説明

印刷インキ用樹脂ワニスおよびその用途

【課題】 耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性のいずれにも優れた印刷インキを与えうる印刷インキ用樹脂ワニスと、これを用いた印刷インキ用ゲルワニスおよび印刷インキとを提供する。
【解決手段】 本発明の印刷インキ用樹脂ワニスは、印刷インキ用樹脂および植物油からなる樹脂ワニスから低沸点物質を蒸留除去して得られる。本発明の印刷インキ用ゲルワニスは、前記本発明の印刷インキ用樹脂ワニスに、インキ溶剤およびゲル化剤をも含有させてなる。本発明の印刷インキは、前記本発明の印刷インキ用ゲルワニスに顔料を混練してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性などオフセット印刷に要求されるインキ適性を有する印刷インキ用樹脂ワニスと、これを用いた印刷インキ用ゲルワニスおよび印刷インキとに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフセット印刷等に用いられる印刷インキは、例えば、ロジン変性フェノール樹脂等のバインダー樹脂、大豆油等の植物油、および石油系インキ溶剤を主成分とするビヒクルに顔料を加えて混練することにより製造されている。前記ロジン変性フェノール樹脂としては、通常、ロジンとポリオールとレゾール型フェノール樹脂とを高温加熱反応させて得られるものが用いられる。また、前記植物油としては、リサイクル等の観点から、近年特に回収再生植物油が使用されることが多い。
ところで、近年、他の印刷技術同様、オフセット印刷においても高速化が求められている。それに伴い、様々なインキ適性の中でも特に、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性が重要視されるようになり、これら3つの適性を全て兼ね備えた印刷インキが要望されている。
【0003】
印刷インキの乳化適性を向上させる手段については、種々の提案がなされており、例えば、オフセット印刷インキにアルキレンオキシド付加ロジン化合物を添加する方法(特許文献1参照)、親水性基で変性したジメチルポリシロキサンを0.001〜1.0重量%含有したインキ(特許文献2参照)、長鎖ジオールと大豆油モノグリセリドおよび/またはジグリセリドを含むオフセットインキ(特許文献3参照)等がある。また、印刷インキ用樹脂を低温でクッキングすることにより分解生成物の形成を抑制し、乾燥性や乳化適性が損なわれないようにする方法(特許文献4参照)や、印刷インキ用樹脂または印刷インキ用樹脂と疎水性溶剤とからなる樹脂ワニスから水溶性成分を抽出除去し、耐乳化性、耐ミスチング性等の諸性能を向上させる方法(特許文献5参照)も提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−234950号公報
【特許文献2】特開2002−194260号公報
【特許文献3】特開2005−290079号公報
【特許文献4】特開2005−47950号公報
【特許文献5】特開2002−173626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性を兼ね備え、これらいずれの適性にも優れた印刷インキは実用化されていなかった。すなわち、特許文献1〜3に記載の技術によれば、それぞれ添加剤を加えることにより耐乳化性は向上するものの、耐ミスチング性や乾燥性については未だ不充分であった。特許文献4に記載の技術によれば、クッキングの際に生じる樹脂の分解を抑制することはできるが、樹脂や植物油に本来含まれていた不純物は除去されずに残存するのであり、使用する原料によっては耐乳化性や乾燥性の悪化を招くことがあった。特許文献5に記載の技術によれば、ある程度のインキ性能を向上させることは可能と考えられるが、この方法は、抽出を必要とするので生産効率が悪く排水等の観点からも実用化は困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性のいずれにも優れた印刷インキを与えうる印刷インキ用樹脂ワニスと、これを用いた印刷インキ用ゲルワニスおよび印刷インキとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、印刷インキに用いる樹脂ワニスに含まれる低沸点物質が、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性を悪化させるひとつの要因になっていることを突き止めた。そして、この知見に基づき、低沸点物質を効果的に低減する手段について検討したところ、印刷インキ用樹脂と植物油とを混合してなる粗製樹脂ワニスに対して蒸留を施すようにすれば、得られた樹脂ワニスは前記課題を一挙に解決しうるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
