説明

単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置

【課題】単結晶ダイヤモンドの{110}面等をラップ研磨するに際して、作業者の負担が少なく且つ熟練を要することなく高い研磨能率でラップ研磨できるようにする。
【解決手段】保持装置34が支持軸心S2まわりに回動可能に配設されているため、保持装置34に対する単結晶ダイヤモンド10の取付姿勢に拘らず、保持装置34が支持軸心S2まわりに自動的に回動させられることにより、単結晶ダイヤモンド10の{110}面12または14に層状に存在する硬質層22とラップ研磨方向Aとが略平行になり、研磨能率が最も高くなるように単結晶ダイヤモンド10の姿勢が自動調整される。これにより、ラップ研磨方向Aに対して単結晶ダイヤモンド10の取付姿勢を調整する面倒な作業が不要で、作業者の負担が少なく且つ熟練を要することなく高い研磨能率で単結晶ダイヤモンド10をラップ研磨できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置に係り、特に、作業者の負担が少なく且つ熟練を要することなく高い研磨能率で単結晶ダイヤモンドをラップ研磨することができるラップ研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然または人工の単結晶ダイヤモンドは、例えば切削工具等の加工工具の他、音響用途、光学用途、表面弾性波素子、半導体等の種々の分野で利用されている(特許文献1参照)。そして、このような単結晶ダイヤモンドを研磨する研磨装置として、その単結晶ダイヤモンドをラップ盤に押圧し、ダイヤモンドパウダ等のラップ剤(遊離砥粒)により研磨するラップ研磨装置(スカイフ盤)が広く用いられている(特許文献2参照)。
【0003】
図4は、このような単結晶ダイヤモンドの研磨作業の一例を説明する図で、(a) は単結晶ダイヤモンド10の正面図であり、この単結晶ダイヤモンド10は12面体形状を成している。このような単結晶ダイヤモンド10は、{110}面12、14の研磨加工が比較的容易で、図4は、それ等の{110}面12、14を研磨して厚さ寸法t1を(d) に示す所望厚さt2まで薄くする場合であり、先ず(b) に示すように保持具(メカニカルドップ)16により単結晶ダイヤモンド10を保持し、矢印Aで示すように回転駆動されるラップ盤18に一方の{110}面12を押圧して研磨した後、(c) に示すように単結晶ダイヤモンド10を上下反転させて他方の{110}面14をラップ盤18に押圧して研磨することにより、所望厚さt2の板状ダイヤモンドチップ20が得られる。図4の(b) 、(c) における単結晶ダイヤモンド10の斜線部は、それぞれラップ研磨によって除去される除去部分を表している。
【特許文献1】特開平7−321596号公報
【特許文献2】特開2001−38506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このように単結晶ダイヤモンドをラップ研磨する場合、同じ{110}面であってもラップ研磨方向によって研磨のし易さ、すなわち研磨能率が大きく異なるため、能率良くラップ研磨が行われるようにするためには、前記保持具16に対する単結晶ダイヤモンド10の取付姿勢を適切に調整する必要があり、面倒で時間が掛かるとともに熟練を要するという問題があった。すなわち、研磨面である{110}面12、14には、目には見えないが図5に点線で示すように硬質層22が層状に存在し、(a) に示すようにラップ研磨方向Aが硬質層22と交差している場合には研磨能率が悪く、(b) に示すように硬質層22とラップ研磨方向Aとが一致する場合に優れた研磨能率が得られるのである。これは、ラップ研磨方向Aと硬質層22とが交差していると、その硬質層22によって抵抗が周期的に変化するため単結晶ダイヤモンド10が微妙に跳ね上げられ、ラップ盤18に馴染まないのに対し、ラップ研磨方向Aと硬質層22とが平行の場合は、抵抗が略一定になって飛び跳ねることなくラップ盤18に馴染んで良好にラップ研磨が行われるためと考えられる。上記硬質層22は、単結晶ダイヤモンド10の結晶構造に起因して例えば{111}面との交差等によって生じるものと考えられ、{110}12、14以外の面を研磨する際にも同様な現象が認められる。