説明

印刷用紙の製造方法

【課題】 脱墨パルプを高配合した非塗工紙で軽量であるにもかかわらず、不透明度、白紙光沢度、平滑性が高く、オフセット印刷またはグラビア印刷の適性に優れた印刷用紙の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の印刷用紙の製造方法は、2ニップ以上のホットソフトニップカレンダーで紙のフェルト面とワイヤー面を処理する前および/または処理している間に、フェルト面またはワイヤー面の少なくとも一方の金属ロール処理面の表面に水分付与手段にて水分を付着させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙に関し、非塗工紙にカレンダー処理する、特にオフセット印刷またはグラビア印刷に適する印刷用紙(スーパーカレンダー紙)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は、新聞、書籍、雑誌、ポスター、カレンダー、パンフレット、包装紙など、ほとんどの場合印刷を施されて使用されており、印刷用紙の種類および特性は、各種印刷方式や用途によって様々である。一例を挙げると、オフセット印刷方式は、版面に親油性の画線部(印刷しようとする部分)と親水性の非画線部とを作り、湿し水と呼ばれる水を薄く塗り、次にインキを塗ると水をはじいた画線部にだけインキが付着するので、これをブランケットに転写し、さらにこのブランケットから紙にインキを転移させる方式である。湿し水を使用するため、水に濡れたときブランケットに付着して紙粉として取られないように、用紙には表面強度が重視される。また、グラビア印刷方式は、版上の凹部にインキを盛り紙に転写する方式であるため、版と紙とが均一に接し網点の抜け(スペックル)が起こらないように、表面に微小な凹凸がなく平滑性が高いことが要求される。
【0003】
印刷用紙の一種に、スーパーカレンダー紙(通称SC:Super Calendered Paper)と呼ばれるものがあり、欧米では近年、雑誌や宣伝用のチラシ、カタログ等として、オフセット印刷あるいはグラビア印刷等によるカラー印刷に使用されている。このスーパーカレンダー紙は、通常の新聞用紙、印刷用紙などの非塗工紙と軽量塗工紙(通称LWC:Light Weight coat paper)との中間に位置する高品質の非塗工紙であり、非塗工紙でありながら軽量塗工紙並みに光沢性や平滑性に優れた用紙である。スーパーカレンダー紙は白紙光沢度や印刷品質(印刷面感、印刷光沢度、インキ着肉性等)によってだいたい大きく3つに分けられ、例えば目安として、上級グレードでは白紙光沢度が約48%以上、中級グレードでは約33〜48%、下級グレードでは約33%以下程度である。
【0004】
スーパーカレンダー紙は、軽量でかつ光沢度を高くするために、通常、主原料は紙厚の厚くなりやすいグラウンドパルプやサーモメカニカルパルプ等の機械パルプである。紙は、軽量すなわち低坪量になるほど不透明度が低くなるため、厚さでこれを補うことは1つの方法である。また、填料は光沢度が高くなりやすいカオリンを配合し、抄紙後にスーパーカレンダー処理して製造される。
【0005】
スーパーカレンダーは、カレンダー処理の方法の1つであり、通常、抄紙された紙を一旦巻き取ってから、改めてカレンダー掛けが別処理として行われるオフラインカレンダー方式である。その上、スーパーカレンダー仕上げの速度は、通常500m/分程度であり、生産効率は低い。交互に鋼と弾性体の多数のロールから構成されるスーパーカレンダーは、線圧180〜450Kgf/cm、ニップ圧140〜300Kgf/cmであり、ロール温度は60〜80℃が一般的である。この処理は、線圧のかかった多数のロール間のニップを通過するために、得られる紙は高い光沢と平滑性を有するが、潰れることは避けられず高い不透明度と高いこし(剛度)を得ることは難しい。
【0006】
