説明

原子炉の出力振動監視装置、方法及びプログラム

【課題】演算対象の数が変化しうる複数のLPRM信号を平均化処理するに際し、抽出される振動成分が異常な変化をすることを抑制し、信頼性の高い原子炉の出力振動監視技術を提供することを目的とする。
【解決手段】LPRM信号を指定のセルに割り付けて受信する受信部2と、セルに割り付けられたLPRM信号のうち除外条件に該当するLPRM信号を検索する除外処理部3と、LPRM信号をセル毎に平均化して平均フラックス値Hを出力する平均化部4と、平均フラックス値Hの時間平均を演算して時間平均フラックス値Jを出力する時間平均部5と、平均フラックス値Hを時間平均フラックス値Jで除算して規格値Kを出力する規格値演算部6と、除外条件に該当するLPRM信号に変更があった場合に初期化信号Sを出力する初期化部10と、規格値Kから所定のアルゴリズムに基づく判定を実行する判定部7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の出力振動を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(BWR)においては、燃料健全性が損なわれる前に原子炉をスクラムさせて原子炉の出力を低下させる対策がとられている。そのために、核熱水力不安定性に起因する中性子束振動を検知する出力振動監視装置(OPRM:Oscillation Power Range Monitor)を使用して原子炉の炉心安定性を評価している。
【0003】
例えば改良型BWR(ABWR)においては、中性子束を検知するために炉心内に208個の局部出力領域モニタ検出器(LPRM検出器)が配置されている。これらLPRM検出器は、4個が一組となり縦軸方向に配列した52個の計装管に収められて炉心内に配置されている。
【0004】
このABWRにおいて出力振動監視装置は4台設けられており、1台の出力振動監視装置は、総数208個のうち52個のLPRM検出器から中性子束信号(LPRM信号)を受信するように構成されている。
それぞれのLPRM信号は、核熱水力不安定性に起因する振動以外にノイズ成分の振動を含むため、このノイズ成分を除去するためにフィルタ処理が行われる。
このフィルタ処理された複数のLPRM信号(フィルタフラックス値)は、冗長性が確保されるように定められたセルに割り当てられ、各々のセル毎に平均化された平均フラックス値が演算される。なお、ABWRにおいては、44個のセルが構成されている。
【0005】
この平均フラックス値に対し、時定数が比較的長いフィルタにより時間平均処理を実行した時間平均フラックス値を導く。さらに、先の平均フラックス値をこの時間平均フラックス値で除することにより、LPRM信号の振動成分のみを抽出した規格値が演算される。
【0006】
そして出力振動監視装置は、この規格値の振動波形の山及び谷のピークを検知して振幅及び周期を導いて、様々なアルゴリズムに基づき核熱水力不安定性に起因する出力振動を監視する。こうして、燃料健全性が損なわれるおそれ有りと判断した場合は、スクラム信号を発生させる。
またOPRMは、52個のLPRM検出器のLPRM信号の平均値(APRM値)及び炉心流量値(FLOW)を受信し、原子炉が出力振動を発生する可能性の有る運転領域であるか否かを判定する。そして、出力振動の発生が無い運転領域であると判定した場合は、誤判断によるスクラム信号の発生を防止するために、出力振動監視のアルゴリズムを停止させる。
【0007】
そして、OPRMにおける前記した規格値の演算は、次の(1)から(3)の除外条件に該当するLPRM信号を除外して、各セルに割り当てられた残りのLPRM信号から規格値の演算を行っている。
(1)発信元のLPRM検出器が故障状態にあるもの、(2)OPRMの前段におけるLPRM信号の伝送経路に異常が発生しているもの、(3)LPRM信号の値が設定値より小さいもの(例えば5%未満)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3064084号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、規格値の演算処理中に、前記した除外条件にいずれかのLPRM信号が新たに該当する場合、または非該当になる場合が想定される。そのような場合、規格値の演算の対象となるLPRM信号が演算処理の過程において除外または復帰することになる。これにより、平均フラックス値は不連続に変化し、これにあわせて演算される規格値も異常な変化をする(図4(A)参照)。すると、得られた規格値の振動波形から、誤った山及び谷ピークが検知され、出力振動監視において誤判定がなされる課題があった。
【0010】
