印刷方法、転写材、およびインクジェット吐出装置
【課題】工程の高速化が可能で、高精細な転写画像を得ることが可能な印刷方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る印刷方法は、基材4に設けられた転写層6上に接着層7が積層された転写材3を用意し、前記転写材3における転写したい領域以外の前記接着層7上に接着層マスク膜8をインクジェット印刷により形成し、前記転写材3を前記接着層7側から被転写媒体2に押圧して、転写したい領域の前記転写層6を該被転写媒体2に転写する印刷方法において、前記接着層マスク膜8を形成する際に、該接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くする。
【解決手段】本発明に係る印刷方法は、基材4に設けられた転写層6上に接着層7が積層された転写材3を用意し、前記転写材3における転写したい領域以外の前記接着層7上に接着層マスク膜8をインクジェット印刷により形成し、前記転写材3を前記接着層7側から被転写媒体2に押圧して、転写したい領域の前記転写層6を該被転写媒体2に転写する印刷方法において、前記接着層マスク膜8を形成する際に、該接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法、転写材、およびインクジェット吐出装置に関し、さらに詳細には、転写による印刷方法、ならびに当該印刷方法に用いられる転写材およびインクジェット吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種製品表面に直接に絵柄や文字等を印刷する方法のひとつとして、基材フィルム表面にあらかじめ印刷しておいた絵柄を製品表面に転写する転写印刷方法がある。
【0003】
ここで、転写印刷方法の従来例として、熱溶融着接着剤でコーティングされた熱張り付け箔の表面に、転写したい図柄の反転鏡像の形で接着剤の機能を阻害する塗膜を印刷し、高温下で被転写媒体に圧着することで、転写したい図柄を転写印刷する印刷方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−542076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に例示される印刷方法において、例えば、接着剤の機能を阻害する塗膜(以下、「接着層マスク膜」という)をインクジェット印刷等の印刷手段によって高速に印刷しようとすると、インクジェット液滴の噴射量を多くしなければならず、接着層マスク膜の塗膜が厚くなってしまう。その結果、接着層マスク膜周縁部の膜厚によって形成されるギャップが接着層と被転写媒体との密着を阻害し、転写層の転写不良が発生してしまうため、精密な図柄の再現が困難という課題が生じ得る。
【0006】
より具体的には、図8に示すように、紫外線硬化型インクを用いて接着層マスク膜108を形成する場合を例に挙げれば、紫外線硬化型インクは、被吐出媒体(ここでは、基材104上に、剥離層105、転写層106、接着層107が形成された状態の転写材103)に到達すると滲み防止のために紫外線を照射して即座に硬化させるのが一般的である。このため、インクの滲み(広がり)が抑えられる傾向にある。特に、溶剤を含まない紫外線硬化型インクの場合には、液体で到達した体積をほぼ維持して定着される。このため、紫外線硬化型インクを用いた印刷物は、他のインク(例えば、ソルベントインクや水性インク)に比べて厚みが5倍以上厚く、一例として、L1=10〜20[μm]程度の厚みとなる。
【0007】
その結果、図9に示すように、被転写媒体102と転写材103とが押圧されて転写が行われる際には、接着層マスク膜108の境界近傍では被転写媒体102と転写材103の接着層107との間にギャップGが生じることとなる(同図9は、被転写媒体102が可撓性を有する場合の例示である)。当該ギャップGが生じることによって、接着層107が密着しない領域が生じるため、その領域における下層の転写層106が被転写媒体102に接着不能となる部分が生じる。一例として、接着層マスク膜108の膜厚L1がL1=hであるときに、接着不能となる部分の幅(面内方向長さ)L2はhに相関し、例えばL2=3h程度となる。このように、転写したい領域内に接着不能となる部分が生じることによって、転写材103を被転写媒体102から引き離すときに、転写層106は接着された部分と接着されなかった部分とが入り組んでちぎれ、境界が不鮮明に視認される状態となってしまう。したがって、境界が鮮明なメタリック等の転写層106の転写印刷が不可能となってしまう課題があった。
【0008】
また、図10に示すように、接着層マスク膜108、108間の幅L3が狭い場合には、ギャップGが生じることによって、転写層106が被転写媒体102にまったく接着できない状態となる。したがって、高解像度配線パターン等を銅箔を用いて形成することは不可能であった。
【0009】
一方、上記の課題を解決すべく、接着層マスク膜108の塗膜を薄くしようとすると、インクジェット液滴の噴射量を少なくして印刷しなければならないため、高速に印刷することができないという課題が生じ得る。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、工程の高速化が可能で、高精細な転写画像を得ることが可能な印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0012】
開示の印刷方法は、基材に設けられた転写層上に接着層が積層された転写材を用意し、前記転写材における転写したい領域以外の前記接着層上に接着層マスク膜をインクジェット印刷により形成し、前記転写材を前記接着層側から被転写媒体に押圧して、転写したい領域の前記転写層を該被転写媒体に転写する印刷方法において、前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜をインクジェット印刷する際に、当該接着層マスク膜の境界膜厚を段階的に薄くすることで、接着層マスク膜周縁部の塗膜厚によって形成されるギャップを小さくすることができる。その結果、転写材(転写層)を被転写媒体に転写する際に、接着層マスク膜の境界でも接着層と被転写媒体とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明において、前記接着層マスク膜を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることが好ましい。これによれば、インクジェット液滴を噴射して接着層マスク膜を形成する際に、当該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることが可能となる。
【0014】
また、本発明において、前記接着層マスク膜を形成するインクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いることが好ましい。紫外線により硬化するタイプのインクを用いることで、加圧転写時にも変形、溶融を少なくすることができる。
【0015】
また、本発明において、前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成することが好ましい。これによれば、溶剤を蒸発させることで、接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を薄くすることができる。
【0016】
開示の転写材は、前記の印刷方法に用いられる転写材であって、前記接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚が該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くなるように形成されていることを特徴とする。これによれば、転写材(転写層)を被転写媒体に転写する際に、接着層マスク膜の境界においても接着層と被転写媒体とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0017】
開示のインクジェット吐出装置は、前記の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、インクジェット液滴を噴射するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの動作を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記接着層マスク膜を形成する際に、前記インクジェットヘッドから噴射するインクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜をインクジェット印刷する際に、当該接着層マスク膜の境界膜厚を段階的に薄く形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
開示の印刷方法によれば、工程の高速化が可能で、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット吐出装置の例を示す平面図(概略図)である。
