説明

印刷物

【課題】点字や立体的に形成された情報伝達手段を備え、且つ、複写機によるコピーが難しく、かつ一般の人にも容易に瞬時に偽造を判定できる偽造防止印刷物を提供する。
【解決手段】基材10上の全域あるいは所望の領域に、金属箔層11と、パール印刷層12と、突起層13とを順次積層して印刷物を構成するか、あるいは、基材10上の全域又は所望の領域に形成された金属箔層11上に、パール印刷層12と、保護層14と、突起層13とが順次積層して印刷物を構成する。保護層14は、突起層13と同じ樹脂で構成するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔とパール印刷を用いた偽造防止印刷と点字や立体的な文字や記号とを有する印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
商品券等の有価証券や宝くじにおいては、偽造を抑制・防止するため、特殊なインキを用いた印刷等の様々な対策が施されている。しかし、特殊なインキを用いた偽造防止印刷は、真贋判定のために特殊な機器を必要とすることも多く、容易に瞬時に偽造を判定できる偽造防止印刷が望まれている。
金箔、ホログラム箔あるいはパール印刷を利用した印刷は、電子写真技術を利用した複写機によるコピーが難しく、かつ一般の人にも容易に瞬時に偽造を判定できるので、偽造防止技術(主にコピー防止)として一般的に用いられている。また、光沢に富み美しい外観を呈し、人目を引くことができるため、意匠面からも利用価値は高い。
しかし、金箔、ホログラム箔及びパール印刷は、材料を入手すれば偽造がし易いため、単独で用いた場合、電子写真技術を利用した複写機によるコピーを防止する程度の偽造防止効果を奏するに過ぎなくなってきている。また、2Dタイプや3Dタイプ等の高度な技術を有するホログラム箔を使用した場合、素人が容易に箔の差異を判断することは困難であり、箔を単独で用いるには更なる技術的な設計変更が必要となる。そこで、商品券等の有価証券や宝くじにおいては、金箔又はホログラム箔のような金属箔層とパール印刷層とを組み合わせた偽造防止印刷物が使用されている。
【0003】
有価証券や宝くじは、偽造防止印刷のみならず、情報を正しく伝達することが大切である。高齢化社会を迎えた今、印刷物において、文字情報を大きく表示することが一般的になりつつある。また、文字情報のような視覚を介した情報伝達だけではなく、例えば触読等、感覚を通じた情報伝達との併用の大切さが指摘されている。感覚を通じて情報を伝達する手段として、点字や文字、記号又は図形等を立体的に形成した印刷がある。例えば、特許文献1には紙、プラスチックシート等の印刷基板に所望の形状を有する紫外線硬化性樹脂の突起部を形成させた印刷物が開示されている。
【特許文献1】特開平8−52929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有価証券や宝くじ等においては、印刷スペースに限度があるため、文字を大きくすると、金属箔層とパール印刷層とを組み合わせた偽造防止印刷領域を確保することが難しくなるという問題がある。
【0005】
また、有価証券や宝くじは、真贋判定機や枚数確認のための機械に供される頻度が高いため、点字や立体的に形成された文字、記号又は図形(以下、立体的な情報伝達手段ということもある)が配置されると、その凹凸によって、有価証券等の破損等の悪影響が想定される。特に、立体的な情報伝達手段が紫外線硬化性樹脂によってパール印刷層上に形成された場合には、立体的な情報伝達手段がパール印刷層から剥離し易いという問題もあり、金属箔とパール印刷とを組み合わせた偽造防止印刷と立体的な情報伝達手段との併用は避けられていた。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、立体的な情報伝達手段を備え、且つ、複写機によるコピーが難しく、かつ一般の人にも容易に瞬時に偽造を判定できる偽造防止印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の印刷物は、基材の所望の領域において、金属箔層と、金属箔層上に設けられたパール印刷層と、パール印刷層上に設けられた突起層とからなる積層体を備えた構造を有することを特徴とするものである。
本発明はまた、基材の所望の領域において、金属箔層と、金属箔層上に設けられたパール印刷層と、パール印刷層上に設けられた保護層と、保護層上に設けられた突起層とからなる積層体を備えた印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の印刷物は、金属箔やパール印刷による偽造防止効果を損なうことが無いので、偽造防止印刷の領域を制限することなく、文字情報と立体的な情報伝達手段(すなわち点字のような突起層)を組み合わせることができる。また、パール印刷層と立体的な情報伝達手段との剥離を防止できるので、機械処理等において印刷物の損傷を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、本発明にかかる印刷物の第1の実施形態を示した断面図である。印刷物1は、基材10上の所望の領域に、金属箔層11と、パール印刷層12と、突起層13とが順次積層されて構成されている。
【0010】
