説明

印刷用顔料塗被紙及び印刷用顔料塗被紙の製造方法

【課題】オフセット印刷適性に優れ、且つ水性顔料インクを用いた高速インクジェットプリンターによる印刷適性も備えたハイブリッド印刷に適したグロス系印刷用顔料塗被紙を提供する。
【解決手段】基紙上の少なくとも1面に、少なくとも1層の顔料塗被層を設けた印刷用顔料塗被紙において、前記顔料塗被層の最表層は、顔料と、顔料100質量部に対して4〜30質量部含有スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスと、1〜30質量部のスチレンアクリル共重合体ラテックスを含有する乾燥された塗被層に、水溶性多価金属塩の水溶液を塗布し、乾燥された層であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用顔料塗被紙に関するものである。詳しくは、オフセット印刷適性に優れ、且つ水性顔料インクを用いた高速インクジェットプリンターによる印刷適性も備えたハイブリッド印刷に適したグロス系印刷用顔料塗被紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、高速かつ大量印刷が可能であることから、印刷物製造方法の主流となっている。一方、近年インクジェット記録技術の発展に伴い、固定データをフルカラーオフセット印刷方式でプレプリントした印刷物に、クーポン券、ラッキーナンバー、バーコード、QRコードなどの可変データをモノクロインクジェットプリンターで追い刷りする、いわゆるハイブリッド印刷が行われる場合も増えている。
その一例として、パッケージ分野においても、たとえば食品用箱などで、キャンペーン期間中に塗工板紙(所謂コートボール)に固定データをオフセット印刷したのちにシリアルナンバーやQRコードを追い刷り、製函を行う場合もある。
【0003】
また、物流分野においては、メール便が安価な配送料金を背景に大きく成長している。通常メール便は、封筒表面に宛名やバーコードを印字し、出荷、荷受確認は、バーコード読み取りにより行っている。非塗工紙を用いた封筒では、インクジェットでダイレクト記録できるが、より高品位なオフセット印刷画像を得るためには、顔料塗被紙を用いた封筒を使用することになる。この場合は、オフセット印刷画像を印刷した封筒に、宛名やバーコード等の必要データを印刷したラベルを封筒表面に貼付する方法が採用されている。このことは、ラベル自身はもとより、粘着剤面を保護する剥離紙が必要であり、貼付作業も発生する。顔料塗被紙をベースとする封筒上に直接インクジェット記録ができれば、コスト面、省資源、省エネルギーの観点、作業時間面からも有利となる。
【0004】
これらの用途では、天候により高温高湿環境に曝されたり、降雨等水分と接触する場合が考えられるため、水性染料インクによる記録では信頼性に欠ける場合が考えられるため、顔料インクの使用が望まれている。
また、これらの用途では製函工程や郵便局等の自動仕分け装置を通過する場合に、部材と接触し、インクジェット印字部分が擦られるため、耐擦過性の改善が望まれている。
【0005】
オフセット印刷で使用されている印刷用顔料塗被紙としては、通常、特開平7−189179号公報(特許文献1)記載のようなものが挙げられる。前記塗工紙は、通常各種コーターを用いて、顔料、バインダー等を含む塗被層用塗被液を基紙の片面あたり10g/m以上塗布し、その後、カレンダ処理して表面を平滑化して製造されている。これら一般的な塗工紙は印刷加工適性を主眼においているため、オフセット印刷におけるピッキングやブリスターなどが発生しない顔料塗被層強度は有しているが、インクジェットインク吸収性は乏しいものであった。
【0006】
オフセット印刷、インクジェット印刷の両方式に適する印刷用紙としては、基紙上にシリカを主体とした顔料を含む層を設ける方法(特開2002−127587号公報、特許文献2)が提案されている。顔料塗被層にシリカを用いることによって、インクジェットインクの吸収性は向上するものの、オフセット印刷時にピッキングを起こさないために、バインダー成分を多用する必要があるため、顔料塗被紙表面の光沢は低下して、グロス系印刷用紙の質感は得られず、また、シリカを用いることにより、製造コストも上昇し、一般のグロス系印刷用紙のコストを大きく上回ってしまうため、市場には受け入れられていない。
【0007】
また、基紙に予め特定の構造のカチオン樹脂を塗被し、さらに軽質炭酸カルシウムを主体とする顔料塗被層を設け、その表面のブリストー法(J.TAPPI No.51−87)による特定の吸収時間でのインク転移量を規定した印刷用塗工紙(特開2004−84141号公報、特許文献3)が提案されている。しかしながらこの方法でも顔料塗被紙表面は高光沢度が得られず、グロス系印刷用紙の質感は得られない。
【0008】
また、基紙上に、少なくとも2層の塗被層を設け、基紙隣接層には特定の形状の顔料を含有させ、表面層には特定のガラス転移温度を有する熱可塑性有機微粒子を含有させることにより、表面にクラックを発生させて塗被層の透気性を高めることにより、オフセット印刷、電子写真記録時のブリスターを防止し、またインクジェット用紙としての使用(特開2005−36379号公報、特許文献4)も提案されている。しかしながら、オフセット印刷用インキの粘度や電子写真用トナーの熱溶融粘度に比べて、インクジェットインクの粘度ははるかに低いため、用紙表面にクラックが多数存在すると、そのクラックに沿ってインクがにじむ、所謂フェザリング現象が発生し、満足な印刷画質が得られない。
