階に付される。
【0048】
新しいアプローチがいかにして使用できるかを表す1つの可能なスキームを図1に示す。左側には、例えばMab精製で使用できる通常の3クロマトグラフィー段階分離プロセスが示されている。発酵及び(必要ならば)細胞溶解後、発酵供給液を遠心分離して細胞及び細胞破片を除去する。次いで、それを濾過し、緩衝液を変更した後に親和性カラムに適用する。次いで、それを溶出させ、低pHウイルス滅菌を施す。別の緩衝液変更後、さらに2つのクロマトグラフィー段階(例えば、イオン交換クロマトグラフィー及びそれに続く別のイオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィー)に付す。場合によっては、上記の非親和性段階の一方を混合モードのクロマトグラフィー段階で置き換えることもできる。右側には、本発明で提唱されるワークフローの一例が示される。(供給塩及び温度の二重使用を伴う)供給液中に相系が形成されることで、細胞及び細胞破片の一次除去(清澄化)並びに非標的宿主細胞タンパク質(HCP)、核酸、内毒素及びウイルスのような各種夾雑物の(相系に応じた)ある程度の可能な低減が迅速に達成されることがわかる。標的含有上部相を親和性カラムに直接適用することができるが、簡単なデプス濾過の使用がカラム寿命を向上させるはずである。上流に分配ベースの精製段階が含まれる結果、他の精製段階の数を減少させることができ、或いはかかる段階を捕捉モードではなく通過モードで実施できる点を除けば、プロセスは通常のやり方で継続される。プロセス液流中の残留ポリエーテルポリマーは、クロマトグラフィーの性能に悪影響を及ぼさないと予想される(例えば、米国特許出願公開第2007/213513号)。
【0049】
一実施形態では、液体クロマトグラフィーはプロテインAリガンドへの結合のようなアフィニティークロマトグラフィーからなる。プロテインAクロマトグラフィーは公知の方法であり、本発明の文脈中では、組換え又は天然のプロテインA、或いは抗体に対する選択性を保持しているプロテインAの部分又はプロテインAのその他任意の修飾形態を含む任意の樹脂への吸着を包含すると理解される。商業的に入手できるプロテインA樹脂には、例えばMabSelect系列(GE Healthcare社)のものがある。他の親和性方法には、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)がある。
【0050】
上記のクロマトグラフィー段階に続いて、1以上の追加クロマトグラフィー段階及びウイルス除去のための任意段階を実施できる。一実施形態では、上記のクロマトグラフィーに続いてアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)が実施される。陰イオン交換体、陽イオン交換体及びHIC樹脂は公知であり、商業的に入手できる。
【0051】
別の実施形態では、アフィニティークロマトグラフィーに続いて多モードイオン交換クロマトグラフィーが実施される。多モードイオン交換クロマトグラフィーも公知であり、疎水基に近接したイオン交換基のような2以上の官能基を含むリガンドを使用する。その実例はCapto(商標)MMC及びCapto(商標)Adhere(GE Healthcare社)である。
【0052】
別の実施形態では、最初のアフィニティークロマトグラフィー段階を1以上の標的サイズ排除段階で置き換えることができ、或いは恐らくはイオン交換、疎水性相互作用又は混合モード相互作用に関係する捕捉又は通過段階(クロマトグラフィー又は濾過など)で置き換えることもできる。
【0053】
ポリ(エーテル)ポリマーに基づく1ポリマー二相系は、Mab、Fab及び他の標的に関係するラージスケールバイオプロセシング操作で使用するのに理想的である。これらは、遠心分離に基づく清澄化の必要性を排除又は低減させる。清澄化並びにある程度の予備精製及び濃縮を相中で達成でき、それを(任意には濾過しながら)クロマトグラフィー捕捉媒体に直接適用できる。
【0054】
かかる系はコスト(1ポリマー、低塩)及びその他(標的溶解度)の点で顕著な利益を与えるが、これは該系を発酵と捕捉クロマトグラフィーとの間に挿入して清澄化のために使用する必要がある遠心分離その他の能動プロセスに置き換えるのに理想的であり得ることを示唆している。かかる分配は広く適当可能であるように思われ、タンパク質の高密度で粘稠な供給液を処理することができる。もちろん、分配アプローチは、遠心分離又は濾過に基づく清澄化を使用するプロセスにおいて標的回収率を向上させるためにも使用できる。
【0055】
別の態様では、本発明は、1種以上の抗体を液体から単離する方法であって、合成親水性ポリ(エーテル)及び1種以上の塩を含む多相系中で分配する段階を含む方法である。
【0056】
本方法の有利な実施形態では、抗体はモノクローナル抗体であり、これは系のポリマープア相から回収される。したがって、特定の実施形態では、モノクローナル抗体のような抗体を単離するために使用される多相系は、約4〜20%のEOPOを100〜500mMの塩と共に含む水性ポリマー二相系である。
【0057】
本発明は、夾雑物を含む発酵液その他の複合供給液からモノクローナル抗体のような抗体を分離するための有利な方法を提供する。
【0058】
一実施形態では、本方法は、上述したような二相系を形成し、次いでEOPOのような熱分離性ポリマーに富む相を除去することを含んでいる。
【0059】
別の態様では、本発明は、生体分子、細胞又は粒子のような1種以上の標的化合物の分離における、上述したような液体混合物又は多相系の使用に関する。
【0060】
別の態様では、分配段階は、ウイルスその他のナノメートル乃至マイクロメートルサイズの粒子の処理に関係する供給液その他の複合溶液を予備的に清澄化しかつ精製(二次分別)するために使用される。
【0061】
別の態様では、1種の熱分離性ポリマーを供給液その他の標的含有溶液に添加することを含む本発明の分配段階を繰り返すことで、特定の標的をさらに精製することができる。かかる反復分配段階は、全く同一の条件下又は相異なる条件下で行うことができる。後者は、特定のタンパク質その他の画分の逐次精製を可能にするであろう。
【0062】
別の態様では、本発明は、相形成ポリマーを自己会合ポリマーリッチ相の形態で回収して再循環させることができる方法に関する。
【0063】
さらに別の態様では、本発明は、モノクローナル抗体のような1種以上の標的化合物を単離するためのキットであって、上述したような液体混合物又は多相系を含むキットである。有利な実施形態では、本キットは、合成ポリ(エーテル)である1種以上のポリマーを水溶液又は乾燥形態で含んでいる。
【0064】
本発明の他の特徴及び利点は以下の実施例及び特許請求の範囲から明らかとなろう。
【実施例】
【0065】
A.細胞、抗体及び他の生体分子に関する実施例
一般実験手順
1.1 材料
化学薬品
Breox 50A 1000(エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの等量コポリマー(EOPO))、Mw 3900、下記参照。
【0066】
ポリオキシエチレン100ステアレート(Myrj59)、Mw 5450、Sigma社、Ref.P−3690。
【0067】
Gammanorm(ポリクローナルIgG)(pI約7)、Octapharma社、Batch C19A8601。
【0068】
ウシ血清アルブミン(BSA)(およそpI 5.6)、Sigma社、A7638。
【0069】
ミオグロビン(およそpI 7)、Sigma社、M1882。
【0070】
本研究で使用した他の化学薬品はすべて分析用のものであって、E.Merck社(ダルムシュタット)又はSigma Aldrich社から購入した。
【0071】
特記しない限り、EOPOポリマーとは、50%エチレンオキシド及び50%プロピレンオキシドからなる(数平均)分子質量3900ダルトンのランダムコポリマーであるBreox 50A 1000をいう。これはある種の用途についてFDAの承認を得ており、(現在はCognis社(www.cognis.com)の一部である)International Specialty Chemicals社(サウサンプトン、英国)から入手した。
【0072】
モノクローナル抗体及び発酵試料
精製モノクローナル抗体(Mab)
次の2種の専売Mab(Mab01及びMab03)を使用した。
Mab01
プロテインAを用いて精製し、陰イオン交換クロマトグラフィーで10倍に濃縮した。
【0073】
CHO細胞中で産生させ、リン酸グリセリン(pH7.8及び5.2mS/cm)中に貯蔵した。
【0074】
濃度4.4mg/ml、MW推定値150kDa、pI推定値9。
Mab03
プロテインAを用いて精製し、陰イオン交換クロマトグラフィーで10倍に濃縮した。
【0075】
CHO細胞中で産生させ、リン酸緩衝食塩水(pH5.8及び16.2mS/cm)中に貯蔵した。
【0076】
濃度5.8mg/ml、MW推定値150kDa、pI推定値7。
実際の供給液試料
4種の「実際の」未濾過かつ未清澄化Mab発酵供給液をチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞ベースの発酵で得た。これらは相異なるMabを含み、供給液1、2、3及び4と呼ばれる。緑色蛍光タンパク質(GFP)はE.Coli中で発現させた。
【0077】
1.1 方法
以下に示す原液の適当な量/容量を混合することで、各々の水性二相系(ATPS)溶液を(特記しない限り)直接に10ml Sarstedt管中で調製した。各系の最終容量は5mlであった。混合物を約30秒間渦動させ、次いで40℃の水浴中に約15分間放置して相形成させた。
【0078】
原液
EOPO、20%(w/w):10gのEOPOを40gのMQ水に溶解することで調製した。
【0079】
EOPO、40%(w/w):20gのEOPOを30gのMQ水に溶解することで調製した。
【0080】
Myrj59(8μM):3.6mgのMyrj59を100mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0081】
Myrj59(400μM):0.18gのMyrj59を100mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0082】
NaP(リン酸Na、0.8M):0.8M NaH2PO4及び0.8M Na2HPO4を混合することで様々なpH(pH5、6、7、8)とした。
【0083】
クエン酸Na(0.8M):0.8Mクエン酸ナトリウム及び0.8Mクエン酸を混合することでpH7の原液を調製した。
【0084】
NaCl(5M):14.6gのNaClを50mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0085】
実施例1:ATPSの形成に対するリン酸Na濃度及びpHの効果
適当な量/容量の原液を混合することで、1種のポリマー(EOPO)に基づく水性二相系(ATPS)を直接に10ml Sarstedt管中で調製した。各系の最終容量は5mlであった。混合物を30秒間渦動させ、次いで水浴中で約40℃に約15分間加熱して相形成させた。
【0086】
8%EOPO、150mM NaCl及び50〜200mMリン酸Na緩衝液(pH4、6、7及び8)に基づくATPSを調製した。水浴中において40℃で約15分間インキュベートした後、試験したすべてのpHで二相系が形成された。
【0087】
別の一連の実験では、異なる濃度のリン酸Na緩衝液(pH7)を用いて、150mM NaClを含む8%EOPOのATPSを調製した。
【0088】
結果は以下のことを示唆していた。
(1)低濃度(20mM)のリン酸Naを使用した場合には、いかなる二相系も形成されなかった。しかし、リン酸Na濃度を50mMに増加した場合、二相系が形成された。
(2)50mMリン酸Naを用いて形成されたATPSでは、100〜300mMリン酸Naを用いて形成された他の系の容量比が4であるのに比べて、高い相容量比(5.25)が得られた。
これは、その張度(重量オスモル濃度)が生細胞を溶解せずに分配するのに適する程度に低い塩濃度を有するEOPOベースの二相系を開発するのが可能であることを示唆している。これは、(1)EOPO濃縮物を添加して二相系を形成するため、最初は増殖培地中に等張性緩衝塩を使用することが望まれる用途、(2)生細胞の外部に輸送される標的タンパク質を含む発酵液を清澄化すると共に、細胞を溶解して宿主細胞タンパク質(HCP)を放出させることなしに細胞を処理することが望まれる用途、及び(3)(2)のような状況であって、細胞が連続培養状態に保たれるか、或いは他の方法によってインタクトな形態で処理される場合において重要である。
【0089】
Ucon(登録商標)ポリマーはBreox EOPOに非常に類似しているので、Tcの変化に関連して温度を僅かに変更すれば、Breox EOPO(下記参照)の代わりにこれを使用することができた。Pluronicポリマーを始めとして、その他多くの類似ポリマーが存在する。Pluronic L−81(10%EO及び90%PO、Mwt 2700)を試験したところ、ポリマー濃度が水又はリン酸緩衝液中で10〜20%であった場合、二相系が室温で成功裡に形成された。このことは、操作者が(例えば、プロテアーゼ活性を妨げるため)発酵液を室温に冷却するのを望むような状況下で使用するために重要であり得る。
【0090】
実施例2:ATPS形成及びタンパク質相分配に対する抗体濃度の効果、又はGFP含有溶解E.coli細胞ペーストの使用
実施例1の記載に従って、1種のポリマー(EOPO)に基づくATPSを調製した。表2は条件の異なる4つの系を示しており、これらを用いてポリクローナルIgG Gammanorm又は組換え緑色蛍光タンパク質(GFP)含有溶解E.coli細胞ペースト試料を試験した。
【0091】
【表2】

