説明

印刷方法、及び印刷装置

【課題】最適な印刷モードが選択されることで、ユーザーの用途に応じた印刷処理を行うことができる、印刷方法、及び印刷装置を提供する。
【解決手段】印刷位置誤差データD1と許容印刷位置誤差D2とに基づいて、第1の印刷モード及び第2の印刷モードのいずれか一方を選択する印刷モード選択工程SS3と、選択した印刷モードに基づいて記録媒体に印刷処理を実行する印刷処理工程S2と、を備えた印刷方法である。第1の印刷モードは吐出ヘッドから第1の液体を記録媒体に吐出した後、記録媒体を搬送方向上流側に搬送し、記録媒体の第1の液体が吐出された領域に吐出ヘッドから他の液体を吐出し、第2の印刷モードはノズルの搬送方向上流側ノズルから第1の液体を記録媒体に吐出するとともに記録媒体の第1の液体が吐出された領域に搬送方向上流側のノズルより搬送方向下流側に位置するノズルから他の液体を吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法、及び印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、通常使用される、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)即ち、黒、青、赤、黄の各色のインク以外に白(ホワイトW)インクを使用して印字するインクジェット式の印刷装置が知られている。このような印刷装置では、例えば記録媒体が透明なフィルムからなる場合、該記録媒体に白インクを吐出して下地層を形成した後、その下地層上にカラーインクを吐出することで画像印刷層を印刷することが考えられる。
【0003】
このように下地層と画像印刷層とを重ねて印刷する場合、以下の2つの方法がある。第一の方法としては、最初に下地層を印刷し、その後、吐出ヘッド及び記録媒体の位置を原点に戻し、再度原点位置から下地層上に画像印刷層を印刷するである(例えば、特許文献1参照)。また、二つ目の方法としては、吐出ヘッドのノズル列を、媒体の搬送方向について上流側のノズル群を用いて下地層を印刷し、下流側のノズル群を用いて画像印刷層を印刷することで一括して重ね印刷を行うものである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−149516号公報
【特許文献2】特開2010−76102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では以下の問題があった。特許文献1に開示される方法は、下地層及び画像印刷層のインクが混濁することが無いものの、下地層と画像印刷層とを2回に分けて印刷を行うため、第一層と第二層との印刷で印刷位置にズレが生じるおそれがある。また、特許文献2に開示される方法は、下地層と画像印刷層との位置ズレを防止することができるものの、印刷速度が遅くなる、或いは下地層を構成するインクが乾燥する前に画像印刷層を構成するインクが吐出されるため、これらのインクが混濁してしまうおそれがある。
【0006】
ところで、印刷処理を施した記録媒体はユーザーによって用途が多岐に亘るため、要求される印刷品質が異なることがある。すなわち、ユーザーの用途によっては、上記特許文献1に係る印刷方法を選択した方が好ましい場合や、反対に上記特許文献2に係る印刷方法を選択した方が場合もある。しかしながら、従来はこのような印刷モードの選択は、ユーザーの判断に委ねられていたため、最適な印刷モードを選択できているとは言い難かった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、最適な印刷モードが選択されることで、ユーザーの用途に応じた印刷処理を行うことができる、印刷方法、及び印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の印刷方法は、記録媒体に向けて液体を吐出する複数のノズルを有する吐出ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に往復移動するとともに、前記吐出ヘッドのノズルから前記主走査方向と直交する副走査方向に搬送される前記記録媒体に前記液滴を吐出する第1の印刷モード或いは第2の印刷モードに基づく印刷処理を行う印刷方法において、前記印刷処理を行うに先立ち、予め設定された印刷位置誤差データテーブルから取得され、前記第1の印刷モードによる印刷処理を行った場合に前記記録媒体に生じる印刷位置誤差データと、所定の入力情報に基づいて設定される許容印刷位置誤差とに基づいて、前記第1の印刷モード及び前記第2の印刷モードのいずれか一方を選択する印刷モード選択工程と、前記印刷モード選択工程によって