説明

印刷物の製造方法及びその方法で得られた化粧材

【課題】表面に光沢のある部分(グロス部分)と光沢の少ない部分(マット部分)を有し、それらの違いが明瞭に現われる、いわゆるグロスマット効果を良好に発現し得る印刷物を、グラビア印刷方式により生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施し、印刷物を製造する方法であって、前記樹脂ビーズが、その粒径分布において少なくとも2つの粒子群を示すピークを有するものであり、かつ、グラビア印刷に用いる版材におけるセルの少なくとも一部が、前記ピークのうち最大粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有する、印刷物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法及びその方法で得られた化粧材に関する。さらに詳しくは、本発明は、表面に光沢のある部分(グロス部分)と光沢の少ない部分(マット部分)を有し、それらの違いが明瞭に現われる、いわゆるグロスマット効果を良好に発現し得る印刷物を、グラビア印刷方式により生産性よく製造する方法、及びこの方法で得られた良好なグロスマット効果を有する化粧材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の内外装材、自動車などの車両の内装材、電気製品などのハウジング材、家具などの表面材等には化粧材が用いられている。この化粧材としては、例えば鋼板などの金属系基板や樹脂系基板などの板状基材に、直接印刷模様を施した化粧材、あるいは樹脂製シートや紙基材などのシート状基材に印刷模様を施した化粧シートを、例えば金属系、無機非金属系、木質系、樹脂系などの被着材に接合してなる化粧材が知られている。
【0003】
これらの化粧材においては、意匠性を高めるために、印刷模様として、木目模様、石目模様、布目模様、皮目模様、幾何模様、抽象柄模様などが施されることが多い。さらに、前記印刷模様を施す技術として、表面に光沢のある部分(グロス部分)と光沢の少ない部分(マット部分)を作り、それらの違いを明瞭に現わし、グロスマット効果を発現させて意匠性を高める技術が開発されている。
前記のグロスマット効果の発現方法としては、従来、一般に粒径5μm程度以下の微粒マット剤を添加したインキを用い、塗膜の表面に印刷を施し、該塗膜と印刷部分との光沢差を大きくすることで、グロスマット効果を発現させる方法が行われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、塗膜自体の光沢が低い場合には、該塗膜と印刷部分との光沢差が小さくなり、グロスマット効果が十分に発現されないという問題が生じる。
【0004】
ところで、粒径10〜100μm程度の粗粒子を含むインキを用いる印刷は、シルクスクリーン印刷方式では、一般に行われており、版の網目の大きさを選ぶことで、粒径の大きな粗粒子を含むインキを用いて印刷することは公知である。
これに対し、グラビア印刷方式では、版の凹部の形状が、一般に四角錘状であって、その間口及び深さの関係から、該凹部に入る粒子の粒径に制限があり、したがって、インキとして、その中の粒子の粒径が5μm程度以下であるものが、通常使用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−136478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、表面に光沢のある部分(グロス部分)と光沢の少ない部分(マット部分)を有し、それらの違いが明瞭に現われる、いわゆるグロスマット効果を良好に発現し得る印刷物を、グラビア印刷方式により生産性よく製造する方法、及びこの方法で得られた良好なグロスマット効果を有する化粧材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、粒径分布において、少なくとも2つの粒子群を示すピークを有する樹脂ビーズを含むインキを用い、かつ版材におけるセルの少なくとも一部が、前記ピークのうち最大粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有するグラビア版を用いて、被印刷物にグラビア印刷することにより、所望の印刷物を生産性よく製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施し、印刷物を製造する方法であって、前記樹脂ビーズが、その粒径分布において少なくとも2つの粒子群を示すピークを有するものであり、かつ、グラビア印刷に用いる版材におけるセルの少なくとも一部が、前記ピークのうち最大粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有することを特徴とする印刷物の製造方法、
