説明

単糖およびエタノールの製造方法

【課題】セルロースなどの糖ポリマーから簡便かつ効率的に単糖類を製造する方法および得られた単糖類からバイオエタノールを製造する方法を提供すること。
【解決手段】4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、例えば、セルロース等の糖ポリマーとを、水、並びに酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種の存在下、または水の存在下、かつ、pH7以下の酸性条件下で接触させ、糖ポリマーを分解させてグルコース等の単糖を得、この単糖を、イオン交換法によりイオン液体から分離した後、発酵させてエタノールを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単糖およびエタノールの製造方法に関し、さらに詳述すると、糖ポリマーからの単糖製造方法およびこの単糖を原料としたバイオエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオエタノールは、さとうきびや、とうもろこしなどを原料として製造されている。しかし、将来的な食料問題を考慮した場合、食料として利用されないその他のバイオマスを有効利用してバイオエタノールを製造することが望まれる。
この点に鑑み、近年、セルロースなどの木質系糖ポリマーから水溶性オリゴ糖や、エタノールなどの製造原料となるグルコースを製造することが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2002−85100号公報)には、ランタノイドイオン触媒の存在下、セルロースを加圧熱水で処理して加水分解する手法が開示され、これにより、水溶性オリゴ糖類および少量の単糖を含むドープが得られることが示されている。
特許文献2(特開2005−229822号公報)には、セルロース系バイオマスを段階的に硫酸で処理して糖化させて単糖を製造する手法が開示されている。
特許文献3(特開2006−149343号公報)には、木質系バイオマスを、微粉化および脱リグニン化した後、セルラーゼ酵素で処理してグルコースを製造する手法が開示されている。
【0004】
しかし、上記特許文献1の手法は、高温の加圧熱水を使用するため、多大なエネルギーを必要とする。これは、CO2削減というバイオマス利用の目的と矛盾している。また、セルロースの加水分解を促進するための加熱温度が220〜270℃と非常に高く、水の沸点以上の温度における処理となるため、圧力釜などの大型設備が必要となる。
特許文献2の手法は、セルロースを65〜85質量%硫酸中において処理する必要があるため、酸の取扱いに危険が伴い、また廃棄処分が大変である。また、硫酸処理を2段階に分けて行う必要があるため、手間がかかる。
特許文献3の手法は、微粉化および脱リグニン化処理が必要であるうえに、酵素反応であるため長時間を要し、温度やpH等の種々の条件が限られる。また、酵素自体が高価である。
【0005】
さらに、最近、イオン液体中でセルロースを分解する際に各種添加剤を用いる手法が報告されている。
例えば、特許文献4(国際公開第2007/101811号パンフレット)には、酸添加によるセルロース分解法が、特許文献5(国際公開第2007/101812号パンフレット)には、水添加によるセルロース分解法が、特許文献6(国際公開第2007/101813号パンフレット)には、求核剤添加によるセルロース分解法が開示されている。
【0006】
これらの文献には、クロマトグラム測定により低分子量組成が確認され、セルロースが完全に分解されたことが記載されているが、実際に糖質(グルコースなど)を単離・同定した実施例は皆無であるうえに、この糖質を原料としたバイオエタノールの製造方法については開示されていない。
また、これらの文献ではグルコースを回収する際にエタノールを添加しているが、エタノール添加法を用いた場合、イオン液体を実質的に除去することは難しいため、バイオエタノールを製造する上で問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2002−85100号公報
【特許文献2】特開2005−229822号公報
【特許文献3】特開2006−149343号公報
【特許文献4】国際公開第2007/101811号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007/101812号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2007/101813号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セルロースなどの糖ポリマーから簡便かつ効率的に単糖類を製造する方法および得られた単糖類からバイオエタノールを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオン(Cl-)からなるイオン液体と糖ポリマーとを、水の存在下、かつ、所定の添加剤の存在下または酸性条件下で接触させることで、糖ポリマーが分解し、単糖類が効率的に得られることを見出すとともに、イオン交換法を用いてイオン液体を除去することで、これらの単糖類からバイオエタノールを効率的に製造し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、糖ポリマーとを、水、並びに酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種の存在下で接触させ、前記糖ポリマーを分解させて単糖を得ることを特徴とする単糖製造方法、
2. 4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、糖ポリマーとを、水の存在下、かつ、pH7未満の酸性下で接触させ、前記糖ポリマーを分解させて単糖を得ることを特徴とする単糖製造方法、
3. 前記イオン液体と糖ポリマーとを接触させた後、加熱する1または2の単糖製造方法、
4. 前記カチオンが、下記式(1)で示される1〜3のいずれかの単糖製造方法、
1234+ ・・・(1)
〔式中、R1、R2、R3およびR4は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基が窒素原子とともに環を形成していてもよい。〕
5. 前記R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つが、前記アルコキシアルキル基である4の単糖製造方法、
6. 前記カチオンが、式(2)で示される5の単糖製造方法、
【化1】

(式中、R5は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基または炭素数3〜5のアルケニル基を、Rは、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)
7. 前記カチオンが、式(3)で示される1〜3のいずれかの単糖製造方法、
【化2】

