説明

原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定方法および測定装置

【課題】本発明の目的は、離れた接地点間の電気的特性を測定可能にすることである。
【解決手段】本発明は、接地点間の電気的特性を測定するネットワークアナライザと、センサ,前置増幅器,モータ、及びインバータと接地点との間をネットワークアナライザと接続する測定用同軸ケーブルを備え、それぞれの測定用同軸ケーブルのシールドを短絡する短絡ケーブルを備えることを特徴とする。
【効果】本発明によれば、離れた接地点間の電気的特性が測定可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントの動力系統で発生するノイズは計装系統に伝播する。そのため、従来から多くのノイズ対策案が立案・実施されている。ノイズの主な伝播機構は、静電誘導,電磁誘導,接地を介した回り込み,輻射電磁界などが考えられる。
【0003】
静電誘導は、動力系統と計装系統間の浮遊容量による。電磁誘導は動力系統と計装系統間の相互インダクタンスによる誘導で発生する。接地を介した回り込みは、動力系統から接地系に流れるノイズ電流の一部が計装系統と接地系で構成されるループに流れることで、計装系統にノイズとして現れる。輻射電磁界は主に高周波で問題になることが多く、計装ケーブルに高周波の起電力を生じさせる原因となり、結果的に計装系統にノイズとなって現れる。但し、浮遊容量が存在せず、計装系統が完全に接地系と分離されていれば、上記の原因があったとしても計装系統にノイズは現れない。計装系統自体に、ノイズの原因となるコモンモード電流が流れるループが存在しないためである。
【0004】
しかし、現実には安全上の理由で、プラントに設置する機器,計装の収納ケースは接地する必要があり、浮遊容量を通して接地系と接続される。このため、計装系統に出現するノイズは接地系のノイズ伝播特性にも依存すると考えられるが、従来、この点の定量的な議論は必ずしも充分になされていなかった。静電誘導遮蔽,電磁誘導遮蔽,輻射電磁界の抑制,接地を介した動力系統,計装系統のインピーダンス増加策などの対策をとることで、接地系のノイズ伝播特性が不明でも、ある程度の対策ができていたからである。この点で、動力系統・計装系統の敷設設計は、主に経験則を取り入れた設計手法が主流となっていた。
【0005】
インピーダンス測定の一例として、特許文献1はインピーダンス測定における直流バイアスの印加装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−17458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
経験則を取り入れた敷設設計は安全側の設計となり、敷設工事のコストを上昇させる可能性がある。最近では、プラントや計装のコストを低減させる観点から、動力系統・計装系統の敷設方法も最適化が望まれている。そして、より精度の高い耐ノイズ対策効果を評価できることが望まれている。評価に際し特に不明な点が多いノイズ伝播特性が、接地系を介したノイズ伝播特性である。
【0008】
接地系を介したノイズ伝播特性は、接地間のインピーダンスネットワークを明確にすることで推定できる。即ち、接地点間のインピーダンス値によって、接地系に接続した動力系統を流れるコモンモード電流の大きさや、動力系統から計装系統に分流する電流の大きさが決まる。動力系統に流れるコモンモード電流が大きい場合、接地系を介して計装系統にも影響が及ぶ可能性がある。この場合、動力系統ケーブルにコモンモードフィルタを適用することで、コモンモード電流を抑制できる。
【0009】
ここで、コモンモードフィルタの効果を定量的に把握する方法は、実験で確認する方法もあるが、接地系のノイズ伝播特性や接地点間のインピーダンスネットワークのインピーダンス値が分っていれば、解析的評価も可能である。また、計装系統ケーブルにコモンモードフィルタを適用して、その効果を解析的に確認することができる。例えば、コモンモードフィルタでノイズを抑制しようとする場合、動力系統と計装系統のどちらに適用しても効果が同等の場合、動力系統のケーブルは太く、前記ケーブルに流れる電流も多い。そのため、計装系統にコモンモードフィルタを適用した方がコストを下げられる。このような定量的評価は、接地系のノイズ伝播特性や接地点間のインピーダンスネットワークのインピーダンス値を知ることで可能となる。
【0010】
