説明

単層型電子写真感光体およびその製造方法

【課題】有機感光層と導電性基体の密着強度に優れ、かつ電気特性、画像特性にも優れた単層型電子写真感光体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、その表面のイオン化ポテンシャル(Ip)が4.2〜5.0eVである円筒状導電性基体と、当該円筒状導電性基体の表面に形成された、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層と、を備える単層型電子写真感光体である。円筒状導電性基体は、図4に示す範囲1の条件で温純水に浸漬し表面処理されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真技術を応用した、プリンタ、複写機等の電子写真装置に用いられる単層型電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を応用したレーザープリンタ、FAX、デジタル複合機などの電子写真装置には、有機感光体が搭載されているものが広く普及している。これは、シリコンやセレニウムを主材料とした無機感光体に比べ、コスト、易廃棄性の面から有機感光体に利点があるためである。
【0003】
有機感光体(以下「感光体」とも称する。)はさらに負帯電型と正帯電型に大別される。負帯電型は複数の層に機能を分離して持たせる機能分離型構造(以下「積層型」と称する。)が一般的であり、正帯電型は全ての機能を単一層に持たせる単層型構造が主流である。
【0004】
有機感光体は、有機材料を有機溶剤に溶解または分散してなる溶液に円筒状導電性基体を浸漬し、それを引上げ、乾燥させることによって有機感光層を形成し、製造される。円筒状導電性基体の材料にはアルミニウム等が用いられている。
【0005】
感光体は、電子写真装置内部に回転可能に搭載され、様々な機械的ストレスを受ける。このため基体表面と有機感光層の界面における密着性が問題となり、有機感光層は使用寿命の期間において、当該ストレスに耐えうる強度を有することが求められる。
【0006】
機械的ストレスは、電子写真装置内で画像を形成する際実行されるプロセスにおいて、感光体に接触する各種部材から受けるものである。部材の例として、帯電ローラー、現像ローラー、トナー、転写ローラー、用紙、クリーニングブレード等が挙げられる。
【0007】
機械的ストレスに対する感光体の強度の意味として2つ挙げることができる。
1つは有機感光層そのものの強度である。有機感光層は、プロセス部材からの応力に対し、変形あるいは破壊しないことが求められる。変形あるいは破壊は、画像に顕れ、感光体品質として重大な問題となる。
【0008】
もう1つは、基体と感光層を含む層構造における、各層問の密着強度である。感光体は、電子写真装置内の回転動作において、上述の機械的ストレスを断続的に受ける為、密着強度が弱い場合は層の界面で感光層が剥離してしまう。層の剥離が一部でも発生すると、感光体はその部分で画像を形成できなくなり、重大な品質問題となる。また、層の剥離には及ばないまでも、それに準ずるような状態になると、電気特性を悪化させてしまい、画像の品質を維持できなくなる。感光体は、安定した電気特性を保持するため、各層、各界面に渡ってマイナス電荷(電子)あるいはプラス電荷(ホール)が移動できるよう、各層が強固に密着している必要がある。
【0009】
上述の通り、有機感光体の層構造には積層型と単層型があり、積層型の場合は基体と界面を形成する、最下層の下引き層に密着性を向上する機能を持たせている。具体的には、下引き層の結着樹脂をナイロン系樹脂や熱硬化性樹脂にして対策している。
【0010】
一方、単層型の場合、基本的に単一の層が全ての機能を担う為、当該層を構成する結着樹脂が密着性、電気特性、画像特性、電荷発生材の分散性、機械的磨耗性、耐フィルミング性及び生産性など複数の評価項目を満足することが求められる。
【0011】
この目的で一般的に使用されるポリカーボネート樹脂は、電荷発生材の分散性、機械的磨耗性、耐フィルミング性の点で非常に優れた材料であるが、密着強度に難点がある。
特許文献1(特許請求の範囲、段落0088参照)には、ポリカーボネート系結着剤にポリエステル系樹脂を添加することで、密着強度が向上することが示されている。しかしながら、この場合、電荷発生材の分散性、機械的磨耗性、耐フィルミング性の点で問題が生じ得る。
【0012】
また、特許文献2には、支持体と感光層との間に中間層を設けることにより密着強度が向上することが示されている。しかしながら、この場合も、電気特性、画像特性、コストの点で問題が生じ得る。
【0013】
このように特許文献1、2に開示された感光体は、密着強度以外の特性、あるいはコストの点で十分に満足できる結果を得られておらず、より簡便に、密着強度を含む特性において優れた単層型電子写真感光体を提供する方法が必要とされている。
【0014】
また、特許文献3には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状基体の外表面を脱脂洗浄し、続いて温度60℃ないし90℃,比抵抗1MΩ以上の温純水浴中に浸漬して水和酸化皮膜を形成し、さらに温度100℃ないし150℃で5分ないし30分加熱処理した後、その表面に有機系光導電性材料を含んでなる感光層を形成する電子写真用有機感光体の製造方法が記載されている(特許請求の範囲、段落0014〜0020参照)。しかしながら、同文献では結着樹脂としてポリカーボネート樹脂を含む有機感光層と導電性基体との密着強度については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3262998号公報
【特許文献2】特許第3791227号公報
【特許文献3】特開平7−295241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の表面に有機感光層を備える単層型電子写真感光体であって、対機械的ストレスに優れた感光体を提供することにある。さらに、本発明の目的は、中間層またはアルマイト層の設置、添加材の配合等をすることなく、有機感光層の機械強度および有機感光層と導電性基体の密着強度の両方に優れ、かつ電気特性、画像特性にも優れた単層型電子写真感光体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る単層型電子写真感光体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、その表面のイオン化ポテンシャル(以下「Ip」とも称する。)が4.2〜5.0eVである円筒状導電性基体と、当該円筒状導電性基体の表面に形成された、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層と、を備えることを特徴とする。
【0018】
したがって、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、その表面のIpが4.2eV以上5.0eV以下である円筒状導電性基体の表面に、密着して形成されている。
【0019】
さらに、請求項2に係る単層型電子写真感光体は、請求項1において前記イオン化ポテンシャルが4.5〜5.0eVであることを特徴とする。
また、請求項3に係る単層型電子写真感光体は、請求項1において前記円筒状導電性基体の全ての表面が、図4に示す範囲1に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬され、表面処理されてなることを特徴とする。
【0020】
したがって、前記円筒状導電性基体は、図4の範囲1の条件で表面処理されることにより、その表面のIpが4.2eV以上5.0eV以下となっている。
さらに、請求項4に係る単層型電子写真感光体は、請求項2において前記円筒状導電性基体の全ての表面が、図4に示す範囲2に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬され、表面処理されてなることを特徴とする。
【0021】
したがって、前記円筒状導電性基体は、図4の範囲2の条件で表面処理されることにより、その表面のIpが4.5eV以上5.0eV以下となっている。
また、請求項7に係る単層型電子写真感光体の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面を、図4に示す範囲1に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬する工程と、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層を前記円筒状導電性基体の表面に形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0022】
したがって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面は図4の範囲1の条件で浸漬する工程によりその表面を処理され、この表面にポリカーボネート樹脂を含む有機感光層が密着して形成される。
【0023】
また、請求項8に係る単層型電子写真感光体の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面を、図4に示す範囲2に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬する工程と、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層を前記円筒状導電性基体の表面に形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
