説明

印刷ヘッドおよびプリンター、ならびにプリンターの制御方法

【課題】記録媒体が印刷ヘッドに貼り付いた場合に容易に記録媒体を剥がせるようにすること。
【解決手段】記録媒体を搬送するプラテンローラーと、前記記録媒体を印刷する印刷部を有して前記プラテンローラーと対峙するヘッド本体部を備える印刷ヘッドと、当該プラテンローラー側に前記印刷ヘッドを付勢する付勢手段と、前記ヘッド本体部を前記プラテンローラーに押圧して支持するとともに、前記プラテンローラーに前記ヘッド本体部を押圧した状態で前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を変える方向に前記ヘッド本体部を移動させる支持機構と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体を印刷ヘッドとプラテンローラーの間に挟んで押圧状態にして、プラテンローラーを回転駆動することにより記録媒体を搬送しながら印刷するプリンターおよびその印刷ヘッド支持機構、ならびにプリンターの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドに対してプラテンローラーを対向配置し、印刷ヘッドとプラテンローラーとの間に記録媒体を挟み込んで搬送しながら印刷するプリンターにおいては、印刷ヘッドとプラテンローラーとの間に記録媒体が挟まれた状態で待機状態に入り、印刷ヘッドに記録媒体が押し付けられた状態のまま、長時間が経過してしまうことがある。このようなプリンターにより、印刷面にコーティングが施された記録媒体などの押圧すると貼り付きやすい記録媒体に印刷すると、待機状態で長時間放置された場合に、印刷ヘッドに記録媒体が貼り付いてしまうことがある。
【0003】
特許文献1には、印刷ヘッド(サーマルヘッド)への記録媒体(ラベル)の押し付け状態が長時間続いたことによる貼り付きを解消するための動作を行うサーマルプリンターが開示されている。このサーマルプリンターでは、所定時間以上印刷待ち状態が続いたときには、印刷ヘッドをプラテンローラー側に押し付けた状態のままプラテンローラーを正逆方向に回転駆動させる制御を行い、印刷ヘッドに貼り付いた記録媒体を搬送方向に沿って前後に繰り返し引っ張って剥がすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−334858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、印刷ヘッドをプラテンローラー側に押し付けて静止させた状態で記録媒体を前後方向に動かそうとしており、せん断力によって記録媒体を印刷ヘッドから剥がす構成である。しかしながら、記録媒体が印刷ヘッドに強く貼り付いている場合、これを剥がすために必要なせん断力は、一般的なモーターによるプラテンローラーの回転駆動力、および、一般的なプラテンローラーと記録媒体との間の摩擦等による力の伝達能力の範囲を超えてしまい、プラテンローラーが滑りを起こして記録媒体を搬送できないおそれがある。従って、記録媒体を十分な力で引っ張ることができず、貼り付きを解消できないおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、記録媒体が印刷ヘッドに強く貼り付いた場合においても容易に記録媒体を剥がすことができるプリンターおよびそのための印刷ヘッドの支持機構、ならびにプリンターの制御方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の印刷ヘッドの支持機構は、記録媒体を印刷する印刷部を有し、前記記録媒体を搬送するプラテンローラーと対峙するヘッド本体部と、前記ヘッド本体部を前記プラテンローラーに押圧して支持するとともに、前記プラテンローラーに前記ヘッド本体部を押圧した状態で前記プラテンローラーと当接する位置を変化させる方向に前記ヘッド本体部を移動させる支持機構と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明は、このような構成により、印刷ヘッドに記録媒体が貼り付いた場合に 、記録媒体が貼り付いた部位(押圧されている部位)をプラテンローラーによる押圧から開放することができる。例えば、印刷ヘッドの移動可能方向に向けて何らかの力を作用させることにより、記録媒体および印刷ヘッドを一体となって移動させ、記録媒体が貼り付いた部位をプラテンローラーによる押圧位置から外すことができる。押圧から開放されると、印刷ヘッドから記録媒体を剥がし起こす方向に記録媒体を動かすことが可能になる。記録媒体を剥がし起こす場合には、せん断力のみによって剥がす場合よりも小さい力で記録媒体が剥がれる。また、記録媒体が貼り付いた状態で印刷ヘッドを移動させることによって記録媒体をたるませたり、通常の搬送経路から外れた位置に移動させることにより、印刷ヘッドから記録媒体を剥がし起こす力を作用させることもできる。従って、容易に、且つ、高い成功率で記録媒体の貼り付きを解消することができる。