(2)版材におけるセルの少なくとも一部が、さらに粒径分布におけるピークのうち最小粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズのみを複数個実質上充填し得る柱状凹部を有する上記(1)に記載の印刷物の製造方法、
(3)樹脂ビーズとして、(A)粒径が5μm以下の粒子群と、(B)粒径が10〜30μmの粒子群と、(C)粒径が30μm超、かつ50μm以下の粒子群の中から選ばれる少なくとも2つの粒子群を含むものを用いる上記(1)又は(2)に記載の印刷物の製造方法、
【0008】
(4)版材におけるセルの少なくとも一部が、間口100〜300μm、及び深さ50〜200μmの柱状凹部を有する上記(3)に記載の印刷物の製造方法、
(5)版材におけるセルの少なくとも一部が、(C)粒子群の樹脂ビーズを実質上充填することができないが、(B)粒子群の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有する上記(3)又は(4)に記載の印刷物の製造方法、
(6)被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施す前に、透明樹脂層を設ける上記(1)〜(5)のいずれかに記載の印刷物の製造方法、
(7)被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施した後に透明表面保護層を設ける上記(1)〜(6)のいずれかに記載の印刷物の製造方法、
(8)グラビア印刷がグラビアオフセット印刷である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の印刷物の製造方法、
(9)被印刷物が、印刷層を有する又は有しない板状、シート状又はフィルム状の基材からなる上記(1)〜(8)のいずれかに記載の印刷物の製造方法、
(10)板状の基材が鋼板である上記(9)に記載の印刷物の製造方法、
(11)基材の印刷層が設けられる側の表面にプライマー層を有する上記(9)又は(10)に記載の印刷物の製造方法、
(12)被印刷物の基材が鋼板であり、印刷物製造の最終工程が、加熱により各層を完全硬化処理する工程である上記(10)又は(11)に記載の印刷物の製造方法、
(13)被印刷物の基材が樹脂製のシート又はフィルムであり、印刷物の製造の最終工程が、加熱により各層を完全乾燥処理する工程である上記(9)又は(11)に記載の印刷物の製造方法、及び
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする化粧材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面に光沢のある部分(グロス部分)と光沢の少ない部分(マット部分)を有し、それらの違いが明瞭に現われる、いわゆるグロスマット効果を良好に発現し得る印刷物を、グラビア印刷方式により生産性よく製造する方法、及びこの方法で得られた良好なグロスマット効果を有する化粧材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の印刷物の製造方法は、被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施し、印刷物を製造する方法であって、前記樹脂ビーズが、その粒径分布において少なくとも2つの粒子群を示すピ−クを有するものであり、かつ、グラビア印刷に用いる版材におけるセルの少なくとも一部が、前記ピークのうち最大粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有することを特徴とする。
本発明の方法において、グラビア印刷におけるインキに含まれる樹脂ビーズとしては、その粒径分布において少なくとも2つの粒子群を示すピークを有するものが用いられる。1つの粒子群を示すピークを有する樹脂ビーズでは、グロスマット効果の発現が不十分であり、本発明の目的が達せられない。
グロスマット効果と高意匠性の付与の観点から、後述する3つの粒子群を示すピークを有する樹脂ビーズを用いることができる。
【0011】