【図2】図1のインクジェット吐出装置の側面図(概略図)である。
【図3】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図7】図5の部分拡大図である。
【図8】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である。
【図9】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である。
【図10】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0021】
本実施形態に係る印刷方法は、転写材における転写したい領域以外の領域にマスク膜(後述の接着層マスク膜)をインクジェット印刷により形成して、転写材をマスク膜が形成された側から被転写媒体に転写してマスク膜が設けられていない領域(転写したい領域)の反転鏡像を得る印刷方法である。
【0022】
<転写材>
先ず、本実施形態に係る転写材3について説明する。図3に示すように、転写材3は、基材4に設けられた転写層6の上に接着層7を積層して形成される。なお、本実施形態では、基材4と転写層6との間に剥離層5を設ける構成としているが、当該剥離層5を省略する構成も考えられる。
【0023】
基材4は、可撓性を有する樹脂フィルム等を用いて構成される。構成材料は特に限定されないが、一例として、ポリエチレン系フィルム、ポリエステル系フィルム、オレフィン系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム等のフィルム状樹脂材料や紙が用いられる。
【0024】
また、剥離層5は、完全けん化ポリビニルアルコール、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の離型性を有する材料を用いて、塗布等の方法により積層形成されている。例えば、シリコン樹脂を溶剤で希釈して基材4上にコーティングすることで剥離層5を形成する。
【0025】
また、転写層6は、金属箔、金属蒸着膜、ホログラム膜、パール調膜、虹色膜、白/黒膜、カラー膜、クリア膜等で構成される。一例として、金属材料の蒸着、スパッタリング、あるいは、顔料や染料インクの塗布等によって基材4上に積層形成される(本実施形態では剥離層5を介して基材4上に積層形成される)。なお、転写層6の金属箔あるいは金属蒸着膜等の層は、強度を増すために単独ではなくプラスチックフィルムとの複合層として構成してもよい(不図示)。またインクの塗布による形成方法として、転写層6の上にインク受容層(不図示)を設けて、当該インク受容層に着色(インクの塗布)を行ってもよい。
【0026】
ここで、変形例として剥離層5と転写層6との間に保護層(不図示)を設ける構成とすることが考えられる。これによれば、転写後の転写層6が当該保護層によって保護されるため、表面に傷が付き難く、指紋、水、アルコール、紫外線等への耐久性を高めることができる。特に、当該保護層として、紫外線吸収材を添加したクリア膜を使用すれば、従来の紫外線硬化型インクでは難しかった高対光性を持つクリアコートが実現できる。
【0027】
一方、接着層7は、例えば80〜300[℃]程度の加熱環境下で圧着することにより接着可能な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を水や有機溶剤で希釈して転写層6上に塗布することで形成される。構成材料は特に限定されないが、一例として、エポキシ系樹脂、ブチラール樹脂、塩ビ系樹脂、酢ビ系樹脂、塩酢ビ樹脂、低密度ポリエチレン、シリコン樹脂、ワックス、ポリオレフィン(出光興産株式会社製 商品名/CPAO)等が用いられる。接着層7は、加熱圧着されることによって被転写媒体2に接着する作用を生じる。
【0028】
ここで、変形例として、転写層6上に保護層(不図示)を介して接着層7を積層する構成とすることが考えられる。これによれば、転写層6の着色箇所を当該保護層によって保護することができる。
【0029】
本実施形態に係る転写材3においては、接着層7上に接着層マスク膜8が設けられる。当該接着層マスク膜8は、本実施形態に係る印刷方法を用いて形成され、特徴的な構成を備えるものである(詳細は後述)。
【0030】
接着層マスク膜8は、接着層7上に印刷(ここでは、インクジェット印刷)可能であって、加熱圧着されても被転写媒体2には接着しない離型的な性質を有するインクを用いて形成される。当該インクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクが用いられる(詳細は後述)。
【0031】
<被転写媒体>
次に、本実施形態に係る被転写媒体2について説明する。被転写媒体2は、例えば、各種プラスチック成型物(フィルム、板等を含む)、金属、ガラス、石、布等である。このように、被転写媒体2としては、可撓性を有するもの、有しないもの双方を使用し得る。なお、被転写媒体2もしくは転写材3の少なくとも一方が可撓性を有することが好適である。それにより、転写印刷が可能となるためである。
【0032】
前述の転写材3を用いて、被転写媒体2に転写印刷を行うことによって、従来、不可能あるいは困難であった以下の印刷を好適に行うことが可能となる。具体的には、プラスチック成型物、金属、ガラス、石、布等への加飾が可能となる。また、高光沢メタリック、パール、虹、燐光、蓄光、回帰反射プリント等、インクジェット印刷用のインク化が困難である色を用いた印刷が可能となる。また、銅箔を用いてプリント配線やアンテナの形成を行うことが可能となる。
【0033】
<インクジェット吐出装置>
次に、転写材3の接着層マスク膜8を形成する際に用いられるインクジェット吐出装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット吐出装置1の例を示す平面図(概略図)であり、図2は、その側面図(概略図)である。
【0034】
本発明のインクジェット吐出装置1は、被吐出媒体(ここでは転写材3)を支持するプラテン(支持体)12と、X方向に移動しがなら転写材3の表面(ここでは接着層7の表面)にインクを複数の吐出口から噴射してインクジェット液滴を着弾させるインクジェットヘッド13と、各部の動作を制御する制御部(不図示)とを備えている。
【0035】
図中の符号17は、揮発性有機溶剤(以下、「溶剤」と省略することがある)入りの紫外線硬化型インクを用いる場合に、転写材3の表面に着弾されたインクジェット液滴を転写材3の裏面側から加熱して当該溶剤を揮発除去するプリントヒーターである。また、図中の符号16は、紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いる場合に、転写材3の表面に着弾されたインクジェット液滴に、紫外線を照射して、当該インクジェット液滴を硬化させる紫外線照射手段である。
【0036】
ここで、インクジェットヘッド13は、その下面に並んで配されたノズル(不図示)からピエゾ方式等によりインクジェット液滴を噴射させる構造を有しており、ユニット架台14に固定され、走行手段(不図示)により、ガイドレール15上をX方向に走行可能となっている。なお、走行手段は、電動モータおよび電子回路等から構成されている。
【0037】
一例として、転写材3(ここでは基材4上に剥離層5、転写層6、および接着層7が積層された状態)は、プラテン12により支持されるとともに、搬送ローラ18、18によって挟まれ、インクジェットヘッド13がインクジェット液滴を噴射しながら転写材3のX方向の一端から他端まで走行し終わると同時に、搬送ローラ18、18が回転することによりY方向へ搬送される。この場合、転写材3の基材4には、PET等の可撓性を有する樹脂材料が好適に用いられる。
【0038】
プリントヒーター17は、プラテン12の内部であって、転写材3の裏面側に配置され、転写材3表面に着弾したインクジェット液滴を加熱して、インクジェット液滴に揮発性有機溶剤が含まれる場合に当該溶剤を揮発除去する。プリントヒーター17としては、電熱式ヒーター、赤外線ヒーター、電磁誘導(IH)ヒーターを用いることができ、インクが噴射されてメディア表面に着弾すると同時にインクに含まれる溶剤が揮発除去されるように、プラテン12の温度を一定に保っている。プリントヒーター17の加熱温度の下限は、転写材3が紫外線照射手段16による紫外線照射位置に送られるまでに溶剤が十分揮発除去される温度が望ましく、例えば35℃程度である。上限は、転写材3の耐熱温度と高温化による人体への安全性とによって決定することが望ましく、例えば80℃程度である。
【0039】
プリントヒーター17の位置は、転写材3の裏面側(基材4の下面側)に限られず、転写材3の表面側(接着層7の上面側)あるいは両側であってもよい(不図示)。転写材3の表面側にプリントヒーターを設ける場合、プリントヒーターは、インクジェットヘッド13と同じガイドレール15上、あるいはY方向(プラテン搬送方向)前方にガイドレール15とは分離独立した状態で固設された位置とすることができる。