したがって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面は図4の範囲2の条件で浸漬する工程によりその表面を処理され、この表面にポリカーボネート樹脂を含む有機感光層が密着して形成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、その表面のIpが4.2〜5.0eVである円筒状導電性基体と、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層とを組み合わせたことにより、密着強度、電気特性および画像特性のすべてに優れる単層型電子写真感光体を提供できる。さらに、Ipを4.5〜5.0eVとすることにより、優れた電気特性および画像特性を維持したまま、密着強度を向上できる。
【0026】
また、本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面を図4の範囲1の条件で浸漬する工程を備えることにより、その表面のIpを4.2〜5.0eVとし、この表面にポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層を形成する工程を加えることで、簡便で、コストの増大や生産性の低下を招くことなく、密着強度、電気特性および画像特性のすべてに優れた単層型電子写真感光体の製造方法を提供できる。
【0027】
さらに、条件を図4の範囲2とする工程により、円筒状導電性基体の表面のIpは4.5〜5.0eVとなり、密着強度がさらに優れる単層型電子写真感光体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る単層型電子写真感光体を示す要部断面模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る単層型電子写真感光体の製造方法を表すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る単層型電子写真感光体を示す要部断面模式図である。
【図4】温純水を用いて円筒状導電性基体を処理する条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の図面において、同じ機能を有する部材には同一の符号を付した。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る単層型電子写真感光体を示す要部断面模式図であり、図2は、第1の実施の形態に係る単層型電子写真感光体の製造方法を表すフローチャートである。
【0030】
本発明の単層型電子写真感光体1は、円筒状導電性基体10の表面に直接形成された有機感光層20を備える。有機感光層20は、電荷発生機能と電荷輸送機能とを併せ持つ1つの層からなる単層型である。
【0031】
円筒状導電性基体10は、感光体の電極としての役目と同時に他の各層の支持体となる。材質的にはアルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましく、特にはA6000系アルミニウム合金A6063(JIS H 4040:1999)が好ましい。円筒状導電性基体10の表面のイオン化ポテンシャル(Ip)は4.2〜5.0eVであり、好ましくは4.5〜5.0eVである。
【0032】
なお、導電性基体の形状は円筒状のほか板状、フィルム状のいずれでもよい。また、円筒状導電性基体10の表面は切削加工または研磨加工により処理されていることが望ましい。
【0033】
有機感光層20は、主成分として結着樹脂、電荷発生材、ホール輸送材、電子輸送材を含み、さらに必要に応じて添加剤を含む。
結着樹脂としては、重量平均分子量1万〜10万、より好ましくは2万〜5万のポリカーボネート樹脂で、ビスフェノールA型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型−ビフェニル共重合体、ビスフェノールZ型−ビフェニル共重合体、ビスフェノールZC型、ビスフェノールC型等のポリカーボネート樹脂があげられる。種類の異なるポリカーボネート樹脂を2種以上混合して用いてもよいし、また、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。結着樹脂の含有量は有機感光層20の固形分に対し40重量%〜60重量%である。
【0034】
電荷発生材としては、フタロシアニン系顔料を用いることができる。フタロシアニン系顔料としては、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンが好適である。電荷発生材の含有量は、有機感光層20の固形分に対し0.7重量%〜2重量%である。
【0035】
かかるフタロシアニンには様々な結晶形態が存在し、X型無金属フタロシアニン、τ型無金属フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、アモルファスチタニルフタロシアニン、特開平8−209023号公報中に記載のCuKα:X線回折スペクトルにてブラッグ角2θが9.6°を最大ピークとするチタニルフタロシアニンなどが知られている。中でも、例えば、特開2001−228637号公報等に記載されているX型無金属フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、および、特開2001−330972号公報に記載された発明に係るチタニルフタロシアニンなどがより好ましい。
【0036】
ホール輸送材としては、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、ピラゾロン化合物、オキサジアゾール化合物、オキサゾール化合物、アリールアミン化合物、ベンジジン化合物、スチルベン化合物、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等を用いることが可能であり、これら正孔輸送物質を1種または2種以上で組み合わせて使用することができる。特にはスチリル化合物が好ましい。ホール輸送材の含有量は、有機感光層20の固形分に対し20重量%〜40重量%である。
【0037】
電子輸送材としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロム無水コハク酸、無水フタル酸、3−ニトロ無水フタル酸、4−ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、フタルイミド、4−ニトロフタルイミド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル、ブロマニル、o−ニトロ安息香酸、トリニトロフルオレノン、キノン、ベンゾキノン、ジフェノキノン、ナフトキノン、アントラキノン、スチルベンキノン、アゾキノン等の電子受容物質、電子輸送物質を使用することができる。これら電子受容物質や電子輸送物質は、1種または2種以上で組み合わせて使用することが可能である。電子輸送材の含有量は、有機感光層20の固形分に対し10重量%〜25重量%である。
【0038】
有機感光層20中には、耐環境性や有害な光に対する安定性を向上させる目的で、酸化防止剤や光安定剤等の劣化防止剤を含有させることもできる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0039】
また、有機感光層20中には、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。
【0040】
さらに、有機感光層20中には、摩擦係数の低減や潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物や、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、または、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂粒子やシリコーン樹脂微粒子、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂等のフッ素を含有するポリマーやシリコンを含有するポリマー等を含有させてもよい。
【0041】
有機感光層20の膜厚は、実用的に有効な表面電位を維持するために、3〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
次に本発明の単層型電子写真感光体の製造方法を説明する。
【0042】
本発明の単層型電子写真感光体の製造方法は、図2に示すように、温純水を用いて導電性基体表面を処理する工程(S1)、すなわち、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体10を65〜75℃の温純水に浸漬する工程と、この導電性基体表面に有機感光層を形成する工程(S2)、すなわち、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層20を前記円筒状導電性基体10の表面に形成する工程と、をこの順に少なくとも含む。
【0043】
導電性基体表面の処理をする工程(S1)では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体10を、その表面のIpが4.2〜5.0eVとなるように、図4の範囲1で示す温度および浸漬時間の条件で温純水に浸漬する。さらに好ましくは、図4の範囲2で示す温度および浸漬時間の条件であり、このときイオン化ポテンシャルは4.5〜5.0eVになる。イオン化ポテンシャルは光電子分光法により測定される。
【0044】
図4において範囲1で示す条件は、横軸に温純水の温度T(℃)を、縦軸に浸漬時間Dt(秒)をとったとき(T,Dt)=(65,35)、(65,110)、(75,15)、(75,90)に頂点を有する平行四辺形の内側の領域に含まれる温度および浸漬時間であり、さらには、下記(i)〜(iii)の数式により表される領域を満たすものである。
【0045】
【数1】