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、単結晶ダイヤモンドの{110}面等をラップ研磨するに際して、作業者の負担が少なく且つ熟練を要することなく高い研磨能率で単結晶ダイヤモンドをラップ研磨できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 円環形状の水平上向きのラップ面を備えていて鉛直方向の中心線まわりに回転駆動されるラップ盤と、(b) 研磨すべき単結晶ダイヤモンドの研磨面が前記ラップ面に対向するように水平下向きとなる姿勢で該単結晶ダイヤモンドを着脱可能に一体的に保持する保持装置と、を有し、(c) 前記単結晶ダイヤモンドを前記ラップ面に押圧した状態で前記ラップ盤が回転駆動されることにより、そのラップ面上に塗布されたラップ剤によってその単結晶ダイヤモンドの研磨面をラップ研磨するラップ研磨装置において、(d) 前記保持装置は、前記ラップ面の上方であって前記中心線と平行な鉛直方向の支持軸心まわりに回動可能に配設されているとともに、その支持軸心から外れた位置で前記単結晶ダイヤモンドを保持しており、(e) ラップ研磨の際にその単結晶ダイヤモンドがその保持装置と一体的にその支持軸心まわりに自動的に回動することが許容されることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置において、(a) 前記保持装置を下方へ付勢して前記単結晶ダイヤモンドを前記ラップ面に押圧する押圧装置を備えているとともに、(b) 前記保持装置は前記支持軸心まわりに回動可能に前記押圧装置に配設されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明の単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置において、前記単結晶ダイヤモンドの{110}面をラップ研磨するために用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このような単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置においては、ラップ盤の中心線と平行な鉛直方向の支持軸心まわりに回動可能に保持装置が配設されているとともに、その支持軸心から外れた位置で単結晶ダイヤモンドを保持しており、ラップ研磨の際に単結晶ダイヤモンドが保持装置と一体的に支持軸心まわりに自動的に回動することが許容されるため、本発明者等の実験によれば研磨能率が最も高くなる位置、すなわち単結晶ダイヤモンドの研磨面に層状に存在する硬質層とラップ研磨方向とが略平行になる位置へ自動的に回動させられ、単結晶ダイヤモンドの姿勢が自動調整される。これは、ラップ剤が塗布されたラップ面と単結晶ダイヤモンドの研磨面との間の摩擦は極めて小さく、単結晶ダイヤモンドは保持装置と共に殆ど自由に支持軸心まわりに回動できる一方、ラップ研磨方向と硬質層とが交差していると、その交差角度に応じて単結晶ダイヤモンドを支持軸心まわりに回動させる力が発生し、ラップ研磨方向と硬質層とが略平行になる位置でその力が略最小になるためと考えられる。
【0010】
このように、本発明のラップ研磨装置によれば、保持装置に対する単結晶ダイヤモンドの取付姿勢に拘らず、保持装置が支持軸心まわりに自動的に回動させられることにより、単結晶ダイヤモンドの研磨面に層状に存在する硬質層とラップ研磨方向とが略平行になり、研磨能率が最も高くなるように単結晶ダイヤモンドの姿勢が自動調整されるため、ラップ研磨方向に対して単結晶ダイヤモンドの取付姿勢を調整する面倒な作業が不要で、作業者の負担が少なく且つ熟練を要することなく高い研磨能率で単結晶ダイヤモンドをラップ研磨できるようになる。
【0011】
第2発明は、保持装置を下方へ付勢して単結晶ダイヤモンドをラップ面に押圧する押圧装置を備えているため、作業者は研磨面が水平下向きとなる姿勢で単結晶ダイヤモンドを保持装置に取り付けるだけで良く、作業者の負担が一層軽減される。
【0012】
第3発明では、単結晶ダイヤモンドの{110}面をラップ研磨するため、一層高い研磨能率で単結晶ダイヤモンドをラップ研磨することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のラップ研磨装置によって研磨する単結晶ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドでも人工ダイヤモンドでも良いが、基本的には12面体形状を成している単結晶ダイヤモンドの{110}面を研磨することが望ましい。{110}面を明確に識別できない場合もあるなど、必ずしも正確に{110}面である必要はなく、{110}面から多少ずれた面を研磨することもできる。{110}面以外の面を研磨する際に使用することも可能である。
【0014】
保持装置は、例えば複数の把持爪によって単結晶ダイヤモンドを外周側から挟圧して把持するように構成されるが、単結晶ダイヤモンドを一体的に保持できる種々の手段を採用できる。上記把持爪は、例えば先端にテーパ部が設けられたロックボルトを作業者が手動でねじ込み操作することにより、そのテーパ部が把持爪に係合して機械的に閉じられ、単結晶ダイヤモンドを把持するように構成されるが、電動式や油空圧式等により把持爪が自動的に開閉されるようにすることもできる。