なお、これまで、印刷インキ用樹脂と植物油とを原料として印刷インキ用樹脂ワニスを製造する一連の工程の中で、蒸留は、原料である印刷インキ用樹脂または植物油の製造過程で行なわれるのが通常であった。例えば、特開平8−277380号公報には、フェノール樹脂変性された天然樹脂/モンタン樹脂−コポリマーを製造するにあたり、反応の終期に易揮発性成分を減圧蒸留で除去する方法が、オフセット印刷用樹脂の製造方法として開示されている。また、特開平9−169953号公報には、減圧水蒸気蒸留により低沸点成分を減少させたロジンを原料とした金属塩を用いたグラビア印刷用の印刷インキ用樹脂が開示されている。このように、印刷インキ用樹脂そのものを単独で減圧蒸留する手法や、該樹脂の原料として使用するロジンを減圧処理する手法については知られているが、本発明のように、全ての原料(印刷インキ用樹脂と植物油)を混合した後に蒸留を行なう手法に関してはこれまでに報告されたことがない。
ちなみに、特開平8−277380号公報においては、低沸点物質が印刷インキ適性に悪影響を及ぼすという知見については開示されておらず、その示唆もない。つまり、該公報に記載の方法における蒸留の目的は、低沸点物質を除去して印刷適性を改良することではなく、おそらく樹脂の軟化点を調整することであると推測される。また、特開平9−169953号公報に記載のように、低沸点成分を除去したロジンを原料としても、ロジン変性フェノール樹脂を合成する際に低沸点物質が副生するので、あまり効果的であるとは言い難い。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)印刷インキ用樹脂および植物油を混合してなる粗製樹脂ワニスから低沸点物質を蒸留除去して得られる、印刷インキ用樹脂ワニス。
(2)低沸点物質の除去率が粗製樹脂ワニスの重量に対して1〜10重量%である、前記(1)記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
(3)前記印刷インキ用樹脂がロジン変性フェノール樹脂である、前記(1)または(2)に記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
(4)前記植物油が、大豆油、亜麻仁油および桐油からなる群より選ばれる少なくとも1種のバージン油である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
(5)前記植物油が回収再生植物油である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の印刷インキ用樹脂ワニスに、インキ溶剤およびゲル化剤をも含有させてなる、印刷インキ用ゲルワニス。
(7)前記(6)記載の印刷インキ用ゲルワニスに顔料を混練してなる、印刷インキ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性のいずれにも優れた印刷インキを容易に提供することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の印刷インキ用樹脂ワニスは、印刷インキ用樹脂および植物油を混合してなる粗製樹脂ワニスから低沸点物質を蒸留除去して得られるものである。
粗製樹脂ワニスの原料である印刷インキ用樹脂としては、特に制限はなく、通常使用されている印刷インキ用樹脂を用いることができるが、オフセット印刷に適した樹脂としては、例えば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。これらの中でも特に、ロジン変性フェノール樹脂が好ましい。なお、前記印刷インキ用樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0012】
粗製樹脂ワニスの原料である植物油としては、特に制限はないが、例えば、大豆油、亜麻仁油、桐油、綿実油、コメ油、菜種油、サフラワー油、ゴマ油、ヒマワリ油、オリーブ油、コーン油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等のバージン油が挙げられる。これらの中でも特に、大豆油、亜麻仁油および桐油からなる群より選ばれる少なくとも1種のバージン油が好ましい。なお、前記植物油は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0013】
