説明

印刷用インキ組成物及びその製造方法並びに該組成物を用いたプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法及びその電極

【課題】精度の高い印刷が可能であり、しかも焼成時に有機成分が全く又は殆ど残らず、高精度の印刷性及び良好な導電性の双方を両立させる。
【解決手段】印刷用インキ組成物11は、導電性金属粉末、ガラスフリット、樹脂成分及び溶剤成分の混合物からなり、基材14上に所望のパターンで印刷された後に乾燥され焼成される。この印刷用インキ組成物11の樹脂成分は、芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより得られた脂環式の樹脂成分である。またこの脂環式の樹脂成分に含まれる芳香族成分は0.5重量部以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下、PDPという。)用前面板のバス電極を形成するため、或いはPDP用背面板のアドレス電極を形成するために用いることができる印刷用インキ組成物と、この組成物を製造する方法と、この組成物を用いた上記バス電極やアドレス電極の形成方法と、そのインキ組成物を用いて形成された電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板や表示デバイス等の半導体デバイスにおける電極等の形成には従来よりフォトリソグラフィー法が用いられてきたが、このフォトリソグラフィー法は製造工程が複雑であり、また材料ロスが多く、パターン形成に必要な露光装置等の製造設備に莫大な費用がかかるため、製造コストが極めて高くなるという問題があった。更に、パターン形成時の現像処理等にて生じる廃液を処理するコストも高く、しかもこの廃液については環境保護の観点からも問題があった。
【0003】
そこで、低コストでかつ有害な廃液等を生じることのないパターン形成方法に関する研究が種々なされている。なかでも、凹版オフセット印刷法は、微細パターンを高い精度で形成することが可能であることから、フォトリソグラフィー法の代替法として注目されている。凹版オフセット印刷法では、印刷用ブランケットからガラス基板などの被転写体に印刷用インキ組成物を100%転写させるため、印刷用ブランケット表面にはシリコーンゴムシートを用い、印刷用インキ組成物には印刷用ブランケット表面のシリコーンゴムに濡れやすく、かつ浸透し難い溶剤を添加し、印刷用インキ組成物とシリコーンゴムとの界面の張力を低下させることで、シリコーンゴムから印刷用インキ組成物を剥離し易くして印刷用インキ組成物を印刷用ブランケットから基板上に転写させている。
【0004】
上記印刷用インキ組成物としては、導電性金属粉末、ガラスフリット、遷移金属酸化物及び分散剤と、ポリiso−ブチルメタクリレート、ポリiso−プロピルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン又はポリ−α−メチルスチレンのうちの少なくとも1種以上の有機バインダを含むビヒクルから構成される導電性インキが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このように構成された導電性インキでは、オフセット印刷に適したインキを調製でき、またオフセット印刷により高精細のパターンを回路基板上に簡単に、しかも従来のスクリーン印刷による方法よりもエッジの直線性に優れ、スケや欠け等の発生が少ない微細なパターンを形成でき、更に精度の点からも高品質のパターンが得られるようになっている。
【0005】
また印刷用インキ組成物として、少なくとも導電性粉体と焼成除去可能な有機成分とからなり、導電性粉体を60〜90重量%の範囲で含有し、焼成除去可能な有機成分を10〜40重量%の範囲で含有する光硬化型導電インキが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この光硬化型導電インキでは、有機成分中にスチレンと光反応性の官能基が付与された光反応性アクリル系樹脂、光反応性モノマー及びオリゴマーを含有する。このように構成された光硬化型導電インキでは、導電性粉体の分散性が向上し、インキの粘度を所望の値にコントロールできるので、平版オフセット印刷法により高精度な電極パターンを形成できるようになっている。
【特許文献1】特開平4−213373号公報(請求項2、段落[0007]、段落[0012])
【特許文献2】特開2002−285063号公報(請求項1、段落[0008]、段落[0012])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PDP用の電極については、エッジの直線性に優れ、欠け等の発生が少ない高品質の微細パターンを得ることが必須であり、また近年、表示部の高解像度化に伴う電極の微細化に伴い、より細い電極での高品質の確保が課題となっている。