また、バイパス、故障状態、テストモードといった通常運用と異なる状態にあった出力振動監視装置が通常の運用状態に復帰した際においても、上述したことと同様の事態が想定される。例えばテストモードにおいては、外部または内部で発生させた模擬信号からLPRM信号に演算対象が変化した時点で演算される規格値が不連続になり、出力振動監視において誤判定がなされる課題があった。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、演算対象の数が変化しうる複数のLPRM信号を平均化処理するに際し、抽出される振動成分が不連続に変化することを抑制し、信頼性の高い原子炉の出力振動監視技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態である原子炉の出力振動監視装置は、炉心内に配置される複数のLPRM検出器から発信される各々のLPRM信号を指定のセルに割り付けて受信する受信部と、前記セルに割り付けられたLPRM信号のうち除外条件に該当するLPRM信号を検索する除外処理部と、前記除外条件に該当するLPRM信号を除いて割り付けられているLPRM信号を前記セル毎に平均化して平均フラックス値を出力する平均化部と、前記平均フラックス値の時間平均を演算して時間平均フラックス値を出力する時間平均部と、前記平均フラックス値を前記時間平均フラックス値で除算して規格値を出力する規格値演算部と、前記除外条件に該当するLPRM信号に変更があった場合にこの変更があったLPRM信号が割り付けられているセルを識別した初期化信号を出力する初期化部と、前記規格値から出力振動の振幅及び周期の少なくとも一方を導いて所定のアルゴリズムに基づく判定を実行する判定部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用される原子炉の縦断面を示す構成図。
【図2】本発明が適用される原子炉の水平断面を示す構成図。
【図3】本発明に係る原子炉の出力振動監視装置の第1実施形態を示す構成図。
【図4】実施形態に係る出力振動監視装置の効果の説明図を示し(A)は比較例を示すグラフ、(B)は実施例を示すグラフ。
【図5】本発明に係る原子炉の出力振動監視装置の第2実施形態を示す構成図。
【図6】実施形態に係る原子炉の出力振動監視装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように原子炉30は、炉心26を収容する圧力容器21と、この炉心26で発生した蒸気をタービン(図示略)に導く主蒸気管22aと、このタービンで仕事をして膨張した蒸気が冷却して凝縮した給水を再び圧力容器21に戻す給水管22bとから構成されている。
【0015】
炉心26は、圧力容器21内に固定されているシュラウド25に外周が囲まれ、その下部はシュラウド25に固定される炉心支持板27に支持され、上部は上部格子板24に支持されている。
そして、炉心26で発生した蒸気は、気水分離器23で気水分離され、その蒸気は前記したように主蒸気管22aに導かれて発電に寄与し、分離された分離水は給水管22bから戻された給水と合流する。このように合流した炉水は、周方向に複数設けられた再循環ポンプ28により(図面では省略して一つのみ記載)、シュラウド25及び圧力容器21にて形成される領域(ダウンカマD)を下降して下部プレナムLに案内される。
下部プレナムLに案内された炉水は、再び炉心26を通過して加熱され気液二相流となって、上部プレナムUに到達する。この到達した気液二相流は、再び気水分離器23に導かれ、前記したプロセスを繰り返す。
炉心26は、図2にその水平断面図が示されるように、多数の燃料棒(図示略)が収納されている角筒状のチャンネルボックスを有する燃料集合体33と、核分裂反応に伴う中性子を吸収して出力を制御する制御棒32と、この中性子を検出するLPRM検出器31(図1)を支持するとともに上部格子板24及び炉心支持板27にそれぞれ上下端が固定されている計装管34とが、多数配列して構成されている。
【0016】
この計装管34は、16体の燃料集合体33に1本程度の割合で設置されており、たとえばこの燃料集合体33が872体のABWRでは52本の計装管34が設けられている(注:図面と不一致)。これら複数のLPRM検出器31の各々から出力されるLPRM信号は、いくつかにグループ分けされて図1に示す平均出力領域モニタ35(APRM)に出力される。
【0017】
この平均出力領域モニタ35は、グループ毎のLPRM信号を平均化し、原子炉出力を示すAPRM信号を出力する。
炉心流量導出部36は、再循環ポンプ28及びその他の機器からの信号を取り込んで、炉心26内を流動する炉水の量を示す炉心流量信号(FLOW)を出力する。
【0018】
