説明

印刷装置、印刷方法、プログラム

【課題】溶融インクで印刷する場合において、印刷用紙や記録紙などに転写された溶融インクにひび割れなどが発生することを防止又は抑制するとともにカールを矯正できるカールの矯正方法及び印刷装置を提供する。
【解決手段】ロール状の印刷用紙12に押し付けることによってロール状の印刷用紙12をカール(=巻癖)の向きの反対側に曲げるデカール部7と、デカール部7がロール状の印刷用紙12のカールを矯正する前における印刷に用いられたインクの種類が昇華インク33,34,35であるか溶融インク36であるかを判断するインク種類判断部としてのメインコントローラ201と、インク種類判断部の判断結果に基づいてデカール部7によるカールの矯正の程度を変更するカール矯正量変更部としてのメインコントローラ201とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙や記録紙などに生じるカールを矯正できる印刷装置、印刷方法、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラなどの撮像装置により撮像した画像データを取り込んで印刷できる印刷装置が、広く一般家庭に普及してきている。このような家庭用の印刷装置は、事前にインクリボンと印刷用紙や記録紙などをセットしておけば、その後は、画像データ取り込み、印刷指示を与えるだけで、簡単に高画質な印刷を行うことができる。このため、最近では、家庭において、写真印刷を楽しむ人が増えてきている。
【0003】
このような家庭用の印刷装置には、カット紙タイプの印刷用紙や記録紙などを用いるものと、ロール状の印刷用紙や記録紙などを用いるものとがある。そして近年は、高い画質の印刷にコスト面で有利であることから、ロール状の印刷用紙や記録紙などを用いる印刷装置が広く使用されるようになってきている。ロール状の印刷用紙や記録紙などは、インク受容層が形成された長尺の印刷用紙や記録紙が円筒状に巻き回されたものである。そして、ロール状の印刷用紙や記録紙などを用いる一般的な印刷装置は、印刷のたびに必要な長さの印刷用紙や記録紙などを送給し、印刷の終了後に所定の長さに切断して排紙する。
【0004】
ところで、ロール状の印刷用紙や記録紙などには、カール(=巻癖)が生じること(または残存すること)がある。印刷用紙や記録紙などのカールは、印刷や給排紙におけるトラブルの原因となることがある。たとえば、印刷用紙や記録紙などのカールが大きいと、印刷用紙や記録紙などがプリンタの内部の搬送ローラやガイドなどに引っ掛かることがある。さらに、印刷用紙や記録紙などのカールが大きいと、搬送ローラやガイドへの装着性が悪くなり、作業性が悪化する。このほか、印画の際に、印刷用紙や記録紙などと印刷ヘッド(たとえば、サーマルヘッドなど)との密着性が悪化するおそれがある。
【0005】
このような問題に対応するために、たとえば特許文献1や特許文献2のような構成が提案されている。特許文献1には、印刷用紙や記録紙などに張力を加えながらデカールローラを押し付けてカールを矯正する方法において、巻回された印刷用紙や記録紙などの外径と、デカールローラへの巻き付け角度とを、所定の値に限定する構成が開示されている。一方、特許文献2には、熱転写タイプの印刷装置において、印刷用紙や記録紙などの残存カール量と残存カールの向きを推定し、推定結果に基づいてカールの矯正の程度を最適化する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4321398号公報
【特許文献2】特開2006―016157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、印刷用紙や記録紙などのカールの矯正においては、次のような問題が生じることがある。ロール状の印刷用紙や記録紙などは、インク受容層の保護のために、インク受容層の側の面を内側にして巻かれることがある。このような印刷用紙や記録紙などには、インク受容層の側の面が凹になるようなカールが発生する。このため、カールを矯正するためには、インク受容層の側の面が凸になるように印刷用紙や記録紙などをしごく必要がある。ところで、昇華型印刷装置に用いられる溶融インクは、たとえばアクリル樹脂などといった所定の硬さを有する樹脂組成物を含む。このため、溶融インクが転写された印刷用紙や記録紙などを、インク受容層の側の面(すなわち、溶融インクが転写された側の面)が凸になるようにしごくと、転写された溶融インクにひび割れが生じることがある。そして、転写された溶融インクにひび割れが生じると、ひび割れが筋状に見えるため印刷の品質が低下する。さらに、ひび割れから水分やオゾンが侵入して、耐候性が低下するおそれがある。
上述の課題を解決するため本発明では、インクにひび割れなどが発生することを防止または抑制するとともにカール(=巻癖)を矯正できるカールの矯正方法及び印刷装置を提供することを目的とする。特に、溶融インクで印刷する場合において、印刷用紙や記録紙などに転写された溶融インクにひび割れなどが発生することを防止又は抑制するとともにカールを矯正できるカールの矯正方法及び印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、ロール状に巻かれた印刷用紙を引き出して、引き出した印刷用紙に昇華インクおよび溶融インクを転写して画像を印刷する印刷装置であって、前記印刷用紙を、前記印刷用紙のカール方向とは反対側に曲げることにより、前記印刷用紙のカールを矯正するデカール部と、前記印刷用紙に転写するインクが、昇華インクであるか溶融インクであるかに応じて、前記デカール部によるカールの矯正の程度を変更するカール矯正量変更部と、を有することを特徴とする。
本発明は、ロール状に巻かれた印刷用紙を引き出して、引き出した印刷用紙に昇華インクおよび溶融インクを転写して画像を印刷する印刷方法であって、前記印刷用紙を、前記印刷用紙のカール方向とは反対側に曲げることにより、前記印刷用紙のカールを矯正する処理と、前記印刷用紙に転写するインクが昇華インクであるか溶融インクであるかに応じて、前記印刷用紙のカールの矯正の程度を変更する処理と、を含むことを特徴とする。
