説明

印刷用塗工紙

【課題】原紙表面に浸透抑制処理することなく、顔料を含有する親水性塗料を原紙表面に塗工することにより、塗料の浸透が抑えられ、嵩高で、品質の良好な印刷用塗工紙及びその塗工原紙を提供する。
【解決手段】原紙上に顔料と接着剤を含有する親水性塗料を塗工して塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙中にキャビテーションによって発生した気泡を接触させて処理したパルプを含有し、塗工紙の密度が1.0g/cm3以下であることを特徴とする印刷用塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビテーションによって発生した気泡を接触させて処理したパルプを用いて製造された印刷用塗工紙及び塗工原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷用紙において輸送及び郵送コストの削減などのため軽量化に対する要求が非常に高くなってきている。しかし、単純に軽量化すなわち印刷用紙の坪量を下げると紙の厚さが低下し、冊子のボリューム感が損なわれるため好ましくない。求められている軽量化とは紙重量を低下させる一方で紙厚は低下させないこと、より好ましくは紙厚を増加させ嵩高化すること、即ち軽量嵩高化を意味している。
【0003】
一方、印刷物のビジュアル化やカラー化が進み、非塗工印刷用紙に比較し、紙表面に平滑な塗工層をインキ受理層とする印刷用塗工紙の需要も年々増加している。炭酸カルシウムやカオリンなどの無機顔料を主成分とする塗工層は、パルプを主原料とする塗工原紙に比較して比重が重く、塗工紙の軽量のためには塗工量を出来るだけ少なくする必要がある。また、嵩高化のためには、塗工原紙を嵩高化することが考えられる。しかし、原紙を嵩高化すると低密度となり細孔が多くなるので、塗工時に、塗料の原紙内部への浸透性が上がり、低塗工量で均一に原紙表面を被覆することが難しくなる。そこで、原紙の細孔量を減らすために塗工前に原紙をカレンダー処理すれば、紙厚が低下するため嵩高低密度紙は得られない。このように、塗工紙の軽量嵩高化のために、軽量嵩高な原紙を用いても、比重の高い無機顔料を主成分とする塗料を単に塗布しただけでは塗料の浸透のため塗布量が多くなって軽量嵩高化を実現することは難しい。
【0004】
原紙内部への塗料の浸透を抑制する方法としては、原紙と、塗料の溶媒である水との濡れ性を下げるために原紙にサイズ処理を施す方法が考えられる。しかし、細孔量の多い低密度原紙にこのような処理を施してもその効果は小さいものであった。また、塗工用でんぷん、ポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性高分子を主成分とする表面処理剤を紙表面に塗工し、紙表面に塗膜を形成させ、その後に塗工される塗料の浸透を抑制する方法も考えられるが、軽量嵩高原紙ではその表面塗工剤も紙層に浸透してしまうため、紙表面に有効な浸透抑制塗膜を形成させることが難しかった。また、剥離紙用基材にシリコーン等の離型剤の浸透を抑制するため、膨潤性雲母類と結着剤を含有する水溶液を塗布する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、炭酸カルシウムやカオリンといった顔料および結着剤を水で高濃度分散した、親水性である印刷用塗料と異なり、剥離紙用塗料はトルエンとシリコーンが主体であるため疎水性である、塗料物性が著しく異なる。そこで、特定量の膨潤性雲母類を印刷用軽量嵩高原紙表面に塗布することで、親水性塗料の浸透を効果的に抑制できる方法が開発された(特許文献2参照)が、膨潤性雲母類が非常に高価であるため、汎用印刷用紙の製造には利用できないという欠点があった。従って、比較的安価な材料を用いることで、印刷用軽量嵩高原紙表面に親水性塗料の浸透を効果的に抑制し、塗工層の塗膜を効率良く形成させることは非常に困難であった。また、水溶性カチオン性アルミニウム化合物及び水溶性高分子化合物からなる水性液を支持体上に設けた後、顔料と接着剤を含有する塗工層を設ける顔料塗被紙が記載されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では両化合物の混合液を原紙に塗布するため、塗料中の水性高分子化合物はアルミニウム化合物により微小なゲル状物質となっており、このようなゲル化した高分子化合物は薄膜形成能に乏しいため、嵩高原紙表面に多数存在する空隙を埋め尽くすのが難しく、浸透抑制効果は不十分である。
【0005】
