説明

単板金属ガスケット

【目的】 バネ弾性を有する硬質金属板から成り、流体通路孔、燃焼室孔等の孔部を囲繞しシールするビードを備えた単板金属ガスケットの表面に設けたシール被膜層の耐熱性とミクロシール機能の向上を図る。
【構成】 燃焼室孔2、冷却水通路孔3、オイル通路孔4を備えた、バネ弾性を有する硬質金属板6に上記孔をそれぞれに囲繞しシールするビード8及び9を形成し、該金属板6の両側表面に厚さが50〜200μmのグラファイトシートの被覆7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエンジンのシリンダヘッドガスケット等として使用される単板金属ガスケットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ステンレス鋼板等のバネ弾性を有する硬質金属板に流体通路孔、燃焼室孔等の孔部を設けるとともに、該孔部を囲繞するようにビードを設けた単板金属ガスケットを、被シール面間、例えばエンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとのデッキ面の間に装着し、被シール面をシールすることは公知である。
【0003】かかる単板金属ガスケットにおいては、上記のビードがガスケットに圧縮性、復元性を与え、また流体通路孔や燃焼室孔等の孔部をシールするのに必要な面圧を発生させる訳であるが、被シール面のツールマーク、キズ等の粗さや不整面を補償吸収するミクロシール層として、ゴム或いは合成樹脂をコーティングしてなるシール被膜層を単板金属ガスケットの両面に設けることが多い。
【0004】従来の単板金属ガスケットにおける上記のシール被覆層は耐熱性のゴム或いは合成樹脂により構成するとしても、有機材料であるから耐熱性に限界がある。殊に、シリンダヘッドガスケット等のように高温に曝される状態で使用される場合には、長時間の使用中にシール被膜層が熱劣化し、ミクロシールの機能を果たし得なくなる危険がある。かかる劣化の危険は、燃焼ガス圧等によりビードが拡縮変形を繰り返す場合に一層助長される。
【0005】また、従来のシール被膜層の厚さは比較的薄く、例えば弗素ゴムのコーティングにより形成されている場合で、5〜30μm程度である。ミクロシールの機能を長期にわたり充分に発揮させるにはシール被膜層の厚さをより厚くすることが望ましいが、厚くなると1回のコーティングにより均一な被膜を形成することが困難になり、コスト高を招く複数回の反覆コーティングが必要になる等の均一な被膜形成の加工上の理由からの難点がある。
【0006】シール被膜層の耐熱性を高めるために、これをアルミニウム等の軟質金属のメッキにより形成しようとする考え方もあるが、やはり、軟質金属メッキでは硬く、また厚さが薄く、所望の復元量が得難く、適当でない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、ビードを備えた単板金属ガスケットの表面のシール被膜層の耐熱性並びにミクロシールの機能を向上させることを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決する為の手段】上記目的を達成する本発明の単板金属ガスケットは、流体通路孔、燃焼室孔等の孔部を備えたバネ弾性を有する硬質金属板に、上記孔部を囲繞しシールするビードを設けるとともに、該金属板の両表面に厚さが50〜200μmのグラフアイトシートの被覆を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
【実施例及び作用】本発明の詳細を実施例により、また図面に基づき以下に説明する。図1は本発明を適用したシリンダヘッドガスケットの一例の平面図を示し、図2は図1のA−A線断面図である。図3及び図4はそれぞれ本発明の他の実施例を示し、何れも図1のA−A線断面に相当する断面図である。
【0010】図において、1は本発明によるシリンダヘッドガスケットであり、燃焼室孔2、冷却水通路孔3、オイル通路孔4及びボルト挿通孔5等を備えている。該シリンダヘッドガスケット1は図2〜図4の断面図に示されているように、ステンレス鋼板等のバネ弾性を有する硬質の金属板6と、その両面に適当な接着剤により接着されたグラファイトシートの被覆層7とより成る。
【0011】図2に断面図を示す実施例においては、金属板6には、その燃焼室孔2を囲繞しシールする山形ビード8と、冷却水通路孔3を囲繞しシールする段差状ビード9とが設けられている。図2には表れていないがオイル通路孔4の周りにもこれを囲繞しシールする段差状ビードが設けられる。金属板6の厚さは0.1〜0.3mmの範囲に選ぶのが好ましい。
【0012】グラファイトシートは、炭素原子の六角網平面の層状構造をなす黒鉛をシート化したもので、好ましくは、黒鉛を硫酸の存在下で酸化剤で処理して得られる酸化処理黒鉛を高温で急速に加熱することにより黒鉛層間内の挿入物を分解、ガス化して黒鉛層間を押し拡げた膨張黒鉛となし、これを連続的に加圧してシート化するという製造方法により得られるものであり(ただし、かかる製造方法によるグラファイトシートに限られるものではない)、黒鉛本来の優れた耐熱性、化学安定性に加え、圧縮性、復元性、応力緩和性、可撓性に優れている。また後記する好ましい厚さの範囲の均一なシートを容易に得ることができる。
【0013】上記したシリンダヘッドガスケット1を被シール面たるシリンダブロックとシリンダヘッドとのデッキ面間に装着し、ボルトを締結しガスケット1を締め付ければ、ビード8及び9が押圧されて燃焼室孔2、冷却水通路孔3及びオイル通路孔4のそれぞれの周りに高いシール面圧を生じさせる。この場合に、山形ビード8は段差状ビード9よりもバネ定数が大きいので、山形ビード8により囲繞された燃焼室孔2の周りには冷却水通路孔3及びオイル通路孔4の周りよりも高いシール面圧を生じる。
