説明

印刷方法、印刷装置および紫外線照射システム

【課題】色にじみを的確に防止しつつ良好なレベリング性を維持することができる紫外線硬化型インキを用いた印刷装置を提供する。
【解決手段】印刷装置は、複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体Pに印刷する複数の印刷ユニット2を印刷媒体Pの搬送方向に沿って備え、複数の印刷ユニット2の間に配置された紫外線を照射する第1紫外線照射部3と、複数の印刷ユニット2の搬送方向の下流側に配置された紫外線を照射する第2紫外線照射部4と、を備えている。また、印刷ユニット2は印刷媒体Pと接触することにより紫外線硬化型インキを印刷する。第1紫外線照射部3に第1照射条件で紫外線を照射させ、第1紫外線照射部3の搬送方向上流側の印刷ユニット2により印刷された紫外線硬化型インキを準硬化させる。第2紫外線照射部4に第2照射条件で紫外線を照射させ、印刷された紫外線硬化型インキを全硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷、凹版印刷、平板印刷など、版を印刷媒体に接触することによりインキを印刷する印刷技術に関し、特に、紫外線硬化型のインキを用いる印刷技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線を照射することにより硬化する紫外線硬化型インキを用いた印刷装置が実用化されてきている。非吸収性素材(プラスチックや樹脂フィルム等)に対しては従来の熱硬化型のインキ等では印刷が困難であったが、この紫外線硬化型インキは、インキが硬化してから定着するまでの時間が極めて短いため、このような素材に対しても印刷が可能であり、広い用途が期待されている。また、揮発性有機化合物を含まないため、環境面での利点も有している。
【0003】
この紫外線硬化型インキを硬化させるためには強度の紫外線が必要であり、また、均一に硬化させる必要もある。そのため、様々な技術が提案されている。例えば、搬送される印刷媒体に紫外線硬化材料を転移させ、光源装置からの紫外線を含む光を該印刷媒体に照射して該紫外線硬化材料を硬化させる印刷機であって、前記光源装置は、紫外線を含む光を照射する複数の発光ダイオードを、それらの照射領域が相互に関連するように組み合わせられ、幅方向に略均一な照射領域を形成するように構成されている印刷機がある(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1の技術では、複数の色を印刷するための複数の印刷ユニットが備えられており、全印刷ユニットの搬送側下流に紫外線硬化材料(UVインキ等)を硬化させるための複数のUV発光ダイオードが備えられている。この複数のUV発光ダイオードは、幅方向(搬送方向に直交する方向)に互いの照射領域が相互に関連するように並べられている。これにより、幅方向に略均一に紫外線を照射でき、印刷媒体上の紫外線硬化材料を幅方向で略均一に硬化させることにより、紫外線硬化材料の部分的硬化不良等の印刷不良を防止することができる。
【0005】
上述したように、特許文献1の技術では、幅方向における紫外線硬化材料の部分的な硬化不良を防止できるものである。しかしながら、特許文献1のように複数の色を印刷するための複数の印刷ユニットを備えた印刷機では、各色が逐次印刷される。そのため、既に印刷された色のインキが硬化していない状態で次の色を印刷するとインキ同士が交じり合い、にじみを生じるおそれがある。このようなにじみを発生させないためには、紫外線による硬化効率が高い紫外線硬化型インキを用いることや、照射する紫外線の光出力を上げること等が考えられる。しかし、紫外線硬化型インキの硬化効率を上げるためには、新たな紫外線硬化型インキを開発する必要があり、また、紫外線の光出力を上げるためには、装置の大型化を招くことや消費電力が大きくなるなど、様々な問題を有している。
【0006】
一方、インクジェットプリンタにおいて、プリントヘッドから噴射した液状の紫外線硬化型インクの混合を防止するために、例えば、紫外線硬化型インクを噴射するプリントヘッドに対して印刷媒体の搬送方向後方で、プリントヘッド近傍に短波長の紫外線を照射するとともにプリントヘッドから離れた領域で長波長の紫外線を照射する等の記録装置が提案されている(特許文献2,3,4参照)。
【0007】
この特許文献2,3および4の記録装置では、噴射直後の紫外線硬化型インクの表面のみを硬化させることにより、噴射直後の紫外線硬化型インクとその後噴射される紫外線硬化型インクとが混合することを防止し、にじみや色混じりという不具合を回避している。また、全ての紫外線硬化型インクの噴射が完了した時点で紫外線硬化型インクの内部までの硬化を行うことにより、紫外線硬化型インクを定着させ、こすれ等により画質低下が生じることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−207369号公報(段落番号0006−0007,図1,2)
【特許文献2】特開2008−188984号公報
【特許文献3】特許第3991362号公報(段落番号0012−0015)
【特許文献4】特許第4157336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、特許文献2,3および4の技術では、それぞれの色の紫外線硬化型インクが噴射される度に、その噴射された紫外線硬化型インクの表面のみを硬化させた後に次の色の紫外線硬化型インクを噴射するものである。これらの特許文献においては、半硬化やプレ硬化という表現を用いているが、この硬化状態は、インクジェットプリンタにおける紫外線硬化型インクの混合を防止するためのものであるため、例えば、紫外線硬化型インクの表面に硬化皮膜を生じる程度や、液状の紫外線硬化型インク同士が交じり合わない程度に増粘する程度の硬化でも充分である。しかし、印刷ユニット(版)を印刷媒体に接触することにより印刷を行う印刷装置においては、次の色の印刷を行う際には、印刷ユニットが印刷媒体と接触するため、この程度の硬化では不充分である。
【0010】