本発明は、ロール状に巻かれた印刷用紙を引き出して、引き出した印刷用紙に昇華インクおよび溶融インクを転写して画像を印刷する印刷装置の印刷方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記印刷用紙を、前記印刷用紙のカール方向とは反対側に曲げることにより、前記印刷用紙のカールを矯正する処理と、前記印刷用紙に転写するインクが昇華インクであるか溶融インクであるかに応じて、前記印刷用紙のカールの矯正の程度を変更する処理と、をコンピュータに実行させるプログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、昇華インクと溶融インクとを判断し、溶融インクを転写する際には、カールを矯正の程度を小さくすることができる。このため、カールを矯正することができ、かつ、転写された溶融インクにひび割れが生じないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置とカートリッジの構成を、模式的に示した外観斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置の要部の構成を、模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置の構成を示したブロック図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかる印刷装置に適用されるインクリボンの構成を模式的に示した平面図である。
【図5】図5は、デカール部の構成を模式的に示した断面図である。
【図6】図6は、ガイド部およびデカール部を抜き出して示した断面図であり、カールの矯正の程度を変化させる構成を模式的に示した図である。
【図7】図7は、印刷物の溶融インクにひび割れが発生する原因と、溶融インクのひび割れの態様を模式的に示した図である。
【図8】図8は、カールの矯正が不十分な場合に生じる問題を説明する図である。
【図9】図9は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置の全体的な処理の流れを示したフローチャートである。
【図10】図10は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置の印刷処理を示したフローチャートである。
【図11】図11は、本発明の第二実施形態にかかる印刷装置のデカール部の構成を、模式的に示した図である。
【図12】図12は、本発明の第三実施形態にかかる印刷装置のデカール部および印刷ユニットの構成を、模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかるカールの矯正方法は、ロール状の印刷用紙や記録紙などのカール(=巻癖)を矯正する方法である。そして、本発明の実施形態にかかるカールの矯正方法は、印刷用紙や記録紙などに転写されたインクの種類に応じて、カールの矯正の程度(=デカール量)を変更できる。本発明の実施形態にかかる印刷装置は、本発明の実施形態にかかるカールの矯正方法を用いて印刷用紙や記録紙などのカールを矯正できる印刷装置である。なお、説明の便宜上、「印刷用紙や記録紙など」を、単に「印刷用紙」と称する。また、印刷用紙のインク受容層が形成される側の面(すなわち、印刷される側の面)が凹になるカールを「トップカール」と称し、凸になるカール(=トップカールの反対側へのカール)を「バックカール」と称する。
【0012】
<第一実施形態>
まず、本発明の第一実施形態にかかるカールの矯正方法と印刷装置100について説明する。本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、ロール状の印刷用紙12とインクリボン30とが収納されたカートリッジ110を用いる。図1は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100と、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100に用いられるカートリッジ110の構成を、模式的に示した外観斜視図である。図2は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の要部の構成を模式的に示した断面図である。図3は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の構成を示したブロック図である。
【0013】
図1に示すように、ハウジング101の上部には、表示部102と操作部103とが設けられる。表示部102は、LCD(液晶表示ディスプレイ)などの表示画面を有する。そして、表示部102の表示画面は、印刷される画像に関する情報や、印刷に必要な設定データを入力するためのメニューなどを表示できる。操作部103には、電源スイッチ104と、選択スイッチ105と、カーソルキー(=左右キー106および上下キー107)とが設けられる。電源スイッチ104は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の電源のON/OFFの操作を行うことができる。選択スイッチ105は、表示部102に表示された各種メニューを選択することができる。カーソルキー106,107は、表示部102に表示されるカーソルを所望の位置に移動させることができる。また、ハウジング101は、カートリッジ110を着脱できるように、側面が開閉可能な構成を有する。
【0014】
カートリッジ110は、ハウジング111を有する。そして、ハウジング111には、ロール状の印刷用紙12と、印刷用紙12のローラ112と、インクリボン30と、インクリボン30の供給ローラ113と、インクリボン30の巻上ローラ114とが収納される。なお、ロール状の印刷用紙12とインクリボン30とは、図1においては隠れて見えない。ロール状の印刷用紙12の一方の表面には、インク受容層が形成される。そして、ロール状の印刷用紙12は、インク受容層が形成される面を内側に向けて、印刷用紙12のローラ112に巻き付けられている。このため、ロール状の印刷用紙12には、インク受容層の側が凹になるカール(トップカール)が残ることがある。カートリッジ110が本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100に装着される前の状態においては、ロール状の印刷用紙12は、ハウジング111に完全に覆われている。このため、ユーザなどは、印刷用紙12に直接触れることができない。なお、インクリボン30の構成は後述する。
【0015】