〔式中、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示す。〕
8. 前記R6が、前記アルコキシアルキル基である7の単糖製造方法、
9. 酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種が、前記イオン液体に対して0質量%超10質量%以下存在する1の単糖製造方法、
10. 前記水が、糖ポリマー全量中に存在する無水単糖ユニット数以上のモル数である1〜9のいずれかの単糖製造方法、
11. 前記糖ポリマーが、セルロースである1〜10のいずれかの単糖製造方法、
12. 4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、セルロースとを、水、並びに酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種の存在下で接触させ、前記セルロースを分解させてなるグルコース含有ドープ、
13. 4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、セルロースとを、水の存在下、かつ、pH7未満の酸性下で接触させ、前記セルロースを分解させてなるグルコース含有ドープ、
14. 前記カチオンが、下記式(1)で示される12または13のグルコース含有ドープ、
1234+ ・・・(1)
〔式中、R1、R2、R3およびR4は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基が窒素原子とともに環を形成していてもよい。〕
15. 前記R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つが、前記アルコキシアルキル基である14のグルコース含有ドープ、
16. 前記カチオンが、式(2)で示される15のグルコース含有ドープ、
【化3】

(式中、R5は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基または炭素数3〜5のアルケニル基を、Rは、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)
17. 前記カチオンが、式(3)で示される12または13のグルコース含有ドープ、
【化4】

〔式中、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示す。〕
18. 前記R6が、前記アルコキシアルキル基である17のグルコース含有ドープ、
19. 11の単糖製造方法により得られた前記単糖を、イオン交換法により前記イオン液体から分離した後、発酵させることを特徴とするエタノールの製造方法、
20. 12〜18のいずれかのドープからイオン交換法により前記イオン液体を除去した後、酵母を加えて発酵させることを特徴とするエタノールの製造方法、
21. 12〜18のいずれかのドープに水を加えて水不溶分を析出させ、この水不溶分をろ過し、さらに、イオン交換法により前記イオン液体を除去してグルコース含有水溶液とし、この水溶液に酵母を加えて発酵させる20のエタノールの製造方法、
22. 前記イオン交換法が、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂の混合物を用いて行われる19〜21のいずれかのエタノールの製造方法、
23. 前記イオン交換法が、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂の等交換容量混合物が充填されたカラムに、前記ドープを通すことにより行われる22のエタノールの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、糖ポリマーから単糖を簡便かつ効率的に製造することができる。この製造方法は、加熱温度が比較的低いため、エネルギーコストを削減することができる。
また、本発明の製造方法で添加剤として酸を用いる場合においては、比較的少量の添加量で済むため取扱いや作業の面で安全性が高い。
さらに、イオン液体は、回収が容易であるだけでなく、繰り返し使用できるため、コスト的に有利であり、環境にも優しい。
本発明のイオン液体と糖ポリマーとから得られたグルコース含有ドープに酵母を作用させて発酵させることでエタノールに変換できることから、木質系バイオマスを主とするセルロース系バイオマスを利用した新たなバイオエタノールの製造法をも提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る第1の単糖製造方法は、4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、糖ポリマーとを、水、並びに酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種の存在下で接触させ、糖ポリマーを分解させて単糖を得るものである。
また、本発明に係る第2の単糖製造方法は、4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、糖ポリマーとを、水の存在下、かつ、pH7未満の酸性下で接触させ、糖ポリマーを分解させて単糖を得るものである。
【0013】
ここで、イオン液体とは、100℃以下で流動性があり、完全にイオンから成る液体をいうが、90℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下で流動性があるものが好適である。
イオン液体のうち、セルロース等の糖ポリマーを膨潤や溶解させるものはいくつか知られており、このような膨潤挙動や溶解挙動によって糖ポリマーの分子量低下、すなわち分子鎖の切断が多少なりとも生じ得ることを本発明者らは既に見出している(PCT/JP2006/320695号)が、本発明では、所定の条件で処理することで、糖ポリマーを単糖まで分解するものである。
【0014】
本発明において、イオン液体を構成する4級窒素原子を有するカチオンとしては、例えば、下記式(1)で示されるものが挙げられる。
1234+ ・・・(1)
〔式中、R1、R2、R3およびR4は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基が窒素原子とともに環を形成していてもよい。〕
【0015】
ここで、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、n−ペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
これらの中でも、糖ポリマーの分解能向上を図るためには、炭素数1〜8の直鎖アルキル基が好ましく、特に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖アルキル基が好適である。
炭素数3〜5のアルケニル基としては、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基(クロチル基)、3−ブテニル基、イソクロチル基、2−メチルアリル基(メタリル基)等が挙げられるが、これらの中でも、アリル基、メタリル基が好適である。
【0016】
また、R1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基が窒素原子とともに形成する環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環などが挙げられるが、本発明においては、これらの中でも、糖ポリマーの分解能に優れるピロリジン環が好適である。
RO−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシまたはエトキシメチル基、メトキシまたはエトキシエチル基が挙げられる。
特に、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つが、−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rおよびnは上記と同じ。)であることがアルコキシアルキル基のないものに比べ融点の低下が顕著にみられ好適である。このとき、特にメトキシエチル基、エトキシエチル基が化合物の安定性の面から好ましい。
【0017】
上記式(1)で示される環状カチオンの中でも、式(2)で示されるピロリジニウムカチオンが、糖ポリマーの分解能に優れているため、好適である。
【0018】
【化5】