また、本発明の方法においては、グラビア印刷に用いる版材におけるセルは、その少なくとも一部が、前記ピークのうち最大粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有することを要す。このセルにおいては、最大粒径のピークで示される粒子群よりも粒径の小さな粒子群は、全て前記セルの凹部に充填し得ることになる。
さらに、本発明の方法においては、前記版材におけるセルは、その少なくとも一部が、前記ピークのうち最小粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズのみを複数個実質上充填し得る柱状凹部を有することが好ましい。このセルの凹部は、粒径が異なる粒子群の樹脂ビーズが2つ以上存在するとき、最小粒径の粒子群の樹脂ビーズのみを充填し、それよりも粒径の大きな粒子群の樹脂ビーズは充填されない。
【0012】
前記の3つの粒子群を示すピークを有する樹脂ビーズとしては、例えば(A)粒径が5μm以下の粒子群、(B)粒径が10〜30μmの粒子群及び(C)粒径が30μm超、かつ50μm以下の粒子群を用いることができる。
これらの(A)、(B)及び(C)の3つの粒子群は、それぞれの粒子群において、実質上正規分布を有するものが好ましく、最小の粒子群である(A)樹脂ビーズは、好ましい粒径が1〜5μm程度であり、平均粒径が3μm程度である。また、中間の粒子群である(B)樹脂ビーズは、平均粒径が20μm程度であり、最大粒子の粒子群である(C)樹脂ビーズは、平均粒径が40μm程度である。
このように、粒径が異なる粒子群の樹脂ビーズが3つ存在する場合、最大粒径の粒子群である(C)樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部の形状としては、間口が100〜300μmで、深さが50〜200μmであることが好ましい。
また、最小粒径の粒子群である(A)樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部の形状としては、間口が100〜300μmで、深さが5μm以上〜10μm未満とするか、間口を10μm以下とする方法がある。このうち、後者の方が(A)樹脂ビーズ以外のビーズが一切入らないことから好ましい。
【0013】
本発明においては、前記のように、粒径が異なる粒子群の樹脂ビーズが3つ存在する場合、版材におけるセルの少なくとも一部を、(C)粒子群の樹脂ビーズを実質上充填することができないが、(A)粒子群及び(B)粒子群の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有するものにすることができる。
【0014】
図1は、グラビア印刷に用いる版材におけるセルが、最大粒径の粒子群の樹脂ビーズを充填し得る柱状凹部と、最小粒径の粒子群の樹脂ビーズのみを充填し得る柱状凹部を有する場合、各凹部に粒径が異なる2つ以上の粒子群の樹脂ビーズを含むインキが、前記凹部に充填された状態の一例を示す模式図である。
図1は、前記の(A)粒子群、(B)粒子群及び(C)粒子群の3つの粒子群の樹脂ビーズを含むインキ6が、グラビア版材1のセル2、2’の凹部に充填された状態を示す。なお、符号3は(A)粒子群の樹脂ビ−ズ、符号4は(B)粒子群の樹脂ビーズ、符号5は(C)粒子群の樹脂ビーズを示す。
【0015】
このグラビア版材を用い、塗膜状にグラビア印刷した場合、塗膜表面に各セルに対応する、粒径の異なる樹脂ビーズを含む印刷模様が形成される。この場合、粗粒の樹脂ビーズを含む領域と、微粒樹脂ビーズのみの領域の2領域が出現する。したがって、粗粒の樹脂ビーズを含む領域のグロス値と、微粒樹脂ビーズのみの領域のグロス値と、塗膜表面のグロス値とが、それぞれ異なることから、良好なグロスマット効果が発現する。
【0016】
また、グラビア印刷に用いる版材として、セルが、最大粒径の粒子群の樹脂ビーズを充填し得る柱状凹部と、中間粒径の粒子群の樹脂ビーズを充填し得る柱状凹部と、最小粒径の粒子群の樹脂ビーズのみを充填し得る柱状凹部の3種を有するものを用い、粒径が異なる3つの粒子群の樹脂ビーズを含むインキを用いて、塗膜上にグラビア印刷した場合、印刷模様に粗粒の樹脂ビーズを含む領域と、中間粒径の樹脂ビーズを含む領域と、微粒樹脂ビーズのみの領域の3領域が出現し、各領域のそれぞれのグロス値と、塗膜表面のグロス値とが異なることから、前記図1の場合よりも、意匠性の高いグロスマット効果を発現することができる。
