説明

原子吸光分析装置および原子吸光分析法

【課題】自己吸収を利用した新規な原子吸光分析装置の実現。
【解決手段】原子吸光分析装置は、アトマイザー1と、ミラー2と、分光測定器3とで構成されている。アトマイザー1は、原子化した試料を含むプラズマ(アトマイズプラズマ5)を発生させる。ミラー2のない状態でアトマイズプラズマ5の発光強度を測定し、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度Ir1と、Arの励起線スペクトルの発光強度Iu1を測定する。また、ミラー2を配置し、ミラー2による光の反射によって、アトマイズプラズマ5のゴースト(ゴーストプラズマ6)を発生させた状態で発光強度を測定し、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度Irと、Arの励起線スペクトルの発光強度Iuを測定する。これらIr1、Iu1、Ir、Iuから、目的元素の自己吸収による吸収率を算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己吸収を利用した原子吸光分析装置および原子吸光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多元素を同時に分析することができる原子吸光分析装置として、特許文献1に記載の装置が提案されている。この特許文献1の原子吸光分析装置は、分析対象である複数の元素の輝線スペクトルを発光する光源である、マルチマイクロホローカソード光源を用いることを特徴とするものである。マルチマイクロホローカソード光源は、銅製または銅合金製の複数のマイクロホローパイプを有し、各マイクロホローパイプには、複数の金属ワイヤが内部を貫通するようにして軸方向に適当な回数巻かれている。金属ワイヤは、分析対象である金属元素あるいはその金属元素を含む合金である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−257900
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の原子吸光分析装置に用いるマルチマイクロホローカソード光源は、金属元素の種類によっては、十分な発光強度を得るためにマイクロホローパイプに多数回金属ワイヤを巻く必要がある。金属ワイヤを巻ける回数にはマイクロホローパイプの径などの構造によって制約が生じ、発光強度の向上にも限度がある。その結果、測定可能な金属元素に制限が生じてしまう。
【0005】
また、特許文献1のマルチマイクロホローカソード光源では、マイクロホローパイプに金属元素を巻くという構成上、金属以外の元素の共鳴線スペクトルを得ることはできない。そのため、BやPなどの金属以外の元素については分析することができない。
【0006】
発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、自己吸収を利用するという着想に至った。本発明はこの着想に基づくものであり、金属元素であるか非金属元素であるかを問わずに多元素を同時に分析可能な原子吸光分析装置および元素吸光分析方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、原子化された試料を含むアトマイズプラズマを発生させるアトマイザーと、アトマイズプラズマの発光スペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定し、アトマイズプラズマの発光と、アトマイズプラズマからの発光をアトマイズプラズマに照射してアトマイズプラズマを透過した光と、が加わった光のスペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定する測定装置と、を有することを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0008】
ここで、アトマイズプラズマは、原子化した試料を含んだプラズマを意味する。プラズマを生成する放電ガスには、Ar、He、窒素、酸素、空気などを用いることができる。アトマイザーは、このようなアトマイズプラズマを発生させる装置であれば任意のものを使用することができる。たとえば、大気圧プラズマを生成し、目的元素を含む試料に大気圧プラズマを照射し、試料を原子化することで、アトマイズプラズマを発生させる装置である。他にもICP装置などを本発明のアトマイザーとして用いることもできる。
【0009】
測定装置は、以下の4つの発光強度を測定する。
(1)アトマイズプラズマの発光スペクトルにおける目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度。
(2)アトマイズプラズマの発光スペクトルにおける放電ガスの励起線スペクトルの発光強度。
(3)アトマイズプラズマからの発光に、アトマイズプラズマに照射してアトマイズプラズマを透過した光が加わった光のスペクトルにおける目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度。
(4)アトマイズプラズマからの発光に、アトマイズプラズマに照射してアトマイズプラズマを透過した光が加わった光のスペクトルにおける放電ガスの励起線スペクトルの発光強度。
上記(1)と(2)の発光強度は、同時に計測してもよい。また上記(3)と(4)の発光強度もまた、同時に計測してもよい。
【0010】