プラント設計のうち、接地幹線の仕様や配置は設計事項である。但し、実際の接地系は接地幹線以外の建屋の鉄骨などとも一体化しており、ノイズ伝播特性の評価ではこれらも考慮する必要がある。解析的方法でノイズ予測をするためには、各接地点がどのような部材で電気的に接続されているかを明確にする必要がある。しかし、各接地点の電気的接続は、建屋の建設後に始めて明確になる。そして、建屋の建設後、接地点間の電気的接続部分の大半は床や壁などで覆われており、その接続部分を観察して、どのような部材が関与しているかを知ることは不可能である。
【0011】
つまり、接地点間のノイズ伝播特性を知るためには、接地点間のインピーダンスの配置とその値を明らかにする必要がある。このため、接地点間のインピーダンス測定が必要である。インピーダンスの測定手段は、インピーダンスアナライザやネットワークアナライザがある。インピーダンスアナライザは、2点間のインピーダンスを測定できる。一方、ネットワークアナライザでは、4点間のSパラメータが同時測定できるものが市販されている。建屋の建設後、測定できる場所が限定されるため、インピーダンス推定のための情報量を多く得られる点で、Sパラメータ測定が有利である。以下で述べる電気的特性とは、このインピーダンスもしくはSパラメータを指す。
【0012】
接地点間の電気的特性を把握する手段は、直接、接地点間の電気的特性を測定する方法が考えられる。接地点の電気的特性として接地抵抗があり、接地抵抗の測定は一般的である。但し、ノイズ評価を目的とする場合の電気的特性は主にインダクタンスが重要であり、この点従来の測定技術は利用できない。従来、インダクタンスの測定にはインピーダンスアナライザが使用されている。同様に、ネットワークアナライザによるSパラメータ測定でもインピーダンスに関する情報を得ることができる。
【0013】
但し、これらの測定装置は、主に端子間隔が数cm程度の電子部品の特性測定を目的としており、接地点間の距離が数十mとなる端子間のインピーダンス測定には向いていない。インピーダンスアナライザやネットワークアナライザの測定端子間のシールドは同電位に保つ必要があるが、原子力発電プラントのように、端子間の距離が離れていると、同電位に保つことができなくなる点が問題であった。
【0014】
また、特許文献1において端子間の距離が離れている場合の解決策は示唆されていない。
【0015】
そこで本発明の目的は、離れた接地点間の電気的特性を測定可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、接地点間の電気的特性を測定するネットワークアナライザと、センサ,前置増幅器,モータ、及びインバータと接地点との間をネットワークアナライザと接続する測定用同軸ケーブルを備え、それぞれの測定用同軸ケーブルのシールドを短絡する短絡ケーブルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、離れた接地点間の電気的特性が測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】接地系ノイズ伝播特性測定装置によるプラントの動力系統と計装系統間のノイズ伝播特性測定の全体説明図である。
【図2】ネットワークアナライザの測定用同軸ケーブルの校正実施ブロック図である。
【図3】短絡線ケーブルの詳細構成を示したブロック図である。
【図4】周波数特性補正器の具体的構成例を示した図である。
【図5】図3の回路モデルでのシミュレーションで得た短絡線のインダクタンス低減効果を示すグラフである。
【図6】動力系統と計装系統の接地間の回路モデルであり、Sパラメータを抵抗・インダクタンスに変換する手順説明のための図である。
【図7】ネットワークアナライザを接地系から電気的に分離するための接続方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の実施例は、原子力発電プラント等において動力系統から計装系統に伝播するノイズ特性を評価するためのノイズ伝播特性測定方法および装置に関するものである。
【0020】
そして、以下の実施例は、プラント内の動力系統と計装系統それぞれの接地間の電気的特性を測定しようとするものであり、ネットワークアナライザと接地点間を測定用同軸ケーブルで結び、測定用同軸ケーブルのシールド間を短絡ケーブルで短絡する構造としている。
【実施例1】
【0021】
以下、本実施例について詳細に説明する。本実施例は、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の原子炉圧力容器内における中性子を計測する核計装システムの接地系と、原子炉の冷却材を循環させるためのインターナルポンプ駆動機構の接地系の電気的特性を測定する接地系ノイズ伝播特性測定装置である。
【0022】
図1は、本実施例の接地系ノイズ伝播特性測定装置を、ABWRのインターナルポンプ駆動機構の接地系と核計装システムの接地系との間の電気的特性測定に利用した場合の装置構成を示す。