【0009】
前記支持機構での前記ヘッド本体部の移動は、前記プラテンローラーの第1の方向への回転もしくは前記第1の方向と逆方向の第2の方向への回転により行うことが望ましい。このようにすると、既存のプラテンローラーによる搬送動作によって貼り付き解消動作を行うことができ、印刷ヘッドを移動させるための駆動源を新たに設ける必要がない。よって、装置構成を複雑にする必要がなく、低コストで貼り付き解消を実現できる。また、通常の記録媒体の搬送方向に沿って記録媒体を搬送するため、印刷ヘッドに対して搬送方向の上流側もしくは下流側において記録媒体をたるませ、記録媒体を剥がし起こす力を作用させることができる。
【0010】
本発明において、前記支持機構は、前記プラテンローラーの回転軸線と平行な回転軸と接触する回転支持面、及び前記回転支持面に連続して前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置の側に延びるガイド面を有し、前記ヘッド本体部と前記プラテンローラーとの当接により、前記回転支持面もしくは前記ガイド面は前記回転軸に押圧し、前記ガイド面に沿って前記回転軸が相対的に移動して前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を移動させるとともに、前記回転支持面で前記支持機構を回転させて前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を移動させる構成とすることができる。このように、印刷ヘッドにガイド面を設けてこれに押し付けられる回転軸をスライド可能にしたことにより、回転軸によって印刷ヘッドを支持しながら、押圧部位をずらす方向に印刷ヘッドを平行移動させることが可能となる。
【0011】
また、本発明において、前記ガイド面は、前記回転支持面の側に向かうに従って前記ヘッド本体部の背面側に延伸する方向に傾斜する傾斜面であることが望ましい。このようにすると、回転軸をガイド面に沿って平行移動させて押圧位置を移動させるのに伴い、印刷ヘッドをヘッド本体部の背面側に後退させることができる。従って、記録媒体が貼り付いた部分が、押圧位置から離れるに従って搬送経路から外れた位置に移動し、これに伴って記録媒体の貼り付き面に対する立ち上がり角度が増大し、記録媒体をヘッド面から剥ぎ起こす力がより大きく作用するようになる。従って、速やかに記録媒体の貼り付きを解消できる。
【0012】
次に、本発明のプリンターは、記録媒体を搬送するプラテンローラーと、前記記録媒体を印刷する印刷部を有して前記プラテンローラーと対峙するヘッド本体部を備える印刷ヘッドと、当該プラテンローラー側に前記印刷ヘッドを付勢する付勢手段と、前記ヘッド本体部を前記プラテンローラーに押圧して支持するとともに、前記プラテンローラーに前記ヘッド本体部を押圧した状態で前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を変える方向に前記ヘッド本体部を移動させる支持機構と、を有することを特徴としている。
【0013】
また、本発明のプリンターにおいて、前記記録媒体を前記プラテンローラーと前記ヘッド本体部とが当接する位置に搬送する搬送経路を有し、前記搬送経路に前記プラテンローラーに対して前記ヘッド本体部が移動する方向と同じ側に位置して前記記録媒体を案内する案内部材を有することが望ましい。このように、印刷ヘッドが移動する側に案内部材を設けて記録媒体の移動経路を規制すると、案内部材から印刷ヘッドまでの狭い区間において記録媒体がたわまざるを得ないため、記録媒体の貼り付き面に対する立ち上がり角度が確実に増大する。よって、積極的に剥ぎ起こす力を作用させることができる。
【0014】