選択された印刷モードに基づいて前記記録媒体に対する前記印刷処理を実行する印刷処理工程と、を備え、前記第1の印刷モードは、前記吐出ヘッドから第1の液体を前記記録媒体に吐出した後、該記録媒体を搬送方向上流側に搬送し、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に該吐出ヘッドから他の液体を吐出するモードであり、前記第2の印刷モードは、前記ノズルの前記搬送方向上流側ノズルから前記第1の液体を前記記録媒体に吐出するとともに、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に前記搬送方向上流側の該ノズルより前記搬送方向下流側に位置するノズルから前記他の液体を吐出するモードであることを特徴とする。
【0009】
第1の印刷モードは、第1の液体と他の液体とが時間を空けて重ねて吐出されるので、第1の液体と該第1の液体上に吐出された他の液体とが混濁するのを防止でき、混濁が無いにじみの無い印刷画像を得ることができるものの、記録媒体を副走査方向に沿って往復移動するため、第1の液体及び他の液体における印刷位置に誤差が生じるおそれがある。一方、第2の印刷モードは、副走査方向(一方向)に沿って移動する記録媒体に対して第1の液体上に他の液体を重ねて吐出できるので、液滴の着弾位置のズレを防止でき、印刷誤差の少ない印刷を行うことができる。
本発明によれば、例えば予め設定されている印刷位置誤差データとユーザーが入力した所定情報に基づく許容印刷位置誤差とから第1の印刷モード或いは第2の印刷モードのうち、ユーザーにとって最適な印刷モードが選択することができる。よって、ユーザーは、用途に応じた最適な画像が記録された記録媒体を得ることができる。
【0010】
また、上記印刷方法においては、前記吐出ヘッドを複数有し、該吐出ヘッドは用途の異なる前記第1の液体及び前記他の液体をそれぞれ前記記録媒体上に吐出するのが好ましい。
この構成によれば、用途が異なる第1の液体及び他の液体として、一方に下地印刷層形成用のインク、他方に画像印刷層用のインクを採用することができる。よって、例えば透明なフィルムのような記録媒体上にも下地印刷層上に画像印刷層を重ねることで記録媒体の制約を受けることなく所望の画像を印刷することができる。
【0011】
また、上記印刷方法においては、前記印刷処理において前記第1の液体及び前記他の液体のうち一方の液体が下地印刷層を形成し、他方の液体が所定の画像を記録する画像印刷層を形成するのが好ましい。
この構成によれば、例えば記録媒体として透光性を有する部材であるフィルム部材を採用した場合、下地印刷層及び記録印刷層を積層する順番を変更することでフィルムの表面側或いは裏面側のいずれから視た場合でも記録印刷層を視認することが可能となる。
【0012】
また、上記印刷方法においては、前記印刷モード選択工程では、前記印刷位置誤差データ及び前記許容印刷位置誤差の大きさを比較し、前記印刷位置誤差データの方が小さい場合には前記第1の印刷モードを選択し、前記印刷位置誤差データの方が大きい場合には前記第2の印刷モードを選択するのが好ましい。
この構成によれば、許容印刷位置誤差の大きさに応じて、第1の印刷モード或いは第2の印刷モードを最適に選択することができる。
【0013】
また、上記印刷方法においては、前記印刷モード選択工程において用いられる前記印刷位置誤差データテーブルは、前記記録媒体における印刷処理を行う印刷長、記録媒体の種類、及び印刷時の画質の少なくともいずれかをパラメーターとするのが好ましい。
このような印刷位置誤差データテーブルを用いれば、信頼性の高い印刷位置誤差データを取得することができ、該印刷位置誤差データを用いることで印刷モード選択を高精度で実行できる。
【0014】
本発明の印刷装置は、記録媒体に向けて液体を吐出する複数のノズルを有する吐出ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に往復移動するとともに、前記吐出ヘッドのノズルから前記主走査方向と直交する副走査方向に搬送される前記記録媒体に前記液滴を吐出する第1の印刷モード或いは第2の印刷モードに基づく印刷処理を行う印刷装置において、前記印刷処理を行うに先立ち、予め設定された印刷位置誤差データテーブルから取得され、前記第1の印刷モードによる印刷処理を行った場合に前記記録媒体に生じる印刷位置誤差データと、所定の入力情報に基づいて設定される許容印刷位置誤差とに基づいて、前記第1の印刷モード及び前記第2の印刷モードのいずれか一方を選択する印刷モード選択を行い、選択した印刷モードに基づく前記印刷処理を前記記録媒体に対して行うように前記吐出ヘッドを制御する制御装置と、