(式中、R5は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基または炭素数3〜5のアルケニル基を、Rは、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)
【0019】
式(2)で示されるカチオンの中でも、糖ポリマーの溶解能、低分子化能に優れていることから、N−メチル−N−2−メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−2−メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−2−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−2−メトキシメチルピロリジニウムカチオンなどが好適である。
【0020】
また、下記式(4)で示されるカチオンも好適に用いることができ、中でも、比較的低融点になること、糖ポリマーの溶解・膨潤能に優れていることから、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N−エチル−N,N−ジメチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N−エチル−N,N−ジメチル−N−2−メトキシメチルアンモニウムカチオンなどが好適である。
【0021】
【化6】

(式中、R1〜R3、Rおよびnは上記と同じ意味を示す。)
【0022】
また、4級窒素原子を有するカチオンとしては、下記式(3)で示されるものを用いることもできる。
【0023】
【化7】

〔式中、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示す。〕
【0024】
ここで、R6およびR7としては、炭素数1〜8の直鎖アルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または上記アルコキシアルキル基が好適である。特に、R7としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が好適であり、R6としては、−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基、特に、メトキシメチル基、メトキシエチル基が好適である。
なお、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、アルコキシアルキル基の具体例としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0025】
式(3)で示されるカチオンにおいては、化合物の融点を低くし、糖ポリマー溶解時の操作性に優れるという観点から、カチオンとして非対称な形状であること、すなわち、R6およびR7が異なるアルキル基であることが好ましい。この場合、原料の入手が容易であり、合成も簡便であることから、R6およびR7のどちらか一方がメチル基またはエチル基であることが、特に好適であり、これらの例としては1−メチル−3−(n−ペンチル)イミダゾリウムカチオン、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−n−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン等が挙げられる。
【0026】
さらに、4級窒素原子を有する環状カチオンとしては、下記式(5)で示されるものを用いることもできる。
【0027】
【化8】

