説明

印刷インキを乾かす方法および印刷インキ

【課題】被印刷体の上の印刷インキの乾燥を促進するための不活性の作用物質を含んでいる印刷インキを乾かす方法において、乾燥を促進する作用物質の作用のタイミングをコントロール可能にする。
【解決手段】印刷インキ12にエネルギーが供給されて作用物質14が反応場所で輸送物質16から解放され、それによって活性化されることによって、被印刷体10に塗布された印刷インキ12が反応場所で乾かされる。被印刷体10の上の印刷インキ12の乾燥を促進するための作用物質14は、乾燥前には、輸送物質16の中に反応が抑制された状態で封入されて印刷インキ12中に存在しており、乾燥時に、エネルギーの供給18によって反応場所で輸送物質16から解放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被印刷体の上の印刷インキの乾燥を促進するための不活性の作用物質を含んでいる印刷インキを乾かす方法であって、印刷インキにエネルギーが供給されて作用物質が反応場所で活性化されることによって、被印刷体に塗布された印刷インキが反応場所で乾かされる、印刷インキを乾かす方法に関する。さらに本発明は、被印刷体の上の印刷インキの乾燥を促進するための作用物質を含んでいる印刷インキであって、作用物質は、乾燥前には、不活性状態で印刷インキ内に含まれており、乾燥時に活性化可能である、印刷インキに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷インキ、特にオフセット印刷インキ、フレキソ印刷インキ、またはスクリーン印刷インキを付与された被印刷体は、次の印刷、処理作業、または加工作業の前に、的確な方法で、または相応に適した装置の的確な使用によって、乾かさなくてはならないのが普通である。これは、乾燥のベースとなる物理的および/または化学的なプロセスは、サポートとなる措置を行わないと、通常の環境条件のもとではあまりにもゆっくりとしか進行しないからである。この点に関しては、電磁放射によるエネルギーの供給によって、たとえば赤外光や紫外光によって、または熱風によって、または乾燥反応生成物の迅速な排出によって、乾燥を促進することがすでに一般に知られている。
【0003】
反応によって乾く印刷インキに関しては、触媒が用いられることが多い。オフセット印刷インキの混合物の添加剤として、たとえばいわゆる乾燥剤(金属塩、多くはコバルト塩またはマンガン塩、オキソほう酸塩など)が、油または樹脂の酸化重合のための触媒として用いられる。このとき乾燥剤は、できるだけ印刷インキに良く溶けて無害で良好に作用するように、その具体的なインキ組成が選択される。あるいは、たとえば印刷インキ中の過酸化物も、熱によって活性化可能な不飽和ポリエステルの乾燥促進物質として使用され、この場合、オフセット印刷インキはポリエステルワックスおよびアルキド樹脂(脂肪酸改質された不飽和ポリエステル)を含んでいる。このような間接的な乾燥促進物質については、特に印刷機で印刷インキが処理されている間に既に、急速すぎる好ましくない乾燥を生じさせてはならない。たとえば、印刷機の構成要素すなわち構成部品についた印刷インキが乾いてこびりついて障害となることは、絶対に回避されなくてはならない。さらに、乾燥剤には色がついており、過酸化物はインキ混合物中では安定性に欠けている場合が多い。およそ摂氏80度で初めて分解してラジカルになる有機過酸化物をオフセット印刷インキに用いることは、現在流通しているオフセット印刷用紙がこのような温度により損傷を受けることなく耐えることができないという難点がある。
【0004】
このような欠点を克服するために、乾燥に必要なエネルギーを、乾かされるべき印刷インキにできるだけ直接注入するような方策、すなわちできるだけ高い効率を得られるような方策が講じられる。
【0005】
特許文献1および特許文献2には、被印刷体へ放射エネルギーを供給する装置および方法が記載されており、その際に用いられる放射エネルギー源は、実質的に、水の吸収波長に対して波長が非共振である光だけを放出する。印刷インキに吸収体物質を添加しておくことで、たとえば赤外放射の形態で生じる放射エネルギーの吸収性を向上させることができる。
【0006】
さらに、特許文献3および特許文献4により、被印刷体の上の印刷インキを乾かす方法、およびこの方法を実施するのに適した印刷ユニットが公知であり、これによると、被印刷体は、可視スペクトル領域内にあり、もともと印刷インキに含まれる少なくとも1つの顔料の吸収波長と共振する波長を有するレーザ光源の光によって照射される。したがって、印刷インキへの追加の吸収体物質の添加は必要ない。
【0007】
