説明

単分子アナライト検出

励起光を発生させるための光源(20)と、光源によって発生した励起光の第1の経路上に配置され、励起光をファイバアライナ(30)へ導くダイクロイックミラー(22)と、ファイバアライナによって光源に連結され、第1の誘電体指数を有する誘電材料で作られた光導波路(40)を備える光変換器と、蛍光戻り放射を受信するために配置された光子検出器(70)とを備える単分子アナライト検出装置であって、第1の誘電体指数より低い第2の誘電体指数を有する試液が提供され、1つまたは複数の標的分子を含む際、励起光が導波路によって伝播され、試液中に配置された導波路の先端部を出て、1つまたは複数の標的分子を励起させ、次いで、導波路が伝播戻り放射を検出する光子検出器へ第2の経路に沿って戻り放射を伝播する単分子アナライト検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体環境下で単分子アナライトを検出する装置およびその方法に関する。特に、本発明は、光導波路技術を用いて、溶液中のごく微量濃度のアナライト分子を、定性的および定量的に検出する装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床診断の技術において、診断医はごく微量の試料しか検査に利用できない場合にしばしば直面する。その結果として、検査用試料は超低濃度で観察対象アナライト分子を有する調整試薬を結局調整することになるか、またはごく微量の利用可能な試液が、本来超低濃度のアナライトであることもある。試液内におけるアナライトの超低濃度の問題を解決するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)などさまざまな先行方法が開発されている。増幅法に頼っていたこれら従来の技法を行うには、時間と費用がかかる。シンガー(Singer)らに付与された米国特許第5,866,331号明細書は、インサイツハイブリダイゼーション法による単分子検出の一例を提供している。
【0003】
一方、生物医学分野での用途では、増幅法に頼らずに単分子を検出できることにはいくつかの利点があり、増幅法を用いないこうした測定法が開発されてきている。例えば、チャギ(Tyagi)およびクラマー(Kramer)ら(ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)、第14巻、1996年3月、303−308頁)によって教示されているものなどの、分子ビーコンが、標的分子に結合し、特定の標的と結合するとすぐにコンフォメーション変化をするとして知られている。フルオロフォアおよびクエンチャーが存在するために、分子ビーコン内でのコンフォメーション変化は高い感度で検出が可能な光信号に変換される。さらに、DNAとRNA分子、および断片を検出する方法において、標識され、固定されたDNA用スマートプローブは、標的を標識し、余分なものを連続して洗浄する工程を必要とする。しかし、蛍光プローブを使用するにはいくつかの欠点と共に限界がある。光ファイバの自家蛍光によって生じるバックグラウンド信号、観察対象アナライトが溶解されている溶液または溶媒の自家蛍光、または光学測定装置自体のガラス部品によって生じる自家蛍光および/またはレイリー散乱およびラマン散乱などによって誤った読み出しが行われてしまう。この技法はまた、遠隔測定法を用いることで試液中における単分子の検出度を高め、微量な細胞内の浮遊分子スイッチの測定とマイクロ流体ネットワークの組み合わせを可能にしている。ウォルト(Walt)らによる米国特許第5,814,524号明細書は、遠隔位置で光の分析測定を行うための光センサ装置の一例を提供している。さらに、異なる分子スイッチを化学的にいくつかのセンサファイバにつけて、いくつかの異なる観察対象標的を平行してインサイツで検査できるので、診断を下すために必要な時間を短縮できる。これと同様の構成は、ボネット(Bonnet)ら(米国科学アカデミー紀要(PNAS)、第96巻、6171頁、1999年)によって既に提案されているが、光学系による用いられた信号収集の原理は、かなりのバックグラウンド信号を含む信号の記録に基づいており、これらの方法および装置によって達成できる最大の検出感度は非常に限られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、臨床診断技術における低濃度のアナライト分子検出に対し、先に述べた先行技術の方法および装置の欠点を克服する、感度の高い方法および装置が必要である。本発明は、先行技術の方法および装置の限界を克服しつつ、従来の増幅法とも共存するが、しかし依存せず、しかも単分子アナライトから蛍光を検出できる感度を備えた、溶液中の単分子アナライトを検出するための改良された方法および装置を提供しようと努める。