【0015】
上記保持装置は、例えばベアリングを介して支持軸心まわりに360°回動可能に配設されるが、単結晶ダイヤモンドの姿勢がどのようであっても180°回動させれば硬質層がラップ研磨方向と略平行になるように姿勢変化させることができるため、支持軸心S2まわりの180°の角度範囲で回動可能に配設されれば良い。単結晶ダイヤモンドの結晶構造から、単結晶ダイヤモンドの取付姿勢に対する硬質層の向きを限定できる場合には、180°より小さい角度範囲、例えば90°の角度範囲等で回動可能に配設することも可能である。
【0016】
ラップ剤が塗布されたラップ面と単結晶ダイヤモンドの研磨面との間の摩擦は極めて小さいが、完全に0ではないため、この摩擦の影響で支持軸心まわりにモーメントが発生し、硬質層とラップ研磨方向とが完全に平行にならないことが考えられるため、このモーメントを打ち消すような回動力や角度を保持装置の角度などから計算して補正することも可能である。
【0017】
保持装置による単結晶ダイヤモンドの保持位置から支持軸心までの離間距離は、単結晶ダイヤモンドがラップ面から外れない範囲で適宜設定されるが、支持軸心まわりに適切に自動回動させられるように、例えば1cm程度以上が適当で2cm程度以上が望ましい。この離間距離が大きくなると、ラップ面との摩擦によって発生するモーメントが大きくなるため、例えば10cm程度以下が適当である。
【0018】
上記保持装置は、支持軸に一体的に固定されてその支持軸と一体的に支持軸の軸心まわりに回動させられるものでも良いが、支持軸に対して相対回動可能に配設されてその支持軸まわりに回動させられるものでも良い。
【0019】
保持装置は、第2発明では支持軸心まわりに回動可能に押圧装置に配設されるが、第1発明では、例えばスライド装置等によって鉛直方向に移動可能に配設された支持軸に、その軸心まわりの回動可能に保持装置を配設し、作業者が手作業でその支持軸を下方へ押圧することにより、単結晶ダイヤモンドをラップ面に押圧するようになっていても良い。
【0020】
押圧装置は、例えば(a) 水平な回動軸まわりに回動可能に配設されるとともに、略水平にラップ面上に延び出す先端部分に前記保持装置が支持軸心まわりに回動可能に配設された押圧アームと、(b) その押圧アームの先端部を下方へ回動させるように付勢する付勢手段とを備えて構成されるが、支持軸心まわりに回動可能に保持装置が配設された上下動可能なスライド部材を付勢手段によって下方へ付勢するだけでも良いなど、種々の態様が可能である。上記押圧アームに保持装置が配設される場合、単結晶ダイヤモンドの研磨に伴って押圧アームが下方へ回動することにより、厳密には保持装置の支持軸心が鉛直方向からずれる可能性があるが、単結晶ダイヤモンドの研磨量は極僅かであるため、各部の遊びや弾性等によって吸収され、研磨面とラップ面との面接触状態、すなわちラップ研磨が良好に維持されるように構成することができる。上記付勢手段は、スプリングや錘等によって機械的に押圧するものでも良いが、電気的に押圧力を制御できる電動モータや油空圧シリンダ等を備えているものでも良い。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置30を説明する図で、(a) は概略構成図(概念図)であり、(b) は保持装置34を下方から見た底面図である。このラップ研磨装置30は、天然或いは人工の前記単結晶ダイヤモンド10の{110}面12、14をラップ研磨するためのもので、ラップ盤32と、保持装置34と、押圧装置36とを備えている。ラップ盤32は、ラップ回転モータ38によって回転駆動される回転テーブル40上に位置固定に設けられており、矢印Aで示すように鉛直方向の中心線S1まわりに回転駆動されるとともに、ダイヤモンドパウダ等のラップ剤(遊離砥粒)が塗布された円環形状の水平上向きのラップ面42を備えている。そして、そのラップ面42に単結晶ダイヤモンド10の{110}面12または14が押圧された状態で、ラップ盤32が中心線S1まわりに回転駆動されることにより、ラップ剤によって{110}面12または14が研磨加工される。
【0022】
保持装置34は、円板形状の保持ブロック44を備えており、その保持ブロック44は、その中心を挿通している支持軸46に、その軸心である支持軸心S2まわりの回動可能に配設されている。支持軸46は、前記押圧装置36を構成している押圧アーム48の先端部に、ラップ面42の上方において支持軸心S2が前記中心線S1と平行な鉛直方向となる姿勢で一体的に固設されており、保持ブロック44は、その上下に配設された一対のベアリング50により軸方向の移動不能、且つ支持軸心S2まわりの回動自在に支持されている。保持ブロック44の下面であって周縁部、すなわち支持軸心S2から所定の離間距離(例えば2cm〜5cm程度)だけ隔てた位置には一対の把持爪52、54が開閉可能に配設されており、研磨すべき単結晶ダイヤモンド10の研磨面、すなわち{110}面12または14がラップ面42に対向するように水平下向きとなる姿勢で、その単結晶ダイヤモンド10を着脱可能に一体的に保持するようになっている。この一対の把持爪52、54は、例えば先端にテーパ部が設けられたロックボルトを作業者が手動でねじ込み操作することにより、そのテーパ部が把持爪52、54の後端部(上端)に係合させられることにより機械的に閉じられ、単結晶ダイヤモンド10を外周側から把持するように構成されている。
