説明

印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法

【課題】電解粗面化面のエッチング性、均一性が優れた印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Si:0.03〜0.15質量%、Fe:0.25〜0.50質量%、Ti:0.005〜0.040質量%、及びびMn:0.01〜0.10質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合物のうち、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が3千〜8千個/mm2、かつ、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が200万個/mm2以上であることを特徴とする。また、製造方法として、鋳塊を400℃以上500℃未満で均質化熱処理する工程と、均質化熱処理された鋳塊を圧延開始温度370℃以上430℃未満で熱間圧延し、さらに冷間圧延する工程とを含む手順としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷、特に平版印刷の支持体として使用される印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフセット印刷の支持体としては、アルミニウム又はアルミニウム合金板が使用されており、印刷版への感光膜の密着性及び非画像部の保水性を高めるために、合金板表面に粗面化処理が行われている。この粗面化処理方法として、ボール研磨法若しくはブラシ研磨法等の機械的処理方法、塩酸若しくはこれを主体とする電解液若しくは硝酸を主体とする電解液を使用して合金板表面を電気化学的に粗面化する電解粗面化処理方法、又はこれらの機械的処理方法と電解粗面化処理方法とを組み合わせた処理方法がある。電解粗面化により得られた粗面板は高い製版適正及び印刷性能を示し、コイル材での連続処理に適している。
【0003】
このような電解粗面化処理に適したアルミニウム合金板として、特許文献1には、Fe、Si、Cu及びTiを所定量含有すると共に、微量のMnを添加したものが記載されている。この特許文献1のアルミニウム合金板においては、微量のMnを添加することによって、電解粗面化面での未エッチング部の発生を抑制、すなわち、エッチング性を向上させると共に、電解粗面化面の均一性を向上させていた。
【特許文献1】特許第3295276号公報(請求項1、段落0009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアルミニウム合金板においては、製造過程において、合金板の表面にはAl−Fe−Si系、Al−Fe系、Al−Fe−Mn系等の金属間化合物が存在する。そして、この金属間化合物は、電解粗面化処理において、初期ピットの形成に影響し、この初期ピットの形成が不足すると、電解粗面化面のエッチンング性、均一性が低下し易い。また、最大長さの大きい金属間化合物が存在すると、電解粗面化面の均一性が低下し易い。そして、従来のアルミニウム合金板においては、合金板表面に存在する金属間化合物が制御されていないため、電解粗面化面のエッチンング性、均一性において満足できるレベルではないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、電解粗面化面のエッチング性、均一性が優れた印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、Si:0.03〜0.15質量%、Fe:0.25〜0.50質量%、Ti:0.005〜0.040質量%、およびMn:0.01〜0.10質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、前記アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合物のうち、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が3千〜8千個/mm2、かつ、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が200万個/mm2以上である印刷版用アルミニウム合金板として構成したものである。
【0007】
このように構成すれば、アルミニウム合金板が所定量のSi、Fe、Ti及びMnを含有し、アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合物の個数密度が所定範囲に限定されていることによって、アルミニウム合金板の表面を電解粗面化処理した際、初期ピットの形成が促進される。また、電解粗面化面を不均一にする最大長さの大きい金属間化合物の個数密度も少なくなる。
【0008】
請求項2の発明は、印刷版用アルミニウム合金板の製造方法として、Si:0.03〜0.15質量%、Fe:0.25〜0.50質量%、Ti:0.005〜0.040質量%、およびMn:0.01〜0.10質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、前記第1工程で作製された鋳塊を400℃以上500℃未満で均質化熱処理する第2工程と、前記第2工程で均質化熱処理された鋳塊を、圧延開始温度370℃以上430℃未満で熱間圧延し、さらに冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第3工程とを含む手順としたものである。