次に、本発明のプリンターの制御方法は、記録媒体の搬送を伴う動作指示を受信し、前記動作指示を受信するまでの印刷待機の期間を計測し、計測された前記印刷待機の期間が、予め定められた期間を超えているとき、印刷ヘッドのヘッド本体部がプラテンローラーに押圧した状態で前記プラテンローラーと当接する位置を変える方向に前記ヘッド本体部を移動させることを特徴としている。ここで、前記印刷待機は、前記ヘッド本体部と前記プラテンローラーとが当接する位置で、前記記録媒体が停止している状態である。
【0015】
本発明によれば、印刷ヘッドに記録媒体が貼り付いた場合に、印刷ヘッドを移動させて、記録媒体が貼り付いた部位をプラテンローラーによる押圧から開放することができる。押圧から開放された部位では、印刷ヘッドから記録媒体を剥がし起こす方向に記録媒体を動かすことが可能になる。また、記録媒体が貼り付いた状態で印刷ヘッドを移動させることによって記録媒体をたるませたり通常の搬送経路から外れた位置に移動させることにより、印刷ヘッドから記録媒体を剥がし起こす力を作用させることができる。従って、容易に、且つ、高い成功率で記録媒体の貼り付きを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のサーマルプリンターの主要部分の断面構成を示す説明図である。
【図2】サーマルヘッドの斜視図である。
【図3】印刷ヘッドの貼り付き解消動作を示す説明図である。
【図4】印刷ヘッドの貼り付き解消動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した印刷ヘッドの支持機構およびこれを備えるプリンターの実施の形態であるサーマルプリンターを説明する。
【0018】
(プリンターの全体構成)
図1は本実施形態のサーマルプリンターの主要部分の断面構成を示す説明図である。サーマルプリンター1(プリンター)は、長尺の記録紙2(記録媒体)をプリンター内の搬送経路3に沿って搬送しながら印刷するものであり、搬送経路3上の所定位置に配置されたプラテンローラー4と、このプラテンローラー4に対向配置されたサーマルヘッド5(印刷ヘッド)を備えている。サーマルプリンター1の装置下面には紙入り口1aが設けられ、この紙入り口1aを通って装置内部に供給される記録紙2が、サーマルヘッド5とプラテンローラー4の間を通るように装填される。サーマルヘッド5およびプラテンローラー4の上方には紙出口1bが設けられ、ここから印刷済みの記録紙2が外部に排出される。記録紙2としては、長尺状の感熱紙や、長尺状の台紙の上に感熱紙のラベルを貼り付けたラベル紙などを用いることができる。
【0019】
紙入り口1aからサーマルヘッド5およびプラテンローラー4に至る上流側の搬送経路部分には、記録紙2を案内するための紙案内部材6(案内部材)が設けられている。本実施形態では、サーマルヘッド5とプラテンローラー4による記録紙2の挟み込み位置Pの真下よりもわずかにプラテンローラー4側(図1の左側)に紙入り口1aが配置されている。従って、紙案内部材6による案内経路は、紙入り口1aに対して右上方向に位置する挟み込み位置Pに向かって傾斜して延びている。紙案内部材6を通った記録紙2は、プラテンローラー4に掛け渡されて上向きに方向転換している。
【0020】
プラテンローラー4には、搬送モーター7の回転駆動力が図示しない歯車等の伝達機構を介して伝達される。プラテンローラー4が正方向(図1の矢印A方向)に回転すると、この回転に伴って記録紙2が紙出口1bに向かって正方向に搬送される。また、逆方向(矢印Aの反対方向)にプラテンローラー4が回転すると、記録紙2が紙入り口1aに向かって逆送される。ここで、本明細書では、紙 出口1bに向かって記録紙2を搬送する搬送方向(印刷時の記録紙2の搬送方向:図1の矢印B方向)を基準搬送方向とする。
【0021】
(印刷ヘッドおよびその支持構造)
図2はサーマルヘッドの斜視図である。図1、図2に示すように、サーマルヘッド5は、プラテンローラー4の側を向いているヘッド本体部8と、ヘッド本体部8の背面側において上下方向に延びている支持フレーム9を備えている。ヘッド本体部8の上端寄りの部分には、記録紙2を加熱して印刷を行うための発熱部8aが設けられている。サーマルヘッド5は、印刷を行うときには、ヘッド本体部8における発熱部8aの部分をプラテンローラー4に正対させ、発熱部8aとプラテンローラー4との間に記録紙2を挟み込んだ状態を形成する。
【0022】