そこで、原紙表面にポリ塩化アルミニウム等の多価金属イオンでゲル化した水溶性高分子の乾燥皮膜層を形成させることで、低密度嵩高紙表面に効率良く親水性塗料の浸透を抑制する安価な方法、更にそれにより印刷用の軽量嵩高な塗工原紙及びその塗工紙を提供する方法が開発された(特許文献4参照)。しかしながら、期待する浸透抑制効果を発揮させるためにはアルミニウムイオン塗布と澱粉塗布の2段工程を要し、また、原紙表面にアルミニウムイオンを局在させる必要があり、そのための耐酸性の専用装置(スプレーなど)を要するなど、その処理工程は非常に困難であった。
【0006】
このように、従来から検討されている方法では、浸透抑制効果が不十分である、工程が煩雑である等の課題があり問題であった。そこで、嵩高原紙に浸透抑制処理することなく、軽量嵩高な塗工紙を得ることができ、よりシンプルかつ効果に優れる方法が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開平6−200500号公報
【特許文献2】特願2003−320662号
【特許文献3】特開平9−273097号公報
【特許文献4】特願2005−267326号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、原紙表面に浸透抑制処理することなく、顔料を含有する親水性塗料を原紙表面に塗工することにより、塗料の浸透が抑えられ、嵩高で、品質の良好な印刷用塗工紙及びその塗工原紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、原紙上に顔料と接着剤を含有する親水性塗料を塗工して塗工層を設けた印刷用塗工紙において、キャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理したパルプを含有する原紙に、親水性塗料を原紙表面に塗工し、塗工紙の密度が 1.0g/cm3以下の印刷用塗工紙を得ることにより、上記課題を解決できることを見い出し、本発明をなすに至った。
【0010】
本発明においては、キャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理したパルプを含有する嵩高な塗工原紙に、顔料と接着剤を含有する親水性塗料を塗工して塗工層を設けることにより、原紙への塗料の浸透が抑えられ、被覆性が良好で品質の印刷用塗工紙が得られるものである。キャビテーション処理したパルプを配合した塗工原紙で塗料の浸透を抑制できる理由としては、次のような理由が考えられる。外部フィブリルの形状について、キャビテーション処理されたパルプは、従来のPFIミル等により叩解処理されたパルプと異なっている。PFIミル処理されたパルプは、パルプ繊維表面に毛羽立つようにフィブリル化されるのに対し、キャビテーション処理されたパルプは、パルプ繊維表面が薄く剥けるように、膜状にフィブリル化される。そのため、キャビテーション処理されたパルプを含む塗工原紙は、表面の微細空隙が膜状のフィブリルにいくらか封じられ、塗料の浸透が抑制されるものと考えられる。本発明において、印刷用の塗工原紙は、密度が0.2〜0.9g/cm3のものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、キャビテーション処理によって得られたパルプを含有する原紙が嵩高であり、その原紙に親水性塗料を塗工することにより、親水性塗料の浸透が少なく、良好な平滑度や光沢度を有する印刷用塗工紙を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においてキャビテーション処理の対象とするパルプは、原料として、針葉樹または広葉樹、非木材繊維などを原料とする。より具体的には、クラフトパルプ等の化学パルプ、砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ等の機械パルプ、あるいは古紙や繊維素からなるシート状の物質から製造された脱墨パルプ(再生パルプ)等が挙げられる。古紙としては、例えば、新聞、チラシ、更系雑誌、塗工紙系雑誌、感熱記録紙、感圧記録紙、模造紙、色上質紙、電子写真用転写紙、コンピューターアウトプット用紙、あるいはこれらの混合古紙に適用できる。
【0013】
本発明の塗工原紙に使用されるキャビテーション処理パルプは、キャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理することにより、所望の濾水度に調製したパルプである。キャビテーションによって気泡を発生させ、パルプ懸濁液に接触させて処理することにより、所望の濾水度に調節するパルプとは、パルプをリファイナーやビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー等の従来の機械処理による叩解処理の代わりに、上記のキャビテーション処理を用いて叩解処理することにより、特に嵩高で、透気抵抗度が高いパルプが得られるものである。また、キャビテーション処理する前のパルプは、未叩解パルプの方がよりキャビテーション処理の効果が得られるものである。
