説明

印刷用インキ組成物および印刷物の製造方法

【課題】 印刷版への塗布性に優れ、微細パターン形成に優れた特定の印刷物の製造方法に適したインキ組成物およびそれを用いた印刷物の製造方法を提供すること。表面平滑なパターンを形成することが可能な印刷版、印刷版原版および印刷方法を提供すること。
【解決手段】 支持体上にインキ剥離性部位と親インキ性部位を有する印刷版の全面にインキを塗布する工程および前記インキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する工程を少なくとも有する印刷物の製造方法に使用される印刷用インキ組成物であって、前記印刷用インキ組成物が少なくとも不揮発性成分、溶剤、および極性基変性シリコーンを含有することを特徴とする印刷用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷用インキ組成物および印刷物の製造方法に関する。より詳しくは、電子機器用途の微細パターン印刷に好適に用いられる印刷用インキ組成物および印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイや太陽電池、Radio Frequency Identification(RF−ID)などの電子機器が注目されている。電子機器の配線、薄膜トランジスタ(TFT)電極またはカラーフィルターなどの微細パターンは、従来フォトリソ法により形成されてきた。しかし、近年、機能性インキまたは機能性ペーストを印刷する印刷法により、微細パターンを形成する技術が検討されている。印刷法では直接パターンを形成できるため、フォトリソ法に比べて工程が少なくなり、製造コストを安くできる。また、現像廃液などの問題もなくなり環境にやさしい。さらにプラスチック基板に対する印刷も容易であるため、電子機器のフレキシブル化にとって有効な方法である。
【0003】
微細パターン印刷法として、(1)撥樹脂(インキ剥離性)機能を施した画線部と親樹脂(親インキ性)機能を施した非画線部を有する印刷版に樹脂(インキ)を塗布する工程、(2)印刷版の撥樹脂機能(インキ剥離性)より弱い撥樹脂機能(インキ剥離性)を施した画像転写シートを印刷版に押圧して画線部上の樹脂(インキ)を画像転写シートに転写する工程、および(3)画像転写シート上の樹脂(インキ)を基板上に転写する工程によってなる剥離オフセット印刷法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この方法によれば反転オフセット印刷法(例えば、特許文献2参照)に見られるようなベタ部におけるパターンの抜けが見られない。ここで、上記(2)の工程における画像転写シートを基板にして上記(3)の工程を省略する方法も考えられ、また、上記(2)の工程の後に、印刷版に残った樹脂(インキ)を基板上に転写する方法も提案されている(特許文献3)。そして、剥離印刷用インキ組成物が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−249696号公報
【特許文献2】特開平11−58921号公報
【特許文献3】特公平8−3068号公報
【特許文献4】特開2009−221250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
剥離オフセット印刷法では、印刷版上の撥樹脂機能を施した画線部に均質にインキを塗布しなければならない。また、塗布したインキが印刷版から画像転写シートへと完全に転写されなければならない。本発明者らは、この二つの課題を同時に満たすことが重要であると考えた。
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載の剥離印刷用インキ組成物では、印刷版上の撥樹脂機能を施した画線部に対する塗布性が不十分であり、しばしばハジキが見られた。撥樹脂機能を施したインキ剥離性部位と親樹脂機能を施した親インキ性部位を同時に有する印刷版において、樹脂との親和性が高い親インキ性部位にインキ組成物が集まりやすく、インキ剥離性部位のハジキが大きくなりやすいと考えられる。本発明は印刷版上の撥樹脂機能を施した画線部への塗布性および印刷版から画像転写シートへの転写性に優れた、特定の微細パターン形成用の印刷方法に適した、印刷用インキ組成物の提供に関するものである。また、本発明は前記インキ組成物を用いた印刷物の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、支持体上にインキ剥離性部位と親インキ性部位を有する印刷版の全面にインキを塗布する工程および前記インキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する工程を少なくとも有する印刷物の製造方法に使用される印刷用インキ組成物であって、前記印刷用インキ組成物が少なくとも不揮発性成分、溶剤、および極性基変性シリコーンを含有することを特徴とする印刷用インキ組成物である。
【0008】