【0009】
このような手順によれば、所定含量のSi、Fe、Ti及びMnからなるアルミニウム合金を使用し、所定温度の均質化熱処理および熱間圧延を行うことによって、アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合物の個数密度が所定範囲になり、アルミニウム合金板の表面を電解粗面化処理した際、初期ピットの形成が促進される。また、電解粗面化面を不均一にする最大長さの大きい金属間化合物の個数密度も少なくなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板によれば、電解粗面化面のエッチング性、均一性が優れたものとなる。
また、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板の製造方法によれば、電解粗面化面のエッチング性、均一性が優れた印刷版用アルミニウム合金板が製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板(以下、アルミニウム合金板と称す)について説明し、その後、アルミニウム合金板の製造方法について説明する。
(1)アルミニウム合金板
本発明に係るアルミニウム合金板は、所定量のSi、Fe、Ti及びMnを含有する合金板で構成される。以下に、各化学成分の数値範囲の限定理由について説明する。
【0012】
(Si:0.03〜0.15質量%)
Siは、アルミニウム合金板の表面にAl−Fe−Si系金属間化合物を析出させ、電解粗面化処理の際、アルミニウム合金板表面の初期ピットの形成を促進させる。その結果、アルミニウム合金板の電解粗面化面(以下、粗面と称す)のエッチング性、均一性を向上させる。Si含有量が0.03質量%未満では、アルミニウム合金板表面での最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が少ないため、初期ピットの形成が不足し、粗面のエッチング性、均一性が劣る。また、Si含有量が0.15質量%を超えると、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が多くなりすぎて、粗面が不均一となる。
【0013】
(Fe:0.25〜0.50質量%)
Feは、アルミニウム合金板の表面にAl−Fe−Si系金属間化合物を析出させ、電解粗面化処理の際、アルミニウム合金板表面の初期ピットの形成を促進させる。その結果、アルミニウム合金板の粗面のエッチング性、均一性を向上させる。Fe含有量が0.25質量%未満では、アルミニウム合金板表面での最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が少ないため、初期ピットの形成が不足し、粗面のエッチング性、均一性が劣る。また、Fe含有量が0.50質量%を超えると、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が多くなりすぎて、粗面が不均一となる。
【0014】
(Ti:0.005〜0.040質量%)
Tiは、鋳塊組織を微細化する作用を有する。Tiの含有量が0.005質量%未満であると、微細化効果が不十分となり、粗面の均一性に悪影響を及ぼす。また、Ti含有量が0.040質量%を超えると、微細化効果が飽和すると共に、最大長さ10μmを超える粗大な金属間化合物が形成されて、粗面が不均一となる。さらに、Tiは、Ti−B合金としてアルミニウム合金中に添加することもできる。この際、アルミニウム合金中のBの含有量は、1〜20ppmが好ましい。
【0015】
(Mn:0.01〜0.10質量%)
Mnは、アルミニウム合金板の表面にAl−Fe−Mn系金属間化合物を析出させ、電解粗面化処理の際、アルミニウム合金板表面の初期ピットの形成を促進させる。その結果、アルミニウム合金板の粗面のエッチング性、均一性を向上させる。Al−Fe−Mn系金属間化合物は、アルミニウム合金板の製造過程において、鋳塊製造時に形成されるいわゆる晶出物に加えて、均質化熱処理時にいわゆる析出物の形態で多く形成される。Mn含有量が0.01質量%未満では、アルミニウム合金板表面での金属間化合物の析出量が少なく、特に、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が少ないため、初期ピットの形成が不足し、粗面のエッチング性、均一性が劣る。また、Mn含有量が0.10質量%を超えると、最大長さ10μmを超える粗大な金属間化合物が形成されて、粗面が不均一となる。
【0016】
本発明に係るアルミニウム合金板は、前記した各化学成分(Si、Fe、Ti及びMn)の含有量の限定に加えて、アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合部の個数密度を所定範囲に限定したものである。そして、金属間化合物の個数密度の制御は、Si、Fe及びMnの含有量の制御に加えて、例えば、後記するように、アルミニウム合金板の製造過程における均質化熱処理温度、圧延開始温度を所定温度に制御することによって達成される。以下、金属間化合物の数値範囲の限定理由について説明する。