【課題を解決するための手段】
【0005】
よって、本発明の主な目的は、アナライト分子の検出に対し、先行技術の方法および装置の不利点を克服することである。本発明の別の目的は、増幅法と共存するがこの方法を用いなくても検出が可能な溶液中の単分子アナライトを検出する方法および装置を提供することである。本発明の別の目的は、単分子アナライトの検出に対し、感度が良く、操作が簡単で使い勝手が良く、標的を標識し、および/または連続して洗浄する工程を必要としない検出方法および装置を提供することである。本発明の別の目的は、小型化技術に適応できる単分子アナライトの検出方法および装置を提供することである。本発明の別の目的は、臨床研究用途(生体外および生体内)、および実際の臨床用途での適応に最適な、分子の蛍光信号を遠隔測定する光学系を提供することである。本発明の別の目的は、標的分子のインサイツ測定ができ、それによって患者の体内の測定が可能となる光学系を提供することである。
【0006】
本発明の目的によれば、本発明は、第1の装置の実施形態において、
(a)第1の経路上で励起光を発生させるために配置された光源と、
(b)光源によって発生した励起光の第1の経路上に配置され、励起光をファイバアライナに導くために設けられたダイクロイックミラーと、
(c)ファイバアライナによって光源に連結され、第1の誘電体指数を有する誘電材料で作られた光導波路を備えた光変換器と、
(d)蛍光戻り放射を受信するために配置された光子検出器と、
(e)第1の誘電体指数より低い第2の誘電体指数を有し、容器内に配置されると共に1つまたは複数の標的分子を含む試液であって、光導波路の先端部が試液中に配置され、励起光が光源によって発生し、光導波路によって伝播されて先端部を出た際、1つまたは複数の標的分子が励起光によって励起される試液と、
を備える単分子アナライト検出装置であって、
(f)同じ光導波路が、1つまたは複数の励起された標的分子によって発生した蛍光戻り放射を伝播された蛍光戻り放射を検出する光子検出器へ第2の経路に沿って伝播するために設けられた単分子アナライト検出装置を提供する。
【0007】
本発明の第2の装置に係わる実施形態によれば、第1の装置に係わる実施形態は、光子検出器が1つの励起された標的分子から伝播された蛍光戻り放射を検出するよう変形されている。本発明の第3の装置に係わる実施形態によれば、第1の装置に係わる実施形態を変形して、伝播された蛍光戻り放射が、第1の波長を有し、光導波路の先端部から第1の波長の2分の1以内である試液の領域内に位置する励起された標的分子から主に発生するようにしている。本発明の第4の装置に係わる実施形態によれば、第3の装置に係わる実施形態を変形して、光導波路が、励起光の第1の経路および、伝播された蛍光戻り放射の第2の経路の一部を共に提供するようにしている。本発明の第5の装置に係わる実施形態によれば、第4の装置に係わる実施形態を変形して、ダイクロイックミラーが、伝播された蛍光戻り放射の第2の経路上にも配置されるようにしている。本発明の第6の装置に係わる実施形態によれば、第5の装置に係わる実施形態を変形して、第2の経路上に配置され、蛍光戻り放射をフィルタするフィルタをさらに備えている。本発明の第7の装置に係わる実施形態によれば、第6の装置に係わる実施形態を変形して、第2の経路上に配置され、光子検出器によって検出するために蛍光戻り放射を集光するレンズをさらに備えている。本発明の第8の装置に係わる実施形態によれば、第7の装置に係わる実施形態を変形して、光子検出器から信号を受信するために接続され、蛍光戻り放射の光子の検出値を読み出すためのインターフェイスを提供するコンピュータをさらに備えている。
【0008】
本発明の第9の装置に係わる実施形態によれば、第8の装置に係わる実施形態を変形して、光子検出器が、1つの励起された標的分子から伝播された蛍光戻り放射を検出し、コンピュータが、1つの励起された標的分子によって発生する光子の検出値を読み出すようにしている。本発明の第10の装置に係わる実施形態によれば、第9の装置に係わる実施形態を変形して導波路の先端部が劈開構成を有するようにしている。本発明の第11の装置に係わる実施形態によれば、第9の装置に係わる実施形態を変形して、導波路の先端部が、所定の長さまで自由に延在するように構成されたファイバ心線を有するようにしている。本発明の第12の装置に係わる実施形態によれば、第9の装置に係わる実施形態を変形して、導波路の先端部が、光集積デバイスの並列配列を形成する複数の光ファイバを含むようにしている。本発明はまた、第1の方法に係わる実施形態において、