【0040】
なお、プリントヒーターをインクジェットヘッド13と同じガイドレール上に設ける場合であって、片方向印刷する場合は、インクジェットヘッド13の走行方向後方にプリントヒーターを設置する(不図示)。より詳しくは、インクジェットヘッド13をX方向右側に走行させながらインクを吐出する場合は、インクジェットヘッド13の左側に設置し、X方向左側に走行させながらインクを吐出する場合は、インクジェットヘッド13の右側に設置する。さらに、双方向印刷する場合は、インクジェットヘッド13の走行方向前方および後方、すなわちインクジェットヘッド13の左右両側に設置する。
【0041】
また、本実施形態においては、紫外線照射手段16として、UVLED(Ultra Violet Light Emitting Diode)が内蔵されており、ユニット架台14に、インクジェットヘッド13と共に、当該インクジェットヘッド13の転写材3移動方向(Y方向)前方側に配置され、移動手段(不図示)により、X方向に走行可能となっている。紫外線照射手段16は、インクジェットヘッド13から、インクジェット液滴が着弾した後、搬送ローラ18、18によって搬送された転写材3表面に、紫外線を照射して転写材3の表面のインクジェット液滴層を硬化させて接着層マスク膜8として定着させる作用を生じる。
【0042】
紫外線照射手段16としては、特に限定されるものではないが、電流や発光パルス幅を変更することにより、自由に照射光量の調整やON/OFF制御が可能で消費電力が少ないUVLEDランプを用いるのが好適である。しかし、シャッターを設けることにより、紫外線光量を変化できることで、メタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀等の他のランプを用いることもできる。
【0043】
本実施形態に係るインクジェット吐出装置1を用いて、以下のように接着層マスク膜8を形成することができる。先ず、プラテン(支持体)12上に支持された転写材3(ここでは基材4上に剥離層5、転写層6、および接着層7が積層された状態)の表面に、インクをインクジェットヘッド13から噴射する。次に、転写材3表面に着弾したインクジェット液滴を、必要に応じて当該転写材3の裏面側に位置するプリントヒーター17によってインクジェット液滴に含まれる揮発性有機溶剤を揮発除去する。次に、紫外線照射手段16により紫外線を照射して、当該インクジェット液滴を硬化させて接着層7上に接着層マスク膜8として定着させる。このようにして、所望の転写前画像を有する転写材3を形成することができる。本実施形態に係るインクジェット吐出装置1によれば、接着層マスク膜8を高速に形成することが可能である。すなわち、所望の転写前画像を有する転写材3を形成する工程の高速化が可能である(詳細は後述)。
【0044】
なお、上記の本実施形態に係るインクジェット吐出装置1では、インクジェットヘッド13および紫外線照射手段16が、共にユニット架台14に固定されている場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、変形例として、紫外線照射手段が、インクジェットヘッドから分離、独立した状態で、Y方向前方に位置する別のガイドレールに固定されてX方向に走行できるように構成されていてもよい(不図示)。あるいは、Y方向前方に位置しプラテンのX方向全幅にわたる紫外線ランプを固設する構成としてもよい(不図示)。当該紫外線ランプとしては、ブラックライト、殺菌灯等の放電管を挙げることができる。
【0045】
<インク>
次に、転写材3の接着層マスク膜8を形成する際に用いられるインクについて説明する。当該インクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクが用いられる。
【0046】
本実施形態に係る紫外線硬化型インクは、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤、添加剤を用いて構成される。ここで、添加剤の例として、増感剤、色剤(顔料)、分散剤、レベル剤、重合禁止剤が挙げられ、適宜、選定・選択されて用いられる。当該紫外線硬化型インクの構成材料は、いずれも特に限定されるものではなく、各種従来公知の材料を適宜、用いることができる。また、インクの粘度に関しても、適宜、調整が行われる。
【0047】
一方、本実施形態に係る溶剤(揮発性有機溶剤)入り紫外線硬化型インクは、上記の紫外線硬化型インクの構成材料に溶剤が添加されたものである。当該溶剤は、特に限定されるものではなく、n−ヘキサンに例示される従来公知の材料を適宜、用いることができる。また、インクの粘度に関しても、適宜、調整が行われる。
【0048】
なお、転写材3の接着層マスク膜8を形成する際に用いられるインクの他の例としては、ナノシリカインク、高分子とのハイブリッドナノシリカインク、熱硬化性樹脂インク、ラテックスインク、エマルジョンインク、水性樹脂分散インク等が挙げられる。
【0049】
<第一の実施形態に係る印刷方法>
次に、本発明の第一の実施形態に係る印刷方法について説明する。
先ず、転写材3を用意する。図3に示すように、この工程では、転写材3として、基材4上に剥離層5、転写層6、および接着層7が積層された状態のものを用いる。なお、各層の材料、形成方法等については前述の通りであり、繰り返しの説明を省略する。
【0050】
次いで、図4に示すように、当該転写材3における転写したい領域以外の接着層7上に接着層マスク膜8をインクジェット印刷により形成する。これは、転写したい領域以外をマスクすることで転写したい領域のみの転写を行うためである。当該インクジェット印刷は前述のインクジェット吐出装置1を用いて行われる。なお、インクジェット吐出装置1を用いて転写材3(ここでは接着層7)上に接着層マスク膜8を形成する動作については前述の通りであり、繰り返しの説明を省略する。
【0051】
次いで、図5に示すように、転写材3を接着層マスク膜8が設けられた状態の接着層7側から被転写媒体2に圧着させ、且つ加熱を行う。なお、加熱温度、圧着力、圧着時間等の諸条件は転写材3の構成等に応じて、適宜、設定される。一例として、加熱温度は、80〜300[℃]程度である。
【0052】
次いで、図6に示すように、被転写媒体2と転写材3とを分離させる。このとき、接着層マスク膜8が設けられた箇所は、接着層7が被転写媒体2に接着することを阻害するため、同図6に示すように、接着層マスク膜8が設けられていない領域(転写したい領域)の接着層7のみが被転写媒体2に接着し、当該領域における転写層6と剥離層5との境界が剥離する。すなわち、転写したい領域の転写層6が転写されて、所望の図柄が印刷(転写)された被転写媒体2が得られる。
【0053】
特に、本実施形態に係る印刷方法は、図4に示される接着層マスク膜8の形成工程において特徴的な構成を備える。より具体的には、接着層マスク膜8を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることによって、当該接着層マスク膜8の所定の周縁部(転写領域に隣接する周縁部である)の膜厚が、当該接着層マスク膜8の所定の境界(転写領域との境界である)に向けて段階的に薄くなるように形成する。例えば、接着層マスク膜8の所定の周縁部のインクジェット液滴を解像度が大きい(例えば1200[dpi]等)設定とし、当該周縁部以外のインクジェット液滴を解像度が小さい(例えば600[dpi]等)設定とする噴射分布にする方法が考えられる。あるいは、接着層マスク膜8の所定の周縁部のインクジェット液滴の噴射量を小さく(例えば6[pl]等)設定し、当該周縁部以外のインクジェット液滴の噴射量を大きく(例えば24[pl]等)設定する方法が考えられる。別の設定方法として、接着層マスク膜8の所定の周縁部のインクジェット液滴の直径を1とした場合に、当該周縁部以外のインクジェット液滴の直径を1.5程度として噴射量を設定してもよい。ここで、「段階的に薄くなる」形状として、複数段の階段状、テーパ状、あるいはそれらの組み合わせ状等とすることが考えられる。
【0054】
これによれば、図7(図5の部分拡大図である)に示すように、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚L4を、周縁部以外の膜厚L1(=従来の形成厚さ)と比較して薄く形成することができるため、ギャップGを従来の印刷方法に比べて小さくすることができる。換言すれば、L4=dとしたときに、dに相関する接着不能領域L5(一例としてL5=3d程度)の幅を減少させることができる。その結果、従来の課題、すなわち、転写したい領域内に接着不能となる部分が生じることによって、転写材を引き離すときに、転写層が接着された部分と接着されなかった部分とが入り組んでちぎれ、境界が不鮮明に視認される状態となってしまうという課題の解決が可能となる。より具体的には、L5≦10[μm]程度に設定することが可能となり、境界におけるばらつきが肉眼による視認限界を越えて、不鮮明さが解消される効果が特に顕著に得られる。これと共に、接着層マスク膜8の所定の周縁部においては、印刷速度すなわちインクジェット液滴の噴射による接着層マスク膜8の形成速度が相対的に低下するが、当該周縁部以外の領域においては通常の印刷速度でインクジェット液滴の噴射による接着層マスク膜8の形成を行うことができるため、前述の課題、すなわち接着層マスク膜の塗膜を薄くしようとすると、インクジェット液滴の噴射量を少なくして印刷しなければならないため、高速に印刷することができないという課題の解決が可能となる。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る印刷方法によれは、従来実現不可能もしくは困難であった次のような印刷(転写印刷)が可能となる。具体的には、高光沢メタリックプリント、ホログラムプリント、パール・虹・燐光・蓄光・回帰反射膜プリント、超耐光クリアコートプリント、印刷によるプリント基板の高精度電極形成等の実現が可能となる。