【0092】
結果は以下のことを表している。
(1)試験した条件下では、低濃度(20mM)のリン酸Naを使用した場合にはいかなる二相系も形成されなかった。しかし、リン酸Na濃度が200mMであった場合には二相系が形成された。
(2)8〜10%w/w EOPO系では、Gammanormポリクローナルヒト抗体由来の全吸収の90〜100%は上部のポリマープア相中に得られた。
(3)490nmで測定したGFP活性のすべては、系4の上部相中に見出された。E.coli細胞破片は単位重力(g)下で界面に分配された。試験管を3000×gで5分間遠心した場合、全ての細胞破片は分離した相を全く乱すことなく管の底部に沈降した。
【0093】
相容量比及び標的回収率に対するEOPO濃度の効果を調べた。5mg Gammanorm、5〜14%Breox EOPOポリマー並びに150mM NaCl及び200mMリン酸Na緩衝液(pH7)を用いて、最終容量5mlの系を調製した。40℃では、相容量比はEOPO濃度に逆比例して減少し、5%EOPOでは11.5の容量比が得られ、14%EOPOでは2.33の容量比が得られた。相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。分配係数(K)及び上部相中における各Fabの%濃度(C/Co)を算出した。すべての系が高いK値(>200)及び100%の標的回収率を示した。この結果は実用上重要である。なぜなら、Breox及び関連ポリマーは比較的安価であるので、標的タンパク質が回収される液体の容量の顕著な低減を達成し、そしてプロセスの初期に標的の濃縮を達成することができるならば、EOPO系を6%から12%に移行することは正当化できるからである。
【0094】
EOPOに基づくATP系中でのタンパク質溶解度を検討するため、5mlのATPS系(8%EOPO、200mMリン酸Na(pH7.4)及び150mM NaCl)中に様々な量のGammanormを用いて一連の実験を実施した。相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。上部相中における各タンパク質の分配係数(K)は高かった(>200)。これらの条件下でのEOPO系は、実質的に100%のGammanorm回収率を生じた。20%EOPO系を用いた別のセットの実験では、処理能力は同一の塩条件下で20g/Lに達し、>97%の回収率を与える。かかる結果は、EOPO系が高い処理能力を有することを示唆している。これは、PEG/塩系(約1g/L)及びPEG/デキストラン系(約5g/L)に比べて非常に勝っている。
【0095】
一般的に有用であるためには、かかるアプローチは細胞培養液に対して役立つべきである。我々は、細胞培養液がEOPO−ATPS中での相形成に影響を与え得るかどうかを検討した。8%EOPO、150mM NaCl及び200mMリン酸Naからなる5mlのATPS中で細胞培養液(2.6ml)を試験した。結果は、試験したすべての細胞培養液(Ex−cell CA CHO−3 Sigma 126K8042、BD CHO ref.220229、Power CHO−1−CP Lonza 070920及びCA OPTI CHO ref 12681−011−(Invitrogen))に関して二相系が形成されたことを示している。これは、E.coliブロス/ペーストを用いて行った試験の成功、並びにEOPO及び塩をタンパク質含有溶液に直接添加して行った試験の成功に追加されるものである。しかし、処理を促進するためには、乾燥粉末ではなく濃縮原液を添加するのが一層良いかもしれない(下記参照)。
【0096】
実施例3:クエン酸塩に基づくEOPO系1ポリマーATPS
リン酸塩は、Breoxポリマーを用いた相系形成のために適している。これは、一つにはリン酸塩が比較的低い塩濃度(ある種のPEG−塩二相系の塩濃度の10分の1)で系を形成するからであり、また形成された系が良好な標的タンパク質回収率及び非標的タンパク質に関してある程度の選択性を与えるように思われるからである。しかし、リン酸塩は購入するのに高くつく上、処分するのにも高くつく。それとは対照的に、クエン酸塩は安価であり、生態学的にもやさしい。ここでは、新しい系の調製に際してクエン酸ナトリウム緩衝液を試験した。8%EOPO及び150mM NaClを含む系を調製するため、表3に示すように、様々な濃度のクエン酸Na緩衝液(pH7)を様々な温度で使用した。
【0097】
結果は以下のことを示していた。
●50〜200mMのクエン酸Na濃度を約40℃の温度で用いて二相系を形成することができる。
●250mM以上のクエン酸Na濃度をRTで用いて二相系を形成することができるが、相逆転によって相の順序が逆になった(ポリマー相が上部相になり、水相が下部相になる)。かかる系の水相中におけるIgGの回収率は約96%であった。
●250mM以上のクエン酸Na濃度をRTで用いて形成した系では、それより低い低いクエン酸Na濃度を40℃で用いて形成した系に比べて低い相比が得られた。
これは、クエン酸Naを主要塩の1種として用いて好適なEOPO系を生成できることを証明した(ただし、高いpHでの緩衝能力を高めるために若干のリン酸塩を添加することもできる)。認められた相逆転は、以前に報告されていた(M.Pereira et al.,Biochemical Engineering Journal 15(2003)131−138)。この場合の著者らは、30℃及び40℃のUcon−(NH4)2SO4系を用いて遠心分離発酵試料上澄み液中のポリガラクツロナーゼ(Mabでない)の分配を観察していた。
【0098】
【表3】