また、粗製樹脂ワニスの原料である植物油としては、回収再生植物油も好ましく用いられる。ここで言う回収再生植物油とは、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、コメ油、ゴマ油、サフラワー油、ヒマワリ油、オリーブ油等の食用廃油を回収し精製して得られるものである。このように廃油を原料とした回収再生植物油は、コストやリサイクル等の観点からは好ましい樹脂ワニス原料であると言えるが、バージン油に比べると品質が劣るので、印刷インキ用樹脂ワニスの原料とした場合、耐乳化性、耐ミスチング性、乾燥性等の印刷適性を損なう可能性がある。しかし、本発明においては、後述するように低沸点物質の蒸留除去が施されるので、印刷適性を損なうことなく、回収再生植物油を利用することができるのである。なお、前記回収再生植物油は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。さらに、前記回収再生植物油は、バージン油と併用して使用することもできる。
【0014】
粗製樹脂ワニスは、印刷インキ用樹脂と植物油とを混合して加熱溶解させる(この操作を「クッキング」とも言う。)ことにより得られる。印刷インキ用樹脂と植物油の混合比率は、特に限定されないが、印刷インキ用樹脂/植物油=50/50〜90/10(重量比)とするのが好ましい。より好ましくは、印刷インキ用樹脂/植物油=60/40〜85/15(重量比)とするのがよい。前記範囲よりも印刷インキ用樹脂が少ないと、蒸留工程には影響はないが印刷適性に劣るものとなり、一方、前記範囲よりも印刷インキ用樹脂が多いと、系の粘度が高くなりすぎて蒸留困難になるとともに印刷適性が損なわれるものとなる。
【0015】
印刷インキ用樹脂と植物油とを混合し加熱溶解させる際の加熱溶解温度は、130〜220℃、好ましくは150〜200℃とするのがよい。220℃を超える温度では、樹脂および植物油の分解等が生じやするなるため好ましくない。また、加熱溶解させる際には、樹脂および植物油の酸化を防止するため、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、さらに、ヒンダードフェノール系、リン系等の酸化防止剤を添加してもよい。
【0016】
粗製樹脂ワニスから低沸点物質を蒸留除去する際の蒸留方法としては、特に制限はなく、例えば、薄膜蒸留、単蒸留、水蒸気蒸留、分子蒸留などの公知の方法を採用することができる。生産効率および製品の熱履歴の観点からは、薄膜蒸留が好適である。蒸留温度は、印刷インキ用樹脂を植物油に加熱溶解させた温度、すなわち130〜220℃、好ましくは150〜200℃とするのがよく、そのときの真空度は10〜1500Pa、好ましくは13.3〜1333.2Pa(0.1〜10Torr)程度とすればよい。
粗製樹脂ワニスの蒸留に際しては、低沸点物質の除去率が、粗製樹脂ワニスの重量に対して1〜10重量%であることが好ましい。つまり、蒸留に供する粗製樹脂ワニスのうち1〜10重量%に相当する分を蒸留により留去すればよいのである。前記低沸点物質の除去率が粗製樹脂ワニスの重量に対して1重量%未満であると、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性に改良効果があまり認められず、一方、10重量%を超えると、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性の改良には効果が発現されるが、製造工程に長時間を要することになるため、見合う効果が得られない。
【0017】
この蒸留を粗製樹脂ワニスの原料製造時に行うこと(すなわち、原料とする印刷インキ用樹脂や植物油に予め蒸留を施しておくこと)により、低沸点物質の除去を図ることも考えられるが、溶融粘度が比較的高い印刷インキ用樹脂を蒸留することは困難であり、しかも、予め蒸留を施しておいても印刷インキ用樹脂を植物油に加熱溶解させる際に新たに低沸点物質が生成する可能性がある。したがって、本発明においては、印刷インキ用樹脂を植物油に加熱溶解した後に得られた粗製樹脂ワニスに対して蒸留を施すことが重要となるのである。
【0018】
なお、本発明において、低沸点物質とは、沸点が常圧換算で350℃以下である物質を言うものとする。具体的には、蒸留除去される低沸点物質は、印刷インキ用樹脂の製造時に生成する分解物や、アルキルフェノール、ポリオール、ホルムアルデヒド、有機溶剤等の未反応原料や、揮発性テルペン、低級脂肪酸、低沸点中性成分等の原料に由来するもの等であると推測される。具体的には、例えば、印刷インキ用樹脂として汎用されるロジン変性フェノール樹脂には、ロジンとポリオールとレゾール型フェノール樹脂とを加熱反応させる際に高温により生成した原料由来の低沸点分解物(低沸点分解物の化学構造は特定には至っていないが、主として、高温による樹脂酸の脱炭酸生成物であるものと推定される。)や未反応原料等が含まれており、さらに、原料ロジンに含まれる揮発性テルペン類、レゾール樹脂の原料であるアルキルフェノール、ホルマリン等の未反応原料も含まれる可能性がある。また、大豆油、亜麻仁油、桐油等の植物油中にも微量の低沸点物質が含まれている場合が多い。また、回収再生植物油中には、中性成分等の低沸点物質が含まれている場合が多く、特に酸化によって生成した低級脂肪酸、低級アルデヒド、低級アルコール等が含まれる可能性がある。