【0056】
<第二の実施形態に係る印刷方法>
次に、本発明の第二の実施形態に係る印刷方法について説明する。
第二の実施形態に係る印刷方法は、前述の第一の実施形態に係る印刷方法と基本的な構成は同様であるが、特に接着層マスク膜8の形成工程において相違点を有する。以下、当該相違点を中心に本実施形態について説明する。
【0057】
本実施形態においては、接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成し、当該周縁部以外を溶剤入りの紫外線硬化型インクではない紫外線硬化型インク、もしくは溶剤蒸発後の体積減少率が相対的に小さい溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成する構成を備える。これによれば、接着層マスク膜8の所定の周縁部(転写領域に隣接する周縁部である)に用いられるインクは、当該周縁部以外に用いられるインクに比べて、溶剤の蒸発による体積減少率が相対的に大きいため、溶剤蒸発後の膜厚が相対的に薄くなる作用が得られる。すなわち、前述の第一の実施形態に係る印刷方法と同様に、当該接着層マスク膜8の所定の周縁部(転写領域に隣接する周縁部である)の膜厚が、当該接着層マスク膜8の所定の境界(転写領域との境界である)に向けて段階的に薄くなるように形成することが可能となる。また。その結果として得られる効果も、前述の第一の実施形態と同様である。
【0058】
以上説明した通り、開示の印刷方法によれば、従来の印刷方法と比べて工程の高速化(特に、接着層マスク膜形成工程の高速化)が可能で、特に境界部が鮮明で高精細な転写画像を得ることが可能となる。さらに、従来、不可能あるいは困難であった以下の印刷を好適に行うことが可能となる。すなわち、プラスチック成型物、金属、ガラス、石、布等への加飾が可能となる。また、高光沢メタリック、パール、虹、燐光、蓄光、回帰反射プリント等、インクジェット印刷用のインク化が困難である色を用いた印刷が可能となる。また、銅箔を用いて微細プリント配線・アンテナの形成を高精度に行うことが可能となる。
【0059】
また、特に、本実施形態によって以下の特徴的な作用効果が奏される。
【0060】
この印刷方法は、基材4に設けられた転写層6上に接着層7が積層された転写材3を用意し、転写材3における転写したい領域以外の接着層7上に接着層マスク膜8をインクジェット印刷により形成し、転写材3を接着層7側から被転写媒体2に押圧して、転写したい領域の転写層6を被転写媒体2に転写する印刷方法において、接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜8をインクジェット印刷する際に、当該接着層マスク膜8の境界膜厚を段階的に薄くすることで、接着層マスク膜8周縁部の塗膜厚によって形成されるギャップGを小さく(薄く且つ幅狭に)することができる。その結果、転写材3(転写層6)を被転写媒体2に転写する際に、接着層マスク膜8の境界においても接着層7と被転写媒体2とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0061】
また、接着層マスク膜8を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くする。これによれば、インクジェット液滴を噴射して接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くすることが可能となる。
【0062】
また、接着層マスク膜8を形成するインクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いる。紫外線により硬化するタイプのインクを用いることで、加圧転写時にも変形、溶融を少なくすることができる。
【0063】
また、接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成することが好ましい。これによれば、溶剤を蒸発させることで、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を薄くすることができる。
【0064】
開示の転写材3は、前記の印刷方法に用いられる転写材であって、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚が接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くなるように形成されていることを特徴とする。これによれば、転写材3(転写層6)を被転写媒体2に転写する際に、接着層マスク膜8の境界においても接着層7と被転写媒体2とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0065】
開示のインクジェット吐出装置1は、前記の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、インクジェット液滴を噴射するインクジェットヘッド13と、インクジェットヘッド13の動作を制御する制御部(不図示)を備え、当該制御部は、接着層マスク膜8を形成する際に、インクジェットヘッド13から噴射するインクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜8をインクジェット印刷する際に、接着層マスク膜8の境界膜厚を段階的に薄く形成することができる。
【0066】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、インクとして紫外線により硬化するタイプのインクを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、その他のインクに対しても適用が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 インクジェット吐出装置
2 被転写媒体
3 転写材
4 基材
5 剥離層
6 転写層
7 接着層
8 接着層マスク膜
12 プラテン
13 インクジェットヘッド
14 ユニット架台
15 ガイドレール
16 紫外線照射手段
17 プリントヒーター
18 搬送ローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法、転写材、およびインクジェット吐出装置に関し、さらに詳細には、転写による印刷方法、ならびに当該印刷方法に用いられる転写材およびインクジェット吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種製品表面に直接に絵柄や文字等を印刷する方法のひとつとして、基材フィルム表面にあらかじめ印刷しておいた絵柄を製品表面に転写する転写印刷方法がある。
【0003】
ここで、転写印刷方法の従来例として、熱溶融着接着剤でコーティングされた熱張り付け箔の表面に、転写したい図柄の反転鏡像の形で接着剤の機能を阻害する塗膜を印刷し、高温下で被転写媒体に圧着することで、転写したい図柄を転写印刷する印刷方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−542076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に例示される印刷方法において、例えば、接着剤の機能を阻害する塗膜(以下、「接着層マスク膜」という)をインクジェット印刷等の印刷手段によって高速に印刷しようとすると、インクジェット液滴の噴射量を多くしなければならず、接着層マスク膜の塗膜が厚くなってしまう。その結果、接着層マスク膜周縁部の膜厚によって形成されるギャップが接着層と被転写媒体との密着を阻害し、転写層の転写不良が発生してしまうため、精密な図柄の再現が困難という課題が生じ得る。
【0006】
より具体的には、図8に示すように、紫外線硬化型インクを用いて接着層マスク膜108を形成する場合を例に挙げれば、紫外線硬化型インクは、被吐出媒体(ここでは、基材104上に、剥離層105、転写層106、接着層107が形成された状態の転写材103)に到達すると滲み防止のために紫外線を照射して即座に硬化させるのが一般的である。このため、インクの滲み(広がり)が抑えられる傾向にある。特に、溶剤を含まない紫外線硬化型インクの場合には、液体で到達した体積をほぼ維持して定着される。このため、紫外線硬化型インクを用いた印刷物は、他のインク(例えば、ソルベントインクや水性インク)に比べて厚みが5倍以上厚く、一例として、L1=10〜20[μm]程度の厚みとなる。
