説明

印刷済みの刷版を再画像形成する方法

【課題】背景技術に対して改善された、再画像形成のための時間コスト、材料コストおよび経済コストを特に消去に関して低く抑えることができる、印刷済みの刷版を再画像形成する方法を提供する。
【解決手段】刷版5aの基板5bを全体的に洗浄して、インキまたはラッカを落とし、先行の印刷画像を消去するために、基板5bを全体的に研磨処理し、後続の印刷画像を画像形成するために、基板5bを部分的に画像部においてパルスレーザビームで処理し、部分的にナノスコープの疎水性の表面構造を形成し、基板5bを全体的に親水性向上剤7で処理し、基板5bを、部分的に、直前まで疎水性の画像部において親水性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷済みの刷版を画像形成する方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、印刷済みの刷版を再画像形成する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術から、オフセット印刷用の再書込可能な刷版が公知であり、つまり、刷版は、繰り返し様々な印刷画像を備えることができ、したがって再利用可能である。そのような刷版は、基板と基板上に取り付けられるマイクロメートル厚さの被覆とを備えることができ、その際、被覆は、画像形成中、部分的に画像部において大抵の場合レーザビームにより再び除去されるので、画像に応じた親水性部分および疎水性部分の表面構造化が行われる。新たに画像形成するまえに、表面は洗浄され、再び閉じた被覆を備える。被覆は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第10132204号明細書において記載されており、たとえば水膜として形成することができる。さらにたとえばドイツ連邦共和国特許出願公開第10227054号明細書において、前述のマイクロメートル厚さの被覆の代わりに、ナノメートル厚さの分子膜を備えており、分子膜は、同様にレーザビームにより構造化可能であり、新たな画像形成前に再生される。これに対して被覆媒体および膜媒体ならびに相応の塗着装置なく取り扱われる刷版が所望される。
【0004】
国際公開第2010/029342号パンフレットにおいて、被覆や膜を有していない、再書込可能な刷版が公知である。刷版に、画像部において、レーザビーム、たとえばフェムトセカンドレーザのビームが当てられ、これにより刷版は、画像に応じた構造を形成するために部分的に親水性化される。刷版の消去は、たとえば十分な時間放置することにより、好適には流動性の消去剤を使用することなく行われる。そのような放置は、刷版を印刷直後に再び新たな印刷ジョブに提供しようとする場合には、不都合である。
【0005】
さらにドイツ連邦共和国特許出願公開第102005035896号明細書において、様々な色の構造またはホログラフィー式に作用する構造の形成に関して、フェムトセカンドレーザを用いてナノ構造を形成することが記載されている。刷版を製作するためにそのような構造を利用することや特に再画像形成前に構造を消去することについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10132204号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10227054号明細書
【特許文献3】国際公開第2010/029342号パンフレット
【特許文献4】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102005035896号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような背景技術を鑑みて、本発明の課題は、背景技術に対して改善された、再画像形成のための時間コスト、材料コストおよび経済コストを特に消去に関して低く抑えることができる、印刷済みの刷版を再画像形成する方法を提供することである。
【0008】
さらに本発明の別のまたは選択的な課題は、記載のコストを低く抑えることができる、背景技術に対して改善された装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するための方法によれば、印刷済みの刷版を再画像形成する方法において、刷版の基板を全体的に洗浄して、インキまたはラッカを落とし、先行の印刷画像を消去するために、基板を全体的に研磨処理し、後続の印刷画像を画像形成するために、基板を部分的に画像部においてパルスレーザビームで処理し、部分的にナノスコープの疎水性の表面構造を形成し、基板を全体的に親水性向上剤で処理し、基板を、部分的に直前まで疎水性の画像部において親水性化する。
【0010】