〔式中、R8は、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示し、R9は、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を示す。〕
【0028】
ここで、R8としては、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、または上記アルコキシアルキル基が好ましく、中でもアルコキシアルキル基がより好ましく、特に、メトキシメチル基、メトキシエチル基が好適である。
9としては、水素原子または炭素数1〜4の直鎖アルキル基が好ましく、特に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が好適である。
なお、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、アルコキシアルキル基の具体例としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、3−メチル−N−ノルマルブチルピリジニウムカチオン、N−ノルマルブチルピリジニウムカチオン、N−2−メトキシエチルピリジニウムカチオン、N−2−メトキシメチルピリジニウムカチオンなどが好適である。
【0029】
以上説明したカチオンの中でも、糖ポリマーの分解能に優れていることから、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンなどの平面構造を有する環状カチオンが好適である。
なお、本発明における平面構造とは、環を構成する全ての原子が同一平面上に存在するものに加え、ピロリジン環の封筒形配座などのように、1つの原子だけが、その他の原子で構成される平面上にないものも包含する。
【0030】
本発明において、イオン液体を構成するアニオンとしては、セルロースなどの糖ポリマーの溶解性および分解能に特に優れたイオン液体を与える、塩化物イオン(Cl-)を用いる。
【0031】
本発明の単糖の製造方法の原料となる糖ポリマーとしては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、グリコーゲン、デンプン、キチン、アガロース、カラギーナン等が挙げられるが、木質系バイオマスであるということから、セルロース、ヘミセルロース、デンプンなどが好ましく、特にセルロースが好適である。
セルロースとしては、公知のセルロース材料から適宜選択して用いればよく、例えば、植物由来セルロース、動物由来セルロース、バクテリア由来セルロース、再生セルロース等を用いることができる。
植物由来セルロースとしては、コットンリント、コットンリンター、針葉樹セルロース、広葉樹セルロース、靭皮セルロース、葉脈セルロース、麻セルロース、ケナフセルロース、バナナ繊維セルロース、竹繊維セルロース等が挙げられる。
動物由来セルロースとしては、尾索動物由来のセルロース等が挙げられ、特にホヤセルロースが挙げられる。
バクテリア由来セルロースとしては、Acetobacter属、Agrobacterium属、Rhizobium属等のバクテリアに由来するセルロースが挙げられる。
再生セルロースとしては、ザンテート法、銅アンモニア法、N24/DMF法、(CH2O)x/DMSO法、NMMO法、LiCl/DMAc法、水蒸気爆砕アルカリ水溶液法、イオン液体法などにより溶解した後に再生したセルロースが挙げられる。
これらの中でも木質系バイオマスであることから、植物由来セルロースが好適である。
【0032】
セルロースの形態としては、特に制限はなく、糸状、布状、紙状、フィルム状、綿状、粉状、粒状、棒状など、種々の形態のセルロースを採用できる。
セルロースの結晶構造も特に限定されるものではなく、I型、II型、III型、IV型、非晶のいずれか一つの構造またはそれらの組合せからなる構造を有するセルロースを採用できる。また、セルロースの結晶化度にも大きく影響されない。
セルロースの分子量(重合度)は任意であるが、本発明の方法では、重量平均分子量200万〜4万、特に200万〜20万程度の比較的大きな分子量のセルロースも容易に溶解し、分解することができる。
なお、セルロースは、単離されたセルロースでも、バイオマス中に他の生体成分と共に含まれるセルロースでもよい。
【0033】
本発明の製造方法において、所定のイオン液体と、糖ポリマーとを接触させる手法は特に限定されるものではなく、糖ポリマー中にイオン液体を添加してもよく、イオン液体に糖ポリマーを添加してもよい。また、イオン液体が室温で固体の場合、固体のまま糖ポリマーと混合してもよく、一旦加熱溶融した後に糖ポリマーと混合してもよい。
イオン液体に対する糖ポリマーの混合割合は、イオン液体や糖ポリマーの種類によって異なるため一概には規定できないが、使用するイオン液体への糖ポリマーの溶解度未満であることが好ましい。
ただし、このことは、使用するイオン液体中に糖ポリマーが均一に溶解していることを本発明の必須要件とするという意味ではない。糖ポリマーは当該イオン液体と接触していればよい。
なお、イオン液体は2種以上混合して用いてもよい。
【0034】
また、イオン液体の粘度を低減させる観点から、糖ポリマーを加水分解できる程度であれば、例えば、非プロトン溶媒などのその他の溶媒をイオン液体に混合してもよい。
非プロトン溶媒の具体例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル、ピリジンなどが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0035】
本発明の第1の製造方法において、添加剤として用いられる酸としては、例えば、塩酸,硫酸,リン酸等の無機酸類、p−トルエンスルホン酸,トリフルオロ酢酸等の有機酸類が挙げられる。
求核剤としては、例えば、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、4−ニトロアニリン等が挙げられる。
アミン4級塩としては、例えば、N,N−ジエチル−N−2−メトキシエチルアミン塩酸塩、N−2−メトキシエチルピロリジン塩酸塩等が挙げられる。
これら添加剤の添加量は、糖ポリマーの分解が進行する範囲であれば任意であるが、本発明においては、イオン液体に対して20質量%以下とすることが好ましく、特に、0.01〜5質量%が好適である。
添加剤の添加のタイミングは任意であるが、予めイオン液体中に添加剤を添加した後に、イオン液体と糖ポリマーとを接触させることが好ましい。
【0036】
本発明の第2の製造方法において、イオン液体と糖ポリマーとを接触させる際のpHは、pH7未満の酸性条件下であれば特に限定されるものではないが、糖ポリマーの分解をより促進させて単糖の収率を向上させることを考慮すると、pH1〜5が好ましく、pH1〜4がより好ましい。
pHの調整法は特に限定はないが、従来公知の酸や塩基を用いて所望の範囲とすればよい。なお、第1の製造方法と併用することも可能である。
【0037】
本発明の製造方法において、イオン液体と糖ポリマーとの接触処理温度は、イオン液体が液状を示すとともに、糖ポリマーの分解および単糖への転化が生じる温度であればよい。この温度は、使用する添加剤の種類や添加量、または系のpHなどによって最適範囲は異なるため一概には規定できないが、一般的に糖ポリマーの分解および単糖への転化を促進し、単糖の収率向上を図るためには、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がより一層好ましい。また、その上限は任意であるが、エネルギー効率等を考慮すると200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下がより一層好ましい。
【0038】
加熱をする場合、その手段は任意であるが、オーブンによる加熱、水浴や油浴による加熱、マイクロ波による加熱などの一般的な加熱手段を用いればよい。