従来のグラビア版材におけるセルの凹部形状は、一般に四角錘であって、該凹部に入る粒子の粒径に制限があり、通常粒径5μm程度以下の樹脂ビーズを含むインキが用いられてきた。これに対し、本発明においては、セルの凹部形状を柱状とすることにより、粒径が50μm程度までの粗粒を充填することが可能である。
なお、本発明における柱状凹部については特に制限はなく、多角柱状凹部、円柱状凹部のいずれでもよいが、通常は四角柱状凹部である。
【0017】
樹脂ビーズとしては、透明又は半透明のものが用いられ、被印刷物における基材が、金属系、無機非金属系(セラミックス系、非セラミックス窯業系など)、木質系、熱硬化性樹脂系などの耐熱性材料からなる場合、印刷物の製造過程において焼付け硬化処理が施されるため、それに耐え得る耐熱性樹脂ビーズが用いられる。
この耐熱性樹脂ビーズとしては、例えば熱硬化性アクリル系樹脂ビーズ、熱硬化性ウレタン系樹脂ビーズ、ベンゾグアナミン/ホルムアルデヒド縮合物ビーズ、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルムアルデヒド縮合物ビーズ、尿素系樹脂ビーズ、ナイロンビーズなど、及びこれらの混合ビーズを用いることができる。
一方、被印刷物における基材が、熱可塑性樹脂からなる場合、樹脂ビーズとしては、前記の耐熱性樹脂ビーズの他に、熱可塑性樹脂ビーズ、例えばポリアミド系ビーズ、アクリル系ビーズ、ポリオレフィン系ビーズ、ポリカーボネート系ビーズ、ポリスチレン系ビーズなど、及びこれらの混合ビーズを用いることもできる。
【0018】
前記樹脂ビーズを含むインキにおける樹脂ビーズの含有量は、該インキ中のビヒクル100質量部に対し、通常5〜20質量部程度である。樹脂ビーズの含有量が前記範囲にあれば、低光沢部分と高光沢部分との違いが明瞭に現れると共に、触感や、絵柄層による低光沢部分における加工部の亀裂が生じにくい。樹脂ビーズの好ましい含有量は8〜12質量部である。
【0019】
前記ビヒクルとしては、被印刷物における基材が、前述のように金属系などの耐熱性材料からなる場合、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。この熱硬化性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、アミノプラスト系樹脂などが挙げられる。得られる印刷物に曲げ加工などを施す場合には、重量平均分子量が8000以上のポリエステル樹脂が好適である。
一方、被印刷物における基材が、熱可塑性樹脂からなる場合、ビヒクルとしては、熱可塑性樹脂、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が、好ましく挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
前記の樹脂ビーズ及びビヒクルと共に用いられる着色剤としては、例えば、鋼板用としては、カーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青等の無機顔料;アルミニウム粉、プロンズ粉等の金属粉顔料;酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料;蛍光顔料;夜光顔料等が挙げられる。
また、フィルム仕様又はシート仕様では、上記鋼板用顔料に加えて、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料等を使用することもできる。
これらの着色剤は、単独又は2種以上を混合して使用できる。これらの着色剤には、シリカ等のフィラー、有機ビーズ等の体質顔料、中和剤、界面活性剤等をさらに配合してもよい。
【0021】
本発明においては、前記のグラビア版材及び樹脂ビーズを含むインキを用いて、被印刷物にグラビア印刷を施し、グロスマット効果を発現する印刷物を製造するが、当該被印刷物は、前記グラビア印刷が施される側の表面に、印刷層を有するものであってもよいし、有しないものであってもよく、また板状基材、シート状基材、フィルム状基材のいずれであってもよい。
この基材の材質については特に制限はなく、耐熱性基材、熱可塑性樹脂基材など、いずれも用いることができる。
耐熱性基材の材料としては、金属系、無機非金属系(セラミックス系、非セラミックス窯業系等)が代表的であるが、この他、木質系、耐熱性が許せば樹脂系等でもよい。また、基材はこれらの混合系、積層物等の複合系等でもよい。
【0022】
基材材料の具体例としては、金属系の材料として、鉄、銅、アルミニウム等の各種金属が挙げられる。