基材10は、有価証券、宝くじ、パスポート、身分証明書等、適切な材料を選択して用いることができ、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、和紙、各種ラミネート紙などのほか各種繊維、皮革等を挙げることができる。
【0011】
金属箔層11は、前述したように、金箔や銀箔のような単色の鏡面性と金属光沢を有する箔からなる層だけでなく、ホログラム箔のように干渉縞を有し、光の干渉によってホログラム像を再生する箔からなる層を含む。
金属箔層11は、基材10の所望の部分あるいは全体に、金箔や銀箔あるいはホログラム箔を平圧式版又はシリンダー式版でベタ状に箔押しして形成することができる。
【0012】
パール印刷層12は、酸化チタンや酸化鉄をマイカや金属粉に被覆させたパール顔料が高分子ポリマー、着色剤、溶剤等からなるパール印刷層用溶剤系インキと調合されて、金属箔層11上に形成されたものである。文字、記号、図形又はそれらが組み合わされて印刷されてもよい。印刷に当たっては、パール印刷層用溶剤系インキの印刷適正に応じて、希釈溶剤を印刷条件に応じた量で添加して使用してもよい。印刷方法は、溶剤系インキを金属箔層11の全面あるいは所定の領域にグラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法のほか、一般的に用いられる各種印刷法、又はこれらの複数の印刷法を組み合わせて行うことができる。
なお、パール印刷層12の膜厚により、金属箔層11の鏡面効果が失われる場合がある。鏡面効果を維持する場合には、膜厚を5〜10μmの範囲にすることが好ましい。
【0013】
高分子ポリマーは透明な単一の分子重合樹脂あるいは共重合樹脂である熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることができ、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を成分とするものである。これらの樹脂は単独あるいは混合して用いてもよい。また、溶剤にはトルエン、キシレン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の有機溶媒を用いることができるが、これらに限定されるものではない。着色剤は、パール印刷層12の透明性を阻害しない程度に配合することができ、種類は特に限定されるものではなく、一般的な顔料や染料を選択して用いることができる。なお、パール印刷層用溶剤系インキと配合される希釈溶剤は、一般的に用いられるキシレン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等から適宜選択して用いればよい。
【0014】
突起層13は、パール印刷層12上に、点字や、文字、記号、図形又はそれらが組み合わされて形成されたものである。突起層13は透明な樹脂によって突起状に形付けられている。突起層13の点字や、文字、記号、図形又はそれらの組み合わせは、パール印刷層12上に形成されたものに沿ったものであってもよく、または異なっていてもよい。
透明な樹脂は、パール印刷層12と同じ高分子ポリマーを含むものが望ましく、前述した高分子ポリマーを含む樹脂を使用すればよい。なお、固化が早い樹脂が望ましく、固化をコントールできる紫外線硬化性樹脂や電子硬化型の樹脂を用いてもよい。
透明樹脂を突起状に形成するためには、グラビア印刷、スクリーン印刷又はフレキソ印刷を用いることができるが、スクリーン印刷、グラビア印刷が好ましい。
突起層の厚さは、特に限定されるものではないが、紫外線硬化性樹脂を使用した点字とした場合には、JIS T9253によって300μm〜500μmと定められており、この場合、スクリーン印刷での形成を必要とする。
【0015】
印刷物1は、金属色の金属箔層11と、見る角度により変色するパール印刷層12と、透明な突起層13とを有するが、これをカラー複写機でコピーすると、金属箔層11は黒、変色しない単色のパール印刷層12、突起層13の輪郭が強調された複写物となるため、複写機による複製あるいは偽造は困難である。
【0016】
<第2の実施の形態>
図2は、本発明にかかる印刷物の第2の実施形態を示した断面図である。この例において印刷物2は、基材10上の所望の領域に形成された金属箔層11上に、パール印刷層12と、保護層14と、突起層13とが順次積層されて構成されている。
パール印刷層12は、金属粉の被覆された鱗片状のパール顔料を含むため、パール顔料が露呈することもある。この場合、パール印刷層12の表面上に直に突起層13が形成されると、パール印刷層12と突起層13の接着力が弱くなることがある。
【0017】
保護層14は、パール印刷層12と突起層13の接着性を強化するためにパール印刷層12上に設けられた樹脂層である。保護層14を構成する樹脂は、突起層と同じ高分子ポリマーを成分として含む透明な樹脂であることが望ましい。特に、突起層は、紫外線硬化性樹脂が望ましく、この場合には、保護層14も紫外線硬化性樹脂とする。
保護層14を形成する高分子ポリマーの成分を突起層13と同じくすることでパール印刷層12と突起層13とを剥離し難くする効果が増強される。