図2と図3を参照して、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100のハウジング101の内部に配設される機器の構成と、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の機能ブロックについて説明する。
【0016】
ハウジング101の内部には、グリップローラ9と、ピンチローラ8と、ガイド部6と、デカール部7と、印刷ヘッド(サーマルヘッド)3と、プラテンローラ4と、一対の排紙ローラ10,11と、カッターユニット5とが配設される。デカール部7は、印刷用紙12のカールを矯正する部分である。ガイド部6は、印刷用紙12をガイドする部分である。印刷ヘッド3とプラテンローラ4は、インクリボン30のインク33,34,35,36を印刷用紙12に転写する部分である。さらに、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、図略の給紙機構とインクリボン供給機構とを含む。図2中の矢印Aは、印刷時における印刷用紙12の搬送の向きを示す。図2に示すように、デカール部7は、印刷ヘッド3よりも、印刷方向の下流側に配設される。
【0017】
図3を参照して、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の機能について説明する。メインコントローラ201は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の全体的な制御を行う。また、メインコントローラ201は、各モータドライバ211,214,216,218,220,230,231と、表示制御部222と、ドライバコントローラ225と、ヘッド駆動回路226とを制御できる。さらに、メインコントローラ201は、画像データ入力部229から入力された画像データを用いて、印刷に用いる印刷データを生成できる。印刷データは、画像の各色の色データ(=イエローの色データとマゼンダの色データとシアンの色データ)と、色データではないデータ(たとえば、オーバーコートのデータ)とを含む。また、メインコントローラ201は、ユーザによる操作部103の操作に応じて、所定の処理を実行できる。ROM202やRAM203は、メインコントローラ201が実行するコンピュータプログラム(ソフトウェア)や、各種設定を保存できる。そして、メインコントローラ201は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)をROM202やRAM203から読み出して実行することができる。
【0018】
カートリッジ110が本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100に装着されると、印刷用紙12のローラ112は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の給紙モータ215の回転機構(図略)と結合する。また、インクリボン30の供給ローラ113と、インクリボン30の巻上ローラ114とは、インクリボン30を巻き上るモータ217と連結する。そして、印刷用紙12のローラ112と、インクリボン30の供給ローラ113と、インクリボン30の巻上ローラ114とは、それぞれ、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100のメインコントローラ201によって、回転が制御される。
【0019】
印刷用紙搬送モータドライバ211は、駆動モータ212,213を駆動する。駆動モータ212,213は、図略の回転動力伝達機構を介して、それぞれ、グリップローラ9と一対の排紙ローラ10,11とに連結される。そして、印刷用紙搬送モータドライバ211が駆動モータ212,213を駆動すると、グリップローラ9と一対の排紙ローラ10,11とが回転し、印刷用紙12が搬送される。給紙モータドライバ214は、給紙モータ215の回転を制御する。給紙モータ215の回転軸は、図略の回転動力伝達機構を介して、印刷用紙12のローラ112と連結する。そして、給紙モータドライバ214は、印刷用紙12のローラ112を駆動する。インクリボン巻上モータドライバ216は、インクリボン巻上モータ217を駆動する。インクリボン30の巻上ローラ114とインクリボン巻上モータ217とが図略の回転機構を介して結合する。そして、インクリボン巻上モータドライバ216が、インクリボン30の巻き取りや巻き上げを行う。ヘッドアップダウンモータドライバ218は、ヘッドアップダウンモータ219を駆動する。ヘッドアップダウンモータ219は、印刷ヘッド3を昇降させることにより、印刷ヘッド3を印刷位置または退避位置へ移動させる。なお、印刷ヘッド3の「印刷位置」とは、インクリボン30を加熱してインク33,34,35,36を印刷用紙12に転写できる位置をいうものとする。一方、「退避位置」とは、インク33,34,35,36を印刷用紙12に転写できない位置をいうものとする。カッターモータドライバ220は、カッターモータ221を駆動する。カッターモータ221は、カッターユニット5のカッターおよびカッター受け刃を駆動する。そして、カッターモータドライバ220がカッターモータ221を駆動することで、印刷用紙12を裁断する。ヘッド圧変更モータドライバ231は、モータ14の駆動を制御することができる。このため、印刷ヘッド3の印圧を変更し、印刷ヘッド3とプラテンローラ4との間に発生するニップ力を変更することができる。
【0020】
各イメージメモリ224Y,224M,224C,224Oは、メインコントローラ201が生成した一画面分の印刷データを保持できる。具体的には、イメージメモリ224Yは、一画面分の印刷データの黄色の色データを保持できる。イメージメモリ224Mは、一画面分の印刷データのマゼンダの色データを保持できる。イメージメモリ224Cは、一画面分の印刷データのシアンの色データを保持できる。イメージメモリ224Oは、色データではないデータを保持できる。
【0021】
ドライバコントローラ225は、イメージメモリ224Y,224M,224C,224Oから読み出した印刷データを、ヘッド駆動回路226に転送する。そして、ドライバコントローラ225はヘッド駆動回路226を制御し、ヘッド駆動回路226は印刷ヘッド3を駆動する。このように、ヘッド駆動回路226は、転送された印刷データを用いて印刷する。
【0022】