(a)i.励起光を発生させるための光源と、
ii.光源によって発生した励起光の第1の経路上に配置され、励起光をファイバアライナへ導くダイクロイックミラーと、
iii.ファイバアライナによって光源に連結され、第1の誘電体指数を有する誘電材料で作られた光導波路を備える光変換器と、
iv.蛍光戻り放射を受信するために配置された光子検出器と、
を備える、単分子アナライト検出装置を提供するステップと、
(b)第1の誘電体指数より低い第2の誘電体指数を有し、1つまたは複数の標的分子を含み、光導波路の先端部が中に配置されている試液を提供するステップと、
(c)光源を用いて励起光を発生させ、光導波路を用いて、第1の経路に沿って励起光を試液中へ伝播するステップと、
(d)励起光を用いて試液中の1つまたは複数の標的分子を励起するステップと、
(e)1つまたは複数の標的分子を用いて蛍光戻り放射を発生させ、次いで、戻り放射を、同じ光導波路を用いて戻り放射を検出する光子検出器に、第2の経路に沿って伝播するステップと、
を備える単分子アナライトを検出する方法を提供する。
【0009】
本発明の第2の方法に係わる実施形態によれば、第1の方法に係わる実施形態を変形して、第2の経路上に配置されたフィルタを用いて伝播された戻り放射をフィルタするステップをさらに備えている。本発明の第3の方法に係わる実施形態によれば、第2の方法に係わる実施形態を変形して、伝播戻り放射が光子検出器に到達する前にレンズを用いて伝播戻り放射を集光するステップをさらに備えている。本発明の第4の方法に係わる実施形態によれば、第3の方法に係わる実施形態を変形して、光子検出器によって検出された伝播された蛍光戻り放射の光子を算出するステップをさらに備えている。本発明の第5の方法に係わる実施形態によれば、第4の方法に係わる実施形態を変形して、検出され、算出された光子の測定値を読み出して表示する読み出しインターフェイスを提供するコンピュータに信号を送信するステップをさらに備えている。本発明の第6の方法に係わる実施形態によれば、第1の方法に係わる実施形態を変形して、光導波路によって伝播された蛍光戻り放射が第1の波長を有し、光導波路の先端部から第1の波長の2分の1以内の試液の領域内に位置する、1つまたは複数の標的分子によって発生した蛍光戻り放射を実質的に備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、方法および装置に係わる実施形態は、光導波路を用いて、溶液中のごく微量(ナノモルからアトモルまたはそれ以下)のアナライト分子の存在、と濃度の定量的検出を提供することに役立っている。本発明は、誘電性液体環境下(例えば、試液)において、試液の液体とガラスなど試液より高い指数を有する誘電材料との境界および、溶液中の蛍光分子との距離に応じて蛍光分子の励起が変化する点を主に利用している。図1に示したように、水中の蛍光分子Mの放出パターンは、ガラスとの境界SB(すなわち、より高い誘電体指数)から遠いと、分子はより高い指数の誘電体Bとの相互作用を示さないことが知られている。しかし、ガラスにさらに近い水中蛍光分子Mは、より高い順位の誘電体と互いに作用し、その放射のいくらかを誘電材料へ導くかまたは伝播する。ガラスに十分に近い溶液中の蛍光分子Mは、その放射の大部分をより高い指数誘電本体Bへ伝播する。蛍光分子の放射の大部分が、より高い指数誘電本体へ伝播される条件は、蛍光分子とより高い指数の誘電体境界との距離が、励起波長λの2分の1未満の場合に発生する。例えば、図1に示すように、分子Mと、水およびガラスの境界間との距離dは、励起波長λ未満であるため、蛍光放射は誘電材料、すなわちガラスへいくらか伝播される。しかし、距離dは、λ/2以上であるため、放出放射の大部分はより高い指数の誘電体へ導かれない。他方、分子Mは、より高い指数誘電材料までの距離が放出波長の2分の1以内と示されているので、分子Mの放出放射の大部分はより高い指数の誘電体へ伝播される。距離d(ここでd≫λ/2)に位置する分子Mなどの、より高い指数の誘電体から遠い分子は当然、それらが放出するどのような放射をも、より高い指数の誘電材料へほとんど伝播しない。本発明によれば、単分子アナライトを検出するための方法および装置に係わる実施形態は、全ての作動において原則的に(a)誘電本体が導波路として、または導波路の一部としての役割を果たすことができ、励起光を溶液中の標的アナライト分子へ運ぶために用いられ、(b)誘電本体の表面のごく近傍のこれら溶液中のアナライト分子だけ(すなわち、標的分子から誘電体表面までの距離<λ/2)が、励起され、それらの放出放射を導波路へ効率的に連結して戻ることができる。