説明

単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの製造方法及びそれを用いたハイレート用Liイオン電池

【課題】単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)のナノワイヤーの製造方法及び、これを用いた電極によるハイレート用Liイオン電池を提供する。
【解決手段】
Mn3O4と1〜10Mの水酸化ナトリウム水溶液を、1〜10気圧で、180〜250℃、6時間〜240時間で反応させ、反応物を水洗後乾燥させる単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの製造方法及び、これを用いた電極によるハイレート用Liイオン電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電特性、電気伝導特性に優れた電池電極材として用いられる単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの製造方法及びそれを用いたハイレート用Li電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー、環境問題が盛んに取り上げられている。その問題の解決の手段としてクリーンなエネルギーデバイスの開発が必要とされている。交通、物流の手段として重要な自動車を電気エネルギーで稼動させることへの要求は、非常に高まっている。電気自動車用のエネルギー源として、Liイオン電池の有する可能性は高い。エネルギー密度が高いためである。
しかしながら、Liイオン電池には出力密度が低いという欠点がある。この問題を解決するために、多くの研究者によって電気自動車用のLi貯蔵デバイスの研究が行われている。
【0003】
Liイオン電池には、正極、負極が必要であるが、本研究では正極材料に注目した。現行のLiCoO2はCoのコストが高いことを考えると今後の自動車用用途(大量に必要)には難しいことが予想される。それに対してMnは安価な材料であることから、普及に関して問題がない。層状構造を持つLiMnO2などのMn化合物が正極材料として研究されているが、電気化学反応に対して不安定であるために、充放電を繰り返すことによる容量劣化が問題である。この問題を解決するために、トンネル構造を有するマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)が作製されている。
【0004】
また、ハイレート用Liイオン電池の開発のためには、以下の解決すべき、四つの問題がある。
1)活物質材料内でのLiの拡散長を減少させるための粒子径の減少。
2)急速な充放電過程における電流密度の減少。
3)急速な充放電過程におけるサイクル特性の向上。
4)電極材料の電子伝導性の向上。
つまり、ナノ構造制御を行わなければ、ハイレートデバイスは実現できないのである。これまで、マンガン酸ナトリウムのナノ構造制御の報告は無く、ハイレート用Liイオン電池としての報告も当然されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)のナノ構造制御を行い、単結晶マンガン酸ナトリウムのナノワイヤーの製造方法及びNa0.44MnO2の高い電気伝導性を利用して、これを用いた電極を用いることにより、充電放電の特性が良好なハイレート用Liイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、鋭意研究し、マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)の単結晶のナノワイヤーを簡単に製造する方法を見出すに至った。
すなわち、本発明は、Mn3O4と1〜20Mの水酸化ナトリウム水溶液を、1〜500気圧で、180〜250℃、6時間〜240時間で反応させ、反応物を水洗後乾燥させる単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの製造方法である。
また、本発明は、水洗をイオン交換水で行うことが望ましい。
さらに、本発明は、単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーと導電助剤と結着材とを混合し、成型したハイレート用電極である。
本発明においては、導電性単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤー:導電助剤:結着材の質量比が、それぞれ40〜85:10〜50:5〜10とすることが望ましい。
さらに、本発明は、このような電極を用いたハイレート用Liイオン電池である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、単純な方法で、マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)のナノ構造制御を行い、単結晶マンガン酸ナトリウムのナノワイヤーを製造することができ、また、Na0.44MnO2の高い電気伝導性を利用して、これを用いた電極を用いることにより、充電放電の特性が良好なハイレート用Liイオン電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いるMn3O4は、市販品を用いることが出来る。
本発明で用いる水酸化ナトリウム水溶液は、1〜20Mを用いる必要がある。
1M以下では反応が遅く、20M以上だと品質の良い単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーが得られない。
また、本発明において、反応圧力は、1〜400気圧が適当である。
1気圧以下では反応が遅く、500気圧以上だと品質の良い単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーが得られない。
また、本発明において、反応温度は、180〜250℃が適当である。
180℃以下では反応が遅く、250℃以上だと品質の良い単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーが得られない。
さらに、本発明において、反応時間は、6時間〜240時間が必要である。