【0023】
上記押圧アーム48は、保持装置34が配設された先端部が上下動可能なように、前記ラップ面42と略同じ高さ位置の水平な回動軸60まわりに回動可能に、図示しない基台等に配設されている。押圧アーム48には、保持装置34を下方へ付勢して単結晶ダイヤモンド10をラップ盤32に押圧する付勢手段として所定の質量の錘62が装着されるようになっており、これにより単結晶ダイヤモンド10の{110}面12または14がラップ面42に押圧され、そのラップ面42に塗布されたダイヤモンドパウダ等のラップ剤によりラップ研磨される。このように単結晶ダイヤモンド10がラップ面42に押圧される状態において、押圧アーム48は略水平な姿勢となるように配設されている。押圧アーム48を下方へ付勢する上記錘62の質量は、単結晶ダイヤモンド10の大きさや押圧アーム48のレバー比等に応じて適宜設定される。
【0024】
ここで、本実施例のラップ研磨装置30は、ラップ盤32の中心線S1と平行な鉛直方向の支持軸心S2まわりに回動可能に保持装置34が配設されているとともに、その支持軸心S2から所定寸法だけ離間した位置で単結晶ダイヤモンド10を保持しているため、ラップ研磨の際に単結晶ダイヤモンド10が保持装置34と一体的に支持軸心S2まわりに自動的に回動して姿勢変化することが許容され、本発明者等の実験によれば、保持装置34は支持軸心S2まわりにおいて研磨能率が最も高くなる位置へ自動的に回動させられ、高能率で研磨加工が行われる。例えば図2は、支持軸心S2まわりにおいてラップ研磨方向Aに対して直角になるP1位置に単結晶ダイヤモンド10が保持される状態でラップ盤32を回転駆動してラップ研磨を開始したところ、保持装置34は矢印Bで示すようにラップ研磨方向A側へ回動し、そのラップ研磨方向Aと平行になるP3位置に達するまでの途中のP2位置で自動的に停止して研磨加工が行われた場合で、この自動停止するP2位置で最も高い研磨能率が得られる。P3位置でラップ研磨を開始した場合には、矢印Cで示すように逆方向へ回動し、同じくP2位置で自動停止して高能率でラップ研磨が行われる。
【0025】
図3は、上記P1位置、P2位置、およびP3位置における{110}面12または14を示す図で、目には見えないが硬質層22が層状に存在しており、(a) のP1位置ではラップ研磨方向Aに対して硬質層22が交差しているため、その交差角度に応じて硬質層22に対して直角な方向の力Fが発生し、保持装置34は単結晶ダイヤモンド10と共に支持軸心S2まわりにおいて矢印Bで示すようにラップ研磨方向A側へ回動させられる。そして、(b) のP2位置に達すると、硬質層22とラップ研磨方向Aとが略平行になるため、上記力Fが略0になって回動が自動的に停止する。ラップ剤が塗布されたラップ面42と単結晶ダイヤモンド10の{110}面12または14との間の摩擦は極めて小さく、単結晶ダイヤモンド10は保持装置34と共に殆ど自由に支持軸心S2まわりに回動できるため、保持装置34の停止位置は上記力Fに依存して定められる。また、(c) のP3位置ではラップ研磨方向Aに対して硬質層22が交差しているため、その交差角度に応じて硬質層22に対して直角な方向の力Fが発生し、保持装置34は単結晶ダイヤモンド10と共に支持軸心S2まわりにおいて矢印Cで示すように矢印Bと逆向きに回動してP2位置へ向かう。そして、力Fが略0になる(b) のP2位置で保持装置34の回動が停止し、ラップ研磨が行われることになる。
【0026】
本実施例では、保持装置34が支持軸心S2まわりに360°回動可能であるが、単結晶ダイヤモンド10の姿勢がどのようであっても180°回動させれば硬質層22がラップ研磨方向Aと略平行になるように姿勢変化させることができるため、例えばラップ研磨方向Aに対して直角なP1位置からP4位置までの180°の角度範囲で回動可能に配設すれば良い。研磨開始位置は、必ずしもP1である必要はなく、反対側のP4位置でも良いし、中間のP3位置とした場合には、その開始位置から実際にラップ研磨が行われる位置までの回動量が常に90°以下になる。支持軸心S2に対してラップ研磨方向Aの上流側に回動可能範囲を設定することも可能である。
【0027】