さらに、特許文献5および特許文献6により、被印刷体の上の印刷インキを乾かす方法が公知であり、これによると、被印刷体は第1の位置で印刷インキにより印刷され、第2の位置で、印刷インキの乾燥の促進を引き起こす処理剤を付与される。このとき、処理剤はコーティングまたは下塗りの形態で塗布することができ、印刷インキの乾燥は赤外放射エネルギーの作用によって行うことができる。処理剤は、放射エネルギーによって励起されて印刷インキの乾燥に寄与する赤外吸収体を含むようになっていてもよい。
【0008】
これに関して付言しておくと、特許文献7および特許文献8は抑制剤を含む印刷インキを処理する方法および装置を記載しており、それによると、抑制剤の分解を促進し、それによって乾燥時間を短くするために触媒混合物が使用される。触媒混合物は、印刷ユニット胴または別個の塗布装置を介して被印刷体に塗布することができる。このとき、印刷間隙もしくは塗布装置の後に、熱により作用する乾燥装置が配置される。
【0009】
最後に特許文献9では、被印刷体の上の印刷インキを放射によって乾かす方法において、主として閾値温度よりも上での印刷インキの化学的乾燥のための反応促進剤を提供する乾燥補助剤が使用されるという方法で、印刷インキの、促進された物理的乾燥が実現され、この場合、照射によって乾燥補助剤の閾値温度を超えて、印刷インキの、促進された化学的乾燥が行われる。乾燥補助剤とは、前掲の特許文献9では、乾燥補助剤について特徴的な温度(閾値温度)よりも上で、特に励起された状態で、自ら反応促進剤として印刷インキの化学的乾燥をサポートするか、もしくは、印刷インキの化学的乾燥をサポートする反応促進剤を提供する化学物質を意味している。乾燥補助剤はサーモスイッチとも呼ぶことができ、閾値温度に達すると、またはこれを超えると有効になって反応促進剤を提供し、それに対して閾値温度よりも下では、提供される反応促進剤の数は、促進される乾燥にとって無視できる程度に過ぎない。
【特許文献1】ドイツ特許出願公開明細書10234076A1号
【特許文献2】米国特許出願公開明細書6,857,368B2号
【特許文献3】ドイツ特許出願公開明細書10316471A1号
【特許文献4】米国特許出願公開明細書6,889,608B2号
【特許文献5】ドイツ特許出願公開明細書10316472A1号
【特許文献6】米国特許出願公開明細書2004/206260A1号
【特許文献7】ドイツ特許出願公開明細書10149009A1号
【特許文献8】米国特許出願公開明細書2003/066452A1号
【特許文献9】ドイツ特許出願公開明細書102006007947A1号
【非特許文献1】Rompp著「Lexikon der Lacke und Druckfarben(塗料と印刷インキの辞典)」583頁、Thieme Stuttgart、1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、環境パラメータを変えることによって、たとえばエネルギーの供給によって、被印刷体に塗布された印刷インキの乾燥を制御もしくはコントロールすることに関心が寄せられている。特に、これに関連して、制御もしくはコントロールされる乾燥のために、現実問題としては、従来同様の作用物質を使用できることが望ましい。この方法のために、またはこの装置を使用するために、乾燥がいつ開始されるのか、特に、乾燥をサポートもしくは促進する作用物質がいつ活性化するのかを規定可能もしくは選択可能であるとよい。具体的には、どうすればできるだけ簡単に、および/またはできるだけ印刷インキ混合物に支障を与えることなく、乾燥のための作用物質を提供することができるのかについて、好都合な提供形態、改質、印刷インキ組成、または調合を見出さなくてはならない。
【0011】
本発明の目的は、乾燥を促進する作用物質の作用のタイミングをコントロール可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、本発明によると、請求項1に記載の特徴を備える印刷インキを乾かす方法によって、および/または請求項9に記載の特徴を備える印刷インキによって達成される。本発明の好ましい発展例は、従属請求項に記載されている。
【0013】
本発明による、被印刷体の上の印刷インキの乾燥を促進するための不活性の作用物質を含んでいる印刷インキを乾かす方法では、印刷インキにエネルギーが供給されて、被印刷体に塗布された印刷インキが反応場所で乾かされる。作用物質は反応場所で活性化される。作用物質は、乾燥前には、輸送物質の中に反応が抑制された状態で封入されて印刷インキ中に存在しており、エネルギーの供給によって反応場所で輸送物質(16)から解放される。
【0014】