上記従来の特許文献1に示された導電性インキや特許文献2に示された光硬化型導電インキでは、有機バインダとしてスチレンのような芳香族樹脂を使用しているため、より精度の高い印刷が可能である。
しかし、上記従来の特許文献1に示された導電性インキや特許文献2に示された光硬化型導電インキのように、芳香族樹脂を印刷用インキ組成物の樹脂成分として用いると、焼成時に有機成分が完全に焼失せずに、電極中に残ってしまい、電極の導電性が低下するおそれがあった。
本発明の目的は、精度の高い印刷が可能であり、しかも焼成時に有機成分が全く又は殆ど残らず、高精度の印刷性及び良好な導電性の双方を両立させることができる、印刷用インキ組成物及びその製造方法並びに該組成物を用いたプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法及びその電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、導電性金属粉末、ガラスフリット、樹脂成分及び溶剤成分を含む混合物からなり、基材14上に所望のパターンで印刷された後に乾燥され焼成される印刷用インキ組成物11の改良である。
その特徴ある構成は、樹脂成分が、芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより得られた脂環式の樹脂成分であり、この脂環式の樹脂成分に含まれる芳香族成分が0.5重量部以下であるところにある。
この請求項1に記載された印刷用インキ組成物では、この印刷用インキ組成物11中の樹脂成分が芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより得られた脂環式の樹脂成分であり、この脂環式の樹脂成分は導電性金属粉末の分散性が良く、しかもインキ組成物11の粘度調整が容易であるため、この脂環式の樹脂成分を含む印刷用インキ組成物11により所望のパターンに高精細に印刷することができる。また印刷用インキ組成物11中の樹脂成分における、燃え難い原因となるベンゼン環を含む芳香族成分が0.5重量部以下であるため、この印刷用インキ組成物11を基材14上にパターン印刷して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥し焼成して得られた電極中に、導電性を阻害する有機成分が全く或いは殆ど残らず、電極の導電性を向上できる。
【0008】
請求項3に係る発明は、芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより芳香族成分を0.5重量部以下とした脂環式の樹脂成分を得る工程と、脂環式の樹脂成分と導電性金属粉末とガラスフリットと溶剤成分を混合して印刷用インキ組成物を調製する工程とを含む印刷用インキ組成物の製造方法である。
この請求項3に記載された印刷用インキ組成物の製造方法では、印刷用インキ組成物中の樹脂成分が芳香族成分を含む樹脂に水素添加させた脂環式の樹脂成分であり、導電性金属粉末の分散性が良く、しかもインキ組成物11の粘度調整が容易であるため、この脂環式の樹脂成分を含む印刷用インキ組成物を用いて、所望のパターンに高精細に印刷することができる。また樹脂成分中の燃え難い原因となるベンゼン環を含む芳香族成分を0.5重量部以下としたため、この印刷用インキ組成物を基材上にパターン印刷して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥し焼成した場合、電極中に導電性を阻害する有機成分が全く或いは殆ど残らず、電極の導電性を向上できる。
【0009】
請求項4に係る発明は、図1に示すように、請求項1又は2記載の印刷用インキ組成物11を基材14上に所望のパターンで印刷して塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥し焼成して電極を形成する工程とを含むプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法である。
請求項5に係る発明は、請求項3記載の方法により製造された印刷用インキ組成物11を基材14上に所望のパターンで印刷して塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥し焼成して電極を形成する工程とを含むプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法である。
この請求項4又は請求項5に記載されたプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法では、高精細な印刷性及び良好な導電性を有する電極を比較的容易に形成できる。
【0010】
請求項6に係る発明は、請求項1又は2に記載の印刷用インキ組成物を用いて形成されたプラズマディスプレイパネル用電極である。