これら基材のなかで、金属板等は好ましい基板の一例であり、この金属板としては、例えば、軟鋼板、電鋳鉄箔、ステンレス鋼板、アルミニウム板、ジュラルミン板、鋼板等の板材、あるいはこれらに亜鉛、錫、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル等の1種又は2種以上をめっきしたもの等が挙げられる。2種以上のめっきは、例えば、鉄と亜鉛の合金めっき、アルミニウムと亜鉛の合金めっき等がある。この様な金属板の具体例としては、例えば、電気亜鉛めっき鋼板、合金溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム合金溶融亜鉛めっき鋼板、合金電気めっき鋼板、制振鋼板等の鋼板が挙げられる。これら金属板の厚みは用途によるが、例えば0.3〜2.0mm程度で、具体例を挙げれば、0.4mm、0.5mm、0.6mm等である。
【0023】
熱可塑性樹脂基材としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ABS、ポリスチレン等の基材を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂基材の中では、ポリオレフィン系樹脂製基材及び熱可塑性ポリエステル系樹脂製基材が好適である。
【0024】
前記基材の表面には、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、厚みが1〜10μm程度のプライマー層を設けることができる。
基材が金属系などの耐熱性基材である場合には、プライマー層の形成材料としては、例えばポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂を含む公知の硬化性塗料を用途等に応じて適宜採用することができる。特に、代表的には、スルホン酸塩系の硬化触媒を用いた不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。
一方、基材が熱可塑性樹脂製基材である場合には、プライマー層の形成材料としては、2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはウレタン樹脂系水性プライマー剤などの公知のプライマー剤を用いることができる。
また、プライマー層を設ける代わりに、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理などの表面処理を施してもよい。
【0025】
当該被印刷物は、基材上に直接に、又はプライマー層を有する基材の該プライマー層上に、基調色層を設けたものであってもよい。
この基調色層形成材料としては、前記基材が金属系などの耐熱性基材である場合、高温硬化処理が可能な熱硬化性樹脂を主体とするものを用いることができる。この熱硬化性樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などが挙げられ、これらの中でスルホン酸塩系の硬化触媒を用いた不飽和ポリエステル樹脂が好適である。
一方、該基材が熱可塑性樹脂基材などの非耐熱性基材である場合、高温硬化処理がしにくいので、基調色層形成材料としては、熱可塑性樹脂を主体とするものを用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂、あるいは、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
この基調色層は、得られる印刷物の意匠全体の基調色を表現する層であり、したがって、当該基調色層形成材料には、着色剤が含まれていてもよい。この着色剤としては、例えば酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、酸化鉄、黄鉛、酸化クロム、群青、メタリック顔料、パール顔料等を用いることができる。
基調色層形成材料の塗布は、例えばロールコート、フローコート、スプレーコートなどの公知の塗工法、グラビアオフセット印刷、シルクスクリーン印刷などの公知の印刷法により行うことができる。
このようにして設けられたウェット塗膜を加熱乾燥することにより基調色層が形成されるが、この段階では、該基調色層は、不完全硬化状態(熱硬化性樹脂を主体とする場合)又は不完全乾燥状態(熱可塑性樹脂を主体とする場合)であってもよい。
基調色層の厚みに特に制限はないが、通常15〜30μm程度、好ましくは15〜25μm程度である。