さらに、顔料塗被層表面の王研式平滑度、基紙のステキヒトサイズ度、顔料塗被紙の密度等を特定の範囲に規定した感圧接着シート用塗工紙(特開2009−228171号公報、特許文献5)が提案されている。しかしながら、この場合も水性染料インクでは満足なモノクロインクジェットによる印刷適性が得られるものの、水性顔料インクの定着性(耐擦過性)には乏しい。従って、オフセット印刷可能な表面強度と水性顔料インクジェットによる印刷適性を備え、かつ表面光沢度が高い印刷用顔料塗被紙は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−189179号公報(第1項)
【特許文献2】特開2002−127587号公報(第1項)
【特許文献3】特開2004−84141号公報(第6項)
【特許文献4】特開2005−36379号公報(第1項)
【特許文献5】特開2009−228171号公報(第1項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、オフセット印刷適性に優れ、且つ水性顔料インクを用いた高速インクジェットプリンターによる印刷適性も備えたハイブリッド印刷に適したグロス系印刷用顔料塗被紙を提供するものであり、特に顔料インクの印刷物の耐擦過性を大幅に優れたグロス系印刷用顔料塗被紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、顔料塗被層の最表層のバインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスとスチレンアクリル共重合体ラテックスを用い、更に水溶性多価金属塩の水溶液で処理した層を形成することにより解決できることを見出したのである。本発明は、以下のとおりである。
【0012】
(1)基紙上の少なくとも1面に、少なくとも1層の顔料塗被層を設けた印刷用顔料塗被紙において、前記顔料塗被層の最表層は、顔料と、顔料100質量部に対して4〜30質量部含有スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスと、1〜30質量部のスチレンアクリル共重合体ラテックスを含有する乾燥された塗被層に、水溶性多価金属塩の水溶液を塗布し、乾燥された層であることを特徴とする印刷用顔料塗被紙である。
(2)最表層の顔料が、平均粒子径(短径)が0.8μm以下の軽質炭酸カルシウムを主成分とする(1)記載の印刷用顔料塗被紙である。
(3)顔料塗被層が、基紙と最表層の間に、軽質炭酸カルシウムを主成分として含有する内側塗被層を有する(1)又は(2)記載の印刷用顔料塗被紙である。
(4)水溶性多価金属塩がギ酸カルシウムであるである(1)〜(3)のいずれか一に記載の印刷用顔料塗被紙である。
(5)前記最表層中に、中空プラスチックピグメントを顔料100質量部に対して3〜15質量部含有する(1)〜(4)のいずれか一に記載の印刷用顔料塗被紙である。
(6)基紙上の少なくとも1面に、少なくとも1層の顔料塗被層を有する印刷用顔料塗被紙の製造方法において、前記顔料塗被層の最表層が、顔料100質量部中、平均粒子径(短径)が0.8μm以下の軽質炭酸カルシウムを50質量部以上含有し、且つバインダーとしてラテックスバインダーとカゼインを含有する塗液を塗布乾燥した後、水溶性多価金属塩の水溶液を塗布、乾燥することを特徴とする印刷用顔料塗被紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、オフセット印刷適性に優れ、且つ水性顔料インクを用いた高速インクジェットプリンターによる印刷適性、特に顔料インクの耐擦過性も備えたハイブリッド印刷に適したグロス系印刷用顔料塗被紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。本発明の印刷用顔料塗被紙は、基紙上の少なくとも1面に、少なくとも1層の顔料塗被層を設けた印刷用顔料塗被紙において、前記顔料塗被層の最表層は、顔料と、顔料100質量部に対して4〜30質量部のスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスと、1〜30質量部のスチレンアクリル共重合体ラテックスを含有する乾燥された塗被層に、水溶性多価金属塩の水溶液を塗布し、乾燥された層であることを特徴とする。
【0015】
顔料塗被層は、その最表層が水溶性多価金属塩の水溶液を塗布処理されておればよく、一層であっても、複数層あっても良い。複数層で形成すると、それぞれの層の顔料の種類やバインダー比率等を変更できるので好ましいが、製造コストが高くなるので、2層乃至3層の顔料塗被層にとどめることが好ましい。
【0016】
最表層で使用する顔料としては、特に限定するものではなく、印刷用顔料塗被紙で使用される公知の材料が例示できる。例えば、例えば、カオリン、重質炭酸カルシウム、凝集炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、微粒子シリカ、コロイダルシリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、微粒子状珪酸カルシウム、微粒子状炭酸マグネシウム、ホワイトカーボン、サチンホワイト、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物材料からなる顔料や、ポリスチレン樹脂、スチレン・アクリル共重合樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、並びにこれらの微小中空粒子や貫通孔型の有機材料からなる有機顔料等が挙げられる。これらは、適宜併用して使用することもできる。