デカール部駆動モータドライバ230は、デカール部7を駆動するモータ13を制御する。そして、デカール部駆動モータドライバ230がモータ13を駆動することによって、カールの矯正の程度(=デカール量)を変更する。カールの矯正の程度を変更するための構成については後述する。
【0023】
本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、カートリッジ110が装着されると、ローラ112に巻き付けられた印刷用紙12を、まず、グリップローラ9とピンチローラ8とに挟まれる場所まで繰り出す。さらに、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、印刷用紙12を、ガイド部6とデカール部7との間と、印刷ヘッド3とプラテンローラ4との間と、一対の排紙ローラ10,11との間とを通過させる。印刷用紙12が一対の排紙ローラ10,11を通過している位置を、「印刷待機位置」と称する。印刷待機位置においては、印刷用紙12のうちの印刷ヘッド3の発熱部(図略)に接触する部分が、印刷開始位置となる。印刷ヘッド3とプラテンローラ4とは、印刷用紙12が印刷待機位置に引き出されるまでは、印刷用紙12に対して圧力を加えない。このため、印刷用紙12は、印刷待機位置に到達するまでは、印刷ヘッド3とプラテンローラ4との間を加圧されることなく通過できる。
【0024】
インクリボン30は、インクリボン供給ローラ113から繰り出され、印刷用紙12と重なる位置を通過し、インクリボン巻上ローラ114により巻き取られる。
【0025】
図4は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100に適用されるインクリボン30の構成を模式的に示した平面図である。図4に示すように、インクリボン30は、昇華インク33,34,35の面と溶融インク36の面とを有する。昇華インク33,34,35の面としては、イエローの昇華インク33の面と、マゼンダの昇華インク34の面と、シアンの昇華インク35の面とを有する。溶融インク36の面としては、オプションインクの面を有する。オプションインクは、色インクではないインクである。たとえば、オプションインクには、印刷物の表面を保護し耐候性や耐摩耗性を高めるためのオーバーコートインクが適用される。そして、面順次で一面ずつ面ごとに印刷される(インクごとに印刷される)。本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100に用いられるインクリボン30の溶融インク36は、たとえば、アクリル系の樹脂組成物などといった樹脂組成物を含有している。このため、印刷用紙12に転写された溶融インク36は、ひび割れ限界値を越えて変形すると、ひび割れが生じることがある。
【0026】
なお、図4に示すインクリボン30は、三色の昇華インク33,34,35の面と一種類の溶融インク36の面とを有するが、インクリボン30の構成は、図4に示す構成に限定されるものではない。すなわち、昇華インクの面の種類や数と、溶融インクの面の種類や数は限定されない。たとえば、単色の昇華インクの面(たとえば黒色の昇華インクの面)と一種類の溶融インクの面とを備える構成であってもよい。また、溶融インクの面として、特別色(=イエロー、マゼンダ、シアン以外の色)のインクの面が追加された構成であってもよい。すなわち、昇華インクの面としてイエローの昇華インク33の面と、マゼンダの昇華インク34の面と、シアンの昇華インク35の面とを有し、溶融インクの面として、オプションインクの面と特別色のインクの面とを備える構成であってもよい。さらに、すべてのインクの面が一個のインクリボン30に印画の順に並んでいる構成でなくてもよい。たとえば、一色ごとにインクリボン30を交換する構成であってもよい。
【0027】
本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、印刷を開始すると、印刷用紙12を、印刷ヘッド3とプラテンローラ4により所定の圧力をもって挟むとともに、ピンチローラ8とグリップローラ9とによって滑らないように挟む。そして、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、印刷用紙12を、ピンチローラ8とグリップローラ9の回転によって、ローラ112に巻き取られる向き(図2中の矢印Aの向き)に搬送する。そして、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、印刷用紙12を移動させながら、印刷ヘッド3の発熱部によりインクリボン30を加熱する。これにより、インクリボン30の表面に形成される昇華インク33,34,35または溶融インク36が、印刷用紙12のインク受容層が形成される側の表面に転写される。このように、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、インクリボン30のインク33,34,35,36を、印刷用紙12に転写することによって印刷を行う。なお、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、インクリボン30のインクごとに、面順次で印刷を行う。
【0028】
デカール部7は、印刷方向の下流側に配設されるから、インク33,34,35,36が転写された印刷用紙12は、ガイド部6およびデカール部7との間を通過する。そしてその間に、印刷用紙12はデカール部7によって、バックカールの向きに(=カール方向とは反対向きに)しごかれる。これにより、印刷用紙12のカールが矯正される。なお、印刷用紙12は、デカール部7によって、カール方向とは反対側に曲げられて搬送される。このため、ガイド部6が印刷用紙12をガイドすることによって、印刷用紙12が搬送経路から外れないようにする。カールの矯正のための具体的な構成は、次のとおりである。本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、印刷用紙12を、ガイド部6およびデカール部7の前方と後方との二か所において挟む。換言すると、印刷用紙12は、二か所において挟まれており、これらの二か所の間にデカール部7が押し付けられる。印刷用紙12は、デカール部7によって、カール方向の反対側に向かって曲げられてしごかれる。換言すると、インク受容層が形成される側の面(=インク33,34,35,36が転写された側の面)が凸になるように曲げられてしごかれる。このように、印刷用紙12は、カール方向の反対側に(=バックカールの向きに)曲げられてしごかれることによって、カール(=トップカール)が矯正される。