を備え、前記第1の印刷モードは、前記吐出ヘッドから第1の液体を前記記録媒体に吐出した後、該記録媒体を搬送方向上流側に搬送し、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に該吐出ヘッドから他の液体を吐出するモードであり、前記第2の印刷モードは、前記ノズルの前記搬送方向上流側ノズルから前記第1の液体を前記記録媒体に吐出するとともに、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に前記搬送方向上流側の該ノズルより前記搬送方向下流側に位置するノズルから前記他の液体を吐出するモードであることを特徴とする。
【0015】
本発明の印刷装置によれば、上記制御装置によって第1の印刷モード或いは第2の印刷モードのうち、ユーザーにとって最適な印刷モードが選択することができるので、ユーザーの用途に応じた最適な印刷画像を記録媒体に印刷できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの概略構成を示す図。
【図2】ヘッド部の構成図。
【図3】プリンターの電気的構成を示すブロック図。
【図4】複数回印刷モードによる印刷処理動作の説明図。
【図5】一括印刷モードによる印刷処理動作の説明図。
【図6】プリンターの印刷動作のフロー説明図。
【図7】印刷位置誤差データテーブルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の印刷装置の一実施例としてシリアル方式のインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と略す場合もある。)を例に挙げて説明する。また、本発明の印刷方法の一実施例として上記プリンターによる印刷方法を例に挙げて説明する。図1は本実施形態に係るプリンターの概略構成を示す図である。
【0018】
プリンター(液体噴射装置)1は、ガイド軸3に移動可能に取り付けられたキャリッジ2を有する。このキャリッジ2は、駆動プーリー4と遊転プーリー5との間に掛け渡されたタイミングベルト6に接続されている。そして、駆動プーリー4は、駆動モーター7の回転軸に接合されている。このため、キャリッジ2は、駆動モーター7が駆動すると記録媒体8の幅方向(主走査方向)に移動する。
【0019】
そして、ガイド軸3の下方には、このガイド軸3と平行に紙送りローラー11が配置されている。この紙送りローラー11は、記録媒体8の搬送時において、紙送りモーター12(図3参照)からの駆動力によって回転される。これにより記録媒体8は長さ方向(副走査方向)に搬送されつつ、印刷処理が行われるようになっている。
【0020】
このキャリッジ2にはカートリッジホルダー部が設けられており、このカートリッジホルダー部にはインクカートリッジユニット9が着脱可能に取り付けられている。このインクカートリッジユニット9は、インク液、即ち、液体状のインクを貯留する部材である。
【0021】
具体的に本実施形態ではインクカートリッジユニット9は、例えばイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)、ホワイト(W)の各色の色インクをそれぞれ収容したカートリッジを含むものである。
【0022】
そして、このインクカートリッジユニット9がカートリッジホルダー部に装着されると、カートリッジホルダー部に設けられたインク供給針(図示せず)がインクカートリッジユニット9内に挿入される。このインク供給針は、キャリッジ2の下面側に設置されるヘッド部20の各記録ヘッド(吐出ヘッド)10のインク供給管(不図示)にそれぞれ連通されているため、インク供給針が挿入されることでインクカートリッジユニット9内のインク液が記録ヘッド10に供給され、各記録ヘッド10のノズルからインクが吐出可能となっている。
【0023】
キャリッジ2の移動範囲で記録領域の外側にはホームポジションが設定されており、印刷動作の待機時等において記録ヘッド10は、このホームポジションに位置付けられる。
このホームポジションには、記録ヘッド10に対してメンテナンス処理を行うメンテナンス装置13が配置されている。このメンテナンス装置13は、非記録状態において記録ヘッド10のノズル面を封止可能なキャッピング機構14により構成されている。
【0024】
図2はプリンター1を上面から視たヘッド部20の構成図である。図2に示すように、キャリッジ2に設置されたヘッド部20は上記インクカートリッジユニット9から供給される各色のインクを吐出する記録ヘッド10Y,10M,10C,10K,10Wを有している。同図に示される符号10Yはイエロー(Y)色のインクを吐出するための記録ヘッドであり、10Mはマゼンダ(M)色のインクを吐出するための記録ヘッドであり、10Cはシアン(C)色のインクを吐出するための記録ヘッドであり、10Kはブラック(K)色のインクを吐出するための記録ヘッドであり、10Wはホワイト(W)色のインクを吐出するための記録ヘッドである。