これらの中でも、炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン、微小中空粒子や貫通孔型の有機材料からなる有機顔料(以下、中空プラスチックピグメントともいう)を使用することが好ましい。
【0017】
本発明では、最表層の顔料は軽質炭酸カルシウムを主成分とすること好ましい。軽質炭酸カルシウムは、オフセット印刷による印刷適性が優れるだけでなく、水性顔料インクの定着性も優れるため特に好ましい顔料である。軽質炭酸カルシウムの形状としては、例えば柱状、紡錘状のものが好ましい。また、平均粒子径(短径)が0.8μm以下のものが高い白紙光沢が得られやすく、オフセット印刷後のインキグロスも得られやすい。また高いインクジェット印刷濃度も得られやすいため好ましい。ここでいう主成分とは、顔料100質量部中の軽質炭酸カルシウムを50質量部以上含有することであり、70質量部以上含有することが好ましく、80質量部以上含有することがより好ましい。なお、平均粒子径(短径)は、使用する製品のカタログに記載された値を採用するが、記載がない場合は、SEM写真(倍率×10,000)よりデジマチックノギスで測定した値を採用するとよい。
【0018】
カオリンは、オフセット印刷適性は優れるが、水性顔料インクの定着を阻害する虞があるため、炭酸カルシウムやシリカなど、水性顔料インクの定着性に優れる顔料と併用することが好ましい。例えば軽質炭酸カルシウムと併用するような場合、顔料100質量部に対して30部以下での使用が好ましい。
二酸化チタンは、白色度の高い顔料塗被層が形成できるが、単独での使用はオフセット印刷適性と水性顔料インク適性の両立することが困難であるため、炭酸カルシウムやカオリンなどと併用して使用することが好ましい。
中空プラスチックピグメントは、光沢性を向上させる効果を奏するものの、過剰に配合すると、表面強度が低下し、オフセット印刷適性を損なう虞があるため、炭酸カルシウムやカオリン等と併用することが好ましい。例えば、軽質炭酸カルシウムと併用するような場合、顔料100質量部中、3〜15質量部の範囲で用いることが好ましい。3質量部以上使用すると、光沢向上効果が発現し、15質量部以下の配合にとどめることにより、表面強度の低下を防ぎ、オフセット印刷適性を両立する。
【0019】
最表層中は、バインダーとして、顔料100質量部に対して4〜30質量部のスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスと、1〜30質量部のスチレンアクリル共重合体ラテックスを併用する。スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスが、4質量部未満の場合、十分な表面強度が得られず、オフセット印刷に支障を来たす虞があり、また30質量部を超える場合は、インクジェットインク溶媒通過性が低下することはもとより、光沢発現性も低下してしまう虞がある。好ましくは8〜20質量部の範囲である。バインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを用いると、オフセット印刷適性及び水性顔料インクの定着性が優れた顔料塗被層が得られる。
【0020】
本発明は、更に、スチレンアクリル共重合体ラテックスを併用することにより、インクジェット印刷直後の耐擦過性を改善するものである。スチレンアクリル共重合体ラテックスの添加量としては、最表層顔料100質量部に対して1〜30質量部が好ましい。より好ましくは3〜20質量部である。添加量が1質量部未満の場合は顕著な添加効果が得られず、また、添加量が30質量部を超える場合はインクジェットインクの溶媒通過性が低下する。スチレンアクリル共重合体ラテックスを用いることにより、インクジェット印刷直後の耐擦過性が改善される理由は定かではないが、おそらく、水性顔料インク中に配合されている成分との相性がよいためではないかと考えられる。
【0021】
最表層中には、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、スチレンアクリル共重合体ラテックス以外のバインダーを併用することも可能である。
併用されるバインダーとしては、例えばデンプン類、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、アラビアガム、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合体塩、スチレン・無水マレイン酸共重合体塩、エチレン・アクリル酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩、尿素樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、ポリウレタン系ラテックス、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチルビニルエーテル等のビニル系重合体や共重合体類、メチルメタクリレート・ブタジエン樹脂系等の合成ゴムラテックス、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、オレフィン・無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0022】