測定される上記(1)〜(4)の発光強度のうち、(3)の発光強度はアトマイズプラズマ中の目的元素による自己吸収を受けたものであり、本発明は(1)〜(4)の発光強度から自己吸収による吸収率を算出し、吸収率から試料中の目的元素の濃度を測定するものである。
【0011】
アトマイズプラズマからの発光をアトマイズプラズマに照射する手段としては、たとえばミラーを用いて反射させる手段である。このとき、ミラーは目的元素の共鳴線スペクトルの波長、および放電ガスの励起線スペクトルの波長において反射率の高いものが望ましい。また、他の手段としては、光ファイバを用い、光ファイバの一端からアトマイズプラズマからの発光を受光し、受光方向とは異なる方向に導いて光ファイバの他端から照射する手段がある。
【0012】
放電ガスの励起線スペクトルは、目的元素の共鳴線スペクトルの波長に最も近い波長のものが望ましい。測定系の波長依存性が影響して測定精度が低下してしまうのを防止するためである。特に、目的元素の共鳴線スペクトルの波長との差が150nm以下となる放電ガスの励起線スペクトルを測定するのが望ましい。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、測定装置は、ミラーを有し、そのミラーによってアトマイズプラズマからの発光を反射してアトマイズプラズマに照射する、ことを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0014】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、測定する放電ガスの励起線スペクトルの発光強度は、目的元素の共鳴線スペクトルに最も近い波長のものであることを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0015】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、アトマイザーは、大気圧プラズマを生成し、目的元素を含む試料に大気圧プラズマを照射し、試料を原子化することで、アトマイズプラズマを発生させる、ことを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0016】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、アトマイザーは、棒状の第1電極と、管状であって、その管内に、第1電極の軸回りにおいて管内壁から第1電極が離間した状態となるように第1電極の先端部を保持し、管内壁と第1電極との隙間に、第1電極の先端部側の軸方向に放電ガスが流される絶縁管と、第1電極の先端部から一定距離隔てて配置された第2電極と、試料を保持する凹部を有し、その凹部底面に第2電極が露出した絶縁材からなる試料保持部と、を有することを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0017】
第6の発明は、原子化された試料を含むアトマイズプラズマを発生させ、アトマイズプラズマの発光スペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定し、アトマイズプラズマの発光と、アトマイズプラズマからの発光をアトマイズプラズマに照射してアトマイズプラズマを透過した光と、が加わった光のスペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定する、ことを特徴とする原子吸光分析法である。
【0018】
第7の発明は、第6の発明において、ミラーによって反射させることで、アトマイズプラズマからの発光をアトマイズプラズマに照射する、ことを特徴とする原子吸光分析法である。
【0019】
第8の発明は、第6の発明または第7の発明において、測定する放電ガスの励起線スペクトルの発光強度は、目的元素の共鳴線スペクトルに最も近い波長のものであることを特徴とする原子吸光分析法である。
【0020】
第9の発明は、第6の発明から第8の発明において、アトマイズプラズマは、大気圧プラズマを生成し、目的元素を含む試料に大気圧プラズマを照射し、試料を原子化し、大気圧プラズマ中に原子化した試料を混入させることで発生させる、ことを特徴とする原子吸光分析法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の原子吸光分析装置または原子吸光分析法は、自己吸収を利用して分析を行うものであるため、従来の原子吸光分析装置または原子吸光分析法において必要であった目的元素の共鳴線スペクトルを発光する光源を必要としない。そのため、光源によって目的元素の種類や数が制限されることはなく、多元素を同時に分析することができ、金属元素のみならず非金属元素についても分析することができる。また、光源が必要ないので、原子吸光分析装置の小型化、低コスト化を実現することができる。
【0022】
また、第2の発明のように、ミラーを用いることで容易に本発明の原子吸光分析装置を実現することができる。
【0023】
また、第3の発明のよれば、測定系の波長依存性による測定精度の低下を抑制することができる。
【0024】
また、第4の発明のように、アトマイザーとして大気圧プラズマを用いたものを用いることができ、原子吸光分析装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0025】
また、第5の発明によれば、アトマイザーをより小型化することができ、その結果原子吸光分析装置の小型化を図ることができる。