支持フレーム9は、ヘッド本体部8の下方に向かって延びている部分、すなわち、発熱部8aよりも基準搬送方向の上流側に向かって延びている部分に形成された切り欠き部10を備えている。この切り欠き部10は、搬送経路3が設けられている側に向かって開口しており、ヘッド本体部8におけるプラテンローラー4による押圧部位に近い側、すなわち、発熱部8aに近い側が浅く、発熱部8aから遠い側が深い形状となっている。切り欠き部10の底部には直線状のガイド面11が設けられ、ガイド面11の下端には湾曲形状の回転支持面12が連続して形成されている。ここで、ガイド面11はヘッド本体部8に対して傾斜して延びており、その傾斜方向は、回転支持面12の側(図1の下側)に向かうに従ってヘッド本体部8の背面側(図1の右側)に後退する方向となっている。
【0023】
ヘッド本体部8をプラテンローラー4に対峙させるようにサーマルヘッド5を配置すると、サーマルプリンター1の本体フレームに支持されている回転軸13が切り欠き部10の開口側に面した状態となる。回転軸13は、プラテンローラー4の回転軸線と平行に設けられている。サーマルヘッド5は、ヘッド本体部8の背面側に設けられたヘッド押圧バネ14(付勢部材)によってプラテンローラー4の側に付勢されている。ヘッド押圧バネ14の付勢力により、ヘッド本体部 8がプラテンローラー4に押し付けられると共に、切り欠き部10の内側面に回転軸13が押し付けられた状態が形成される。
【0024】
図1に示すように、プラテンローラー4に発熱部8aを正対させると、回転軸13は、切り欠き部10の下端に位置し、回転支持面12に内接した状態となる。このとき、回転軸13の外周面に回転支持面12を摺接させてサーマルヘッド5を回転させることが可能である。すなわち、回転軸13を中心としてサーマルヘッド5が回転可能に支持された状態が形成されている。
【0025】
また、回転軸13は、サーマルヘッド5が記録紙2の基準搬送方向の上流側もしくは下流側(図1の上向き方向もしくは下向き方向)に引っ張られた場合には、ガイド面11に沿ってスライドすることにより、ヘッド押圧バネ14の付勢力に対向してサーマルヘッド5を支持しながら、サーマルヘッド5をガイドして、引っ張り方向に応じた方向に移動させる。つまり、サーマルヘッド5は、回転軸13およびガイド面11を設けたことにより、ガイド面11に沿って回転軸13がスライドするときの動作範囲内で回転軸13に対して相対移動可能に支持されている。
【0026】
(記録紙の貼り付き状態解消動作)
図3は印刷ヘッドにおける記録紙の貼り付き状態解消動作を示す説明図であり、図3(a)は印刷ヘッドと記録紙との貼り付きが発生した状態、図3(b)は印刷ヘッドを移動させて貼り付き部分を押圧から開放した状態、図3(c)は貼り付き解消後に元の位置まで印刷ヘッドを戻した状態を示している。
【0027】
本実施形態では、記録紙2に印刷を行うときには、図1および図3(a)に示すように、回転軸13が回転支持面12に内接する位置にサーマルヘッド5が位置決めされ、発熱部8aがプラテンローラー4における最もサーマルヘッド5の側に突出した部分に正対している。そして、ヘッド押圧バネ14により、回転軸13を中心としてサーマルヘッド5がプラテンローラー4の側に旋回する方向に 付勢され、発熱部8aがプラテンローラー4との間に記録紙2を挟んだ状態でプラテンローラー4側に押し付けられている。サーマルプリンター1の印刷待機状態では、この状態が維持されている。このため、印刷待機状態が長時間続くと、発熱部8aを中心とする被押圧領域Cに押し付けられていた記録紙2が、プラテンローラー4側からの押圧力により、被押圧領域Cに貼り付いた状態が形成される。
【0028】
図4は貼り付き状態解消動作のフローチャートである。サーマルプリンター1の制御部は、印刷開始命令などの記録紙2の搬送を伴う動作の実行命令を受信した場合には、その時点での待機時間T(印刷待機状態の継続時間)が、予め設定した限度時間T0を越えているか否かを判断する(ステップS1)。そして、限度時間T0を越えて印刷待機状態が継続していた場合には(ステップS1:Yes)、ステップS2に進む。一方、待機時間Tが限度時間T0以内であった場合には(ステップS1:No)、ステップS2〜S3を省略してステップS4に進み、印刷動作などの指示された動作を開始する。
【0029】