中でも、カゼインは、光沢発現性の低下が小さく、水溶性多価金属塩との反応により、特に湿潤時の表面強度が向上するので好ましい。カゼインの添加量としては、最表層顔料100質量部に対して1〜10質量部程度が好ましい。1質量部以上とすることにより顕著な添加効果を得、10質量部以下とすることによりインクジェットインクの溶媒通過性の低下を防ぐことができる。
【0023】
顔料塗被層を複数層設ける場合、最表層と基紙との間に設ける内側塗被層としては、顔料やバインダーを特に限定するものではない。顔料としては、上記最表層で例示した顔料が適宜使用することができるが、上記最表層で使用する、特定の平均粒子径のものが好ましく使用することができる。特に、内側塗被層は、顔料100質量部に対し、前記軽質炭酸カルシウムを50質量部以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量部以上、最も好ましくは70質量部以上用いるとよい。因みに、軽質炭酸カルシウムの含有量が、50質量部未満の場合、十分なインクジェットインクの溶媒吸収性が得られない虞がある。
【0024】
顔料としては、上記最表層で例示したバインダーが適宜使用することができるが、ラテックスバインダーの使用が好ましい。ラテックスバインダーは、顔料100質量部に対して、8〜15質量部程度含有させることが好ましい。特に、ラテックスバインダーが、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスの場合、含有量が8質量部以上とすることにより、十分な表面強度を得、オフセット印刷適性に支障を来たすことを防ぎ、また15質量部以下とすることによりは、インクジェットインクの溶媒吸収性の低下することを防ぐことができる。またスチレン・ブタジエン共重合体以外のバインダーも併用することができ、具体例としては、最表層で用いられるものから適宜選択可能である。
【0025】
また各塗被層中には、各種助剤、例えば界面活性剤、pH調節剤、粘度調節剤、柔軟剤、光沢付与剤、ワックス類、分散剤、流動変性剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、耐水化剤、可塑剤、滑剤、防腐剤及び香料等の少なくとも1種が必要に応じて適宜含まれていてもよい。
【0026】
本発明の最表層の塗工量は、6〜30g/mが好ましい。塗工量が6g/mより少ない場合は、十分な被覆ができないため、光沢度を適正化できない虞がある。また30g/mより多い場合では、塗工時の乾燥性が悪くなるなど、操業性が低下し、製造原価も高くなり、また、パッケージ分野や物流分野で箱や封筒などに加工する場合、折り曲げ部分や折り畳み部分で最表層の欠落を生じる虞もある。より好ましい塗工量は6〜18g/m、特に好ましい塗工量は6〜12g/mである。
【0027】
本発明の前記内側塗被層の塗工量は、3〜30g/mが好ましい。特に、基紙と接する内側塗被層の場合、塗工量が3g/m未満では基紙の凹凸を埋めることが困難で、光沢発現性も低下する虞がある。30g/mより多い場合では、塗工の際の乾燥性が悪くなるなど、操業性が低下し、製造原価も高くなり、また、パッケージ分野や物流分野で箱や封筒などに加工する場合、折り曲げ部分や折り畳み部分で内側塗被層の欠落を生じる虞もある。より好ましい塗工量は3〜15g/m、特に好ましい塗工量は6〜12g/mである。なお、内側塗被層を有する場合、最表層の塗工量を減らすこともでき、3〜27g/m程度、好ましくは3〜20g/m、より好ましくは4〜15g/mである。
【0028】
各塗被層を形成する塗工方法としては、一般に従来の塗工装置、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、ツーロール、並びにメータリングブレード式のサイズプレスコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター等の塗工装置を適宜に用いることができる。なかでも、高濃度塗被液を高速塗工できるブレードコーターは、塗被層のバインダー樹脂の基紙へのしみこみが小さく抑えられるため、前記バインダー樹脂の使用量で、インクジェットインク吸収性と表面強度の両立した層が得られ易く、また優れた表面性が得られるため高光沢性が得られやすいため、好ましく用いられる。
【0029】
本発明では前記最表層の上に多価金属塩水溶液を塗布することにより、良好なオフセット印刷適性と水性顔料インクジェットインクの溶媒通過性を得るものである。
かかる多価金属塩の具体例としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、マレイン酸、グリコール酸、リンゴ酸、アクリル酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等のカルシウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウムの各塩等が挙げられる。
なかでもギ酸カルシウムは、優れたオフセット印刷適性と水性顔料インクジェットインク溶媒通過性を付与するため好ましく用いられる。
【0030】
多価金属塩の塗布量としては特に限定するものではないが、例えば0.001〜2g/m程度、よりこのましくは0.02〜0.5g/mである。顕著な塗布効果を得るためには0.001g/m以上の塗工が必要であり、2g/m以下とすることにより顔料インク定着性が低下することを防ぐことが出来る。
多価金属塩の塗工方法としては、上記塗被層と同様の塗工装置が用いられる。さらには、キャストコーターのリウェット湿潤液としても使用でき、また平滑化処理工程において、キャレンダーを用いたニップ塗工も可能である。
【0031】