この他のカレンダー処理として、ソフトカレンダーがある。ソフトカレンダーは、例えば特許文献1(特許第3064290号公報)に塗工紙の製造方法として記載されているように、金属ロールと弾性ロールとを組み合わせ、少ないニップ数でカレンダー掛けをする仕上げ方法である。弾性ロールは、スーパーカレンダーと同等もしくはそれ以上の硬度を有する特殊合成樹脂被覆ロールを使用しており、高ニップ圧下で耐熱性、耐摩耗性に優れ、傷が付きにくい特別な素材が用いられる。この方法は、スーパーカレンダーとは異なり、オンラインカレンダーとして使用することができ、生産効率や高い光沢と平滑性に加えてこしも良好なことから、有効なカレンダー処理である。また、特許文献2(特許第3256957号公報)には、同じく塗工紙の製造方法として、4ニップのソフトカレンダー処理を行うことが記載されている。
【0007】
一方で、紙の技術に関しては、近年の社会的な環境負荷軽減の面から、古紙を原料とした脱墨パルプ(古紙パルプ)の利用が促進され、また、従来の酸性紙に代わり、保存性に優れる中性紙への移行が進んでいる。中性紙とは、紙の状態でpHが6〜弱アルカリ性のものであり、サイズ剤として中性サイズ剤を使用し、填料は炭酸カルシウムを主体としている。炭酸カルシウムは、従来の酸性紙に用いられていたクレーやタルクに比べて白さが強く、脱墨パルプを配合する特に新聞用紙では、中性抄紙は有効な手段となっている。そして、高い白色度を得るため、また、古紙由来の炭酸カルシウムを有効利用するためなどから、炭酸カルシウムの増量化も進められている。
【0008】
【特許文献1】特許第3064290号公報
【特許文献2】特許第3256957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、海外ではスーパーカレンダー紙が汎用されているが、国内でも最近は、例えばいわゆるフリーペーパーやフリーマガジンと呼ばれる、広告収入を元に対象読者を性別や年齢層に応じて特定した無料の情報誌や各種広告の発行部数が増えており、このような、塗工紙ほど強い光沢や印刷効果は求めないものの、軽量でかつ従来の新聞用紙や印刷用紙などの非塗工紙に比べて印刷品質に優れる用紙に対する要望は、今後ますます高まっていくと予想される。
【0010】
そして、スーパーカレンダー紙においても、環境面から脱墨パルプの利用を増やすことが望まれるが、脱墨パルプを高配合とすると白色度が低くなり、また、パルプ繊維の劣化や損傷によって十分な紙厚が得られず、カレンダー処理を行っても紙が潰れにくいため、通常のスーパーカレンダー処理では所望の白紙光沢度を得ることは困難である。所望の白紙光沢度を得るために、カレンダー線圧を極端に高くすると、繊維が破壊されて表面強度が低下することや、幅方向のプロファイルが取れずに巻き姿が悪くなるなどの問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、脱墨パルプを高配合した非塗工紙で軽量であるにもかかわらず、不透明度、白紙光沢度、平滑性が高く、オフセット印刷またはグラビア印刷の適性に優れた印刷用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の印刷用紙の製造方法は、脱墨パルプを50重量%以上配合し、紡錘凝集型軽質炭酸カルシウムまたは針状凝集型軽質炭酸カルシウムの少なくとも1種を填料として配合した紙料を抄紙し、2ニップ以上のホットソフトニップカレンダーで処理する印刷用紙の製造方法であって、前記ホットソフトニップカレンダーで紙のフェルト面とワイヤー面を処理する前および/または処理している間に、フェルト面またはワイヤー面の少なくとも一方の金属ロール処理面の表面に水分付与手段にて水分を付着させることを特徴とする。
同様に請求項2に係る発明の印刷用紙の製造方法は、前記ホットソフトニップカレンダーで6ニップ以上で処理することを特徴とする。
請求項3に係る発明の印刷用紙の製造方法は、前記水分付着量が片面当たり0.2〜2.5g/mであることを特徴とする。
請求項4に係る発明の印刷用紙の製造方法は、前記填料の配合割合を紙中灰分として10〜35重量%添加することを特徴とする。
請求項5に係る発明の印刷用紙の製造方法は、前記6ニップ以上のホットソフトニップカレンダーで処理する条件が、温度110〜250℃、線圧250〜500kN/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば次の効果が奏される。