【0014】
キャビテーションによって、調製したパルプの所望の濾水度とは、化学パルプの場合、50〜650mlが好ましく、機械パルプの場合は50〜400mlが好ましく、古紙(脱墨)パルプの場合は、50〜400mlの範囲に調製することが好ましい。また、上記のパルプの種類を混合した場合、トータルの濾水度としては、100〜500mlの範囲で調製することが好ましい。また、キャビテーション処理の効果を向上させるためには、キャビテーション処理前のパルプとキャビテーション処理後のパルプの濾水度差は、トータル(全)パルプの濾水度差で、好ましくは100〜500mlであり、より好ましくは150〜450mlで調整することである。各々のパルプについては、化学パルプの場
合、100〜500mlが好ましく、より好ましくは150〜400mlであり、機械パルプの場合のキャビテーション前後の濾水度差は60〜300mlが好ましく、より好ましくは100〜250mlであり、古紙パルプの場合の濾水度差は、好ましくは100〜350ml範囲で調節することにより、キャビテーション処理効果がより得られるものである。
【0015】
化学パルプ、機械パルプ等の場合、キャビテーションによって未叩解パルプを処理しても良いし、通常の機械処理による叩解を併用させても良い。また、古紙パルプの場合、通常の機械処理による脱墨処理してパルプ繊維に付着しているインキ等の汚染物質を除去した後に、通常の機械処理の叩解処理の代わりに、キャビテーション処理による叩解処理した方が好ましい。また、必要に応じて古紙パルプの脱墨処理を上記のキャビテーション処理してもよい。尚、脱墨処理をキャビテーションによって気泡を発生させ処理した再生パルプは、パルプ繊維自体への損傷が抑えられ、パルプ繊維表面に付着しているインキについては、強力に気泡が作用するため、表面に付着しているインキの剥離・微細化が促進され、高白色度で残インキの少ない高品質の再生パルプが得られるものである。
【0016】
次に本発明の原料パルプの処理に用いるキャビテーションについて説明する。
【0017】
キャビテーションは液体が加速され、局所的な圧力がその液体の蒸気圧より低くなったときに発生するため、流速及び圧力が特に重要となる。このことから、キャビテーション状態を表わす基本的な無次元数、キャビテーション数(Cavitation Number)σは次のように定義される(加藤洋治編著、新版キャビテーション基礎と最近の進歩、槇書店、1999)。
【0018】
【数1】

(p:一般流の圧力、U:一般流の流速、pv:流体の蒸気圧、ρ:流体の密度) ここで、キャビテーション数が大きいということは、その流れ場がキャビテーションを発生し難い状態にあるということを示す。特にキャビテーション噴流のようなノズルあるいはオリフィス管を通してキャビテーションを発生させる場合は、ノズル上流側圧力p1、ノズル下流側圧力p2、試料水の飽和蒸気圧pvから、キャビテーション数σは下記式(2)のように書きかえることができ、キャビテーション噴流では、p1、p2、pv間の圧力差が大きく、p1≫p2≫pvとなることから、キャビテーション数σはさらに以下のように近似することができる(H. Soyama, J. Soc. Mat. Sci. Japan, 47(4) , 381 1998)。
【0019】
【数2】

本発明におけるキャビテーションの条件は、上述したキャビテーション数σが0.001以上0.5以下であることが望ましく、0.003以上0.2以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることが特に好ましい。キャビテーション数σが0.001未満である場合、キャビテーション気泡が崩壊する時の周囲との圧力差が低いため効果が小さくなり、0.5より大である場合は、流れの圧力差が低くキャビテーションが発生し難くなる。
【0020】
また、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射してキャビテーションを発生させる際には、噴射液の圧力(上流側圧力)は0.01MPa以上30MPa以下であることが望ましく、0.7MPa以上15MPa以下であることが好ましく、2MPa以上10MPa以下であることが特に好ましい。上流側圧力が0.01MPa未満では下流側圧力との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、30MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利である。一方、容器内の圧力(下流側圧力)は静圧で0.05Mpa以上0.3Mpa以下が好ましい。また、容器内の圧力と噴射液の圧力との圧力比は0.001〜0.5の範囲が好ましい。