また本発明は、支持体上にインキ剥離性部位と親インキ性部位を有する印刷版の全面に、少なくとも不揮発性成分、溶剤、および極性基変性シリコーンを含有するインキを塗布する工程および前記インキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する工程を少なくとも有する印刷方法により製造される印刷物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインキ組成物を使用することで、支持体上にインキ剥離性の画線部と親インキ性の非画線部を有する印刷版の全面に、ハジキなどの欠点を抑えて均質な塗膜を形成することができる。また、本発明のインキ組成物を用いることでインキ剥離性の画線部上のインキを対象基材に完全に転写することができる。このインキ組成物はインキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する特定の印刷法に適しており、この印刷法により膜厚ムラがなく高精細なパターンを得ることができる。これによりフォトリソ法で製造したものに近い電気的特性または光学的特性を持つ電子機器を、簡便かつ低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の印刷方法の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の印刷方法の別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第一に本発明の印刷方法について説明する。本発明の印刷方法は、支持体上にインキ剥離性部位と親インキ性部位を有する印刷版の全面にインキを塗布する工程および前記インキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する工程を少なくとも有する。
【0012】
図1は本発明の印刷方法の一例を示す概略図である。(a)支持体1上に少なくとも親インキ層2とインキ剥離層3をこの順に有する印刷版原版をパターン加工することにより、インキ剥離性部位と親インキ性部位を形成した印刷版を得る。(b)印刷版の全面にブレードコーター5を用いてインキ4を塗布する。(c)転写胴6に巻き付けたシリコーンブランケット7を印刷版に押し当ててインキ剥離性部位上のインキ(画線部上インキ4’)を選択的に転写する。ここで、インキ剥離性部位上のインキ(画線部上インキ4’)を選択的に転写するとは、非画線部上インキ4”を実質的に転写せず、実質的にインキ剥離性部位上のインキ(画線部上インキ4’)のみを転写することを意味する。(d)シリコーンブランケット7上に転写されたインキ(画線部上インキ4’)を被印刷物8に再転写し、印刷パターン9を形成する。
【0013】
図2は本発明の印刷方法の別の一例を示す概略図である。(a)支持体1上に少なくとも親インキ層2とインキ剥離層3をこの順に有する印刷版原版をパターン加工することにより、インキ剥離性部位と親インキ性部位を形成した印刷版を得る。(b)印刷版の全面にブレードコーター5を用いてインキ4を塗布する。 (c)撥樹脂コーティングを施した剥離フィルム10を圧胴11で圧力をかけながら印刷版に押し当ててインキ剥離性部位上のインキのみを選択的に転写することで印刷パターン12を形成する。ここで撥樹脂コーティングした剥離フィルムには、フィルムのインキ剥離性が印刷版のインキ剥離性部位のインキ剥離性より低く、親インキ性部位のインキ剥離性よりも高いものを選択する。
【0014】
次に本発明のインキ組成物について説明する。本発明のインキ組成物は、少なくとも不揮発性成分、溶剤、および極性基変性シリコーンを含有する。
【0015】
不揮発性成分とは、印刷物の加熱処理後に残存し、何らかの機能、例えば電子部品の電気的機能や光学的機能を発現するものであり、それぞれの目的に応じて選択される。直接機能に関わるものとして(i)導電性インキ(ペースト)における金属微粒子、金属酸化物微粒子、カーボン粉末、カーボンナノチューブおよびポリチオフェンやポリアニリンなどの導電性高分子、(ii)半導体インキにおけるポリチオフェンなどの有機半導体材料、フラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、シリコン半導体微粒子、化合物半導体微粒子、酸化物半導体微粒子、ポリシランおよびポリゲルマン、(iii)レジストインキにおけるアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの樹脂、(iv)カラーフィルター製造用インキにおけるレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の各種着色顔料およびブラックマトリックス形成のためのカーボンブラックやチタンブラックなどの黒色顔料、(v)有機EL素子製造用インキにおける発光材料および電荷輸送材料、(vi)絶縁膜製造用インキにおけるエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリシロキサンなどの絶縁材料が例示される。また、直接電気的特性や光学的特性に関係しないが塗膜形成を補助したり、形成された膜の物性を改善するために添加され、不揮発性成分として残存しうるものとして、バインダー樹脂や分散剤、架橋剤、充填剤(フィラー)などの添加剤が例示される。
【0016】
不揮発性成分のインキ組成物に対する含有量は、塗布性と膜形成性の観点から1〜50重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることがより好ましい。含有量が低すぎると塗膜が薄くなりすぎて膜厚ムラが大きくなる。また含有量が多すぎると流動性が低いため、塗膜のレベリングが起こりにくく塗布ムラのある膜になる。
【0017】