また、印刷装置において紫外線を照射することで紫外線硬化型インキを硬化する際には、強い紫外線を照射すると、急激に紫外線硬化型インキが硬化されることとなり、紫外線硬化型インキの表面が例えば粒状に近い状態のままで硬化して積層するため印刷面に凹凸が生じ、レベリング性(平滑性)が低下するおそれがある。一方、照射する紫外線が弱い場合には、硬化が不十分な紫外線硬化型インキに対して次の印刷が行われるため、色にじみだけでなく、印刷面の紫外線硬化型インキと印刷ユニット(版)との接触により、印刷表面が凹んだり、次の印刷時において印刷ユニット(版)が離面する際に紫外線硬化型インキどうしの接着性により印刷されている紫外線硬化型インキが剥がれたり、その剥がれた紫外線硬化型インキが印刷ユニット(版)に付着したりするおそれがある。このように、印刷ユニット(版)間で照射する紫外線の量に過不足があると、印刷物の品質低下を招くため好ましくない。つまり、印刷ユニット(版)間における紫外線硬化型インキの硬化度合は重要であり、紫外線硬化型インキは少なくとも次の印刷により影響を受けない程度に、表面および深部(印刷媒体との接触部を含む)にわたって適度に硬化させる必要がある。
【0011】
本発明の目的は、このような課題に鑑み、印刷ユニット(版)間の紫外線硬化型インキを次の印刷時に影響を受けない程度に硬化させることにより、色にじみを的確に防止しつつ良好なレベリング性を維持することができる紫外線硬化型インキを用いた印刷技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の印刷方法は、複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えるとともに、前記複数の印刷ユニットの間に配置された紫外線を照射する第1紫外線照射部と、前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置された紫外線を照射する第2紫外線照射部と、を備えた印刷装置であって、前記印刷ユニットは前記印刷媒体と接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷する印刷装置における印刷方法であって、前記第1紫外線照射部に第1照射条件で紫外線を照射させ、当該第1紫外線照射部の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させるステップと、前記第2紫外線照射部に第2照射条件で紫外線を照射させ、印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させるステップと、を備えている。
【0013】
この構成では、第1紫外線照射部からの紫外線により、その第1紫外線照射部の搬送方向上流に位置する印刷ユニットにより印刷された紫外線硬化型インキを準硬化させる。本発明における準硬化とは、印刷された紫外線硬化型インキと次の印刷ユニットにより印刷される紫外線硬化型インキとが交じり合わない程度に硬化するとともに、印刷された紫外線硬化型インキの印刷面が次の印刷ユニットによる印刷時に影響を受けることがない程度に、表面および深部にわたって硬化した状態である。特に、本発明に用いる印刷装置は印刷ユニットと記録媒体とが接触することにより印刷を行うものであるため、印刷ユニット間の紫外線硬化型インキは、印刷ユニットが印刷面と接触してもその印刷面が変化(印刷面のつぶれ、インキの剥がれ等)しない程度に硬化している状態であることが重要である。このように、本構成では印刷された紫外線硬化型インキは第1紫外線照射部により準硬化されるため、レベリング性を維持しつつ、次の印刷ユニットによる印刷の影響を受けることがない。さらに、全ての印刷が完了すると第2紫外線照射部により全硬化されるため、印刷品質を保持することができる。
【0014】
上述のような準硬化を実現する第1照射条件としては様々なパラメータを用いることができる。本発明の印刷方法の好適な実施形態の一つでは、前記第1照射条件は前記印刷媒体の搬送速度に基づいて決定される前記第1紫外線照射部のピーク照度である。なお、本発明における「照度」とは、被照射物の表面における単位面積当たりに受ける照射強度を示すものであり、「ピーク照度」とは光源の直下等で得られる最大の照度の値を示すものである。
【0015】
本発明の発明者らの実験により、紫外線硬化型インキの硬化度合は照射する紫外線の積算光量の影響が大きいことが判明している。積算光量は、第1紫外線照射部のピーク照度に比例し、印刷媒体の搬送速度に反比例するものである。したがって、紫外線硬化型インキを準硬化させる適切な積算光量が決定され、印刷装置の仕様(搬送速度等)が決まれば、第1紫外線照射部のピーク照度を定めることができる。
【0016】
上述の印刷方法の技術的特徴は同様の印刷装置にも適用することができる。例えば、複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えた印刷装置であって、前記印刷ユニットは前記印刷媒体と接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷し、前記複数の印刷ユニットの間に配置され、紫外線を照射する第1紫外線照射部と、前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置され、紫外線を照射する第2紫外線照射部と、を備え、前記第1紫外線照射部は第1照射条件で紫外線を照射することにより当該第1紫外線照射部の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させ、前記第2紫外線照射部は第2照射条件で紫外線を照射することにより印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させる印刷装置に適用することができる。当然ながら、このような印刷装置も上述の印刷方法と同様の作用効果を奏するものであり、上述の印刷方法の付加的特徴を適用することもできる。
【0017】