【0099】
クエン酸塩に基づくEOPO ATP系中での相形成に対するNaCl濃度の効果を、100〜250mMクエン酸Na緩衝液を40℃及びRTで使用して評価した。結果は、100〜200mMクエン酸Na緩衝液を使用した場合、NaClは40℃での相形成にほとんど影響を与えないことを示している。しかし、250mMクエン酸Na緩衝液を使用した場合には、RTでの相形成のために150mM以上のNaCl濃度が必要であった。8%EOPOに基づく系中で2種の実際の未清澄化Mabプロセス供給液(2及び3)を用いて、pH変化の効果を試験した。上部相からの画分のMab含有量をプロテインAクロマトグラフィー分析によって分析したところ、pH7〜8で150mMクエン酸Na及び150mM NaClを用いて98%より高いMab回収率が得られることが示唆された。もちろん、他の塩の存在が上記の結果に影響を及ぼすことはあった。
【0100】
実施例4:EOPO ATPS中におけるHCP分配
pH及び疎水的親和性リガンドの効果:
これらの実験では、8%EOPO、150mM NaCl、及び200mMリン酸Na(pH6及び8)又は(PEG−アルキル疎水的親和性リガンドとして作用するように添加した)8μM Myrj59界面活性剤を含む200mMリン酸Na(pH8)からなる5mlの系中で粗Mab供給液1を分配した。水浴中において40℃で約15分間インキュベートした後、相を分離し、HCP含有量を分析した(表4)。結果は、高pH(pH8)の緩衝液を用いれば良好なHCP低減率が得られることを示唆している。
【0101】
【表4】

【0102】
本試験では、HCP濃度に関して、pH6からpH8になるとHCPの上部相分配の劇的な減少(即ち、下部相分配の増加)が見られる。疎水的親和性リガンドはpH8では僅かな効果しか示さなかったが、これは分析されたHCP実在物が比較的非疎水性タンパク質であったことに原因するのかもしれない。
【0103】
クエン酸Naに基づくEOPO ATPS中でのHCP分配に対するpHの効果:
粗供給液及びATPS処理供給液に関するHCPデータを測定した。結果(表5参照)は以下のことを示唆している。
●13〜23%のHCP低減率が生じた。
●HCPの低減率は緩衝液のpHの上昇と共に増加する。
●HCPの低減率はポリマー濃度の上昇と共に増加する。
これらの結果は、かかる系がポリマープア相を好む疎水性活量塩基性タンパク質(例えば、多くの抗体)に関しては多くの他の系と同様に挙動する一方、HCP混合物のある種の成分(通例は数種の酸性タンパク質及び負に帯電したタンパク質を含む)はポリマーリッチ相中により高度に分配されるという考えに合致している。タンパク質の分子量(及び疎水性)もまた、一定の役割を演じることがある。
【0104】
【表5】

【0105】
実施例5:粗供給液からのMabの濃縮
8%EOPO及び200mMリン酸Na緩衝液(pH7.4)に基づく約10mlのATPSを、0.8gの100%EOPOポリマー、固体リン酸塩(87mgのNaH2PO4、24.5mgのNa2HPO4)及び9.2mlのMab供給液2から調製した。混合し、水浴中において40℃で約15分間インキュベートしたところ、二相系が形成された。相の全容量は9.5mlであって、これは7.7mlの水リッチ相及び1.8mlのポリマーリッチ下部相からなり、4.27の相容量比を与える。この容量比は、40%EOPO溶液を0.8Mリン酸Na緩衝液と共に用いて調製した系からの容量比(5.25)より低い。したがって、濃縮EOPOポリマー及び固体リン酸塩から調製したATPSを用いればMab供給液を16%濃縮できる。
【0106】
以前の結果は、相容量比がEOPOポリマー濃度に逆比例して変化することを表している。Breox濃度を8%から12%に移行すると、回収率に影響を与えることなしに標的含有相の容量を低減させ得ることが認められた。我々は、Mab供給液2を使用しながら、様々な塩タイプ(リン酸塩及びクエン酸塩)及び塩濃度を有する12%EOPOポリマーの系中でのMabの回収率を検討した。プロテインAクロマトグラフィー分析を用いて水リッチ相中のMab回収率を測定した。結果は以下のことを示している。
●系が7〜8のpH範囲で100mMクエン酸Na及び150mM NaClを含む場合、両方のMab供給液試料に関して約100%の回収率が得られた。
●8%EOPOに基づく系(4.0〜4.1ml)に比べて少ない容量(3.5〜3.6ml)の水相が得られた。これは、EOPO濃度を上昇させた場合には高いMab濃度が得られることを意味している。
我々は、20%EOPOのポリマー濃度で様々な塩濃度を試験した。結果は、150mM NaClの存在又は不存在下で100mMリン酸Naを使用すれば、Mab含有水相をそれぞれ19%及び28%だけ濃縮できることを示している。
【0107】
実施例6:リン酸緩衝液及びクエン酸緩衝液系を用いた粗供給液からのMabの精製
この一連の実験では、8%EOPO、150mM NaCl及び様々な濃度のリン酸Na又はクエン酸Na緩衝液に基づく(かつ2.6mlの粗Mab供給液1又は2を含む)10mlのEOPO−ATPSを調製した。250mMの相逆転した系はRTに保った。その他の系は、相を分離させるため、水浴中において40℃で約15分間インキュベートした。若干の系からの相の純度をSDS PAGE電気泳動(ゲル勾配8〜25%)によって分析した(図2)。粗供給液及びATPS実験後の回収Mabに関するHCPデータを表6に示す。得られた結果からは、以下のような結論を下すことができる。
●リン酸Na又はクエン酸Na緩衝液系のいずれについても、MabはATPSによって部分的に精製された(図2参照)。
●200mMリン酸Na系に基づくATPSによって20%を超えるHCPを低減させることができ、250mMクエン酸Na緩衝液系では約30%を達成できる(表6参照)。
●リン酸Na緩衝液系に比べて、250mMクエン酸Na緩衝液系ではより小さい容量の水相が得られた(8.2mlに対して6.5ml、表6参照)。これは、クエン酸Na系の上部相中におけるMab濃度がより高いことを意味している。
【0108】
【表6】

