説明

厚鋼板の矯正方法および矯正装置

【課題】厚鋼板を上下一対のワークロールで圧下して形状矯正を行う際に生じる鋼板の反りの発生を防止することができる厚鋼板の矯正方法および矯正装置を提供する。
【解決手段】上上下一対のワークロールを有する矯正機、および、該矯正機の上流側および下流側にピンチロール、ガイドロール、テーブルロールを有する矯正装置を用いて厚鋼板を圧下して形状矯正を行う方法であって、 前記厚鋼板の圧下中におけるワークロールの沈み込み量を見込んで、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことにより、矯正中における鋼板の反りの発生を防止することを特徴とする厚鋼板の矯正方法およびそれに用いる矯正装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下一対のワークロールの前後にピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールを有する矯正装置を用いる厚鋼板の矯正方法および矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の厚鋼板の矯正では、例えば、特開平08ー257637号公報に開示されているようなローラレベラー方式のコールドレベラーやプレス装置が用いられてきた。
このローラレベラー方式の矯正装置では、3本のロールにより3点曲げを行うことにより矯正されるが、矯正対象材の先端および尾端は、ロールピッチ間の制約により、鋼板先端部がロール3本にかからず十分な曲げ加工を受けることができないため十分な矯正効果が得られないという問題があった。
また、プレス装置による矯正では非フラット部を3点曲げで矯正を行なうが生産性が低いことが問題とされてきた。
また、別の矯正方法として、例えば、特開2000-102805号公報に、本発明のように上下一対のワークロールにより軽圧下を行う方法が記載されているが、コイル状に巻き取られる帯鋼鈑のように1本の圧延板の長さが長い薄鋼板の場合には、鋼板の反りはあまり問題にならないが、本発明が対象とする例えば板厚が4.5mm以上の厚鋼板の場合には、矯正中に発生する鋼板の反りが問題となっていた。
【特許文献1】特開平08ー257637号公報
【特許文献2】特開2000-102805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、厚鋼板を上下一対のワークロールで圧下して形状矯正を行う際に生じる鋼板の反りの発生を防止することができる厚鋼板の矯正方法および矯正装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前記課題を解決するために鋭意検討の結果、上下一対の作業用ロールの圧下荷重による沈み込み量を見込んで、ワークロールの前後のロールの上面レベルをあらかじめ下げておくことによって、厚鋼板を上下一対のワークロールで圧下して形状矯正を行う際に生じる鋼板の反りの発生を防止することができる厚鋼板の矯正方法および矯正装置を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)上下一対のワークロールを有する矯正機、および、該矯正機の上流側および下流側にピンチロール、ガイドロール、テーブルロールを有する矯正装置を用いて厚鋼板を圧下して形状矯正を行う方法であって、
前記厚鋼板の圧下中におけるワークロールの沈み込み量を見込んで、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことにより、矯正中における鋼板の反りの発生を防止することを特徴とする厚鋼板の矯正方法。
(2)前記厚鋼板の板厚、板幅、および、圧下荷重により前記ワークロールの沈み込みの見込み量を変更し、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことを特徴とする(1)に記載の厚鋼板の矯正方法。
(3)(1)または(2)に記載の厚鋼板の矯正方法に用いる矯正装置であって、
前記ピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、それぞれ独立に設定するレベル調節手段を有し、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことを特徴とする厚鋼板の矯正装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、上下一対の作業用ロールの圧下荷重による沈み込み量を見込んで、ワークロールの前後のピンチロール、ガイドロール、テーブルロールの上面レベルをあらかじめ下げておくことによって、厚鋼板を上下一対のワークロールで圧下して形状矯正を行う際に生じる鋼板の反りの発生を防止することができる厚鋼板の矯正方法および矯正装置を提供することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態について、図1および図2を用いて詳細に説明する。
図2は、上下一対のワークロールにより軽圧下を行う従来の矯正方法を例示する図である。
図2において、PRはピンチロール、GRはガイドロール、TRはテーブルロール、WRはワークロール、BURはバックアップロール、Sはトラッキングセンサーを示す。
本発明者等は、厚鋼板を上下一対のワークロールにより矯正する際に発生する反りの原因について検討を行った結果、図3に示すように、上下一対のワークロールにより軽圧下を行う場合、圧下荷重によってワークロールが図2の矢印の方向に沈み込むため、下ワークロールの上面レベルが、ワークロール前後に設けたピンチロール、ガイドロール、テーブルロールの下ロールの上面レベルより下がってしまうことに起因して、図2に示すように鋼板に曲げ荷重がかかることから、鋼板に反りが発生する原因となっていたことを突き止めた。
すなわち、図2の場合には、鋼板に下に凸の曲げ応力が働くため、鋼板の下側が凸の上反りが発生する。
そこで、本発明においては、上下一対のワークロールの前後にピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールを有する矯正装置を用いて厚鋼板の形状矯正を行う方法において、前記厚鋼板の圧下中におけるワークロールの沈み込み量を見込んで、前記ピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことにより、矯正中における鋼板の反りの発生を防止することを特徴とする。