サーマルプリンター1の制御部は、ステップS2において、記録紙2を基準搬送方向とは逆向きに所定量搬送するための搬送動作を行う。例えば、サーマルヘッド5によって形成される印刷ドットの24ドット分の長さに相当する搬送量だけ記録紙2を逆送するために、プラテンローラー4を24ドット分の逆送りに相当する回転量だけ逆回転させる。このようにすると、被押圧領域Cに貼り付いている記録紙2の部分に、基準搬送方向の上流側に向かう搬送力が作用し、記録紙2を介してサーマルヘッド5が基準搬送方向の上流側に引っ張られる。
【0030】
サーマルヘッド5は、ガイド面11に沿って回転軸13がスライド可能であるため、プラテンローラー4に対して相対移動可能な取り付け状態となっている。従って、被押圧領域Cに貼り付いた記録紙2を介して上流側に引っ張られると、回転軸13をガイド面11に沿ってスライドさせながら、全体として引っ張り方向と同じ側に移動する。このように、プラテンローラー4に対してサーマルヘッド5を相対移動させると、押圧位置が被押圧領域Cから基準搬送方向の下流側に向かってずれてゆく。ステップS2の逆送量は、図3(b)に示すように、被押圧領域Cがプラテンローラー4による押圧位置から完全に外れるまでサーマルヘッド5を移動させることが可能な搬送量である。従って、ステップS2を行うことにより、被押圧領域Cが上流側に移動して押圧から完全に開放される。
【0031】
また、サーマルヘッド5は、ステップS2において移動するとき、ヘッド本体部8の上部が押し付けられているプラテンローラー4、および、ガイド面11に押し付けられている回転軸13によって動きが規制されている。この規制により、サーマルヘッド5は、引っ張り力と完全に同じ移動方向には移動せず、全体として上部をプラテンローラー4側に傾ける方向(図3(b)では反時計回りの方向)にわずかに旋回しながら、ガイド面11と平行な右斜め下向きに下降する方向に移動することとなる。従って、被押圧領域Cは通常の搬送経路3を外れた位置に移動し、被押圧領域Cに貼り付いた記録紙2もまた、通常の搬送経路3を外れた位置に移動する。これにより、被押圧領域Cの上流側において、記録紙2がヘッド面から所定の立ち上がり角度Eをなすように斜めに立ち上がる姿勢となり、被押圧領域Cから記録紙2を剥がし起こす力(図3(b)のF方向に作用する力)が作用する。よって、従来のせん断力によって剥がす方法よりも容易に記録紙2が剥がれる。
【0032】
更に、本実施形態では、上流側の搬送経路3には、プラテンローラー4の手前まで延びる紙案内部材6が設けられ、記録紙2をガイドしている。従って、被押圧領域Cが通常の搬送経路3を外れた位置に移動した場合には、紙案内部材6から被押圧領域Cまでの狭い区間において、記録紙2は、図3(b)において破線で示すたわみ経路Dに沿ってたわんだ状態となる。このたわみ状態は、記録紙2がヘッド面から立ち上がる部分において、立ち上がり角度Eが大きいたわみ状態であり、被押圧領域Cから記録紙2を剥がし起こす力が大きいたわみ状態である。つまり、この状態を形成することにより、記録紙2を高い成功率で剥がすことができる。記録紙2の立ち上がり角度Eは、サーマルヘッド5を図3(a)の位置から図3(b)の位置まで移動させる過程で徐々に増大するため、記録紙2を剥がし起こす力は徐々に増大する。よって、記録紙2をスムーズに剥がすことができる。
【0033】
なお、紙案内部材6を省略した場合には、上流側で記録紙2の経路が規制されないため、記録紙2が大きくゆるやかにたわむことが可能になる。従って、記録紙2の立ち上がり角度Eがそれほど大きくならない。但し、剥がし起こす力は作用するため、従来のせん断力によって剥がす方法よりは容易に剥がすことができる。また、被押圧領域Cの移動先が通常の搬送経路3を大きく外れていない場合においても、逆送による記録紙2のたわみは生じるため、上記の場合ほど大きくはないものの、剥がし起こす力は作用する。よって、従来のせん断力のみによる方法よりも容易に記録紙2を剥がすことができる。
【0034】
サーマルプリンター1の制御部は、ステップS2の動作が完了した後には、ステップS3に進み、ステップS2の逆送量と同一の搬送量だけ記録紙を正方向(基準搬送方向)に搬送する。例えば、プラテンローラー4を24ドット分の正送りに相当する回転量だけ正回転させる。これにより、図3(c)に示すように、記録紙2が待機前の位置に戻り、記録紙2の印刷開始位置がプラテンローラー4による挟み込み位置Pに位置決めされる。また、基準搬送方向に搬送される記録紙2に押し付けられているサーマルヘッド5が記録紙2と共に下流側に引っ張られ、ステップS2で移動した移動経路を逆向きに移動して、発熱部8aとプラテンローラー4との間に記録紙2を挟んだ状態が形成される。なお、このとき、ガイド面11が傾斜しているため、ヘッド押圧バネ14の付勢力が、サーマルヘッド5全体をガイド面11の方向に沿って斜め左上側にスライドさせる力として作用する。以上により、サーマルヘッド5が復帰したら、ステップS4に進み、印刷動作などの指示された動作を開始する。
