説明

即席麺類

【課題】本発明は、植物ステロール類を用いても、製麺適性の悪化による麺表面の荒れに由来する湯戻しして麺をほぐす際に生ずる麺の切断現象を防止し、しかも、湯戻し時間が短縮された新規な即席麺類を提供することを課題とする。
【解決手段】植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合してなる即席麺類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類を用いても、製麺適性の悪化による麺表面の荒れに由来する湯戻しして麺をほぐす際に生ずる麺の切断現象を防止し、しかも、湯戻し時間が短縮された新規な即席麺類に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺類は、湯を加えたり短時間湯煮したりする等の極めて簡単な操作で湯戻しして喫食できることから、昼食や夜食等様々な食場面で広く利用されている。このような即席麺類としては、油揚げ麺や、熱風乾燥、凍結乾燥等のノンフライ麺等があるが、いずれも湯戻し時間をより短縮することが望まれている。
【0003】
即席麺類の湯戻し時間を短縮する技術としては、例えば、配合原料として、特定量のトレハロースを用いることが特開平7−213242号公報(特許文献1)に提案されている。また、油揚げ即席麺を製造する際のフライ油に、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有させることが特開平9−275900号公報(特許文献2)に提案されている。しかしながら、前者の方法ではトレハロースにより甘い味となり、また、後者の方法ではジグリセリンモノ脂肪酸エステルにより異風味が生じてしまい、いずれにしても湯戻し時間を短縮するために用いたこれらの添加材により、麺類の風味が損なわれてしまう問題があった。
【0004】
一方、植物の脂溶性画分から得られる植物ステロールは、風味をあまり有しない食品素材であるが、血中の総コレステロール濃度及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有することから、食品原料として利用が期待されている食品素材である。本願発明の課題とは異なるが、このような植物ステロールを麺類や皮物等の麺帯食品に品質改良を目的として配合することが特開2003−284516号公報(特許文献3)に提案されている。当該特許文献には、植物ステロールを配合することにより、麺帯食品の食感や色調等を改良できることが記載されているが、植物ステロールが即席麺類の湯戻りに与える影響に関しては一切検討されていない。
【0005】
このような状況下、本発明者は、風味をあまり有しない健康機能食品素材である植物ステロールを即席麺類に配合することにより、即席麺類の湯戻し時間が短縮されることを期待してこれを試みたところ、植物ステロールを配合した生地はべたつきが生じて製麺適性が悪く製麺機で製麺すると麺線の表面が荒れてしまった。更に、この表面の荒れは、油ちょうや熱風乾燥等により激しくなったことから、得られた即席麺は麺表面が大変荒れたものとなった。そして、このようにして得られた即席麺類は、麺表面が荒れているため、湯戻しして麺をほぐす際に麺が細かく切れてしまい商品価値がないものとなった。したがって、植物ステロールを配合した即席麺類を食品工業的に製造するのは困難であり、また、植物ステロールが即席麺類の湯戻りに与える影響もはっきりしなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平7−213242号公報
【特許文献2】特開平9−275900号公報
【特許文献3】特開2003−284516号公報
【特許文献4】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、植物ステロール類を用いても、製麺適性の悪化による麺表面の荒れに由来する湯戻しして麺をほぐす際に生ずる麺の切断現象を防止し、しかも、湯戻し時間が短縮された新規な即席麺類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するため、更に鋭意研究を行った結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合すれば、意外にも、製麺適性が悪化することなく表面の荒れがない即席麺類が製造でき、当該即席麺類は、湯戻しして麺をほぐす際に麺が細かく切れたりすることがない、つまり、麺の切断現象が防止され、更には、湯戻し時間が短縮されることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合してなる即席麺類、(2)前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)記載の即席麺類、(3)前記複合体を穀粉に対して0.05%〜10%配合してなる(1)又は(2)記載の即席麺類、(4)前記複合体が乾燥複合体である(1)乃至(3)のいずれかに記載の即席麺類、である。
【0010】
なお、本出願人は、既に前記植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を出願している(特許文献5:WO2005/041692)。しかしながら、当該出願には、前記複合体を麺類をはじめとする種々の食品に含有させても、これらの風味と食感を損なわないことが記載されているのみであり、前記複合体を即席麺類に配合することや、その場合に湯戻し時間が短縮されるかどうかについては、なんら記載も示唆もされていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の即席麺類は、短時間の湯戻しで喫食できる利便性及び健康機能を兼ね備えたものであり、このような本発明の即席麺類によれば、即席麺類市場の更なる需要を拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0013】
本発明の即席麺類とは、穀粉を主原料として製麺した麺線を少なくとも成分澱粉の一部をアルファ化して乾燥してなるものであり、湯を加えることにより、または、湯煮することにより食用に供されるものをいう。ここで、穀粉は、一般的に麺類に用いる穀類粉末や澱粉類であれば特に制限はなく、具体的には、例えば、小麦粉、そば粉、米粉等の穀類粉末、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉等の生澱粉及びこれら生澱粉に常法により化学的処理や物理的処理を行った化工澱粉や加工澱粉等である。このような本発明の即席麺類としては特に制限はなく、例えば、その乾燥方法に由来して、油揚げ麺、熱風乾燥麺、凍結乾燥麺等と称される即席麺類、あるいは、麺類の種類に由来して、即席中華麺、即席和風麺等と称される即席麺類、更には、これら即席麺類を食器として使用できる容器に入れて販売されている即席カップ麺と称される即席麺類等が挙げられる。