【0009】
本発明において、水洗は純度がよいものなら何でも良いが、水洗をイオン交換水で行うことが望ましい。
さらに、本発明においては、導電助剤として周知のモノを用いることが出来るが、炭素材料が好ましく用いることが出来る。
結着材としては、業界周知の結着材を用いることが出来る。
単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーと導電助剤と結着材とを混合して、成型することにより、任意の形状のハイレート用電極とすることが出来る。
このような電極を用いて、ハイレート用Liイオン電池を作成することが出来る。
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
Mn3O4を5Mの水酸化ナトリウム水溶液に加え、ステンレス製の密閉容器のテフロン(登録商標)製の内筒に入れ、205℃で四日の水熱反応を行った。作製されたマンガン酸ナトリウムはイオン交換水で洗浄し、乾燥させた。
作製したマンガン酸ナトリウム(60wt%)を導電助剤であるカーボン(35wt%)と混合した後に、結着材(5wt%)と混合し、SUSメッシュ集電体にプレスし、これを電極とした。
対極・参照極には金属Liを、電解液には1MのLiClO4を含むEC/DECの混合溶媒を用いて電気化学的評価を行った。
得られたマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーのXRDを図1に示す。
JCPDSパターンと一致するマンガン酸ナトリウムが作製されたことが分かる。
【0011】
得られたマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
これから数十nmの直径を持つナノワイヤー構造であることが分かり、アスペクト比も10000以上と非常に大きい。
得られたマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの電子顕微鏡(TEM)写真と電子線回折を図3に示す。
電子顕微鏡(TEM)写真と電子線回折から、得られたナノワイヤーは単結晶であることが分かる。
【0012】
実施例1で作成した電極について、各電流密度における充放電を行った際の二回目の充放電曲線を図4に示す。
0.1A/gのレートでは200 mAh/g、1A/gという比較的高いレートにおいても165mAh/gの大きな容量示している。また、5A/g,10A/gというハイレート(大電流密度)においても容量が失われず、145mAh/g, 120mAh/gの容量を維持している。
【0013】
図5(a)においては、実施例1で作成した電極について、各電流密度における充放電サイクル特性を示す。いずれの電流密度においても20回目まで、良好なサイクル特性を示している。また、5A/g、10A/gというハイレートにおいて初期容量をほぼ維持していることは、ハイレートLi貯蔵デバイスとして非常に良い特性である。
また、図5(b)に示すように、5A/g、10A/gというハイレートにおいて、100サイクルでも容量を維持し続けるこの電極は、長期特性を有するハイレートLi貯蔵デバイスとして期待できる。
【0014】
図6に10A/gというハイレートにおいて、100サイクル充放電を行った後の電子顕微鏡写真を示す。単結晶ナノワイヤー構造が維持されており、大電流および繰り返し使用よる構造劣化が無いことが分かり、良好な電池特性を示した証拠といえる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、単純な方法で安価に、単結晶マンガン酸ナトリウムのナノワイヤーを製造することができるため、これを用いた電極を用いることにより、充電放電の特性が良好なハイレート用Liイオン電池のみならず、他のデバイスにも応用でき、産業上極めて利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られたマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーのXRD図。
【図2】実施例1で得られたマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの電子顕微鏡(SEM)写真。
【図3】実施例1で得られたマンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの電子顕微鏡(TEM)写真と電子線回折図。
【図4】実施例1で作成した電極について、充放電曲線。
【図5】図5(a)は、実施例1で作成した電極の充放電サイクル特性。図5(b)は、5A/g、10A/gにおける充放電サイクル特性。
【図6】10A/gにおいて、100サイクル充放電を行った後の電極の電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn3O4と1〜20Mの水酸化ナトリウム水溶液を、1〜500気圧で、180〜250℃、6時間〜240時間で反応させ、反応物を水洗後乾燥させる単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
水洗をイオン交換水で行う請求項1に記載した単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤーと導電助剤と結着材とを混合し、成型したハイレート用電極。
【請求項4】
導電性単結晶マンガン酸ナトリウム(Na0.44MnO2)ナノワイヤー:導電助剤:結着材の質量比が、それぞれ40〜85:10〜50:5〜10である請求項3に記載したハイパワー(=ハイレート)用電極。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載した電極を用いたハイレート用Liイオン電池。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−226798(P2008−226798A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67835(P2007−67835)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】