出力振動監視装置1は、図3(図1適宜参照)に示すように、炉心26内に配置される複数のLPRM検出器31から発信される各々のLPRM信号を指定のセルに割り付けて受信する受信部2と、前記セルに割り付けられたLPRM信号のうち除外条件に該当するLPRM信号を検索する除外処理部3と、前記除外条件に該当するLPRM信号を除いて割り付けられているLPRM信号を前記セル毎に平均化して平均フラックス値Hを出力する平均化部4と、平均フラックス値Hの時間平均を演算して時間平均フラックス値Jを出力する時間平均部5と、平均フラックス値Hを時間平均フラックス値Jで除算して規格値Kを出力する規格値演算部6と、前記除外条件に該当するLPRM信号に変更があった場合にこの変更があったLPRM信号が割り付けられているセルを識別した初期化信号Sを出力する規格値初期化部10,アルゴリズム初期化部11と、規格値Kから出力振動の振幅及び/又は周期を導いて所定のアルゴリズムに基づく判定を実行する判定部7と、から構成されている。
【0019】
セルとは、炉心26の全体に分布するLPRM検出器31をいくつかの群に規則的に分類させる概念である。それぞれのセルに割り付けられるLPRM検出器31は、セル間において部分的に重複するようにして、核熱水力不安定性に起因する中性子束振動を確実に検知できるように十分な冗長性をもたせている。
例えばABWRにおいてセルは44個から構成され、隣り合うセルは同じLPRM信号を演算に使用する。
【0020】
受信部2で受信するLPRM信号は、前段のA/D変換部(図示略)でデジタル信号に処理されている。さらに、このLPRM信号は、核熱水力不安定性に起因する振動成分以外のノイズ成分を含んでいるために、フィルタ(図示略)によりこのノイズ成分が除去される。このフィルタとしては例えばカットオフ周波数1Hzのものが使用される。フィルタ処理されたLPRM信号(フィルタフラックス値F)は、次に除外処理部3に送信される。
【0021】
除外処理部3で受信された各フィルタフラックス値Fは、次の(1)から(4)の除外条件に該当する出力振動の監視に適さないフィルタフラックス値Fが除外され残ったものが、次の平均化部4に送信される。
(1)発信元のLPRM検出器31(図1)が前段ユニット(図示略)で故障判定されているもの、(2)故障によりバイパスされているもの、(3)前段ユニットとの間の伝送経路において伝送異常が発生しているもの、(4)LPRM信号が設定値より小さいもの。
さらに除外処理部3は、除外処理されるフィルタフラックス値F(LPRM信号)の対象に変更があった場合は、その旨を示す変更通知信号Tを規格値初期化部10及びアルゴリズム初期化部11に送信する。
【0022】
平均化部4は、あらかじめ定められたセル毎に割り付けられているフィルタフラックス値Fのうち、除外処理部3で除外されなかったフィルタフラックス値Fをそのセル毎に平均して平均フラックス値Hを算出する。そして、算出した平均フラックス値Hを時間平均部5及び規格値演算部6に送信する。
【0023】
時間平均部5は、最新の平均フラックス値Hを受信した時点から一定期間過去にさかのぼって受信した複数の平均フラックス値Hを一時的に蓄積している。そして、これら蓄積されている複数の平均フラックス値Hの平均値をとることにより、時間平均フラックス値Jを算出する。これにより、算出された時間平均フラックス値Jは、出力振動に由来する振動成分が除去(スムージング)された信号になる。
なお、ここに示す時間平均フラックス値Jの算出方法は、例示であって、その他の一般的に使用される時間平均方法を適宜採用することができる。
【0024】
規格値演算部6において演算された規格値Kは、受信した平均フラックス値Hを時間平均フラックス値Jで除算した信号であることに起因して、出力振動に由来する振動成分を反映し振動の中心値が1に規格された信号となる。
ところで、規格値Kを算出する元になる時間平均フラックス値Jは、前記したとおり一定期間過去に受信した平均フラックス値Hの情報を反映したものである。この平均フラックス値Hは、除外処理部3において除外処理されるフィルタフラックス値F(LPRM信号)の対象に変更があった場合に、図4の破線Xに示すように、その変更の前後において演算値が不連続に変化する場合がある。
【0025】
そして、除外処理されるフィルタフラックス値Fの対象が変更した後に演算された平均フラックス値Hを、変更前の平均フラックス値Hの情報を含む時間平均フラックス値Jで除算したとする。すると、比較例として示す図4(A)の一点鎖線Yに示すように、実線Zで示す規格化値Kに異常な変化が表れてしまうことになる。
【0026】
そこで、規格値初期化部10において、除外処理部3から変更通知信号Tを受信したときは、初期化信号S1を出力させ、図4(B)の実線Zに示すように規格化値Kにおける異常な変化を抑制することとした。
この異常な変化は、真の規格化値Kの振幅を越えない程度に抑制されれば充分であるために、規格値演算部6は、初期化信号S1に同期して、規格値Kに代えて定数cを出力することとした。
【0027】