【0023】
原子炉圧力容器1は、原子炉格納容器8内に収納されている。原子炉圧力容器1の内部には、中性子束の量を測定するセンサである電離箱3A,3Bが計装管2A,2Bの内部に収納されている。原子炉圧力容器1の脚部付近には、原子炉圧力容器1内の冷却材を循環させるためのインターナルポンプ4A,4Bが設置されている。インターナルポンプ4A,4Bは、駆動部であるモータ5A,5Bにより駆動される構造となっている。これらのモータ5A,5Bは三相電源12,インバータ11,動力ケーブル6A,6Bを介して駆動する。制御部であるインバータ11は、モータに供給する電流の周波数を変えて、モータ5A,5Bの回転数を変える。動力ケーブル6A,6Bはペネトレーション9を介して原子炉格納容器8を貫通しており、原子炉格納容器8の外側に設置されている。核計装システムは電離箱3A,3Bからの検出信号を信号ケーブル7A,7Bを介して前置増幅器13に導く。信号ケーブル7A,7Bは、ペネトレーション10を介して原子炉格納容器8を貫通し、敷設されている。前置増幅器13の出力は中性子モニタ14に入力され、時々刻々の中性子束の変化を観測できるようになっている。
【0024】
動力系において、インバータ11の筐体は接地点15に接続され、モータ5Aの筐体は接地点16に接続されている。一方、計装系において、前置増幅器13の筐体は接地点17に接続され、電離箱3Aは図示していない浮遊容量を介して接地点18に接続されている。
【0025】
接地点間の電気的特性を測定するためのネットワークアナライザ20は4ポートを有しており、各ポートと接地点間を測定用同軸ケーブル21A〜21Dの芯線と接続してある。測定用同軸ケーブル21A〜21Dのシールドは、短絡ケーブル22A,22B,22Cで接続してある。
【0026】
以上、プラントの接地間の電気的特性測定のための装置構成について説明した。なお、インターナルポンプ5は2台のみ図示したが、実際には10台装備されている。また、起動領域の中性子モニタに用いる核計装システムの電離箱3も2系統のみ示したが、実際には10系統存在するが、説明を容易にするため省略した。
【0027】
図1において、インバータ11から発生したノイズは、動力ケーブル6A,モータ5A,接地点16,接地点15からなるループを流れる。このとき、接地点15,16は、接地点17,18とも低いインピーダンスで結合されている。そのため、ノイズは前置増幅器13,信号ケーブル7A,電離箱3A,接地点18,接地点17からなるループにも一部分流する。この接地間の電気的結合を測定するための方法を下記で説明する。
【0028】
次に、ネットワークアナライザ20の校正手順を説明し、短絡線の導入が必要であることを示す。
【0029】
図2はネットワークアナライザ20の校正体系である。ネットワークアナライザ20には4つのポートが配置されており、測定用同軸ケーブル21A〜21Dが校正器201に接続されている。校正器201は、ネットワークアナライザ20と校正器201間に接続した測定用同軸ケーブル21A〜21Dの電気的特性を測定し、接地間の電気的特性を測定した結果から測定用同軸ケーブル21A〜21Dそれぞれの影響を差し引くために用いる。ここでは、電気的特性としてSパラメータを用いる。Sパラメータは、各ポート間の反射係数および透過係数からなる。このため、校正時に、必要なポートの接続や切り離しが必要となる。この接続や切り離しの指令は、校正用制御ケーブル202を介して行う。校正器201は、これらのスイッチ回路を内蔵する。そして、校正器201のケースはシールドされ、測定用同軸ケーブル21A〜21Dのシールドに接続されている。校正器201のケース自体も10cm程度である。つまり、4本の測定用同軸ケーブル21A〜21Dのシールドは短絡されている。一方、接地間の電気的特性を測定する際に、接地間が何らかのケースに収納されているわけではない。よって、測定用同軸ケーブル21A〜21Dのシールドは、接続先が無い。また、プラントの接地間は距離が数十m離れているところが多い。そして、測定用同軸ケーブル21A〜21Dの抵抗やインダクタンスは接地間の値よりも大きい可能性があり、その影響を除くことは極めて重要である。
【0030】
本測定装置は、極力、実測時の体系を校正時の体系に近づけるため、同軸ケーブル間のシールドを短絡する。但し、短絡線も数十mを越える長さとなるため、単純にシールド間を金属線で結んでも短絡したとは言いがたい。ここで、短絡線の抵抗は、短絡線を太くすることで抵抗を小さくできる。しかし、短絡線を太くする、或いは短絡線の数を増やしても、インダクタンスを画期的に小さくすることは難しい。そこで、本実施例では、以下の方法でインダクタンスを小さくする。
【0031】
図3を用いて、図1に示す短絡ケーブル22A〜22Cの構成・機能の詳細を説明する。