【0021】
また、噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、キャビテーションが発生し難くいため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。本発明におけるキャビテーションの発生手段としては、液体噴流による方法、超音波振動子を用いる方法、超音波振動子とホーン状の増幅器を用いる方法、レーザー照射による方法などが挙げられるが、これらに限定するものではない。好ましくは、液体噴流を用いる方法が、キャビテーション気泡の発生効率が高く、より強力な崩壊衝撃力を持つキャビテーション気泡雲を形成するためインキ等の汚染物質に対する作用効果が大きい。上記の方法によって発生するキャビテーションは、従来の流体機械に自然発生的に生じる制御不能の害悪をもたらすキャビテーションと明らかに異なる。
【0022】
本発明における液体噴流によるキャビテーションの発生方法では、パルプ懸濁液に対して、噴射液体として、例えば、蒸留水、水道水、工業用水、製紙工程で回収される再用水、パルプ搾水、白水、パルプ懸濁液、アルコールなどを噴射することができるが、これらに限定するものではない。好ましくは、パルプ懸濁液自体を噴射することで、噴流周りに発生するキャビテーションによる作用効果に加え、高圧でオリフィスから噴射する際の流体力学的剪断力による汚染物質の剥離効果が得られるため、より大きな作用効果を発揮する。さらに、ポンプや配管から受ける剪断力による剥離効果を得ることができる。なお、噴射液体としてパルプ懸濁液を用いる場合、処理対象とする全量を循環させて処理することも可能である。
【0023】
本発明におけるキャビテーション処理はタンクなど任意の容器内若しくは配管内を選ぶことができるが、これらに限定するものではない。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環させることによって更に剥離効果を増大できる。さらに複数の発生手段を用いて並列で、あるいは、順列で処理することができる。
【0024】
キャビテーションを発生させるための噴流は、パルパーのような大気開放の容器の中でなされてもよいが、キャビテーションをコントロールするために圧力容器の中でなされるのが好ましい。
【0025】
液体噴流によってキャビテーションを発生させて処理する場合、処理対象であるパルプ懸濁液の固形分濃度は5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%の範囲で処理することが気泡の発生効率の点から好ましい。
【0026】
また、処理時のパルプ懸濁液のpHは、好ましくはpH1〜13、より好ましくはpH3〜12、更に好ましくはpH4〜11である。pHが1未満であると装置の腐食などが問題となり、材質及び保守等の観点から不利である。一方、pHが13を超えると、パルプ繊維のアルカリ焼けが生じ、白色度が低下するので好ましくない。アルカリ条件である方がパルプ繊維の膨潤性がよく、OH活性ラジカルの生成量が増加することから望ましい。
【0027】
本発明における噴射液とは、高圧でオリフィスから噴射する液体を指し、被噴射液とは容器内もしくは配管内で噴射される液体を指す。
【0028】
本発明では、液体の噴射圧力を高めることで、噴射液の流速が増大し、より強力なキャビテーションが発生する。更に被噴射液を収める容器を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡は激しく崩壊し衝撃力も大となる。キャビテーションは液体中の気体の量に影響され、気体が多過ぎる場合は気泡同士の衝突と合一が起こるため崩壊衝撃力が他の気泡に吸収されるクッション効果を生じるため衝撃力が弱まる。従って、溶存気体と蒸気圧の影響を受けるため、その処理温度は融点以上沸点以下でなければならない。液体が水を媒質とする場合、好ましくは0〜80℃、更に好ましくは10℃〜60℃の範囲とすることで高い効果を得ることができる。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水溶液の場合、50℃前後が最適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば高い効果が得られる。80℃よりも高い温度では、キャビテーションを発生するための圧力容器の耐圧性が著しく低下するため、容器の損壊を生じやすいため不適である。
【0029】