また、加熱にあたっては、糖ポリマーの溶解を促進するために、撹拌を行うことが好ましい。撹拌手段も任意であり、撹拌子や撹拌羽根による機械的撹拌、容器の振盪による撹拌、超音波照射による撹拌などに代表される公知の撹拌法の中から、スケール等に応じて適宜な手段を採用すればよい。
【0039】
接触処理時間は、通常、1〜50時間程度であり、1〜20時間程度がより好ましく、1〜15時間がより好ましい。
ただし、イオン液体の種類やイオン液体中の含水率などによって好適な加熱時間は異なり、長時間加熱し過ぎると生成した単糖が分解されるためか収率が減少する場合もあるため、単糖への転化率を追跡しながら、適宜な時間に設定することが好ましい。
【0040】
本発明においては、イオン液体中の含水率を変化させることで、糖ポリマーの分解速度を適宜制御し、単位時間あたりの単糖の生成量を制御することができる。
すなわち、含水率が少ないと糖ポリマーの分解が遅くなって単位時間あたりに生成する単糖の量が少なくなり、反対に含水率が多いと糖ポリマーの分解が速くなって単位時間あたりに生成する単糖の量が多くなる。
一方、イオン液体の含水率は、用いるイオン液体の種類とそれに溶解させようとする糖ポリマーの種類によりその溶解度が異なるため、特に数値として限定することは困難であるが、あまり多量に存在すると糖ポリマーの溶解能が落ちるため、通常は10質量%以下が好ましい。
また、その下限は、処理する糖ポリマー中の無水単糖ユニット数の1.0倍以上のモル数とすることが好ましく、無水単糖ユニット数の1.5倍以上のモル数とすることがより好ましい。
イオン液体の含水率の調整は水を適宜添加して行えばよい。
【0041】
なお、本発明の単糖製造方法は、単糖が生成する限りにおいて、ランタノイドイオン供給物質等の触媒作用物質、活性炭、ゼオライト、金属酸化物等を配合して行うこともできる。
【0042】
以上説明した一連の処理により、糖ポリマーは、イオン液体中で分解されて単糖となり、これにより、単糖がイオン液体中に溶解した単糖含有ドープが得られる。
得られたドープにグルコースが含まれる場合、これを酵母などで発酵させてエタノールを製造することができる。
具体的には、得られたグルコース含有ドープから、イオン液体を除去した後、必要に応じて水や有機溶媒を加え、これに酵母を添加して、嫌気条件下、加温して発酵させてエタノールを得ることができる。
この場合、酵母としては、従来公知のものから適宜選択して用いることができ、例えば、ドライイースト、Saccharomyces cerevisiae Taiken 396、Saccharomyces cerevisiae発研1号、Saccharomyces cerevisiae F−5などが挙げられる。
【0043】
グルコース含有ドープからイオン液体を除去する手法としては、イオン交換法を用いることが好ましい。イオン交換法は、公知のイオン交換樹脂やイオン交換膜を用いて行うことができる。
イオン交換樹脂を用いる場合、イオン液体を構成するカチオン成分およびアニオン成分を効率良く除去するために陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを併用することが好ましい。
この際、いずれか一方で処理した後、他方で処理してもよいが、処理の効率を高めるとともに、pHが極度に酸性側あるいは塩基性側に偏ることを防止するために、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との混合物を用いることが好ましく、特に、これらの等交換容量混合物を用いることが最適である。このような混合物としては市販品を用いることもでき、例えば、Amberlyst MSPS2−1・DRY(オルガノ社製)などを用いることができる。
グルコース含有ドープをイオン交換樹脂で処理する手法としては、ドープ中にイオン交換樹脂を添加する方法、イオン交換樹脂を充填したカラムにドープを通液する方法のどちらでもよいが、連続的に処理し得る後者の方法を用いることが好ましい。
【0044】
イオン交換膜を用いる場合も、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を併用することが好ましく、さらに、電場をかけてイオンの移動を促進させることが好ましい。
この場合、グルコース含有ドープ中に、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、正負電極を配設して処理すればよい。
【0045】
イオン液体は、発酵工程に用いる酵母にとって悪影響を及ぼすことがあるため、上記イオン交換法によりドープ中からイオン液体は少なくとも10%以下程度まで除去することが好ましく、好適には5%以下、特に好ましくは1%未満まで除去することが好ましい。
このとき、イオン交換処理にイオン交換樹脂を用いる場合は、グルコース含有ドープの処理量に応じ、イオン交換樹脂の充填量やカラムへの通液回数を適宜変えることができる。グルコース含有ドープの処理量が少量の場合には、除去するイオン液体の量より大過剰の交換能を有する量のイオン交換樹脂を充填したカラムに通液して処理することが好ましい。一方、グルコース含有ドープの処理量が多量の場合には、除去するイオン液体に対し交換容量以上のイオン交換樹脂を充填することが好ましいが、処理するイオン液体に対し交換容量より少ない量のイオン交換樹脂充填カラムである場合には複数回繰り返しカラムに通液してイオン液体を除去することが好ましい。残留イオン液体は、薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認することができるため、TLCでイオン液体が検出されなくなるまで、イオン交換処理を繰り返し、イオン液体を除去することが可能である。
【0046】
なお、本発明においては、イオン交換法によってイオン液体を除去する前に、グルコース含有ドープ中に水を加える処理を行うことが好ましい。
この水添加処理により、ドープ中に存在する水不溶分が析出するため、これをろ過などによって除去することができる。またこのろ過の際、もともとドープ中に存在した不溶分も除去することができる。
【0047】
発酵時の温度は、発酵が進む範囲であれば特に限定されるものではないが、25〜50℃程度が好適である。
発酵終了後は、蒸留にて生じたエタノールを回収すればよい。
【実施例】
【0048】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、イオン液体の含水率はカールフィッシャー水分計(MKC−510N,京都電子工業(株)製)により測定した。使用したイオン液体は全て室温で固体であったため、イオン液体とアセトニトリルとを質量比1:1で混合し、完全に溶解した後に側定した含水率から、以下の式により算出した。
室温固体のイオン液体の含水率=混合溶液(アセトニトリル:イオン液体=1:1(質量比))の含水率×2−使用したアセトニトリルの含水率
【0049】
グルコース量は、反応液中のグルコース濃度をHPLCにより求め、算出した。HPLC分析装置および分析条件は以下のとおりである。
装置:2695 separation module(Waters社製)
検出器: 2414 RI 検出器(Waters社製)
カラム: Atlantis T3 5μm 4.6×150mm column(Waters社製)
移動相:水
流速:1ml/min
注入量:10μl
【0050】
pHは、反応液の一部をピペットで採取し、これに水を加えたものをMACHEREY−NAGEL社製のpH試験紙上にたらし、その色の変化により求めた。
バナナ藁は、バナナ収穫時に地上1m位の所で茎を伐採し、外皮を剥がして内部の柔らかい繊維状の部分を取り出し、乾燥したものを用いた。
【0051】
[合成例1]N−メチル−N−2−メトキシエチルピロリジニウムクロライド(MEMPCl)の合成
【化9】