【0025】
上記記録ヘッド10(10Y、10M、10C、10K、10W)は、各インクを吐出するための複数のノズルNzを有しており、これらノズルNzは記録媒体8の搬送方向(副走査方向)に沿って配列されている。
【0026】
図3はプリンター1の電気的構成を示すブロック図である。図3に示すように、プリンター1は制御装置100を有している。制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM(不図示)からなり、ROMに記録された処理プログラムをRAMに展開してCPUによりこの処理プログラムを実行するためのものである。制御装置100は、上記処理プログラムに従い、駆動モーター7、紙送りモーター12、ヘッド部20等の動作状況などのステータスに基づいて、各部材の動作を制御するようになっている。
【0027】
また、プリンター1の筐体上面には、例えばタッチパネルにより構成され、ユーザーが所定の情報を入力する入力操作部30が設けられている。この入力操作部30は、上記制御装置100に接続されており、ユーザーにより入力された情報を制御装置100に対して出力するユーザインターフェース部を構成している。
【0028】
ここで、本実施形態で使用する記録媒体8としては、普通紙、再生紙、光沢紙等の各種紙、各種布地、各種不織布、樹脂、金属、ガラス等の材質からなるものが用いられるが、本実施形態では、例えば透明な樹脂製フィルムが好適に用いられる。
【0029】
ところで、記録媒体8は上述のように透明フィルムから構成されているため、印刷対象(印刷後の記録媒体8)が印刷面側から視認される場合においてはホワイトインクを吐出することで下地印刷層として印刷した後、他のカラーインクを吐出することで所望のカラー画像からなる画像印刷層を印刷する(表刷り)必要がある。一方、印刷対象が印刷面と反対側から視認される場合においては上記画像印刷層を印刷した後、上記下地印刷層を印刷する(裏刷り)必要がある。なお、以下では、説明を分かり易くするため、記録媒体8に対する印刷処理において、上述の表刷りを行う場合を例に挙げて述べる。
【0030】
すなわち、本実施形態においては、記録媒体8上に下地印刷層及び画像印刷層を積層することで印刷処理を行うようになっている。ところで、このように種類の異なる印刷層を積層する場合において、下地印刷層を構成するホワイト色インクと画像印刷層を構成するカラーインクとを連続的に吐出して印刷処理を行うと、ホワイトインクとカラーインクとが混色することで画像印刷層に色滲みが生じて、画像品質が低下するおそれがある。
【0031】
本実施形態に係るプリンター1は、このような画像品質の低下を防止する際、複数回印刷モード(第1の印刷モード)M1に基づく印刷処理を行うようにしている。ここで、複数回印刷モードM1とは、記録ヘッド10WのノズルNzからホワイトインク(第1の液体)の液滴を記録媒体8に吐出した後、キャリッジ2と記録媒体8との位置関係を該記録媒体8に対するホワイトインクの吐出開始時の状態まで戻し、記録ヘッド10Wとは別の記録ヘッド10Y,10M,10C,10Kからカラーインク(第2の液体)の液滴を記録媒体8上に吐出するモードである。
【0032】
図4は上記複数回印刷モードM1による印刷処理時におけるヘッド部20及び記録媒体8の動きを説明する概念図である。プリンター1は、複数回印刷モードM1では図4(a)に示すように、ヘッド部20を搭載したキャリッジ2を走査方向に移動させるとともに記録媒体8を副走査方向に搬送することで記録媒体8における印刷領域Aの全域に記録ヘッド10Wからホワイトインクを吐出して下地印刷層50を形成する。なお、制御装置100は、複数回印刷モードM1を開始した際のヘッド部20及び記録媒体8のそれぞれの位置座標を原点として記憶しておく。
【0033】
続いて、制御装置100は、図4(b)に示すように、キャリッジ2及び記録媒体8を原点位置まで戻すように駆動モーター7及び紙送りモーター12を駆動する。続いて、制御装置100は、図4(c)に示すように、ヘッド部20のうち、記録ヘッド10Y,10M,10C,10KのノズルNzからそれぞれインクを記録媒体8における下地印刷層50が形成された領域に吐出し、所定のカラー画像からなる画像印刷層51を形成する。
【0034】