【0007】
その結果、図9に示すように、被転写媒体102と転写材103とが押圧されて転写が行われる際には、接着層マスク膜108の境界近傍では被転写媒体102と転写材103の接着層107との間にギャップGが生じることとなる(同図9は、被転写媒体102が可撓性を有する場合の例示である)。当該ギャップGが生じることによって、接着層107が密着しない領域が生じるため、その領域における下層の転写層106が被転写媒体102に接着不能となる部分が生じる。一例として、接着層マスク膜108の膜厚L1がL1=hであるときに、接着不能となる部分の幅(面内方向長さ)L2はhに相関し、例えばL2=3h程度となる。このように、転写したい領域内に接着不能となる部分が生じることによって、転写材103を被転写媒体102から引き離すときに、転写層106は接着された部分と接着されなかった部分とが入り組んでちぎれ、境界が不鮮明に視認される状態となってしまう。したがって、境界が鮮明なメタリック等の転写層106の転写印刷が不可能となってしまう課題があった。
【0008】
また、図10に示すように、接着層マスク膜108、108間の幅L3が狭い場合には、ギャップGが生じることによって、転写層106が被転写媒体102にまったく接着できない状態となる。したがって、高解像度配線パターン等を銅箔を用いて形成することは不可能であった。
【0009】
一方、上記の課題を解決すべく、接着層マスク膜108の塗膜を薄くしようとすると、インクジェット液滴の噴射量を少なくして印刷しなければならないため、高速に印刷することができないという課題が生じ得る。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、工程の高速化が可能で、高精細な転写画像を得ることが可能な印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0012】
開示の印刷方法は、基材に設けられた転写層上に接着層が積層された転写材を用意し、前記転写材における転写したい領域以外の前記接着層上に接着層マスク膜をインクジェット印刷により形成し、前記転写材を前記接着層側から被転写媒体に押圧して、転写したい領域の前記転写層を該被転写媒体に転写する印刷方法において、前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜をインクジェット印刷する際に、当該接着層マスク膜の境界膜厚を段階的に薄くすることで、接着層マスク膜周縁部の塗膜厚によって形成されるギャップを小さくすることができる。その結果、転写材(転写層)を被転写媒体に転写する際に、接着層マスク膜の境界でも接着層と被転写媒体とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明において、前記接着層マスク膜を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることが好ましい。これによれば、インクジェット液滴を噴射して接着層マスク膜を形成する際に、当該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることが可能となる。
【0014】
また、本発明において、前記接着層マスク膜を形成するインクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いることが好ましい。紫外線により硬化するタイプのインクを用いることで、加圧転写時にも変形、溶融を少なくすることができる。
【0015】
また、本発明において、前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成することが好ましい。これによれば、溶剤を蒸発させることで、接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を薄くすることができる。
【0016】
開示の転写材は、前記の印刷方法に用いられる転写材であって、前記接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚が該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くなるように形成されていることを特徴とする。これによれば、転写材(転写層)を被転写媒体に転写する際に、接着層マスク膜の境界においても接着層と被転写媒体とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0017】
開示のインクジェット吐出装置は、前記の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、インクジェット液滴を噴射するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの動作を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記接着層マスク膜を形成する際に、前記インクジェットヘッドから噴射するインクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜をインクジェット印刷する際に、当該接着層マスク膜の境界膜厚を段階的に薄く形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
開示の印刷方法によれば、工程の高速化が可能で、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット吐出装置の例を示す平面図(概略図)である。
【図2】図1のインクジェット吐出装置の側面図(概略図)である。
【図3】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図7】図5の部分拡大図である。
【図8】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である。
【図9】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である。
【図10】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0021】
本実施形態に係る印刷方法は、転写材における転写したい領域以外の領域にマスク膜(後述の接着層マスク膜)をインクジェット印刷により形成して、転写材をマスク膜が形成された側から被転写媒体に転写してマスク膜が設けられていない領域(転写したい領域)の反転鏡像を得る印刷方法である。
【0022】
<転写材>
先ず、本実施形態に係る転写材3について説明する。図3に示すように、転写材3は、基材4に設けられた転写層6の上に接着層7を積層して形成される。なお、本実施形態では、基材4と転写層6との間に剥離層5を設ける構成としているが、当該剥離層5を省略する構成も考えられる。
【0023】
基材4は、可撓性を有する樹脂フィルム等を用いて構成される。構成材料は特に限定されないが、一例として、ポリエチレン系フィルム、ポリエステル系フィルム、オレフィン系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム等のフィルム状樹脂材料や紙が用いられる。
【0024】
また、剥離層5は、完全けん化ポリビニルアルコール、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の離型性を有する材料を用いて、塗布等の方法により積層形成されている。例えば、シリコン樹脂を溶剤で希釈して基材4上にコーティングすることで剥離層5を形成する。
【0025】
また、転写層6は、金属箔、金属蒸着膜、ホログラム膜、パール調膜、虹色膜、白/黒膜、カラー膜、クリア膜等で構成される。一例として、金属材料の蒸着、スパッタリング、あるいは、顔料や染料インクの塗布等によって基材4上に積層形成される(本実施形態では剥離層5を介して基材4上に積層形成される)。なお、転写層6の金属箔あるいは金属蒸着膜等の層は、強度を増すために単独ではなくプラスチックフィルムとの複合層として構成してもよい(不図示)。またインクの塗布による形成方法として、転写層6の上にインク受容層(不図示)を設けて、当該インク受容層に着色(インクの塗布)を行ってもよい。
【0026】
ここで、変形例として剥離層5と転写層6との間に保護層(不図示)を設ける構成とすることが考えられる。これによれば、転写後の転写層6が当該保護層によって保護されるため、表面に傷が付き難く、指紋、水、アルコール、紫外線等への耐久性を高めることができる。特に、当該保護層として、紫外線吸収材を添加したクリア膜を使用すれば、従来の紫外線硬化型インクでは難しかった高対光性を持つクリアコートが実現できる。