【0026】
また、第6〜9の発明の原子吸光分析法によると、金属元素、非金属元素によらず多元素を同時に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の原子吸光分析装置の構成を示した図。
【図2】アトマイザー1の構成を示した図。
【図3】実施例1の原子吸光分析装置による測定原理を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
図1は、実施例1の原子吸光分析装置の構成を示した図である。原子吸光分析装置は、アトマイザー1と、ミラー2と、分光測定器3と、によって構成されている。
【0030】
アトマイザー1は、大気圧プラズマを発生させ、これを試料に照射して原子化し、大気圧プラズマ中に原子化した試料を混入させて、原子化した試料を含むプラズマ(アトマイズプラズマ5)を発生させる。
【0031】
アトマイザー1のより詳細な構成について図2を参照に説明する。図2に示すように、棒状電極10(本発明の第1電極)と、試料電極11(本発明の第2電極)とを有している。棒状電極10は、直径1.2mmのCu製の棒状であり、試料電極11は、外径2m、内径1mmのステンレス製の管状である。
【0032】
棒状電極10には、Cu以外に、ステンレス、モリブデン、タングステンなどを用いることができる。また、試料電極11には、ステンレス以外に、Cu、モリブデン、タングステンなどを用いることができる。ただし、試料電極11自体が原子化してしまい、分析に影響を与えてしまうことを考慮して、試料電極11には目的元素を含まない材料を用いるか、目的元素を含まない材料で被膜、めっき等を施す必要がある。
【0033】
棒状電極10の先端部は、セラミックス管12の管内に軸方向を一致させて納められている。セラミックス管12は、試料電極11の先端側が一段階狭くなっていて、棒状電極10は、この狭くなった管内まで伸びている。棒状電極10とセラミックス管12の内壁との間には隙間が設けられている。この棒状電極10の軸回りの空間がArガスの流路となる。
【0034】
セラミックス管12は、絶縁管13と連結している。絶縁管13は軸方向に垂直な方向に分岐13aを有しており、セラミックス管12の管内から絶縁管13の管内に伸びる棒状電極10は、曲げられて絶縁管13の分岐13aの管内に挿入され、外部に露出している。絶縁管13には、フッ素樹脂などの絶縁材を用いることができる。
【0035】
さらに、セラミックス管12の試料電極11先端部側には、外径がセラミックス管12の内径にほぼ一致した短いセラミックス管14がはめ込まれている。
【0036】
絶縁管13は放電用ガスであるArが封入されたガスボンベ(図示しない)に流量計、減圧弁などを介して接続されている。ガスボンベから供給されたArガスは、絶縁管13の管内からセラミックス管12の管内へと軸方向に供給され、棒状電極10とセラミックス管12の内壁との間を棒状電極10先端部側の軸方向に流れてセラミックス管14の先端からArガスが排出される。
【0037】
放電ガスには、Ar以外にもHe、Ne、N、空気、などを用いることができる。
【0038】
試料電極11は、内径2mm、外径3mmのセラミックス管15によって覆われている。セラミックス管15の先端は外径が拡張されており、すり鉢状の凹部16を有している。凹部16底面には、試料電極11が露出している。この凹部16によって、原子化する試料を保持する。また、試料電極11を管状とすることで、その管内を通してセラミックス管15先端の凹部16に液体の試料を供給することが可能となっている。また、セラミックス管15はフッ素樹脂材17によってさらに覆われている。なお、凹部に一定量の試料を保持する場合には、試料電極11を管状とする必要はなく、棒状などとしてもよい。
【0039】
棒状電極10、試料電極11は電源18に接続されており、60Hzの交流電圧が印加される。Arガスを棒状電極10とセラミックス管12の内壁との間に棒状電極10先端部側の軸方向に流しながら、棒状電極10、試料電極11に電圧を印加することで、棒状電極10の先端部に大気圧プラズマが生じ、その大気圧プラズマが試料電極11に伸びていく。そして、大気圧プラズマが凹部16に保持された試料に照射され、試料が原子化される。原子化された試料の一部は、大気圧プラズマに混入して発光する。
【0040】
ミラー2は、アトマイザー1によって発生するアトマイズプラズマ5を挟んで分光測定器3に対向するように配置されていて、ミラー2の反射面に垂直な方向と分光測定器3の受光方向とが一致している。このようなミラー2の配置により、アトマイズプラズマの発光をミラー2によって反射し、その反射光を分光測定器3が受光できるようにしている。また、ミラー2は取り外して分光測定器3と対向しないようにすることも可能となっていて、ミラー2により反射されたアトマイズプラズマ5の発光が、分光測定器3によって受光されていようにすることもできる。ミラー2を単に移動させる、あるいは回転して反射面側でない方を分光測定器3側に向ける、などによって分光測定器3に対向しないようにしてもよい。
【0041】
ミラー2は、たとえばガラス基板にAlを蒸着したミラーであり、後述する目的元素の共鳴線スペクトルおよび放電ガスであるArの励起線スペクトルにおいて高反射率なものであればよい。
【0042】