【0035】
以上のように、本実施形態のサーマルプリンター1は、ヘッド本体部8に貼り付いた記録紙2をプラテンローラー4による押圧から開放して剥がし起こす方向の力を作用させることが可能な、サーマルヘッド5の支持機構を備えている。そして、これにより、容易且つ確実に貼り付き状態を解消することができる。また、この支持機構によるサーマルヘッド5の可動範囲内でサーマルヘッドを移動させる貼り付き状態解消動作を、プラテンローラー4の正逆回転動作のみで実施することができる。従って、サーマルヘッドを移動させるための駆動源を新たに設ける必要がなく、低コストで貼り付き解消を実現できる。
【0036】
(改変例)
(1)上記実施形態では、基準搬送方向の上流側に記録紙2を搬送してプラテンローラー4による押圧位置をずらしていたが、基準搬送方向の下流側に記録紙2を搬送して、貼り付き部位を押圧から開放することも可能である。例えば、サーマルヘッド5および回転軸を、プラテンローラー4による押圧位置を基準として図1の上下方向を逆転させて配置すればよい。このような構成により、基準搬送方向への搬送によって貼り付き状態を解消することができる。また、このとき、紙出口1bの手前に紙案内部材を設けて、上記実施形態の紙案内部材6と同様に、記録紙2を剥がし起こす力を積極的に作用させることも可能である。
【0037】
(2)上記実施形態では、貼り付き状態解消動作として、逆送動作および正方向への搬送動作を1回ずつ行うものであったが、逆送動作および正方向への搬送動作を複数回行うようにしてもよい。これにより、強く貼り付いている記録紙2をより確実に剥がすことができる。
【0038】
(3)上記実施形態では、搬送経路3の側に開口した切り欠き部10を設けて、この底部に回転軸13をスライドさせるガイド面11を設けていたが、切り欠き部10の代わりに、ガイド面11と同一方向に延びる長穴などを形成して、この長穴に回転軸13を取り付ける構成としても良い。
【0039】
(4)上記実施形態のステップS3におけるサーマルヘッド5の復帰をより確実にするために、予め、サーマルヘッド5を上側(基準搬送方向の下流側)に引っ張る付勢部材などを設けておいてもよい。
【0040】
(5)上記実施形態は、発熱部8aを中心として記録紙2がサーマルヘッド5に貼り付くものであったが、貼り付き位置(記録紙2の挟み込み位置)は発熱部8aが設けられた部位に限定されるものではない。
【0041】
(6)上記実施形態は、本発明をサーマルプリンター1に適用したものであったが、他のプリンターにも適用できる。すなわち、本発明は、プラテンローラーと印刷ヘッドとの間に記録媒体を挟んで押圧し、印刷待機時にはこの押圧状態のまま放置されることによって記録媒体が印刷ヘッドに貼り付く可能性がある任意のプリンターに適用できる。また、記録媒体として印刷面にコート層を有する紙やラベル紙を印刷するプリンターに適用できる。
【0042】
(7)上記実施形態では、記録紙2を搬送するための搬送力によってサーマルヘッド5を引っ張って移動させていたが、記録紙2の搬送手段とは別の駆動源によってサーマルヘッド5を移動させてプラテンローラー4との当接位置をずらすように構成してもよい。また、記録紙2の搬送手段とは別の駆動源は、プラテンローラー4の回転力をアシストする駆動源としてもよい。
【0043】