【0109】
この場合にも、相系がHCPを低減させ得ることがわかる。これらの試験では、HCPは下部相又は相界面に移動すると推測された。後者の場合、それは細胞破片と会合していたのかもしれない。
【0110】
実施例7:ATPS系のさらなる特性決定
水相の導電率
アフィニティークロマトグラフィーその他の捕捉クロマトグラフィーのような後続の分離段階に対する適合性を調べるため、8%EOPO、150mM NaCl及び様々な濃度の緩衝液(リン酸Na又はクエン酸Na)から調製した5mlのATPSを(2.6mlの)粗Mab供給液の存在下又は不存在下で用いて水相の導電率を測定した。結果は、水リッチ(ポリマープア)標的含有相の導電率が約30〜40mS/cmであったことを示している。我々は、(約35の導電率を有する)ATPSで予備処理したMabをさらなる精製のためMabSelect(プロテインA関連)親和性カラムに直接適用できることを以下に実証する。我々は、これらの溶液が疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びある種の形態の混合モードクロマトグラフィー(又は捕捉濾過)にも適することを提唱する。これらはまた、ある種の形態の標的通過イオン交換又は標的捕捉イオン交換にも適している。試料をイオン交換カラムに直接適用するのであれば、多少の希釈が必要となることもある。しかし、Mab又はFabのような標的タンパク質が高度に帯電していれば、25mS/cmでも良好な結合を達成するのが可能であり得ることが最近証明された(例えば、C.Harinarayan et al.,Biotechnology and Bioengineering,95(2006)775−787)。
【0111】
二相中におけるポリマー含有量の分析
8%EOPO、150mM NaCl及び200mM NaP又はクエン酸Na緩衝液から調製した水相及びポリマー相中におけるEOPOポリマーの含有量を、全炭素含有量(TOC)法によって分析した。結果は、水相中のEOPOポリマー含有量が約1%(w/w)にすぎないことを示している。それに対し、ポリマーリッチ相中の含有量は約40%(w/w)であった。この結果は、10%(w/w)Breox 50A 1000−水二相系に関する文献値(Cunha et al.,Journal of Chromatography B,711(1998)53−60)に勝っている。この文献中では、相分離を達成して、8の相容量比並びにそれぞれ約3%及び60%の上部相及び下部相ポリマー濃度を有する系を得るためには温度を60℃に上昇させることが必要であった。このように本系では、(濾過に続いてカラム上に直接装填すべき)標的含有相中のポリマー含有量は、恐らくはリン酸塩又はクエン酸塩が200mMで含まれるため、Cunha et al.の1/3である。さらに、40%EOPOの下部相は60%(w/w)EOPOの系よりも高度に非標的タンパク質を分配させる能力を有すると予想できる。
【0112】
14%の微小凝集体を含むMab試料の分離
人工的に自己会合抗体(多量体凝集体)を富化したMab試料を、8%EOPO、150mM NaCl及び200mM リン酸Na(pH7)中での分配にかけた。結果は、凝集体濃度の減少も増加も見られないことを示唆している。高度の分配を可能にするMabの表面構造が凝集体表面上になお存在するとすれば、これは恐らく意外なことではない。同様な結果はMab二量体についても予想される。したがって分配は、理想的には、MabSelectアフィニティークロマトグラフィー又はAdhere多モードクロマトグラフィーのような選択的マルチプレート分離方法と組み合わせるべきである。凝集体が相界面張力によって保持され得るサイズに到達すれば、分配は一部の大きい凝集体を除去するはずである。
【0113】
実施例8:ATPS及びプロテインAカラムを用いたMabの精製
粗Mab供給液1(2.6ml Mab)を、上述したような(8%EOPO、200mMリン酸Na(pH7)、150mM NaCl)系による処理にかけた。上部相からの2ml画分を集め、さらなる精製のためHiTrap MabSelect Sureカラム上に適用した。適用された試料は約35mS/cmの導電率を有していた。カラムをpH7.4のリン酸緩衝食塩水(PBS)で予備平衡化し、60mMクエン酸Na緩衝液(pH3.4)で溶離した。対照として、EOPO−ATPSではなく遠心分離及び濾過によって処理した同量の粗Mab供給液1(導電率12mS/cm)を同じカラム上で精製した。溶出画分の純度をSDS PAGE電気泳動によって分析した。粗Mab並びにATPS及びプロテインAクロマトグラフィー実験後の回収Mabに関する(商業的ELISAからの)タンパク質回収率及びHCPデータを表7及び表8に示す。これらの実験からの結果は、以下のことを示唆している。
●Mabは、ATPSにより、100%の回収率で部分的に精製された(図3、表7)。
●ATPSで予備処理されたMab試料はMabSelect上に直接適用できる(図4)。
●(試験した供給液及びATPS系については)ATPSによって20%を超えるHCP低減率を得ることができる(表8参照)。
【0114】
ATPS処理及びSure処理からの試料間における相対抗体バンド位置のシフトは、(溶出)試料のpH及び導電率の差(即ち、Sure溶出試料の低いpH)並びにATPS試料中における残留ポリマーの存在に原因すると考えられる。下部のポリマーリッチ相中に認められる拡散した非バンド化は、該相中に分配されて該相中のタンパク質と相互作用する宿主細胞タンパク質に原因すると考えられる。
【0115】
プロテインAカラムからの回収率は、この試料に関しては、ATPS試料及び供給液試料のいずれについても60〜70%の範囲内にある。これはプロテインAとしては比較的低い(通例100%が正常である)。しかし、ある種のMabはこのような結果を示すことがある。それでも、ATPS分配は100%回収率を生じ、Mab供給液試料に比べてカラムの性能を変えなかった。
【0116】
【表7】