【0027】
一方、接着層7は、例えば80〜300[℃]程度の加熱環境下で圧着することにより接着可能な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を水や有機溶剤で希釈して転写層6上に塗布することで形成される。構成材料は特に限定されないが、一例として、エポキシ系樹脂、ブチラール樹脂、塩ビ系樹脂、酢ビ系樹脂、塩酢ビ樹脂、低密度ポリエチレン、シリコン樹脂、ワックス、ポリオレフィン(出光興産株式会社製 商品名/CPAO)等が用いられる。接着層7は、加熱圧着されることによって被転写媒体2に接着する作用を生じる。
【0028】
ここで、変形例として、転写層6上に保護層(不図示)を介して接着層7を積層する構成とすることが考えられる。これによれば、転写層6の着色箇所を当該保護層によって保護することができる。
【0029】
本実施形態に係る転写材3においては、接着層7上に接着層マスク膜8が設けられる。当該接着層マスク膜8は、本実施形態に係る印刷方法を用いて形成され、特徴的な構成を備えるものである(詳細は後述)。
【0030】
接着層マスク膜8は、接着層7上に印刷(ここでは、インクジェット印刷)可能であって、加熱圧着されても被転写媒体2には接着しない離型的な性質を有するインクを用いて形成される。当該インクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクが用いられる(詳細は後述)。
【0031】
<被転写媒体>
次に、本実施形態に係る被転写媒体2について説明する。被転写媒体2は、例えば、各種プラスチック成型物(フィルム、板等を含む)、金属、ガラス、石、布等である。このように、被転写媒体2としては、可撓性を有するもの、有しないもの双方を使用し得る。なお、被転写媒体2もしくは転写材3の少なくとも一方が可撓性を有することが好適である。それにより、転写印刷が可能となるためである。
【0032】
前述の転写材3を用いて、被転写媒体2に転写印刷を行うことによって、従来、不可能あるいは困難であった以下の印刷を好適に行うことが可能となる。具体的には、プラスチック成型物、金属、ガラス、石、布等への加飾が可能となる。また、高光沢メタリック、パール、虹、燐光、蓄光、回帰反射プリント等、インクジェット印刷用のインク化が困難である色を用いた印刷が可能となる。また、銅箔を用いてプリント配線やアンテナの形成を行うことが可能となる。
【0033】
<インクジェット吐出装置>
次に、転写材3の接着層マスク膜8を形成する際に用いられるインクジェット吐出装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット吐出装置1の例を示す平面図(概略図)であり、図2は、その側面図(概略図)である。
【0034】
本発明のインクジェット吐出装置1は、被吐出媒体(ここでは転写材3)を支持するプラテン(支持体)12と、X方向に移動しがなら転写材3の表面(ここでは接着層7の表面)にインクを複数の吐出口から噴射してインクジェット液滴を着弾させるインクジェットヘッド13と、各部の動作を制御する制御部(不図示)とを備えている。
【0035】
図中の符号17は、揮発性有機溶剤(以下、「溶剤」と省略することがある)入りの紫外線硬化型インクを用いる場合に、転写材3の表面に着弾されたインクジェット液滴を転写材3の裏面側から加熱して当該溶剤を揮発除去するプリントヒーターである。また、図中の符号16は、紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いる場合に、転写材3の表面に着弾されたインクジェット液滴に、紫外線を照射して、当該インクジェット液滴を硬化させる紫外線照射手段である。
【0036】
ここで、インクジェットヘッド13は、その下面に並んで配されたノズル(不図示)からピエゾ方式等によりインクジェット液滴を噴射させる構造を有しており、ユニット架台14に固定され、走行手段(不図示)により、ガイドレール15上をX方向に走行可能となっている。なお、走行手段は、電動モータおよび電子回路等から構成されている。
【0037】
一例として、転写材3(ここでは基材4上に剥離層5、転写層6、および接着層7が積層された状態)は、プラテン12により支持されるとともに、搬送ローラ18、18によって挟まれ、インクジェットヘッド13がインクジェット液滴を噴射しながら転写材3のX方向の一端から他端まで走行し終わると同時に、搬送ローラ18、18が回転することによりY方向へ搬送される。この場合、転写材3の基材4には、PET等の可撓性を有する樹脂材料が好適に用いられる。
【0038】
プリントヒーター17は、プラテン12の内部であって、転写材3の裏面側に配置され、転写材3表面に着弾したインクジェット液滴を加熱して、インクジェット液滴に揮発性有機溶剤が含まれる場合に当該溶剤を揮発除去する。プリントヒーター17としては、電熱式ヒーター、赤外線ヒーター、電磁誘導(IH)ヒーターを用いることができ、インクが噴射されてメディア表面に着弾すると同時にインクに含まれる溶剤が揮発除去されるように、プラテン12の温度を一定に保っている。プリントヒーター17の加熱温度の下限は、転写材3が紫外線照射手段16による紫外線照射位置に送られるまでに溶剤が十分揮発除去される温度が望ましく、例えば35℃程度である。上限は、転写材3の耐熱温度と高温化による人体への安全性とによって決定することが望ましく、例えば80℃程度である。
【0039】
プリントヒーター17の位置は、転写材3の裏面側(基材4の下面側)に限られず、転写材3の表面側(接着層7の上面側)あるいは両側であってもよい(不図示)。転写材3の表面側にプリントヒーターを設ける場合、プリントヒーターは、インクジェットヘッド13と同じガイドレール15上、あるいはY方向(プラテン搬送方向)前方にガイドレール15とは分離独立した状態で固設された位置とすることができる。
【0040】
なお、プリントヒーターをインクジェットヘッド13と同じガイドレール上に設ける場合であって、片方向印刷する場合は、インクジェットヘッド13の走行方向後方にプリントヒーターを設置する(不図示)。より詳しくは、インクジェットヘッド13をX方向右側に走行させながらインクを吐出する場合は、インクジェットヘッド13の左側に設置し、X方向左側に走行させながらインクを吐出する場合は、インクジェットヘッド13の右側に設置する。さらに、双方向印刷する場合は、インクジェットヘッド13の走行方向前方および後方、すなわちインクジェットヘッド13の左右両側に設置する。
【0041】
また、本実施形態においては、紫外線照射手段16として、UVLED(Ultra Violet Light Emitting Diode)が内蔵されており、ユニット架台14に、インクジェットヘッド13と共に、当該インクジェットヘッド13の転写材3移動方向(Y方向)前方側に配置され、移動手段(不図示)により、X方向に走行可能となっている。紫外線照射手段16は、インクジェットヘッド13から、インクジェット液滴が着弾した後、搬送ローラ18、18によって搬送された転写材3表面に、紫外線を照射して転写材3の表面のインクジェット液滴層を硬化させて接着層マスク膜8として定着させる作用を生じる。
【0042】
紫外線照射手段16としては、特に限定されるものではないが、電流や発光パルス幅を変更することにより、自由に照射光量の調整やON/OFF制御が可能で消費電力が少ないUVLEDランプを用いるのが好適である。しかし、シャッターを設けることにより、紫外線光量を変化できることで、メタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀等の他のランプを用いることもできる。
【0043】
本実施形態に係るインクジェット吐出装置1を用いて、以下のように接着層マスク膜8を形成することができる。先ず、プラテン(支持体)12上に支持された転写材3(ここでは基材4上に剥離層5、転写層6、および接着層7が積層された状態)の表面に、インクをインクジェットヘッド13から噴射する。次に、転写材3表面に着弾したインクジェット液滴を、必要に応じて当該転写材3の裏面側に位置するプリントヒーター17によってインクジェット液滴に含まれる揮発性有機溶剤を揮発除去する。次に、紫外線照射手段16により紫外線を照射して、当該インクジェット液滴を硬化させて接着層7上に接着層マスク膜8として定着させる。このようにして、所望の転写前画像を有する転写材3を形成することができる。本実施形態に係るインクジェット吐出装置1によれば、接着層マスク膜8を高速に形成することが可能である。すなわち、所望の転写前画像を有する転写材3を形成する工程の高速化が可能である(詳細は後述)。
【0044】
なお、上記の本実施形態に係るインクジェット吐出装置1では、インクジェットヘッド13および紫外線照射手段16が、共にユニット架台14に固定されている場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、変形例として、紫外線照射手段が、インクジェットヘッドから分離、独立した状態で、Y方向前方に位置する別のガイドレールに固定されてX方向に走行できるように構成されていてもよい(不図示)。あるいは、Y方向前方に位置しプラテンのX方向全幅にわたる紫外線ランプを固設する構成としてもよい(不図示)。当該紫外線ランプとしては、ブラックライト、殺菌灯等の放電管を挙げることができる。