このように複数回印刷モードM1では、記録媒体8に対する下地印刷層50を形成するタイミングと、下地印刷層50上に画像印刷層51を形成するタイミングとが異なるため、下地印刷層50を構成するホワイトインクが乾燥した状態で該下地印刷層50上にカラーインクが吐出されるようになっている。したがって、ホワイトインクとカラーインクとが混色することで画像印刷層に色滲みが生じることが防止され、良好な画像品質を得ることができるようになっている。
【0035】
しかしながら、複数回印刷モードM1は、下地印刷層と画像印刷層とを2回に分けて印刷するため、キャリッジ2の移動誤差或いは記録媒体8を搬送方向上流側へ逆送りする際の送り誤差の影響を受け、下地印刷層上に印刷される画像印刷層の位置に誤差(印刷位置誤差)が生じるおそれがある。
【0036】
これに対し、本実施形態に係るプリンター1は、一括印刷モード(第2の印刷モード)M2に基づく印刷処理を行うことで上述のような印刷位置誤差を防止できるようになっている。ここで、一括印刷モードM2とは、記録ヘッド10Wにおける記録媒体8の搬送方向上流側のノズルNzからホワイトインクを記録媒体8に吐出するとともに、記録ヘッド10Wとは記録ヘッド10Y,10M,10C,10Kにおける上記搬送方向下流側のノズルNzからカラーインクを吐出するモードである。
【0037】
図5は一括印刷モードM2による印刷処理時におけるヘッド部20及び記録媒体8の動きを説明する概念図である。プリンター1は、一括印刷モードM2では図5(a)に示すように、各記録ヘッド10の使用するノズル列の範囲を、ノズル列の真ん中から前半エリアNz1(記録媒体8の搬送方向上流側)と後半エリアNz2(記録媒体8の搬送方向下流側)とに2分割して用いる。具体的に、最初のスキャン時に記録ヘッド10Wの前半エリアNz1のノズルNz(以下、ノズルNz1と称す場合もある)からホワイトインクを吐出することで記録媒体8上に下地印刷層50を形成する。
【0038】
続いて、制御装置100は、図5(b)に示すように、記録媒体8を上記下地印刷層50の幅分だけ搬送する。これにより、記録ヘッド10における後半エリアNz2と下地印刷層50とが対向した状態となる。
【0039】
続いて、制御装置100は、図5(c)に示すように、記録ヘッド10WのノズルNz1から記録媒体8上にホワイトインクを吐出するとともに、記録ヘッド10W以外の記録ヘッド10Y,10M,10C,10Kにおける後半エリアNz2のノズルNz(以下、ノズルNz2と称す場合もある)から記録媒体8上に形成された下地印刷層50にカラーインクをそれぞれ吐出する。これにより、下地印刷層50上に画像印刷層51を形成することができる。
【0040】
以下、キャリッジ2のスキャン動作ごとに記録媒体8を記録ヘッド10の分割したエリア(前半エリアNz1及び後半エリアNz2)1つ分の距離だけ搬送するとともに、記録ヘッド10WのノズルNz1からホワイトインクを記録媒体8上に吐出して下地印刷層50を形成し、記録ヘッド10Y,10M,10C,10KにおけるノズルNz2から既に記録媒体8上に形成されている下地印刷層50上にカラーインクを吐出して記録媒体8上に画像印刷層51を形成するステップを繰り返すことで、記録媒体8上に下地印刷層50及び画像印刷層51が積層されてなる表刷り印刷処理を行うことができる。
【0041】
このように一括印刷モードM2では、副走査方向(一方向)に沿って移動する記録媒体8に対し、下地印刷層50を構成するホワイトインクと画像印刷層51を構成するカラーインクとを重ねて吐出できるので、下地印刷層50及び画像印刷層51の位置に誤差が生じることが防止され、印刷位置誤差の小さい印刷画像を得ることができるようになっている。なお、上述の一括印刷モードM2では、印刷処理時に記録ヘッド10の一部のノズルNzしか使用しないため、上記複数回印刷モードM1に比べて印刷速度が低下してしまう。
【0042】
ところで、印刷処理を施した記録媒体8はユーザーによって用途が多岐に亘り、例えば比較的近い場所から印刷対象を視認するおそれのあるポスター等の場合と、ビル等の建造物の屋上に設置される広告等を印刷対象とする場合とでは、印刷品質に要求されるレベルが異なる。すなわち、ユーザーの用途によっては、上記複数回印刷モードM1及び上記一括印刷モードM2のうち、複数回印刷モードM1を選択した方が好ましい場合や、反対に上記一括印刷モードM2を選択した方が場合もある。
【0043】
これに対し、本実施形態に係るプリンター1では、制御装置100のモード選択部100aが印刷処理を行うに先立ち、印刷位置誤差データD1と許容印刷位置誤差D2とを比較し、複数回印刷モードM1及び一括印刷モードM2のいずれか一方を最適なものとして選択するようになっている(図6に示す印刷モード選択工程S1)。なお、印刷モード選択工程S1は、後述するステップSS1〜SS3を含む。
