説明

原子力発電所の主排気ダクト支持構造

【課題】地震時等に建屋と排気塔との間に地盤沈下等が起こった場合でも、主排気ダクトを地表面の上方に保持することができ、主排気ダクトの変形、破損等を防止することができるようにする。
【解決手段】原子力発電所の建屋1と排気塔2とを互いに独立させて立地し、建屋からの排気を排気塔に導く主排気ダクト4を地表の上方にて支持する構造であり、建屋および排気塔の躯体にそれぞれ橋台10を設け、これらの橋台間に架設した橋型支持構造物14により主排気ダクト4を支持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力発電所建屋からの排気を排気塔に導く主排気ダクトの支持構造に係り、特に地震振動等による主排気ダクトの変位や破損等を防止する原子力発電所の主排気ダクト支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所において、建屋と排気塔とを互いに独立させて立地している場合、建屋からの排気は、建屋に設けられた換気空調設備から屋外に設置した主排気ダクトを介して排気塔に導かれる構成が知られている(例えば、特許文献1)参照)。
【0003】
図4は、このような原子力発電所の主排気ダクトを支持する構造の従来例を示している。この例に示すように、原子炉建屋等の建屋1と排気塔2とは、所定の間隔をあけてそれぞれ岩盤等の強固な地盤3a,3b上に設置されており、建屋1には図示省略の換気空調設備が設けられている。この換気空調設備からの排気は、建屋1側から主排気ダクト4を介して排気塔2側に送られて放出される。
【0004】
主排気ダクト4は複数の配管4aを連結した構成とされており、主排気ダクト4の熱による収縮・膨張変位は複数部分に配置されたベローズ5によって吸収される構成となっている。また、主排気ダクト4は、建屋1上の基礎部材6および支持構造物7およびその上に立設された支持構造物7を介して支持されるとともに、建屋1と排気塔2との間に位置する地盤3c上に複数の基礎部材6およびその上に立設された支持構造物7を介して複数箇所を支持されている。
【特許文献1】特開平7−217858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子力発電所の建屋1および排気塔2は、耐震クラスの高い設備として岩盤等に設置されており、地震等によって沈下することはない。これに対し、建屋1と排気塔2との間の地盤は岩盤ではなく、地震等により地盤が沈下する場合がある。この場合には、地表面に支持されている基礎部材6および支持構造物7が沈下する可能性がある。なお、主排気ダクト4に設置されたベローズ5は、熱による収縮・膨張変位の吸収を目的として構成されたものであり、それ以上の変位量を吸収することができない。このため、大きな地震振動等が発生によってした場合に、建屋1と排気塔2との間の地盤沈下によって主排気ダクト4が変形、破損する可能性がある。
【0006】
また、原子力発電所の主排気ダクト4は、原子力発電所の安全機能を維持する要求はない設備であることから、万一の大地震による機能維持を必要としない耐震Cクラスに分類されており、Cクラス以上の地震に対しての機能維持要求は無い。しかし、主排気ダクト4については大型の設備であるため、地震振動等による主排気ダクトの変位や破損等が生じた場合には復旧に多くの時間が必要となり、また財産保護の観点から変形、破損を最小限に留めることが望まれる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、地震時等に建屋と排気塔との間に地盤沈下等が起こった場合でも、主排気ダクトを地表面の上方に保持することができ、主排気ダクトの変形、破損等を防止することができる原子力発電所の主排気ダクト支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明では、原子力発電所の建屋と排気塔とを互いに独立させて立地し、前記建屋からの排気を前記排気塔に導く主排気ダクトを地表の上方にて支持する原子力発電所の主排気ダクト支持構造において、前記建屋の躯体に設けられた橋台と、前記排気塔の躯体に設けられた橋台と、これらの橋台間に架設され前記主排気ダクトを支持する橋型支持構造物と、を有することを特徴とする原子力発電所の主排気ダクト支持構造