本発明では、作用物質を収容する輸送物質から作用物質がコントロールされながら解放されることによって、作用物質の的確な活性化が、好ましい方法で行われる。この解放が活性化を引き起し、すなわちこの解放が活性化である。それにより、乾燥プロセスの開始点をコントロール可能であるという利点がある。特に、エネルギーの供給は、少なくとも通常は数ミリ秒以内である短時間のあいだ、閾値エネルギーもしくはそれに対応する閾値温度を超えることを引き起すことができる。作用物質は、特に、それ以上で初めて反応が起こる閾値エネルギーを自らは有していない、従来同様の作用物質であってよい。輸送物質内への封入は、本発明によると、激しすぎる反応または早すぎる反応に対する防護としての役目をする。輸送物質は、エネルギー供給時に初めて、特に閾値温度を超えたときに、蓄えられた作用物質を解放し、特に、より激しく解放する機能を担っている。封入は、単分子の封入または多分子の封入であってよい。輸送物質は分子空隙を有することができ、特に閉じた空隙を有することができる。封入は、(好ましくは)三次元または二次元で(たとえば管状やリング状の幾何形状で)行うことができる。
【0015】
作用物質は印刷インキ中で、特にその乾燥前もしくは乾燥工程の開始前には、不活性状態で存在している。作用物質は、固体状、液体状、または気体状の集合状態で存在することができる。第1のグループの特徴は、乾燥工程をサポートすることによって促進させることができることである。換言すると、作用物質は触媒であってよい。第2のグループの特徴は、作用物質の変化に基づいて促進を行うことができることであり、この場合には作用物質が消費される。作用物質は純物質であってよく、または、異なる物質からなる混合物であってよい。
【0016】
促進されて行われる乾燥とは、本願においては、たとえば的確な照射などによる外部からのサポートなしで行われる乾燥に比べて迅速に進行し、したがって、短時間で満足のいく乾燥結果につながる乾燥を意味している。物理的乾燥は、たとえば水、溶剤、および/または結合剤の被印刷体への浸透によって、または、水、溶剤、および/または結合剤の隣接する大気中への蒸発によって行うことができる。物理的乾燥は温度上昇によって促進することができる。化学的乾燥は、たとえばラジカル酸化重合によって行うことができる。化学的乾燥は、たとえば温度上昇によってサポートしながら、適切な反応相手の数を増やすことによって促進することができる。化学的乾燥のときに進行する反応は、開始反応(たとえば過酸化物形成またはハイドロペルオキシド形成)と、反応に必要なラジカルが発生する分解反応(たとえば過酸化物分解またはハイドロペルオキシド分解)と、連鎖成長もしくは連鎖分裂と、連鎖停止反応とに区分することができる。開始反応の進行、および分解反応の進行は、触媒の使用によって、または触媒として作用する乾燥剤の使用によって、たとえばCo(OOC−R)2やMn(OOC−R)2のような有機酸の金属石鹸によってサポートすることができる。これに関しては、非特許文献1を参照されたい。
【0017】
本発明による方法のさまざまな実施態様において、輸送物質からの作用物質の解放は、供給された熱(たとえば熱風やマイクロ波放射)、電磁放射(たとえば紫外光、可視光、または赤外光)、超音波、または化学エネルギー(たとえば周囲環境のpH値の変化、または周囲の湿度の変化)、湿度変化、ph値変化などによって引き起こすことができる。
【0018】
本発明の方法において、作用物質は解放されたときに化学的に変化せずに保たれることが特に好ましい。特に、輸送物質に封入されている作用物質は活性状態で存在しているが、封入されているために不活性であり、すなわち不活性化されている。換言すると、輸送物質は、早過ぎる乾燥プロセスを回避するための、および/または乾燥の反応場所への作用物質の効率的な供給のための、容器、外装、ケージ、ベクトル、ビヒクルなどを形成し、もしくはそのようなものとしての役目をする。
【0019】
本発明の好ましい用途では、本発明の方法が印刷機で実施される。印刷インキを付与された被印刷体は、1回の工程または生産過程で(インライン式に)本発明により乾かされる。被印刷体は印刷機を通過して移動するのが好ましい。換言すると、特に乾燥装置の位置と作業場所によって規定される反応場所は、このような用途では、印刷機を通過する被印刷体の搬送経路に沿った1つの個所にある。被印刷体は乾燥装置のそばを通って移動することができ、被印刷体は反応場所を通過して移動することができる。すでに乾いた印刷製品が印刷機から出ていくのが好ましい。印刷機は、たとえばオフセット印刷機、フレキソ印刷機、スクリーン印刷機、またはハイブリッド型印刷機であってよい。印刷機は、たとえば枚葉紙を処理する印刷機、またはラベル印刷機であってよい。被印刷体は特に用紙、板紙、厚紙、または有機ポリマーフィルムであってよい。
【0020】