(ア)脱墨パルプを高配合して、従来の機械パルプとカオリンを主体としたスーパーカレンダー紙と同等以上の品質を有する印刷用紙を得ることができる。
(イ)オフセット印刷及びグラビア印刷の適性が優れた印刷用紙を得ることができる。
(ウ)脱墨パルプを高配合していながら、白色度が良好な印刷用紙を得ることができる。
(エ)非塗工紙でありながら、白紙光沢度、平滑性に優れる。
(オ)軽量でありながら不透明度が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.印刷用紙(カレンダー処理前)の製造
本発明では、パルプ、填料、および必要に応じて各種薬品類等を添加して紙料を調製し、カレンダー処理前の印刷用紙を製造する。
【0015】
<パルプ>
本発明では、パルプとして、脱墨パルプ(以下「DIP」ということがある)を50重量%以上配合し、好ましくは70%以上配合する。脱墨パルプ以外には、所望の効果を阻害しない範囲で、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グラウンドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミメカニカルパルプ等)を任意の割合で配合して使用することができる。
【0016】
<填料>
本発明者らは、種々の填料の光沢度に及ぼす影響について鋭意研究した結果、紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムあるいは針状凝集型軽質炭酸カルシウムが、光沢性発現に優れることを見出した。紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムや針状軽質炭酸カルシウムを使用した場合は、カオリンや紡錘型、針状、球状、立方体状軽質炭酸カルシウムや重炭酸カルシウムを用いた場合よりも、その特殊な形状によりカレンダー処理前の原紙の嵩が向上し、カレンダー処理の効果が向上するためと考えられる。また、軽質炭酸カルシウムは、生産コストや操業性、および低添加量で高い不透明度が得られる点で優れ、さらに紡錘凝集型または針状凝集型の特殊な形状によりさらに不透明度が向上し好ましい。
【0017】
紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムとは、紡錘形状の軽質炭酸カルシウムの一次粒子が放射状に凝集してロゼッタ型の二次粒子を形成したものであり、製品としてはSpecialty Minerals Inc.社のアルバカーHO、アルバカー5970、アルバカーLO等を挙げることができる。ここで、放射状とは、例えば上記二次粒子の中心近傍から、各一次粒子の長手方向が放射状に伸びたものである。
【0018】
図1は、紡錘凝集型軽質炭酸カルシウム(二次粒子)の形態の一例を示す電子顕微鏡像である。この図において、各一次粒子の基部同士が凝集し、各一次粒子がその先端へ向かって放射状に伸びている。また、各一次粒子は基部の幅(径)がやや大きく、先端に向かって細くなっている。なお、図中のmicronは、μmを示す。紡錘凝集型軽質炭酸カルシウムの粒径は、小さすぎると抄紙機での歩留まりが低下し断紙などの原因になることや不透明度が低下し、一方、大きすぎると平滑性が低下することから、粒径が1.0〜4.0μmのものが望ましい。この粒径は、セディグラフ(マイクロメリテックス社製)で測定した値である。
【0019】
また、針状凝集型軽質炭酸カルシウムは、例えば特開2000−264628号公報、特開2002−284522号公報等に記載の方法により製造することができ、針状のものが凝集していわゆるイガグリ状の形状を形成しているものである。
【0020】
図2は、針状凝集型軽質炭酸カルシウム(二次粒子)の形態の一例を示す電子顕微鏡像である。針状凝集型軽質炭酸カルシウム粒径は、一次粒子の短径が0.1〜0.5μm程度であることが好ましい。この範囲は可視光領域の1/2であって光学的性能が高く、紙の不透明度や白色度をより向上させることができる。
【0021】