を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、建屋および排気塔に橋型支持構造物を介して主排気ダクトを支持させる構造としたことにより、建屋と排気塔との間に地盤沈下等が生じた場合でも、岩着されて地盤沈下等の影響を受けない建屋および排気塔によって支持することで、主排気ダクトへの地盤沈下等による影響を回避することができ、主排気ダクトへの破損や変位等の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る原子力発電所の主排気ダクト支持構造の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。なお、従来の構成と同一構成部分については、図4と同一の符号を付して説明する。
【0011】
[第1実施形態](図1)
図1は、本発明の第1実施形態による原子力発電所の主排気ダクト支持構造を示す側面図である。
【0012】
この図1に示すように、原子炉建屋等の建屋1と排気塔2とは互いの間に一定の距離を隔てて強固な岩盤3a,3bに独立させて立地してある。これにより、建屋1と排気塔2とは耐震性が高く、かつ地震時においても地盤が沈降することなく地上の一定高さに保持される構成となっている。建屋1には図示省略の換気空調設備が設けられており、この換気空調設備から放射線管理区域の排気が主排気ダクト4を介して排気塔2に導かれる。
【0013】
主排気ダクト4は建屋1の上面1aに沿う略水平な部分4kと、建屋1の躯体側壁である排気塔2側に向く縦面1bに沿って縦向きに垂下する部分4lと、建屋1と排気塔2との間の地盤3cに沿って地表面から一定高さ位置に配置された水平部分4mと、排気塔2の躯体下部側面2aに連結された先端部分4nとを有している。
【0014】
なお、主排気ダクト4の上記各部分4k,4l,4m,4nはベローズ5によってそれぞれ連結されており、各部分4k,4l,4m,4nの熱による収縮・膨張変位が吸収されるようになっている。
【0015】
建屋1の上面1aに沿う主排気ダクト4の略水平な部分4kは従来同様に、建屋1の上面1aに設けられた基礎部材6およびこの基礎部材6に設けられた支持構造物7によって支持されている。
【0016】
また、上記主排気ダクト4の略水平な部分4kには、建屋1の躯体側壁である排気塔2側に向く縦面1bに沿って縦向きに垂下する主排気ダクト4の部分4lが連結されており、この部分4lの下端には、さらに排気塔2側に向く水平な部分4mが連結されている。
【0017】
さらに、この水平な部分4mには排気塔2に接続される水平な部分4nが接続されている。すなわち、建屋1と排気塔2との間の地盤3c上に水平な部分4m,4nが配置されている。
【0018】
これらの主排気ダクト4における水平な部分4m,4nが配置される建屋1と排気塔2との間の地盤3cは上述したように、地震振動により沈降する可能性がある。なお、主排気ダクト4は原子力発電所の安全機能を維持する要求はない設備であり、万一の大地震による機能維持を必要としない耐震Cクラスに分類され、Cクラス以上の地震に対しての機能維持要求は無い。
【0019】
そして、建屋1の排気塔2側に向く躯体縦面1bには橋台10が一体的に設けられている。この橋台10は例えば鋼材製等の強固な構成のものであり、建屋1の躯体縦面の外壁に沿い水平方向に一定範囲に亘って設けられ、主排気ダクト4の振動荷重を十分に支持し得る構成となっている。この橋台10の上に、橋脚構造に適用される部材としての支承11が設けられている。
【0020】
一方、排気塔2の下部には、建屋1の橋台10に対向する配置で、排気塔側の橋台12が一体的に設けられている。この橋台12も、例えば鋼材製等の強固な構成のものであり、排気塔2の躯体縦面の外壁に沿い水平方向に一定範囲に亘って設けられ、主排気ダクト4の振動荷重を十分に支持し得る構成となっている。この橋台12の上に、橋脚構造に適用される部材としての支承13が設けられている。
【0021】
そして、これら支承11,13間に、鋼材製等からなる水平梁状の橋型支持構造物14が支持されている。すなわち、建屋1の躯体である排気塔2側に対向する部分1bと、排気塔2の躯体である建屋側に向く部分2aとにそれぞれ橋台10,12および支持部材である支承11,13によって橋型支持構造物14が架設され、この橋型支持構造物14によって主排気ダクトが地上の所定高さ位置に支持されている。これにより、建屋1と排気塔2との間の地盤沈下等の影響が主排気ダクト4に及ばない構成となっている。