上記顔料塗被層を有する顔料塗被紙は、オフセット印刷適性に優れ、且つ水性顔料インクを用いた高速インクジェットプリンターによる印刷適性も優れるものである。また、パッケージ分野の製函工程や、物流分野の郵便局等の自動仕分け装置を通過する場合等に必要なインクジェット印字部分の耐擦過性も優れるため、パッケージ分野や物流分野における箱や封筒等の用途にも適した顔料塗被紙である。また、従来の塗被層に主成分としてシリカを用いた印刷用紙(例えば、特許文献2等)に比べ、塗被層の強度が優れるため、パッケージ分野や物流分野における箱や封筒等の加工適性も適した顔料塗被紙といえる。
【0032】
上記顔料塗被層は、基紙の片面に設けてもよく、両面に形成してもよい。以下に、基紙について説明する。
【0033】
本発明における基紙を構成するパルプについて、本発明の効果を損なわない範囲において、その製法及び種類等に特に限定はない。例えばKPのような化学パルプ、SGP、RGP、BCTMP及びCTMP等の機械パルプ、脱墨パルプのような古紙パルプ、並びにケナフ、竹、藁、麻等のような非木材パルプであってもよく、またポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の有機合成繊維、再生繊維、例えばポリノジック繊維、並びにガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等の無機質繊維も混用することができる。なお、基紙に用いるパルプとして、ECFパルプ、TCFパルプ等の塩素フリーパルプを用いることが好ましい。
【0034】
基紙を構成するパルプの叩解度については、特に限定するものではないが、例えば300〜550cc(CSF)の範囲で調整されることが好ましい。叩解度が550ccを超える場合は、繊維の絡み合いや接着力が不十分なため、満足な内部強度が得られず、オフセット印刷時にブリスターが発生する虞がある。また300cc未満の場合は、繊維の絡み合いによる接着改善効果は飽和しており、逆に単繊維強度低下の影響により印刷強度が低下してしまうおそれがある。より好ましくは350〜520ccである。
【0035】
基紙中には、本発明の効果を損なわない範囲において、バインダー、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤も併用可能である。バインダーとしては、例えば各種デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子が挙げられる。乾燥紙力増強剤としては、アニオン性、カチオン性、または両性のポリアクリルアミド樹脂が挙げられる。また湿潤紙力増強剤としては、例えばポリアミド樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素・ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド・ポリアミン・エピクロルヒドリン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明では、基紙のサイズ度については、特に限定するものではないが、一般にステキヒトサイズ度で、100秒以下程度に調整される。サイズ度の調整方法としては、原料中に含有される内添サイズ剤や、サイズプレス塗工機で塗工される表面サイズ剤をそれぞれ単独または組み合わせて所定のサイズ度に調整される。内添サイズ剤としては、ロジン系サイズ剤、合成サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸系の中性サイズ剤等のサイズ剤が使用でき、硫酸バンド、カチオン化デンプン等、適当なサイズ剤と定着剤を組み合わせて使用する。表面サイズ剤としては、上記内添サイズで使用したものの他、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・アクリル酸共重合体、スチレン・メタクリル酸共重合体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0037】
また基紙中には必要に応じて、填料が配合されていてもよい。填料としては、一般に上質紙に用いられる各種の顔料を用いることができ、例えばカオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト及びスメクタイト等の鉱物質顔料、並びにポリスチレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニリデン系樹脂の微小中空粒子、密実型粒子および貫通孔型粒子などの有機顔料が挙げられる。
【0038】
なお、基紙の抄紙時に、その紙料中に、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、パルプ繊維や填料の他に、従来から使用されている各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留向上剤、濾水性向上剤等の各種抄紙用内添助剤を必要に応じて適宜選択して使用することができる。さらに染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤も必要に応じて適宜添加することができる。
【0039】
基紙の抄紙方法については特に限定はなく、例えば抄紙pHが4.5付近で行われる酸性抄紙法、炭酸カルシウム等のアルカリ性填料を主成分として含み、抄紙pH約6の弱酸性から抄紙pH約9の弱アルカリ性で行われる中性抄紙法等の、全ての抄紙方法を適用することができ、抄紙機も長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、丸網抄紙機、ヤンキー抄紙機等を適宜使用することができる。