【0052】
ピロリジン(関東化学(株)製)540mlと2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)300mlとを混合し、100℃で2−メトキシエチルクロライドが還流しなくなるまで反応させた。反応後、析出した結晶を、テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)を用いて洗浄して濾別した。濾液を減圧蒸留し、40mmHgで沸点75℃付近の留分を193g得た。この化合物が2−メトキシエチルピロリジンであることを核磁気共鳴スペクトル(以下、NMRという)により確認した。
続いて、オートクレーブ中にてトルエン(和光純薬工業(株)製)390質量部に2−メトキシエチルピロリジン193質量部を溶解し、攪拌を行いつつ、窒素中15%塩化メチルガス(日本特殊化学工業(株)製)150質量部を導入した。この時、内圧は0.28MPaであった。塩化メチルガスを加えた後、40℃まで昇温した。23時間攪拌した後、放冷し、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN−メチル−N−2−メトキシエチルピロリジニウムクロライド(以下、MEMPClという)を230質量部得た(含水率400ppm)。
【0053】
[合成例2]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライド(DEMECl)の合成
【化10】

【0054】
ジエチルアミン(関東化学(株)製)71質量部と2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)88質量部とを混合し、オートクレーブ中、120℃で24時間反応させた。この時、最高到達内圧は4.5kgf/cm2(0.44MPa)であった。24時間後、析出した結晶を、テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)を用いて洗浄して濾別した。濾液を常圧蒸留し、沸点135℃付近の留分を81質量部得た。この化合物が2−メトキシエチルジエチルアミンであることをNMRにより確認した。
続いて、オートクレーブ中にてテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)80質量部に2−メトキシエチルジエチルアミン9.0質量部を溶解し、攪拌を行いつつ、窒素中15%塩化メチルガス(日本特殊化学工業(株)製)を導入した。内圧が4kgf/cm2(0.39MPa)になるまで塩化メチルガスを加えた後、3時間かけて徐々に60℃まで昇温した。この時、最高到達内圧は5.4kgf/cm2(0.53MPa)であった。この後、攪拌を続けながら放冷し、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライド(以下、DEMEClという)を12質量部得た(含水率200ppm)。
【0055】
[実施例1]
(1)グルコース含有ドープの製造
合成例1で得られたMEMPCl5.118gにリン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.207g、超純水(ミリポア社製超純水製造装置で製造した水、以下同様)0.269gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、バナナ藁0.280gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、5時間反応させ、グルコース含有ドープを得た。HPLCより求めた溶液中のグルコース量は0.087gであった。
【0056】
(2)イオン液体の除去
上記工程で得られたグルコース含有ドープに、超純水を約5質量倍量加え、反応液中の不溶分および析出した沈殿物を濾別した。イオン交換樹脂(オルガノ社製、製品名:Amberlyst MSPS2−1・DRY:カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を等交換容量含む)10gを充填した内径20mm×高さ330mmのカラム(移動相:超純水)に濾液を通し、MEMPClを除去し、グルコース含有水溶液を得た。この際、濾液全量をカラムにかけ、流出分全量を分取し、この流出分を薄層クロマトグラフィ(TLC)で分析し、MEMPClのスポットがアニスアルデヒド発色法で検出されなくなるまで上記操作を繰り返した(5回)。TLCは(RP−18F254S,MERCK社製)を用い、展開溶媒はテトラヒドロフラン:メタノール=1:1(v/v)を用いた。なお、グルコースのRf値は0(原点)、MEMPCのRf値はl0.8であった。
【0057】
(3)エタノールの製造
上記工程で得られたグルコース含有水溶液を、エバポレーターにて4.978g(HPLCより求めた液中の総グルコース量:12mg)まで濃縮した後、グルコースと同質量のドライイースト(12mg)を添加して、40℃で24時間攪拌した。ドライイースト添加前、添加直後および添加24時間後の溶液について、それぞれHPLCにて分析した結果を図1に示す。
図1に示されるように、ドライイースト添加前および添加直後に観られるグルコースのピーク(2.3min.)が、添加24時間後には大きく減少し、代わりにエタノールのピーク(4.7min.)が現れていることが分かる。この結果より求めたエタノールの量は2.4mgであった(グルコースからの収率41%)。
【0058】
[実施例2]
(1)グルコース含有ドープの製造
合成例1で得られたMEMPCl5.023gに、濃塩酸(和光純薬工業(株)製)0.023gおよび超純水0.103gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、バナナ藁0.261gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=3)、125℃の乾燥器中に容器を移し、1時間反応させ、グルコース含有ドープを得た。HPLCより求めた溶液中のグルコース量は0.095gであった。
(2)イオン液体の除去
超純水を約3質量倍量に変えた以外は、実施例1(2)と同様にしてイオン液体を除去し、グルコース含有水溶液を得た。
(3)エタノールの製造
上記工程で得られたグルコース含有水溶液を、エバポレーターにて4.025g(HPLCより求めた液中の総グルコース量:22mg)まで濃縮し、その後は、実施例1(3)と同様にして反応を行った。ドライイースト添加前、添加直後、添加24時間後の溶液について、それぞれHPLCにて分析した結果を図2に示す。
実施例1と同様、ドライイースト添加前および添加直後に観られるグルコースのピーク(2.3min.)が添加24時間後には大きく減少し、代わりにエタノールのピーク(4.7min.)が現れていることが分かる。この結果より求めた反応液中のエタノールの量は8.1mgであった(グルコースからの収率74%)。
【0059】
[実施例3]
(1)グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含む1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(以下、EMIMClという、東京化成工業(株)製)(含水率16300ppm)4.625gに、リン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.178gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.243gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=3)、125℃の乾燥器中に容器を移し、7時間反応させ、グルコース含有ドープを得た。HPLCより求めた溶液中のグルコース量は0.024gであった。
(2)イオン液体の除去
上記工程で得られたグルコース含有ドープに、超純水を約5質量倍量加え、反応液中の不溶分および析出した沈殿物を濾別した。イオン交換樹脂(オルガノ社製、製品名:Amberlyst MSPS2−1・DRY:カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を等交換容量含む)25gを充填した内径25mm×高さ500mmのカラム(移動相:超純水)に濾液を通し、EMIMClを除去し、グルコース含有水溶液を得た。
(3)エタノールの製造
上記工程で得られたグルコース含有水溶液を、エバポレーターにて4.920g(HPLCより求めた液中の総グルコース量:10mg)まで濃縮し、その後は、実施例1(3)と同様にして反応を行った。ドライイースト添加前、添加直後、添加24時間後の溶液について、それぞれHPLCにて分析した結果を図3に示す。
実施例1と同様、ドライイースト添加前および添加直後に観られるグルコースのピーク(2.3min.)が添加24時間後には大きく減少し、代わりにエタノールのピーク(4.6min.)が現れていることが分かる。この結果より求めた反応液中のエタノールの量は3.7mgであった(グルコースからの収率73%)。
【0060】
[実施例4]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むMEMPCl(含水率11300ppm)3.033gにトリフルオロ酢酸(和光純薬工業(株)製)0.016gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.094gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=3)、125℃の乾燥器中に容器を移し、5時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は2時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は34%であった(図4)。