本発明の方法では、印刷インキの反応場所で、近赤外スペクトル領域または可視スペクトル領域の波長、特に2,500nmから400nmの間の波長、たとえば800nmから400nmまたは1,600nmから800nmの間の波長をもつ電磁レーザ放射を供給することができる。具体的には、本発明の方法は、一般に入手できる特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献9による個々の技術的教示もしくはこれらの組み合わせによる技術的教示と組み合わせて実施することができる。前掲の特許文献のすべての開示内容を、参照によって明確に本明細書中に援用する。このとき、本発明に基づいて用いられる作用物質は、赤外吸収物質、または(好ましくは)赤外吸収物質とは異なる物質であってよく、その場合には赤外光で照明をする時には赤外吸収物質が印刷インキへ追加的に添加されていてよい。
【0021】
一般に、有効ではない形態で輸送物質に封入された作用物質は、すでに印刷インキの製造時にインキ混合物へ入れられている。しかし、本発明による方法の1つのグループは、輸送物質に封入された作用物質が印刷インキへ添加され、印刷インキが被印刷体に塗布される追加の方法ステップを、乾燥ステップの前に含んでいる。特に、この添加は印刷機の内部で、および/または印刷機で印刷インキが使用される直前の時間に行うことができる。あるいは、本発明による方法の別のグループは、作用物質を含まない印刷インキが被印刷体に塗布され、輸送物質に封入された作用物質が、印刷インキの塗布の前に被印刷体へ塗布されるか、または被印刷体の上にある印刷インキ上へ塗布されることによって、印刷インキ内に入れられる、追加の方法ステップを乾燥ステップの前に含んでいる。特に、輸送物質に封入された作用物質は、印刷機のコンディショニングユニットまたは塗工ユニットによって、被印刷体に、または被印刷体の上にある印刷インキ上に塗布することができる。
【0022】
具体的な実施態様では、本発明による方法はオフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、またはスクリーン印刷のために用いられるのが好ましい。換言すると、印刷インキはオフセット印刷インキであってよく、被印刷体へのオフセット印刷インキの塗布はオフセット印刷法で行うことができる。オフセット印刷インキは、少なくとも1つの顔料(カラー顔料またはカーボンブラック)と、たとえば35%から45%の硬質樹脂、0%から20%のアルキド樹脂、10%から45%の植物性油または脂肪酸エステル、0%から40%の鉱油、および0%から1%の添加剤(たとえばワックス粒子)を含む結合剤とを有することができる。あるいは、印刷インキはフレキソ印刷インキであってよく、被印刷体へのフレキソ印刷インキの塗布は、フレキソ印刷法で行うことができる。あるいは、印刷インキはグラビア印刷インキであってよく、被印刷体へのグラビア印刷インキの塗布は、グラビア印刷法で行うことができる。あるいは、印刷インキはスクリーン印刷インキであってよく、被印刷体へのスクリーン印刷インキの塗布は、スクリーン印刷法で行うことができる。
【0023】
被印刷体の上の印刷インキの乾燥を促進するための作用物質を含んでいる印刷インキも本発明の方法と関連しており、作用物質は乾燥前には不活性状態で印刷インキ内に含まれており、乾燥時に活性化可能である。本発明の印刷インキでは、作用物質は、乾燥前には、輸送物質の中に反応が抑制された状態で封入されて印刷インキ中に存在しており、エネルギーの供給によって反応場所で輸送物質(16)から解放可能である。特に、印刷インキは、例えば、オフセット印刷インキ、フレキソ印刷インキ、スクリーン印刷インキ、またはグラビア印刷インキであってよい。作用物質は、特に化学的乾燥、特に酸化による乾燥または重合による乾燥をサポートまたは促進するのに適していてよい。
【0024】
本発明による印刷インキの好ましい実施態様では、作用物質は輸送物質の中に、相互に化学結合することなく物理的に封入されている。換言すると、輸送物質は、作用物質を物理的または化学的に改変することなく取り囲む、特に完全に取り囲む、容器、ケージ、外装、カプセルなどであり、それによると、輸送物質に取り囲まれていなければ活性状態である作用物質が、反応相手に対して遮蔽もしくは遮断されており、すなわち不活性であり、つまり反応が妨げられている。反応場所でのエネルギーの供給は輸送物質をこじ開けまたは破壊することができ、それにより、その中にある作用物質が解放される。
【0025】
特定の実施態様では、作用物質は乾燥剤(たとえばオクタン酸コバルトまたはオクタン酸マンガン)、過酸化物、アミン、オキソほう酸、ペルオキソほう酸(ペルボレートとも呼ばれる。たとえばペルオキソほう酸ナトリウム)、酵素(たとえばリポキシダーゼ、ペルオキシダーゼ)、酸素、オゾン、または一酸化窒素であってよい。これに代えて、またはこれに加えて、作用物質はラジカルまたは重合開始剤であってよい。