【0014】
本発明の即席麺類は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されてなることを特徴とする。後述の比較例及び試験例に示すように、即席麺類に植物ステロール類をそのまま用いると、生地のべたつきによる製麺適性の悪化により麺表面が荒れた即席麺類となることから、湯戻しして麺をほぐす際に麺が細かく切れてしまい商品価値がないものとなる。これに対して、本発明の即席麺類は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を用いることにより、製麺適性の悪化による麺表面の荒れに由来する湯戻しして麺をほぐす際に生じる麺の切断現象を防止できる。しかも、本発明の即席麺類は、湯戻し時間も短縮することができる。
【0015】
本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体における前記卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0016】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0017】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス社製等)を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、また、当該複合体を即席麺類に配合したとき食感に影響を与え難くすることができる。
【0018】
本発明の即席麺類に配合するための植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に卵白液や食塩水等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス社製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0019】
植物ステロールは、水への分散処理を施しても、その後、水面に浮いてしまう性質を有する。これに対し本発明で用いる複合体は、後述で示すとおり水に分散する性質を有する。よって、複合体は、両親媒性を有する卵黄リポ蛋白質が、当該疎水部分を疎水物である植物ステロール類の表面側に、親水部分を外側に向けて植物ステロール類の表面に付着した状態と推定される。このように本発明の複合体は、表面が親水化されていることから、植物ステロール類をそのまま用いた場合と異なり、調製した生地にべたつきが生じずに問題なく製麺して表面の荒れていない即席麺類を製造できると推定される。更に、このように生地中に均一に分散された複合体が、即席麺類に含まれる成分澱粉の状態や、乾燥処理により形成される即席麺類の多孔質構造等に影響を与え、その結果、即席麺類の湯戻し時間が短縮されるのではないかと推定される。
【0020】
本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述で示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成しているところ、植物ステロール類が前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、即席麺類に予期せぬ卵黄風味が付いてしまう可能性がある。一方、前記範囲より多いと植物ステロール類が水分散性の性質を有する複合体を形成し難くなることから、本発明の効果が得られ難くなる。
【0021】
本発明の即席麺類に用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して0.05〜10%が好ましく、0.2〜5%がより好ましい。複合体の配合量が前記範囲より少ないと、湯戻し時間が短縮される効果が得られ難くなり好ましくなく、一方、前記範囲より多いと、湯戻しした麺類の食感が粉っぽくなる傾向があり好ましくない。
【0022】
本発明の即席麺類には、穀粉、清水、食塩、かんすい等の一般的な麺類原料及び前記複合体の他に種々の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、デキストリン、糖アルコール、難消化性デキストリン、ヘミセルロース、乾燥卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ジェランガム等の物性改良剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、酢酸ナトリウム等のpH調整剤、プロタミン等の保存料等が挙げられる。
【0023】
本発明の即席麺類は、上述の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合する他は、従来の即席麺類の一般的な製造方法に準じて製造することができる。すなわち、まず、小麦粉、そば粉、米粉、澱粉等の穀粉に、本発明の複合体、清水、食塩、かんすい等を加えて麺用ミキサー等で混捏して生地を調製した後、製麺機等で製麺する。この際、複合体として上述の乾燥複合体を用いると、小麦粉等の粉体原料と予め粉体混合してから配合することができ、より均一に複合体が分散した生地を調製できて好ましい。次いで、製麺して得られた麺線を蒸しや茹で等によりアルファ化した後、油ちょう、熱風乾燥、凍結乾燥等により乾燥することにより、本発明の即席麺類を製造することができる。本発明においては、このように即席麺類に複合体を配合することから、植物ステロール類をそのまま配合した場合のように生地にべたつきが生じて製麺適性が悪くなって即席麺類の麺表面が荒れたりすることなく、食品加工設備を用いて問題なく製麺して表面の荒れていない即席麺類を製造することができる。
【0024】
以上のようにして製造した本発明の即席麺類は、湯を加えて湯戻ししても、あるいは、水や湯等を加えて鍋等で湯煮して湯戻ししても、短時間に湯戻しすることができる。また、植物ステロール類がそのまま配合された即席麺類のように、製麺適性悪化による麺表面の荒れに由来して、湯戻し後、麺をほぐす際に麺が細かく切れたりすることがない。
【0025】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを配合してなる即席麺類について、実施例、比較例及び試験例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0026】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0027】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0028】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0029】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0030】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0034】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0035】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0036】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0037】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0038】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0039】