【0019】
本発明の印刷インキ用ゲルワニスは、前述した本発明の印刷インキ用樹脂ワニスに、インキ溶剤およびゲル化剤をも含有させてなるものである。本発明の印刷インキ用樹脂ワニスは、このようにゲル化させた状態(すなわち、ゲルワニス)としてから、印刷インキに用いられるのである。
インク溶剤およびゲル化剤を含有させる際には、前述した本発明の印刷インキ用樹脂ワニス(蒸留後の樹脂ワニス)に、まずインキ溶剤を添加し、冷却(好ましくは80〜110℃程度まで)したのち、インキ溶剤を含む樹脂ワニスにゲル化剤を加えるようにすればよい。
インキ溶剤としては、特に制限はなく、公知公用のインキ溶剤を用いることができ、例えば、石油系非芳香族のナフテン系溶剤が好ましく挙げられる。特に、ナフテン系炭化水素を60%以上、好ましくは70%以上含有し、沸点が200℃以上である溶剤が好ましい。具体的には、例えば、商業的に入手可能な非芳香族系溶剤として、新日本石油(株)製の「AFソルベント」などが挙げられる。なお、前記インキ溶剤には、例えば、脂肪酸エステルやリン酸エステル等の可塑剤を添加することもできる。
【0020】
また、最終的にVOCフリー型印刷インキに適用する場合には、前記インキ溶剤として、前述した石油系溶剤に代えて脂肪酸モノエステル類を用いることができる。前記脂肪酸モノエステル類としては、例えば、動植物油脂肪酸と1価アルコールとのエステル化合物が挙げられる。具体的には、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、菜種油脂肪酸、大豆油脂肪酸、コメ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、コーン油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、綿実油脂肪酸、桐油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、ダイマー酸製造時に得られるイソステアリン酸を主成分とする分岐脂肪酸、牛脂脂肪酸等の脂肪酸と炭素数1〜8の1価アルコールとのエステル化合物等が挙げられる。なお、脂肪酸モノエステル類を用いる場合、蒸留後の樹脂ワニスに添加する方法、および/または、印刷インキ用樹脂を植物油に加熱溶解させる際に同時に添加する方法があるが、低沸点物質の除去という観点からは後者の方がより好ましい。
【0021】
インキ溶剤の添加量は、特に限定されないが、前述した本発明の印刷インキ用樹脂ワニス(蒸留後の樹脂ワニス)とインキ溶剤との比率が、蒸留後の樹脂ワニス/インキ溶剤=50/50〜100/0(重量比)となるようにするのが好ましい。前記範囲よりも樹脂ワニスが少なくなると、光沢性や乾燥性といった印刷適性が悪くなる恐れがある。
ゲル化剤としては、特に制限はないが、例えば、アルミニウムアルコラートやアルミニウム石鹸等のアルミニウム化合物、マンガン、コバルト、ジルコニウム等の金属石鹸、アルカノールアミン系等が挙げられる。なお、前記ゲル化剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ゲル化剤の添加量は、インキ溶剤を含む樹脂ワニス100重量部に対して0.01〜3.0重量部とすることが好ましい。
【0022】
本発明の印刷インキは、前述した本発明の印刷インキ用ゲルワニス(ゲル化された樹脂ワニス)に顔料を混練してなるものである。
顔料としては、特に制限はなく、黄、紅、藍、墨などの公知公用の顔料を用いることができる。顔料の配合量等は、特に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0023】
本発明の印刷インキには、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、耐摩擦性向上剤、インキドライヤ−、乾燥抑制剤などの各種添加剤を添加したり、適当な粘度に調整したり、することができる。
【0024】
本発明の印刷インキ用樹脂ワニスは、従来の印刷インキ用樹脂ワニスと比較して低沸点物質が極めて少ないので、これを用いた本発明の印刷インキ用ゲルワニスおよび印刷インキにおける低沸点物質の量も同様に極めて少ない。このため、本発明によれば、耐乳化性、耐ミスチング性および乾燥性に優れた印刷適性を発現させることができるのである。