本発明による方法では、パルスレーザビームひいてはレーザパルスが用いられる。好適には、基板の表面の画像部にナノ構造もしくはナノトポグラフィが形成され、これにより湿し特性が変化し、刷版は、画像形成範囲で、つまり画像部において疎水性化される。その際、主な材料除去(剥離)または材料塗着(被覆)が行われず、その代わりに画像部および非画像部に同じ基板材料が、しかしながら異なるナノ構造で存在する。これに対して必要な印刷コントラストを形成するために必要な差は、専ら(非)画像部の異なるナノスコープの構造に起因する。さらにこのようにして形成された表面状態は、時間的に安定しており、これに対してたとえば背景技術に記載された構造化された水膜では、水膜は簡単に蒸発することがある。
【0011】
本発明による方法では、さらに親水性向上剤が用いられる。親水性向上剤は、流れ始めると、ナノ構造の画像部に特に良好に付着し(つまりその粒子がそこに特に良好に結合し)、これにより直前まで疎水性の画像部が親水性化される。さらに、レーザ処理された疎水性部分は、親水性向上剤のあとでは、レーザ処理していない部分よりも親水性になる。さらに、これによりコントラストは、画像部と非画像部との間で好適には十分な程度に高まる。
【0012】
ビームが当てられた部分とビームが当てられていない部分との間で強いコントラストを形成するために好適であり、したがって本発明による方法の好適な態様によれば、パルスレーザビームは、光パルスを有し、光パルスの継続時間tは、少なくともピコセカンド範囲(t<100*10-12セカンド)および好適には少なくともフェムトセカンド範囲(t<100*10-15セカンド)である。このためにいわゆるパルスレーザ、特にピコセカンドレーザもしくはフェムトセカンドレーザを用いることができる。
【0013】
同様にビームが当てられた部分とビームが当てられていない部分との間に強いコントラストを形成するために、本発明の方法による好適な態様によれば、光パルスは、約1マイクロジュール〜約10マイクロジュールのパルスエネルギで、約10フェムトセカンド〜約1000フェムトセカンド、特に約100フェムトセカンド〜1000フェムトセカンド継続する。
【0014】
画像形成する、つまり基板表面を構造化するのに好適で、したがって本発明の方法の好適な1つの態様によれば、基板を、研磨処理のあとで画像形成まで被覆しない。特に画像形成は、研磨処理の直後に行うことができる。
【0015】
要求される印刷コントラストにとって十分な構造を形成するために好適で、したがって本発明の方法の好適な1つの態様によれば、基板を、以下の基板から、つまり、金属、金属酸化物、金属薄板、金属薄板上の金属酸化物層、チタン薄板または特殊鋼薄板上のチタン層、アルミニウム薄板または特殊鋼薄板上のアルミニウム層、特殊鋼薄板、プラスチック、プラスチックシートから選択する。
【0016】
十分なコントラストにとって好適で、したがって本発明の方法の好適な1つの態様によれば、親水性向上剤として、液状のゴム剤、特にCMC(カルボキシメチルセルロース)の水溶液を用いる。
【0017】
技術的に容易に適用できるので好適であり、したがって本発明の方法の好適な1つの態様によれば、研磨処理のために、液状の研磨剤を用いる。
【0018】
本発明による印刷済みの刷版を再画像形成する装置によれば、消去ユニットを備え、消去ユニットは、先行の印刷画像を消去するために、刷版の基板を全体的に液状の研磨剤で処理し、画像形成ユニットを備え、画像形成ユニットは、後続の印刷画像で画像形成するために、基板を、部分的に画像部においてフェムトセカンドレーザで処理する。
【0019】
十分なコントラスト向上を得るために好適で、したがって本発明の装置の好適な1つの態様によれば、現像ユニットを備え、現像ユニットは、基板を全体的に液状のゴム剤で処理し、基板は、部分的に画像部において親水性化される。
【0020】
本発明の範疇に、本発明に関して記載する少なくとも1つの装置を備えた、シートを処理する機械、印刷機、特にリソグラフィ方式のオフセット印刷用のシートを処理する輪転印刷機または刷版露光機が含まれる。
【0021】
記載の本発明および記載の本発明の好適な態様は、相互に組み合わせると、本発明の好適な別の態様を表す。全体的な洗浄、液状の研磨剤を用いた全体的な研磨による消去、フェムトセカンドパルスによる様々な金属基板の部分的なレーザ処理、全体的な親水性向上を行う方法が特に好適である。
【0022】
以下に、本発明の構造的および/または機能的に好適な別の態様として、本発明を、少なくとも1つの好適な実施の形態に基づいて、図面につき詳しく説明する。図面には、対応する構成要素には同じ符号を用いた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による方法の好適な実施の形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明による装置の好適な実施の形態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、本発明による、既に少なくとも一度印刷を行った刷版5aを再画像形成する方法の好適な実施の形態をフローチャートで示す。新たな印刷ジョブのための再画像形成は、同じ印刷画像または別の印刷画像で行われる。印刷ジョブには、1枚の被印刷物、たとえば個別の枚葉シートまたは厚紙シートの印刷、または、複数枚のそのような被印刷物、つまり連続するシートの印刷が含まれる。