【0117】
【表8】

【0118】
ATPS段階はカラムに適用されるHCP負荷を低減させる(表8)が、プロテインAクロマトグラフィー後の低減率に影響を与えなかった。しかし、22%(この場合)というHCP負荷の低減は、非特異的汚損の減少及びカラム寿命の増加の点でプロセスに利益をもたらすことができよう。
【0119】
実施例9:ATPS及びCapto MMCカラムを用いたMabの精製
ここでの目的は、ATPSからの水リッチ標的含有相が多モード陽イオン交換体Capto MMCを含む後続のクロマトグラフィー段階に適合し得るかどうかを検証することであった。実際のMab供給液1である未清澄化供給液(pH7)を使用した。Mabの概略pIは6.5であり、その濃度は0.4mg/mlであった。MMCには、熱誘起相の分配後における水リッチ標的含有相を装填した。対照として、遠心分離によって清澄化した供給液を使用した。ATPS系の組成は、8%EOPO、200mMリン酸塩(pH7.4)、150mM NaClであった。いずれの場合にも、装填溶液のpHはクロマトグラフィーに先立って5に調整した。
【0120】
Capto MMC媒体をTricon 5/100中に約10cmのベッド高さ及び約2mlの全容量で充填した。試料は、1mlの(遠心分離を受けていない)標的含有相又は清澄化供給液であった。流量はすべての試験について1ml/分(300cm/h)であった。MabをpH勾配によって溶離した。画分容量は2mlであった。緩衝液Aは50mM 酢酸(pH4.75)であり、緩衝液Bは50mM Tris−HCl(pH9)であった。分析は、Superdex 200 5/150 GLカラムにPBSを0.3ml/分で流すゲル濾過によって行った。
【0121】
最初の実験はややゆがんだ吸収ピークを示し、分析は通過液中へのMabの漏れを示した。加えて、溶出液中には多少の夾雑物が検出された。したがって、我々は供給液試料を半分に希釈して約0.2mg/ml Mabにした。希釈試料をATPS及びCapto MMC分離方法にかけ、ゲル濾過によって分析した。通過液中へのMabの漏れがなかった(図5及び図6)ので、分析はCapto MMC媒体に対するMabの良好な結合を示した。
【0122】
Capto MMCは「高塩クロマトグラフィー樹脂」として推奨されている。これらの結果は、Capto MMCが未希釈の標的含有上部相に関連する導電率で試験したMabを結合できたことを示している。pHをタンパク質のpI付近又はそれ以上の点に上昇させることが、結合タンパク質を溶離するための最も効率的な方法である。回収率は、MabSelectの結果と同様な60〜70%であった。HCPの低減率は供給液の結果と同様な約90%であるが、MabSelectより低い。
【0123】
実施例10:ATPS及びプロテインAカラムを用いるMabのスケールアップ精製
ここで我々は、本発明に係る分配が、凝集体の形成を増加させたり、回収率を低下させたり、或いはプロテインA段階に関して回収率及び純度を低下させたりするようにしてMabを妨害しないことを示す。即ち、ATPSは清澄化兼分離段階として作用し、プロテインAカラムの汚損を引き起こすことがある大きい粒子又は凝集体の含有量を低減させることができた。ATPSを直接に発酵容器(又は発酵液を移した容器)内で形成することにより、分配を同一単位操作の一部とすることができ、時間の損失がない。第2の段階として、上述した場合と同様にして、MabSelect Sureを用いてMab含有画分(水リッチ相)をさらに精製した。
【0124】
出発原料は、遠心分離によって清澄化したMab含有CHO細胞発酵供給液2であった。清澄化供給液を使用したのは、それが相分離動力学に従わせるのが容易だったからである。Mab濃度は約0.4g/lであった。供給液試料は、ゲル濾過で判断したところ、15〜20%(A280による)の抗体二量体及び凝集体を含んでいた。
【0125】
100%EOPOポリマー及び適量の固体リン酸塩を使用した系5を除き、40%(w/w)EOPOポリマー及び0.8M緩衝液の原液の適当な量/容量を混合することにより、水性二相系を直接に1リットルのガラスシリンダー内で調製した。各系の最終容量は、供給液の添加によって800mlに調整した。各系を混合し、次いで耐候試験機内において40℃でインキュベートした。ただし、系3は室温に保った。相の形成後、相形成時間、各相の容量及び相容量比を記録した(表9参照)。次いで、各系からのMab含有水リッチ相をさらなる精製のために取り出した。
【0126】
表9は、様々な二相系からのデータを示している。一部の欄は2つの値を含んでいる。これは中間相のサイズに原因するものである。中間相はいくつかの方法で集めることができる。系5では、塩を最終濃度になるように固体結晶として添加した。
【0127】
【表9】

【0128】
これらの800mL系は、30分から120分までの様々な時間にわたって相分離を示したことがわかる。相分離は、容量よりも相系の高さ(深さ)に大きく依存することに注意すべきである。即ち、20cmの高さを有する1L系は、20cmの高さを有する500L系と同様にして相分離し得る。これは、20cmの高さを有する500L系を半径90cmの容器内で処理できるので重要である。
【0129】
プロテインAクロマトグラフィー
クロマトグラフィーは5mlのHiTrap MabSelectSureを用いて実施した。分析は、1ml HiTrap MabSelectSureカラム及びSuperdex 200 5/150 GLを用いて実施した。試料は50mlの供給液又は水リッチ相であり、緩衝液Aは0.15M NaCl中の20mMリン酸ナトリウム(pH7.2)であり、緩衝液Bは50mMクエン酸ナトリウム(pH=3.0)であった。流量は5ml/分(150cm/h)、勾配は0〜100%の階段勾配であった。通過液及び溶出液を集め、さらにMab、HCP及び凝集体レベルを分析した。回収率の推定及びその他の分析を一層正確に(カラムを汚損することがある大きい凝集体に関係しないように)するため、水リッチ相を遠心分離してから後続のクロマトグラフィー段階に適用した。したがって、この遠心分離段階はクロマトグラフィーに先立つテプス濾過と同等なものと見なされた。
【0130】
試料の分析
MabSelectSureカラムを用いてMabの濃度を測定した。50μlの試料を1ml HiTrap MabSelectSureカラムに適用した。溶出液ピークの面積を積分し、それぞれ供給液及び水相の容量を掛けた。ATPSを用いた抽出に関する回収率を、面積単位の総数を比較することで算出した。MabSelectSure段階に関するMabの回収率を同様にして算出した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:1ml HiTrap MabSelectSure、緩衝液A:PBS、緩衝液B:100mMクエン酸ナトリウム(pH=3.0)、流量:1ml/分(150cm/h)、勾配:0〜100%Bの階段勾配。
【0131】
Superdex 200 5/150 GLゲル濾過カラムを用いて、二量体及び凝集体(さらにMab濃度)を測定した。二量体ピーク及び単量体ピークの面積をUNICORNソフトウェアによって自動的に積分した。供給液及び水相からの二量体の総面積を比較した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:3ml Superdex 200 5/150 GL、緩衝液:PBS、流量:0.3ml/分(45cm/h)。
【0132】
結果
いかなる希釈或いはpH又は導電率の変化もなしに、水相をMabSelectSureカラムに直接適用することが可能であった(図7)。
【0133】
MabSelectSureカラムを用いて、供給液及び水相からのMab濃度の分析を行った(図8)。図8では、粗供給液を分析した。図からわかる通り、大部分のタンパク質及び他の280nmUV吸収化合物はカラムを直ぐに通過した。
【0134】
図9は、系3の上部相に関するMab濃度の分析結果を示している(表9)。このクロマトグラムは全体的な形状が図8に類似しているが、これは予想されたことである。図10は、親和性カラムを通過させた上部相に関する溶出液試料の親和性分析結果を示している。図8及び図9と比較すれば、Mab(2番目のピーク)に対する親和性カラムの濃縮効果がわかる。
【0135】
表10は、表9中の様々な試験で得られた結果を示している。二相抽出からのMab回収率は、1例を除くすべての場合について>95%であることが示されている。試験した条件下では、このMab試料の場合、二相抽出はHCPの低減率にあまり寄与せず、それは10%未満であった。しかし、この場合、系はMab回収率を最適化するように選択された。単量体と二量体との比が変化しなかったことから判断すると、凝集体濃度の明らかな低減は存在しなかった。
【0136】
表10はまた、MabSelect Sure試験からの結果の要約も示している。即ち、MabSelect Sureカラムからの溶出液を出発原料と比較した。出発原料は供給液又は様々な標的含有水リッチ相であった。予想された通り、回収率はほぼ100%であり、HCPの低減率は>99%であった。二量体/凝集体の低減率は不確実であり、分析方法の変動の範囲内にあるのかもしれない。供給液及びこの段階からの溶出液中の二量体/凝集体比を比較すると、差が存在している。供給液では、MabSelect Sure段階前の比は0.17であるのに対し、MabSelect Sure段階後には0.14〜0.15である。
【0137】
【表10】