【0061】
[実施例5]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含む1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(以下、BMIMClという、関東化学(株)製)(含水率11800ppm)3.017gにトリフルオロ酢酸(和光純薬工業(株)製)0.016gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.094gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=3)、125℃の乾燥器中に容器を移し、5時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は2時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は21%であった(図4)。
【0062】
[実施例6]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むEMIMCl(東京化成工業(株)製)(含水率17600ppm)2.985gにトリフルオロ酢酸(和光純薬工業(株)製)0.016gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.093gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=3)、125℃の乾燥器中に容器を移し、5時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は2時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は18%であった(図4)。
【0063】
[実施例7]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むDEMECl(含水率10200ppm)2.929gにトリフルオロ酢酸(和光純薬工業(株)製)0.017gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.091gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、5時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングした結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は2時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は24%であった(図4)。
【0064】
[実施例8]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むMEMPCl(含水率11300ppm)2.808gにリン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.103gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.090gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、10時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は10時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は52%であった(図4)。
【0065】
[実施例9]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むBMIMCl(関東化学(株)製)(含水率11800ppm)3.054gにリン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.132gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.099gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、10時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は10時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は17%であった(図4)。
【0066】
[実施例10]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むEMIMCl(東京化成工業(株)製)(含水率17600ppm)3.011gにリン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.115gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.097gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、10時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は10時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は17%であった(図4)。
【0067】
[実施例11]グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むDEMECl(含水率10200ppm)2.912gにリン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.108gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.094gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、10時間反応させた。1時間毎に溶液をサンプリングおよびHPLC分析した結果、HPLCより求めた溶液中のグルコース量は9時間後に最大となり、グルコース収量(%)(グルコース生成量(g)/セルロース仕込み量(g)×100)は11%であった(図4)。
【0068】
[比較例1]
(1)グルコース含有ドープの製造
水分を多量に含むMEMPCl(含水率60000ppm)3.561gにリン酸(85%)(和光純薬工業(株)製)0.129gを添加、攪拌し、均一溶液にした後に、微結晶セルロース(Aldrich社製)0.187gを添加した。混合物を1分程度攪拌した後(このときのpH=2)、125℃の乾燥器中に容器を移し、10時間反応させた。これを125℃の乾燥器中で10時間加熱してグルコース含有ドープを得た。HPLCより求めた溶液中のグルコース量は0.069gであった。
(2)イオン液体の除去
国際公開第2007/101812号パンフレット記載のエタノールを用いたグルコース沈澱方法に従って、グルコースを回収するため、上記工程で得られたグルコース含有ドープ1.042g(HPLCより求めた溶液中のグルコース量:0.019g)に50質量倍量のエタノールを添加したが、グルコースはほとんど沈殿せず、発酵工程を行うことができなかった。
【0069】
[比較例2]
MEMPClをBMIMCl(関東化学(株)製)(含水率11800ppm)に変更した以外は比較例1と同様に行った結果、グルコースはほとんど沈殿せず、発酵工程を行うことができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1のエタノール製造工程において、ドライイースト添加前、添加直後および添加24時間後の溶液をHPLCにて分析した結果を示す図である。
【図2】実施例2のエタノール製造工程において、ドライイースト添加前、添加直後および添加24時間後の溶液をHPLCにて分析した結果を示す図である。
【図3】実施例3のエタノール製造工程において、ドライイースト添加前、添加直後および添加24時間後の溶液をHPLCにて分析した結果を示す図である。
【図4】実施例4〜11で得られたグルコース含有ドープ中のグルコース量の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、糖ポリマーとを、水、並びに酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種の存在下で接触させ、前記糖ポリマーを分解させて単糖を得ることを特徴とする単糖製造方法。
【請求項2】
4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、糖ポリマーとを、水の存在下、かつ、pH7未満の酸性下で接触させ、前記糖ポリマーを分解させて単糖を得ることを特徴とする単糖製造方法。
【請求項3】
前記イオン液体と糖ポリマーとを接触させた後、加熱する請求項1または2記載の単糖製造方法。
【請求項4】
前記カチオンが、下記式(1)で示される請求項1〜3のいずれか1項記載の単糖製造方法。
1234+ ・・・(1)
〔式中、R1、R2、R3およびR4は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基が窒素原子とともに環を形成していてもよい。〕
【請求項5】
前記R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つが、前記アルコキシアルキル基である請求項4記載の単糖製造方法。
【請求項6】
前記カチオンが、式(2)で示される請求項5記載の単糖製造方法。
【化1】