請求項7に係る発明は、請求項3に記載の印刷用インキ組成物の製造方法を用いて形成されたプラズマディスプレイパネル用電極である。
請求項8に係る発明は、請求項4又は5に記載の電極の形成方法を用いて形成されたプラズマディスプレイパネル用電極である。
この請求項6ないし8いずれか1項に記載されたプラズマディスプレイパネル用電極では、高精細な印刷性及び良好な導電性を有する電極となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷用インキ組成物の樹脂成分が、芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより得られた脂環式の樹脂成分であり、この脂環式の樹脂成分に含まれる芳香族成分が0.5重量部以下であるので、この印刷用インキ組成物を基材上にパターン印刷し、乾燥し、更に焼成することにより、エッジの直線性に優れ、欠け等の発生が少ない高品質の微細パターンの電極を得ることができるとともに、電極中に樹脂成分が残留せず電極の比抵抗を小さくすることができる。この結果、上記印刷用組成物を用いて、高精度な印刷性及び良好な導電性の双方を両立させた電極を形成することができる。
また芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより芳香族成分を0.5重量部以下とした脂環式の樹脂成分を得た後に、この脂環式の樹脂成分と導電性金属粉末とガラスフリットと溶剤成分を混合して印刷用インキ組成物を調製すれば、この印刷用インキ組成物を基材上にパターン印刷し、乾燥し、更に焼成することにより高精度な印刷性及び良好な導電性の双方を両立させた電極を比較的容易に形成できる。
更に上記印刷用インキ組成物を基材上に所望のパターンで印刷して塗膜を形成した後に、この塗膜を乾燥し焼成してプラズマディスプレイパネル用電極を形成すれば、この電極の印刷パターンは高精細となり、導電性は良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の印刷用インキ組成物は、導電性金属粉末、ガラスフリット、樹脂成分及び溶剤成分を含む混合物からなる。導電性金属粉末を100重量部とするとき、ガラスフリットが、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2〜5重量部の割合となるように配合される。また樹脂成分と溶剤成分の比率については、樹脂成分を100重量部とするとき、溶剤成分が、好ましくは30〜200重量部、より好ましくは50〜120重量部の割合となるように配合される。更に導電性金属粉末を100重量部とするとき、樹脂成分及び溶剤成分の合計量が、好ましくは10〜50重量部、より好ましくは15〜30重量部の割合となるように配合される。ここで、上記ガラスフリットを導電性金属粉末100重量部に対して1〜10重量部の範囲内に限定したのは、1重量部未満では焼成後の電極の基材(ガラス基板等)への密着性が悪く、10重量部を越えると焼成後の電極の導電性が低下してしまうからである。また溶剤成分を樹脂成分100重量部に対して30〜200重量部の範囲内に限定したのは、30重量部未満では溶剤の揮発による印刷不良が発生し、200重量部を越えるとインキ組成物の粘度の低下による印刷後のインキ組成物の垂れが発生してしまうからである。更に樹脂成分及び溶剤成分の合計量を導電性金属粉末100重量部に対して10〜50重量部の範囲内に限定したのは、10重量部未満では溶剤の揮発による印刷不良が発生し、50重量部を越えるとインキ組成物の粘度の低下による印刷後のインキ組成物の垂れが発生してしまうからである。
【0013】
一方、導電性金属粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmの範囲内に設定されることが好適である。また導電性金属粉末としては、銀粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、金粉末、ニッケル粉末などが挙げられる。ガラスフリットは、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物からなり、350〜500℃の軟化点を有する酸化物が好ましい。ガラスフリットの平均粒径は、0.1〜1.0μmの範囲内に設定されることが好ましい。ここで、導電性金属粉末の平均粒径を0.1〜1.0μmの範囲内に限定したのは、0.1μm未満ではインキ組成物の粘度が高くなって凹版によるオフセット印刷が困難となり、1.0μmを越えると焼成後の電極の焼結性が悪く導電性が低下してしまうからである。またガラスフリットの軟化点を350〜500℃の範囲内に限定したのは、350℃未満では焼成時に導電性金属粉末の焼結を阻害し導電性が低下してしまい、500℃を越えると焼成後の電極の基材(ガラス基板等)への密着性が低下してしまうからである。更にガラスフリットの平均粒径を0.1〜1.0μmの範囲内に限定したのは、0.1μm未満では焼成後の電極の基材(ガラス基板等)への密着性が低下してしまい、1.0μmを越えると焼成後の電極の導電性が低下してしまうからである。