【0138】
結果の分析に関しては、Aktaクロマトグラフィーユニット(GE Healthcare社)で動作させたMabSelectSureカラムを用いてMab濃度を測定した。50μlの試料を1ml HiTrap MabSelectSureカラムに適用した。緩衝液Aは10mMリン酸Na(pH7.2)中の150mM NaCl(PBS)、緩衝液Bは100mMクエン酸ナトリウム(pH3)、流量は1ml/分(150cm/h)、勾配は0〜100%Bの階段勾配であった。溶出液ピークの面積を積分し、それぞれ供給液及び水相の容量を掛けた。ATPSを用いた抽出に関する回収率を、面積単位の総数を比較することで算出した。
【0139】
(分配後の)MabSelectSure段階に関するMabの回収率を同様にして算出した。若干の場合には、Superdex 200 5/150 GLゲル濾過カラムを用いて、二量体及び凝集体(さらにMab濃度)を測定した。二量体ピーク及び単量体ピークの面積をUNICORNソフトウェアによって自動的に積分した。供給液及び水相からの二量体の総面積を比較した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:3ml Superdex 200 5/150 GL、緩衝液:PBS、流量:0.3ml/分(45cm/h)。GyroLabを用いて宿主細胞タンパク質(HCP)を測定した。
【0140】
例えば、回収率が110%を超える場合(系5の溶出液)及び系8の溶出液に関して76%である場合には、2つの結果をアウトライヤーと見なすのは容易である。多年の経験によれば、回収率は試験した条件下ではすべてのプロテインA媒体について常に100%に近いはずであることが示唆されている。
【0141】
水相及び出発原料中のHCP含有量(図10)を比較すると、相対HCP濃度の僅かな低下が見られる。即ち、ATPSはHCP含有量を低減させる。二量体/凝集体の低減になると、一部のATPSは二量体の濃度を僅かに増加させたように思われた。その差は小さく、分析方法の分散の範囲内にあるものかもしれない。
【0142】
MabSelectSure段階後、予想された通り、HCPの大きな低減が見られた。2つの方法、即ち「Sure」方法及びゲル濾過によってそれぞれ回収率を測定した。これらの間には差があるが、いずれの方法も相系及び後続のプロテインAからわの高い回収率を示した。
【0143】
実施例11:リン酸Na及びクエン酸Naに基づくATPS中におけるFabの分配
Mabタンパク質は、それが比較的疎水性でありかつ通例は正の正味電荷を有するため、リン酸塩又はクエン酸塩のような塩を含むEOPO−水ATPS中の水リッチ相を好む傾向があると推測される。極めて疎水性であるGFPも高いK値を示すとすれば、ブレンステッド式によって予測されるようにサイズが二次的な役割を演じることがある。その予測は、系が分子集合体、二量体及びモノマーMab形態を差別的に分配できないこと(上記参照)によって裏付けられる。幸いにも、それはまた、分配が抗体のFabフラグメントタンパク質(Fab)に対しても適していることを示唆している。リン酸Na及びクエン酸Na緩衝液に基づくEOPO−ATPSにおいて、系分配中に0.5mg Fabを各系に添加することで、MWが約5.5kDaのポリクローナルFab(pI:5.5〜9.5)の分配を試験した。40℃での相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。分配係数(K)及び上部相中における各Fabの%濃度((C/Co)×100%)を算出した(表11参照)。結果は、クエン酸Na緩衝液に基づく水相中におけるFabの回収率がリン酸Na緩衝液に基づく類似の相中(60%)より高い(79%)ことを示している。これらの分配値は、この報告中で注目されたMab及びポリクローナルIgに関する典型値より低い。しかし、試験した系はFabでなくMabに対して最適化されていた。加えて、Fab試料は明らかにpIが極めて酸性であるタンパク質を多少含んでいたので、その分配K値が低いことがあるのは意外でない。
【0144】
【表11】

【0145】
実施例12:EOPO系ATPS中におけるタンパク質選択性
8%EOPO、200mMリン酸Na(pH7.4)及び150mM NaClを含む5mlの系中において、様々なpIを有するタンパク質を40℃で分配した。系中の全タンパク質濃度は1mg/mlであった。相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。分配係数(K)を算出し、表12にまとめて示す。結果は、塩基性タンパク質が完全に水相中に分配されたのに対し、最も酸性のタンパク質は上部相及び下部相の両方に分配されたことを示唆している。ポリクローナルIg試料は約7の平均pIを有していたにもかかわらず、恐らくは疎水性及びサイズのために(以前に認められたような)高いK値を示した。
【0146】
【表12】

【0147】
分配は、親水性(水リッチ相を好む陽性タンパク質による単位面積当たりの正味電荷)及び疎水性(自己会合したEOPO相が排除するので水リッチ相中により多く存在する疎水性タンパク質)の両方に関係するはずである。試験した系は相当量のリン酸Na及びNaClを含み、したがって大部分のタンパク質が顕著な上部相分配を示したことは意外でないかもしれない。しかし、かかる系に関しても、ある程度の選択性が実証された。ここに述べた他の結果に基づけば、NaCl及びリン酸Naを100mM NaClに減少させかつpHを8に上昇させると、α−ラクトアルブミン、BSA及びミオグロビンに関するK値を低下させてより選択的な系を導くことができる。しかし、かかる系は抗体のような標的に関して最良の回収率を与えないかもしれない。低分配タンパク質が標的タンパク質である場合、その分配は、塩、pH、疎水的親和性リガンドの含有、又は上記実施例中に記載された他の変量を変化させることで増加させ得る。
【0148】
実施例13:ミルク又は血液に対する二相系の形成
植物、ミルク、血液などに含まれる組換えタンパク質又は天然タンパク質のような各種の生物関連試料に対して二相系を使用する可能性に関し、ミルク系又は血液系の溶液を処理できるか否かを調べるための研究を実施した。ミルクに関する実験では、二相の形成について4種の条件をスクリーニングした(表13参照)。一部の条件で相系が形成されたが、その相形成は脂肪物質の存在並びに(恐らくは)高カルシウムレベルによって複雑化されることが認められた。後者は、オキシポリマー及びリン酸塩とキレート化し、リン酸緩衝食塩水水のPEGに塩化カルシウムを添加した場合に生じるような沈殿を形成し得ることが知られている。結果は、本プロセスがスキムミルクに対して一層良く働くことを示唆している。
【0149】
【表13】

【0150】
血液に関する実験では、Breox 50A EOPOポリマー原液及びクエン酸Na(pH7.4)原液を7mlの血液(これは天然に150mM NaClを含む)に添加することで、15mlのキャップ付きプラスチック円錐管中に10%EOPO及び容量10mlの約70%(v/v)血液等張溶液を生成した。手で穏やかに転倒させることにより37℃で混合した後、混合物は10分以内に2つの液相及び細胞領域に分離した。このように処理した血液試料に関しては、良好な相形成、清澄化及び相分離が見られた(データベースは示さず)。
【0151】
実施例14:Pluronic L81による二相系の形成
Breox及びUconポリマーは、EO及びPOのランダムコポリマーである。Pluronicは、(EO)x(PO)y(EO)x型のコブロックコポリマーである。(10%EO及び90%POを含みかつ約2700の全ポリマーMWを有する)Pluronic L81ポリマーに基づくATPS中におけるMabの回収率を調べるため、Mab供給液2を用いて、相異なる塩タイプ(リン酸塩及びクエン酸塩)に関する若干の実験を行った。Pluronic L81は上記の研究の多くで使用したBreoxポリマーより低いTcを有しており、室温で使用するのに適するかもしれない。ポリマー濃度が10〜20%である場合、二相系は室温で形成されたが、これは他の熱応答性クラウディングポリマーも本発明の方法で使用するのに適していることを表している。MabSelect Sure分析を用いて、水リッチ相中の(供給液2からの)Mab回収率を測定した。EOPOに基づくATPSを対照として使用した。結果を表14に示すが、これはEOPO系に関して92%以上及び(非最適化)L81系に関して86%以上のMab回収率を示している。
【0152】
【表14】

【0153】
実施例15:使い捨てバイオリアクター内における14リットルスケールの分配
ここで我々は、14リットルスケールで遠心分離なしに細胞除去(清澄化)を可能にするため、Breox(EOPO)ポリマーを塩との濃縮状態で直接にWAVE(商標)バッグ中の10L Mab細胞培養物に添加してなる水性二相系(ATPS)を使用することを示す。この研究では、容量低減を最適化するのではなく混合の容易さを助けるため、ポリマー及び塩原液を添加する方法が選択されたことに注意されたい。その上、相系は迅速な分離及び良好なMab回収率を達成するようにも選択された。それは、Mab回収率と宿主細胞タンパク質除去とのバランスを取るように最適化されたわけではなかった。上記の実施例に基づけば、HCP及び他の夾雑物の除去に関する試薬添加方法及び系最適化は、機能し得るモデル系が実証できれば明らかであるように感じられた。
【0154】
実際の供給液4のMab細胞培養物はCHO細胞株で発現される。培養期間は18日であり、培養容器は20Lのバッグ及びpH/オキシウェルを有するWAVEバイオリアクター系20/50であった。培養液は、5g/Lの加水分解物UF8804(Millipore社)を含みかつ必要に応じてグルコース及びグルタミンを供給したPowerCHO2(Lonza社)であった。供給液試料は、細胞の平均生存率が40%を下回った場合に収穫可能と定義された。WAVEバッグの内容物は、ポリマー−塩溶液を添加した場合、42℃に温度安定化された。
【0155】
ATPSポリマー系は、9.5kgのMab供給液4を含むWAVEバッグ中に原液混合物を直接ポンプ注入することで調製した(図11参照)。
【0156】
【表15】