【0040】
本発明で使用される基紙が板紙の場合も、構成されるパルプについては特に限定されない。例えば、晒ないしは未晒の化学パルプ、機械パルプ、さらには脱墨ないしは未脱墨パルプの古紙パルプ等の一種または二種以上を適宜混合して使用される。その他、原紙には必要に応じて、サイズ剤、紙力剤、薬品安定剤、濾水剤、填料、染料等を適宜添加することもできる。なお、原紙の米坪は通常150〜650g/m程度である。
板紙基紙の場合も上記の填料を使用することが可能である。
板紙基紙を得るための抄紙機としては、長網式抄紙機、短網式抄紙機、円網式抄紙機、オントップフォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機が使用でき、2層以上を抄き合わせて原紙抄造を行う。基紙が板紙である場合、強度に優れるため、特にパッケージ分野や物流分野において使用される箱や封筒等の用途に適した印刷用顔料塗被板紙となる。
【0041】
本発明の印刷用顔料塗被紙は、各顔料塗被層を設けた後、平滑化処理を施して、表面の光沢を発現させるものである。平滑化処理方法としては、スーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトカレンダ等、通常の平滑化処理装置を用いて行われる。前記平滑化処理はオンマシンやオフマシンで適宜施されてもよく、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温等も通常の平滑化処理装置に応じて適宜調節される。平滑化処理後の印刷用顔料塗被紙の各種物性としては、表面の75度における白紙光沢度(JIS−P8142)は、特に限定するものではないが、例えば40%以上あればオフセット印刷後のインキグロスの高い印刷物が得られるため好ましい。
【0042】
また印刷用顔料塗被紙としての密度については特に限定するものではないが、0.95〜1.15g/cmであることが好ましい。密度が0.95g/cmを下回る場合は、十分な印刷強度が得られないことがあり、また1.15g/cmを超える場合は、インクジェットインク吸収容量が確保できないために、満足なインクジェットインク吸収性が得られなくなることがある。ただし、基紙に板紙を用いる場合の密度は、0.75〜1.00程度が好ましい。
【0043】
本発明において、ハイブリッド印刷物の作成方法については、特に限定するものではない。例えば、固定情報をオフセット印刷機で印刷後にインクジェットプリンターで可変情報を印刷して作成できるが、先にインクジェットプリンターで可変情報を印刷した後にオフセット印刷することもできる。両者は、オンライン、オフラインのどちらでもよく、用紙形態も平判、巻取りのどちらでも作成可能である。なお、パッケージ分野や物流分野で用いる場合、製函前或いは製袋前にハイブリッド印刷してもよく、オフセット印刷後に製函或いは製袋を行い、インクジェットプリンターで可変情報を印刷してもよい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、勿論本発明はこれに限定されるものではない。実施例において示す「部」および「%」は、特に明示の無い限り、質量部および質量%である。
【0045】
実施例1
[基紙の製造]
LBKP(CSFフリーネス450ml)90質量部、NBKP(CSFフリーネス450ml)10質量部のパルプスラリーに、内添サイズ剤としてアルケニル無水コハク酸(商品名:ファイブラン81、ナショナルスターチ社製)0.05質量部、紙力増強剤としてポリアクリルアミド系樹脂(商品名:PS194−7、荒川化学工業社製)0.2質量部、硫酸バンド0.6質量部を添加し、これらの混合物を白水で希釈してpH5.3、固形分濃度1.1%の紙料を調製した。この紙料を、長網抄紙機に供して抄紙し、得られた湿紙に、スチレン・マレイン酸共重合体(商品名:ポリマロン385、荒川化学工業社製)0.2部、酸化澱粉(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)を濃度5.5%で含むサイズプレス液を、サイズプレス装置で塗布量が乾燥質量で2g/mとなるように塗布し、乾燥して、さらにマシンカレンダを用いて平滑化処理を施して、坪量94g/mの基紙を得た。
【0046】
[内側塗被層用塗被液の調製]
紡錘状軽質炭酸カルシウムの63%分散液(商品名:タマパールTP221GS、平均粒子径(短径)0.3μm、奥多摩工業社製)159質量部、酸化澱粉(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)の20%水溶液10質量部およびスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスの50%分散液(商品名:T−2531H、JSR社製)24質量部を添加攪拌し、さらに水を加えて、固形分濃度50%の塗被液を調製した。
【0047】
[カゼインの溶解]
水、尿素10質量部、ニュージーランドカゼイン100質量部を混合撹拌し、昇温を開始する。次に25%アンモニア液を7.7質量部加えて60℃まで昇温したのち20分保持した後冷却し、10%のカゼイン水溶液を得た。
[最表層用塗被液の調製]