【0046】
また、同図において範囲2で示す条件は、(T,Dt)=(65,50)、(65,110)、(75,30)、(75,90)に頂点を有する平行四辺形の内側の領域に含まれる温度および浸漬時間であり、さらには、下記(iv)〜(vi)の数式により表される領域を満たすものである。
【0047】
【数2】

【0048】
このような温純水処理により円筒状導電性基体10の表面のイオン化ポテンシャルを所望の数値範囲に制御し、密着強度、電気特性及び画像特性に優れる感光体を作製することができる。
【0049】
この工程(S1)ではさらに次の処理を行ってもよい。円筒状導電性基体10の温純水処理の前に、その表面をアルカリ洗剤等により洗浄してもよい。また、温純水処理の後に、円筒状導電性基体10を一旦冷却した後、基体に残留した水分を除去する目的で温度50〜80℃、時間5〜30分の条件で加熱処理してもよい。
【0050】
温純水処理により表面に生成した水和酸化皮膜は、バイヤライト(Al23・3H2O)であり、これを約90℃以上の高温加熱処理するとより安定した皮膜であるベーマイト(Al23・H2O)に変化することが知られている。感光層との密着強度を向上させるという観点では、基体表面を積極的に安定化させることはない為、ベーマイト化が促進されない温度での加熱処理を実施する。
【0051】
有機感光層の形成をする工程(S2)では、ポリカーボネート樹脂を含む上記構成材料を適当な溶剤とともに溶解分散させて塗布液を用意し、公知の塗布方法にて円筒状導電性基体10上に塗布し、乾燥して溶剤を除去すればよい。
【0052】
かかる溶剤としては、主としてメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジソキソラン、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等の環状または直鎖状のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、リグロイン等の鉱油、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素類などが用いられ、これらを2種以上混合して用いてもよい。
【0053】
上記塗布液の分散溶解方法としては、主としてペイントシェーカー(ペイントコンディショナー)、ボールミル、ダイノーミルなどのビーズミル(サンドグラインダー)、超音波分散等の公知の方法を用いることができ、また塗布方法としては、主として浸漬塗布法、リングコーティング法(シールコート)、スプレー塗布法、バーコーティング法、ブレードコーティング法等の公知の方法を用いることができる。
【0054】
また、上記乾燥における乾燥温度および乾燥時間は、使用溶媒の種類や製造コスト等に鑑みて設定することができるが、好ましくは乾燥温度が室温以上200℃以下で、乾燥時間10分以上2時間以下の範囲内で設定する。より好ましくは、乾燥温度が溶媒の沸点から沸点+80℃の範囲内である。また、この乾燥は通常、常圧または減圧下にて、静止あるいは送風下で行う。
【0055】
このようにして本発明の単層型電子写真感光体が製造される。
本発明の単層型電子写真感光体は、公知の電子写真プロセスにて使用可能である。すなわち、帯電、露光、現像、転写、定着といったプロセスを有する一般的な電子写真プロセスにて好適に用いることができ、これらの電子写真プロセスを有する複写機、プリンター、ファックス等に使用することができる。
【0056】
帯電プロセスとしては、感光体を正極に帯電する正帯電プロセスと、負極に帯電する負帯電プロセスとが存在する。本発明の感光体は、負帯電プロセスでの使用も可能であるが、正帯電プロセスで特に高い感度を示すため、正帯電プロセスで使用することが好ましい。
【0057】
帯電プロセスにおける帯電器としては、コロトロン、スコロトロンを用いた非接触の帯電器と、ローラー形状やブラシ形状で感光体に接触(あるいは近接)して帯電を行う帯電器が存在する。本発明の感光体は、どちらの帯電器を用いたプロセスでも使用可能である。
【0058】
露光プロセスに用いられる光源としては、通常、感光体が感度を有する波長域を持つ光源が使用され、ハロゲンランプや蛍光灯などの白色光や、レーザー光、LED(Light Emitting Diode)光などが好適である。特に、電荷発生材としてフタロシアニンを用いた場合には、600〜800nm付近の半導体レーザー光やLED光がより好適である。また、電荷発生材として450nm以下に吸収を有する化合物を用いた場合は、450nm以下の半導体レーザー光やLED光を用いることも可能である。
【0059】
現像プロセスとしては、主として、乾式トナーを用いた乾式現像方式と液体トナーを用いた液体現像(湿式現像)方式とがあり、本発明の感光体は、両方の方式で使用可能である。なお、液体現像方式の場合には、液体トナーに含まれる溶剤に対し、感光体の成分が溶け出さないような公知の手法を採ることが望ましい。
【0060】
また、現像プロセスには、露光部分にトナーを現像する反転現像方式と非露光部分にトナーを現像する正転現像方式とがあるが、特に、電荷発生材としてフタロシアニンを用いた場合には、反転現像方式のプロセスで用いることが好ましい。