【0017】
(最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度:3千〜8千個/mm2
最大長さ1〜10μmの金属間化合物は、鋳塊の製造時に晶出物の形態で形成され、電解粗面化処理の際、初期ピットの起点として作用し、粗面のエッチング性、均一性に顕著な影響を及ぼす。最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が3千個/mm未満では、初期ピットの形成が不足し、粗面のエッチング性、均一性が劣る。また、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が8千個/mm2を超えると、粗大なピットが形成され易くなり、粗面の均一性が劣る。最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度の算出は、走査型電子顕微鏡の写真から算出する方法が好ましいが、光学顕微鏡の写真等によって算出してもよい。
【0018】
(最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度:200万個/mm以上)
最大長さ1μm未満の金属間化合物は、鋳塊の均質化熱処理時、熱間圧延時に析出物の形態で形成される。形成された金属間化合物は、非常に微細で、かつ分布数が多いため、電解粗面化処理の際、初期ピットの形成を促進し、粗面のエッチング性、均一性に顕著な影響を及ぼす。最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が200万個/mm未満では、初期ピットの形成が不足し、粗面のエッチング性、均一性が劣る。最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度の算出は、透過型電子顕微鏡の写真から算出する方法が好ましいが、走査型電子顕微鏡の写真等によって算出してもよい。
【0019】
(2)アルミニウム合金板の製造方法
本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、鋳塊を作製する第1工程と、鋳塊を均質化熱処理する第2工程と、均質化熱処理された鋳塊からアルミニウム合金板を作製する第3工程とを含むものである。以下、各工程について説明する。
【0020】
(第1工程)
化学成分(Si、Fe、Ti及びMn)の含有量を所定範囲に限定したアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する。各成分の含有量を数値限定した理由については、前記と同様である。また、溶解、鋳造方法としては従来公知の方法を使用する。
【0021】
(第2工程)
前記第1工程で作製された鋳塊を所定温度で均質化熱処理する。これによって、アルミニウム合金板の表面に存在する最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度を所定範囲にすることが可能となる。なお、均質化熱処理方法については、従来公知の方法を使用する。以下、均質化熱処理温度の数値限定理由について説明する。
【0022】
(均質化熱処理温度:400℃以上500℃未満)
均質化熱処理温度が400℃未満であると、均質化熱処理が不十分であることに加えて、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の析出量が少なく、金属間化合物の個数密度が不足するため、初期ピットの形成が促進されず、粗面のエッチング性、均一性が劣る。そして、均質化熱処理温度が500℃以上であると、最大長さ1μm未満の金属間化合物が固溶し、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が少なくなるため、初期ピットの形成が不足し、粗面のエッチング性、均一性が劣る。
【0023】
(第3工程)
前記第2工程の均質化熱処理された鋳塊を、所定温度の圧延開温度で熱間圧延し、さらに冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する。これによって、アルミニウム合金板の表面に存在する最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度を所定範囲にすることが可能となる。なお、熱間圧延、冷間圧延方法については、従来公知の方法を使用する。ここで、冷間圧延率は60〜95%が好ましい。また、必要に応じて、熱間圧延、冷間圧延を複数回繰り返し行い、熱間圧延と冷間圧延との間に荒焼鈍を行なってもよい、また、各冷間圧延の間に中間焼鈍を行なってもよい。以下、熱間圧延の圧延開始温度の数値限定について説明する。
【0024】
(熱間圧延開始温度:370℃以上430℃未満)
熱間圧延開始温度が370℃未満であると、圧延板中の動的再結晶が不十分であり、圧延板の結晶組織が不均一となり、粗面が不均一となる。また、それに加えて、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度が不足するため、初期ピットの形成が促進されず、粗面のエッチング性、均一性が劣る。そして、熱間圧延開始温度が430℃以上であると、熱間圧延の各パス間において結晶粒が過剰に成長してしまい、粗面が不均一となる。また、それに加えて、最大長さ1μm未満の金属間化合物が固溶し、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が少なくなるため、初期ピットの形成が促進されず、粗面のエッチング性、均一性が劣る。