填料の配合割合は、少なすぎると光沢発現性が低下し、多すぎると用紙の強度が低下することから、全パルプ重量に対して15〜45重量%添加することが好ましく、より好ましくは20〜40重量%である。なお、本発明の印刷用紙において、紙中灰分は高いほどカレンダー処理の効果が出やすく、平滑度が高くなるため白紙光沢度が向上し、またスペックル数も低減され望ましい。
【0022】
本発明において紙中灰分は、10〜35重量%程度が好適であり、より好ましくは15〜28重量%である。紙中灰分に対する紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムまたは針状凝集型軽質炭酸カルシウムの割合は50重量%以上が好ましく、より好ましくは70重量%以上であり、更に好ましくは90重量%以上である。通常、紙中灰分は新たに添加される填料の他、脱墨パルプ等のパルプによって持ち込まれるものもある。脱墨パルプに由来する灰成分の中では、炭酸カルシウムの割合が多くを占める場合が多いが、脱墨パルプには炭酸カルシウム以外の灰成分も多く含まれており、その割合は脱墨パルプの原料となった新聞古紙、雑誌古紙等の古紙種類や回収状況等によって異なるが、所望の効果を損なわない範囲で適宜配合されるものである。
【0023】
また、灰成分はトナーや異物を含有し、紙面ダートや紙面欠陥の原因となる場合もある。そのため、脱墨パルプの灰分を填料として利用することも行うが、脱墨パルプ中の灰成分を洗浄工程である程度洗い出し、新たにフレッシュな填料として、上記の紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムまたは針状凝集型軽質炭酸カルシウムを添加する。
【0024】
また、本発明においては、紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムや針状凝集型軽質炭酸カルシウム以外に、所望の効果を阻害しない範囲で、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、重炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂填料等の公知の填料を併用することができる。また、紡錘凝集(ロゼッタ)型軽質炭酸カルシウムと針状凝集型軽質炭酸カルシウムとを併用してもよい。
【0025】
<添加剤等>
その他必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色剤、染料、嵩高剤、消泡剤等を含有してもよい。
【0026】
<抄紙方法>
本発明の印刷用紙は、紙面pHが6〜弱アルカリである中性紙とすることが好ましく、中性抄紙法では、内添中性サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤等を使用できる。従来のスーパーカレンダー紙は、填料として主にカオリンを用い酸性抄紙法により製造されているが、酸性紙は保存性に劣るなどの問題がある。また、本発明では中性抄紙することにより、DIPを増配することができる。集荷された古紙は通常、アルカリ性の薬品のもとで処理されDIPが製造されるため、酸性抄紙の条件下ではDIPに含まれる炭酸カルシウムのカルシウムイオンが硫酸バンドと反応し石膏(硫酸カルシウム)となって析出する問題があり、酸性抄紙でDIPを多量に使用することは難しい。また、中性抄紙によれば、古紙パルプ由来の炭酸カルシウムを有効利用し省資源化を図ることができる、紙の保存性に優れるなどの利点がある。
【0027】
<抄紙機>
本発明に使用される抄紙機の型式は特に限定はなく、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機等を適宜使用できるが、この中で、オントップ型やギャップフォーマ型のツインワイヤー抄紙機が望ましく、特に両面から脱水するギャップフォーマー型抄紙機が望ましい。ギャップフォーマー型で抄造することで、填料が紙の表層に分布し、印刷時にインキが表層の填料に保持され紙内部への浸透が抑えられるので、印刷光沢度が高くなる。長網型抄紙機の場合には、填料の表裏差が出るために、白紙光沢度や印刷光沢度の表裏差が発生しやすい。また、オントップ型抄紙機の場合には、長網抄紙機に比べて、白紙光沢度や印刷光沢度の表裏差は抑えられるが、ギャップフォーマー型ほど填料が紙表層に分布しないので、ギャップフォーマー型抄紙機で製造された印刷用紙と同レベルの印刷光沢度が得られにくい。また、抄紙の速度は特に制限されず、通常500m/分以上であり、本発明では1500m/分以上の高速でも製造することができる。