【0029】
本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、デカール部駆動モータドライバ230がモータ13を駆動し、デカール部7を回転させることによって、カールの矯正の程度(=デカール量)を変更できる。図5(a)(b)は、デカール部7の構成を模式的に示した断面図である。図5(a)(b)に示すように、デカール部7は、略棒状または略筒状の部材である。デカール部7は、複数の互いに曲率半径が異なる部分を有する。図5(a)(b)においては、二つの互いに曲率半径が異なる部分(=曲率半径がr1の部分と曲率半径がr2の部分)を有する構成を示す。なお、r1<r2である。説明の便宜上、曲率半径がr1の部分を「曲率半径が小さい部分」と称し、曲率半径がr2の部分を「曲率半径が大きい部分」と称する。
【0030】
図1は、デカール部7の半径が大きい部分が印刷用紙12に押し付けられている状態を示している。図6は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100のデカール部7の近傍を抜き出して示した断面図であり、デカール部7の曲率半径が小さい部分が印刷用紙12に押し付けられている状態を示す図である。このように、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、デカール部7の回転によって、曲率半径が大きい部分と半径の小さい部分のいずれが印刷用紙12に押し付けられる状態にあるかを切り替えることができる。曲率半径が小さい部分を印刷用紙に押し付ける状態を「強モード」と称し、曲率半径が大きい部分を印刷用紙12に押し付ける状態を「弱モード」と称する。そして、「強モード」と「弱モード」とを切り替えることによって、印刷用紙12のカールの矯正の程度を変更することができる。すなわち、図1に示すように、「弱モード」においては、曲率半径が大きい部分を印刷用紙12に押し付ける。このため、印刷用紙12をバックカールの向きに曲げる力が小さくなり、カールの矯正の程度(=デカール量)が小さくなる。一方、図6に示すように、「強モード」においては、曲率半径が小なる部分を印刷用紙12に押し付ける。このため、印刷用紙12をカールの反対側(=バックカールの向き)に曲げる力が大きくなり、カールの矯正の程度(=デカール量)が大きくなる。
【0031】
本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100においては、デカール部7が、印刷ヘッド3よりも印刷方向の下流側に配設される。したがって、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、昇華インク33,34,35や溶融インク36を印刷用紙12に転写した後に、印刷用紙12のカールの矯正を行う。デカール部7によりカールを矯正する前に、昇華インク33,34,35を用いて印刷された場合には、カールの矯正の程度を「強モード」に切り替える。そして、カールの矯正の程度を大きくする。一方、デカール部7によりカールを矯正する前に、溶融インク36を用いて印刷した場合には、カールの矯正の程度を「弱モード」に切り替える。そして、カールの矯正の程度を小さくする。換言すると、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、溶融インク36を転写するときは、昇華インク33,34,35を転写するときに比較して、カールの矯正の程度を小さくする。
【0032】
なお、図1、図4、図5においては、デカール部7が、二つの互いに曲率半径が異なる部分を有する構成を示したが、三つ以上の曲率半径が互いに異なる部分を有していてもよい。すなわち、デカール部7の形状は特に限定されるものではない。要は、デカール部7が、互いに曲率半径が異なる複数の部分を有し、これらの複数の部分のいずれかを選択的に印刷用紙12に押し付けることができる構成であればよい。
【0033】
ここで、カールを矯正する場合に生じる問題について説明する。図7は、印刷用紙12に転写された溶融インク36にひび割れが発生する原因と、溶融インク36のひび割れの態様を模式的に示した図である。図7(a)に示すように、印刷用紙12のインク受容層の表面に溶融インク36が転写された後であっても、デカール部7にしごかれる前においては、溶融インク36にひび割れは生じていない。溶融インク36が転写された部分がデカール部7によってしごかれると、印刷用紙12は、バックカールとなる態様で(=カール方向とは反対向きに)湾曲させさられる。このため、転写された溶融インク36には、引っ張られるような力がかかる。そして、溶融インク36のひび割れ限界値を超えると、図7(b)に示すように、溶融インク36にひび割れが発生する。溶融インク36にいったんひび割れが発生すると、図7(c)に示すように、カールを矯正した後もひび割れが残る。このため、図7(d)に示すように、ひび割れが発生した印刷物を目視で観察すると、ひび割れが筋状に見える。このように、転写された溶融インク36にひび割れが発生すると、印刷物の品位が低下する。さらに、ひび割れから水分やオゾンが侵入すると、転写された溶融インクの耐候性が低下する。
【0034】
図8は、カールの矯正が不十分な場合に生じる問題を説明する図である。図8(a)は、カールの矯正が十分な状態を示し、図8(b)は、カールの矯正が不十分な状態を示す。カールの矯正が不十分であると、図8(b)に示すように、印刷用紙12はカールが残った状態で、排紙トレイ120に排紙される。排紙された印刷用紙12にカールが残っていると、印刷用紙12のカールに起因して、排紙トレイ120に排紙できる枚数が、仕様よりも少なくなることがある。また、新たに排紙された印刷用紙12が、既に排紙されている印刷用紙12とぶつかり、積載位置がずれることがある。カールの矯正が十分であると、図8(a)に示すように、このような問題は生じない。しかしながら、カールの矯正が強すぎると、前記のとおり、転写された溶融インク36にひび割れが生じることがある。
【0035】