溶剤とは前記不揮発性成分を溶解または良分散させることが可能であり、かつ加熱処理によって揮発するものであれば特に限定されず、単独で用いても複数を混合して用いてもよいが、印刷版への塗布性と、対象基材への転写性の観点から、遅乾性溶剤と速乾性溶剤の組み合わせ溶剤であることが好ましい。
【0018】
ここで遅乾性溶剤とはASTM D3539による蒸発速度(例えば、”塗料の流動と塗膜形成”、中道敏彦著、技報堂出版社、1995年発行、107〜109頁参照)が0.8以下の溶剤であり、好ましくは0.5以下の溶剤である。具体的には、(i)ドデカン、ウンデカンなどの炭化水素、(ii)キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、(iii)ヘキサノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテルなどのアルコール、(iv)ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル/エステル、(v)ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトムアミドなどのアミド、(vi)γ−ブチロラクトンなどのラクトンが例示される。
【0019】
速乾性溶剤とは前述のASTM D3539による蒸発速度が0.8より大きい溶剤であり、好ましくは1.0以上の溶剤である。具体的には(i)n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタンなどの炭化水素、(ii)トルエンなどの芳香族炭化水素、(iii)メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、(iv)ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル、(v)酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチルなどのエステル、(vi)アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトンが例示される。
【0020】
遅乾性溶剤と速乾性溶剤の比率は遅乾性溶剤/速乾性溶剤=100/0〜0/100から選ばれる任意の比率でよいが、塗布性と転写性のバランスから遅乾性溶剤/速乾性溶剤=70/30〜1/99であることが好ましい。遅乾性溶剤の比率が少ないと塗布したインキが版上で乾燥しすぎてタック性がなくなってしまい、対象基材への転写ができなくなる。一方、速乾性溶剤の比率が少ないと版に塗布したインキの流動性が大きすぎ、パターン形状が潰れて不良となる。
【0021】
極性基変性シリコーンはインキ組成物の表面張力を低下させ、インキ剥離性部位への濡れ性を高めることでインキ塗布性を著しく向上させるために添加される。ここで極性基変性シリコーンとは下記一般式(1)を繰り返し単位に持つポリアルキルシロキサンの一部を、極性基を含有する官能基に変換したものである。極性基変性されていないシリコーンは不揮発性成分または溶媒との相互作用が小さいため、相分離が起きやすいなどの問題がある。極性基を含有する官能基に変換する部位は、主鎖末端、主鎖中、側鎖のいずれでもよい。また、変性基当量は通常500〜10,000g/molであるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【化1】

【0023】
(nは2以上の整数である。RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜10の飽和炭化水素基を表す。表面張力低下性の観点から、RおよびRの全体の50モル%以上がメチル基であることが好ましい。)
ここで、極性基とは、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、エーテル基(ポリエーテル基含む)、エステル基、アミド基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基などが例示される。これらの極性基はシロキサン主鎖に直接結合していてもよいし、アルキレン基、アリーレン基などの炭素鎖を介して結合していてもよい。また、一分子に二種以上の極性基を有していてもよい。これらの中で比較的少量で塗布性の向上に効果があることから、アミノ基変性シリコーン、メルカプト基変性シリコーン、ポリエーテル基変性シリコーンが好ましく用いられる。
【0024】
極性基変性シリコーンのインキ組成物に対する含有量はハジキのない均質な塗布面を形成する観点から、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また、良好な転写性を保ちかつ形成した塗膜の機能に悪影響を及ぼさないという観点から10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0025】