一方、上記P1位置やP3位置のように、ラップ研磨方向Aと硬質層22とが交差していると、その硬質層22によって抵抗が周期的に変化するため単結晶ダイヤモンド10が微妙に跳ね上げられ、ラップ盤18に馴染まないため、研磨能率が損なわれるのに対し、ラップ研磨方向Aと硬質層22とが略平行になるP2位置では、抵抗が略一定になって飛び跳ねることなくラップ面42に馴染んで良好にラップ研磨が行われるようになり、優れた研磨能率が得られる。したがって、上記のように保持装置34が自動的にP2位置へ回動させられることにより、結果的に最も高能率でラップ研磨が行われるようになるのである。
【0028】
このように、本実施例のラップ研磨装置30によれば、保持装置34に対する単結晶ダイヤモンド10の取付姿勢に拘らず、保持装置34が支持軸心S2まわりに自動的に回動させられることにより、単結晶ダイヤモンド10の{110}面12または14に層状に存在する硬質層22とラップ研磨方向Aとが略平行になり、研磨能率が最も高くなるように単結晶ダイヤモンド10の姿勢が自動調整されるため、ラップ研磨方向Aに対して単結晶ダイヤモンド10の取付姿勢を調整する面倒な作業が不要で、作業者の負担が少なく且つ熟練を要することなく高い研磨能率で単結晶ダイヤモンド10をラップ研磨できるようになる。
【0029】
また、本実施例では、保持装置34を下方へ付勢して単結晶ダイヤモンド10をラップ面42に押圧する押圧装置36を備えているため、作業者は{110}面12または14が水平下向きとなる姿勢で単結晶ダイヤモンド10を保持装置34に取り付けるだけで良く、作業者の負担が一層軽減される。
【0030】
また、本実施例では単結晶ダイヤモンド10の{110}面12または14をラップ研磨するため、一層高い研磨能率で単結晶ダイヤモンド10をラップ研磨することができる。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例である単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置を説明する図で、(a) は概略構成図、(b) は保持装置を下方から見た底面図である。
【図2】図1のラップ研磨装置で単結晶ダイヤモンドをラップ研磨する際に、単結晶ダイヤモンドが保持装置と共に支持軸心S2まわりに自動的に回動する作動を説明する概略図である。
【図3】図2のP1〜P3位置における硬質層とラップ研磨方向Aとの関係を説明する図である。
【図4】12面体形状の単結晶ダイヤモンドの一対の{110}面を研磨して板状ダイヤモンドチップとする際の作業手順を説明する図である。
【図5】{110}面に存在する硬質層とラップ研磨方向Aとの関係で研磨能率が相違することを説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
10:単結晶ダイヤモンド 12、14:{110}面(研磨面) 30:ラップ研磨装置 32:ラップ盤 34:保持装置 36:押圧装置 42:ラップ面 46:支持軸 S1:中心線 S2:支持軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環形状の水平上向きのラップ面を備えていて鉛直方向の中心線まわりに回転駆動されるラップ盤と、
研磨すべき単結晶ダイヤモンドの研磨面が前記ラップ面に対向するように水平下向きとなる姿勢で該単結晶ダイヤモンドを着脱可能に一体的に保持する保持装置と、
を有し、前記単結晶ダイヤモンドを前記ラップ面に押圧した状態で前記ラップ盤が回転駆動されることにより、該ラップ面上に塗布されたラップ剤によって該単結晶ダイヤモンドの研磨面をラップ研磨するラップ研磨装置において、
前記保持装置は、前記ラップ面の上方であって前記中心線と平行な鉛直方向の支持軸心まわりに回動可能に配設されているとともに、該支持軸心から外れた位置で前記単結晶ダイヤモンドを保持しており、
ラップ研磨の際に該単結晶ダイヤモンドが該保持装置と一体的に該支持軸心まわりに自動的に回動することが許容される
ことを特徴とする単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置。
【請求項2】
前記保持装置を下方へ付勢して前記単結晶ダイヤモンドを前記ラップ面に押圧する押圧装置を備えているとともに、
前記保持装置は前記支持軸心まわりに回動可能に前記押圧装置に配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置。
【請求項3】
前記単結晶ダイヤモンドの{110}面をラップ研磨するために用いられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶ダイヤモンドのラップ研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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