【表3】

【0040】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0041】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0042】
[調製例3]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。
【0043】
[実施例1]即席中華麺(油揚げ麺)
まず、小麦粉(準強力粉)1000部、食塩20部、かんすい15部、調製例3で得られた乾燥複合体15部及び清水350部を用意した。次に、麺用ミキサーに、小麦粉及び調製例3で得られた乾燥複合体を投入して充分に攪拌して粉体混合した後、更に攪拌しながら、食塩及びかんすいを清水に溶解した練り水をすこしずつ添加して均一になるまで充分に混捏して生地を得た。続いて、得られた生地を製麺機を用い、厚さ1mmに圧延した後、#24角の切り刃により切り出して麺線を得た。更に、得られた麺線を雰囲気温度90℃のスチーマーで2分間蒸してアルファ化した後、1食分ずつリテーナーに入れ、140℃で1.5分間油ちょうし、即席中華麺を得た。なお、製造時、生地にべたつきが生じて製麺適性が悪くなることがなく、問題なく製麺して表面の荒れていない即席麺類が得られた。また、即席麺類の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して1.5%であった。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、乾燥複合体を配合しない他は実施例1と同じ配合と製法で即席中華麺を得た。
【0045】
[比較例2]
実施例1において、乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は実施例1と同じ配合と製法で即席中華麺を得た。この際、調製した生地にべたつきが生じて、製麺機を用いて製麺すると麺線の表面が荒れてしまった。この表面の荒れは、油ちょうにより更に激しくなったことから、得られた即席麺類は表面が大変荒れていた。
【0046】
[試験例1]即席中華麺(油揚げ麺)
実施例1、比較例1及び2で得られた即席中華麺一食分ずつ(60g)をそれぞれポリスチレン製のカップに入れ、90℃の湯400mlずつを加えて蓋をし、3分間静置した後、箸で攪拌して麺をほぐして速やかに試食を開始して、中華麺の湯戻り状態を評価した。ここで、比較例2の即席中華麺は、湯戻し後に麺をほぐす際に麺が細かく切れてしまったため、湯戻り状態の評価を中止した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表4より、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されている実施例1の即席中華麺(油揚げ麺)は、複合体が配合されていない比較例1の即席中華麺に比べて、湯戻し時間が短縮されていることが理解できる。なお、植物ステロールをそのまま配合した比較例2の即席中華麺は、湯戻し後に麺をほぐす際に麺が細かく切れてしまい商品価値がないものとなった。また、ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0049】
[実施例2]即席中華麺(熱風乾燥麺)
原料として、小麦粉(準強力粉)900部、馬鈴薯生澱粉100部、食塩20部、かんすい15部、調製例3で得られた乾燥複合体15部及び清水350部を用いた他は、実施例1と同様に製麺して麺線を得た。続いて、得られた麺線を雰囲気温度90℃のスチーマーで2分間蒸してアルファ化した後、1食分ずつリテーナーに入れ、85℃で90分間熱風乾燥して、即席中華麺を得た。なお、製造時、生地にべたつきが生じて製麺適性が悪くなることがなく、問題なく製麺して表面の荒れていない即席麺類が得られた。また、即席麺類の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して1.5%であった。
【0050】
[比較例3]
実施例2において、乾燥複合体を配合しない他は実施例2と同じ配合と製法で即席中華麺を得た。
【0051】
[比較例4]
実施例2において、乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は実施例2と同じ配合と製法で即席中華麺を得た。この際、調製した生地にべたつきが生じて、製麺機を用いて製麺すると麺線の表面が荒れてしまった。この表面の荒れは、熱風乾燥により更に激しくなったことから、得られた即席麺類は表面が大変荒れていた。
【0052】
[試験例2]即席中華麺(熱風乾燥麺)
実施例2、比較例3及び4で得られた即席中華麺一食分ずつ(60g)をそれぞれ鍋に入れ、90℃の湯500mlずつを加えて3分間微沸騰水中で加熱調理した後、椀に入れて箸で攪拌して麺をほぐして速やかに試食を開始し、中華麺の湯戻り状態を評価した。ここで、比較例4の即席中華麺は、湯戻し後に麺をほぐす際に麺が細かく切れてしまったため、湯戻り状態の評価を中止した。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
表5より、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されている実施例2の即席中華麺(熱風乾燥麺)は、複合体が配合されていない比較例3の即席中華麺に比べて、湯戻し時間が短縮されていることが理解できる。なお、植物ステロールをそのまま配合した比較例2の即席中華麺は、湯戻し後に麺をほぐす際に麺が細かく切れてしまい商品価値がないものとなった。また、ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合してなることを特徴とする即席麺類。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載の即席麺類。
【請求項3】
前記複合体を穀粉に対して0.05%〜10%配合してなる請求項1又は2記載の即席麺類。
【請求項4】
前記複合体が乾燥複合体である請求項1乃至3のいずれかに記載の即席麺類。