また、上述の技術的特徴は、紫外線照射システムにも用いることができる。つまり、複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えるとともに当該印刷ユニットと前記印刷媒体とが接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷する印刷装置に用いられる紫外線照射システムであって、前記複数の印刷ユニット間に配置され、紫外線を照射する第1紫外線照射装置と、前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置され、紫外線を照射する第2紫外線照射装置を備え、前記第1紫外線照射装置は、当該第1紫外線照射装置の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させるための中心波長λsの紫外線を照射する紫外線半導体発光素子を備えており、前記第2紫外線照射装置は、印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させるための前記中心波長λsより長波長の中心波長λhを含む紫外線を照射する紫外線照射システムにも適用することができる。
【0018】
この構成では、印刷ユニット間には中心波長λsの紫外線半導体発光素子を備える第1紫外線照射装置を配置し、複数の印刷ユニットの搬送方向下流側にはλsよりも長波長の中心波長λhを含む紫外線を照射する第2紫外線照射装置を配置しているため、第1紫外線照射装置から照射される紫外線により、未硬化の紫外線硬化型インキを準硬化させるとともに、準硬化している紫外線硬化型インキの表面をより重点的に準硬化させることができる。一方、第2紫外線照射装置からの紫外線の照射により、紫外線硬化型インキの深部を含む全体を全硬化させることができる。このように、第1紫外線照射装置からの紫外線の照射によって、紫外線硬化型インキの表面をより重点的に準硬化させることができるため、次の印刷ユニットの接触によっても印刷表面が変化することなく、順次印刷を行うことができる。なお、印刷媒体と紫外線硬化型インキとの接触部の密着性が高い場合には、第1紫外線照射装置によって、紫外線硬化型インキの表面をより重点的に準硬化させることが好ましい。
【0019】
また、上述の技術的特徴は、複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えるとともに当該印刷ユニットと前記印刷媒体とが接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷する印刷装置に用いられる紫外線照射システムであって、前記印刷ユニット間に配置され、紫外線を照射する第1紫外線照射装置と、前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置され、紫外線を照射する第2紫外線照射装置を備え、前記第1紫外線照射装置は、当該第1紫外線照射装置の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させるための中心波長λhの紫外線を照射する紫外線半導体発光素子を備えており、前記第2紫外線照射装置は、印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させるための前記中心波長λhより短波長の中心波長λsを含む紫外線を照射する紫外線照射システムにも適用することができる。
【0020】
この構成では、印刷ユニット間には中心波長λhの紫外線半導体発光素子を備える第1紫外線照射装置を配置し、複数の印刷ユニットの搬送方向下流側にはλhよりも短波長の中心波長λsを含む紫外線を照射する第2紫外線照射装置を配置しているため、第1紫外線照射装置から照射される紫外線により、準硬化している紫外線硬化型インキの深部をより重点的に準硬化させることができる。一方、第2紫外線照射装置からの紫外線の照射により、紫外線硬化インキの表面を含む全体を全硬化させることができる。このように、第1紫外線照射装置からの紫外線の照射によって、紫外線硬化型インキの深部をより重点的に準硬化させることができるため、表面のレベリング性を維持することができる。また、紫外線硬化型インキと印刷媒体との接触部の密着性を強くすることができるため、次の印刷ユニットの接触によっても紫外線硬化型インキが剥がれることなく、順次印刷を行うことができる。なお、例えば印刷媒体が樹脂フィルムの場合のように、印刷媒体と紫外線硬化型インキとの接触部を確実に密着させる必要がある印刷媒体を用いる場合には、第1紫外線照射装置によって紫外線硬化型インキの深部をより重点的に準硬化させることが好ましい。
【0021】
本発明の紫外線照射システムの好適な実施形態の一つでは、前記第2紫外線照射装置は、前記中心波長λsと前記中心波長λhとの紫外線を照射する。
【0022】
この構成では、第2紫外線照射装置の紫外線半導体発光素子より、短波長と長波長の紫外線を照射するため、紫外線硬化型インキの表面および深部を確実に全硬化することができる。第1紫外線照射装置において短波長の紫外線を照射して、紫外線硬化型インキの表面をより重点的に準硬化させてあったとしても、また第1紫外線照射装置において長波長の紫外線を照射して、紫外線硬化型インキの深部をより重点的に準硬化させてあったとしても、第2紫外線照射装置においては、紫外線硬化型インキの表面および深部を全硬化させることができるのである。更に、印刷装置の最下流側に位置している印刷ユニットの下流側には第1紫外線照射装置を必ずしも配置する必要がないため、印刷装置全体の構成を簡素化することができる。
【0023】
本発明の紫外線照射システムの好適な実施形態の一つでは、前記中心波長λsは360nm〜370nmの間にあり、前記中心波長λhは380nm〜390nmの間にある。特に好ましくは、前記中心波長λsは365nmであり、前記中心波長λhは385nmである。
【0024】
この構成では、中心波長λsが365nmの紫外線を照射することにより、ラジカル系の紫外線硬化型インキの表面を効率的に硬化させることができる。また、紫外線の中心波長λhが385nmとなるように設定することにより、ラジカル系の紫外線硬化型インキの深部を効率的に硬化させることができる。なお、紫外線を照射する紫外線半導体発光素子は、製造上約5nm程度の製造誤差を含むことがあるため、中心波長λsは360nm〜370nmの間にあり、中心波長λhは380nm〜390nmの間にあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】サテライト型の印刷装置の構成の概要を示す側面図である。
【図2】紫外線照射部を示す斜視図である。
【図3】第1紫外線照射部から照射される紫外線を示す図である。