この定数cは、出力振動の変位が小さくなるように振動中心(=1)と同じか近い値を採用することとし、少なくとも規格値K(時間平均フラックス値J)の演算の対象になるLPRM信号(フィルタフラックス値F)が全て同じものになるまで、出力され続ける。 なお、定数c=1を採用する場合、規格値演算部6が初期化信号S1に同期して受信する二つの信号を、平均フラックス値H又は時間平均フラックス値Jのいずれか一方のみ二つ受信させるようにして、同値を互いに除算させればよい。
このようにして、規格値演算部6において演算される規格値K及び定数cは、判定部7に送信される。
【0028】
判定部7は、受信した規格値K及び定数cの時系列信号から求められる極大値(ピークの山)及び極小値(ピークの谷)より、その振動の振幅及び周期を求める。
判定部7は、求められた振幅及び/又は周期を評価する閾値を有し、所定のアルゴリズムに従って、この振幅及び/又は周期から核熱水力不安定性に起因する出力振動を検知してスクラム信号Rを出力する。
【0029】
ここで、アルゴリズムとは、例えば、求められる振幅及び/又は周期が閾値を1回でも超えればスクラム信号Rを出力するのではなく、連続して規定回数を閾値が超えることになって初めてスクラム信号Rを出力するといったように、エラー信号に基づいて誤ったスクラム信号Rを出力することを防止するためのものである。
【0030】
規格値初期化部10は、除外処理部3から変更通知信号Tを受信すると、初期化信号S2を判定部7に出力し、この初期化信号に同期させてアルゴリズムを初期化する。これにより、除外処理されるフィルタフラックス値Fの対象が変更した場合は、核熱水力不安定性に起因する出力振動の検知のシーケンスを最初から実行し直す。
【0031】
規格値初期化部10及びアルゴリズム初期化部11は、前記したとおりそれぞれ規格値演算部6及び判定部7に対し初期化信号S(S1,S2)を送信するものである。
この初期化信号S(S1,S2)の送信のトリガとなる情報は、上述した除外処理部3からの変更通知信号T以外に、故障診断部8からの故障情報信号U、外部からのバイパス信号B、テスト回路9からのテストモード信号M、運転状態判定部14からの運転情報信号N等がある。
【0032】
ここで運転状態判定部14は、炉心流量(FLOW)と原子炉出力(APRM)との関係を示す特性曲線において、現在の原子炉30(図1)の状態が、低流量かつ高出力状態であるかそれ以外の状態であるかによって変化する運転情報信号Nを出力する。これは、原子炉30の状態が、低流量かつ高出力状態である場合に、核熱水力不安定性に起因する中性子束振動の発生が多いことによる。
【0033】
規格値初期化部10では、以下の条件が成立したセルについて規格値Kを初期化(定数c)させる初期化信号S1を、該当するセルが認識できる情報とともに規格値演算部6に送信する。
(1)除外処理部3で除外処理される対象のフィルタフラックス値Fが変化したことを示す変更通知信号Tが送信された場合、(2)セルバイパス信号が、バイパス状態から非バイパス状態へ変化した場合、(3)故障診断部8からの故障情報信号Uが、故障状態から非故障状態へ変化した場合、(4)外部からのバイパス信号Bがバイパス状態から非バイパス状態へ変化した場合、(5)テスト回路9からのテストモード信号がテスト状態から非テスト状態へ変化した場合、(6)運転状態判定部14からの運転情報信号Nがバイパス状態から非バイパス状態へ変化した場合。
これらの条件のうち、(3)〜(6)は特定のセルのみに影響する変化ではなく、すべてのセルに影響する変化であるため、出力振動監視装置1で演算処理を行うすべてのセルに対して初期化を実行する。
【0034】
またアルゴリズム初期化部11では、以下の条件が成立したセルについてアルゴリズムを初期化させる初期化信号S2を、該当するセルが認識できる情報とともに判定部7へ送信する。
(1)除外処理部3で除外処理される対象のフィルタフラックス値Fが変化したことを示す変更通知信号Tが送信された場合、(2)セルバイパス信号が、バイパス状態の場合、(3)故障診断部8からの故障情報信号Uが、故障状態から非故障状態へ変化した場合、(4)外部からのバイパス信号Bがバイパス状態から非バイパス状態へ変化した場合、(5)テスト回路9からのテストモード信号がテスト状態から非テスト状態へ変化した場合、(6)運転状態判定部14からの運転情報信号Nがバイパス状態の場合。
【0035】
以上述べたように本実施形態の原子炉の出力振動監視装置1によれば、規格値演算部6で演算される規格値Kは、その演算の元になる対象が変更される場合に、中心値である1に近い値(定数c)に設定される。さらに、判定部7では、監視の状態に変化が発生した場合に各アルゴリズムのシーケンスを最初に戻して判定を行うことなる。これにより、原子炉における炉心安定性の評価において誤判定が低減する出力振動監視装置を提供することができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に図5を参照して第2実施形態に係る出力振動監視装置1を説明する。なお、図3において図3と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、すでにした記載を援用して、詳細な説明を省略する。