【0014】また、このときに、金属板6の両側表面に設けられたグラファイトシートの被覆7は、被シール面すなわちシリンダブロック及びシリンダヘッドのデッキ面におけるツールマーク、キズ等の粗さ、不整面を補償吸収する。かくして本発明を実施したシリンダヘッドガスケット1によりシリンダブロックとシリンダヘッドとのデッキ面間の良好なシールが確保される。かかる良好なシールを確保するために、本発明においては、グラファイトシートの厚さは50〜200μmに選ばれる。その理由は、グラファイトシートの厚さが50μm未満ではミクロシールの機能が充分ではなく、劣り、厚さが200μmを越えると厚肉過ぎてへたりを生じやすくなり、また耐油性が低下する傾向を生じるからである。
【0015】図3に示す実施例においては、シリンダヘッドガスケット1の金属板6には、その燃焼室2の周りに設けたビードが段差状ビード9に形成されており、また、該ビード9の傾斜面91よりも内側、すなわち傾斜面91よりも燃焼室孔側の平面部92に、シム板10が接合されている。そして、グラファイトシートの被覆7は該シム板10の表面をも覆うように設けられている。
【0016】この実施例においては、金属板6は、シム板10の接合により、燃焼室孔2の周縁における金属板の厚さが金属板6の他の部分の厚さよりも厚くなっているので、シリンダヘッドガスケット1をシリンダブロックとシリンダヘッドとのデッキ面間に装着し、締結ボルトにより締め付けたとき、厚さが厚い燃焼室孔周縁において最も高いシール面圧が生じ、燃焼室内の高温高圧のガスを良好にシールすることができる。
【0017】図に示した実施例におけると同様に、金属板6の燃焼室孔2周縁における厚さを他の部分の厚さよりも厚くしたシリンダヘッドガスケットの他の例が図4の断面図に示されている。図4に示す実施例においては、燃焼室12の周縁にグロメット12を施して、この部分におけるガスケットの厚さをガスケットの他の部分の厚さよりも厚くしている。この場合においても、グラファイトシートの被覆7は、グロメット12をも被覆するように、金属板6の両表面に設けられている。
【0018】以上、図面に基づき、本発明に従って形成されたシリンダヘッドガスケットの例について説明したが、これらのガスケットには種々の変形が可能である。例えば、図2に示すシリンダヘッドガスケットの場合、冷却水通路孔3を囲繞するビードを段差状ビード9に代えて山形ビード8とすることもできる。この場合、該ビードのバネ定数を燃焼室孔2の周りの山形ビードのバネ定数よりも小さく選ぶ、すなわちビードの高さを低くする或いはビードの幅を広くする。
【0019】また、燃焼室孔2周縁におけるガスケットの厚さをガスケットの他の部分の厚さよりも厚くするために図示のようにシム板10、グロメット12を設ける代わりに、プレス加工による膨出部を設けるようにしてもよい。更に、上記のようにシム板、グロメット或いは膨出部を設けて燃焼室孔2の周縁におけるガスケットの厚さをガスケットの他の部分の厚さよりも厚く形成し、ガスケットを被シール面間に装着して締め付けたときに、燃焼室の周縁に上記の厚さに基づき燃焼室内のガスをシールするに充分な高いシール面圧を生じさせることができる場合には、燃焼室孔を囲繞するビードを省略することもできる。
【0020】以上の本発明の実施例の説明は本発明によるシリンダヘッドガスケットについて行ったが、本発明はシリンダヘッドガスケットに限られるものではない。例えば、エンジンの排気管接手用のガスケット等、種々の用途に広く使用できるものである。なお、シリンダヘッドガスケット等においては、ボルトの締め付けトルクの徒らな消費を避け、面圧が適宜に分配されることを図って、ガスケットのシール機能に影響しない部分をクモの巣状等に適宜に打ち抜くことがあるが、本発明の単板金属ガスケットにおいても同じ目的及び同様な態様で、適宜に打ち抜くことができる。
【0021】
【発明の効果】本発明の単板金属ガスケットは、上記の通り、流体通路孔、燃焼室孔等の孔部を囲繞しシールするビードを設けた、バネ弾性を有する硬質金属板の両側表面に、厚さが50〜200μmのグラファイトシートを被覆しているので、圧縮性、復元性に富みかつ充分な厚さを有するグラファイトシートが被シール面のツールマーク、キズ等の粗さや不整面をよく補償吸収し、従来よりもミクロシールの機能が向上する。そして、このグラファイトシートは耐熱性に優れているので、高温に曝した状態で長時間使用してもミクロシールの機能を損なうことがなく、ガスケットの耐熱性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるシリンダヘッドガスケットの一例の平面図である。
【図2】図1のA−A線による断面図である。
【図3】本発明の他の実施例の断面図で図1のA−A線断面に相当する断面図である。
【図4】本発明の更に他の実施例の断面図で、図1のA−A線断面に相当する断面図である。
【符号の説明】
2 燃焼室孔
3 冷却水通路孔
6 金属板
7 グラファイトシートの被覆
8 山形ビード
9 段差状ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】 流体通路孔、燃焼室孔等の孔部を備えたバネ弾性を有する硬質金属板に、上記孔部を囲繞しシールするビードを設けるとともに、該金属板の両表面に厚さが50〜200μmのグラファイトシートの被覆を設けたことを特徴とする単板金属ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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