【0032】
図3は、接地点15から接地点17に接続した短絡ケーブル22Aの詳細構成を示した図である。短絡ケーブル22Aは、接地点間を結ぶ短絡線221,並走する補償線222,トロイダルコア223,短絡線221の電流検出器224,検出電流に周波数補正を加える周波数特性補正器25,周波数補正後の信号を増幅する増幅器226,補償線に過大な電流を流さないための電流制限抵抗器227を備える。補償線222の一端は、周波数特性補正器25,増幅器226の回路の接地、いわゆるコモンに接続されている。短絡線221に流れる電流と逆向きの電流を補償線222に流すことで、相互誘導により、短絡線221のインダクタンスによる電圧降下と同じ電圧で逆向きの電圧を短絡線221に発生させる。これにより、短絡線221のインダクタンスによる電圧降下が無くなり、結果的にインダクタンスは無いように見えることになる。トロイダルコイル223は短絡線221と補償線222間の相互インダクタンスを高める作用を有する。これにより、並走した線間の多少の位置ずれでは大きな相互インダクタンスの変動が無くなる。
【0033】
周波数特性補正器25と増幅器226の合成伝達関数G2を以下で示す。電流制限抵抗器227をR2と記す。R2には、補償線222自体の抵抗も含まれるとする。短絡線221の抵抗をR1,インダクタンスをL1、補償線222のインダクタンスをL2と記す。接地点15,接地点17間の電圧をV1とする。このとき、短絡線221を流れる電流i1、補償線222を流れる電流i2とすると、これらの関係は(1)となる。
【0034】
【数1】

【0035】
(1)式で、Sは複素周波数である。Mは短絡線221と補償線222間の相互インダクタンスである。短絡線221のインダクタンスが見かけ上0のとき、短絡線221のL1による電圧降下と相互誘導による誘導電圧は等しい。
【0036】
【数2】

【0037】
(2)式に(1)を代入し、合成伝達関数G2は、結合係数kを用いて相互インダクタンスMを書き換える。
【0038】
【数3】

【0039】
合成伝達関数G2をゲインA0と周波数特性Gu(f)とすると、
【0040】
【数4】

【0041】
【数5】


となる。周波数特性補正器25で(5)式の特性を、増幅器226で(4)式の特性を実現すれば良いことが分る。
【0042】
図5は、図3の短絡ケーブル22Aの構成において、ケーブル長さを50mとしたときの短絡線のインダクタンスをシミュレーションで求めた結果である。横軸は周波数を示し、縦軸は、短絡線221のインダクタンスと図3の構成でインダクタンスを低減した場合のインダクタンスとの比率を示す。図3の構成は、実際の短絡線221のインダクタンスの6桁以下に減少していることが分る。
【0043】
図4は、周波数特性補正器25の構成を示す。周波数特性補正器25は、演算増幅器251,抵抗252,帰還抵抗253,帰還インダクタンス254を備える。抵抗252をR0、帰還抵抗253をRf、帰還インダクタンス254をLfとすると、図4の回路の伝達関数G(f)は、
【0044】
【数6】


となる。(6)式の第一項が低周波のゲインを決めており、1倍より大きい。図4の回路で周波数特性補正器25を構成する場合、増幅器226のゲインを
【0045】
【数7】


とすればよい。
【0046】
以上説明した短絡ケーブル22A〜22Cを使用することで、校正器201で校正した場合に近い精度で接地間の電気的特性の測定が可能となる。
【0047】
なお、測定した結果は各ポートから他のポートへの透過率、同一ポートへの反射率からなるSパラメータとして得られる。
【0048】
Sパラメータで表現した接地間のノイズ伝播特性を用いて、例えば動力系のコモンモード電流が計装系にどのように影響するかを計算することはできる。しかし、Sパラメータから直感的に、ノイズ伝播の様相を把握することは難しい。そこで、本実施例では、測定したSパラメータを元に、接地間の抵抗およびインダクタンスを算出する。
【0049】
図6は、接地間におけるインピーダンスネットワーク30の内部構造を示した図である。図1で示した接地点15〜18が、接地間抵抗R01〜R05とインダクタンスL01〜L05の組み合わせからなる5個のインピーダンスブロックに接続されている。そして、動力系の接地点15,16を介したノイズ電流が流れるループが校正されており、計装系でも接地点17,18を介してノイズ電流が流れるループが存在する。また、動力系を流れるノイズ電流が分流して、計装系に流れ込める構成となっている。各接地点15〜18から見たインピーダンスの違いも表現できる構造となっている。前述のSパラメータ測定では、各ポートの反射係数、すべてのポート間の透過係数が測定できている。4ポートあるので、16個の測定したSパラメータが存在する。接地間抵抗R01〜R05,接地間インダクタンスL01〜L05の値を変えて、測定したSパラメータに最も近い接地間抵抗R01〜R05,接地間インダクタンスL01〜L05を決めて、これを実際の接地間の回路定数とみる。この方法は、一般的な最適解を求める方法と同じである。