【0014】
樹脂成分としては、芳香族成分を80〜100重量部と多く含む樹脂であり、かつこの芳香族成分を含む樹脂に水素添加することにより脂環式の樹脂成分が合成される樹脂が用いられる。このような樹脂に限定したのは、芳香族成分を多く含む樹脂のままでは焼成時に炭化して有機成分が残存してしまうのに対し、水素添加により芳香族成分を全く又は殆ど含まない脂環式の樹脂では焼成時に全く又は殆ど炭化せず、全て又は殆ど全てが焼失するからである。具体的には、脂環式の樹脂成分は、水添式スチレン樹脂、水添式ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂、水添式ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂及び長鎖脂肪族ジグリシジルエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の単一又は混合した樹脂成分である。また水素添加により脂環式の樹脂を合成する際に、未反応の芳香族が残留成分とし樹脂中に残る場合があるけれども、この未反応の芳香族の割合は、脂環式の樹脂成分を100重量部としたとき0.5重量部以下、好ましくは0.4重量部以下である。ここで、未反応の芳香族の含有量を0.5重量部以下に限定したのは、0.5重量部を越えると焼成時の樹脂の消失性が悪くなり電極の導電性を低下させてしまうからである。なお、芳香族成分を含む樹脂に水素添加して脂環式の樹脂成分を合成する具体的な方法としては、芳香族成分を含む樹脂をテトラヒドロフランなどのエーテル類に溶解し、ロジウムなどの白金族触媒の存在下であって、50〜130℃の温度で3〜15MPaの水素圧力により、水素添加して脂環式の樹脂成分を合成する方法が挙げられる。
【0015】
溶剤成分は、樹脂成分を溶解できる有機溶剤であれば特に限定されない。溶剤成分の具体例としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、カルビトール系溶剤、炭化水素系溶剤、ジオール系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤などが挙げられ、更にこれらの溶剤を複数混合させた溶剤も使用できる。なお、乾燥した後に硬化させるために、印刷用インキ組成物にアクリルモノマー、メタクリルモノマーとなどの不飽和モノマーとブチルパーオキサイドのような熱ラジカル化合物を添加してよい。また加熱硬化ではなく紫外線硬化させるために、印刷用インキ組成物にアクリルモノマー、メタクリルモノマーとなどの不飽和モノマーと、2−メチル−1(4−メチルチオ)フェニル)−2−モノフォリノプロパン−1−オンのような紫外線でラジカルを発生する化合物を添加してもよい。このような加熱硬化又は紫外線硬化の添加剤は、電極形成プロセスの設備環境によって選択されるものであり、本発明と直接関係するものではない。
【0016】
このように構成された印刷用インキ組成物を用いて、凹版オフセット印刷法によりガラス基板上にPDP用電極を形成する方法を図1に基づいて説明する。
先ず図1(a)に示すように、所定の凹状パターン10aを有する平面凹版10を印刷版として用意し、この平面凹版10表面に印刷用インキ組成物11を所定量供給する。この平面凹版10表面にスキージ12をあててスライドさせることにより、印刷用インキ組成物11を凹版パターン10aに埋め込む。次いで図1(b)に示すように、表面にシリコーンブランケット13aが取付けられたブランケットロール13を印刷用ブランケットとして用意し、印刷用インキ組成物11が凹状パターン10aに埋め込まれた平面凹版10上にブランケットロール13を圧接し、この状態でブランケットロール13を回転させて平版凹版10上を転動させることにより、平面凹版10の凹状パターン10aに埋め込まれたインキ11の一部をブランケットロール13のシリコーンゴムシート13a表面に転写する。このときの転写率は平面凹版の凹状パターンやインキ組成物に含まれる成分や比率、或いはブランケットの圧接の強弱にもよっても異なるが、ほぼ50〜60%程度の割合である。次に図1(c)に示すように、印刷用インキ組成物11を転写したブランケットロール13をガラス基板14(基材:被転写体)に圧接し、この状態でブランケットロール13を回転させ、ガラス基板14上を転動させることにより、ガラス基板14表面に印刷用インキ組成物11が所定のパターンで転写されて、所望の印刷パターンを有する塗膜となる(図1(d))。更にこの所望の印刷パターンの塗膜が形成されたガラス基板14を空気中で100〜200℃に1〜30分間保持して乾燥させた後に、空気中で500〜600℃、好ましくは540〜580℃で焼成を行う。焼成の温度保持時間は5〜30分が好ましく、10〜20分がより好ましい。