【0026】
過酸化物については、非特許文献1も参照されたい。閾値温度を超える温度上昇時に容易に分解して酸素を分離させ、もしくはラジカルを形成する過酸化物の例として、過酸化ジベンゾイル(閾値温度は約70℃)、過酸化メチルエチルケトン(閾値温度は約80℃)、過酸化シクロヘキサノン(閾値温度は約90℃)、クメンヒドロペルオキシド(閾値温度は約100℃)、ならびに過酸化イソブチル、過酸化ジベンゾイル、および第3ブチルペルオキシ−2‐エチルヘキソエートを明示的に挙げる。アミンの例として、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン(エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン)、ポリアミン(エチレンジアミン、フェニレンジアミン、テトラアミノエチレン)、またはα−アミノケトンを挙げる。さらに、約200℃から250℃を上回る温度で分解して反応促進剤になりはじめるモノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、またはトリエタノールアミンも挙げられる。さらに別の実施態様として、N−アシロキシアミンおよびN−アルコキシアミンが挙げられる。
【0027】
特定の実施態様では、輸送物質はたとえばカプセル、ケージ、または球としての特徴を有していてよい。これに代えて、またはこれに加えて、輸送物質はマイクロ球(Mikrokugel)、マイクロ中空球(Mikrohohlkugel)、マイクロカプセル、マイクロ球体(Mikrosphare)、ナノ球(Nanokugel)、ナノ中空球(Nanohohlkugel)、ナノカプセル、またはナノ球体(Nanosphare)であってよい。
【0028】
特に好ましい実施態様では、輸送物質はワックスである。ワックスとしての特徴をもつ輸送物質からの作用物質の解放は、的確に反応場所で行われるワックスの溶融によって実現することができる。具体的には、使用されるワックスはパラフィン、脂肪酸、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリスチロール、フィッシャー・トロプシュ・ワックス(たとえば硬質パラフィン、酸化生成物、部分けん化ワックス)、エポキシド、アクリレート、ゼラチン、または寒天であってよい。乾燥剤、過酸化物、またはこれに類似する従来同様の作用物質をワックスに封入するときは、作用物質を当該ワックスの中で溶かすこと、または細かく分散(乳化)させることができるようにするために、場合によっては作用物質が適切に誘かれなくてはならない。
【0029】
あるいは、本発明による印刷インキの一実施態様では、輸送物質は高分子電解質、メンブレン(たとえばN−N−ジエチルアクリアミド)、またはマイクロゲル粒子であってよい。高分子電解質の形態の輸送物質は、複数の層で構成されたカプセルであってよい。マイクロゲル粒子はスポンジのように作用物質で充填されていてよく、特に、たとえばポリ−N−イソプロピルメタクリルアミドからなるコアと、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドからなるシェルのように、異なる感熱性ポリマーシェルからなっていてよい(「Chem. Unsere Zeit 2006, 40」, 222-225も参照)。メンブレンの形態の輸送物質を、ペルオキソほう酸または乾燥剤のための容器として利用するのが特に好ましい。
【0030】
さらに、すでに述べた輸送物質の実施態様に代えて、輸送物質はシクロデキストリン、アザクラウンエーテル、カリックスアレーン、シクロトリべラトリレン、キチン、またはキトサンであってよい。
【0031】
シクロデキストリンは、分子の形態の油性物質を、通常は外部に対して親水性である輸送物質に格納することで水溶性媒体にするために、輸送物質としてすでに使用されている。誘導体は外部に対しても疎水性であってよい。それに対してアザクラウンエーテルは、この種の材料の誘導体と同じく、一般に、分子の形態の水溶性物質を、通常は外部に対して疎水性の輸送物質に格納することで油性媒体にするのに適している。誘導体は外部に対しても親水性であってよい。シクロデキストリンでは、内容物質(たとえば芳香物質または作用物質)のゆっくりとした放出がしばしば行われる。本発明に基づいて格納された乾燥促進用の作用物質、特に乾燥剤またペルボレートは、たとえば印刷プロセスにおける湿し水塗布のときや、インキ着けローラにおけるエマルジョン形成のときに、水分と接触して、水をシクロデキストリンまたはアザクラウンエーテルから排除し、それによって作用物質が媒体中に解放される。あるいは、熱の供給によって解放が行われる。作用物質を付与されたシクロデキストリン分子を、高濃度水溶液の形態で、インキ製造中に油性印刷インキに入れて乳化させることができる。同様の処理は、本発明によればキチンまたはキトサンについても意図される。すなわち好ましい一実施態様では、作用物質を収容することができるこれらの材料からなるマイクロ球体を、好ましくは50%以下、特に25%以下に脱アセチル化することにより、印刷インキ組成内へ直接入れることができる。