【0025】
方法ステップAでは、刷版5a(図2参照)の基板5b、好適にはチタン薄板または特殊鋼薄板が、全体的に、つまり、印刷に用いられる面の少なくとも全体にわたって、ほぼ完全に洗浄され、先行の印刷ジョブのインキまたはラッカが落とされる。このために市販の刷版洗浄剤、たとえばDruck Chemie社の「Eurostar」を用いることができ、つまり、付着してインキまたはラッカを除去することができる。これに続いて注ぎおよび乾燥を行ってもよい。
【0026】
方法ステップBでは、基板5bは、消去、つまり、先行の印刷画像を復元不能に除去するために、本発明によれば全体的に研磨処理される。このために好適には、流動性の、特に液状の研磨剤8が用いられる。Agfa社の「RC95]がテストでは効果的であった。研磨剤による処理は、テストで、先行の画像形成のナノトポグラフィの構造を消去するかもしくは破壊して、刷版の表面を後続の画像形成のために規定の出発状態にするには十分であると認められた。
【0027】
方法ステップCでは、後続の印刷画像を画像形成するために、本発明によれば、基板5bが、部分的に(つまり全体的ではなく画像形成に必要な範囲だけで)画像部においてパルスレーザビーム6(好適にはいわゆるショートパルスレーザまたは特にフェムトセカンドレーザのレーザビーム)で処理され、その際、部分的に、ナノスコープの、疎水性の、特に(水または水溶液に対して極めて小さな湿し特性に基づいて)いわゆる超疎水性の表面構造が形成される。光パルス(約1マイクロモジュール〜約10マイクロモジュールのパルスエネルギでは)は、好適には約10フェムトセカンド〜約10000フェムトセカンド、特に約100フェムトセカンド〜1000フェムトセカンド継続する。その際、部分的に、好適には約10ナノメートル〜約10000ナノメートル、特に約100ナノメートル〜約1000ナノメートルの凹部を有し、好適には約10ナノメートル〜約10000ナノメートル、特に約100ナノメートルから約1000ナノメートルの凹部の横方向の周期性を有するレーザ処理された表面のナノトポグラフィの構造が生じる。たとえばCoherent社のチタン:サファイヤレーザ(Typ RegA)が用いられる。
【0028】
方法ステップDでは、基板5bは、全体的に、親水性向上剤7で処理され、これにより基板は、本発明によれば、部分的に、直前まで疎水性または超疎水性の画像部において湿し特性が逆転され、親水性化される。親水性向上剤として、好適にはたとえばKodak社の「850 Neutral Gum」、Agfa社の「AgumZ」、「AgumO」または「AgumC2」のようなゴム化溶液(ゴム剤)が用いられる。CMC(Carboxy−Methyl−Cellulose)の水溶液をベースとしたゴム剤が特に好適である。
【0029】
方法ステップA〜Dに従った、既に印刷された刷版の再画像形成のあとで、刷版は、方法ステップEで湿され、方法ステップFで着色される。成分としてゴム剤を含有し、したがって印刷コントラスト、つまり印刷プロセスに十分な親水性部分および疎水性部分の湿し特性の差を本刷り中に維持する湿し媒体の使用が特に好適である。次いで刷版は、方法ステップGで新たに印刷される。円を成すプロセスA〜Gは、繰り返し行うことができる。
【0030】
図2には、本発明による、印刷済みの刷版を再画像形成するための装置の好適な実施の形態を側面図で示す。
【0031】
好適には版胴1として形成された、刷版5aもしくは基板5bを支持する中央の胴1の周りに、刷版5aを処理するための複数のユニットが配置されている。
【0032】
本発明による装置の主要ユニットは、消去ユニットB’および画像形成ユニットC’であり、消去ユニットB’は、先行の印刷画像を消去するために、刷版5aの基板5bを、全体的に、液状の研磨剤8で処理し、画像形成ユニットC’は、後続の印刷画像を画像形成するために、基板5bを、部分的に画像部においてショートパルスレーザC’、好適にはフェムトセカンドレーザC’で処理する。
【0033】
選択的に、本発明による装置は、洗浄ユニットA’ならびに現像ユニットD’を備えており、洗浄ユニットA’は、刷版5aの基板5bを全体的に洗浄してインキまたはラッカを落とし、現像ユニットA’は、全体的に液状のゴム剤7で処理し、これにより基板5bは、部分的に画像部において親水性化される。
【0034】
同様に選択的に、中央の胴1の周りに、湿しのためのユニットもしくは湿し装置E’ならびに着色のためのユニットもしくはインキ装置F’を配置してもよい。刷版5aの印刷は、ゴム胴2と圧胴3との間のニップにおいてゴム胴2を介して被印刷物4に行われる。
【0035】