【図4】実施例1における第2紫外線照射部から照射される紫外線を示す図である。
【図5】実施例2における第2紫外線照射部から照射される紫外線を示す図である。
【図6】紫外線半導体発光素子の発光強度の特性を示す図である。
【図7】紫外線ランプの発光強度の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の印刷装置を説明する。図1に示すように、本実施形態の印刷装置は、駆動回転するセンタードラム1、このセンタードラム1の外周に沿って配置された複数の印刷ユニット2、印刷が行われた印刷媒体Pの印刷面に紫外線を照射する第1紫外線照射部3(第1紫外線照射装置)を備えている。
【0027】
また、この印刷装置は、シート状の印刷媒体Pを保持する供給部5を備え、この印刷媒体をガイドローラ6によりセンタードラム1に供給している。センタードラム1に供給された印刷媒体Pは、センタードラム1の回転に伴い図中時計回り(本発明における搬送方向)に搬送される。このとき、印刷ユニット2が印刷媒体Pの表面(印刷ユニット2に対向する側の面。以下、印刷面と称する)と接触することにより、印刷媒体Pの表面に紫外線硬化型インキ(以下、UVインキと称する)を印刷する。
【0028】
本実施形態の印刷装置は、ブラック(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の4色のUVインキにより印刷を行うように構成されている。そのため、この印刷装置では、印刷ユニット2は各色に対応する印刷ユニット2K,2C,2M,2Yを備えている。また、この印刷装置は、表面仕上げ等の目的のため透明なUVインキ(OP)によるオーバーコートを行うための印刷ユニット2Pを備えている。
【0029】
本発明の印刷装置は、各印刷ユニット2の間および印刷ユニット2Pの搬送方向下流側に第1紫外線照射部3が備えられている。この第1紫外線照射部3は、いずれか一つの印刷ユニット2(例えば、印刷ユニット2K)により印刷が行われると、次の印刷ユニット2(例えば、印刷ユニット2C)により印刷が行われる前に、印刷を行った印刷ユニット2(例えば、印刷ユニット2K)の直後に配置された第1紫外線照射部3から紫外線が照射され、印刷ユニット2(例えば、印刷ユニット2K)により印刷されたUVインキが準硬化される。これにより、先に印刷されたUVインキと混じり合うことによるにじみや、次の印刷ユニット2との接触による印刷面の変化を防止することができる。なお、本発明における準硬化とは後述する方法により定められる程度の硬化度合である。
【0030】
図2に示すように、第1紫外線照射部3は、複数の列状に複数の紫外線発光半導体素子Dが配置されており、第1紫外線照射部3の長手方向が印刷媒体Pの搬送方向に直交する方向(以下、幅方向と称する)に沿う姿勢で印刷装置に設置される。これにより、幅方向に略均一に紫外線を照射することができ、印刷媒体Pの搬送に伴って印刷媒体P全体に紫外線を照射することができる。なお、第1紫外線照射部3からの紫外線を印刷媒体P上のUVインキの狭い範囲に照射することで、UVインキ表面に紫外線のエネルギーを集中させ、迅速にUVインキの表面を硬化させることで印刷の高速化を図ることができる。そのため、本実施形態では、図3に示すように、第1紫外線照射部3からの紫外線は略平行光として照射されるように構成されている。これにより、第1紫外線照射部3から照射される紫外線をUVインキ表面に集中させ、UVインキ表面を迅速かつ的確に硬化させることができる。なお、第1紫外線照射部3の光源として、直進性の高い砲弾型LED等を用いた場合にはこのような特別な構成は不要であるが、直進性の低い光源を用いた場合には、照射された光を略平行とするための反射面や反射部材、あるいは棒状のレンズ設置の構成が必要となる。例えば、紫外線発光半導体素子Dからの放射角度が120度であれば、挟角を60度とする断面漏斗状の反射面を用いることにより、第1紫外線照射部3から照射される紫外線を略平行とすることができる。
【0031】
本実施形態における第1紫外線照射部3は、紫外線発光半導体素子Dを幅方向に30、搬送方向に5のグリッド配置としている。この紫外線半導体発光素子Dは、図6(a)に示すように中心波長(ピーク波長)385nmの紫外線を照射するものであり、第1紫外線照射部3は、ピーク照度1000mW/cm2の強さで照射することができるように設定されている。ここで、紫外線半導体発光素子Dの発光強度特性は、図6に示すように、中心波長から離れる波長帯ほど発光量が低下している。なお、この第1紫外線照射部3は印刷媒体Pの表面と、紫外線発光半導体発光素子Dの表面とが5mm離れるように配置されている。
【0032】
また、本実施形態の印刷装置は、全ての印刷ユニット2よりも搬送方向下流側に第2紫外線照射部4(第2紫外線照射装置)が備えられている。本実施例では、第2紫外線照射部4は紫外線ランプLにより構成されている。紫外線ランプLは水銀ランプであり、この水銀ランプは図7に示すように、複数のピーク照度を有し、広帯域の紫外線を照射することができる。この第2紫外線照射部4から照射される紫外線の波長帯域は第1紫外線照射部3から照射される紫外線の波長帯域よりも長波長の紫外線を含んでおり、第2紫外線照射部4からの光強度は第1紫外線照射部3からの光強度よりも高出力(第2照射条件)となっている。また、第2紫外線照射部4から照射される紫外線は、図4に示すように放射角度120度程度の拡散光となっている。
【0033】
また、この第2紫外線照射部4における紫外線ランプLは、広範囲の紫外線波長帯域における紫外線をピーク照射量7000mW/cm2の強さで照射することができる。また、この第2紫外線照射部4は印刷媒体Pの表面と紫外線ランプLとが120mm離れるように配置されている。
【0034】
第1紫外線照射部3からの紫外線は、UVインキのにじみや印刷面の変化を防止するためにUVインキを準硬化させることを目的としたものである。その際に、第1紫外線照射部3において、例えば図6(b)に示すような中心波長365nmの発光強度特性を有するエネルギーの高い短波長帯域の紫外線を照射するようにしてもよい。なお、第1紫外線照射部3では、照射光を集中させ、迅速にUVインキを硬化させるために、照射光を略平行光としている。ただし、第1紫外線照射部3からの紫外線は、UVインキのにじみや印刷面の変化を防止するためにUVインキが準硬化するのに必要最小限の光量となっている。一方、第2紫外線照射部4からの紫外線は、UVインキ全体を全硬化させることを目的としたものである。そのため、第2紫外線照射部4ではUVインキの深部にも到達し易い長波長帯域を含む紫外線を用いている。