本発明で用いる被印刷物は、前記のようにして形成された基調色層上に、得られる印刷物の意匠性を向上させるために、下柄印刷層を設けたものであってもよい。
【0027】
本発明の方法においては、前記の被印刷物上に、すなわち、板状基材、シート状基材、フィルム状基材などの基材上に直接に、又は前記基材に設けられた下柄印刷層を有していてもよい基調色層上に、前述の本発明に係る樹脂ビーズを含むインキ及び柱状凹部のセル形状を有するグラビア版材を用いて、グラビア印刷、好ましくはグラビアオフセット印刷を施し、グロスマット効果を有する絵柄層を形成するが、この絵柄層を形成する前に、所望により透明樹脂層を設けることができる。
前記絵柄層の形成前に設けられる透明樹脂層は、主として絵柄層のグロスマット効果を強調させるため及び得られる印刷物に耐傷付き性、耐汚染性、耐候性、耐薬品性などを付与するための保護層でもある。
【0028】
前記絵柄層の形成前に設けられる透明樹脂層は、それを構成する材料として、被印刷物における基材が金属系などの耐熱性基材である場合には、通常熱硬化性ポリエステル樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。一方、基材が熱可塑性樹脂基材などの非耐熱性基材である場合には、通常ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられる。
前記の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む塗工液を、例えばロールコート、フローコート、スプレーコートなどの公知の塗工法、グラビアオフセット印刷、シルクスクリーン印刷などの公知の印刷法により、被印刷物上に塗付し、加熱乾燥することにより透明樹脂層が形成されるが、この段階では、該透明樹脂層は、不完全硬化状態(熱硬化性樹脂の場合)又は不完全乾燥状態(熱可塑性樹脂の場合)であってもよい。
当該透明樹脂層は、公知の着色剤で適宜の色調に着色してもよい。また、その厚みに特に制限はないが、通常1〜5μm程度、好ましくは1〜3μmである。
【0029】
このようにして、所望により設けられる透明樹脂層上に、本発明に係る樹脂ビーズを含むインキ及び柱状凹部のセル形状を有するグラビア版材を用い、グラビア印刷を施して形成される絵柄層は、絵柄として、印刷物の用途に応じて例えば木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼り模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、各種抽象模様、あるいは全面ベタなど、さらにはこれらの組合せなどが採用される。
【0030】
本発明において、この絵柄層には、例えば(1)粗粒の樹脂ビーズを含む領域、(2)粗粒の樹脂ビーズを含む領域と、微粒樹脂ビーズのみの領域、(3)粗粒の樹脂ビーズを含む領域と、中間粒径の樹脂ビーズを含む領域と、微粒樹脂ビーズのみを含む領域、などが存在する。そして、前記各領域のそれぞれのグロス値と、塗膜表面のグロス値とが異なることから、意匠性の高いグロスマット効果が発現する。
この絵柄層の厚みは、樹脂ビーズの粒径に左右されるが、通常1〜10μm程度、好ましくは1〜5μmである。
【0031】
このようにして形成されたグロスマット効果を有する絵柄層上に、所望により透明表面保護層を設けてもよい。透明表面保護層は、透明それを構成する材料として、被印刷物における基材が金属系などの耐熱性基材である場合には、熱硬化性樹脂又は電離放射線硬化性樹脂などを用いることができる。一方、基材が熱可塑性樹脂基材などの非耐熱性基材である場合には、熱可塑性樹脂や電離放射線硬化性樹脂などを用いることができる。また、当該透明表面保護層には、その透明性を損なわない範囲内で艶消剤や着色剤等を添加することができる。
【0032】
被印刷物における基材が、金属系などの耐熱性基材である場合、熱硬化性樹脂又は電離放射線硬化性樹脂を含む塗工液を、例えばロールコート、フローコート、スプレーコートなどの公知の塗工法、グラビアオフセット印刷、シルクスクリーン印刷などの公知の印刷法により、前記絵柄層上に塗布し、加熱乾燥し、電離放射線硬化性樹脂の場合は、さらに紫外線や電子線を照射して硬化させたのち、例えば熱風加熱、遠赤外線加熱などの公知の加熱方式により、通常150〜250℃程度、好ましくは200〜220℃程度の温度で加熱処理して、各層を完全硬化することにより、表面に透明表面保護層を有する所望の印刷物を得ることができる。