このように、高い指数の誘電材料を含む構成の導波路は、励起光を提供し、かつ光学系によって検出された戻り放出放射を伝播するために用いられる。本発明のさらなる目的、特徴および利点は、添付図面を考慮しながらこれに続く実施形態の詳細な説明により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、溶液中の単分子アナライトを検出するための方法および装置を含む。本発明を容易に理解できるよう、先ず装置に係わる実施形態について述べる。図2に示すように、本発明の装置は、溶液中のアナライト標的単分子を、遠隔で検出するための光学系10である。この光学系10の主な作動において原則的に、試液Sの指数よりも高い指数の誘電材料によって、その全体または一部が作られた導波路42により導かれる励起光22が観察対象標的分子Tを励起することができ、それによって標的分子Tが放射を放出する。さらに、光学系10は、導波路42を用いて、導波路の表面のごく近傍の標的分子が主に放出する励起放射を伝播する(すなわち、励起された標的分子と誘電体導波路の表面との距離は、励起放出放射波長λの2分の1未満でなければならない)。光学系10は、ある観察対象標的分子T内の励起蛍光に励起光22を与える光源20、好ましくはレーザ励起源を備えている。励起光22の波長λは、観察対象標的分子Tによって決まる。例えば、励起波長が633nmであればCy5−Cy7−FRET(シアニン色素5−シアニン色素7−蛍光共鳴エネルギー移転)標的分子を励起することができる。しかし、本発明は、測定可能な放射を放出するために観察対象標的分子を励起できる光であれば、使用する光の波長は特に限定されるものではないことを蛍光技術の当業者は理解するであろう。光学系10は、またダイクロイックミラー25と、ファイバアライナ30と、光変換器40と、光学フィルタ50と、レンズ60と、光子検出器70(すなわち、単一光子計数装置またはAPD(アバランシェフォトダイオード))と、コンピュータ80とを備えている。観察対象標的分子Tを含有する試液Sを適切な容器90に入れ準備しておく。使用する際、光変換器40の先端部が溶液Sに接触するように配置される。具体的には、ダイクロイックミラー25は励起光22の経路に沿って配置され、励起光22をファイバアライナ30へ導くために用いられる。ファイバアライナ30は光源20と光変換器40とを連結しており、溶液Sより高い誘電体指数を有するガラス製光ファイバ、または、その他の誘電材料であることが好ましい。当該技術分野において既知であるように、光変換器40は、保護カバー44で覆われた1本または束の光ファイバとすることができる。1本または複数の光ファイバは、光変換器40の導波路42を形成する。励起光22は、光変換器40を通りこの先端部を出る。光変換器40は、光学系10用光導波路42を備えている。したがって、光導波路は、励起光22を光源20から試料液S中の標的分子Tへ伝播するために用いられる。光変換器40の先端部から出た励起光22は、エバネッセント場および/または発散放射場の発生によって溶液S中の分子Tの蛍光を励起する。試料液S中の標的分子Tは、励起光22によって励起され、その後、波長λ+Ω.の蛍光放射である戻り放射24を放射する。蛍光技術の当業者であれば、放出放射の波長λ+Ω.は標的分子Tによって決まり、本発明は特定の波長または標的分子に対する測定または検出に限定されないことを理解するであろう。励起された分子によって生じる蛍光信号は、導波路42のガラスと連結して戻り、戻り放射24は光導波路42によって伝播され、ダイクロイックミラー25によって伝播された平行光として光変換器40を出る。次に、蛍光戻り放射24は、光学フィルタ50によりフィルタされ、レンズ60によって集光されてから光子検出器70によって検出されるために送られる。光子検出器70は適切な光検出器であれば任意のもので良いが、1つまたは複数の単一光子を測定および/または算出できる光検出器であれば好ましい。検出および/または算出された光子の測定値を読み出すためのインターフェイスが設けられるように、パーソナルコンピュータなどのコンピュータ80が光子検出器70に接続されている。図1に示すように、誘電体媒質(すなわち、溶液S)内における蛍光分子の放出特性は、より高い指数の誘電本体Bに近い際に変化する。特に、より高い指数の誘電本体Bへ伝播される蛍光放射の大部分を放出するのは、主に境界面SB近傍の分子である。