そこで、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、インクの種類に応じてカールの矯正の程度を変更する。すなわち、溶融インク36が転写されたときには、「弱モード」に切り替えてカールの矯正の程度を小さくする。一方、昇華インク33,34,35が転写されたときには、「強モード」に設定してカールの矯正の程度を大きくする。換言すると、溶融インク36が転写されたときには、昇華インク33,34,35が転写されたときに比較して、カールの矯正の程度を小さくする。カールの矯正の程度を変更する構成および方法は、前記のとおりである。このように、本発明の第一実施形態にかかるカールの矯正方法および本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100は、転写された溶融インク36にひび割れが生じないようにしつつ、印刷用紙12のカールを矯正することができる。したがって、溶融インク36にひび割れがなく、かつ、カールが矯正された印刷物を得ることができる。
【0036】
次に、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の動作について説明する。なお、以下の動作及び処理は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)として、ROM202またはRAM203に保存されており、メインコントローラ201が読み出して実行する。
【0037】
図9は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の全体的な処理の流れを示したフローチャートである。ステップS1−1においては、メインコントローラ201は、画像データ入力部229から入力され表示部102に表示された画像データの中から、操作部103を介してユーザにより印刷対象として選択された画像データに関する情報を受け取る。ステップS1−2においては、メインコントローラ201は、操作部103を介してユーザより印刷指示があったか否かを判定する。ステップS1−2において印刷指示があったと判定された場合には(「YES」と判断された場合には)、ステップS1−3に進む。ステップS1−2において印刷指示があったと判定されなかった場合には(「NO」と判断された場合には)、印刷指示があったと判断されるまで待つ。
【0038】
ステップS1−3においては、メインコントローラ201は、選択された画像データが印刷可能か否かを判定する。ここでは、メインコントローラ201は、ステップS1−1において選択されたすべての画像データが印刷可能であるか否かを、印刷用紙12の残量に基づいて判定する。ステップS1−3においては、選択されたすべての画像データが印刷可能でないと判定された場合には(「NO」と判断された場合には)、メインコントローラ201は、表示制御部222を制御して、表示部102に印刷不可である旨のメッセージを表示させる。そして、ステップS1−6に進む。一方、ステップS1−3において印刷可能であると判定された場合には(「YES」と判断された場合には)、ステップS1−4に進む。ステップS1−4においては、メインコントローラ201は、選択された画像データの印刷データを生成する。前記のとおり、印刷データは、各色の色データと、色データではないデータとを有する。そして、メインコントローラ201は、生成した印刷データを、ドライバコントローラ225を通じて、イメージメモリ224Y,224M,224C,224Oに保存する。ステップS1−5では、メインコントローラ201は、生成した印刷データを用いて印刷処理を行う。なお、ステップS1−5における印刷処理の詳細については後述する。
【0039】
ステップS1−6においては、メインコントローラ201は、印刷対象として選択された次の画像データ(=まだ印刷処理が実行されていない画像データ)があるか否かを判定する。ステップS1−6において印刷対象として選択された次の画像データがあると判定された場合には(「YES」と判断された場合には)、ステップS1−3に戻り、ステップS1−3〜S1−5の処理を実行する。一方、ステップS1−6において、印刷対象として選択された次の画像データがないと判定された場合には(「NO」と判断された場合には)、ステップS1−7に進む。ステップS1−3において印刷可能でないと判定された場合にも(「NO」と判断された場合にも)、ステップS1−7に進む。
【0040】
ステップS1−7においては、メインコントローラ201は、終了処理を行う。具体的には、メインコントローラ201は、印刷用紙搬送モータドライバ211を駆動して印刷ヘッド3を退避位置に移動させるとともに、ヘッドアップダウンモータドライバ218を駆動して印刷用紙12を印刷準備位置に移動させる。
【0041】
図10は、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100の印刷処理を示したフローチャートである。まず、前記ステップS1−5により印刷を指定された画像を、生成した印刷データを用いて印刷処理を開始する。
【0042】
ステップS2−1においては、メインコントローラ201は、印刷対象として1画面分の印刷データを準備する。すなわち、イメージメモリ224Y,224M,224C,224Oから読み込む。ステップS2−2においては、メインコントローラ201は、カールの矯正前に印刷に用いられるインクの種類が昇華インクか溶融インクかを判断する。このように、メインコントローラ201は、本発明のインク種類判断部として機能する。インクの種類の判断は、画像データが色データであるか否かを基準に実行される。具体的には、インク種類判断部としてのメインコントローラ201は、印刷データが色データ(=イエロー、マゼンダ、シアンのいずれか)であれば、インクの種類が色インクであると判断する。そして、色インクである場合には昇華インクであると判断する。一方、インク種類判断部としてのメインコントローラ201は、印刷データが色データでなければ(例えばオーバーコートのデータであれば)、インクの種類が色インクではないと判断する。そして、色インクではない場合には溶融インクであると判断する。このように、本発明の第一実施形態にかかるカールの矯正方法は、印画に用いられるインクの種類が昇華インクであるか溶融インクであるかを判断するインク種類判断ステップを含む。そして、このインク種類判断ステップにおいては、印刷に用いられるインクが色インクである場合にはインクの種類が昇華インクであると判断され、色インクでない場合には溶融インクであると判断される。
【0043】