【0035】
本実施形態においては、第1紫外線照射部3における紫外線半導体発光素子Dの配置を、搬送方向に5列としたが、これに限定されるものではなく、1列配置、2列配置、またはそれら以上の多列配置としても構わない。
【0036】
また、センタードラム1の表面を鏡面加工しても構わない。それにより、印刷媒体Pが透明な素材である場合や、印刷媒体Pの幅がセンタードラム1の幅よりも短い等の場合には、第1紫外線照射部3から照射された紫外線がセンタードラム1の表面の反射により、再度印刷媒体P側に返されるため、第1紫外線照射部3から照射された紫外線を効率的に利用することができる。また、同様の目的で、印刷媒体Pを挟んで第2紫外線照射部4と対向する位置に反射部材7を設けても構わない。このような構成は、照射光を有効に利用できるため、特に好ましい。
【0037】
〔実験1:第1照射条件を定めるための実験〕
上述したように、第1紫外線照射部3は搬送方向上流側の直前に配置された印刷ユニット2により印刷されたUVインキを準硬化させるものである。本発明における準硬化とは、印刷されているUVインキが次の印刷ユニット2により印刷による影響を受けない程度に表面および深部にわたって硬化した状態である。すなわち、印刷されたUVインキと次に印刷されるUVインキとが交じり合わない程度の硬化が要求される。特に、本発明の印刷装置は印刷ユニット2と印刷媒体Pとが接触することにより印刷を行うものであるため、その接触により印刷面が変化したり、印刷されたUVインキが剥がれたりしない程度の硬化(準硬化)状態が要求される。
【0038】
UVインキをこのような準硬化状態にさせる条件(第1照射条件)は様々なパラメータを含んでいる。例えば、第1紫外線照射部3のピーク照度、UVインキに照射する紫外線の積算光量、第1紫外線照射部3と印刷媒体Pとの距離等が第1照射条件のパラメータとなり得る。以下に、UVインキを準硬化させる第1照射条件を定めるための実験の一例を説明する。
【0039】
本実験では、第1紫外線照射部3の紫外線半導体発光素子Dとして中心波長が385nmの紫外線を照射するLEDを採用し、500mAの電流で駆動した。印刷媒体Pはコート紙を用い、第1紫外線照射部3と印刷媒体Pとの距離を5mmとした。また、UVインキは墨色の単色のラジカル系UVインキを用い、印刷媒体Pに対して全面印刷を行った。なお、印刷媒体Pの印刷面の濃度を測定することにより、各条件において印刷されたUVインキの量が一定であることを確認した。
【0040】
このような実験環境において、印刷媒体にUVインキを印刷し、様々な条件で第1紫外線照射部3から紫外線を照射し、UVインキの硬化の程度を評価し、UVインキを準硬化させる第1照射条件を求めた。なお、本実験では第1照射条件のパラメータは積算光量とした。そのため、紫外線半導体発光素子Dのピーク照度を一定(1430mW/cm2)とし、搬送速度を変化させることにより積算光量を変化させた。
【表1】

【0041】
表1に示すように、UVインキの硬化の程度の評価は押圧性、擦過性、密着性により行った。押圧性の評価は、印刷されたUVインキを指で押した状態で指を回転させ、印刷面の状態を上記4段階に評価したものである。擦過性の評価は、印刷されたUVインキを爪で擦った際の印刷面の状態を上記4段階に評価したものである。また、密着性の評価は、印刷面に対してテープを貼り付けた後に剥がした際のテープへの印刷媒体Pの繊維の付着状態を上記2段階に評価したものである。なお、本実験では、全ての評価結果が○または△であれば準硬化、一つでも▲または×の評価結果があるときは未硬化とした。また、参照実験として、UVインキが完全に硬化する条件も求めた。上記の擦過性のテストにおいて、印刷表面を強く擦っても状態に変化がない状態を完全硬化(全硬化)とした。表2において、完全硬化の評価結果を◎で示している。
【表2】

【0042】
表2は、搬送速度を変化させることにより積算光量を変化させた場合のUVインキの硬化状態の評価結果である。上述したように、本実験では紫外線半導体発光素子Dのピーク照度を一定としているため、積算光量は搬送速度に反比例している。表2から明らかなように、積算光量が増大するに連れて各評価項目の評価結果も向上している。
【0043】
上述したように、本実験では全ての評価項目の評価結果が○または△となった場合を準硬化としている。したがって、本実験では積算光量が163mJ/cm2以上であればUVインキは準硬化していることとなる。したがって、本実験において求められた第1照射条件は、積算光量≧163mJ/cm2であり、好ましくは、積算光量=163mJ/cm2である。本実験に基づいて、UVインキを準硬化させるのに必要な第1照射条件を定めることができるが、その際には、消費電力を最小限に抑えるために、UVインキを準硬化させるのに必要な最小の積算光量に基づいて、第1照射条件を設定することが好ましい。
【0044】
なお、上述の実験から積算光量が81mJ/cm2から163mJ/cm2の間に未硬化から準硬化に遷移する閾値が存在すると考えられるため、積算光量をこの間で密に変化させて、その閾値を求め、第1照射条件としても構わない。
【0045】
なお、本実験では紫外線半導体発光素子Dのピーク照度を固定して、印刷媒体Pの搬送速度を変化させた際の第1照射条件であるが、搬送速度を固定しピーク照度を変化させた際には、搬送速度に応じて上記積算光量となるピーク照度を第1照射条件とすればよい。
【0046】
このように、本実験では印刷されたUVインキの硬化の程度を3つの尺度(押圧性、擦過性、密着性)により評価し、その評価結果に基づいて第1照射条件を決定したが、第1照射条件の決定方法はこれに限定されるものではない。例えば、上述の実験では全ての評価項目の評価結果が○または△となった場合を準硬化としたが、通常の印刷状態で印刷面の擦れは生じにくいため、擦過性の評価結果を▲にまで緩和しても構わない。この場合には、上述の実験では第1照射条件は積算光量=81mJ/cm2となる。また、上述の評価項目に加えて/代えて、他の評価項目を用いても構わない。本発明において重要なのは、いずれか一つの印刷ユニット2により印刷された印刷面が、次の印刷ユニット2によって印刷される際に劣化しない程度に、第1紫外線照射部3から照射される紫外線により準硬化することである。したがって、このような準硬化状態を判定できる評価項目であれば、第1照射条件を決定する実験に用いることができる。また、第1照射条件のパラメータも上述の積算光量(ピーク照度、搬送速度)の他に、第1紫外線照射部3と印刷媒体Pとの距離等を用いても構わない。