【0045】
<インク>
次に、転写材3の接着層マスク膜8を形成する際に用いられるインクについて説明する。当該インクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクが用いられる。
【0046】
本実施形態に係る紫外線硬化型インクは、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤、添加剤を用いて構成される。ここで、添加剤の例として、増感剤、色剤(顔料)、分散剤、レベル剤、重合禁止剤が挙げられ、適宜、選定・選択されて用いられる。当該紫外線硬化型インクの構成材料は、いずれも特に限定されるものではなく、各種従来公知の材料を適宜、用いることができる。また、インクの粘度に関しても、適宜、調整が行われる。
【0047】
一方、本実施形態に係る溶剤(揮発性有機溶剤)入り紫外線硬化型インクは、上記の紫外線硬化型インクの構成材料に溶剤が添加されたものである。当該溶剤は、特に限定されるものではなく、n−ヘキサンに例示される従来公知の材料を適宜、用いることができる。また、インクの粘度に関しても、適宜、調整が行われる。
【0048】
なお、転写材3の接着層マスク膜8を形成する際に用いられるインクの他の例としては、ナノシリカインク、高分子とのハイブリッドナノシリカインク、熱硬化性樹脂インク、ラテックスインク、エマルジョンインク、水性樹脂分散インク等が挙げられる。
【0049】
<第一の実施形態に係る印刷方法>
次に、本発明の第一の実施形態に係る印刷方法について説明する。
先ず、転写材3を用意する。図3に示すように、この工程では、転写材3として、基材4上に剥離層5、転写層6、および接着層7が積層された状態のものを用いる。なお、各層の材料、形成方法等については前述の通りであり、繰り返しの説明を省略する。
【0050】
次いで、図4に示すように、当該転写材3における転写したい領域以外の接着層7上に接着層マスク膜8をインクジェット印刷により形成する。これは、転写したい領域以外をマスクすることで転写したい領域のみの転写を行うためである。当該インクジェット印刷は前述のインクジェット吐出装置1を用いて行われる。なお、インクジェット吐出装置1を用いて転写材3(ここでは接着層7)上に接着層マスク膜8を形成する動作については前述の通りであり、繰り返しの説明を省略する。
【0051】
次いで、図5に示すように、転写材3を接着層マスク膜8が設けられた状態の接着層7側から被転写媒体2に圧着させ、且つ加熱を行う。なお、加熱温度、圧着力、圧着時間等の諸条件は転写材3の構成等に応じて、適宜、設定される。一例として、加熱温度は、80〜300[℃]程度である。
【0052】
次いで、図6に示すように、被転写媒体2と転写材3とを分離させる。このとき、接着層マスク膜8が設けられた箇所は、接着層7が被転写媒体2に接着することを阻害するため、同図6に示すように、接着層マスク膜8が設けられていない領域(転写したい領域)の接着層7のみが被転写媒体2に接着し、当該領域における転写層6と剥離層5との境界が剥離する。すなわち、転写したい領域の転写層6が転写されて、所望の図柄が印刷(転写)された被転写媒体2が得られる。
【0053】
特に、本実施形態に係る印刷方法は、図4に示される接着層マスク膜8の形成工程において特徴的な構成を備える。より具体的には、接着層マスク膜8を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることによって、当該接着層マスク膜8の所定の周縁部(転写領域に隣接する周縁部である)の膜厚が、当該接着層マスク膜8の所定の境界(転写領域との境界である)に向けて段階的に薄くなるように形成する。例えば、接着層マスク膜8の所定の周縁部のインクジェット液滴を解像度が大きい(例えば1200[dpi]等)設定とし、当該周縁部以外のインクジェット液滴を解像度が小さい(例えば600[dpi]等)設定とする噴射分布にする方法が考えられる。あるいは、接着層マスク膜8の所定の周縁部のインクジェット液滴の噴射量を小さく(例えば6[pl]等)設定し、当該周縁部以外のインクジェット液滴の噴射量を大きく(例えば24[pl]等)設定する方法が考えられる。別の設定方法として、接着層マスク膜8の所定の周縁部のインクジェット液滴の直径を1とした場合に、当該周縁部以外のインクジェット液滴の直径を1.5程度として噴射量を設定してもよい。ここで、「段階的に薄くなる」形状として、複数段の階段状、テーパ状、あるいはそれらの組み合わせ状等とすることが考えられる。
【0054】
これによれば、図7(図5の部分拡大図である)に示すように、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚L4を、周縁部以外の膜厚L1(=従来の形成厚さ)と比較して薄く形成することができるため、ギャップGを従来の印刷方法に比べて小さくすることができる。換言すれば、L4=dとしたときに、dに相関する接着不能領域L5(一例としてL5=3d程度)の幅を減少させることができる。その結果、従来の課題、すなわち、転写したい領域内に接着不能となる部分が生じることによって、転写材を引き離すときに、転写層が接着された部分と接着されなかった部分とが入り組んでちぎれ、境界が不鮮明に視認される状態となってしまうという課題の解決が可能となる。より具体的には、L5≦10[μm]程度に設定することが可能となり、境界におけるばらつきが肉眼による視認限界を越えて、不鮮明さが解消される効果が特に顕著に得られる。これと共に、接着層マスク膜8の所定の周縁部においては、印刷速度すなわちインクジェット液滴の噴射による接着層マスク膜8の形成速度が相対的に低下するが、当該周縁部以外の領域においては通常の印刷速度でインクジェット液滴の噴射による接着層マスク膜8の形成を行うことができるため、前述の課題、すなわち接着層マスク膜の塗膜を薄くしようとすると、インクジェット液滴の噴射量を少なくして印刷しなければならないため、高速に印刷することができないという課題の解決が可能となる。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る印刷方法によれは、従来実現不可能もしくは困難であった次のような印刷(転写印刷)が可能となる。具体的には、高光沢メタリックプリント、ホログラムプリント、パール・虹・燐光・蓄光・回帰反射膜プリント、超耐光クリアコートプリント、印刷によるプリント基板の高精度電極形成等の実現が可能となる。
【0056】
<第二の実施形態に係る印刷方法>
次に、本発明の第二の実施形態に係る印刷方法について説明する。
第二の実施形態に係る印刷方法は、前述の第一の実施形態に係る印刷方法と基本的な構成は同様であるが、特に接着層マスク膜8の形成工程において相違点を有する。以下、当該相違点を中心に本実施形態について説明する。
【0057】
本実施形態においては、接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成し、当該周縁部以外を溶剤入りの紫外線硬化型インクではない紫外線硬化型インク、もしくは溶剤蒸発後の体積減少率が相対的に小さい溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成する構成を備える。これによれば、接着層マスク膜8の所定の周縁部(転写領域に隣接する周縁部である)に用いられるインクは、当該周縁部以外に用いられるインクに比べて、溶剤の蒸発による体積減少率が相対的に大きいため、溶剤蒸発後の膜厚が相対的に薄くなる作用が得られる。すなわち、前述の第一の実施形態に係る印刷方法と同様に、当該接着層マスク膜8の所定の周縁部(転写領域に隣接する周縁部である)の膜厚が、当該接着層マスク膜8の所定の境界(転写領域との境界である)に向けて段階的に薄くなるように形成することが可能となる。また。その結果として得られる効果も、前述の第一の実施形態と同様である。
【0058】
以上説明した通り、開示の印刷方法によれば、従来の印刷方法と比べて工程の高速化(特に、接着層マスク膜形成工程の高速化)が可能で、特に境界部が鮮明で高精細な転写画像を得ることが可能となる。さらに、従来、不可能あるいは困難であった以下の印刷を好適に行うことが可能となる。すなわち、プラスチック成型物、金属、ガラス、石、布等への加飾が可能となる。また、高光沢メタリック、パール、虹、燐光、蓄光、回帰反射プリント等、インクジェット印刷用のインク化が困難である色を用いた印刷が可能となる。また、銅箔を用いて微細プリント配線・アンテナの形成を高精度に行うことが可能となる。
【0059】
また、特に、本実施形態によって以下の特徴的な作用効果が奏される。
【0060】