【0050】
図7に、ネットワークアナライザ20を接地から分離する回路構成を示す。ネットワークアナライザ20は、通常、筐体を接地して使用する。一方、本実施例の測定対象である接地間におけるインピーダンスネットワーク30も接地されている。このため、ネットワークアナライザ20の測定ポートから供給する信号の一部は、接地を介してネットワークアナライザ20に戻る。接地を介して戻る信号は測定されないため、結果的に大きな測定誤差の原因となる。そこで、本実施例ではネットワークアナライザ20を接地から切り離して測定している。
【0051】
図7に示すように、接地間インピーダンスネットワーク30は、仮想的な接地点に接地されている。接地間インピーダンスネットワーク30は、全体が接地されているが、ネットワーク内部にはわずかに電圧分布や電流分布が存在する。真の接地点の位置は定義できないが、接地されているという意味で仮想的な接地点を表記した。この仮想的な接地点とネットワークアナライザ20の間に接地間分離用インピーダンス31を接続してある。このインピーダンスを接続することで、接地を介してネットワークアナライザ20に戻る信号を抑制している。本実施例では、接地間分離用インピーダンス31として抵抗を使用しているが、インダクタを用いることも可能である。また、接地に接続しないで使用することも考えられる。いずれの方法でも、接地との分離によりネットワークアナライザ20は接地点との間にある電位を持つことになる。そのため、測定実施中はネットワークアナライザ20の筐体に直接触れないように手袋をするなどの工夫をしている。
【0052】
以上の手順により、これまで困難であったプラント内の接地間の電気的な特性の測定と、その測定値を基にして、ノイズの伝播しやすさを把握しやすいように、抵抗R01〜R05およびインダクタンスL01〜L05の推定値を得ることができるようになる。
【0053】
このように、本実施例では、接地点間の電気的特性を測定するネットワークアナライザと、センサ,前置増幅器,モータ、及びインバータと接地点との間をネットワークアナライザと接続する測定用同軸ケーブルを備え、それぞれの測定用同軸ケーブルのシールドを短絡する短絡ケーブルを備えることにより、測定端子間のシールドを同電位に保つことが可能となる。
【0054】
また、短絡ケーブルは、接地点間を結ぶ短絡線、短絡線と並走する補償線,トロイダルコア,短絡線の電流検出器,検出電流に周波数補正を加える周波数特性補正器,周波数補正後の信号を増幅する増幅器,補償線に過大な電流を流さないための電流制限抵抗器を備えることにより、短絡線が長くなっても接地線間の電気的特性の測定を可能とする。通常、短絡線を用いる場合、線径を太くする又は多数の線を束ねることで、抵抗を小さくすることが可能である。しかし、インダクタンスは、単に線形を太くしても低減効果が小さい。また、インダクタンスは、短絡線の長さにほぼ比例して増える。
【0055】
短絡線が独立に存在する場合、短絡線に流れる電流は、測定端子間の電圧と周波数に依存する。一方、短絡線にインダクタンスがない場合は、電流は周波数に依存しない。短絡線に並走させる補償線に短絡線に流れる電流が見掛け上周波数特性を持たないようにするための電流を流すことで短絡線のインダクタンスを低減する。具体的には、短絡線電流検出手段(電流検出器)で検出した電流値を電圧信号として取り出し、周波数特性補正器に通し、さらに増幅して補償線に印加し、補償線に電流を供給する。補償線と短絡線が並走しているため、両線は相互インダクタンスで電気的に接続されている。短絡線のインダクタンスにより流れる電流が抑制される成分を補償線側から供給して、測定端子間の電圧に対し周波数依存性のない電流を流すことができる。このことにより、短絡線は見かけ上、インダクタンスのない特性を実現できる。
【0056】
本実施例の特有の効果は以下である。
(1)本実施形態では、測定したSパラメータから接地間の抵抗・インダクタンスを推定
する手順を設けたので、Sパラメータのみの場合より、直感的な接地間特性の情報
が得られるようになり、接地間特性の他に与える影響判断がすばやくできるように
なる点で、電気的特性測定性能の向上効果がある。
(2)本実施例で示したように、本発明は測定端が離れた部材の電気的特性が測定可能と
なるので、長い接地線,大規模構造物などのインピーダンス測定が可能で、適用範
囲拡大になり、電気的特性測定向上効果がある。
【0057】