<表面処理>
本発明においては、オフセット印刷適性を付与するために、水溶性高分子物質を主成分とする表面処理剤をカレンダー処理前に原紙に塗布してもよい。水溶性高分子物質としては、澱粉類および/またはポリアクリルアミド類が好ましく使用される。澱粉類は表面強度の向上に効果的であり、具体的には酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉、エーテル化澱粉、リン酸変性澱粉、カチオン化澱粉等の変性澱粉が挙げられる。また、ポリアクリルアミド類はネッパリ性が低く好ましい。
【0028】
表面処理剤には、必要に応じて消泡剤、増粘剤、あるいは防腐剤等の助剤を適宜添加することもできる。なお、表面処理剤を原紙へ塗布する際の固形分濃度としては、3〜20重量%程度で調節される。また、塗布量としては片面当たり固形分重量で0.05〜1g/m、好ましくは0.1〜0.5g/m程度で調節される。0.05g/m未満では十分な表面強度が得られない場合があり、一方、1g/mを越えると表面強度は問題ないが、表面が硬くなるためにグラビア印刷でのスペックル数が多くなりやすい。両面当たりでは、0.1〜2g/m、好ましくは0.2〜1g/mである。
【0029】
表面処理剤を原紙へ塗布するための塗工装置としては、特に限定されるものではなく、例えばサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、エアーナイフコーター等、一般に公知公用の装置が適宜使用される。
【0030】
2.印刷用紙の製造(カレンダー処理)
本発明では、上記のようにして抄紙された紙に対し、2ニップ以上のホットソフトニップカレンダーで処理して仕上げを行い、6ニップ以上で処理して仕上げを行うことが好ましい。
【0031】
<ホットソフトニップカレンダー>
ホットソフトニップカレンダーは、HSNPまたはホットソフトカレンダーとも呼ばれ、前述したように、従来、スーパーカレンダーに使用されるコットンロールは内部発熱の問題で耐熱性に劣り、耐圧・耐久性も劣るため高速化に限界があったのに対し、耐熱性、耐圧性に優れるプラスチックの弾性ロールを使用することにより、1000m/分を超える高速での操業も可能となり、紙がオンライン(抄紙された後そのまま)でカレンダーパートに進むことから、生産性も向上する。また、高温で処理することにより、紙表層部のみを可塑化した状態で金属ロールの表面を紙表面に転写させるため、スーパーカレンダーと比較すると、同一の厚さまで紙を潰した場合、優れた表面性、印刷適性が得られる。
【0032】
弾性ロールの材質としては、耐熱性に優れる変性ウレタン系、エポキシ系、ポリエーテル系等のプラスチックからなるものが好ましい。
本発明において、ホットソフトニップカレンダーの型式はタンデムタイプが好適である。タンデムタイプとは、一対の金属ロールと弾性ロールとを重ねた2ロールからなるセットを、横に並列に設置したタイプである。タンデムタイプは、金属ロールと弾性ロールとを交互に縦に重ねていき、原紙をロールに沿って折り曲げながら通紙するタイプに比べて、通紙の容易さや省スペース等の面からも好ましい。タンデムタイプは、ストレートスタックなどとも呼ばれる。
【0033】
通常のカレンダー処理では、紙に脱墨パルプを50%重量以上配合した場合、機械パルプを主体にした紙よりも紙厚が低くなり、通常のカレンダー処理では光沢度向上効果が発現しにくい。仮に、白紙光沢度45%以上を実現しようとすれば、従来のスーパーカレンダー処理では20段以上のニップが必要であり、10段を想定すると線圧800kN/m程度で処理しなければならず、パルプ繊維の損傷が激しくなって紙の表面強度も低下し、現実的ではない。これに対し、本発明では、上記の製造方法により、脱墨パルプを高配合した場合でも、従来の多段のスーパーカレンダーでは得られない領域の光沢性を得ることができる。