そして、メインコントローラ201は、この判断結果(=インク種類判断ステップにおける判断結果)に基づいて、デカール部7によるカールの矯正の程度を変更する。すなわち、メインコントローラ201は、デカール部駆動モータドライバ230を用いてモータ13を駆動し、デカール部7の向きを変更する。具体的には、ステップS2−2においてインクの種類が昇華インクであると判断された場合には(「YES」と判断された場合には)、メインコントローラ201は、カールの矯正の程度(=デカール量)を「強モード」に設定する。一方、ステップS2−2においてインクの種類が溶融インクであると判断された場合には(「NO」と判断された場合には)、メインコントローラ201は、カールの矯正の程度を「弱モード」に設定する。このように、メインコントローラ201は、印刷処理においては、インク種類判断部の判断結果に基づいてデカール部7によるカールの矯正の程度を変更する。すなわち、メインコントローラ201は、本発明のカール矯正量変更部としての機能も有する。そして、本発明の第一実施形態にかかる印刷方法は、ステップS2−3(すなわち、インク種類判断ステップ)において判断されたインクの種類によってカールの矯正の程度を変更するカール矯正量変更ステップを含む。
【0044】
ステップS2−5においては、メインコントローラ201は、ステップS2−1おいて準備した1画面分の印刷データを、ドライバコントローラ225を用いて読み出す。そしてヘッド駆動回路226を用いて印刷ヘッド3を駆動し、読み出した1画面分の画像データの印刷を実施する。ステップS2−6においては、メインコントローラ201は、ステップS2−3またはステップS2−4で設定したカールの矯正の程度に基づいて、カールの矯正を実施する。カールの矯正方法は前記のとおりである。
【0045】
ステップS2−7においては、メインコントローラ201は、次に印刷する画像の印刷データがあるかどうかを判断する。そして、次に印刷する画像の印刷データが存在すると判断された場合には(「YES」と判断された場合には)ステップS2−1に戻る。一方、次に印刷する画像の印刷データが存在しないと判断された場合には(「NO」と判断された場合には)、印刷処理を終了する。
【0046】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と相違する部分について主に説明し、第一実施形態と共通の部分については説明を省略することがある。
【0047】
図11は、本発明の第二実施形態にかかる印刷装置のデカール部7bの構成を、模式的に示した図である。図11に示す部分以外の部分については、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100と同じ構成が適用できる。図11に示すように、本発明の第二実施形態にかかる印刷装置のデカール部7bは、印刷用紙12の搬送方向に交差する方向(換言すると、印刷用紙12の厚さ方向)に往復動できる。そして、デカール部7bの印刷用紙12への突入量(換言すると、デカール部7bと印刷用紙12との相対的な位置)を変更することにより、デカール部7bと印刷用紙12との接触長さと、印刷用紙12にかかる張力を変更できる。なお、「突入量」とは、デカール部7bが印刷用紙12を厚さ方向の一方から他方に向けて押圧する距離をいうものとする。図11中の矢印は、デカール部7bの突入の向きを示す。
【0048】
デカール部7bの印刷用紙12への突入量を大きくすると、印刷用紙12とデカール部7bとの接触長さが長くなるとともに、印刷用紙12にかかる張力が大きくなる。このため、印刷用紙12をしごく力が強くなり、カールの矯正の程度が大きくなる。一方、デカール部7bの印刷用紙12への突入量を小さくすると、印刷用紙12とデカール部7bとの接触長さが短くなるとともに、印刷用紙12にかかる張力が小さくなる。このため、印刷用紙12をしごく力が弱くなり、カールの矯正の程度が小さくなる。このように、本発明の第二実施形態においては、デカール部7bの印刷用紙12への突入量を変更することにより、印刷用紙12のカールの矯正の程度を変更する。
【0049】
そして、第二実施形態においては、昇華インク33,34,35を転写する際には、デカール部7bの突入量を大きくして、カールの矯正の程度を大きくする。一方、溶融インク36を転写するときには、デカール部7bの突入量を小さくして、カールの矯正の程度を小さくする。デカール部7bの印刷用紙12への突入量が大きい状態が「強モード」であり、小さい状態が「弱モード」である。このように、第二実施形態においては、デカール部7bの位置(=印刷用紙12への突入量)を変更することによって、カールの矯正の程度を変更する。それ以外の構成および処理は、本発明の第一実施形態と共通である。すなわち、本発明の第二実施形態においても、メインコントローラ201がカール矯正量変更部として機能する。そして、カール矯正量変更部としてのメインコントローラ201が、デカール部7の印刷用紙12への突入量を変更することによってカールの矯正の程度を変更する。
【0050】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態にかかるカールの矯正方法および印刷装置について説明する。なお、本発明の第一実施形態と共通の部分については説明を省略する。図12は、本発明の第三実施形態にかかる印刷装置のガイド部6とデカール部7cと印刷ヘッド3とプラテンローラ4の構成を、模式的に示した図である。なお、図12に示す部分以外の部分については、本発明の第一実施形態にかかる印刷装置100と同じ構成が適用できる。図12に示すように、本発明の第三実施形態にかかる印刷装置は、印刷ヘッド3とプラテンローラ4による印刷用紙12を挟む圧力(すなわち、印圧)を変更できる。図12中の矢印は、印刷ヘッド3とプラテンローラ4が印刷用紙に加える力を模式的に示す。そして、本発明の第三実施形態にかかる印刷装置は、印刷ヘッド3とプラテンローラ4による印刷用紙12を挟む圧力を変更することにより、カールの矯正の程度を変更する。
【0051】
具体的には、ヘッド圧変更モータドライバ231がモータ14の駆動を制御することで、印刷ヘッド3の印圧を変更し、印刷ヘッド3とプラテンローラ4との間に発生するニップ力を変更する。そして、ニップ力を変更することによって、印刷ヘッド3とグリップローラ9の間に発生する印刷用紙12の張力を変更できる。印刷用紙12にかかる張力が変化すると、デカール部において印刷用紙12に加わる力(=バックカールの向きに曲げる力)が変化するから、カールの矯正の程度も変化する。すなわち、本発明の第三実施形態においては、印刷ヘッド3の印圧が大きい状態が「強モード」であり、印圧が小さい状態が「弱モード」である。