第2実施形態における出力振動監視装置1は、規格値初期化部10及びアルゴリズム初期化部11の後段にタイミング制御部18を追加したものである。
【0037】
タイミング制御部18は、規格値演算部6から定数cが出力され続けている期間内に、判定部7において前記アルゴリズムを初期化させる。さらに、タイミング制御部18は、規格値演算部6から定数cが出力され続ける期間を設定することができる。
【0038】
上述した初期化信号S(S1,S2)の送信条件のうち、初期化信号S1と初期化信号S2が同時に発生する場合について検討する。
例えば(1)の条件は初期化信号S(S1,S2)の両方に共通の条件であり、この条件が成立した場合は、規格値Kの初期化(定数c=1の場合を考える)と同時のタイミングでアルゴリズムの初期化が行われることになる。
このためLPRM信号の状態によっては、アルゴリズムのシーケンスが必ずしも規格値Kが1から始まらないことがある。
【0039】
そこで、タイミング制御部18において、規格値初期化部10からの初期化信号S1とアルゴリズム初期化部11からの初期化信号S2とを受信し、両者の同時性が成立したとする。この場合、初期化信号S1の発生期間を延長し、判定部7が初期化信号S2を受信してアルゴリズムの初期化を完了して監視を開始してから、初期化信号S1の発生を解除する。
これにより、判定部7は状態変化が発生した場合にも必ず監視対象となる規格値が1の状態からその変化を監視することができ、原子炉における炉心安定性の評価において誤判定が低減する出力振動監視装置を提供することができる。
【0040】
次に図6(適宜図1参照)を参照して原子炉の出力振動監視装置1の動作説明を行う。 まず、炉心26内に配置される複数のLPRM検出器31から発信される各々のLPRM信号を受信する(S11)。そして、受信したLPRM信号を指定のセルに割り付ける(S12)。
【0041】
次に、セルに割り付けられたLPRM信号に除外条件を適用して該当するLPRM信号を検索する(S13)。そして、除外条件に該当するLPRM信号に変更が無い場合は(S14:Yes)、除外条件に該当するLPRM信号を除いて割り付けられているLPRM信号をセル毎に平均化して平均フラックス値Hを出力する(S15)。
【0042】
次に、この平均フラックス値Hの時間平均を演算して時間平均フラックス値Jを出力する(S16)。そして、平均フラックス値Hを時間平均フラックス値Jで除算して規格値Kを出力する(S17)。
【0043】
一方で、除外条件に該当するLPRM信号に変更が有る場合は(S14:No)、この変更があったLPRM信号が割り付けられているセルを識別した初期化信号Sを出力する(S18)。そして、規格値Kに代わり定数c(=1)を出力する等する(S19)。
そして、規格値Kから出力振動の振幅及び/又は周期を導いて(S20)、所定のアルゴリズムに基づき核熱出力不安定性の判定を実行する(S21)。
【0044】
ここで、不安定であると判定された場合は(S22:Yes)、スクラム信号Rを出力し(S23)、安定であると判定された場合は(S22:No)、上述したS11からS21までのフローを繰り返す。
【0045】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
例えば、出力振動監視装置は、コンピュータによって各機能部をプログラムにより実現することも可能である。
また、規格値演算部6は、初期化信号Sを受信して規格値Kに代えて定数c(=1)を出力する実施形態を示したが、判定部7における誤判定を回避するためであれば規格値Kの代わりに出力されるものは定数cに限定されない。
【符号の説明】
【0046】
1…出力振動監視装置、2…受信部、3…除外処理部、4…平均化部、5…時間平均部、6…規格値演算部、7…判定部、8…故障診断部、9…テスト回路、10…規格値初期化部(初期化部)、11…アルゴリズム初期化部、13…気水分離器、14…運転状態判定部、18…タイミング制御部、21…圧力容器、22a…主蒸気管、22b…給水管、23…気水分離器、24…上部格子板、25…シュラウド、26…炉心、27…炉心支持板、28…再循環ポンプ、30…原子炉、31…LPRM検出器、32…制御棒、33…燃料集合体、34…計装管、35…平均出力領域モニタ、36…炉心流量導出部、c…定数、F…フィルタフラックス値、H…平均フラックス値、J…時間平均フラックス値、K…規格値、R…スクラム信号、S(S1,S2)…初期化信号、T…変更通知信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心内に配置される複数のLPRM検出器から発信される各々のLPRM信号を指定のセルに割り付けて受信する受信部と、