【0061】
公知の電子写真プロセスには、感光体に残存する未転写トナーを除去したり散らしたりする目的で、転写プロセスの後にクリーニングプロセスを有するものと、これを有していないクリーナーレスのものが存在する。本発明の感光体は、両方のプロセスで使用可能である。
【0062】
また、公知の電子写真プロセスには、感光体に残存する電荷を除去したり、表面電位を平均化する目的で、転写プロセスの後に、露光による除電プロセスを有するものと、これを有していないものが存在する。本発明の感光体は、両方のプロセスで使用可能である。
(第2の実施の形態)
図3は、第2の実施の形態に係る単層型電子写真感光体を示す要部断面模式図である。第2の実施の形態に係る単層型電子写真感光体は第1の実施の形態の変形例であり、共通するところが多いので、以下、共通部分については説明を省略し、異なる部分について説明する。なお、第1の実施の形態で説明した要素と同じ要素には同じ符号を付している。
【0063】
第2の実施の形態に係る単層型電子写真感光体1は有機感光層20の表面に保護層30を形成したものである。
保護層30は、耐刷性を向上させること等を目的として設けることができ、結着樹脂を主成分とする層や、アモルファスカーボン、アモルファスケイ素−炭素等の気相成長法によって成膜された無機薄膜や、シリカやアルミナの蒸着等によるコーティング膜などからなる。
【0064】
結着樹脂としては、上記有機感光層20に用いられるものや、シロキサン樹脂などの3次元架橋樹脂などを用いることができる。また、結着樹脂中には、導電性の向上や、摩擦係数の低減、潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物や、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、または、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂粒子やシリコーン樹脂微粒子、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂等のフッ素を含有するポリマーやシリコンを含有する網目構造のポリマーを含有させてもよい。
【0065】
また、電荷輸送性を付与する目的で、上記有機感光層20に用いられるホール輸送材、電子輸送材を含有させたり、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。
【0066】
保護層30の膜厚は、有機感光層20の機能を損ねない範囲で、通常、0.1〜50μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜10μmである。また、保護層は、複数層積層させてもよい。
【0067】
保護層30は、有機感光層20を形成する工程(S2)の後、続けて上記構成材料を適当な溶剤とともに溶解分散させて塗布液を作製し、公知の塗布方法にて円筒状導電性基体10上に塗布し、乾燥して溶剤を除去することにより形成される。
(実施例1)
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
円筒状導電性基体10として、表面に切削加工を施したφ30mm長さ260mmのアルミニウム素管(材料:A6063)を用意し、これをアルカリ洗剤(カストロール450:カストロール株式会社 濃度2%、常温)を用い洗浄した後、65℃の温純水に浸漬し、10mm/秒の速度で温純水浴槽から引上げた。この際、円筒状導電性基体10をその長さ方向が温純水液面に対して略垂直となるよう突入させ、引上げる為、その最下端から最上端のそれぞれの位置で温純水への浸漬時間が異なる。実施例1−1として浸漬時間が35秒となる帯状の領域を特定し、後述のIp、密着強度、電気特性、画像特性及び耐フィルミング性の評価を実施した。同様にして、実施例1−2、1−3、1−4は、浸漬時間がそれぞれ50秒、70秒、110秒となる帯状の領域を評価したものである。
【0069】
その後、アルミニウム素管を常温まで冷却した後、加熱炉において60℃、30分間の処理をした。この加熱処理の目的は温純水処理によって基体表面に残留した水滴を除去することである。
【0070】
次に、下記の材料を用意し、溶剤に結着樹脂としてポリカーボネート樹脂を溶かし、さらに電荷発生材、正孔輸送材および電子輸送材を分散した感光層塗布液を作製した。なお、材料名の後ろに記載した濃度は、塗布液に対する割合を示す。
【0071】
溶剤:テトラヒドロフラン 75重量%
結着樹脂:下記式(1)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(分子量5万:三菱ガス化学株式会社 ユピゼータ PCZ−500) 11.5重量%
電荷発生材:X型無金属フタロシアニン 0.5重量%
正孔輸送材:下記式(2)で表されるスチリル化合物 9重量%
電子輸送材:下記式(3)で表されるアゾキノン化合物 4重量%
【0072】
【化1】