一方、被印刷物における基材が、熱可塑性樹脂基材などの非耐熱性基材である場合、前記熱可塑性樹脂又は電離放射線硬化性樹脂を含む塗工液を、例えばロールコート、フローコート、スプレーコートなどの公知の塗工法、グラビアオフセット印刷、シルクスクリーン印刷などの公知の印刷法により、前記絵柄層上に塗布し、例えば風乾又は低温での乾燥をし、電離放射線硬化性樹脂の場合は、さらに紫外線や電子線を照射して硬化させることにより、表面に透明表面保護層を有する所望の印刷物を得ることができる。
当該透明表面保護層の厚みとしては特に制限はなく、用途に応じて適宜選定されるが、通常1〜50μm程度、好ましくは1〜10μmである。
【0033】
図2及び図3は、それぞれ本発明の方法で製造された印刷物の異なる例の断面模式図である。
図2で示される印刷物10は、前記図1で示される柱状凹部に樹脂ビーズを含むインキが充填されたグラビア版材を用いて得られた印刷物であって、基材11上に、プライマー層12を介して基調色層13が形成され、その上に透明樹脂層14が形成され、さらにその上に粗粒の樹脂ビーズを含む領域15と微粒樹脂ビーズのみの領域16を有する絵柄層が形成された構造を有している。
図3で示される印刷物20は、前記図2において、基調色層13上に下柄印刷層17が設けられている以外は、図2と同様の構造を有している。
本発明の印刷物の製造方法によれば、本発明に係る樹脂ビーズを含むインキ及び柱状凹部のセル形状を有するグラビア版材を用い、被印刷物上に1回の印刷を施すのみで、例えば(1)粗粒の樹脂ビーズを含む領域、(2)粗粒の樹脂ビーズを含む領域と、微粒樹脂ビーズのみの領域、(3)粗粒の樹脂ビーズを含む領域と、中間粒径の樹脂ビーズを含む領域と、微粒樹脂ビーズのみを含む領域、などが存在する絵柄層を容易に形成することができる。したがって、良好なグロスマット効果を発現する意匠性の高い印刷物を生産性よく製造することができる。
【0034】
次に、本発明の化粧材について説明する。
本発明の化粧材は、前述の本発明の方法により得られたものであって、前記の印刷物からなるものであってもよく、該印刷物を含むものであってもよい。
すなわち、被印刷物の基材が、例えば、板状基材である場合、得られる印刷物は、そのまま化粧材として各種の用途に用いることができる。一方、被印刷物の基材がフィルム状又はシート状基材である場合、得られる印刷物を各種被着体の表面に積層し、化粧材となして、各種の用途に用いることができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
厚みが0.6mmの鉄−亜鉛系合金化溶融めっき鋼板(シルバーアロイ)からなる基板の表面側に、熱硬化性ポリエステル樹脂系プライマーをロールコート法により、乾燥厚みが2μmになるように塗布後、加熱乾燥して、完全硬化状態のプライマー層を形成した。次いで、熱硬化性ポリエステル樹脂系のグレー色系塗料をカーテンフローコート法により、乾燥厚みが20μmになるように塗布後、塗膜温度を180℃で加熱乾燥して、不完全硬化状態の基調色層を形成した。
次に、耐候性を有するポリエステル系樹脂にメタリック顔料を練り込んだインクを、前記基調色層全面に塗布し、さらに耐候性を有するポリエステル系樹脂にメタリックを、次いでメタリックの後に耐候性を有するアクリル樹脂系の保護層を施し、厚み3〜4μmの耐候性透明樹脂層を形成した。
一方、平均粒径20μmの粗粒樹脂ビーズ(ナイロン系)と、平均粒径40μmの粗粒樹脂ビーズ(ナイロン系)を、質量比1:1の割合で含む混合粗粒樹脂ビーズを、熱硬化性ポリエステル系樹脂に10質量%の割合で添加してなるクリヤーインキを調製した。
次に、グラビア版材として、開口部200μm、版深65μmの四角柱状凹部のセル形状を有するものを用い、前記インキを使用して、前記の透明樹脂層上にグラビアオフセット印刷を施し、印刷層を設けた。この印刷板を220℃の温度で加熱処理し、各層を完全硬化させて印刷物を製造した。
この印刷物について、粗粒樹脂ビーズが存在する領域の60°グロス値及び樹脂ビーズが存在しない領域の塗膜表面の60°グロス値を、グロスメーターを使用し、JIS K 7105に準拠して測定したところ、粗粒の存在する領域の光沢が10グロス、粗粒の存在しない領域の光沢が30グロスであり、良好なグロスマット効果を有する印刷物であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の印刷物の製造方法によれば、表面に光沢のある部分(グロス部分)と光沢の少ない部分(マット部分)を有し、それらの違いが明瞭に現われる、いわゆるグロスマット効果を良好に発現し得る印刷物を、グラビア印刷方式により生産性よく製造することができる。