上記の実施例では、動力系としてインターナルポンプを説明したが、他の動力系にも適用可能である。例えば、配管上に設けられた電動弁の開閉を制御する電動弁制御機構(電動弁の駆動部と、この駆動部を制御する電動弁開閉制御部)、原子炉圧力容器に挿入する制御棒の位置を制御する制御棒位置制御機構(制御棒の駆動部と、この駆動部を制御する制御棒位置制御部)にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、プラントの接地間のノイズ伝播特性の把握だけではなく、接地幹線の特性変化モニタにも使用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 原子炉圧力容器
2A,2B 計装管
3A,3B 電離箱
4A,4B インターナルポンプ
5A,5B モータ
6A,6B 動力ケーブル
7A,7B 信号ケーブル
8 原子炉格納容器
9,10 ペネトレーション
11 インバータ
12 三相電源
13 前置増幅器
14 中性子モニタ
15,16,17,18 接地点
20 ネットワークアナライザ
21A〜21D 測定用同軸ケーブル
22A〜22C 短絡ケーブル
25 周波数特性補正器
30 接地間インピーダンスネットワーク
31 接地間分離用インピーダンス
201 校正器
202 校正用制御ケーブル
221 短絡線
222 補償線
223 トロイダルコア
224 電流検出器
227 電流制限抵抗器
228 補償線回路の接地
251 演算増幅器
252 抵抗
253 帰還抵抗
254 帰還インダクタンス
R01〜R08 接地間抵抗
L01〜L08 接地間インダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器内の中性子を計測するセンサと、前記センサからの検出信号が入力される前置増幅器とを備える計装系と、
前記原子炉圧力容器内の冷却材を循環させるインターナルポンプと、前記インターナルポンプを駆動するモータと、前記モータの回転数を調整するインバータとを備える動力系を備え、
前記計装系及び前記動力系と接地点とを流れるノイズ伝播特性を測定する原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定装置であって、
接地点間の電気的特性を測定するネットワークアナライザと、
前記センサ,前記前置増幅器,前記駆動部、及び前記制御部と前記接地点との間を前記ネットワークアナライザと接続する測定用同軸ケーブルを備え、
それぞれの前記測定用同軸ケーブルのシールドを短絡する短絡ケーブルを備えることを特徴とする原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定装置であって、
前記動力系は、前記原子炉圧力容器内の冷却材を循環させるインターナルポンプと、前記インターナルポンプを駆動するモータと、前記モータの回転数を調整するインバータとを備えることを特徴とする原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定装置であって、
前記短絡ケーブルは、接地点間を結ぶ短絡線,前記短絡線と並走する補償線,トロイダルコア,前記短絡線の電流検出器,検出電流に周波数補正を加える周波数特性補正器,周波数補正後の信号を増幅する増幅器,前記補償線に過大な電流を流さないための電流制限抵抗器を備えることを特徴とする原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定装置。
【請求項4】
原子炉圧力容器内の中性子を計測するセンサと、前記センサからの検出信号が入力される前置増幅器とを備える計装系と、
前記原子炉圧力容器内の冷却材を循環させるインターナルポンプと、前記インターナルポンプを駆動するモータと、前記モータの回転数を調整するインバータとを備える動力系とを備え、
接地点間の電気的特性を測定するネットワークアナライザと、
前記センサ,前記前置増幅器,前記モータ、及び前記インバータと前記接地点との間を前記ネットワークアナライザと接続する測定用同軸ケーブルを備え、
それぞれの前記測定用同軸ケーブルのシールドを短絡する短絡ケーブルを備える原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定方法であって、
前記ネットワークアナライザで計測したSパラメータに基づき、接地間の抵抗及びインダクタンスを算出することを特徴とする原子力発電プラントの接地系ノイズ伝播特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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