分光測定器3は、アトマイズプラズマ5の直接の発光、およびミラーによって反射されたアトマイズプラズマ5の発光を受光し、分光して波長ごとの光強度を測定する。分光測定器3の受光角度は、アトマイザー1に配置された試料を中心として、棒状電極10と試料電極11との対向方向に垂直な面と成す角度が、45〜75°となるような受光角度が望ましい。このような角度においてアトマイズプラズマ5の発光強度が高くなるためである。より望ましいのは60°である。
【0043】
次に、実施例1の原子吸光分析装置による原子吸光分析の原理を図3を用いて説明する。
【0044】
原子吸光分析は、図3(a)のようなミラー2を取り外した状態と、図3(b)のようにミラー2を配置した状態とでそれぞれ発光強度の測定を行う。それぞれの状態での測定順序は問わず、ミラー2を取り外した状態での測定を先に行ってもよいし、ミラー2を配置した状態での測定を先に行ってもよい。
【0045】
まず、ミラー2を取り外した状態で発光強度の測定を行う場合について説明する。この状態でアトマイザー1により試料を原子化してアトマイズプラズマ5を発生させた場合、分光測定器3は、アトマイズプラズマ5の発光強度のみを測定することになる。このとき、分光測定器3によってアトマイズプラズマ5の発光を分光して、試料中の目的元素の共鳴線スペクトル(波長λr)の発光強度Ir1と、放電ガスであるArの励起線スペクトル(波長λu)の発光強度Iu1とをそれぞれ測定する。測定するArの励起線スペクトルは、目的元素の共鳴線スペクトルの波長λrに最も近い波長λuである。これは、測定系の波長依存性によって測定精度が落ちてしまうのを防止するためである。波長λrと波長λuとの差は150nm以下であることが望ましい。
【0046】
次に、ミラー2を配置した状態で発光強度の測定を行う場合について説明する。この状態でアトマイザー1により試料を原子化してアトマイズプラズマ5を発生させた場合、ミラー2による光の反射によって、アトマイズプラズマ5のゴースト(ゴーストプラズマ6)が発生する。そのため、分光測定器3は、アトマイズプラズマ5の発光と、アトマイズプラズマ5を透過したゴーストプラズマ6の発光と、を合わせた光の強度を測定することになる。そして、分光測定器3によって、その受光した光を分光して、試料中の目的元素の共鳴線スペクトル(波長λr)の発光強度Irと、Arの励起線スペクトル(波長λu)の発光強度Iuとをそれぞれ測定する。
【0047】
ここで、放電ガスであるArについては、高励起状態にあるため、自己吸収はないものとみなすことができる。したがって、ゴーストプラズマ6の発光によるArの励起線スペクトルの発光強度をIu2とすれば、ミラー2を配置した状態でのArの励起線スペクトルの発光強度Iuは、Iu=Iu1+Iu2である。
【0048】
一方、目的元素については自己吸収がある。つまり、ゴーストプラズマ6の発光は、アトマイズプラズマ5を透過する際に目的元素の共鳴線スペクトルの波長λrの光を一部吸収する。したがって、ゴーストプラズマ6の発光による目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度をIr2、アトマイズプラズマ5による吸収量をΔとすれば、ミラー2を配置した状態での目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度Irは、
Ir=Ir1+Ir2−Δ・・・ (1)
である。
【0049】
また、アトマイズプラズマ5の発光強度に対するゴーストプラズマ6の発光強度は、一定であるものとみなせる。目的元素の共鳴線スペクトルの波長λrとArの励起線スペクトルの波長λuが近いために、ミラー2の波長依存性は無視することができるからである。もちろん、ミラー2の波長依存性を考慮して補正を行ってもよい。よって、Iu1に対するIuの比(=Iu/Iu1)をfとして、
f=(Ir1+Ir2)/Ir1・・・ (2)
である。
【0050】
また、ゴーストプラズマ6の波長λrの光が、アトマイズプラズマ5によって吸収される割合である吸収率Aは、A=Δ/Ir2である。式(1)、(2)を用いれば、吸収率Aは、
A=(f*Ir1−Ir)/((f−1)*Ir1)・・・ (3)
と表わすことができる。
【0051】
したがって、ミラー2の配置の有無によって4つの発光強度Iu1、Ir1、Iu、Irを測定することにより、目的元素の自己吸収による吸収率Aを式(3)によって算出することができる。そして、この算出した吸収率Aから、試料中の目的元素の濃度を求めることができる。
【0052】
また、実施例1の原子吸光分析装置は、複数の目的元素の分析を同時に行うことも可能である。たとえば、ミラー2を取り外した状態で発光強度の測定を行う際に、Iu1、Ir1の測定とともに、他の目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度Is1を測定し、ミラー2を配置した状態で発光強度の測定を行う際に、Iu、Irの測定とともに、他の目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度Isを測定すれば、A’=(f*Is1−Is)/((f−1)*Is1)によって他の目的元素の自己吸収による吸収率A’を算出することができる。よって、一方の目的元素の吸収率Aと、他方の目的元素の吸収率A’とを同時に測定することができる。
【0053】
以上のように、実施例1の原子吸光分析装置では、従来の原子吸光分析装置のような目的元素の共鳴線スペクトルを発光する光源を必要とないため、複数の元素を同時に分析することができ、金属元素、非金属元素によらず分析することができる。また、光源を必要としないので原子吸光分析装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0054】