【0044】
モード選択部100aは、印刷モード選択工程S1において、印刷位置誤差データD1及び許容印刷位置誤差D2の大きさを比較し、印刷位置誤差データD1の方が小さい場合に複数回印刷モードM1を選択し、印刷位置誤差データD1の方が大きい場合には一括印刷モードM2を選択する。
【0045】
上記印刷位置誤差データD1は、複数回印刷モードM1に基づく印刷処理を行った場合に記録媒体8に生じる下地印刷層と画像印刷層との誤差(位置ズレ量)を示すものであり、予め実験を行うことで算出されたものである。印刷位置誤差データD1は、例えば印刷処理を行う印刷長、記録媒体8の材質、印刷時の画像設定等をパラメーター値とし、該パラメーター値を種々に変化させることで算出された印刷位置誤差の値を格納した印刷位置誤差データテーブルから導かれる。
【0046】
モード選択部100aには少なくとも印刷データ、印刷設定が入力される。印刷データからは、そのデータを印刷する際の印刷長を知ることができる。印刷設定は、印刷データに付随して入力されてもよいし、入力操作部30を介してユーザーが入力してもよい。なお、印刷設定としては、用紙種類、及び、画質設定として「高画質」「標準」「高速」のいずれかが入力されるものとする。モード選択部100aは、入力された印刷設定により、印刷位置誤差データテーブルを参照し、印刷位置誤差データD1を取得する(図6に示すステップSS1参照)。
【0047】
以下、印刷位置誤差データテーブルから印刷位置誤差データD1を取得する一例について説明する。図7は印刷位置誤差データテーブルの一例を示す図である。図7に示されるように印刷位置誤差データテーブルには、記録媒体と画質設定を変化させた場合に複数回印刷モードM1に基づく印刷処理を行うことで生じる印刷位置誤差の値を示しており、画質が低い(高速)に従って誤差が大きくなることを示している。
【0048】
図7に示すように、例えば、記録媒体の種類が「フィルム」で、画質設定が「通常」だとすると、印刷位置誤差データとして「7mm」が取得できる。続いて、入力された印刷データから、印刷長を取得する。例えば、印刷長が2mだとする。ここでは、印刷位置誤差の値は、印刷長に比例するものとする。従って、この印刷を複数回印刷モードM1で印刷すると、7(mm)×2(m)=14(mm)の印刷位置誤差が生じうると計算される。なお、印刷位置誤差データテーブルは、例えばいくつかの印刷長に応じて複数の印刷位置誤差の値を持っていてもよい。また、値ではなく、印刷長に対して印刷位置誤差を計算する関数のような形で印刷位置誤差を保持することもできる。
【0049】
また、上記許容印刷位置誤差D2は、ユーザーが印刷処理を行うに際して入力する所定データに基づいて設定されるものである。
ここでは入力操作部30からユーザーが許容印刷位置誤差D2を直接入力するものとする。例えば、ユーザーが許容印刷位置誤差として「10mm」と入力したとする。すると、モード選択部100aは、上述した計算により算出されている上記印刷位置誤差データD1の印刷位置誤差「14mm」と、入力された許容印刷位置誤差D2の値「10mm」とを比較する。この場合、印刷位置誤差データD1が許容印刷位置誤差D2を上回る。従って、この場合は複層一括印刷モードM2を選択する。
【0050】
一方、モード選択部100aは、例えばユーザーが許容印刷位置誤差として「15mm」と入力したとすると、印刷位置誤差データD1が許容印刷位置誤差D2以下となるので、複数回印刷モードM1を選択する。
【0051】
許容印刷位置誤差D2は、ユーザーが入力した観察距離に対して設定されるものであってもよい。この算出には、ユーザーが印刷対象物である記録媒体8を観察する際の視角及びユーザーの視力が基準とされる。
【0052】
許容印刷位置誤差D2は、その印刷物を、どの程度の距離(観察距離)を置いて見るか想定することによって、設定することができる。例えば、手に持って見る書類や本と、数十メートル離れて見る屋外看板では、許容印刷位置誤差は異なる。そこで、入力操作部30にユーザーが観察距離を入力し、観察距離から許容印刷位置誤差D2を計算する。例えば、入力された観察距離が「5m」とする。「5m」の距離で、視力1.0の観察者が判別できる間隔は、10(m)×π÷360(°)÷60(‘) ≒1.45(mm)で算出され、約1.45mmとなる。なお、視力は観察時の視角(分)の逆数である。
【0053】
このように、視力1.0の観察者が5mの距離で見分けられる限度を許容印刷位置誤差D2として1.45mmに設定することができる。なお、用途によって想定する観察者の視力を変化させてもよいし、入力操作部30からユーザーの実際の視力を入力し、その入力値に基づいて許容印刷位置誤差D2を設定する構成であっても構わない。