水、上記で得られたカゼインの10%水溶液36質量部に紡錘状軽質炭酸カルシウムの63%分散液(商品名:タマパールTP221GS、平均粒子径(短径)0.3μm、奥多摩工業社製)159質量部およびスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスの50%分散液(商品名:T−2531H、JSR社製)27質量部、スチレンアクリル共重合体ラテックス(商品名:PDX7236、BASFジャパン社製)の40%分散液12.5質量部を添加攪拌し、固形分濃度50%の塗被液を調製した。
【0048】
[内側塗被層の形成]
前記内側塗被層用塗被液を、前記基紙の両面に、ブレードコーターを用いて片面当たり乾燥塗布量が7g/mなるように塗工し、内側塗被層を形成した。
[最表層の形成]
前記最表層用塗被液を、上記基紙の両面に形成された内側塗被層上に、ブレードコーターを用いて片面当たり乾燥塗布量が10g/mなるように塗工し、最表層を形成した。
[多価金属塩水溶液の塗布]
ギ酸カルシウムの4%水溶液を上記基紙の両面に形成された最表層上に、ロールコーターを用いて片面当たり0.12g/m付着するように塗布した後、スーパーカレンダを用いて、線圧60kg/cm、2ニップの条件で平滑化処理を施して、坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0049】
実施例2
実施例1の最表層用塗被液の調製において、紡錘状軽質炭酸カルシウムの63%分散液(商品名:タマパールTP221GS、平均粒子径(短径)0.3μm、奥多摩工業社製)159質量部の代わりに、柱状軽質炭酸カルシウムの60%分散液(商品名:タマパールTP−123CS、平均粒子径(短径)0.44μm、奥多摩工業社製)167質量部を使用した以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0050】
実施例3
実施例1の最表層用塗被液の調製において、紡錘状軽質炭酸カルシウムの63%分散液(商品名:タマパールTP221GS、平均粒子径(短径)0.3μm、奥多摩工業社製)159質量部の代わりに、柱状軽質炭酸カルシウムの62%分散液(商品名:タマパールTP−123HG、平均粒子径(短径)0.2μm、奥多摩工業社製)161質量部を使用した以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0051】
実施例4
実施例1の最表層用塗被液の調製において、紡錘状軽質炭酸カルシウムの63%分散液(商品名:タマパールTP221GS、平均粒子径(短径)0.3μm、奥多摩工業社製)159質量部の代わりに、紡錘状軽質炭酸カルシウムの65%分散液(商品名:YCC−FD、平均粒子径(短径)0.6μm、矢橋工業社製)154質量部を使用した以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0052】
実施例5
実施例1の最表層用塗被液の調製において、カゼインの10%水溶液36質量部の代わりに、酸化澱粉(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)の20%水溶液18質量部を使用した以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0053】
実施例6
実施例1の最表層用塗被液の調製において、さらに中空プラスチックピグメントの26%分散液(商品名:AE−852、JSR社製)を20質量部添加した以外は、実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0054】
実施例7
実施例1の多価金属塩水溶液の塗布において、ギ酸カルシウムの4%水溶液の代わりに、硫酸亜鉛の4%水溶液を使用し、0.12g/m付着するように塗布した以外は、実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0055】
実施例8
実施例1の多価金属塩水溶液の塗布において、ギ酸カルシウム水溶液の濃度を4%から1%に下げ、0.03g/m付着するように塗布した以外は、実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0056】
実施例9
実施例1の多価金属塩水溶液の塗布において、ギ酸カルシウム水溶液の濃度を4%から10%に上げ、0.3g/m付着するように塗布した以外は、実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0057】
実施例10
実施例1の最表層用塗被液の調製において、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスの50%分散液の使用量を27質量部から20質量部に減らした以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
実施例11
実施例1の印刷用顔料塗被紙の製造において、基紙に坪量350g/mの非塗工板紙(商品名:コラボファイン−W、王子特殊紙社製)を使用した以外は実施例1と同様にして坪量384g/mの印刷用顔料塗被板紙を得た。
【0058】
比較例1
実施例1の最表層用塗被液の調製において、スチレンアクリル共重合体ラテックス(商品名:PDX7236、BASFジャパン社製)を用いず、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスの50%分散液(商品名:T−2531H、JSR社製)37質量部とした以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0059】
比較例2