【実施例】
【0025】
本発明に係るアルミニウム合金板の実施例(実施例1〜7)について、その比較例(比較例1〜8)と比較して具体的に説明する。
【0026】
<実施例1〜7、比較例1〜8>
表1に示す組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製し、面削して470mm厚さとした。この鋳塊を480℃×4hで均質化熱処理し、圧延開始温度420℃で熱間圧延して厚さ3mmの圧延板を作製した。この圧延板を冷間圧延し、420℃の中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延して厚さ0.3mmのアルミニウム合金板を作製した。
【0027】
実施例1〜7、比較例1〜8のアルミニウム合金板について、以下の方法で金属間化合物の個数密度を算出した。その結果を表1に示す。
(最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度)
アルミニウム合金板の表面をバフ等で研磨して鏡面とし、この鏡面を走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像で500倍の倍率で観察した。合計50視野の画像解析結果により最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度(個/mm2)を算出した。
【0028】
(最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度)
アルミニウム合金板の表面近傍を機械研磨で約0.1mm厚みに薄肉化し、さらに、電解研磨(ジェットポリッシュ)で観察部位を薄膜化し、透過型電子顕微鏡(TEM)のTEM像で50000倍の倍率で観察した。合計50視野の写真から最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度(個/mm2)を算出した。なお、金属間化合物の個数としては、TEM像でカウントした金属間化合物の個数B(個)から、TEM像の深さ(200nm)を考慮して、下記数式(1)で算出された個数A(個)を使用した。
A=(B)2/3・・・(1)
【0029】
次に、前記のアルミニウム合金板の表面を、以下の条件で電解粗面化処理した。
(電解粗面化処理条件)
アルミニウム合金板を、5質量%水酸化ナトリウム水溶液で、温度50℃にて30秒間脱脂後、1質量%硝酸で、室温にて30秒間中和洗浄した。中和洗浄されたアルミニウム合金板を、2質量%塩酸中で、電流密度120A/dm2 、周波数60Hz、温度25℃の電解条件で、10秒間の電解処理する方法で交流電解粗面化処理した。電解粗面化処理されたアルミニウム合金板を、5質量%水酸化ナトリウム水溶液で、温度50℃にて10秒間デスマット処理後、30質量%硝酸で、室温にて30秒間中和洗浄し、水洗し、乾燥させた。これを評価試料とした。
【0030】
次に、評価試料の粗面(電解粗面化面)のエッチング性、均一性について、以下の評価方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0031】
(エッチング性の評価方法)
評価試料の粗面を、SEMを用いて350倍で表面観察を行い、視野面積が全体で0.02mm2になるように写真を撮影し、この写真を基にして下記数式(2)に示す方法により未エッチング率(%)を求めた。
未エッチング率=粗面化されていない部分の面積/全体の面積×100・・・(2)
そして、求めた未エッチング率(%)から、エッチング性の評価を行った。ここで、未エッチング率が0〜5%のものを○(良好)とし、未エッチング率が5%を超えるものを×(不良)とした。
【0032】
(均一性の評価方法)
評価試料の粗面を、SEMを用いて2000倍で表面観察を行い、これを写真撮影した。この写真を並べて全長100cmの線を平行に3本引き、この線の下にある最大のピットと最小のピットの大きさ(最大長さ)の差を求めることにより均一性を評価した。ここで、ピットの大きさの差が2μm以下のものを○(良好)とし、ピットの大きさの差が2μmを超えるものを×(不良)とした。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、実施例1〜7は、化学組成、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度が本発明の請求範囲(以下、請求範囲と称す)を満足するため、粗面のエッチング性、均一性に優れるものであった。
【0035】
比較例1は、Si含有量、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が請求範囲の下限値未満であるため、粗面のエッチング性、均一性に劣るものであった。比較例2は、Si含有量、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が請求範囲の上限値を超えるため、粗面の均一性に劣るものであった。