本発明においては、界面活性剤などの液体の表面張力を低下させる物質を添加することで、キャビテーションを発生させるために必要なエネルギーを低減することができる。添加する物質としては、公知または新規の界面活性剤、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、あるいは、有機溶剤、タンパク質、酵素、天然高分子、合成高分子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの単一成分からなるものでも2種以上の成分の混合物でも良い。添加量は噴射液及び/または被噴射液の表面張力を低下させるために必要な量であればよい。また、添加場所としてはキャビテーションを発生させる場所よりも前の工程のいかなる場所でもよく、液体を循環させる場合は、キャビテーションを発生させる場所以降であっても構わない。
【0030】
本発明においては、キャビテーションによって気泡を発生させ、これをパルプ懸濁液に接触させて処理することで、発生する微細気泡の崩壊衝撃力によって、パルプ繊維自体の嵩を損なわずに濾水度を調整でき、このパルプを含有する原紙を用いた塗工原紙は、従来の機械力を用いた叩解により濾水度を調整したパルプを含有する塗工原紙と比較して、嵩高でありながら透気度が高いため、塗料の浸透を抑制することができ、その原紙に塗料を塗工して印刷用塗工紙を得た場合に、平滑性や白紙光沢度が向上する効果を有するものである。
【0031】
本発明の塗工原紙において、キャビテーションによって発生させた気泡により所望の濾水度に調製したパルプの全パルプに対する配合量は特に限定されるものではないが、配合率が高いほど、塗料の浸透が抑制される効果を有する。このような点から、配合量は全パルプ成分に対して5〜100重量%配合することが好ましく、より好ましくは30〜100重量%、更に好ましくは50〜100重量%である。配合量が5重量%未満であると嵩高化等の効果が不十分である。また、キャビテーション処理による嵩高、品質向上の点からは、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)を使用することが好ましい。本発明の塗工原紙は、キャビテーション処理したパルプ以外の原料パルプとして、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)、脱墨パルプ(DIP)を単独または任意の割合で混合して使用してもよい。抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。
【0032】
本発明の印刷用塗工紙の原紙には、パルプ以外に、填料等が配合される。原紙に配合される填料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、水和珪酸、ホワイトカーボン、酸化チタン、合成樹脂填料などの公知の填料を使用する事が出来る。填料の使用量は、パルプ重量に対して6重量%以上が好ましい。さらに必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、澱粉、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色顔料、染料、消
泡剤などを含有しても良い。原紙の抄紙方法については特に限定されるものではなく、トップワイヤー等を含む長網マシン、丸網マシン等を用いて、酸性抄紙、中性抄紙、アルカリ性抄紙方式で抄紙した原紙のいずれであってもよい。また、プレス、キャレンダー等は通常の操業範囲内の条件で処理を行えば良い。キャビテーション処理したパルプについては、数種類のパルプをキャビテーション処理して配合して抄紙しても良いし、特定の種類のパルプのみをキャビテーション処理して配合し抄紙しても良いし、特定の種類のパルプの一部をキャビテーション処理して配合し抄紙しても良い。また、必要に応じて、表面強度やサイズ性の向上の目的で、原紙に水溶性高分子を主成分とする表面処理剤の塗布を行っても良い。また、本発明に使用される塗工紙原紙の密度は、0.2〜0.9g/cm3に調製することが必要であり、好ましくは0.3〜0.8g/cm3、より好ましくは0.4〜0.7g/cm3である。また原紙の坪量は、30〜200g/m2程度であり、好ましくは40〜130g/m2、40〜70g/m2がより好ましい。
【0033】
本発明の塗工紙とは、キャビテーション処理したパルプを含有する原紙に顔料と接着剤を有する塗工層を設けたものである。
【0034】
塗工層に用いる顔料として塗工紙用に従来から用いられている、カオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料、プラスチックピグメントなどの有機顔料であり、これらの顔料は必要に応じて1種以上を適宜選択して使用することが出来る。
【0035】