【0157】
10%(w/w)EOPO、200mMリン酸Na(pH8.0)及び150mM NaClの最終濃度を達成するためには、表15に従って原液を予備混合した。かくして、総量8.37Lのこの混合物を40℃まで加熱し、次いで蠕動ポンプを用いて(ほぼ同じ温度を有する)WAVEバッグ中の供給液材料に注入した。ポリマー混合物のポンプ注入時間は約50分であった。WAVEリアクター上に混合物を放置して15分間振盪した後、バッグホルダーを含めたWAVEバッグをリアクターから取り外し、長軸が垂直になるようにして実験台上に配置した(図11参照)。これは、相形成の可視化を助けると共に、バッグのチューブ挿入口をバッグの上部及び下部に位置させた。それはまた、一層ラージスケールのプロセスにおいて予想されるものに一致するように相の高さを調整した(上記の議論を参照されたい)。二相系の形成は5分後に認められ、30分後に完了した。図12に見られるように、細胞破片の層が界面に形成された。次いで、WAVEバッグの上部からチューブを挿入し、それを蠕動ポンプに連結することで、上部相を複数の瓶に移した(図12参照)。次いで、WAVEバッグを長軸が垂直になるように配置した場合にその下部コーナーになる部分に取り付けたチューブを用いて、下部(ポリマー)相を瓶に移した(図11参照)。
【0158】
複数の瓶からの集めた上部相材料をプールし(約13.5L)、次いで6インチUltra HC 0.2μmフィルターに連結した6インチUltra 0.6μm GFを用いて濾過した。7リットルの材料を濾過した後、圧力が2.5バールに増加したので、6インチUltra 0.6μm GFを新しいフィルターと交換した。濾過した材料をWAVEバッグ中に集め、次いで4℃に保った。
【0159】
ATPS後の上部ポリマープア相画分中におけるMabの回収率を、MabSelect Sure分析(上記参照)を用いて測定した。粗供給液及びATPS実験後の回収Mabに関するMab回収率及び宿主細胞タンパク質(HCP)データを表16に示す。これらの実験からの結果は、MabがATPSによって>99%の回収率で部分的に精製され(表16)、細胞破片の顕著な除去(図11及び図12)も見られることを示していた。この実験で使用した水性ポリマー二相系によってHCPの顕著な低減は得られなかった(表16)。
【0160】
【表16】

【0161】
9.5kgのMab細胞培養物(供給液4)を含む20LのWAVEバッグに、8Lを超えるポリマー溶液をポンプ注入した。二相系の形成は5分後に既に認められ、30分後に完了した。細胞及び破片の層が界面に形成された。ATPSによれば、細胞及び破片は成功裡に除去され、標的Mabタンパク質は水性上部相中にほぼ完全に回収された。実際の供給液に関するスモールスケール研究の場合と同じく、簡単な濾過後、清澄化Mab含有相をMabの損失又はカラム性能の低下なしにMabSelect親和性カラムに直接適用することができた。
【0162】
実施例16:ウイルス及びウイルスワクチンの処理
一般実験手順
ウイルス関連の実験は、上記の抗体発酵供給液及びそれに関連する実験からの代表的な系をウイルスワクチン処理に関連する実験に適用することを含んでいた。したがって、同様なポリマー、塩、系及び技法を使用した。2種のウイルス株を用いて2つの例示的な実験を行った。第1のものはCHO細胞タンパク質で増強されたショ糖勾配精製ウイルスを用いた分配を含み、第2のものは(同一供給源からの)清澄化かつ濃縮ウイルスで増強された実際のウイルス供給液であった。
【0163】
化学薬品、試薬及びウイルス株
Breox(商標)50A 10001、MW 3900、上記参照。
【0164】
本研究で使用した他の化学薬品はすべて分析用のものであって、MERCK社から購入した。
【0165】
1本研究で使用したBreox(商標)は通常の工業用界面活性剤であり、いくつかの供給源から入手できる。同様なポリマーはバイオ医薬品の処理及び製剤化で使用されていて、その場合にこれらは様々な機能を果たす。Breox 50A 1000は、50%エチレンオキシド及び50%プロピレンオキシドからなるランダムコポリマーである。その分子質量(数平均)は3900Daであり、膜タンパク質の抽出のために有用なBreox−洗浄剤二相系(J.Chromatogr.B,vol 711,pp.53−60,1998を参照されたい)に関連した大規模研究で使用するためにはKTH(バイオテクノロジー部)によってInternational Speciality Chemicals社(サウサンプトン、英国)から入手した。Breox系列のポリマーは極めて安全で生体適合性を有するように思われ、ある種の製剤中に使用されている。
【0166】
ウイルス材料
2種の生物学的材料の試料を使用した。第1のものは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発酵液からMabSelect親和性カラム(GE Healthcare社)通過液(FT)を取り出すことで得たワクチン増強CHO細胞系供給液であった。FTはMabをほとんど又は全く含んでいなかったが、標準的なCHO宿主細胞タンパク質及び他の夾雑物は含んでいた。それをA/H1N1/New Caledoniaインフルエンザウイルスの40%ショ糖勾配で精製されたインタクトウイルス画分(ホルムアルデヒド処理、赤血球凝集素(HA)濃度約200μg/ml)で富化した。
【0167】
第2の試料(ウイルス供給液という)は、約13.8μg/mlのHA濃度を有する(MDCK細胞中で増殖させた)活性A/H1N1/Solomon Islandsインフルエンザウイルスの粗収穫物に基づいていた。結果を一層容易に評価するため、9mlの清澄化かつ濃縮A/H1N1/Solomon Islandsインフルエンザウイルス(約73μg/ml)を51mlの粗収穫物に添加することでウイルス供給液中のウイルス濃度を増加させた。このウイルス材料はまた、10mM TRIS(pH7.4)及び0.15M NaClを含んでいた。
【0168】
分配方法
以下の表17に示す原液の適当な量/容量を混合することで、各々の水性二相系(ATPS)を直接に15ml Sarstedt管中で調製した。かかるATPSは、100mM NaP(pH7)及び150mM NaCl中の8〜12%EOPO系に基づいていた。ウイルス供給液混合物の添加後、各系の最終容量をPBSで10mlに調整した(表参照)。混合物を約30秒間渦動させ、次いでオーブン内において40〜45℃で約1時間放置して相形成させた。次いで、形成された相を分離し、以下に示す方法で分析した。
【0169】
原液
BREOX 50A 1000、100%(w/w):そのまま使用した。
【0170】
NaP(リン酸Na、0.8M):0.8M NaH2PO4及び0.8M Na2HPO4の適量を混合することでpH7とした。
【0171】
NaCl(5M):14.6gのNaClを50mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0172】
【表17】