【0032】
本発明の好ましい発展例では、本発明による印刷インキは、近赤外スペクトル領域で放射を吸収する添加剤、および/またはレーザ放射を吸収するための(たとえば銀や金からなる)ナノメタル粒子を有していてもよい。このようにして、印刷インキが、特許文献1、特許文献2、特許文献5、および特許文献6の技術的教示に基づく乾燥方法のために適合させられてもよい。添加物質は、本発明に基づいて使用される作用物質とは異なっていてよい。このような補助的な添加剤は、照射をしたときの温度変化を改善する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0034】
図面に関連して本発明の方法の具体的な実施形態について説明する前に、まず、オフセット印刷インキの形態である、本発明の印刷インキの好ましい有利な実施形態の詳細な例を、レーザ乾燥との組み合わせで開示する。
【0035】
作用物質として有機過酸化物、具体的にはペルオキソほう酸ナトリウムまたは第3ブチルペルオキシ−2‐エチル−ヘキソエートを10%の重量割合でPEワックスと混合し、サイズが約1μmの小球として、印刷インキ製造時に1.5重量%で混入した。引き続いて作用物質が、輸送物質であるPEワックスで取り囲まれ、それによって不活性になっている。この小球は印刷インキ混合物中では、たとえば摩擦防止添加剤として用いられる市販のPEワックス添加剤と同様に働く。
【0036】
この印刷インキは通常どおり被印刷体に印刷することができ、印刷機のインキ装置内でも周知のような仕方で働く。印刷された後であるが排紙される前に初めて、被印刷体、特に枚葉紙を、反応場所で近赤外線スペクトル領域(Near Infrared、NIR)のレーザ光によりページ幅にわたって照射する。これに関しては、参照によって本明細書中に明確に援用する特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、または特許文献9において一般に知り得るようになっている、印刷インキのレーザ乾燥の技術的教示をあらためて示す。場合によっては、追加としてインキ混合物またはワックス小球自体に存在しているNIR吸収剤(あるいはナノメタル粒子)が、少なくとも短い時間間隔だけ、PEワックスの融点を上回る温度、すなわち約110℃を超える温度を生じさせる。ワックスの溶融により、作用物質、たとえばペルオキソほう酸ナトリウムが解放され、それによって有意の時点から、特に反応場所で初めて、重合を促進することができる。
【0037】
一方では、近赤外レーザ光は、NIR吸収剤が混入された比較的大きいワックス小球によって、長い吸収領域のために容易に吸収されるが、それに対して、均等な分散を実現するために比較的小さい球を使用するのが好ましい場合もある。
【0038】
オフセットインキの調合と流動性にはわずかな変更しか行われないので、この実施形態は容易に実施可能である。レーザ乾燥との組み合わせは、特に目的に適っている。ペルオキソほう酸は、たとえば湿し水に基づいて印刷間隙に存在する水分の供給によって、また、ここではレーザ照射による熱によって、反応が促進される。
【0039】
ここで付言しておくと、印刷プロセスを妨げないようにするために、ワックス粒子(ナノカプセルまたはマイクロカプセル、メンブレン、およびその他の前述した輸送物質も同様)は、10μmの大きさを超えないほうがよい(最大でも30μm)。理想的には、粒子は1μmよりも小さく、特に、これよりも明らかに小さいことが好ましい。粒子は最大で10%(好ましくは最大で5%または最大で1%)の質量割合で、場合によっては0.1%を下回る質量割合で、インキ調合のために与えられる。
【0040】