次に印刷版について説明する。印刷版は主に画線部となるインキ剥離性部位と非画線部となる親インキ性部位からなるパターンが形成された平版が用いられる。インキ剥離性部位とは何らかの撥樹脂加工を施した部位であり、例えばシリコーンゴム、シリコーン樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂、シランカップリング剤などで構成される。親インキ性部位はインキ剥離性部位よりも表面自由エネルギーが大きい素材、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂や、ガラス、金属、金属酸化物などの無機物質で構成される。インキ剥離性部位と親インキ性部位は同一平面でも段差があってもよい。段差がある場合、その大きさは数μm〜十数μm程度であり、このような版は特に平凹版または平凸版と呼ばれることもあるが、ここでは広義の平版として扱う。具体的には水なし平版PS版(例えば東レ株式会社)や特開2009−234062号公報、特開2009−274365号公報、特開2009−276598号公報に示される印刷版が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中ではインキ剥離性に関してインキ剥離性部位と親インキ性部位との間のコントラストが大きく良好なパターンが得られるという観点から水なし平版PS版が特に好ましく用いられる。
【0026】
本発明のインキ組成物の版への塗布方法としては特に限定されないが、具体的にはスリットダイコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、ナチュラルロールコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、ロールブレードコーター、キャップコーター、ワイヤーバーコーター、ディップコーター、カーテンコーター、スピンコーター、マイクロメーター付アプリケーター、ベーカー式アプリケーター、フィルムアプリケーター、アニックスローラー、インクジェット、ノズルコーターなどが例示される。
【0027】
次に対象基材について説明する。印刷版のインキ剥離性部位上のインキのみを転写できるようにするため、インキ剥離性の大きさが 印刷版のインキ剥離性部位表面>対象基材の表面>印刷版の親インキ性部位表面 の関係になるように対象基材は設計される。具体的には剥離性の強いシリコーン樹脂、シリコーンゴム、フッ素樹脂、フッ素ゴムのいずれかを成形したシートまたはフィルム、一般的なフィルムの表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂をコーティングした剥離フィルム、紙の表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂をコーティングした剥離紙などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
対象基材がオフセット印刷の中間転写体である場合には、対象基材として前記剥離フィルムやゴムシートに布性や発砲樹脂など柔軟性のあるシートを張り合わせてクッション性を高めたブランケットが例示されるが、多様な被印刷物に適用できることからブランケットが好適に用いられる。特に適切なインキ剥離性の観点からシリコーンゴムブランケットであることが好ましい。
【0029】
次に被印刷物について説明する。本発明の印刷方法に用いられる被印刷物は特に限定されるものではないが、電子機器用途において印刷物の熱処理が必要になる場合には、耐熱性のある材料が好ましい。このような材料として、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリアラミド、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマーなどの耐熱プラスチックのフィルムまたはシート、ソーダライムや石英などのガラス板、シリコンウェハーなどが挙げられる。また、基板上に他の方法により何らかのパターンを形成したのち、その上に本発明の印刷版を用いて印刷してもよい。例えば薄膜トランジスタの製造においてゲート電極とゲート絶縁層のパターンを形成し、その上にソース・ドレイン電極を印刷する場合が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を用いて本発明を説明する。
<ポリシロキサン溶液(a)の調製>
メチルトリメトキシシラン510.8g、フェニルトリメトキシシラン1239.4g、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン154.0g、シリケート51 220.3g(多摩化学(株)製)およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1921.1gを三つ口フラスコに入れ、水669.4gにリン酸6.4gを溶かしたリン酸溶液をバス温度40℃にて30分間かけて添加した。得られた溶液をバス温度70℃にて1.5時間加熱撹拌し、さらにバス温度115℃にて1.5時間加熱撹拌し、加水分解による副生成物であるメタノール、水を留去しつつ反応させた。反応終了後、氷冷し、全固形分濃度 45%のポリシロキサン溶液(a)を得た。
<チタンブラック分散液(b)の調製>
特許第3120476号公報の実施例1に記載の方法により、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体(重量組成比30/40/30)を合成後、グリシジルメタクリレート40重量部を付加させ、精製水で再沈、濾過、乾燥することにより、平均分子量(Mw)40,000、酸価110(mgKOH/g)の特性を有するアクリルポリマー粉末を得た。
【0031】