【0047】
なお、第1照射条件はUVインキの色や種類、印刷媒体Pの種類により異なるため、これらの種類毎に第1照射条件を求めておき、使用するUVインキや印刷媒体Pに応じて、適宜設定したり切り換えたりすればよい。具体的には、例えば、UVインキの一例であるラジカル系のUVインキは、着色剤としての顔料、紫外線により光重合を開始する光重合開始剤、光重合開始剤の開始反応を促進する触媒としての増感剤、光重合性樹脂(モノマーやオリゴマー)、消泡剤などの補助剤が含まれるが、UVインキを硬化するための紫外線の照射条件は、顔料や光重合開始剤などの種類や増感剤の配合量などによっても変わってくる。そのため、UVインキを硬化するための第1照射条件は、印刷に使用するUVインキの色や種類により適宜設定する必要がある。また、印刷媒体Pは、例えば、コート紙、キャスコート紙、アート紙、上質紙等を用いることができるが、印刷媒体Pの種類によってUVインキの吸収量や印刷表面の状態が異なるため、使用する印刷媒体Pの種類に応じても第1照射条件を適宜設定する必要がある。もちろん、UVインキと印刷媒体Pとの組み合わせによっても適正な第1照射条件が設定されることになる。なお、紫外線の照射条件は、印刷装置において、第1紫外線照射部3の照射光源に印加する電流値を変更することにより変更することができる。
【0048】
上述の実験によってUVインキを準硬化させるのに適正な第1照射条件を決定したが、本実験にために印刷した印刷物のうち、準硬化と評価された最小の第1照射条件で印刷した際の印刷物を、第1照射条件の最低条件の評価基準印刷物として比較用に用いることができる。すなわち、上述の実験でのパラメータ以外の条件を変化させてテスト印刷を行った際に、この評価基準印刷物の表面状態と同等以上にUVインキが硬化していれば、第1照射条件を満たしていると判断することができる。
【0049】
〔実験2:波長の違いによるUVインキの硬化度合を確認するための実験〕
上述のように、第1紫外線照射部3からの紫外線は、UVインキのにじみや印刷面の変化を防止するためにUVインキを準硬化させることを目的としたものである。本実施形態では、第1紫外線照射部3において照射する紫外線の中心波長が385nmである紫外線半導体発光素子Dを用いたが、第1紫外線照射部3において、これより短波長帯域の紫外線(例えば、中心波長が365nm)を照射するようにしても構わない。
【0050】
紫外線を照射する際に、波長が長くなるほど浸透性が高いことが知られている。つまり、短波長の紫外線は印刷面の表面で吸収されやすいため、UVインキの表面を硬化させ易く、長波長の紫外線は透過性が高いため、UVインキの深部まで硬化させることができる。ここで、波長が短波長(中心波長365nm)と長波長(中心波長385nm)の紫外線を照射した場合のUVインキの硬化度合を確認するための実験の一例を説明する。
【0051】
本実験では、実験用の紫外線照射部の紫外線半導体発光素子Dとして、まず、中心波長385nmの紫外線を照射するLEDを使用して500mAの電流で駆動した。印刷媒体Pは、コート紙を用い、紫外線照射部と印刷媒体Pとの距離を5mmとした。また、UVインキは墨色の単色のラジカル系UVインキを用い、印刷媒体Pに対して前面印刷を行った。一方、中心波長365nmの紫外線を照射するLEDを使用して、700mAの電流で駆動した。印刷媒体P、紫外線照射部と印刷媒体Pとの距離、UVインキ等の条件は、中心波長385nmの印刷条件と同じとした。ない、印刷媒体Pの印刷面の濃度を測定することにより、各条件において印刷されたUVインキの量が一定であることを確認した。
【0052】
このような実験環境において、印刷媒体PにUVインキを印刷し、紫外線照射部から紫外線を照射し、UVインキの硬化の程度を評価し、紫外線の波長の違いにおけるUVインキの硬化度合を確認した。なお、UVインキの硬化の程度の評価は、上述の実験1と同様の押圧性、擦過性、密着性に加えて、タック感についても行った。ここで、タック感とは、印刷表面の粘着性のことであり、印刷表面が充分硬化している状態ではタック感を「無」として、粘着性が残っている場合はタック感を「有」とした。つまり、タック感は印刷表面におけるUVインキの硬化度合を評価する項目である。また、上記のそれぞれの波長による紫外線照射時には、紫外線半導体発光素子Dのピーク照度が略同じになるように調整したが、参照実験として、積算光量が略同じになるような条件で紫外線を照射することで、さらにUVインキの硬化度合を確認した。なお、中心波長385nmの紫外線照射時と積算光量が略同じになるようにするために、紫外線照射部と印刷媒体Pとの距離を10mmとして照射時間を長くした。
【表3】

【0053】
表3は、照射する紫外線の波長を異ならせた場合におけるUVインキの硬化度合の評価結果である。表3から明らかなように、擦過性について着目すると、長波長(中心波長385nm)の紫外線を照射した場合(評価結果:「▲」)は、短波長(中心波長365nm)の紫外線を照射した場合(評価結果:「×」)よりも、重点的に硬化が進んでいる。つまり、長波長の紫外線を照射した場合には、UVインキの深部まで紫外線が浸透していることが確認された。また、タック感について着目すると、短波長の紫外線を照射した場合(評価結果:「無」)は、長波長の紫外線を照射した場合(評価結果:「有」)よりも、重点的に硬化が進んでいる。つまり、短波長の紫外線を照射した場合には、UVインキの表面で紫外線がより吸収されていることが確認された。なお、両方の条件の評価結果においては、押圧性および密着性の表結果は「○」であり、実験1の結果と比べても、準硬化と言える状態であることが確認された。よって、この条件であっても、実際の印刷には支障がない。
【0054】