【0022】
このように、本実施形態の橋型支持構造物14は水平梁を用いた両持梁構造とされており、橋台10,12および支承11,13によって支持された構成となっている。なお、橋型支持構造物14は、主排気ダクト4の荷重を十分に支持することができ、さらに地震等の振動発生時においても、所定強度の保持力によって主排気ダクト4を保持する構成となっている。
【0023】
以上の構成のもとで、大地震等が発生した場合には、建屋1と排気塔2との間の地盤3cが地震振動によって沈降する可能性があるが、建屋1および排気塔2は岩着構造であるため地盤沈降の影響を受けることはなく、かつ主排気ダクト4は地上の一定高さ位置に配置されて橋型支持構造物14によって建屋1と排気塔2との間に強固に支持されているため、地震振動が大きい場合であっても主排気ダクト4に変形や破損が生じることがない。
【0024】
本実施形態によれば、岩着している建屋1および排気塔2は地盤沈下等の影響を受けないため、主排気ダクト4の破損、変位発生等を防止することができ、これら建屋1および排気塔2に橋型支持構造物14を介して主排気ダクト4を支持させる構造としたことにより、建屋1と排気塔2との間の地盤に沈下等が生じた場合でも、主排気ダクト4への地盤沈下等による影響を回避することができ、主排気ダクト4への破損や変位等の発生を防止することができる。
【0025】
[第2実施形態](図2)
図2は、本発明の第2実施形態による原子力発電所の主排気ダクト支持構造を示す側面図である。
【0026】
本実施形態の主排気ダクト支持構造が第1実施形態の構成と異なる点は、橋型構造物14をトラス橋構造とした点にある。その他の構成については、第1実施形態と略同様であるから、第1実施形態と同一構成部分については、図2に図1と同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の橋型支持構造物15は、例えば本体部である水平梁15aを支持する桁15b部分をトラス構成としたものであり、図示の例では三角形梁を組合せたワーレントラス構造を採用した構成を示してある。
【0028】
なお、図示しないが、三角形梁と縦梁とを組合せたプラットトラス構造またはハウトラス構造を適用することもできる。
【0029】
このようなトラス橋構造の橋型支持構造物15を適用する場合には、薄型梁等を利用して効率良く主排気ダクト4を支持固定することができる。また、主排気ダクト4の荷重を十分に支持することができ、さらに地震等の振動発生時においても、図示省略の保持構造によって主排気ダクト4を保持することができる。
【0030】
そして、単一部材の大きさが比較的小さいため、現場までの輸送や現場での取扱いが容易であり、施工性に優れる特徴がある。
【0031】
そして、本実施形態においても、建屋1の躯体である排気塔2側に対向する部分1bと、排気塔2の躯体である建屋側に向く部分2aとにそれぞれ橋台10,12および支持部材である支承11,13によって橋型支持構造物15を架設し、この橋型支持構造物15によって主排気ダクトを地上の所定高さ位置に支持させてある。
【0032】
このように構成された本実施形態の支持構造により、岩着している建屋1および排気塔2は、地盤沈下等の影響を受けないため、主排気ダクト4が破損、変位することを防止することができる。すなわち、建屋1および排気塔2に橋型支持構造物15を介して主排気ダクト4を支持させる構造としたことにより、建屋1と排気塔2との間の地盤に沈下等が生じた場合でも、岩着されて地盤沈下等の影響を受けない建屋1および排気塔2で支持することにより、主排気ダクト4への地盤沈下等による影響を回避することができ、主排気ダクト4への破損や変位等の発生を防止することができる。
【0033】
[第3実施形態](図3)
図3は、本発明の第3実施形態による原子力発電所の主排気ダクト支持構造を示す側面図である。
【0034】
本実施形態の主排気ダクト支持構造が第1実施形態の構成と異なる点は、橋型構造物14をラーメン橋構造とした点にある。その他の構成については、第1実施形態と略同様であるから、第1実施形態と同一構成部分については、図2に図1と同一符号を付して説明を省略する。