なお、実施例1では、ミラーを用いて反射させることで、自己吸収を利用しているが、他の方法を用いることも可能である。たとえば、アトマイズプラズマの発光を光ファイバなどによって受光し、この光をアトマイズプラズマに照射してアトマイズプラズマを透過した光を分光測定器によって受光する構成としてもよい。
【0055】
また、アトマイザーは実施例1に示したものに限るものではなく、アトマイズプラズマを発生させることができるものであれば任意のものを使用することができる。たとえばICP装置などを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の原子吸光分析装置および原子吸光分析法は、複数種の元素を同時に測定することができ、また、従来は検出の難しかったPやBなどの非金属元素の測定を行うこともできる。
【符号の説明】
【0057】
1:アトマイザー
2:ミラー
3:分光測定器
5:アトマイズプラズマ
6:ゴーストプラズマ
10:棒状電極
11:試料電極
12、14、15:セラミックス管
13:絶縁管
16:凹部
17:フッ素樹脂材
18:電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子化された試料を含むアトマイズプラズマを発生させるアトマイザーと、
前記アトマイズプラズマの発光スペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定し、前記アトマイズプラズマの発光と、前記アトマイズプラズマからの発光を前記アトマイズプラズマに照射して前記アトマイズプラズマを透過した光と、が加わった光のスペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定する測定装置と、
を有することを特徴とする原子吸光分析装置。
【請求項2】
前記測定装置は、ミラーを有し、そのミラーによって前記アトマイズプラズマからの発光を反射して前記アトマイズプラズマに照射する、ことを特徴とする請求項1に記載の原子吸光分析装置。
【請求項3】
測定する前記放電ガスの励起線スペクトルの発光強度は、前記目的元素の共鳴線スペクトルに最も近い波長のものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の原子吸光分析装置。
【請求項4】
前記アトマイザーは、大気圧プラズマを生成し、目的元素を含む試料に前記大気圧プラズマを照射し、前記試料を原子化することで、アトマイズプラズマを発生させる、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の原子吸光分析装置。
【請求項5】
前記アトマイザーは、
棒状の第1電極と、
管状であって、その管内に、前記第1電極の軸回りにおいて管内壁から前記第1電極が離間した状態となるように前記第1電極の先端部を保持し、管内壁と前記第1電極との隙間に、前記第1電極の先端部側の軸方向に放電ガスが流される絶縁管と、
前記第1電極の先端部から一定距離隔てて配置された第2電極と、
試料を保持する凹部を有し、その凹部底面に前記第2電極が露出した絶縁材からなる試料保持部と、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の原子吸光分析装置。
【請求項6】
原子化された試料を含むアトマイズプラズマを発生させ、
前記アトマイズプラズマの発光スペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定し、
前記アトマイズプラズマの発光と、前記アトマイズプラズマからの発光を前記アトマイズプラズマに照射して前記アトマイズプラズマを透過した光と、が加わった光のスペクトルにおいて、目的元素の共鳴線スペクトルの発光強度、および放電ガスの励起線スペクトルの発光強度とをそれぞれ測定する、
ことを特徴とする原子吸光分析法。
【請求項7】
ミラーによって反射させることで、前記アトマイズプラズマからの発光を前記アトマイズプラズマに照射する、ことを特徴とする請求項6に記載の原子吸光分析法。
【請求項8】
測定する前記放電ガスの励起線スペクトルの発光強度は、前記目的元素の共鳴線スペクトルに最も近い波長のものであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の原子吸光分析法。
【請求項9】
アトマイズプラズマは、大気圧プラズマを生成し、目的元素を含む試料に前記大気圧プラズマを照射し、前記試料を原子化し、前記大気圧プラズマ中に原子化した試料を混入させることで発生させる、ことを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の原子吸光分析法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−13542(P2012−13542A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150338(P2010−150338)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304036008)NUエコ・エンジニアリング株式会社 (59)
【Fターム(参考)】