本発明の印刷インキは、例えば、枚葉インキ、オフ輪インキ等のオフセットインキや、新聞インキ、凸版インキ等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成(株)製「ハリフェノールP−600」;軟化点175℃)180gと、未使用(バージン)大豆油135gとを200℃に加熱し、同温度で30分間クッキングし、粗製樹脂ワニスとした。これを薄膜蒸留装置(大科工業(株)製「MS−F型」)を使用して、真空度133.32Pa(1Torr)、フィード量5g/分、蒸留温度200℃の条件で蒸留し、低沸点物質4gを留去して、本発明の樹脂ワニスを得た。その後、AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)135gおよびアルミキレート(川研ファインケミカル(株)製「ALCH」)4gを添加して、さらに200℃で1時間クッキングすることにより、粘度76Pa・sのゲルワニス446gを得た。
【0026】
(実施例2)
ロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成(株)製「ハリフェノールP−600」;軟化点175℃)180gと回収再生植物油(飲食店や学校給食等から回収された廃食油に脱酸処理、脱色処理等を施して得た油)135gとを200℃で加熱し、同温度で30分間クッキングし、粗製樹脂ワニスとした。これを薄膜蒸留装置(大科工業(株)製「MS−F型」)を使用して、真空度133.32Pa(1Torr)、フィード量5g/分、蒸留温度200℃の条件で蒸留し、低沸点物質10gを留去して、本発明の樹脂ワニスを得た。その後、日石AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)135gおよびアルミキレート(川研ファインケミカル(株)製「ALCH」)4gを添加して、さらに200℃で1時間クッキングすることにより粘度71Pa・sのゲルワニス440gを得た。
【0027】
(実施例3)
ロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成(株)製「ハリフェノールP−600」;軟化点175℃)180gと回収再生植物油135gとを200℃で加熱し、同温度で30分間クッキングし、粗製樹脂ワニスとした。次に、真空度1333.2Pa(10Torr)、温度200℃で水蒸気を導入し、10分間水蒸気蒸留を行い、低沸点物質15gを留去して、本発明の樹脂ワニスを得た。その後、日石AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)135gおよびアルミキレート(川研ファインケミカル(株)製「ALCH」)4gを添加して、さらに200℃で1時間クッキングすることにより粘度82Pa・sのゲルワニス435gを得た。
【0028】
(比較例1)
実施例1における蒸留を省略したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。すなわち、ロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成(株)製「ハリフェノールP−600」;軟化点175℃)180gと未使用(バージン)大豆油135gとを200℃で加熱し、同温度で30分間クッキングし、粗製樹脂ワニスとした。その後、日石AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)135gおよびアルミキレート(川研ファインケミカル(株)製「ALCH」)4gを添加して、さらに200℃で1時間クッキングすることにより粘度75Pa・sのゲルワニス454gを得た。
【0029】
(比較例2)
実施例2における蒸留を省略したこと以外は、実施例2と同様にして樹脂ワニスを得た。すなわち、ロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成(株)製「ハリフェノールP−600」;軟化点175℃)180gと回収再生植物油(実施例2で用いた回収再生植物油と同じ油)135gとを200℃で加熱し、同温度で30分間クッキングし、粗製樹脂ワニスとした。その後、日石AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)135gおよびアルミキレート(川研ファインケミカル(株)製「ALCH」)4gを添加して、さらに200℃で1時間クッキングすることにより粘度65Pa・sのゲルワニス454gを得た。
【0030】
(比較例3)
真空度1333.2Pa(10Torr)、温度200℃で水蒸気を導入し、10分間水蒸気蒸留を行い、予め低沸点物質を留去した中国産ガムロジン1000g(低沸点物質のカット率は3重量%)を200℃に加熱溶解させ、これにp−オクチルフェノールのレゾール型初期縮合物の75%キシレン溶液1000gを4時間かけて滴下した。次に、グリセリン85gを滴下し、250℃で5時間縮合反応を行い、酸価20mgKOH/g、軟化点170℃、重量平均分子量70,000、ヘキサントレランス3.5g/gのロジン変性フェノール樹脂を得た。得られたロジン変性フェノール樹脂180gと未使用(バージン)大豆油135gとを200℃で加熱し、同温度で30分間クッキングし、粗製樹脂ワニスとした。その後、日石AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)135gおよびアルミキレート(川研ファインケミカル(株)製「ALCH」)4gを添加して、さらに200℃で1時間クッキングすることにより粘度88Pa・sのゲルワニス454gを得た。