光導波路42の先端部44に与えられ、導波路の表面近くの外部空間領域に限られた励起場の性質により、図5に示すように励起放射22によって優先的に励起されるのは、主にこの限定された外部領域46(「励起領域」または「検出容量」とも称される)内の分子である。これら選択的に励起された分子はまた、導波路と連結して戻り、導波路を逆に戻って蛍光放射を効率よく伝播する。この「励起領域」46内における優先励起および、蛍光の連結戻り伝播現象により、本発明の光学系10は、溶液中における極めて少量のアナライト分子を検出し、単分子を検出する感度にまで達している。励起領域46とは、光導波路42の先端部44表面から励起波長の2分の1以内に位置する試液および標的分子の部分であり、ここで波長λ+Ω.は、1つ又は複数の標的分子Tの放出する蛍光戻り放射の波長である。
【0012】
本発明のこの選択的な伝播の特徴は、(i)光ファイバの遠距離場における発色団によって発生した蛍光、(ii)試料液の自家蛍光、および(iii)光変換器40自体のガラス部品に発生するレイリー散乱およびラマン散乱による自家蛍光、などのバックグラウンド信号が常に発生し、連続的なバックグラウンドノイズを引き起こしていたが、光導波路のガラス面に十分に近い標的分子Tだけが蛍光バーストを検出することに貢献するという、また別の利点を備えている。図4は、本発明に従って構成された系10において、バックグラウンド信号と容易に識別可能な標的分子(すなわち、分子ビーコン)による多様な単分子蛍光バーストを示す。導波路先端部のガラス面に十分近い(すなわち、d<λ/2)これらの標的分子だけが、これら蛍光バーストを発生する。当業者は、本発明の光学系10によって、単分子の引き起こす蛍光バーストの観察を、極めて簡易で柔軟な方法で蛍光相関分光法に用いることが可能になったことを理解するであろう。図3に、本発明による光導波路42の端部を構成するための5つの異なる実施形態を示す。図3(a)に示した先端部の構成の実施形態において、導波路42は、励起エネルギー22が溶液Sの検出容量内で標的分子Tを励起するために通り出る劈開面を有している。図3(a)の実施形態において、検出容量は、希釈した溶液Sと比べて、ごく少量である。3(b)に示した先端部構成の実施形態図は、図3(a)に示した導波路の端部と同じ形状であるが、溶液Sは、対流攪拌される小さな容器または微小容器91に収容され、比較的限られた試料体積である。容器91には、対流を発生させるためのヒータ92が備えられている。図3(c)に示した先端部の構成の実施形態は、所定の長さを有するように覆いから解放されたファイバ心線47を備えている。図3(c)に示した先端部の構成は、閉じ込められた励起を維持しながらも検出容量が増す。図3(d)に示した先端部の構成実施形態は、図3(a)に示した先端部の構成および導波路42の劈開端部に位置し、検出容量に試液の微量流体の流れを供給する微量流体の流れシステム100とを兼ね備えている。最後に、図3(e)に示した先端部構成の実施形態は、光集積デバイス110の光導波路42をアレイ配列して構成されており、系10を小型化および並列化するのに特に適している。
【0013】
本発明による装置に係わる実施形態について述べたので、次に方法の実施形態について述べる。本発明による単分子アナライト検出方法の第1のステップは、(a)励起光22を発生させるための光源20と、(b)光源によって発生した励起光の第1の経路上に配置され、励起光をファイバアライナ30へ導くダイクロイックミラー25と、(c)ファイバアライナによって光源に連結され、第1の誘電体指数を有する誘電材料で作られた光導波路42を備える光変換器40と、(d)蛍光戻り放射24を受信するために配置された光子検出器70と、を備える光学系10などの単分子アナライト検出装置を提供することを含む。第1のステップはまた、第1の誘電体指数より低い第2の誘電体指数を有し、1つまたは複数の標的分子Tを含み、光導波路の先端部が液中に配置されている試液Sを備えることも含む。試液Sは適切な容器90または91内に入れてもよい。方法の第2のステップにおいて励起光22は光源20によって発生し、図3に示したように、試液中に配置された光導波路42によって光導波路の先端部を出るまで伝播される。次いで励起光は、溶液S中の1つまたは複数の標的分子Tを励起する。第3のステップにおいて、1つまたは複数の励起された標的分子は、同一の光導波路42を用いて、第2の経路に沿って光子検出器70へ伝播される蛍光戻り放射24を引き続き発生させる。第3のステップの一部として、伝播戻り放射はフィルタ50でフィルタされ、レンズ60で集光されてから光子検出器70に到達してもよい。第4のステップにおいて、光子検出器70は伝播された蛍光戻り放射の光子を検出および/または算出する。