以上の結果より、UVインキに照射する紫外線の中心波長が385nmと365nmのような20nmの差であっても、長波長の紫外線の照射によりUVインキの深部を重点的に硬化させることができ、短波長の紫外線の照射によりUVインキの表面を重点的に硬化させることができ、さらに、両波長ともにUVインキを準硬化させることができることが明らかとなった。
【0055】
また、上述したように、本実験においては、紫外線半導体発光素子Dのピーク照度を略同じにしているため、積算光量が異なっている。そこで、中心波長365nmの紫外線を照射する際の照射条件を、積算光量が略同じになるようにして参照実験を行った。その結果、表3に示すように、ピーク照度を略同じにした場合のUVインキの硬化度合と大差ない同様の結果を得ることができた。
【実施例2】
【0056】
本実施例は、第2紫外線照射部4が紫外線半導体発光素子Dにより構成されている点が実施例1と異なっている。したがって、本実施例における第2紫外線照射部4は、図2に示す第1紫外線照射部3と同様の構成となっている。ただし、本実施例の第2紫外線照射部4は短波長の紫外線を照射する紫外線半導体発光素子Dと長波長の紫外線を照射する紫外線半導体発光素子Dとにより構成されている。紫外線を照射する際に、波長が長くなるほど浸透性が高いことが知られている。つまり、短波長の紫外線は表面で吸収されやすいため、UVインキの表面を硬化させやすく、長波長の紫外線は浸透性が高いため、UVインキの深部まで硬化させることができる。そのため、このように第2紫外線照射部4が複数の波長の紫外線を照射するように構成すると、積層状態のUVインキの表面および深部を確実に硬化させることができる。
【0057】
また、第2紫外線照射部4が未硬化のUVインキの表面および深部を硬化させることができるため、搬送方向最下流側の第1紫外線照射部3を不要とすることができ、装置を簡素化することができる。この場合、第2紫外線照射部4を構成する複数の紫外線半導体発光素子Dのうち、搬送方向上流側を短波長、下流側を長波長の紫外線半導体発光素子Dとすることが望ましい。
【0058】
また、本実施例における第2紫外線照射部4から照射される紫外線も、実施例1の紫外線ランプLと同様に、図5に示すように放射角が120°程度の拡散光となっている。
【0059】
なお、本実施例における第2紫外線照射部4から照射される短波長の紫外線は、UVインキ表面を硬化させることができるため、中心波長は360nm〜370nmの間にあることが好ましく、本実施例では中心波長365nmとしている。一方、長波長の紫外線はUVインキの深部を硬化させることができるため、中心波長は380nm〜390nmの間にあるが好ましく、本実施例では中心波長385nmとしている。例えば、ラジカル系のUVインキを用いる際には、紫外線半導体発光素子Dの発光波長帯域を350nm〜400nmとすることが好ましく、これは、ラジカル系UVインキの紫外線吸収波長のピークが365nm付近となっているものが多いためである。中心波長が350nm未満の紫外線を用いた場合には、紫外線半導体発光素子Dの発光効率が低下するため、紫外線の照射エネルギーが不足し、短時間でUVインキを硬化させることができなくなるという問題がある。また、照射する紫外線の波長が短くなると人体への影響が生じるため、紫外線照射部において外部への紫外線の漏れを遮蔽する構成が必要となる。一方、中心波長が400nmを超えると、紫外線だけでなく可視光が含まれる。UVインキが可視光で硬化すると様々な弊害が生じ好ましくない。そのため、一般的に可視光を含まない波長帯域で硬化するUVインキが製造される。そのため、照射する光に硬化に寄与しない可視光を含む必要はない。
【0060】
また、本実施形態においては、第2紫外線照射部4から照射される短波長の紫外線を長波長の紫外線との混合割合は1対1としているが、これに限定されるものではなく、UVインキを全硬化させるために、紫外線半導体発光素子Dの発光特性やUVインキの紫外線吸収特性等に基づいて、各波長の紫外線の混合割合を適宜変更しても構わない。
【0061】
また、本実施例における第2紫外線照射部4から照射される紫外線は、ピーク照射量2000mW/cm2の強さで照射することができる。また、この第2紫外線照射部4は印刷媒体Pの表面と紫外線半導体発光素子Dとが5mm離れるように配置されている。ここで、第2紫外線照射部4は第1紫外線照射部3よりも高出力の紫外線を照射しているが、第2紫外線照射部4と印刷媒体Pとの離間距離を第1紫外線照射部3との離間距離よりも小さくすることにより、UVインキ表面における紫外線照度がより大きくなるように構成しても構わない。
【0062】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、第1紫外線照射部3は短波長の紫外線を照射するように構成したが、第1紫外線照射部3が短波長および長波長の紫外線を照射するように構成しても構わない。このとき、複数列の紫外線半導体発光素子Dのうち搬送方向上流側の列を短波長、下流側の列を長波長の紫外線半導体発光素子Dで構成すると、本発明の効果が顕著となる。
【0063】
(2)上述の実施例1における形態では、第2紫外線照射部4の紫外線ランプLを水銀ランプとしたが、これに限定されるものではなく、メタルハライドランプ、ケミカルランプまたは超高圧水銀灯などを用いても構わない。
【0064】
(3)上述の実施形態では、本発明の印刷装置をサテライト型として構成したが、これに限定されるものではなく、オフセット枚葉型や間欠型の印刷装置等として構成しても構わない。本発明の印刷装置をサテライト型以外の印刷装置として構成し、第1紫外線照射部3に対向する位置の印刷媒体Pが支持部材に支持されていない場合には、印刷媒体Pを挟んで第1紫外線照射部3と対向する位置に反射部材を備える構成としても構わない。
【0065】
(4)上述の実施形態では、ラジカル系のUVインキを用いた例を示したが、カチオン系のUVインキを用いても構わない。その際、カチオン系のUVインキを効率的に硬化させる紫外線の波長帯域は250nm〜300nmであるため、例えば、第1紫外線照射部3において照射する紫外線の中心波長を265nmまたは285nmとし、第2紫外線照射部4における紫外線照射を紫外線ランプLで行うか、中心波長が265nmと285nmの紫外線を照射する紫外線半導体発光素子Dで構成するとよい。なお、その場合には、紫外線が紫外線照射部から外部に漏れないように遮蔽部材を設けることが好ましい。