【0054】
また、許容印刷位置誤差D2は、印刷データを分析することで設定されるものであってもよい。ここで、印刷データとは、例えば、PostScriptやPDFのようなページ記述言語のデータ、TIFFやJPEGのようなビットマップイメージデータなど、印刷する画像を電子化したデータから構成されるものである。この算出には、例えば文字サイズ、デザイン要素の大きさ、空間周波数等が基準とされる。
【0055】
文字を含む印刷データでは、最小の文字の大きさに対する割合で許容印刷位置誤差D2を設定することができる。加えて、文字の種類によって、その割合を変えることもできる。例えば、漢字では最小の文字の大きさの1%、アルファベットや数字では最小の文字の大きさの2%、また、漢字と、数字・アルファベットの両方を含む印刷データでは、それぞれについてこのような計算をして、いずれか小さいほうを許容印刷位置誤差D2としてもよい。また、図形等のデザイン要素を含む印刷データでは、図形要素、例えば図形を構成する線の太さに対して、割合を設定して、許容印刷位置誤差D2と見なすこともできる。
このようにして、モード選択部100aは、許容印刷位置誤差D2を取得することができる(図6に示すステップSS2参照)。
【0056】
以上のようにして、モード選択部100aは、ユーザーの入力情報或いは印刷データに基づき、ユーザーの用途において最適なモードを上記複数回印刷モードM1及び一括印刷モードM2のいずれか一方から選択することができる(図6に示すステップSS3参照)。
【0057】
そして、制御装置100は、選択した印刷モードに基づいて記録ヘッド10からインクを記録媒体8に吐出させるように制御することで上述した各モードM1,M2に基づく印刷処理を実行する(図6に示す印刷処理工程S2)。
【0058】
このように本実施形態によれば、予め設定されている印刷位置誤差データD1とユーザーが入力した所定情報(印刷データを含む)に基づく許容印刷位置誤差D2とから複数回印刷モードM1或いは一括印刷モードM2のうち、ユーザーにとって最適な印刷モードが選択することができる。よって、ユーザーは、用途に応じた最適な画像が記録された記録媒体8を得ることができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態の内容に限定されることは無く、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、記録媒体8に対する印刷処理において表刷りを行う場合を例に挙げて説明したが、記録媒体8上に画像印刷層51を印刷した後、下地印刷層50を印刷する、裏刷りを行う場合についても適用可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、下地印刷層をホワイトインクにより形成する場合について説明したが、メタリックシルバーを吐出する構成であっても構わない。また、上記実施形態では、複数回印刷モードM1及び一括印刷モードM2のいずれかにおいて、第1の液体として用いたホワイトインクから下地印刷層を構成し、第2の液体として用いたカラーインクから画像印刷層を構成する場合について説明したが、第1の液体と第2の液体のいずれもカラーインク(イエロー、マゼンダ、シアン、ブラック)であっても構わない。すなわち、用途が同じ液体を重ねて印刷する場合にも本発明は適用可能である。具体的に、ブラックインクを下地として印刷した後、重ねてホワイトインク及びカラーインクを印刷することで画像印刷層を形成する場合にも本発明は適用可能である。
また、第1の液体および第2の液体による重ね印刷の後、第3の液体(例えばクリアーインク)による印刷を重ねることで画像印刷層を形成する場合にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
Nz,Nz1,Nz2 ノズル、M1 複数回印刷モード(第1の印刷モード)、M2 一括印刷モード(第2の印刷モード)、D1 印刷位置誤差データ、D2 許容印刷位置誤差、2 キャリッジ、8 記録媒体、10,10Y,10M,10C,10K,10W 記録ヘッド(吐出ヘッド)、50 下地印刷層、51 画像印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に向けて液体を吐出する複数のノズルを有する吐出ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に往復移動するとともに、前記吐出ヘッドのノズルから前記主走査方向と直交する副走査方向に搬送される前記記録媒体に前記液滴を吐出する第1の印刷モード或いは第2の印刷モードに基づく印刷処理を行う印刷方法において、