第5のステップにおいて、光子検出器70は信号を、検出および/または算出した光子の測定値を読み出しおよび/または表示する読み出しインターフェイスを提供するパーソナルコンピュータなどのコンピュータ80に送信する。換言すると、本発明の単分子アナライト検出の方法は、光源と、光導波路として役割を果たす1つまたは複数の光ファイバと、光ファイバアライナ30などの1つまたは複数の光結合装置と、光子検出器70などの単一光子計数器、およびコンピュータ80のデータ収集ボードとを備える装置10などの光学系を設定することを含む。設定ステップはまた、導波路ガラスファイバの劈開端部を、標的分子Tを含有する試液S中に浸す工程を含む。光源20は、光変換器の光導波路のガラスファイバに連結されており、標的分子Tなどのフルオロフォアのための励起エネルギーを発生させる。光導波路42は、励起光用と励起フルオロフォアにより放出された蛍光信号(すなわち、戻り放射)用との両方に対し、光導波路としての役割を果たす。励起された標的分子は、蛍光信号を放出し、導波路42の1本または複数の光ファイバと連結して戻り、導波路の他端に伝播され誘導される。この伝播された蛍光信号は、次いで光子検出器70などの光子計数器に投影される。光子の算出率は、溶液S中の標的分子Tの濃度に従って変化し、光ファイバの先端部付近を通る個々の分子は、図4に示したように、対応する蛍光バーストによって検出される。図4に本発明の光導波路を介して記録された蛍光信号の軌跡を示す。導波路ファイバの先端部で検出容量内を通る単分子または複数の分子に相応する、蛍光エネルギーのスパイクまたはバーストが示されている。単分子蛍光バースト(P)は、溶液Sおよび光学系10が本来備えているバックグラウンド蛍光(G)を容易に識別できる。光導波路を用いた単分子検出/感度と、遠隔測定技術との組み合わせは、この分野において新規であることを、蛍光技術の当業者は充分に理解するであろう。より高い誘電率(すなわち、ガラスと水の境界面)を有する境界面近傍の分子の特定放射パターンを活用する近接場/遠距離場の識別によって単分子の検出が可能となった。蛍光は導波路によって伝播された励起光を介して励起されると同時に、導波路は、近接場識別法を用いて、励起されたアナライト分子の放出する蛍光戻り放射を集める。
【0014】
本発明による方法および装置の実施形態は、固定された核酸プローブまたは分子スイッチを組み合わせて作動させるように特に考案された。分子ビーコンのような分子スイッチは、特定の標的分子と結合するとすぐコンフォメーション変化を起こす。(参照チャギ(Tyagi)およびクラマー(Kramer)、ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)、第14巻、303−308頁、1996年)フルオロフォアおよびクエンチャーの存在のために、このコンフォメーション変化は、高い感度で検出可能な光信号に変換される。さらに、標識され、固定されたDNAプローブは標的を標識し、余分なものを連続して洗浄することとなる。近接場の光検出方法である本発明の単分子アナライト検出方法と、導波路に直接連結される分子スイッチとの組み合わせは、現在の技法に比べさらに速く、より詳細に、より感度の高い方法で行うことが可能となる。
【0015】
本発明は、何ら特定の固定された核酸プローブまたは特定分子スイッチとの組み合わせを制限するものではない。ペプチドおよびたんぱく質の検出をするための分子スイッチや、その他観察対象分子など、どのようなタイプの固定された核酸プローブまたは分子スイッチでも使用することができる。種々の分子スイッチとの組み合わせが可能な本発明による方法および装置に係わる実施形態において、この技法は極めて柔軟であり、他の問題に適応することができる。
【0016】
上述の単分子アナライト検出方法はまた、前述のように並列化させることにより、異なる病原体または他の分子らを同時に平行して検査することに利用できる(図3(e)参照)。前述し、図3(e)に示したように、並列化の実施が可能な本発明は、確定的な診断を下すのに必要な時間をさらに減らすために、本発明を標準的なスクリーニング手法に利用できるので、本発明の極めて重要な特徴となっている。
【0017】