【0066】
(5)上述の実施形態では、第1紫外線照射部3の光源として発光ダイオードを用いたがレーザ等の他の半導体発光素子や水銀灯等の他の光源を用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、紫外線硬化型インキを用いた印刷装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
P:印刷媒体
L:紫外線ランプ
2、2K、2C、2M、2Y、2P:印刷ユニット
3:第1紫外線照射部
4:第2紫外線照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えるとともに、前記複数の印刷ユニットの間に配置された紫外線を照射する第1紫外線照射部と、前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置された紫外線を照射する第2紫外線照射部と、を備えた印刷装置であって、前記印刷ユニットは前記印刷媒体と接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷する印刷装置における印刷方法であって、
前記第1紫外線照射部に第1照射条件で紫外線を照射させ、当該第1紫外線照射部の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させるステップと、
前記第2紫外線照射部に第2照射条件で紫外線を照射させ、印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させるステップと、を備えたことを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記第1照射条件は前記印刷媒体の搬送速度に基づいて決定される前記第1紫外線照射部のピーク照度であることを特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項3】
複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えた印刷装置であって、
前記印刷ユニットは前記印刷媒体と接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷し、
前記複数の印刷ユニットの間に配置され、紫外線を照射する第1紫外線照射部と、
前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置され、紫外線を照射する第2紫外線照射部と、を備え、
前記第1紫外線照射部は第1照射条件で紫外線を照射することにより当該第1紫外線照射部の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させ、
前記第2紫外線照射部は第2照射条件で紫外線を照射することにより印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えるとともに当該印刷ユニットと前記印刷媒体とが接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷する印刷装置に用いられる紫外線照射システムであって、
前記複数の印刷ユニット間に配置され、紫外線を照射する第1紫外線照射装置と、
前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置され、紫外線を照射する第2紫外線照射装置を備え、
前記第1紫外線照射装置は、当該第1紫外線照射装置の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させるための中心波長λsの紫外線を照射する紫外線半導体発光素子を備えており、
前記第2紫外線照射装置は、印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させるための前記中心波長λsより長波長の中心波長λhを含む紫外線を照射することを特徴とする紫外線照射システム。
【請求項5】
複数の色の紫外線硬化型インキを印刷媒体に印刷する複数の印刷ユニットを当該印刷媒体の搬送方向に沿って備えるとともに当該印刷ユニットと前記印刷媒体とが接触することにより前記紫外線硬化型インキを印刷する印刷装置に用いられる紫外線照射システムであって、
前記印刷ユニット間に配置され、紫外線を照射する第1紫外線照射装置と、
前記複数の印刷ユニットの前記搬送方向の下流側に配置され、紫外線を照射する第2紫外線照射装置を備え、
前記第1紫外線照射装置は、当該第1紫外線照射装置の前記搬送方向上流側の前記印刷ユニットにより印刷された前記紫外線硬化型インキを準硬化させるための中心波長λhの紫外線を照射する紫外線半導体発光素子を備えており、
前記第2紫外線照射装置は、印刷された前記紫外線硬化型インキを全硬化させるための前記中心波長λhより短波長の中心波長λsを含む紫外線を照射することを特徴とする紫外線照射システム。
【請求項6】
前記第2紫外線照射装置は、前記中心波長λsと前記中心波長λhとの紫外線を照射することを特徴とする請求項4または5に記載の紫外線照射システム。
【請求項7】
前記中心波長λsは360nm〜370nmの間にあり、前記中心波長λhは380nm〜390nmの間にあることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の紫外線照射システム。
【請求項8】
前記中心波長λsは365nmであり、前記中心波長λhは385nmであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の紫外線照射システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−51335(P2012−51335A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197652(P2010−197652)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(311001347)NKワークス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】