【0073】
この塗布液を上述のアルミニウム素管の表面に浸漬法によりフィルム状に塗布し、100℃、60分間、加熱、乾燥して溶剤を除去し、膜厚30μmの有機感光層20とした。
以上の工程により実施例1−1、1−2、1−3、1−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例1]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは実施例1と同様にして、比較例1−5、1−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例2)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒、100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは実施例1と同様にして、実施例2−1、2−2、2−3、2−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例2]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間条件を20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは実施例1と同様にして、比較例2−5、2−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例3)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒、90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは実施例1と同様にして、実施例3−1、3−2、3−3、3−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例3]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間条件を10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは実施例1と同様にして、比較例3−5、3−6の単層型電子写真感光体を作製した。
[比較例4]
ポリカーボネート以外の結着樹脂の例として、比較例4を以下のように行った。
【0074】
感光層塗布液の結着樹脂をポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社 バイロン290)に代えて感光層塗布液を作製し、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、60秒及び105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、4.8及び5.1eVである。)、実施例1と同様に、比較例4−1、4−2及び4−3の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例5)
ポリカーボネート樹脂の中で、別の型の例として、実施例5を以下のように行った。
【0075】
感光層塗布液の結着樹脂を下記式(5)の繰返し単位を有するビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社 ユーピロン S−3000)に代えて感光層塗布液を作製し、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間がそれぞれ35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipは4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例5−1、5−2、5−3及び5−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
【0076】
【化2】

【0077】
[比較例5]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例5と同様に、比較例5−5、5−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例6)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例5と同様に、実施例6−1、6−2、6−3及び6−4単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例6]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例5と同様に、比較例6−5、6−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例7)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例5と同様に、実施例7−1、7−2、7−3及び7−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例7]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例5と同様に、比較例7−5、7−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例8)
ポリカーボネート樹脂の中で、さらに別の型の例として、実施例8を以下のように行った。
【0078】
感光層塗布液の結着樹脂を下記式(6)の繰返し単位を有するビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂に代えて感光層塗布液を作製し、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間がそれぞれ35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipは4.2、4.6、4.8及び5.0eVである)、実施例1と同様に、実施例8−1、8−2、8−3及び8−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
【0079】
【化3】

【0080】
[比較例8]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例8と同様に、比較例8−5、8−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例9)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例8と同様に、実施例9−1、9−2、9−3及び9−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例9]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例8と同様に、比較例9−5、9−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例10)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例8と同様に、実施例10−1、10−2、10−3及び10−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例10]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例8と同様に、比較例10−5、10−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例11)
ポリカーボネート樹脂の、異なる分子量(低分子量)の例として、実施例11を以下のように行った。
【0081】
感光層塗布液の結着樹脂を、同じく下記式(7)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型であり、その分子量が2万のポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社 ユピゼータ PCZ−200)に代えて感光層塗布液を作製し、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間がそれぞれ35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipは4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例11−1、11−2、11−3及び11−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
【0082】
【化4】

【0083】
[比較例11]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例11と同様に、比較例11−5、11−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例12)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例11と同様に、実施例12−1、12−2、12−3及び12−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例12]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例11と同様に、比較例12−5、12−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例13)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである)、実施例11と同様に、実施例13−1、13−2、13−3及び13−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例13]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである)、実施例11と同様に、比較例13−5、13−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例14)
ポリカーボネイト樹脂の、さらに異なる分子量(高分子量)の例として、実施例14を以下のように行った。
【0084】
感光層塗布液の結着樹脂を、同じく下記式(8)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型であり、その分子量が8万のポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社 ユピゼータ PCZ−800)に代えて感光層塗布液を作製し、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間がそれぞれ35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例14−1、14−2、14−3及び14−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
【0085】
【化5】

【0086】
[比較例14]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例14と同様に、比較例14−5、14−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例15)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである)、実施例14と同様に、実施例15−1、15−2、15−3及び15−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例15]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例14と同様に、比較例15−5、15−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例16)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例14と同様に、実施例16−1、16−2、16−3及び16−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例16]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例14と同様に、比較例16−5、16−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例17)
感光層塗布液の材料配合比について、ポリカーボネート樹脂の比率が低い場合の例として、実施例17を以下のように行った。
【0087】
実施例1で使用した感光層塗布液に対し、材料の種類は同一とし、配合比を以下のように変更して感光層塗布液を作製した。
溶剤:テトラヒドロフラン 75重量%
結着樹脂:式(1)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(分子量5万) 8.5重量%
電荷発生材:X型無金属フタロシアニン 0.5重量%
正孔輸送材:式(2)で表されるスチリル化合物 11重量%
電子輸送材:式(3)で表されるアゾキノン化合物 5重量%
さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例17−1、17−2、17−3及び17−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例17]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例17と同様に、比較例17−5、17−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例18)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである)、実施例17と同様に、実施例18−1、18−2、18−3及び18−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例18]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例17と同様に、比較例18−5、18−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例19)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例17と同様に、実施例19−1、19−2、19−3及び19−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例19]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例17と同様に、比較例19−5、19−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例20)
感光層塗布液の材料配合比について、ポリカーボネート樹脂の比率が高い場合の例として、実施例20を以下のように行った。
【0088】
実施例1で使用した感光層塗布液に対し、材料の種類は同一とし、配合比を以下のように変更した塗布液を作製した。
溶剤:テトラヒドロフラン 75重量%
結着樹脂:式(1)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(分子量5万) 14.5重量%
電荷発生材:X型無金属フタロシアニン 0.5重量%
正孔輸送材:式(2)で表されるスチリル化合物 7重量%
電子輸送材:式(3)で表されるアゾキノン化合物 3重量%
さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例20−1、20−2、20−3及び20−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例20]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例20と同様に、比較例20−5、20−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例21)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例20と同様に、実施例21−1、21−2、21−3及び21−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例21]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例20と同様に、比較例21−5、21−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例22)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例20と同様に、実施例22−1、22−2、22−3及び22−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例22]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例20と同様に、比較例22−5、22−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例23)
感光層塗布液の材料について、異なる正孔輸送材を使用した場合の例として、実施例23を以下のように行った。
【0089】
実施例1で使用した感光層塗布液に対し、正孔輸送材を変更し、配合比を以下のようにした感光層塗布液を作製した。
溶剤:テトラヒドロフラン 75重量%
結着樹脂:式(1)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(分子量5万) 11.5重量%
電荷発生材:X型無金属フタロシアニン 0.5重量%
正孔輸送材:下記式(9)で表されるスチリル化合物 9重量%
電子輸送材:式(3)で表されるアゾキノン化合物 4重量%
【0090】
【化6】