塗工層に用いる接着剤は、塗工紙用に従来から用いられている、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合及びポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等の合成系接着剤;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類;酸化澱粉、陽性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉などのエーテル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等の通常の塗工紙用接着剤1種類以上を適宜選択して使用される。これらの接着剤は顔料100重量部当たり5〜50重量部程度の範囲で使用される。表面強度をより良好にするためには、スチレン・ブタジエン系の共重合体ラテックスを10〜25重量部含有することが好ましい。また、柔軟性の点から澱粉は5重量部以下が好ましい。また、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等、通常の塗工紙用顔料に配合される各種助剤が適宜使用される。
【0036】
原紙上に設ける塗工層は、原紙の片面あるいは両面に、単層はあるいは二層以上設ける。塗工層の塗工量は、好ましくは片面当たり5〜30g/m、より好ましくは8〜20g/mである。塗工紙全体の坪量は、40〜250g/mが好ましく、より好ましくは50〜130g/m、更に好ましくは坪量が50〜90g/mである。
【0037】
塗工組成物を原紙に塗工するための方法としては、2ロールサイズプレスコーターや、ゲートロールコーター、及びブレードメタリングサイズプレスコーター、及びロッドメタリングサイズプレスコーター、シムサイザー等のフィルム転写型ロールコーターや、フラデッドニップ/ブレードコーター、ジェットファウンテン/ブレードコーター、ショートドウェルタイムアプリケート式コーターの他、ブレードの替わりにグルーブドロッド、プレーンロッド等を用いたロッドメタリングコーターや、カーテンコーター、ダイコーター等の公知のコーターにより塗工することができる。アンダー塗工液を塗工する場合、原紙に適度にしみこませるために、ゲートロールコーターなどのフィルムトランスファー方式が好ましい。また、乾燥方法については、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、シリンダードライヤー等の通常の方法が用いられる。また、平滑性向上及び印刷品質向上等のため、上述の手法で得られた塗工紙を、表面処理することができる。表面処理方法としては弾性ロールにコットンロールを用いたスーパーカレンダーや、弾性ロールに合成樹脂ロールを用いたソフトニップカレンダー等、公知の表面処理装置を用いることができる。本発明においては、塗工紙の密度が1.0g/cm3以下であり、好ましくは0.5〜0.9g/cm3 でより本発明の効果を発揮するものである。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に示すが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。本発明において、部、%は、それぞれ重量部、重量%を示す。
【0039】
[実施例1]広葉樹漂白クラフトパルプ(L―BKP)シート(濾水度570ml)を低濃度パルパーで離解し、水酸化ナトリウムを対パルプ1.0重量%となるように加え、水でパルプ濃度15重量%に調整した後、パルパーを用いて40℃で、6分間離解し、原料Aとした。原料Aを任意の濃度に調整後、図1に示すキャビテーション噴流式洗浄装置(ノズル径1.5mm)を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとして、処理時間を変化させて処理し、濾水度を調整した。なお、噴射液として濃度1.1重量%のパルプ懸濁液を使用し、容器内のパルプ懸濁液(濃度1.1重量%)をキャビテーション(CV)処理した。処理後のパルプ(濾水度405ml)100%で作成した上質紙を用意した。この上質紙の坪量は48.1g/m2、密度は0.68g/cm3、透気抵抗度は453秒であった。炭酸カルシウム(FMT90 ファイマテック株式会社製)50部と微粒カオリン(アマゾンプラス,カデム株式会社製)50部を配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部を添加して分散し、接着剤として顔料100部に対してラテックス11部、澱粉3.5部にて塗料濃度65%で塗料を調製し、この塗料をブレード式ラボ用塗工機にて塗工した。その際の塗布量は19.2 g/m2であった。さらにテストスーパーカレンダーにて線圧50kg/cm、2ニップ処理することにより印刷用塗工紙を得た。