(式中、R5は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基または炭素数3〜5のアルケニル基を、Rは、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)
【請求項7】
前記カチオンが、式(3)で示される請求項1〜3のいずれか1項記載の単糖製造方法。
【化2】

〔式中、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示す。〕
【請求項8】
前記R6が、前記アルコキシアルキル基である請求項7記載の単糖製造方法。
【請求項9】
酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種が、前記イオン液体に対して0質量%超10質量%以下存在する請求項1記載の単糖製造方法。
【請求項10】
前記水が、糖ポリマー全量中に存在する無水単糖ユニット数以上のモル数である請求項1〜9のいずれか1項記載の単糖製造方法。
【請求項11】
前記糖ポリマーが、セルロースである請求項1〜10のいずれか1項記載の単糖製造方法。
【請求項12】
4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、セルロースとを、水、並びに酸、求核剤およびアミン4級塩から選ばれる少なくとも1種の存在下で接触させ、前記セルロースを分解させてなるグルコース含有ドープ。
【請求項13】
4級窒素原子を有するカチオンおよび塩化物イオンからなるイオン液体と、セルロースとを、水の存在下、かつ、pH7未満の酸性下で接触させ、前記セルロースを分解させてなるグルコース含有ドープ。
【請求項14】
前記カチオンが、下記式(1)で示される請求項12または13記載のグルコース含有ドープ。
1234+ ・・・(1)
〔式中、R1、R2、R3およびR4は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基が窒素原子とともに環を形成していてもよい。〕
【請求項15】
前記R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つが、前記アルコキシアルキル基である請求項14記載のグルコース含有ドープ。
【請求項16】
前記カチオンが、式(2)で示される請求項15記載のグルコース含有ドープ。
【化3】

(式中、R5は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基または炭素数3〜5のアルケニル基を、Rは、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)
【請求項17】
前記カチオンが、式(3)で示される請求項12または13記載のグルコース含有ドープ。
【化4】

〔式中、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、または−(CH2n−ORで示されるアルコキシアルキル基(Rはメチル基またはエチル基を示し、n=1または2である。)を示す。〕
【請求項18】
前記R6が、前記アルコキシアルキル基である請求項17記載のグルコース含有ドープ。
【請求項19】
請求項11記載の単糖製造方法により得られた前記単糖を、イオン交換法により前記イオン液体から分離した後、発酵させることを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項20】
請求項12〜18のいずれか1項記載のドープからイオン交換法により前記イオン液体を除去した後、酵母を加えて発酵させることを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項21】
請求項12〜18のいずれか1項記載のドープに水を加えて水不溶分を析出させ、この水不溶分をろ過し、さらに、イオン交換法により前記イオン液体を除去してグルコース含有水溶液とし、この水溶液に酵母を加えて発酵させる請求項20記載のエタノールの製造方法。
【請求項22】
前記イオン交換法が、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂の混合物を用いて行われる請求項19〜21のいずれか1項記載のエタノールの製造方法。
【請求項23】
前記イオン交換法が、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂の等交換容量混合物が充填されたカラムに、前記ドープを通すことにより行われる請求項22記載のエタノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−201394(P2009−201394A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45814(P2008−45814)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】