【0091】
さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例23−1、23−2、23−3及び23−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例23]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例23と同様に、比較例23−5、23−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例24)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例23と同様に、実施例24−1、24−2、24−3及び24−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例24]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例23と同様に、比較例24−5、24−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例25)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例23と同様に、実施例25−1、25−2、25−3及び25−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例25]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例23と同様に、比較例25−5、25−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例26)
感光層塗布液の材料について、異なる電子輸送材を使用した場合の例として、実施例26を以下のように行った。
【0092】
実施例1で使用した感光層塗布液に対し、電子輸送材を変更し、配合比を以下のようにした感光層塗布液を作製した。
溶剤:テトラヒドロフラン 75重量%
結着樹脂:式(1)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(分子量5万) 11.5重量%
電荷発生材:X型無金属フタロシアニン 0.5重量%
正孔輸送材:式(2)で表されるスチリル化合物 9重量%
電子輸送材:下記式(10)で表されるジフェノキノン化合物 4重量%
【0093】
【化7】

【0094】
さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例26−1、26−2、26−3及び26−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例26]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例26と同様に、比較例26−5、26−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例27)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例26と同様に、実施例27−1、27−2、27−3及び27−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例27]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例26と同様に、比較例27−5、27−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例28)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例26と同様に、実施例28−1、28−2、28−3及び28−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例28]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例26と同様に、比較例28−5、28−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例29)
上述の実施例、比較例で使用した基体アルミニウム合金A6063に対し、異なるアルミニウム合金の場合の例として、実施例29を以下のように行った。
【0095】
実施例1で使用したアルミニウム素管に代えて、アルミニウム合金A3003(JIS H 4040:1999)の材料で作製された素管を用い、さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例29−1、29−2、29−3及び29−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例29]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例29と同様に、比較例29−5、29−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例30)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例29と同様に、実施例30−1、30−2、30−3及び30−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例30]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例29と同様に、比較例30−5、30−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例31)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例29と同様に、実施例31−1、31−2、31−3及び31−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例31]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例29と同様に、比較例31−5、31−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例32)
さらに異なるアルミニウム合金の場合の例として、実施例32を以下のように行った。
【0096】
実施例1で使用したアルミニウム素管に代えて、アルミニウム合金A5056(JIS H 4040:1999)の材料で作製された素管を用い、さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例32−1、32−2、32−3及び32−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例32]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例32と同様に、比較例32−5、32−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例33)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例32と同様に、実施例33−1、33−2、33−3及び33−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例33]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例32と同様に、比較例33−5、33−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例34)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例32と同様に、実施例34−1、34−2、34−3及び34−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例34]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例32と同様に、比較例34−5、34−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例35)
異なる型のポリカーボネート樹脂を混合した結着樹脂を用いる例として、実施例35を以下のように行った。
【0097】
実施例1で使用した感光層塗布液の結着樹脂(式(1)の繰返し単位を有するビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂)の半分量を式(5)の繰返し単位を有するビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂に置換し、感光層塗布液を作製した。
【0098】
さらに、アルミニウム素管を浸漬する温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が35秒、50秒、70秒及び110秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.6、4.8及び5.0eVである。)、実施例1と同様に、実施例35−1、35−2、35−3及び35−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例35]
温純水の温度を65℃とし、浸漬時間が30秒、115秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ3.9、及び5.1eVである。)、実施例35と同様に、比較例35−5、35−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例36)
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が25秒、40秒、60秒及び100秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.8及び5.0eVである。)、実施例35と同様に、実施例36−1、36−2、36−3及び36−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例36]
温純水の温度を70℃とし、浸漬時間が20秒、105秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.0、及び5.1eVである。)、実施例35と同様に、比較例36−5、36−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(実施例37)
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が15秒、30秒、50秒及び90秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.2、4.5、4.7及び5.0eVである。)、実施例35と同様に、実施例37−1、37−2、37−3及び37−4の単層型電子写真感光体1を作製した。
[比較例37]
温純水の温度を75℃とし、浸漬時間が10秒、95秒となる領域ができるよう引上げ速度を調整したほかは(Ipはそれぞれ4.1、及び5.1eVである。)、実施例35と同様に、比較例37−5、37−6の単層型電子写真感光体を作製した。
(評価)
表1〜12は、これらの実施例および比較例の各感光体について、円筒状導電性基体の表面のイオン化ポテンシャル(Ip)、基体と有機感光層の密着性、および感光体の電気特性と画像特性を評価し、まとめたものである。評価にあたっては、実施例、比較例で述べた通り、1つの感光体内の位置により温純水浸漬時間が異なる為、所望の浸漬時間となる帯状の領域を特定し、その特定部分に範囲を限定して評価を実施した。円筒状導電性基体の表面を温純水処理する際、1つの条件に対し、同時に試料を複数作製し、その内の1つを基体表面のイオン化ポテンシャル測定試料片作製に当て、測定した。さらに、同条件である他2つの基体に感光層を形成した後、1つを密着性評価に、1つを電気特性および画像特性評価に用いた。
【0099】
イオン化ポテンシャルは、温純水表面処理を施した後、所望の浸漬時間条件の位置を切り出し(試料片約20mm×20mm)、大気中光電子分光装置(AC−2(理研計器株式会社製)、光源光量60nW)により測定した。
【0100】
密着強度の評価は、JIS H 8504に則し、有機感光層に1mm角、10×10マス(100マス)のクロスハッチを形成し、粘着テープ(ニチバンCT405AP−24)により剥離強度を試験することにより行った。100マス中の剥離したマスの数をカウントし評価した。
【0101】
電気特性として、感光体電気特性評価装置を用い、帯電保持率Vk5(感光体表面を電位600Vに帯電させ、5秒後の暗減衰電位(Vd)を測定する。Vd電位が高い程良好である。)及び、残留電位Vr(600Vに帯電した感光体に波長780nm、光量1μJ/cm2の露光光を照射した時の表面電位である。Vr電位が低い程良好である。)の2項目を評価をした。画像特性は正帯電方式のレーザープリンタにより評価を行った。白ベタ画像、及び黒ベタ画像を出力し、所望の温純水浸漬条件の位置に対応する部分に限定し、白ベタ画像における黒点の有無、黒ベタ画像における白点の有無により評価をした。耐フィルミング特性は正帯電方式のレーザープリンタにより10,000枚のランニングテストにより評価を行った。ランニング終了後の感光層表面のフィルミングの状態を目視により判定した。それぞれの評価結果において、二重丸は優、丸は良、三角は可、バツは不可を表す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
【表6】