【0036】
比較例3は、Fe含有量、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が請求範囲の下限値未満であるため、粗面のエッチング性、均一性に劣るものであった。比較例4は、Fe含有量、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が請求範囲の上限値を超えるため、粗面の均一性に劣るものであった。
【0037】
比較例5は、Mn含有量、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度が請求範囲の下限値未満であるため、粗面のエッチング性、均一性に劣るものであった。比較例6は、Mn含有量が請求範囲の上限値を超えるため、最大長さ10μmを超える粗大な金属間化合物が形成され、粗面の均一性に劣るものであった。
【0038】
比較例7は、Ti含有量が請求範囲の下限値未満であるため、鋳塊組織が微細化されず、粗面の均一性に劣るものであった。比較例8は、Ti含有量が請求範囲の上限値を超えるため、最大長さ10μmを超える粗大な金属間化合物が形成され、粗面の均一性に劣るものであった。
【0039】
次に、前記の実施例1と製造方法の異なる実施例(実施例8〜9)について、その比較例(比較例9〜11)と比較して具体的に説明する。
【0040】
<実施例8〜9、比較例9〜11>
表2に示すように、実施例8〜9、比較例9〜11は、アルミニウム合金の化学組成は実施例1と同様のものを使用し、均質化熱処理温度、圧延開始温度を実施例1と異なる温度で実施したこと以外は実施例1と同様にして、アルミニウム合金板を作製した。
【0041】
そして、実施例1と同様にして金属間化合物の個数密度を算出した。その結果を表2に示す。また、実施例1と同様にして電解粗面化処理を行ない、粗面のエッチング性、均一性について評価した。その結果を表2に示す。なお、表2においては、前記実施例1の結果も合わせて記載した。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示すように、実施例8〜9は、均質化熱処理温度、圧延開始温度が請求範囲を満足するため、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度が請求範囲内に制御され、粗面のエッチング性、均一性に優れるものであった。
【0044】
比較例9は、均質化熱処理温度、圧延開始温度が請求範囲の下限値未満であるため、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度が請求範囲の下限値未満となり、粗面のエッチング性、均一性に劣るものであった。
【0045】
比較例10は、均質化熱処理温度、圧延開始温度が請求範囲の上限値を超えるため、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が請求範囲の下限値未満となり、粗面のエッチング性、均一性に劣るものであった。
【0046】
比較例11は、均質化熱処理温度が請求範囲の上限値を超え、圧延開始温度が請求範囲の下限値未満であるため、最大長さ1〜10μm及び1μm未満の金属間化合物の個数密度が請求範囲の下限値未満となり、粗面のエッチング性、均一性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.03〜0.15質量%、Fe:0.25〜0.50質量%、Ti:0.005〜0.040質量%、およびMn:0.01〜0.10質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合物のうち、最大長さ1〜10μmの金属間化合物の個数密度が3千〜8千個/mm2、かつ、最大長さ1μm未満の金属間化合物の個数密度が200万個/mm2以上であることを特徴とする印刷版用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Si:0.03〜0.15質量%、Fe:0.25〜0.50質量%、Ti:0.005〜0.040質量%、およびMn:0.01〜0.10質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、
前記第1工程で作製された鋳塊を400℃以上500℃未満で均質化熱処理する第2工程と、
前記第2工程で均質化熱処理された鋳塊を、圧延開始温度370℃以上430℃未満で熱間圧延し、さらに冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第3工程とを含むことを特徴とする印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。

【公開番号】特開2007−131917(P2007−131917A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326642(P2005−326642)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人軽金属学会から平成17年10月20日に発行された「第109回秋期大会講演概要集」において発表
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】