【0035】
図3に示すように、本実施形態においては、主排気ダクト4のうち、建屋1と排気塔2との間の地盤3上に水平に配置する部分4m,4nを、建屋1の排気塔2側に向く躯体縦面1bに設けた橋台10およびその上に設けた支承11と、排気塔2の下部に設けた橋台12およびその上に設けた支承13と、これら支承11,13によって架設したラーメン橋構造の橋型支持構造物16によって支持し、建屋1と排気塔2との間の地盤沈下等の影響が主排気ダクト4に及ばない構成となっている。
【0036】
すなわち、本実施形態では、建屋1の躯体である排気塔2側に対向する部分1bと、排気塔2の躯体である建屋側に向く部分2aとにそれぞれ橋台10,12および支持部材である支承11,13によって橋型支持構造物16を架設し、この橋型支持構造物16によって主排気ダクトを地上の所定高さ位置に支持させてある。
【0037】
また、建屋1の躯体である排気塔2側に対向する地表面上に突出する部分1bと、排気塔2の躯体である建屋側に向く部分2aとにそれぞれ橋台10,12および支持部材である支承11,13によって橋型支持構造物16を架設し、この橋型支持構造物16によって主排気ダクトを地上の所定高さ位置に支持させてある。
【0038】
さらに、建屋1の躯体である排気塔2側に対向する下端部には建屋基礎17を設けるとともに、排気塔2の躯体である建屋側に向く下端部には排気塔基礎18を設けてある。そして、建屋基礎17に橋脚19を立設するとともに、排気塔基礎18にも橋脚20を立設し、これらの橋脚19,20によって橋型支持構造物16の長さ方向両端位置を剛構造として支持させ、この橋型支持構造物16によって主排気ダクトを地上の所定高さ位置に支持させてある。
【0039】
このように構成された本実施形態の支持構造により、岩着している建屋1および排気塔2は、地盤沈下等の影響を受けないため、主排気ダクト4が破損、変位することを防止することができる。すなわち、建屋1および排気塔2に橋型支持構造物16を介して主排気ダクト4を支持させる構造としたことにより、建屋1と排気塔2との間の地盤に沈下等が生じた場合でも、岩着されて地盤沈下等の影響を受けない建屋1および排気塔2で支持することにより、主排気ダクト4への地盤沈下等による影響を回避することができ、主排気ダクト4への破損や変位等の発生を防止することができる。
【0040】
本実施の形態によれば、剛構造のラーメン橋構造を適用することによって、より耐震性の高い支持構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態を示す側面図。
【図2】本発明の第2実施形態を示す側面図。
【図3】本発明の第3実施形態を示す側面図。
【図4】従来例を示す側面図。
【符号の説明】
【0042】
1‥建屋、2‥排気塔、3a,3b,3c‥地盤、4‥主排気ダクト、5‥ベローズ、6‥基礎部材、7‥支持構造物、10‥橋台、11‥支承、12‥橋台、13‥支承、14‥橋型支持構造物、15‥橋型支持構造物、16‥橋型支持構造物、17‥建屋基礎、18‥排気塔基礎、19‥橋脚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所の建屋と排気塔とを互いに独立させて立地し、前記建屋からの排気を前記排気塔に導く主排気ダクトを地表の上方にて支持する原子力発電所の主排気ダクト支持構造において、前記建屋の躯体に設けられた橋台と、前記排気塔の躯体に設けられた橋台と、これらの橋台間に架設され前記主排気ダクトを支持する橋型支持構造物と、を有することを特徴とする原子力発電所の主排気ダクト支持構造。
【請求項2】
前記橋型支持構造物はトラス橋構造であることを特徴とする請求項1記載の原子力発電所の主排気ダクト支持構造。
【請求項3】
前記橋型支持構造物はラーメン橋構造であることを特徴とする請求項1記載の原子力発電所の主排気ダクト支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−186206(P2009−186206A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23723(P2008−23723)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】