【0173】
分析
ショ糖勾配で精製されたウイルス増強CHO細胞試料に関する分配結果を、インタクトなウイルス粒子を検出する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法(宝酒造)を用いて分析した。これは、ショ糖密度勾配で精製された試料のインタクトウイルス画分からのウイルスでCHO FT供給液を増強した場合(上記)に一致している。
【0174】
実際のワクチン供給液試料の結果を標準の商業的に利用できるアッセイに従って分析した。総タンパク質はBradfordアッセイによって分析し、デオキシリボ核酸(DNA)は(MDCK細胞のゲノムDNAに対する)qPCRアッセイ及びPicoGreen(登録商標)(Molecular Probes社)によって分析し、宿主細胞タンパク質(HCP)は(MDCK細胞に対するウサギポリクローナル抗体を用いる)Biacore(商標)装置(GE Healthcare社)に基づく表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイの使用によって分析し、ウイルスHAはBiacore SPRアッセイ(C.Estmer Nilsson et al,Vaccine 28(2010)759−766参照)によって分析した。Biacore HAアッセイはウイルスHAタンパク質を検出し、したがってウイルス関連夾雑物(HA)を含む他のウイルス破片及び細胞破片のすべてに対しても感受性を有する。
【0175】
前述した通り、上部相中のBreox EOPOポリマー濃度は約1%(w/w)である一方、下部相中ではそれは遙かに高い(例えば、70%)と予想される。Bradfordアッセイに対するEO(ポリエチレングリコール)及びデキストランのような親水性ポリマーの効果が、Barbarosa et al.(Protein quantification in the presence of dextran or poly(ethyleneglycol)(PEG)and dextran using the Bradford method.Helder Barbosa,Nigel K.H.Slater,Joao C.Marcos,Analytical Biochemistry 395(2009)108−110)を始めとする複数の著者によって研究されている。彼らは、10%を超えるPEG濃度がアッセイ感度の実質的な低下をもたらすと結論づけている。
【0176】
結果及び考察
相異なるBreoxポリマー濃度(8〜12%w/w)を有する3相系を二重反復実験で試験した。系及び塩の組合せは、タンパク質処理に関して試験したものと同じであった。40℃より高く加熱したところ、供給液試料中に二相が容易に形成された。下部相は高いポリマー濃度のために分析するのが困難であったが、上部相は加熱前の一相系と同様に容易に分析された。若干の場合には、熱応答性EOPOブロックコポリマー(例えば、Pluronic(登録商標)L81)を用いて同様な結果が得られた(データは示さず)。全体の結果を図13に示す。3種のEOPOポリマー濃度のいずれにおいても、実際のウイルス供給液試料は基本的に同様な結果を与えたことがわかる。即ち、Biacore HAアッセイによる上部相中のウイルスHAは約20%であり、上部相中のHCPは60〜70%であり、上部相中の総(Bradford)タンパク質は70〜80%であり、上部相中のDNAは5%未満であった。供給液が清澄化CHO細胞供給液で増強されたインタクトなショ糖勾配精製ウイルスである別の実験では、(PicoGreen(登録商標)アッセイで測定された)上部相へのDNA分配は70%であったのに対し、ELISAアッセイによって分析されたインタクトウイルスの上部相分配は70〜100%であった。DNA分配は、EOPOの2ポリマー系に関して国際公開第2004/020629号に記載されたものと一致している。
【0177】
かかるデータは、供給液中に形成された単一応答性ポリマーの二相系を用いて、さらなる処理のためにウイルス供給液の清澄化及びインタクトウイルス粒子の一次回収を行うのが可能であることを示している。Mab処理の場合と同じく、上部相は多少のHCP及び多少のDNA並びにウイルスを含むが、アフィニティークロマトグラフィーその他の方法によるさらなる処理を施すことができるはずである。実験は、使用するアッセイ又は供給液のタイプに応じてウイルス及びDNAの分配係数に顕著な差があることを示唆している。これは、一部では、相間におけるインタクトウイルス及びウイルス破片の不均等な分配の関数であるのかもしれない。細胞及びウイルス破片を含む試料においてやや意外にも上部相中へのDNA分配がないことは、部分的には、DNAと細胞及びウイルス破片との相互作用によってDNAが破片と共に界面に集積することで説明できる。
【0178】
本明細書中で言及された特許、特許出願公開及びその他の公表参考文献のすべては、各々が個別かつ詳細に本明細書中に組み込まれた場合と同じく、その全体が援用によって本明細書の内容の一部をなしている。以上、本発明の好ましい例示的な実施形態を記載してきたが、当業者には、限定のためでなく例示を目的として示した記載の実施形態以外のやり方でも本発明を実施できることが容易に理解されよう。本発明は、以下に示す特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の標的生体分子又は化合物を水性液体から単離する方法であって、
(a)容器内で前記水性液体を熱応答性の親水性ポリマー及び必要ならば1種以上の添加塩と合わせる段階、
(b)(a)で得られた液体混合物を、ポリマーがその曇り点より高い結果として1ポリマー二相系を形成し、前記標的生体分子又は化合物は一方の相、優先的にはポリマーが濃縮されていない相中に分配されるのに対し、非標的化合物及び粒子は相界面又はポリマーリッチ相に様々に異なる程度に分配されるような条件下で穏やかに混合する段階、
(c)任意には、標的含有相を新しい相補的な相と混合することで別の分配に付す段階、
(d)標的生体分子をそれが濃縮された相から回収する段階、並びに
(e)任意には、ポリマーリッチ相からのポリマーを分配単位操作に再循環させる段階
を含む方法。
【請求項2】
1種以上の標的生体分子又は化合物を単離する多段階方法であって、発酵液又は類似のバイオマス含有供給液の清澄化が請求項1記載の方法によって実施される、方法。
【請求項3】
ポリマーがその主成分の1つとしてエチレンオキシドを含むポリ(エーテル)であり、4〜100℃の曇り点を示す、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーの分子量が900〜100000Daの範囲内にある、請求項3記載の方法。
【請求項5】
熱応答性ポリマーが、ポリ(エチレン)グリコール(PEG)、Breoxを含むエチレンオキシドプロピレンオキシド(EOPO)コポリマー、EOPOEOブロックコポリマーPluronic(商標)を含むEOPOブロックコポリマー、及びエチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)を含むエトキシ又は他のオキシ基修飾多糖類からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ポリマーが水溶液中で自己会合する傾向が主として熱応答性でなくpH応答性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
添加塩の濃度が1〜500mMの範囲内、好ましくは100〜300mMの範囲内にある、請求項1記載の方法。
【請求項8】
塩が、NaCl、Na2PO4、KPO4、NaSO4、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、(NH4)2SO4、酢酸ナトリウム及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
全ポリマー含有量が約4〜20%(w/w)を占める、請求項1記載の方法。
【請求項10】
二相系が、約4〜20%のEOPOを含む水性ポリマー二相系である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
二相系が、約5〜15%のEOPOを含む水性ポリマー二相系である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
段階(a)におけるpHがほぼ中性である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
液体が発酵ブロスである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
標的生体分子又は化合物がタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
標的生体分子又は化合物が抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
標的生体分子又は化合物がポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はFabフラグメントのような抗体フラグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項17】
標的生体分子又は化合物がポリマーが濃縮されていない相から単離される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記二相が一方又は他方の相中への優先的な分配を示す疎水性リガンド又は他の親和性リガンドの存在下で形成され、前記親和性リガンドが任意にポリマー修飾されている、請求項1記載の方法。
【請求項19】
容器が発酵を実施した容器である、請求項13記載の方法。
【請求項20】
混合及び相形成が、任意には揺動プラットホームのような可動プラットホームに連結されたプラスチックバッグ中で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項21】
さらに1以上の液体クロマトグラフィー段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
液体クロマトグラフィーがプロテインAに基づくアフィニティークロマトグラフィーからなる、請求項21記載の方法。
【請求項23】
液体クロマトグラフィーに続いて、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー又は多モードイオン交換クロマトグラフィーからなる1以上の段階を含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
1種以上の抗体を液体から単離する方法であって、親水性ポリ(エーテル)及び1種以上の塩を含む二相系の相間に分配する段階を含む方法。
【請求項25】
ポリマーが濃縮されていない相が2以上の相のうちの上部低密度相である、請求項17記載の方法。
【請求項26】
ポリマーが濃縮されていない相が2以上の相のうちの高密度相である、請求項17記載の方法。
【請求項27】
容器が、発酵を実施した固定静止金属容器又は使い捨てプラスチック容器である、請求項13記載の方法。
【請求項28】
インタクト細胞又は溶解細胞が界面張力によって液−液相界面に保持される、請求項13記載の方法。
【請求項29】
標的含有相が、新しいポリマー又は再循環ポリマー及び他の成分の部分添加によってさらなる相分配に付される、請求項1記載の方法。
【請求項30】
請求項1記載の方法で精製された、低温貯蔵又は凍結乾燥を含む非分離式処理用の標的生体分子又は化合物であって、残留ポリマーの存在が標的分子に対して保護効果をもたらす、標的生体分子又は化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−514637(P2012−514637A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545321(P2011−545321)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050008
【国際公開番号】WO2010/080062
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】