【0108】
【表7】

【0109】
【表8】

【0110】
【表9】

【0111】
【表10】

【0112】
【表11】

【0113】
【表12】

【0114】
表1にみられるように、実施例1−1、1−2、1−3、1−4の感光体は、クロスハッチによる密着強度試験(以下「クロスハッチ試験」と称する。)において剥離数が6以下であり、良好な密着強度を示し、さらに電気特性、画像特性においても良好な結果を示した。特に、実施例1−2、1−3、1−4の感光体は、剥離数が0であり大変優れた密着強度を示し、電気特性および画像特性の双方において優れた結果を示した。
【0115】
これに対し比較例1−5の感光体は、電気特性、画像特性は良好であるが、クロスハッチ試験における剥離数が65と多く、密着性が悪い。このような感光体では、電子写真プロセスにおいて繰返しストレスを受けると、基体と感光層の界面で膜剥離が進行し、ひいては電気特性、画像特性に障害が生じる可能性がある。65℃の温純水に対し、処理時間が短く、水和酸化皮膜の生成が不十分であった為と考えられる。また、比較例1−6の感光体は、密着強度は良好であるが、電気特性、画像特性が劣る結果となった。長時間温純水処理したことで、水和酸化皮膜が過分に厚くなったためと考えられる。過度に厚い水和酸化皮膜は感光体の電気特性、画像特性に妨げとなる。
【0116】
実施例2−1、2−2、2−3、2−4の感光体は、剥離数が5以下であり、密着強度、電気特性、画像特性について良好な結果であった。特に、実施例2−2、2−3、2−4の感光体は、剥離数が0であり大変優れた密着強度を示し、電気特性および画像特性の双方において優れた結果を示した。
【0117】
比較例2−5の感光体は密着強度、電気特性に難点があり、比較例2−6の感光体は、密着強度は優れているものの、電気特性、画像特性に難点が見られた。
実施例3−1、3−2、3−3、3−4の感光体は、剥離数が4以下であり、密着強度、電気特性、画像特性について良好な結果であった。特に、実施例2−2、2−3、2−4の感光体は、剥離数が0であり大変優れた密着強度を示し、電気特性および画像特性の双方において優れた結果を示した。
【0118】
比較例3−5の感光体は密着強度、電気特性に難点があり、比較例3−6の感光体は、密着強度は優れているものの、電気特性、画像特性に難点が見られた。
以上の結果から、温純水温度65℃においては浸漬時間が35〜110秒、70℃においては25〜100秒、75℃においては15〜90秒の処理条件が良好である。従って、アルミニウム基体の温純水処理を、基体上端から下端までが、図4のグラフに示す範囲1の条件に当てはまるように実施し、この表面にポリカーボネート樹脂を含む有機感光層を形成することにより、全ての評価項目で良好な結果を得られることが明らかになった。特に、処理条件を図4に示す範囲2とすることで密着強度、電気特性、画像特性についてすべて最良の結果が得られることがわかった。
【0119】
これは、上述の温純水処理条件において円筒状導電性基体の表面に、有機感光層と十分な密着強度を有し、かつ電気特性および画像特性の妨げにならない好適条件の水和酸化皮膜が形成されたことによると考えられる。このような水和酸化皮膜は、イオン化ポテンシャル(Ip)により規定され、表1に示すように、その好適範囲は4.2〜5.0eVであり、さらに好ましくは4.5〜5.0eVである。図4の範囲1に対し、温純水温度が低温側の65℃未満の条件では、水和酸化皮膜の生成速度が遅くなり、製造工程上好ましくない。また、高温側の75℃を超える条件では、純水槽内で純水の対流が発生しやすく、純水の温度分布にムラが生じ、表面処理品質の管理上好ましくない。
【0120】
次に比較例4−1、4−2、4−3の感光体は、剥離数が0であり、密着強度は良好であった。また、電気特性、画像特性についても良好な結果であった。従って、ポリエステル樹脂のような本来密着強度が強固な特性を有する樹脂については、本発明のIpの請求範囲は意味を成さない。
【0121】
表2にみられるように、実施例5−1〜4、6−1〜4、7−1〜4及び比較例5−5〜6、6−5〜6、7−5〜6の評価結果は、ポリカーボネートのビスフェノールZ型をビスフェノールA型に変更しても同様の結果となることを示している。
【0122】
また、表3にみられるように、実施例8−1〜4、9−1〜4、10−1〜4及び比較例8−5〜6、9−5〜6、10−5〜6の評価結果は、ポリカーボネートのビスフェノールZ型をビスフェノールC型に変更しても同様の結果となることを示している。
【0123】
さらに、表4にみられるように、実施例11−1〜4、12−1〜4、13−1〜4及び比較例11−5〜6、12−5〜6、13−5〜6の評価結果は、ポリカーボネートのビスフェノールZ型を低分子量型に変更しても同様の結果となることを示している。
【0124】
加えて、表5にみられるように、実施例14−1〜4、15−1〜4、16−1〜4及び比較例14−5〜6、15−5〜6、16−5〜6の評価結果は、ポリカーボネートのビスフェノールZ型を高分子量型に変更しても同様の結果となることを示している。
【0125】
また、表6にみられるように、実施例17−1〜4、18−1〜4、19−1〜4及び比較例17−5〜6、18−5〜6、19−5〜6の評価結果は、ポリカーボネート樹脂の含有量を11.5重量%から8.5重量%に減量しても同様の結果となることを示している。