【0052】
本発明の第三実施形態においては、昇華インク33,34,35を転写する際には、印刷ヘッド3の印圧を大きくしてカールの矯正の程度を大きくする(=「強モード」にする)。一方、溶融インク36を転写する際には、印刷ヘッド3の印圧を小さくして、カールの矯正の程度を小さくする(=「弱モード」にする)。それ以外は、本発明の第一実施形態と同じ処理が適用できる。すなわち、本発明の第三実施形態においても、メインコントローラ201がカール矯正量変更部として機能する。そして、カール矯正量変更部としてのメインコントローラ201が、印刷用紙12のデカール部7が押し付けられる部分にかかる張力を変更することによってカールの矯正の程度を変更する。
【0053】
<その他の実施形態>
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。すなわち、前記実施形態の機能を実現するソフトウェアを、ネットワークまたは各種記憶媒体を介してシステムまたは装置に供給する。そして、そのシステムまたは装置のコンピュータ(もしくはCPUやMPUなど)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【0054】
以上、本発明の各種実施形態について、図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。
【0055】
前記実施形態においては、カールの矯正の程度を「強モード」と「弱モード」の二段階としたが、カールの矯正の程度の段階の数は限定されるものではない。三段階以上であってもよく、無段階(カールの矯正の程度が滑らかに連続的に変化する構成)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明において印刷に用いられるインクの種類は限定されるものではない。要は、転写されたインクにひび割れが生じるおそれがある印刷装置であれば、インクの種類が限定されるものではなく、各種印刷装置に適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1:本発明の実施形態にかかる印刷装置、7:デカール部、30:インクリボン、33,34,35:昇華インク(色インク)、36:溶融インク(色インクではないインク)、201:メインコントローラ、12:ロール状の印刷用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻かれた印刷用紙を引き出して、引き出した印刷用紙に昇華インクおよび溶融インクを転写して画像を印刷する印刷装置であって、
前記印刷用紙を、前記印刷用紙のカール方向とは反対側に曲げることにより、前記印刷用紙のカールを矯正するデカール部と、
前記印刷用紙に転写するインクが、昇華インクであるか溶融インクであるかに応じて、前記デカール部によるカールの矯正の程度を変更するカール矯正量変更部と、
を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記カール矯正量変更部は、前記印刷用紙に転写するインクが溶融インクである場合には、昇華インクである場合よりもカールの矯正の程度を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
さらに、印刷に用いられるインクが、昇華インクであるか溶融インクであるかを判断するインク種類判断部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項4】
昇華インクおよび溶融インクを、前記印刷用紙に転写するための印刷ヘッドを有し、
前記デカール部は、前記印刷ヘッドによりインクが転写された印刷用紙のカールを矯正することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記デカール部は、前記印刷ヘッドよりも、印刷方向の下流側に配設されていることを特徴とする請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記デカール部は曲率半径が異なる複数の部分を有し、前記カール矯正量変更部は、前記印刷用紙に押し付けられる前記デカール部の部分を変更することによってカールの矯正の程度を変更することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記カール矯正量変更部は、前記印刷用紙への前記デカール部の突入量を変更することによって、カールの矯正の程度を変更することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記カール矯正量変更部は、前記デカール部に押し付けられる部分にかかる前記印刷用紙の張力を変更することによって、カールの矯正の程度を変更することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項9】
ロール状に巻かれた印刷用紙を引き出して、引き出した印刷用紙に昇華インクおよび溶融インクを転写して画像を印刷する印刷方法であって、
前記印刷用紙を、前記印刷用紙のカール方向とは反対側に曲げることにより、前記印刷用紙のカールを矯正する処理と、
前記印刷用紙に転写するインクが昇華インクであるか溶融インクであるかに応じて、前記印刷用紙のカールの矯正の程度を変更する処理と、
を含むことを特徴とする印刷方法。
【請求項10】
ロール状に巻かれた印刷用紙を引き出して、引き出した印刷用紙に昇華インクおよび溶融インクを転写して画像を印刷する印刷装置の印刷方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記印刷用紙を、前記印刷用紙のカール方向とは反対側に曲げることにより、前記印刷用紙のカールを矯正する処理と、
前記印刷用紙に転写するインクが昇華インクであるか溶融インクであるかに応じて、前記印刷用紙のカールの矯正の程度を変更する処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−192681(P2012−192681A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59531(P2011−59531)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】