前記印刷物は、化粧材として、あるいは被着体に積層し、化粧材となして、各種用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明で用いるグラビア版材のセルの凹部に樹脂ビーズを含むインキが充填された状態の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の方法で製造された印刷物の一例の断面模式図である。
【図3】本発明の方法で製造される印刷物の異なる例の断面模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 グラビア版材
2、2’ セル
3、4、5 樹脂ビーズ
6 インキ
10、20 印刷物
11 基材
12 プライマー層
13 基調色層
14 透明樹脂層
15 粗粒の樹脂ビーズを含む領域
16 微粒樹脂ビーズのみの領域
17 下柄印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施し、印刷物を製造する方法であって、前記樹脂ビーズが、その粒径分布において少なくとも2つの粒子群を示すピークを有するものであり、かつ、グラビア印刷に用いる版材におけるセルの少なくとも一部が、前記ピークのうち最大粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項2】
版材におけるセルの少なくとも一部が、さらに粒径分布におけるピークのうち最小粒径のピークで示される粒子群中の樹脂ビーズのみを複数個実質上充填し得る柱状凹部を有する請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
樹脂ビーズとして、(A)粒径が5μm以下の粒子群と、(B)粒径が10〜30μmの粒子群と、(C)粒径が30μm超、かつ50μm以下の粒子群の中から選ばれる少なくとも2つの粒子群を含むものを用いる請求項1又は2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
版材におけるセルの少なくとも一部が、間口100〜300μm、及び深さ50〜200μmの柱状凹部を有する請求項3に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
版材におけるセルの少なくとも一部が、(C)粒子群の樹脂ビーズを実質上充填することができないが、(B)粒子群の樹脂ビーズを複数個充填し得る柱状凹部を有する請求項3又は4に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施す前に、透明樹脂層を設ける請求項1〜5のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
被印刷物に、樹脂ビーズを含むインキを用いてグラビア印刷を施した後に透明表面保護層を設ける請求項1〜6のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
グラビア印刷がグラビアオフセット印刷である請求項1〜7のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
被印刷物が、印刷層を有する又は有しない板状、シート状又はフィルム状の基材からなる請求項1〜8のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項10】
板状の基材が鋼板である請求項9に記載の印刷物の製造方法。
【請求項11】
基材の印刷層が設けられる側の表面にプライマー層を有する請求項9又は10に記載の印刷物の製造方法。
【請求項12】
被印刷物の基材が鋼板であり、印刷物製造の最終工程が、加熱により各層を完全硬化処理する工程である請求項10又は11に記載の印刷物の製造方法。
【請求項13】
被印刷物の基材が樹脂製のシート又はフィルムであり、印刷物の製造の最終工程が、加熱により各層を完全乾燥処理する工程である請求項9又は11に記載の印刷物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする化粧材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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