(8)上記実施形態のサーマルプリンター1の構成は、プラテンローラー4と当接するヘッド本体部8は、鉛直面に平行な面で記載されているが、この姿勢には限定されない。プラテンローラー4に対してヘッド本体部8が鉛直面に傾斜して当接させてもよい。この様に当接させた際にも、プラテンローラー4とヘッド本体部8とのニップ領域である被押圧領域C(図3中のヘッド本体部8に記載されたハッチング部)の記録媒体搬送方向の中心を通る鉛直面よりもプラテンローラー側に紙入り口1a、紙案内部材7を配置するのと同様に配置することで上記実施形態と同じ効果を得ることができる。すなわち、紙入り口1a、及び紙案内部材の配置を被押圧領域Cの紙搬送方向の中心を通るプラテンローラー4の接線を含む仮想面よりもプラテンローラー4の側とする。これにより、記録紙をプラテンローラー4に巻き付けることができる。また、支持機構を構成する支持フレーム9に形成されたガイド面11を仮想面から離れる方向に延伸させることによりサーマルプリンター1の本体に構成された回転軸13に沿ってガイド面11が摺接して支持フレーム9が移動する。支持フレーム9の移動により、支持フレーム9に支持されたヘッド本体部8は移動し、ヘッド本体部8の被押圧領域Cは押圧が解除される位置までシフトする。この時、回転軸13は仮想面に対してヘッド本体部8側に配置する。
【0044】
(9)上記実施形態のサーマルプリンター1の制御部は、ステップS2において、サーマルヘッド5によって形成される印刷ドットの24ドット分逆送りに相当する回転量だけ回転させる制御を行なっている。ここでサーマルヘッド5によって形成される印刷ドット24分は、被押圧領域Cに相当する移動量よりも十分に大きい距離を搬送させた構成である。従って上記動作で本願は必ずしも限定されない。本実施形態の被押圧領域Cの紙搬送方向の距離Lは、ヘッド本体部8とプラテンローラー4の押圧力やプラテンローラー4の硬度によって変わるが、印刷ドット10〜12ドット程度である。
【0045】
本願の構成は、サーマルヘッド5への記録紙2の貼り付きを防止するものである。サーマルヘッド5の印刷部である発熱部8aによる貼り付きを解消させるには、以下の動作を行なう。サーマルヘッド5を紙搬送方向の上流側に移動させて解消する動作を行なう場合には、被押圧領域Cの紙搬送方向の上流端から発熱部8aまでの距離L1(<L)以上の距離分、サーマルヘッド5(すなわちヘッド本体部8)を移動させる。一方、サーマルヘッド5を紙搬送方向の下流側に移動させて解消する動作を行なう場合には、被押圧領域Cの紙搬送方向の下流端から発熱部8aまでの距離L2(<L)以上の距離分、サーマルヘッド5(すなわちヘッド本体部8)を移動させる。発熱部8aが被押圧領域の中央にある場合には、L1=L2=1/2Lとなる。即ち、サーマルヘッド5の移動方向側の被押圧領域Cの端部から発熱部8aまでの紙搬送方向の距離移動させることにより、発熱部8aによる貼り付きを解消することができる。
【0046】
また、被押圧領域Cの押圧による貼り付きを解消するには、少なくとも被押圧領域Cの紙搬送方向の距離Lもしくは距離L以上移動させる。これにより、印刷待機時に押圧された被押圧領域Cに対応する記録紙Cの押圧が解除され、貼り付きを解消することができる。
【0047】
(10)上記実施形態では、紙案内部材6を省略した場合にも剥がし起こす力が作用する。これは、サーマルヘッド5が紙搬送方向の上流側に移動するときには記録紙2の紙搬送方向の下流側は、被押圧領域Cに対応する位置の記録紙とは異なる位置の記録紙がヘッド本体部8とプラテンローラー4との押圧により支持される。一方、記録紙2の紙搬送方向の上流側は、紙入り口1aや、記録紙2としてロール紙を用いた場合にロールにより記録紙2の上流端側が支持される。紙案内部材6よりもサーマルヘッド5から離れた位置で記録紙2の上流端を支持しているので剥がし起こす力は弱くなるが、引き剥がし力は作用する。
【0048】
(11)上記実施形態の待機時間T(印刷待機状態の継続時間)は、プラテンローラー4とヘッド本体部8との押圧で形成されるニップ領域(印刷待機時の被押圧領域)に記録紙2が停止し始めた時から、記録紙2の搬送動作を伴う印字開始命令を受信するまでの時間である。具体的な例としては、印刷動作が終了して、ヘッド本体部8がプラテンローラー4に押圧した状態でプラテンローラー4が停止してから、次の印刷命令を受信するまでの時間である。この時間を図示されないタイマー(計時手段)で計測して計測された情報から待機時間を求める。プラテンローラー4が停止した状態で電源がオフになった場合でもプラテンローラー4とヘッド本体部8とが押圧している状態が継続している構成の場合には、タイマーで電源オフ時も待機時間として計測する。
【0049】
(12)上記の実施形態では、ステップS2の動作が完了した後には、ステップS3に進み、ステップS2noの逆送量と同一の範送量だけ記録紙を正方向に搬送しているが、この動作に限定されない。例えば、印刷待機時の被押圧領域Cに位置した記録紙2に印刷することを避ける場合には逆送量よりも長い距離搬送させることができる。印刷待機時に被押圧領域Cに位置した記録紙2の全領域への印刷を避ける場合には、逆送量に被押圧領域の紙搬送方向の距離を加えた距離もしくはそれ以上の距離を移動させる。