【0034】
<処理条件>
本発明における処理温度は、110℃未満では光沢発現性が不十分であり、250℃を超えるとロールの耐久性に問題があるため、温度110〜250℃で処理することが好適である。線圧は、250kN/m未満では光沢発現性が不十分であり、500kN/mを超えるとロールの耐久性に問題があるため、線圧250kN/m以上500kN/m以下、より望ましくは300kN/m以上で処理することが好適である。また、ニップ数は2ニップ以上が必要であり、好ましくは6ニップ以上であり、上限は特に限定されるものではないが8〜10ニップ程度である。2ニップより少ないと、光沢発現性が不十分である。
【0035】
3.水分付与手段
本発明では、上記のように2ニップ以上、好ましくは6ニップ以上のホットソフトニップカレンダー処理を行う過程で、例えば、スプレー式の加湿装置のような水分付与手段によって金属ロール処理面の紙表面に水分を付与することにより、白紙光沢度をより向上させることができる。
【0036】
<装置>
水分付与手段は特に制限されず、モイスチャライザー(Metso社製)、モジュールプロ(Voith社製)、カレンダイザー(ハネウェル社製)等が挙げられるが、中でもモイスチャライザー、モジュールプロといったスプレー式の加湿装置が好ましい。
【0037】
<時期>
前記水分付与手段を用いて水分を付着させる時期および回数は特に限定されず適宜行えばよいが、紙のフェルト面(F面)とワイヤー面(W面)について、それぞれがカレンダー処理される前の金属ロール処理面の表面に水分を付与することが望ましい。例えば、金属ロール処理面が、F面(ア)−F面(イ)−F面(ウ)−W面(エ)−W面(オ)−W面(カ)の順で6ニップ処理される場合は、F面(ア)に対してF面(ア)の直前、即ち処理する前、およびW面(エ)に対してF面(ウ)とW面(エ)との間、即ち処理している間で水分付与することが挙げられる。また、例えば、F面(サ)−W面(シ)−W面(ス)−F面(セ)−F面(ソ)−W面(タ)の順で6ニップ処理される場合は、F面(サ)に対してF面(サ)の直前、即ち処理する前、およびW面(シ)に対してF面(サ)とW面(シ)との間、即ち処理している間で水分付与することが挙げられる。
【0038】
なお、本発明における水分を付着させる時期は、上記の例に制限されるものではなく、後者の例の場合は、F面(サ)の直前、即ち処理する前、およびW面(シ)とW面(ス)との間、即ち処理している間で水分を付着させることも差し支えない。また、回数についても、F面およびW面のそれぞれについて、2回以上行うことも差し支えない。そこで、ホットソフトニップカレンダーで紙のF面とW面を処理する前および/または処理している間の時期に、前記水分付与手段を用いて水分を付着させればよい。
上記のように、紙のF面とW面の何れかが金属ロールに接しホットソフトニップカレンダー処理される前が望ましいが、処理している間でもよいし、その処理する回数は2回以上でもよいので、従って、「ホットソフトニップカレンダーで紙のフェルト面とワイヤー面を処理する前および/または処理している間」とは、上記した具体的な水分を付着させる全ての時期を含む意味で用いている。
【0039】
<水分付着量>
紙表面の水分付着量は0.2〜2.5g/mであり、好ましくは0.5〜2.5g/mである。水分付着量はオンライン水分計によって測定することができる。
一般に、印刷用紙の水分は5〜8%程度であるのに対し、本発明では水分を多目に含む状態でカレンダー処理されることが好ましく、可塑性が出て形状が平らになりやすいため、カレンダーの掛かりが良くなって光沢性が向上すると考えられる。紙全体の水分としては7%以上で11%以下程度であることが望ましいが、本発明ではカレンダー処理に入る前に紙表面の水分を可能な限り高くすることができるため、カレンダー処理の効果が高まり白紙光沢度がいっそう向上すると考えられる。
【0040】
4.紙質、品質他