この印刷方法は、基材4に設けられた転写層6上に接着層7が積層された転写材3を用意し、転写材3における転写したい領域以外の接着層7上に接着層マスク膜8をインクジェット印刷により形成し、転写材3を接着層7側から被転写媒体2に押圧して、転写したい領域の転写層6を被転写媒体2に転写する印刷方法において、接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜8をインクジェット印刷する際に、当該接着層マスク膜8の境界膜厚を段階的に薄くすることで、接着層マスク膜8周縁部の塗膜厚によって形成されるギャップGを小さく(薄く且つ幅狭に)することができる。その結果、転写材3(転写層6)を被転写媒体2に転写する際に、接着層マスク膜8の境界においても接着層7と被転写媒体2とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0061】
また、接着層マスク膜8を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くする。これによれば、インクジェット液滴を噴射して接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くすることが可能となる。
【0062】
また、接着層マスク膜8を形成するインクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いる。紫外線により硬化するタイプのインクを用いることで、加圧転写時にも変形、溶融を少なくすることができる。
【0063】
また、接着層マスク膜8を形成する際に、接着層マスク膜8の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成することが好ましい。これによれば、溶剤を蒸発させることで、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を薄くすることができる。
【0064】
開示の転写材3は、前記の印刷方法に用いられる転写材であって、接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚が接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くなるように形成されていることを特徴とする。これによれば、転写材3(転写層6)を被転写媒体2に転写する際に、接着層マスク膜8の境界においても接着層7と被転写媒体2とを密着させることができ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0065】
開示のインクジェット吐出装置1は、前記の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、インクジェット液滴を噴射するインクジェットヘッド13と、インクジェットヘッド13の動作を制御する制御部(不図示)を備え、当該制御部は、接着層マスク膜8を形成する際に、インクジェットヘッド13から噴射するインクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで接着層マスク膜8の所定の周縁部の膜厚を接着層マスク膜8の境界に向けて段階的に薄くすることを特徴とする。これによれば、接着層マスク膜8をインクジェット印刷する際に、接着層マスク膜8の境界膜厚を段階的に薄く形成することができる。
【0066】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、インクとして紫外線により硬化するタイプのインクを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、その他のインクに対しても適用が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 インクジェット吐出装置
2 被転写媒体
3 転写材
4 基材
5 剥離層
6 転写層
7 接着層
8 接着層マスク膜
12 プラテン
13 インクジェットヘッド
14 ユニット架台
15 ガイドレール
16 紫外線照射手段
17 プリントヒーター
18 搬送ローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に設けられた転写層上に接着層が積層された転写材を用意し、
前記転写材における転写したい領域以外の前記接着層上に接着層マスク膜をインクジェット印刷により形成し、
前記転写材を前記接着層側から被転写媒体に押圧して、転写したい領域の前記転写層を該被転写媒体に転写する印刷方法において、
前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすること
を特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記接着層マスク膜を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項3】
前記接着層マスク膜を形成するインクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の印刷方法。
【請求項4】
前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成すること
を特徴とする請求項3記載の印刷方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられる転写材であって、
前記接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚が該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くなるように形成されていること
を特徴とする転写材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
インクジェット液滴を噴射するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記接着層マスク膜を形成する際に、前記インクジェットヘッドから噴射するインクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすること
を特徴とするインクジェット吐出装置。
【請求項1】
基材に設けられた転写層上に接着層が積層された転写材を用意し、
前記転写材における転写したい領域以外の前記接着層上に接着層マスク膜をインクジェット印刷により形成し、
前記転写材を前記接着層側から被転写媒体に押圧して、転写したい領域の前記転写層を該被転写媒体に転写する印刷方法において、
前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすること
を特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記接着層マスク膜を形成する際に、インクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項3】
前記接着層マスク膜を形成するインクとして紫外線硬化型インクもしくは溶剤入りの紫外線硬化型インクを用いること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の印刷方法。
【請求項4】
前記接着層マスク膜を形成する際に、該接着層マスク膜の所定の周縁部を溶剤入りの紫外線硬化型インクで形成すること
を特徴とする請求項3記載の印刷方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられる転写材であって、
前記接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚が該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くなるように形成されていること
を特徴とする転写材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
インクジェット液滴を噴射するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記接着層マスク膜を形成する際に、前記インクジェットヘッドから噴射するインクジェット液滴の噴射量もしくは噴射分布の少なくとも一方を変化させることで該接着層マスク膜の所定の周縁部の膜厚を該接着層マスク膜の境界に向けて段階的に薄くすること
を特徴とするインクジェット吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−245754(P2012−245754A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121289(P2011−121289)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】
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