【符号の説明】
【0050】
1…サーマルプリンター(プリンター)、1a…紙入り口、1b…紙出口、2…記録紙(記録媒体)、3…搬送経路、4…プラテンローラー、5…サーマルヘッド(印刷ヘッド)、6…紙案内部材(案内部材)、7…搬送モーター、8…ヘッド本体部、8a…発熱部、9…支持フレーム、10…切り欠き部、11…ガイド面、12…回転支持面、13…回転軸、14…ヘッド押圧バネ、A…正方向、B…基準搬送方向、C…被押圧領域、D…たわみ経路、E…立ち上がり角度、F…剥がし起こし方向、P…挟み込み位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を印刷する印刷部を有し、前記記録媒体を搬送するプラテンローラーと対峙するヘッド本体部と、
前記ヘッド本体部を前記プラテンローラーに押圧して支持するとともに、前記プラテンローラーに前記ヘッド本体部を押圧した状態で前記プラテンローラーと当接する位置を変化させる方向に前記ヘッド本体部を移動させる支持機構と、
を備えることを特徴とする印刷ヘッド。
【請求項2】
前記支持機構での前記ヘッド本体部の移動は、前記プラテンローラーの第1の方向への回転もしくは前記第1の方向と逆方向の第2の方向への回転により行う請求項1に記載の印刷ヘッド。
【請求項3】
前記支持機構は、前記プラテンローラーの回転軸線と平行な回転軸と接触する回転支持面、及び前記回転支持面に連続して前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置の側に延びるガイド面を有し、
前記ヘッド本体部と前記プラテンローラーとの当接により、前記回転支持面もしくは前記ガイド面は前記回転軸に押圧し、
前記ガイド面に沿って前記回転軸が相対的に移動して前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を移動させるとともに、前記回転支持面で前記支持機構を回転させて前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を移動させる請求項1又は2に記載の印刷ヘッド。
【請求項4】
前記ガイド面は、前記回転支持面の側に向かうに従って前記ヘッド本体部の背面側に延伸する方向に傾斜する傾斜面である請求項3に記載の印刷ヘッド。
【請求項5】
記録媒体を搬送するプラテンローラーと、
前記記録媒体を印刷する印刷部を有して前記プラテンローラーと対峙するヘッド本体部を備える印刷ヘッドと、
当該プラテンローラー側に前記印刷ヘッドを付勢する付勢手段と、
前記ヘッド本体部を前記プラテンローラーに押圧して支持するとともに、前記プラテンローラーに前記ヘッド本体部を押圧した状態で前記ヘッド本体部の前記プラテンローラーと当接する位置を変える方向に前記ヘッド本体部を移動させる支持機構と、
を有することを特徴とするプリンター。
【請求項6】
前記記録媒体を前記プラテンローラーと前記ヘッド本体部とが当接する位置に搬送する搬送経路を有し、
前記搬送経路に前記プラテンローラーに対して前記ヘッド本体部が移動する方向と同じ側に位置して前記記録媒体を案内する案内部材を有する請求項5に記載のプリンター。
【請求項7】
記録媒体の搬送を伴う動作指示を受信し、
前記動作指示を受信するまでの印刷待機の期間を計測し、
計測された前記印刷待機の期間が、予め定められた期間を超えているとき、印刷ヘッドのヘッド本体部がプラテンローラーに押圧した状態で前記プラテンローラーと当接する位置を変える方向に前記ヘッド本体部を移動させることを特徴とするプリンターの制御方法。
【請求項8】
前記印刷待機は、前記ヘッド本体部と前記プラテンローラーとが当接する位置で、前記記録媒体が停止している状態である請求項7に記載のプリンターの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−61848(P2012−61848A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170775(P2011−170775)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】