【実施例】
【0017】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
導電性金属粉末として、平均粒径が0.4μmである球状の銀粉末を用意し、またガラスフリットとして、軟化点が450℃である酸化ビスマス−酸化ホウ素系のガラスフリットを用意した。また樹脂成分としてビスフェノールA型のエポキシ樹脂を水素添加することにより得られた水添式ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用意し、溶剤成分としてグリコールエーテル系溶剤を用意した。このときの水添式ビスフェノールA型エポキシ樹脂に含まれる芳香族成分は0.3重量部であった。上記導電性金属粉末100重量部と、ガラスフリット3重量部と、樹脂成分10重量部と、グリコールエーテル系溶剤7重量部とをそれぞれ混合し、この混合物をプラネタリーミキサーを使用して30分間分散した後に、更に3本ロールミルを使用して3分間分散することにより、ペースト状の印刷用インキ組成物を調製した。
一方、図1に示すように、凹版オフセット印刷法に用いる印刷版として、ラインの幅、深さ及びピッチがそれぞれ150μm、30μm及び300μmである複数の凹状パターンを有する平面凹版10を用意し、基材(被転写体)として、厚さが2.8mmである対角50インチのガラス基板14(旭硝子社製の前面側の電極基板:PD200)を用意した。また印刷用ブランケットとして、表面に厚さが700μmであって、硬さが40(JIS K 6253 タイプA)であるシリコーンゴムシート(常温硬化型シリコーンゴム(付加型))が取付けられたブランケットロール13を用意した。
【0018】
先ず、平面凹版10の表面に上記印刷用インキ組成物11を所定量供給し、SUS製スキージ12を用いて平面凹版10の凹状のパターン10aに印刷用インキ組成物11を埋め込んだ。次いでブランケットロール13を平面凹版10上に圧接した状態で回転させ、平面凹版10上を転動させることにより、上記凹状のパターン10aに埋め込まれた印刷用インキ組成物11の一部をブランケットロール13のシリコーンゴムシート13a表面に転写した。次にブランケットロール13をガラス基板14に圧接した状態で回転させ、ガラス基板14上を転動させることにより、ガラス基板14の表面に所定のパターンを有する印刷用インキ組成物11を転写して、所望のパターンを有する印刷用インキ組成物の塗膜を形成した。更に印刷後のガラス基板14を空気中で150℃に5分保持して乾燥させた後、空気中で10℃/分の速度で560℃まで昇温し、560℃に10分保持して塗膜を焼成した。以上の工程を経ることにより、表面に電極が形成されたガラス基板を作製した。このガラス基板を実施例1とした。
【0019】
<実施例2>
樹脂成分として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を水素添加することにより得られる水添式ビスフェノールF型樹脂を使用したこと以外は、実施例1と同様にして表面に電極が形成されたガラス基板を作製した。このガラス基板を実施例2とした。なお、水添式ビスフェノールF型エポキシ樹脂に含まれる芳香族成分は0.4重量部であった。
<実施例3>
樹脂成分として、スチレン樹脂を水素添加することにより得られる水添式スチレン樹脂を使用したこと以外は、実施例1と同様にして表面に電極が形成されたガラス基板を作製した。このガラス基板を実施例3とした。なお、水添式スチレン樹脂に含まれる芳香族成分は0.2重量部であった。
【0020】
<比較例1>
樹脂成分として、スチレン樹脂を使用したこと以外は、実施例1と同様にして表面に電極が形成されたガラス基板を作製した。このガラス基板を比較例1とした。なお、スチレン樹脂に含まれる芳香族成分は100重量部であった。
<比較例2>
水添式ビスフェノールA型エポキシ樹脂に含まれる芳香族成分が1.0重量部であること以外は、実施例1と同様にして表面に電極が形成されたガラス基板を作製した。このガラス基板を比較例2とした。
<比較例3>
樹脂成分として、アクリル樹脂を使用したこと以外は実施例1と同様にして表面に電極が形成されたガラス基板を作製した。このガラス基板を比較例3とした。なお、アクリル樹脂に含まれる芳香族成分は0重量部であった。