本発明の印刷用紙において、坪量、紙厚、密度等の各紙質は特に限定されるものではないが、坪量は40〜80g/m、紙厚は45〜90μm、密度は0.85〜1.20g/cm程度が適当である。白紙光沢度は30%以上、好ましくは35%以上で50%以下である。また、本発明の印刷用紙は、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式など各種の印刷方式に使用することができる。
また、本発明では平滑性を表面粗さ(PPSラフネス:パーカー・プリント・サーフ・ラフネス)で表す。表面粗さは、王研式平滑度やベック平滑度等の表面にエアーを吹き付け何秒で通り過ぎるかを測定する方法に比べて、凸部は矯正されたものの窪みが残っているような場合も見逃すことがない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中、部および%は、特に断らない限りそれぞれ重量部および重量%を示す。
<内添填料>
PCC−A:紡錘凝集型軽質炭酸カルシウム(粒子径1.72μm、比表面積11m/g、吸油量121ml/100g)
PCC−B:針状凝集型軽質炭酸カルシウム(製品名ベルカーブ(Velacarb)、Specialty Minerals Inc.製)
【0042】
<印刷用紙の製造>
[実施例1]
DIP70部、KP15部、TMP15部の割合で混合離解し、所定フリーネスに調製したパルプスラリーに、硫酸バンドを1.5%添加し、填料としてPCC−Aを対絶乾パルプ25%添加し、歩留り向上剤を100ppm(製品名R-300、ソマール社製)添加し、ギャップフォーマー型のベルベフォーマー抄紙機にて1500m/分の速度で中性抄紙し、ゲートロールコーターにてヒドロキシエチル化澱粉(製品名ETHYLEX2025、Staley社製)を両面当たり0.7g/mになるように塗布乾燥した。この時の用紙水分は、7.9%であった。
【0043】
次いで、ホットソフトニップカレンダー(淀鋼KURSTER製、弾性ロール径990mm、金属ロール(チルドロール)径1350mm)を用いて、通紙速度1500m/分、金属ロール表面温度150℃、線圧400kN/mで6ニップのホットソフトニップカレンダー処理を行い、印刷用紙を得た。このとき、カレンダー処理は金属ロールに接する面がF面−W面−W面−F面−W面−F面の順で行い、スプレー式加湿装置(モイスチャライザー、Metso社製)にて、最初のF面がカレンダー処理される前に、水分付着量が1.3g/mになるように水分付与を行った。なお、水分付着量を紙中水分に換算するとその2.5%である。
【0044】
[実施例2]
水分付着量が0.44g/mになるように水分付与を行った以外は、実施例1と同様にして印刷用紙を得た。なお、水分付着量を紙中水分に換算するとその0.8%である。
[実施例3]
填料としてPCC−Aに代えてPCC−Bを用い、水分付着量が0.44g/mになるように水分付与を行った以外は、実施例1と同様にして印刷用紙を得た。なお、水分付着量を紙中水分に換算するとその0.8%である。
[実施例4]
DIP50部、TMP35部、KP15部の割合で混合離解し、水分付着量が1.3g/mになるように水分付与を行った以外は、実施例1と同様にして印刷用紙を得た。なお、水分付着量を紙中水分に換算するとその2.5%である。
【0045】
[比較例1]
水分付与を行わない以外は、実施例1と同様にして印刷用紙を得た。
【0046】
[参考例]
TMP75部、KP25部の割合で混合離解し、所定フリーネスに調製したパルプスラリーに、硫酸バンドを3.0%添加し、カオリンを対絶乾パルプ30重量%添加し、歩留り向上剤を100ppm(製品名R-300、ソマール社製)添加し、ギャップフォーマー型のベルベフォーマー抄紙機にて1500m/分の速度で酸性抄紙して、酸性紙を得た。
次いで、弾性ロール径990mm、金属ロール(チルドロール)径1350mmのホットソフトニップカレンダー(淀鋼KURSTER製)を用いて、通紙速度1500m/分、金属ロール表面温度150℃、線圧400kN/mで6ニップのホットソフトニップカレンダー処理を行い、印刷用紙を得た。
【0047】
以上の実施例比較例で得られた印刷用紙について、下記の測定や評価を行った結果を表1、2に示す。
(ア)水分:オンラインBM計にて測定した。