【0040】
[実施例2]針葉樹機械パルプ(N−TMP)シート(濾水度141ml)を低濃度パルパーで離解し、水酸化ナトリウムを対パルプ1.0重量%となるように加え、水でパルプ濃度15重量%に調整した後、パルパーを用いて40℃で、6分間離解し、原料Bとした。原料Bを任意の濃度に調整後、キャビテーション噴流式洗浄装置(ノズル径1.5mm)を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとして、処理時間を変化させて処理し、濾水度を調整した。なお、噴射液として濃度1.1重量%のパルプ懸濁液を使用し、容器内のパルプ懸濁液(濃度1.1重量%)をキャビテーション(CV)処理した。処理後のパルプ(濾水度105ml)100%で作成した上質紙を用意した。この上質紙の坪量は47.6g/m2、密度は0.41g/cm3、透気抵抗度は263秒であった。炭酸カルシウム(FMT90 ファイマテック株式会社製)50部と微粒カオリン(アマゾンプラス,カデム株式会社製)50部を配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部を添加して分散し、接着剤として顔料100部に対してラテックス11部、澱粉3.5部にて塗料濃度65%で塗料を調製し、この塗料をブレード式ラボ用塗工機にて塗工した。その際の塗布量は25.2g/m2であった。さらにテストスーパーカレンダーにて線圧50kg/cm、2ニップ処理することにより印刷用塗工紙を得た。
【0041】
[実施例3]古紙由来の再生パルプ(F−DIP)シート(濾水度576ml)を低濃度パルパーで離解し、水酸化ナトリウムを対パルプ1.0重量%となるように加え、水でパルプ濃度15重量%に調整した後、パルパーを用いて40℃で、6分間離解し、原料Cとした。原料Cを任意の濃度に調整後、キャビテーション噴流式洗浄装置(ノズル径1.5mm)を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとして、処理時間を変化させて処理し、濾水度を調整した。なお、噴射液として濃度1.1重量%のパルプ懸濁液を使用し、容器内のパルプ懸濁液(濃度1.1重量%)をキャビテーション(CV)処理した。処理後のパルプ(濾水度312ml)100%で作成した中質紙を用意した。この中質紙の坪量は48.5g/m2、密度は0.54g/cm3、透気抵抗度は364秒であった。炭酸カルシウム(FMT90 ファイマテック株式会社製)50部と微粒カオリン(アマゾンプラス,カデム株式会社製)50部を配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部を添加して分散し、接着剤として顔料100部に対してラテックス11部、澱粉3.5部にて塗料濃度65%で塗料を調製し、この塗料をブレード式ラボ用塗工機にて塗工した。その際の塗布量は29.8 g/m2であった。さらにテストスーパーカレンダーにて線圧50kg/cm、2ニップ処理することにより印刷用塗工紙を得た。
【0042】
[比較例1]原料Aについて、PFIミルを用いて、濃度10%、クリアランス0.2mmで叩解し、濾水度を調整した。叩解後のパルプ(濾水度411ml)より上質紙を作成した。この上質紙の坪量は48.8g/m2、密度は0.74g/cm3、透気抵抗度は62秒であった。炭酸カルシウム(FMT90 ファイマテック株式会社製)50部と微粒カオリン(アマゾンプラス,カデム株式会社製)50部を配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部を添加して分散し、接着剤として顔料100部に対してラテックス11部、澱粉3.5部にて塗料濃度65%で塗料を調製し、この塗料をブレード式ラボ用塗工機にて塗工した。その際の塗布量は26.2g/m2であった。さらにテストスーパーカレンダーにて線圧50kg/cm、2ニップ処理することにより印刷用塗工紙を得た。
【0043】
[比較例2]原料Bについて、PFIミルを用いて、濃度10%、クリアランス0.2mmで叩解し、濾水度を調整した。叩解後のパルプ(濾水度103ml)より上質紙を作成した。この上質紙の坪量は48.9g/m2、密度は0.48g/cm3、透気抵抗度は752秒であった。炭酸カルシウム(FMT90 ファイマテック株式会社製)50部と微粒カオリン(アマゾンプラス,カデム株式会社製)50部を配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部を添加して分散し、接着剤として顔料100部に対してラテックス11部、澱粉3.5部にて塗料濃度65%で塗料を調製し、この塗料をブレード式ラボ用塗工機にて塗工した。その際の塗布量は28.1g/m2であった。さらにテストスーパーカレンダーにて線圧50kg/cm、2ニップ処理することにより印刷用塗工紙を得た。