さらに、図3(a)から3(e)に示した提案されたセンサ先端部の構成は、マルチセンシング光学系の改良と、ベンチや、ベッドはもとより、検出用途以外など研究室以外での使用に対する安定性とを一層高める小型化が可能である。最後に、現時点における最新式の蛍光アナライト分子検出技術では、励起光を標的分子へ伝播し、かつ、蛍光バックグラウンド放射を検出センサへ伝播するために、同一の光ファイバ(すなわち、同一の光導波路)で遠隔測定に用いる近接場をうまく利用できないが、本発明による方法および装置に係わる実施形態は全てこの特徴を備えていることを当業者は理解するであろう。さらに、先行技術の技術では、自家蛍光、光ファイバ自体が生成するレイリー散乱およびラマン散乱、および生体試料からの強すぎる自家蛍光のためにバックグラウンドノイズの影響を受けて信号が雑音比で損なわれ、それによって検出感度が限られていた。従って、標的分子が放出した近接場信号を同時に利用して、励起光エネルギーを測定用試料に伝播し、かつ蛍光信号を収集することを、全く同一の光導波路ファイバで行うのは、先行技術では事実上不可能である。しかし、本発明の方法および装置の実施形態は、適切に構成された光学系10はもとより、好適な励起波長および波長シフトの蛍光技術を用いている。特に、光変換器用の特殊ガラスの性質(すなわち、試液の指数より高い誘電体指数を有する)と、特殊フィルタ50を用いた組み合わせにより、先行技術の方法および装置では限界であったバックグラウンドノイズ問題を本発明は克服している。以上、いくつかの具体例について本発明について述べたが、添付された特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲内であれば、追加、削除、代用、修正および改良できることを、当業者は理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】より高い指数の誘電本体近傍の誘電性の媒質内における、蛍光分子の放出特性の変化の絵画描写を示す図。(先行技術)。
【図2】本発明による単分子アナライト検出装置の実施形態の概略を説明する図。
【図3】図2における領域Aの拡大図であり、種々の光変換器の末端または先端部、およびその試料体積との関係を具体例で示し、 (a)希釈した試料体積内に配置された、劈開ファイバ先端部を示す図。 (b)対流攪拌を伴う、限られた試料体積内に配置された劈開ファイバ先端部を示す図。 (c)希釈した試料体積内に配置された、覆いから解放されたファイバ心線の光ファイバを示す図。 (d)劈開ファイバ先端部とマイクロ流体サンプルシステムの組み合わせを示す図。 (e)希釈した試料体積内で用いるために光集積回路を用いた劈開ファイバ先端部の並列化を示す図。
【図4】本発明による光学系の光導波路を介して記録された蛍光信号のパターンを示すグラフ(G=バックグラウンド;P=蛍光バースト)。
【図5】本発明による励起領域または検出容量を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の経路上で励起光を発生させるために配置された光源と、
(b)前記光源によって発生した励起光の第1の経路上に配置され、励起光をファイバアライナに導くために設けられたダイクロイックミラーと、
(c)前記ファイバアライナによって前記光源に連結され、第1の誘電体指数を有する誘電材料で作られた光導波路を備えた光変換器と、
(d)蛍光戻り放射を受信するために配置された光子検出器と、
(e)前記第1の誘電体指数より低い第2の誘電体指数を有し、容器内に配置されると共に1つまたは複数の標的分子を含む試液であって、前記光導波路の先端部が試液中に配置され、励起光が前記光源によって発生し、光導波路によって伝播されて前記先端部を出た際、1つまたは複数の標的分子が前記励起光によって励起される試液と、
を備える単分子アナライト検出装置であって、
(f)前記光導波路が、1つまたは複数の励起された標的分子によって発生した蛍光戻り放射を伝播された前記蛍光戻り放射を検出する前記光子検出器へ第2の経路に沿って伝播するために設けられた単分子アナライト検出装置。
【請求項2】
前記光子検出器が、1つの励起された標的分子から伝播された蛍光戻り放射を検出する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