(イ)坪量:JIS P 8124に準じて測定した。
(ウ)紙厚:JIS P 8118に準じて測定した。
(エ)密度:JIS P 8118に準じて坪量と紙厚から求めた。
(オ)灰分:JIS P 8251(対応ISO 1762)に準じて測定し、灰化は525℃、2時間で行った。
(カ)白色度:JIS 8124に準じて測定した。
(キ)不透明度:JIS P 8149に準じて測定した。
(ク)白紙光沢度:JIS P 8142に準じてF面の白紙光沢度を測定した。
(ケ)表面粗さ(PPSラフネス):JIS P 8151に準じて測定した。
(コ)表面強度(10枚ピック):ローランド枚葉印刷機R302を用い、インキとして東洋インキ製レオエコーSOYL藍(オフ輪用低タックインキ)を用い、800sphの速度で藍ベタを印刷し、10枚印刷する間に発生したピッキングの個数を測定した。
(サ)スペックル数(個/10cm):印刷局型2色刷グラビア印刷試験機(熊谷理機工業製)を使用し、インキとして東洋インキ製OGCTプロセス(藍)(トルエン系、インキ粘度:ザーンカップ10秒、トルエン:インキ=1:6)、印刷速度40m/分、印圧10kgの条件でグラビア印刷を行い、スペックルを15%ハーフトーン部(30mm×34.5mm)の白点(ミッシングドット)数として、目視により測定した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1および表2に示すデータから、以下のことがいえる。
(1)本発明の実施例1〜4と比較例1の比較から、本発明により得られた印刷用紙は、白紙光沢度、平滑性が優れていることが分かる。
(2)本発明の実施例1〜4と参考例の比較から、前記印刷用紙は、脱墨パルプを高配合しかつ軽量でありながら、脱墨パルプを配合せず機械パルプとカオリンを主体とした従来のスーパーカレンダー紙(参考例)と同等あるいはそれ以上に、不透明度、白紙光沢度などの白紙物性に優れ、印刷品質が良好な印刷用紙が得られていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】紡錘凝集型軽質炭酸カルシウムの二次粒子形状の電子顕微鏡像の一例を示す図である。
【図2】針状凝集型軽質炭酸カルシウムの二次粒子形状の電子顕微鏡像の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱墨パルプを50重量%以上配合し、紡錘凝集型軽質炭酸カルシウムまたは針状凝集型軽質炭酸カルシウムの少なくとも1種を填料として配合した紙料を抄紙し、2ニップ以上のホットソフトニップカレンダーで処理する印刷用紙の製造方法であって、前記ホットソフトニップカレンダーで紙のフェルト面とワイヤー面を処理する前および/または処理している間に、フェルト面またはワイヤー面の少なくとも一方の金属ロール処理面の表面に水分付与手段にて水分を付着させることを特徴とする印刷用紙の製造方法。
【請求項2】
前記ホットソフトニップカレンダーが6ニップ以上で処理することを特徴とする請求項1に記載の印刷用紙の製造方法。
【請求項3】
前記水分付着量が片面当たり0.2〜2.5g/mであることを特徴とする請求項1または2記載の印刷用紙の製造方法。
【請求項4】
前記填料の配合割合は紙中灰分として10〜35重量%添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷用紙の製造方法。
【請求項5】
前記のホットソフトニップカレンダーで処理する条件が、温度110〜250℃、線圧250〜500kN/mであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印刷用紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−274518(P2008−274518A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58980(P2008−58980)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】