保護層14の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは50μm〜100μmである。層の形成は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法のほか、一般的な各種印刷法を用いることができ、スクリーン印刷(シルク紗200L/インチ程度)が好ましい。
【0018】
突起層13の剥離防止をさらに強化するため、突起層13を覆う被膜を形成してもよい。被膜は、パール印刷層12の一部あるいは全体と突起層13を覆うように形成してもよく、または金属箔層11の一部あるいは全体を被うように形成してもよい。パール印刷層12の一部あるいは全体から突起層13を覆うように被膜を形成する場合、パール印刷層を構成する樹脂成分と同一又は一部同一の成分を含む必要がある。金属箔層11の一部あるいは全体から突起層13を覆うように被膜を形成する場合、突起層を構成する樹脂成分と同一又は一部同一の成分を含むものとする必要がある。
【0019】
<第3の実施の形態>
図3は、本発明にかかる印刷物の第3の実施形態を示した断面図である。この例において印刷物3の保護層14は、パール印刷層12を覆い、縁部20において金属箔層11と接着している。保護層14をこのようにして形成することで、金属箔層11、パール印刷層12及び突起層13の接着性を第2の実施形態より強化することが可能となる。さらに、突起層13の上に突起層と同じ成分の高分子ポリマーの層を形成して、突起層を覆ってもよい。
【0020】
前述したように、突起層13を覆う被膜を形成して突起層13の剥離防止をさらに強化することも望ましい態様である。被膜は、パール印刷層12の一部あるいは全体と突起層13を覆うように形成してもよく、または金属箔層11の一部あるいは全体を被うように形成してもよい。パール印刷層12の一部あるいは全体から突起層13を覆うように被膜を形成する場合、パール印刷層を構成する樹脂成分と同一又は一部同一の成分を含む必要がある。金属箔層11の一部あるいは全体から突起層13を覆うように被膜を形成する場合、突起層を構成する樹脂成分と同一又は一部同一の成分を含むものとする必要がある。
【実施例1】
【0021】
厚紙に金箔が箔押された印刷物(村田金箔製)上に、以下の組成の溶剤系インキ100部(重量)に対しパール顔料(IriodinIR201/メルクジャパン)を18部(重量)添加したパール印刷層用溶剤系インキと希釈溶剤50部(重量)を用い、スクリーン印刷(シルク紗305L/インチ)法により、パール印刷層を形成した
【0022】
(溶剤系インキ組成)
樹脂:塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂 20〜40%
溶剤:シクロヘキサノン 50〜60%
アルキルベンゼン 1〜10%
【0023】
次に、紫外線硬化インキ(十条ケミカル:4100−3シリーズ点字用C)を用い、スクリーン印刷(シルク紗70L/インチ)により、パール印刷層上に突起層を形成した。
突起層上にテープを貼った後、剥ぎ取っても、パール印刷層と突起層の剥離は生じなかった。
【実施例2】
【0024】
実施例1と同様にして金箔上にパール層を形成した。そして、パール印刷層上に、紫外線硬化インキ(同上)を用い、スクリーン印刷(シルク紗100L/インチ)で層厚約50μmの保護層を形成した後、スクリーン印刷(シルク紗70L/インチ)により、保護層上に突起層を形成した。実施例1同様、突起層上にテープを貼った後、剥ぎ取っても、パール印刷層と突起層の剥離は生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかる印刷物の第1の実施形態を示した断面図である。
【図2】本発明にかかる印刷物の第2の実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明にかかる印刷物の第3の実施形態を示した断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 印刷物
2 印刷物
3 印刷物
10 基材
11 金属箔層
12 パール印刷層
13 保護層
20 縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の所望の領域において、金属箔層と、該金属箔層上に設けられたパール印刷層と、該パール印刷層上に設けられた突起層とからなる積層体を備えた、印刷物。
【請求項2】
基材の所望の領域において、金属箔層と、該金属箔層上に設けられたパール印刷層と、該パール印刷層上に設けられた保護層と、該保護層上に設けられた突起層とからなる積層体を備えた、印刷物。
【請求項3】
前記保護層が前記突起層と同じ樹脂成分を含む、請求項2記載の印刷物。
【請求項4】
前記突起層が文字、点字、記号、図形又はそれらの組み合わせである、請求項1〜3の何れかに記載の印刷物。
【請求項5】
前記金属箔層が鏡面性を有する層である、請求項1〜4の何れかに記載の印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−143033(P2010−143033A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321657(P2008−321657)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】