図1は、本発明による乾燥方法の一実施形態の過程を、4つの部分図A〜Dに模式的に示している。(1番上の)部分図Aには、未乾燥の印刷インキ12の層を備えている被印刷体10が示されている。本発明に基づき、印刷インキ12は、乾燥を促進またはサポートするために、マイクロオーダーの小球の形態の、輸送物質16内に封入された作用物質14を有している。封入されているため作用物質14は不活性である。(上から2番目の)部分図Bには、本発明の本明細書の別の個所ですでに説明したように、被印刷体10の上にある未乾燥の印刷インキ12が、反応場所で、好ましくはレーザ光線によるエネルギーの供給(エネルギー供給18)を受けている様子が示されている。このエネルギーは少なくとも輸送物質16に作用する。(下から2番目の)部分図Cは、輸送物質16からの作用物質14の解放に関するものである。すなわち、エネルギー供給18により、輸送物質16で形成された作用物質14の覆いが破壊され、こじ開けられ、または除去され、それによって作用物質14が、活性状態で乾燥プロセスのために提供される。エネルギー吸収の後に、被印刷体10の上の印刷インキ12の中には、たとえば破片状である、または輸送物質16の態様に応じて反応で化学的に変化した、開いた輸送物質20と、解放された作用物質14とが存在している。最後に、(1番下の)部分図Dは、本発明の方法による結果を示している。すなわち、被印刷体10の上には、既に乾いた印刷インキ22の層が存在している。
【0041】
図2は、印刷方法の一部である、本発明による乾燥の好ましい実施形態のフローチャートである。乾燥工程24は、好ましい一実施形態では、印刷機での実際の印刷28と同じように進行または実施されるステップ26のうちの1つである。これらのステップの前には、輸送物質内に収容され、それによって不活性になっている、本発明において必要とされる作用物質の混合30が行われる。たとえばこのステップは、印刷インキ製造のときにすでに行われる。本発明による乾燥工程24は、まず、しかるべきエネルギー供給によって輸送物質からの作用物質の解放を行うステップ32と、次いで、被印刷体の上の印刷インキの、促進された乾燥を行うステップ34とを少なくとも含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による乾燥方法の一実施形態の進行を模式的に示す図である。
【図2】印刷方法の一部である、本発明による乾燥の好ましい一実施形態のフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
10 被印刷体
12 印刷インキ
14 作用物質
16 輸送物質
18 エネルギー供給
20 開いた輸送物質
22 乾いた印刷インキ
24 乾燥工程
26 印刷機におけるステップ
28 印刷
30 作用物質の添加
32 解放
34 促進された乾燥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷体(10)の上の印刷インキ(12)の乾燥を促進するための不活性の作用物質(14)を含んでいる前記印刷インキ(12)を乾かす方法であって、前記印刷インキ(12)にエネルギーが供給されて前記作用物質(14)が反応場所で活性化されることによって、前記被印刷体(10)に塗布された前記印刷インキ(12)が前記反応場所で乾かされる、前記印刷インキ(12)を乾かす方法において、
前記作用物質(14)は、乾燥前には、輸送物質(16)の中に反応が抑制された状態で封入されて印刷インキ(12)中に存在しており、前記エネルギーの供給(18)によって前記反応場所で前記輸送物質(16)から解放されることを特徴とする、印刷インキを乾かす方法。
【請求項2】
前記輸送物質(16)からの前記作用物質(14)の解放は、供給された熱、電磁放射、超音波、化学エネルギー、湿度変化、またはpH値変化によって生じる、請求項1に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項3】
前記作用物質(14)は解放されたときに化学的に変化せずに保たれる、請求項1に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項4】
前記方法が印刷機(26)で実施される、請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項5】
印刷インキ(12)の前記反応場所に、波長が2500nmから400nmの間の電磁レーザ放射が供給される、請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項6】
前記輸送物質に封入された前記作用物質(14)が印刷インキ(12)に添加されて該印刷インキ(12)が被印刷体(10)に塗布される追加の方法ステップを、乾燥ステップの前に有している、請求項1から5のいずれか1項に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項7】
作用物質を含まない印刷インキ(12)が被印刷体(10)に塗布され、前記輸送物質(16)に封入された前記作用物質(14)が、前記印刷インキ(12)の塗布の前に被印刷体(10)へ塗布されることによって、または被印刷体(10)の上にある印刷インキ(12)上に塗布されることによって、該印刷インキ(12)内に入れられる追加の方法ステップを、乾燥ステップの前に有している、請求項1から6のいずれか1項に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項8】