【0031】
以上の実施例および比較例で得られたゲルワニスを用いてインキを作成し、下記の方法でインキ適性を評価した。結果は表1に示す。
インキの作成は、次のようにして行なった。すなわち、得られたゲルワニス60gと紅顔料 (東洋インキ製造(株)製「カーミン6B」)18gとを3本ロールミルを用いて混合分散させた後、さらに、得られたインキのタックが5〜5.5、フローが33〜35mmとなるように日石AF6号ソルベント(新日本石油(株)製)および前記ゲルワニスを各々適量添加した。次いで、得られた混合物の総量100重量部に対して0.5重量部の6%ナフテン酸マンガン溶液(ハリマ化成(株)製ドライヤー)をさらに添加し、これを均一に混合して、印刷用インキを得た。
【0032】
<光沢値> インキ0.15mLをRIテスター((株)明製作所製)2分割ロールでアート紙に展色した後、24時間経過した時点で、60°−60°光沢計((株)村上色彩技術研究所製)を用いて光沢値を測定した。
【0033】
<乾燥性> インキ0.2mLをRIテスター((株)明製作所製)4分割ロールでアート紙に展色した後、60分後に印刷面と非印刷面とを重ね合わせて加圧した後、印刷面から非印刷面への転移したインキの量を目視より5段階で判定し、転移したインキの量が最も少ない場合(すなわち、乾燥性が最も優れる場合)を「5」とし、転移したインキの量が最も多い場合(すなわち、乾燥性が最も劣る場合)を「1」とした。
【0034】
<耐ミスチング性> インキ2.7mLをインコメーター(東洋精機(株)製)のロール上塗布し、2000rpmで2分間回転させ、ロ−ル前面と下面に置いた白色紙上へのインキの飛散状態を目視にて観察し、インキの飛散が認められない場合を「良好」、インキの飛散が認められた場合を「不良」と評価した。
【0035】
<耐乳化性(最大乳化量)> リソトロニック乳化試験器(Novocontrol社製)を用い、乳化試験器の回転数を1200rpmとし、40℃において、25gのインキに2mL/分の速度で水を添加していき、インキが飽和した時点の水分量を測定し、インキ(25g)に対する重量%として求めた。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から、実施例1〜3においてはいずれも、各比較例のように蒸留により低沸点物質を除去していない場合と比べ、乾燥性、耐ミスチング性および耐乳化性の全てが良好なインキが得られることが判る。なお、実施例1〜3は、各比較例に比べて光沢値がやや低い傾向があるが、実用上は全く遜色のないレベルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷インキ用樹脂および植物油を混合してなる粗製樹脂ワニスから低沸点物質を蒸留除去して得られる、印刷インキ用樹脂ワニス。
【請求項2】
低沸点物質の除去率が粗製樹脂ワニスの重量に対して1〜10重量%である、請求項1記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
【請求項3】
前記印刷インキ用樹脂がロジン変性フェノール樹脂である、請求項1または2に記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
【請求項4】
前記植物油が、大豆油、亜麻仁油および桐油からなる群より選ばれる少なくとも1種のバージン油である、請求項1〜3のいずれかに記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
【請求項5】
前記植物油が回収再生植物油である、請求項1〜3のいずれかに記載の印刷インキ用樹脂ワニス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の印刷インキ用樹脂ワニスに、インキ溶剤およびゲル化剤をも含有させてなる、印刷インキ用ゲルワニス。
【請求項7】
請求項6記載の印刷インキ用ゲルワニスに顔料を混練してなる、印刷インキ。

【公開番号】特開2007−326889(P2007−326889A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156866(P2006−156866)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】