前記印刷処理を行うに先立ち、予め設定された印刷位置誤差データテーブルから取得され、前記第1の印刷モードによる印刷処理を行った場合に前記記録媒体に生じる印刷位置誤差データと、所定の入力情報に基づいて設定される許容印刷位置誤差とに基づいて、前記第1の印刷モード及び前記第2の印刷モードのいずれか一方を選択する印刷モード選択工程と、
前記印刷モード選択工程によって選択された印刷モードに基づいて前記記録媒体に対する前記印刷処理を実行する印刷処理工程と、を備え、
前記第1の印刷モードは、前記吐出ヘッドから第1の液体を前記記録媒体に吐出した後、該記録媒体を搬送方向上流側に搬送し、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に該吐出ヘッドから他の液体を吐出するモードであり、
前記第2の印刷モードは、前記ノズルの前記搬送方向上流側ノズルから前記第1の液体を前記記録媒体に吐出するとともに、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に前記搬送方向上流側の該ノズルより前記搬送方向下流側に位置するノズルから前記他の液体を吐出するモードであることを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記吐出ヘッドを複数有し、該吐出ヘッドは用途の異なる前記第1の液体及び前記他の液体をそれぞれ前記記録媒体上に吐出することを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記印刷処理において前記第1の液体及び前記他の液体のうち一方の液体が下地印刷層を形成し、他方の液体が所定の画像を記録する画像印刷層を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記印刷モード選択工程では、前記印刷位置誤差データ及び前記許容印刷位置誤差の大きさを比較し、前記印刷位置誤差データの方が小さい場合には前記第1の印刷モードを選択し、前記印刷位置誤差データの方が大きい場合には前記第2の印刷モードを選択することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項5】
前記印刷モード選択工程において用いられる前記印刷位置誤差データテーブルは、前記記録媒体における印刷処理を行う印刷長、記録媒体の種類、及び印刷時の画質の少なくともいずれかをパラメーターとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項6】
記録媒体に向けて液体を吐出する複数のノズルを有する吐出ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に往復移動するとともに、前記吐出ヘッドのノズルから前記主走査方向と直交する副走査方向に搬送される前記記録媒体に前記液滴を吐出する第1の印刷モード或いは第2の印刷モードに基づく印刷処理を行う印刷装置において、
前記印刷処理を行うに先立ち、予め設定された印刷位置誤差データテーブルから取得され、前記第1の印刷モードによる印刷処理を行った場合に前記記録媒体に生じる印刷位置誤差データと、所定の入力情報に基づいて設定される許容印刷位置誤差とに基づいて、前記第1の印刷モード及び前記第2の印刷モードのいずれか一方を選択する印刷モード選択を行い、選択した印刷モードに基づく前記印刷処理を前記記録媒体に対して行うように前記吐出ヘッドを制御する制御装置と、を備え、
前記第1の印刷モードは、前記吐出ヘッドから第1の液体を前記記録媒体に吐出した後、該記録媒体を搬送方向上流側に搬送し、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に該吐出ヘッドから他の液体を吐出するモードであり、
前記第2の印刷モードは、前記ノズルの前記搬送方向上流側ノズルから前記第1の液体を前記記録媒体に吐出するとともに、該記録媒体の該第1の液体が吐出された領域に前記搬送方向上流側の該ノズルより前記搬送方向下流側に位置するノズルから前記他の液体を吐出するモードであることを特徴とする印刷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−183801(P2012−183801A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50194(P2011−50194)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】