【0044】
[比較例3]原料Cについて、PFIミルを用いて、濃度10%、クリアランス0.2mmで叩解し、濾水度を調整した。叩解後のパルプ(濾水度331ml)より中質紙を作成した。この中質紙の坪量は48.3g/m2、密度は0.59g/cm3、透気抵抗度は458秒であった。炭酸カルシウム(FMT90 ファイマテック株式会社製)50部と微粒カオリン(アマゾンプラス,カデム株式会社製)50部を配合し、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部を添加して分散し、接着剤として顔料100部に対してラテックス11部、澱粉3.5部にて塗料濃度65%で塗料を調製し、この塗料をブレード式ラボ用塗工機にて塗工した。その際の塗布量は32.1g/m2であった。さらにテストスーパーカレンダーにて線圧50kg/cm、2ニップ処理することにより印刷用塗工紙を得た。
【0045】
これらの実施例、比較例で得た印刷用塗工原紙及び印刷用塗工紙の評価は、透気抵抗度、顔料含有塗料の塗工量(付着量)、密度、および紙質
試験として平滑度と光沢度で行った。それぞれの測定方法は下記の通りであり、結果はまとめて表1として示した。<透気抵抗度>Japan Tappi 紙パルプ試験法No5-2 王研法により測定した。<密度> JIS P8118の方法により測定した。<平滑度> Japan Tappi 紙パルプ試験法No5-2 王研法により測定した。<白紙光沢度>JIS P8142の方法により測定した。
【0046】
【表1】

表1において、実施例と比較例を比べると、実施例は比較例に比べて、極めて低密度で嵩高であった。キャビテーション(CV)処理パルプを塗工原紙に用いることにより、浸透抑制剤を塗工する工程を経ることなく大きな嵩高効果を得ることができたことがわかる。キャビテーション(CV)処理パルプを用いない場合(比較例1〜3)より塗工原紙の透気抵抗度が高く、比較例と比較して少ない塗工量でより高い白紙光沢度を得られていることから、塗工原紙自体が塗料の浸透も抑制していることが明らかである。実際に同一密度の原紙で比較して、顔料含有塗料の塗工量も実施例は少なく、かつ同一条件でカレンダー処理した際の白紙光沢度・平滑性も大幅に高くなっており、比較例よりも塗料中の顔料の浸透を抑制していることが分かる。本発明の印刷用塗工紙は、嵩高で、品質の良好なものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例で使用したキャビテーション噴流式洗浄装置の概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1:試料タンク2:ノズル3:キャビテーション噴流セル4:プランジャポンプ5:上流側圧力制御弁6:下流側圧力制御弁7:上流側圧力計8:下流側圧力計9:給水弁10:循環弁11:排水弁12:温度センサー13:ミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙上に顔料と接着剤を含有する親水性塗料を塗工して塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙中にキャビテーションによって発生した気泡を接触させて処理したパルプを含有し、塗工紙の密度が1.0g/cm3以下であることを特徴とする印刷用塗工紙。
【請求項2】
前記キャビテーションによって処理したパルプを全パルプ中の5〜100重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の印刷用塗工紙。
【請求項3】
前記キャビテーションによって処理する前のパルプが化学パルプであることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷用塗工紙。
【請求項4】
キャビテーションによって発生した気泡を接触させて処理したパルプを含有し、密度が0.2〜 0.9g/m3であることを特徴とする印刷用塗工原紙。

【図1】
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【公開番号】特開2006−257628(P2006−257628A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42711(P2006−42711)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】