【0007】
図1は、本発明における厚鋼板の矯正方法の実施形態を例示する図である。
図1において、PRはピンチロール、GRはガイドロール、TRはテーブルロール、WRはワークロール、BURはバックアップロール、Sはトラッキングセンサーを示す。
図1の矢印で示す方向に矯正対象の例えば板厚が2mm以上の厚鋼板が搬送され、ピンチロール(PR)およびガイドロール(GR)によって挟み込まれた異形厚鋼板を、上下一対のワークロール(WR)によって一定荷重にて圧下して、伸び率0.2〜0.5%の範囲で矯正することによって、厚鋼板の変形矯正をオンラインで行うことができるうえ、最適な圧下を容易に設定することができる。
【0008】
本発明においては、厚鋼板の圧下中におけるワークロール(WR)の沈み込み量を見込んで、前記ピンチロール(PR)、ガイドロール(GR)、および、テーブルロール(TR)の上面レベルを、前記ワークロール(WR)の圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことにより、圧下によりワークロール(WR)が沈み込んで下がった状態で鋼板がフラットな状態となることから矯正中における鋼板の反りの発生を防止することができる。
また、トラッキングセンサー(S)によって、鋼板の位置に応じた矯正装置の動作制御を行うことができる。
また、厚鋼板の板厚、板幅、および、圧下荷重により、ワークロール(WR)の沈み込みの見込み量を変更することが好ましい。
【0009】
板厚、板幅、成分(材質)、温度で圧下荷重が変化し、この圧下荷重によってワークロール(WR)の沈み込み量が変化する(最大20mm程度)ため、圧下荷重に応じた沈み込み量を過去の実績からあらかじめ求めてテーブル化しておき、その結果を沈み込みの見込み量として、その分だけ、ワークロール(WR)前後のピンチロール(PR)、ガイドロール(GR)、および、テーブルロール(TR)の上面レベルを、ワークロール(WR)の圧下前の上面レベルより下げておくことによって、より正確にフラットな状態で矯正を行うことができ、本発明の反り発生防止効果をさらに高めることができる。
また、ワークロール前後のピンチロール、ガイドロール、テーブルロールを下げるタイミングは、鋼板の先端がワークロール前段のピンチロールに到達する前が好ましく、また、元のレベルに戻すタイミングは、鋼板の後端がワークロール後段のピンチロールを抜けた後が好ましい。
本発明の厚鋼板の矯正方法を実施するための矯正装置としては、前記ピンチロール(PR)、ガイドロール(GR)、および、テーブルロール(TR)の上面レベルを、それぞれ独立に設定するレベル調節手段を有することが好ましい。
ピンチロール(PR)、ガイドロール(GR)、および、テーブルロール(TR)の上面レベルを、それぞれ独立に設定するレベル調節手段を設けることによって、ワークロール(WR)の上面レベルより沈み込み量だけあらかじめ下げることができる。
なお、本発明においては、レベル調整手段は問わないが、汎用性およびガタ防止の観点から、ネジの回転によって、ピンチロール(PR)、ガイドロール(GR)、および、テーブルロール(TR)のそれぞれのロールチョックを上下するネジ機構が好ましい。
【0010】
本発明においては、ワークロール(WR)を支持するバックアップロール(BUR)の構造は問わないが、軸方向に3本以上に分割されたバックアップロール(BUR)を用いることにより、鋼板の幅方向に板厚偏差に基づいた圧下制御を行うことができ板幅方向の形状を均一化することができるので、鋼板の幅方向に不均一な反りを防止することができる。
なお、上記の3本以上に分割されたバックアップロールのそれぞれに設けられたアクチュエータによってワークロール(WR)による圧下制御を行ってもよいが、分割バックアップロールに共通に設けられたアクチュエータにより圧下制御を行うことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における厚鋼板の矯正方法の実施形態を例示する図である。
【図2】上下一対のワークロールにより軽圧下を行う従来の矯正方法を例示する図である。
【符号の説明】
【0012】
PR ピンチロール
GR ガイドロール
TR テーブルロール
WR ワークロール
BUR バックアップロール
S トラッキングセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対のワークロールを有する矯正機、および、該矯正機の上流側および下流側にピンチロール、ガイドロール、テーブルロールを有する矯正装置を用いて厚鋼板を圧下して形状矯正を行う方法であって、
前記厚鋼板の圧下中におけるワークロールの沈み込み量を見込んで、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことにより、矯正中における鋼板の反りの発生を防止することを特徴とする厚鋼板の矯正方法。
【請求項2】
前記厚鋼板の板厚、板幅、および、圧下荷重により前記ワークロールの沈み込 みの見込み量を変更し、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、お よび、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベル より前記沈み込み量だけ下げておくことを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板の 矯正方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の厚鋼板の矯正方法に用いる矯正装置であって、
前記ピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、それぞれ独立に設定するレベル調節手段を有し、前記矯正機の下流側のピンチロール、ガイドロール、および、テーブルロールの上面レベルを、前記ワークロールの圧下前の上面レベルより前記沈み込み量だけ下げておくことを特徴とする厚鋼板の矯正装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−7708(P2007−7708A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193650(P2005−193650)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】