記載の方法に対して選択的に、未印刷の、したがって未着色の刷版を、方法ステップCに従って画像形成し、方法ステップDに従って、まえもって刷版を洗浄してインキを落とすことなく、親水性化するか超親水性化する。方法ステップBに従った研磨処理は、刷版の表面を画像形成のために規定の出発状態にするために、選択的に行ってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 版胴、 2 ゴム胴、 3 圧胴、 4 被印刷物、 5a 刷版、 5b 基板、 6 レーザビーム、 7 親水性向上剤、 8 研磨剤、 A,A’ 洗浄もしくは洗浄ユニット、 B,B’ 消去もしくは消去ユニット、 C,C’ 画像形成もしくは画像形成ユニット/レーザ、 D,D’ 現像もしくは現像ユニット、 E,E’ 湿しもしくは湿しユニット、 F,F’ 着色もしくは着色ユニット、 G 印刷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷済みの刷版を再画像形成する方法において、
−刷版(5a)の基板(5b)を全体的に洗浄して、インキまたはラッカを落とし(A)、
−先行の印刷画像を消去(B)するために、基板(5b)を全体的に研磨処理し(B)、
−後続の印刷画像を画像形成(C)するために、基板(5b)を部分的に画像部においてパルスレーザビーム(6)で処理し、部分的にナノスコープの疎水性の表面構造を形成し、
−基板(5b)を全体的に親水性向上剤(7)で処理し(D)、基板(5b)を、部分的に、直前まで疎水性の画像部において親水性化する、
ことを特徴とする、印刷済みの刷版を再画像形成する方法。
【請求項2】
パルスレーザビーム(6)は、光パルスを有し、該光パルスの継続時間は、少なくともピコセカンド範囲またはフェムトセカンド範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
光パルスは、約1マイクロジュール〜約10マイクロジュールのパルスエネルギで、約10フェムトセカンド〜約1000フェムトセカンド、特に約100フェムトセカンド〜1000フェムトセカンド継続する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
基板(5b)を、研磨処理(B)のあとで画像形成(C)まで被覆しない、請求項1記載の方法。
【請求項5】
基板(5b)を、以下の基板、
−金属、
−金属酸化物、
−金属薄板、
−金属薄板上の金属酸化物層、
−チタン薄板または特殊鋼薄板上のチタン層、
−アルミニウム薄板または特殊鋼薄板上のアルミニウム層、
−特殊鋼薄板、
−プラスチック、
−プラスチックシート、
から選択する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
親水性向上剤(7)として、液状のゴム剤、特にCMC(カルボキシメチルセルロース)の水溶液を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
研磨処理(B)のために、液状の研磨剤(8)を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
印刷済みの刷版を再画像形成する装置において、
−消去ユニット(B’)を備え、該消去ユニット(B’)は、先行の印刷画像を消去するために、刷版(5b)の基板(5a)を、全体的に液状の研磨剤(8)で処理し、
−画像形成ユニット(C’)を備え、該画像形成ユニット(C’)は、後続の印刷画像を画像形成するために、基板(5b)を、部分的に画像部においてフェムトセカンドレーザ(C’)で処理する、
ことを特徴とする、印刷済みの刷版を再画像形成する装置。
【請求項9】
現像ユニット(D’)を備え、該現像ユニット(D’)は、基板(5b)を全体的に液状のゴム剤(7)で処理し、基板(5b)は、部分的に画像部において親水性化される、請求項8記載の装置。
【請求項10】
請求項8または9記載の装置を備えることを特徴とする、機械、たとえばリソグラフィ方式のオフセット印刷用の印刷機、特にシートを処理する輪転印刷機または刷版露光機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−35627(P2012−35627A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170368(P2011−170368)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(390009232)ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト (347)
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten−Anlage 52−60, Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】