前記印刷インキ(12)はオフセット印刷インキであり被印刷体への該オフセット印刷インキの塗布はオフセット印刷法で行われ、または、前記印刷インキ(12)はフレキソ印刷インキであり被印刷体への該フレキソ印刷インキの塗布はフレキソ印刷法で行われ、または、前記印刷インキ(12)はグラビア印刷インキであり被印刷体への該グラビア印刷インキの塗布はグラビア印刷法で行われ、または、前記印刷インキ(12)はスクリーン印刷インキであり被印刷体への該スクリーン印刷インキの塗布はスクリーン印刷法で行われる、請求項6または7に記載の印刷インキを乾かす方法。
【請求項9】
被印刷体(10)の上の印刷インキ(12)の乾燥を促進するための作用物質(14)を含んでいる印刷インキ(12)であって、前記作用物質(14)は乾燥前には不活性状態で前記印刷インキ(12)内に含まれており、乾燥時に活性化可能である、印刷インキにおいて、
前記作用物質(14)は、乾燥前には、輸送物質の中に反応が抑制された状態で封入されて印刷インキ(12)中に存在しており、エネルギーの供給によって反応場所で前記輸送物質(16)から解放可能であることを特徴とする、印刷インキ。
【請求項10】
前記印刷インキ(12)は、オフセット印刷インキ、フレキソ印刷インキ、スクリーン印刷インキ、またはグラビア印刷インキである、請求項9に記載の印刷インキ。
【請求項11】
前記作用物質(14)は化学的乾燥のサポートまたは促進に適している、請求項9または10に記載の印刷インキ。
【請求項12】
前記作用物質(14)は前記輸送物質(16)の中に、相互に化学結合することなく物理的に封入されている、請求項9から11のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項13】
前記作用物質(14)は乾燥剤、過酸化物、アミン、オキソほう酸、ペルオキソほう酸、酵素、酸素、オゾン、または一酸化窒素である、請求項9から12のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項14】
前記作用物質(14)はラジカルまたは重合開始剤である、請求項9から13のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項15】
前記輸送物質(16)はカプセル、ケージ、または球としての特徴を備えている、請求項9から14のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項16】
前記輸送物質(16)はマイクロ球、マイクロ中空球、マイクロカプセル、マイクロ球体、ナノ球、ナノ中空球、ナノカプセル、またはナノ球体である、請求項9から15のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項17】
前記輸送物質(16)はワックスである、請求項9から16のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項18】
前記輸送物質(16)は高分子電解質、メンブレン、またはマイクロゲル粒子である、請求項9から16のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項19】
前記輸送物質(16)はシクロデキストリン、アザクラウンエーテル、カリックスアレーン、シクロトリべラトリレン、キチン、またはキトサンである、請求項9から16のいずれか1項に記載の印刷インキ。
【請求項20】
前記印刷インキ(12)は、近赤外スペクトル領域で放射を吸収する添加剤、および/またはレーザ放射を吸収するためのナノメタル粒子を有している、請求項9から19のいずれか1項に記載の印刷インキ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−137303(P2009−137303A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312337(P2008−312337)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(390009232)ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト (347)
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten−Anlage 52−60, Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】