得られたアクリルポリマー粉末のジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)50重量%溶液 50.0gとチタンブラック 115.0g(三菱マテリアル電子化成(株)製)、およびDPMA 325.0gをタンクに仕込み、ホモミキサー(特殊機化製)で1時間撹拌し予備分散液を得た。その後、0.05mmφジルコニアビーズ(ニッカトー製、YTZボール)を70%充填した遠心分離セパレーターを具備したウルトラアペックスミル(寿工業製)に前記予備分散液を供給し、回転速度8m/sで2時間分散を行った。この分散液に、多官能モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DHPA、日本化薬(株)製)のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)50重量%溶液 37.4g、光重合開始剤として“イルガキュア”369 17.7g(長瀬産業(株)製)、シリコーン系界面活性剤のPGMEA10重量%溶液 3.6gをPGMEA 330.0gに溶解した溶液を添加し、全固形分濃度20重量%、顔料/樹脂(重量比)=72/28のチタンブラック分散液(b)を得た。
【0032】
(実施例1)
<インキ組成物の調製>
ポリシロキサン溶液(a) 21.6gとアルミニウム系架橋剤”プレンアクト”AL−M(味の素ファインテクノ(株)製)のPGMEA50重量%溶液 0.3gをPGMEA 33.0gと酢酸イソプロピル 44.9gの混合溶媒に加え撹拌した。これに極性基変性シリコーンA(アミノ基変性シリコーン、製品名:X−22−161B、信越化学(株)製)0.2gを加えてさらに撹拌し、インキ組成物を得た。このようにして得られたインキ組成物の不揮発性成分濃度(ポリシロキサン+架橋剤)はインキ組成物全体の10重量%であり、また溶剤比率は遅乾性溶剤/速乾性溶剤=50/50であった。
【0033】
<印刷版の作製>
ネガ型の水なし平版PS版(TANE、東レ(株)製)を10cm□に裁断し、超高圧水銀灯露光機(PEM−6M、ユニオン光学(株)製)の露光ステージに設置した。次にライン/スペース=25μm/25μmのラインパターンが5cm□の範囲に形成されているフォトマスクを乗せて露光した。これを自動現像機TWL−860KII(東レ株式会社製)を用いて現像し印刷版を得た。
【0034】
<インキ組成物の版への塗布>
印刷版を平台に固定したのち、インキ組成物をワイヤーバーコーター(番手3)を用いて版の全面に塗布し、30秒間放置して乾燥させた。その後塗膜を光学顕微鏡で観察し、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0035】
直径100μm以上のハジキが10個未満 A
直径100μm以上のハジキが10個以上50個未満 B
直径100μm以上のハジキが50個以上 C
均質な塗膜が形成されない D
<対象基材への転写>
対象基材には、シリコーンブランケット”シルブラン”((株)金陽社製)を用いた。前記の方法に従ってインキ組成物を印刷版の全面に塗布し、30秒間放置乾燥させた後、シリコーンブランケットを押し当て、ローラーで押圧したのちブランケットを剥がした。次にブランケットに転写されたインキ組成物を目視で観察し、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0036】
完全に転写されている A
未転写部分の面積が全体の10%未満 B
未転写部分の面積が全体の10%以上50%未満 C
未転写部分の面積が50%以上 D
<被印刷物への再転写>
被印刷物には12.5cm□のガラス基板を用いた。前記の方法に従ってインキ組成物を塗布し、シリコーンブランケットに転写させた。次にシリコーンブランケットのパターンが転写された部分をガラス基板に押し当て、ローラーで押圧したのちブランケットを剥がした。続いてガラス基板に再転写された印刷物を目視で観察し、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0037】
完全に転写されている A
未転写部分の面積が全体の10%未満 B
未転写部分の面積が全体の10%以上50%未満 C
未転写部分の面積が50%以上 D
<印刷物の状態の観察>
前記の方法に従ってガラス基板に印刷物を形成したのち、これを熱風オーブン中、230℃で60分間加熱し、膜を硬化させた。その後、光学顕微鏡で印刷物のパターンを観察し、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0038】
フォトマスクのパターンが良好に再現されている A
パターンにゆがみやギザツキがある、ピンホール状のハジキが見られる B
転写不良やハジキにより、一部パターンが潰れている C
パターンができていない。 D
(実施例2〜5)
極性基変性シリコーンを表1に示したものに変更した以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。結果を表1に示す。使用した極性基変性シリコーンの種類を下記に示す。
A: アミノ基変性 製品名:X−22−161B(信越化学(株)製)
B: アミノ基変性 製品名:FZ3705(東レ・ダウコーニング(株)製)
C: メルカプト基変性 製品名:X−22−167B(信越化学(株)製)
D: ポリエーテル基変性 製品名:BYK−307(ビックケミー・ジャパン(株)製)
E: ポリエーテル基変性 製品名:BYK−333(ビックケミー・ジャパン(株)製)
(実施例6〜9)
極性基変性シリコーンの添加量を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例10〜13)