伝播された蛍光戻り放射が、第1の波長を有し、前記光導波路の前記先端部から第1の波長の2分の1以内である前記試液の領域内に位置する励起された標的分子から主に発生する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記光導波路が、励起光の前記第1の経路、および伝播された蛍光戻り放射の前記第2の経路の一部を共に提供する請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記ダイクロイックミラーが、伝播された蛍光戻り放射の前記第2の経路上にも配置されている請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の経路上に配置され、前記蛍光戻り放射をフィルタするフィルタをさらに備える請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第2の経路上に配置され、前記光子検出器によって検出するために前記蛍光戻り放射を集光するレンズをさらに備える請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記光子検出器から信号を受信するために接続され、前記蛍光戻り放射の光子の検出値を読み出すためのインターフェイスを提供するコンピュータをさらに備える請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記光子検出器が、1つの励起された標的分子から伝播された蛍光戻り放射を検出し、前記コンピュータが、前記1つの励起された標的分子によって発生する光子の検出値を読み出す請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記導波路の前記先端部が劈開構成を有する請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記導波路の前記先端部が、所定の長さまで自由に延在するように構成されたファイバ心線を有する請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記導波路の前記先端部が、光集積デバイスの並列配列を形成する複数の光ファイバを含む請求項9に記載の装置。
【請求項13】
(a)i.励起光を発生させるための光源と、
ii.前記光源によって発生した励起光の第1の経路上に配置され、励起光をファイバアライナへ導くダイクロイックミラーと、
iii.前記ファイバアライナによって前記光源に連結され、第1の誘電体指数を有する誘電材料で作られた光導波路を備える光変換器と、
iv.蛍光戻り放射を受信するために配置された光子検出器と、
を備える、単分子アナライト検出装置を提供するステップと、
(b)前記第1の誘電体指数より低い第2の誘電体指数を有し、1つまたは複数の標的分子を含み、前記光導波路の先端部が中に配置される試液を提供するステップと、
(c)前記光源を用いて励起光を発生させ、前記光導波路を用いて、第1の経路に沿って前記励起光を前記試液中へ伝播するステップと、
(d)前記励起光を用いて前記試液中の1つまたは複数の標的分子を励起するステップと、
(e)前記1つまたは複数の標的分子を用いて蛍光戻り放射を発生させ、次いで、前記戻り放射を、前記光導波路を用いて前記戻り放射を検出する前記光子検出器に、第2の経路に沿って伝播するステップと、
を備える単分子アナライト検出方法。
【請求項14】
前記第2の経路上に配置されたフィルタを用いて伝播された前記戻り放射をフィルタするステップをさらに備える請求項13に記載の方法。
【請求項15】
伝播された前記戻り放射が前記光子検出器に到達する前にレンズを用いて前記戻り放射を集光するステップをさらに備える請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記光子検出器によって検出された前記伝播された蛍光戻り放射の光子を算出するステップをさらに備える請求項15に記載の方法。
【請求項17】
検出され、算出された光子の測定値を読み出して表示する読み出しインターフェイスを提供するコンピュータに信号を送信するステップをさらに備える請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記光導波路によって伝播された蛍光戻り放射が第1の波長を有し、前記光導波路の前記先端部から前記第1の波長の2分の1以内の前記試液の領域内に位置する、1つまたは複数の標的分子によって発生した蛍光戻り放射を実質的に備える請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−510158(P2008−510158A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526601(P2007−526601)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002444
【国際公開番号】WO2006/018706
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(507047492)ユニバーシティ オブ バーゼル (2)
【Fターム(参考)】