【0021】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜3及び比較例1〜3のガラス基板上に形成された電極の比抵抗を測定するとともに、これらの電極の印刷性を評価した。電極の比抵抗はロレスター(三菱化学社製)により測定した。また電極の印刷性は、各基板の所定位置における9箇所のライン幅をそれぞれ測定し、平面凹版の凹状のパターンのライン幅に対して上記測定値の最大値及び最小値が±2μm以内であるときを『良好』とし、±2μmを越えたときを『不良』とした。その結果を次の表1にそれぞれ示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、樹脂成分として芳香族樹脂であるスチレン樹脂を用いた比較例1の電極や、樹脂成分中に芳香族成分を1.0重量部含む比較例2の電極では、印刷性が良好であったけれども、比抵抗がそれぞれ10.5μΩ・cm及び5.2μΩ・cmと大きくなり、また樹脂成分として芳香族成分を全く含まないアクリル樹脂を用いた比較例3の電極では、比抵抗が2.8μΩ・cmと比較的良好であったけれども、印刷性が不良であった。これらに対し、芳香族成分を含む樹脂成分に水素添加させることにより、樹脂成分中に芳香族成分を0.2〜0.4重量部と僅かしか含まない水添式脂環式の樹脂成分を用いた実施例1〜3の電極では、印刷性が良好であり、かつ比抵抗が2.6〜3.1μΩ・cmと小さくなった。上述のことから、微細配線に適した高精度の印刷性と比抵抗が小さく良好な導電性との双方を両立させた印刷用インキ組成物を得ることを確認できた。実施例1〜3のように、微細配線に適しかつ比抵抗が小さい電極は、PDP用前面板のバス電極及びPDP用背面板のアドレス電極として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明実施形態の凹版オフセット印刷法の概略図である。
【符号の説明】
【0025】
11 印刷用インキ組成物
14 ガラス基板(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属粉末、ガラスフリット、樹脂成分及び溶剤成分を含む混合物からなり、基材上に所望のパターンで印刷された後に乾燥され焼成される印刷用インキ組成物において、
前記樹脂成分が、芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより得られた脂環式の樹脂成分であり、
この脂環式の樹脂成分に含まれる芳香族成分が0.5重量部以下である
ことを特徴とする印刷用インキ組成物。
【請求項2】
脂環式の樹脂成分が、水添式スチレン樹脂、水添式ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂、水添式ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂及び長鎖脂肪族ジグリシジルエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の樹脂成分である請求項1記載の印刷用インキ組成物。
【請求項3】
芳香族成分を含む樹脂に水素添加させることにより芳香族成分を0.5重量部以下とした脂環式の樹脂成分を得る工程と、
前記脂環式の樹脂成分と導電性金属粉末とガラスフリットと溶剤成分を混合して印刷用インキ組成物を調製する工程と
を含む印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の印刷用インキ組成物を基材上に所望のパターンで印刷して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥し焼成して電極を形成する工程と
を含むプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法。
【請求項5】
請求項3記載の方法により製造された印刷用インキ組成物を基材上に所望のパターンで印刷して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥し焼成して電極を形成する工程と
を含むプラズマディスプレイパネル用電極の形成方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の印刷用インキ組成物を用いて形成されたプラズマディスプレイパネル用電極。
【請求項7】
請求項3に記載の印刷用インキ組成物の製造方法を用いて形成されたプラズマディスプレイパネル用電極。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の電極の形成方法を用いて形成されたプラズマディスプレイパネル用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2008−201815(P2008−201815A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35876(P2007−35876)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】