不揮発性成分の濃度を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例14〜15)
遅乾性溶剤と速乾性溶剤の比率を表2に示したように変更した以外は実施例8と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。結果を表2に示す。
【0041】
(実施例16)
遅乾性溶剤と速乾性溶剤の比率を表2に示したように変更した以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。結果を表2に示す。
【0042】
(実施例17)
チタンブラック分散液(b)50gをPGMEA 9.8gと酢酸イソプロピル 49.8gの混合溶媒に加え撹拌した。これに極性基変性シリコーンA(アミノ基変性シリコーン、製品名:X−22−161B)0.5gを加えてさらに撹拌し、インキ組成物を得た。このようにして得られたインキ組成物の不揮発性成分濃度(チタンブラック+樹脂)はインキ組成物全体の10重量%であり、また溶剤比率は遅乾性溶剤/速乾性溶剤=50/50であった。
【0043】
続いてこのインキ組成物を実施例1に記載の方法に従って印刷を行った。結果を表2に示す。
【0044】
(比較例1)
極性基変性シリコーンを添加しないこと以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。その結果、版への塗布において、直径100μm以上のハジキが約百数十〜数百個観察され、良好な塗膜が形成されていなかった。版からシリコーンブランケットへの転写、およびシリコーンブランケットからガラス基板へは完全に転写されており、印刷物の状態はハジキがあること以外は良好であった。
【0045】
(比較例2)
極性基変性シリコーンをフッ素系界面活性剤F(”メガファック”F−470、DIC(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。その結果、版への塗布において、直径100μm以上のハジキが約40〜70個観察され、良好な塗膜が形成されていなかった。版からシリコーンブランケットへの転写、およびシリコーンブランケットからガラス基板へは完全に転写されており、印刷物の状態はハジキがあること以外は良好であった。
【0046】
(比較例3)
極性基変性シリコーンを極性基のないシリコーンオイルG(ポリジメチルシロキサン、KF−96−100cs、信越化学(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にしてインキ組成物の調製を行った。その結果、添加したシリコーンオイルは相分離を起こし、均質なインキ組成物を得ることができなかった。
【0047】
(比較例4)
極性基変性シリコーンを添加しないこと以外は実施例14と同様にしてインキ組成物の調製および印刷を行った。その結果、インキ組成物は印刷版のインキ剥離性部位で大きく弾かれて親インキ性部位に凝集してしまい、膜が形成されなかった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【符号の説明】
【0050】
1 支持体
2 親インキ層(親インキ性部位)
3 インキ剥離層(インキ剥離性部位)
4 インキ
4’ 画線部上インキ
4” 非画線部上インキ
5 ブレードコーター
6 転写胴
7 シリコーンブランケット
8 被印刷物
9 印刷パターン
10 撥樹脂コーティングを施した剥離フィルム
11 圧胴
12 印刷パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上にインキ剥離性部位と親インキ性部位を有する印刷版の全面にインキを塗布する工程および前記インキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する工程を少なくとも有する印刷物の製造方法に使用される印刷用インキ組成物であって、前記印刷用インキ組成物が少なくとも不揮発性成分、溶剤、および極性基変性シリコーンを含有することを特徴とする印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記極性基変性シリコーンがアミノ基変性シリコーン、メルカプト基変性シリコーン、ポリエーテル基変性シリコーンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項3】
支持体上にインキ剥離性部位と親インキ性部位を有する印刷版の全面に、少なくとも不揮発性成分、溶剤、および極性基変性シリコーンを含有するインキを塗布する工程および前記インキ剥離性部位上のインキを選択的に対象基材に転写する工程を少なくとも有する印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記対象基材がオフセット印刷の中間転写体であり、この中間転写体上に転写されたインキを被印刷物に再転写する工程をさらに有する請求項3に記載の印刷物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219544(P2011−219544A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87480(P2010−87480)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】