実施例1の印刷用顔料塗被紙の製造において、多価金属塩を塗布しなかった以外は実施例1と同様にして坪量128g/mの印刷用顔料塗被紙を得た。
【0060】
得られた印刷用顔料塗被紙について以下の評価を行い、結果を表1に示した。
【0061】
「評価方法」
[塗被層表面の光沢度の測定]
得られた顔料塗被紙の表面光沢を、光沢度計(JIS−Z8741記載)を用い、JIS P8142に従って、入射角75度で測定した。
【0062】
[塗被層表面のオフセット印刷適性の評価]
(ドライピック強度)
RI印刷機(RI−1、石川島産業機械株式会社製)を用いて、試験用インキ(ベストワン紙試験用SD50紅BT−13、T&K TOKA社製)により、ベタ印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視判定した。5段階評価で5が最もよく、1が最も悪い水準であり、3が許容限度である。
【0063】
(ウェットピック強度)
上記ドライピック強度試験方法において、印刷前に水付着ロールで各印刷用顔料塗被紙表面に水を付着させた以外はドライピック強度試験方法と同様にしてウェットピック強度を評価した。
【0064】
[塗被層表面のインクジェット印刷適性の評価]
(インク吸収性の評価)
(1)得られた顔料塗被紙を油吸収メーター自動式(JIS P−8130、熊谷理機工業株式会社製)にセットする。
(2)セットした試験片上部にセロハンテープを貼付し、そのセロハンテープ上に、水性顔料インクジェットインク(大日本スクリーン社トゥループレスジェット520用黒インクを、マイクロシリンジを用いて、5μlのせる。
(3)インク上に金属ローラーを通過させた後、伸ばされたインク表面の光沢感が消えるまでの時間を目視判定して、インクジェットインク吸収速度を評価した。
おおむね、5秒以内で乾燥するものが、実機プリンター適性を有すると判定した。
【0065】
(初期定着性の評価)
上記インク吸収性の評価と同様にして、得られた顔料塗被紙上にインクジェットインクを塗布し、直後に指で擦り、擦らない部分との光学濃度差に対する割合で初期定着性を評価した。
【0066】
(耐擦過性の評価)
上記インク吸収性の評価と同様にして、得られた顔料塗被紙上にインクジェットインクを塗布し、23℃50%RH環境下に1日放置した後に指で擦り、擦らない部分との光学濃度差に対する割合で耐擦過性を評価した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1が明らかに示しているように、本発明に係る印刷用顔料塗被紙は、ドライピック強度、ウェットピック強度とも優れた強度を保持し、オフセット印刷適性を有している。また高い水性顔料インクジェットインク適性も兼ね備え、更に顔料インクの耐擦過性が際立って優れ、ハイブリッド印刷用紙としての適性に優れる印刷用顔料塗被紙を得た(実施例1〜11)。しかし、最表層用処方、内側塗被層用処方が本発明の規定からはずれる場合および最表層上に多価金属塩を塗布しなかった場合、耐擦過性が優れた顔料塗被紙は得られなかった(比較例1〜2)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、オフセット印刷適性に優れ、且つ水性顔料インクを用いた高速インクジェットプリンター記録適性も備えた、ハイブリッド印刷に適したグロス系印刷用顔料塗被紙が得られるものであり、特にパッケージ分野や物流分野で実用上極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙上の少なくとも1面に、少なくとも1層の顔料塗被層を設けた印刷用顔料塗被紙において、前記顔料塗被層の最表層は、顔料と、顔料100質量部に対して4〜30質量部含有スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスと、1〜30質量部のスチレンアクリル共重合体ラテックスを含有する乾燥された塗被層に、水溶性多価金属塩の水溶液を塗布し、乾燥された層であることを特徴とする印刷用顔料塗被紙。
【請求項2】
最表層の顔料が、平均粒子径(短径)が0.8μm以下の軽質炭酸カルシウムを主成分とする請求項1記載の印刷用顔料塗被紙。
【請求項3】
顔料塗被層が、基紙と最表層の間に、軽質炭酸カルシウムを主成分として含有する内側塗被層を有する請求項1又は2記載の印刷用顔料塗被紙。
【請求項4】
水溶性多価金属塩がギ酸カルシウムであるである請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷用顔料塗被紙。
【請求項5】
前記最表層中に、中空プラスチックピグメントを顔料100質量部に対して3〜15質量部含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷用顔料塗被紙。
【請求項6】
基紙上の少なくとも1面に、少なくとも1層の顔料塗被層を有する印刷用顔料塗被紙の製造方法において、前記顔料塗被層の最表層が、顔料100質量部中、平均粒子径(短径)が0.8μm以下の軽質炭酸カルシウムを50質量部以上含有し、且つバインダーとしてラテックスバインダーとカゼインを含有する塗液を塗布乾燥した後、水溶性多価金属塩の水溶液を塗布、乾燥することを特徴とする印刷用顔料塗被紙の製造方法。

【公開番号】特開2011−132648(P2011−132648A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137730(P2010−137730)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】