前記セルに割り付けられたLPRM信号のうち除外条件に該当するLPRM信号を検索する除外処理部と、
前記除外条件に該当するLPRM信号を除いて割り付けられているLPRM信号を前記セル毎に平均化して平均フラックス値を出力する平均化部と、
前記平均フラックス値の時間平均を演算して時間平均フラックス値を出力する時間平均部と、
前記平均フラックス値を前記時間平均フラックス値で除算して規格値を出力する規格値演算部と、
前記除外条件に該当するLPRM信号に変更があった場合にこの変更があったLPRM信号が割り付けられているセルを識別した初期化信号を出力する初期化部と、
前記規格値から出力振動の振幅及び周期の少なくとも一方を導いて所定のアルゴリズムに基づく判定を実行する判定部と、を備えることを特徴とする原子炉の出力振動監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉の出力振動監視装置において、
前記規格値演算部は、前記初期化信号に同期して、この初期化信号で識別されているセルの前記規格値に代えて定数を出力することを特徴とする原子炉の出力振動監視装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子炉の出力振動監視装置において、
前記判定部は、前記初期化信号に同期して、前記アルゴリズムを初期化することを特徴とする原子炉の出力振動監視装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の原子炉の出力振動監視装置において、
前記規格値演算部から前記初期化信号に同期して出力される前記定数は、少なくとも前記規格値の演算の対象になるLPRM信号が全て同じものになるまで、出力され続けることを特徴とする原子炉の出力振動監視装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の原子炉の出力振動監視装置において、
前記規格値演算部から前記定数が出力され続けている期間内に、前記判定部において前記アルゴリズムを初期化させるタイミング制御部を備えることを特徴とする原子炉の出力振動監視装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の原子炉の出力振動監視装置において、
前記タイミング制御部は、前記規格値演算部から前記定数が出力され続ける期間を設定することを特徴とする原子炉の出力振動監視装置。
【請求項7】
炉心内に配置される複数のLPRM検出器から発信される各々のLPRM信号を指定のセルに割り付けて受信する工程と、
前記セルに割り付けられたLPRM信号のうち除外条件に該当するLPRM信号を検索する工程と、
前記除外条件に該当するLPRM信号を除いて割り付けられているLPRM信号を前記セル毎に平均化して平均フラックス値を出力する工程と、
前記平均フラックス値の時間平均を演算して時間平均フラックス値を出力する工程と、
前記平均フラックス値を前記時間平均フラックス値で除算して規格値を出力する工程と、
前記除外条件に該当するLPRM信号に変更があった場合にこの変更があったLPRM信号が割り付けられているセルを識別した初期化信号を出力する工程と、
前記規格値から出力振動の振幅及び周期の少なくとも一方を導いて所定のアルゴリズムに基づく判定を実行する工程と、を含むことを特徴とする原子炉の出力振動監視方法。
【請求項8】
コンピュータを、
炉心内に配置される複数のLPRM検出器から発信される各々のLPRM信号を指定のセルに割り付けて受信する手段、
前記セルに割り付けられたLPRM信号のうち除外条件に該当するLPRM信号を検索する手段、
前記除外条件に該当するLPRM信号を除いて割り付けられているLPRM信号を前記セル毎に平均化して平均フラックス値を出力する手段、
前記平均フラックス値の時間平均を演算して時間平均フラックス値を出力する手段、
前記平均フラックス値を前記時間平均フラックス値で除算して規格値を出力する手段、
前記除外条件に該当するLPRM信号に変更があった場合にこの変更があったLPRM信号が割り付けられているセルを識別した初期化信号を出力する手段、
前記規格値から出力振動の振幅及び周期の少なくとも一方を導いて所定のアルゴリズムに基づく判定を実行する手段、として機能させることを特徴とする原子炉の出力振動監視プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−247643(P2011−247643A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118539(P2010−118539)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】