【0126】
さらに、表7にみられるように、実施例20−1〜4、21−1〜4、22−1〜4及び比較例20−5〜6、21−5〜6、22−5〜6の評価結果は、ポリカーボネート樹脂の含有量を11.5重量%から14.5重量%に増量しても同様の結果となることを示している。
【0127】
加えて、表8にみられるように、実施例23−1〜4、24−1〜4、25−1〜4及び比較例23−5〜6、24−5〜6、25−5〜6の評価結果は、正孔輸送材を式(9)に代えても同様の結果となることを示している。
【0128】
また、表9にみられるように、実施例26−1〜4、27−1〜4、28−1〜4及び比較例26−5〜6、27−5〜6、28−5〜6の評価結果は、電子輸送材を式(10)に代えても同様の結果となることを示している。
【0129】
さらに、表10にみられるように、実施例29−1〜4、30−1〜4、31−1〜4及び比較例29−5〜6、30−5〜6、31−5〜6の評価結果は、円筒状導電性基体のアルミニウム合金をA3003材料に変更しても同様の結果となることを示している。
【0130】
加えて、表11にみられるように、実施例32−1〜4、33−1〜4、34−1〜4及び比較例32−5〜6、33−5〜6、34−5〜6の評価結果は、円筒状導電性基体のアルミニウム合金をA5056材料に変更しても同様の結果となることを示している。
【0131】
そして、表12にみられるように、実施例35−1〜4、36−1〜4、37−1〜4及び比較例35−5〜6、36−5〜6、37−5〜6の評価結果は、異なる型のポリカーボネート樹脂を混合して用いても同様の結果となることを示している。
【0132】
ポリカーボネート樹脂は、表1〜12に示したように、耐刷性の重要項目である耐フィルミング性について、非常に優れた結果を示す。従って、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として用いる単層型電子写真感光体の密着強度を確保する本発明は、非常に有効である。
【符号の説明】
【0133】
1 単層型電子写真感光体
10 円筒状導電性基体
20 有機感光層
30 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、その表面のイオン化ポテンシャル(Ip)が4.2〜5.0eVである円筒状導電性基体と、
当該円筒状導電性基体の表面に形成された、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層と、を備えることを特徴とする単層型電子写真感光体。
【請求項2】
前記イオン化ポテンシャル(Ip)が4.5〜5.0eVであることを特徴とする請求項1記載の単層型電子写真感光体。
【請求項3】
前記円筒状導電性基体の全ての表面が、図4に示す範囲1に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬され、表面処理されてなることを特徴とする請求項1記載の単層型電子写真感光体。
【請求項4】
前記円筒状導電性基体の全ての表面が、図4に示す範囲2に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬され、表面処理されてなることを特徴とする請求項2記載の単層型電子写真感光体。
【請求項5】
前記アルミニウム合金がA6000系、A3000系及びA5000系(JIS H 4040:1999)であることを特徴とする請求項1記載の単層型電子写真感光体。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、ビスフェノールZ型、A型及びC型のいずれか、あるいはこれらの混合であることを特徴とする請求項1記載の単層型電子写真感光体。
【請求項7】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面を、図4に示す範囲1に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬する工程と、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層を前記円筒状導電性基体の表面に形成する工程と、を備えることを特徴とする単層型電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒状導電性基体の全ての表面を、図4に示す範囲2に含まれる温度および時間の条件で温純水に浸漬する工程と、ポリカーボネート樹脂を結着樹脂として含む有機感光層を前記円筒状導電性基体の表面に形成する工程と、を備えることを特徴とする単層型電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−128436(P2011−128436A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287921(P2009−287921)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】