説明

原子炉の炉心および原子炉

【課題】燃料の燃焼とともに燃焼部が新燃料部に向かって移動する原子炉の炉心において、冷却材の温度が上昇したときに炉心に印加される反応度が負になる炉心を提供する。
【解決手段】原子炉の炉心は、燃料集合体21と、運転サイクルの初期に燃焼部に含まれる領域に配置され、複数の燃料集合体21同士を互いに支持し、燃料集合体21同士の間隔を定める間隔調整板31とを備える。間隔調整板31は、温度が上昇すると膨張する材質で形成されており、炉心の冷却材の温度が上昇したときに間隔調整板31が膨張し、燃料集合体21同士の間隔が大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の炉心および原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、発電設備等に用いられている。原子炉は、高速中性子炉を含む。高速中性子炉は、主に高速中性子により核分裂性核種を核分裂させて出力を発生する原子炉であり、ナトリウム、鉛ビスマス合金等の重金属、またはガス等により炉心が冷却される。従来の技術の原子炉では、炉心全体で核分裂が生じるとともに出力が発生する。
【0003】
原子炉の炉心の臨界の維持および出力の調整は、例えば制御棒によって行われる。制御棒は、中性子を吸収しやすい物質で形成されている。運転サイクルの初期には制御棒を炉心に挿入しておき、燃焼が進むとともに徐々に制御棒を引き抜くことにより、出力を維持しながら臨界状態を保っている。このように、原子炉の運転においては、原子炉の臨界を維持するための制御が必要である。運転サイクルの初期から運転サイクルの末期まで継続的に臨界の維持のための制御を行っている。
【0004】
特許第3463100号公報においては、運転サイクルで臨界を維持するための制御が不要な原子炉が開示されている。この原子炉は、CANDLE(Constant Axial Shape of Neutron Flux, Nuclide Densities and Power Shape During Life of Energy Production)燃焼法と呼ばれる燃焼法を採用している。CANDLE燃焼法では、炉心をおおよそ新燃料部、燃焼部、燃焼が進んだ部分に分けることができる。燃焼部は、燃焼とともに、出力に比例した速さで新燃料部に向かって移動する。CANDLE燃焼では、一つの運転サイクルが終了した後、次の運転サイクルを行なうために燃料を交換する。燃料を交換するときには、炉心軸の方向において燃焼の進んだ燃料を取り出し、取り出した側の端部と反対側の端部に新燃料を装荷することができる。
【0005】
CANDLE燃焼法では、臨界調整を行なわなくてもよく、また、出力分布の調整をしなくても出力分布が、ほぼ一定に保たれる。このため、運転サイクルの初期から末期にわたって、制御棒の操作等のような炉心の反応度制御は行わなくても良いという特徴を有する。また反応度係数も変化せずに、燃焼とともに運転方法を変化させなくても良いという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3463100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉の燃料の燃焼法としてCANDLE燃焼法を採用することにより、燃焼が進行しても炉心特性をほぼ一定にすることができて運転制御が簡単になり、事故の発生確率が低い原子炉を提供することができる。また、炉心に制御棒を配置しなくても良いために、運転期間中に制御棒が誤って引き抜かれるような事故の可能性が全くなくなる。また、燃料を取り出すときの燃焼度が高いことから、廃棄物の量を低減できる。
【0008】
CANDLE燃焼法では、第2サイクル以降の新燃料として、天然ウランまたは劣化ウランだけを用いて運転を行なうことができる。これらの燃料は、未臨界であることから輸送や貯蔵が容易になる。また、濃縮や再処理を行なわずに、ウランのおよそ40%をエネルギーとして利用できることから、資源の有効利用ができる。また、第2サイクル以降の新燃料は、濃縮や再処理等が不要となることから、核拡散抵抗性が高いなどの特徴を有する。
【0009】
ところで、原子炉の炉心の温度が上昇する事象が生じたときに、温度上昇が促進されるように設計されていると、炉心の温度が急激に上昇する虞がある。このために、原子炉の炉心は、温度が上昇する事象が生じたときに、自然に温度上昇が抑制される特性を有することが好ましい。特に、炉心内の燃料の温度や冷却材の温度が上昇したときには、負の反応度が印加されるように炉心が設計されることが好ましい。すなわち、炉心における燃料の温度係数および冷却材の温度係数は負であることが好ましい。
【0010】
燃料の温度係数に関しては、温度が上昇したときに中性子吸収が増加するドップラー効果等により、比較的容易に燃料の温度係数を負にすることができる。一方で、高速中性子を用いて核分裂させる炉心では、冷却材の温度係数が正になりやすい特性を有する。冷却材の温度が上昇すると冷却材の密度が小さくなって中性子の減速効果が小さくなる。このために、主に高速中性子にて核分裂を行う原子炉では、核分裂が促進される傾向が生じる。たとえば、冷却材としてナトリウムを用いてプルトニウムを核分裂する原子炉においては、冷却材の温度係数が正になり易い。このように、高速中性子を用いて核分裂させる炉心においては、冷却材の温度が上昇したときに負の反応度が印加される炉心を設計することが難しいという問題があった。
【0011】
本発明は、燃料の燃焼とともに燃焼部が新燃料部に向かって移動する炉心であって、冷却材の温度が上昇したときに炉心に印加される反応度が負になる炉心およびこの炉心を備える原子炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の原子炉の炉心は、新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを備え、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、運転サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部がほぼ一定の形状を保ちながら新燃料部に向かう方向に移動する。原子炉の炉心は、燃料棒または燃料集合体を含む燃料体と、運転サイクルの初期に燃焼部に含まれる領域に配置され、複数の燃料体同士を互いに支持し、燃料体同士の間隔を定める間隔調整部材とを備える。間隔調整部材は、温度が上昇すると膨張する材質で形成されており、炉心の冷却材の温度が上昇したときに間隔調整部材が膨張し、燃料体同士の間隔が大きくなる。
【0013】
上記発明においては、炉心入口から炉心出口に向かって冷却材の温度が上昇する高上昇率領域と、高上昇率領域よりも下流に配置され、高上昇率領域よりも温度の上昇率が小さくなる低上昇率領域とを有し、間隔調整部材は、運転サイクルの初期において低上昇率領域に配置されていることが好ましい。
【0014】
上記発明においては、間隔調整部材は、穴部を有する間隔調整板を含み、複数の燃料体は、穴部に支持されている。
【0015】
本発明の原子炉は、上述の炉心と、炉心が内部に配置されている原子炉容器とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料の燃焼とともに燃焼部が新燃料部に向かって移動する炉心であって、冷却材の温度が上昇したときに炉心に印加される反応度が負になる炉心およびこの炉心を備える原子炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態における原子炉の概略図である。
【図2】実施の形態における炉心の4分の1の概略平面図である。
【図3】実施の形態における燃料集合体の概略斜視図である。
【図4】実施の形態における燃料棒の概略斜視図である。
【図5】実施の形態における炉心の燃料の燃焼状態を説明する概略図である。
【図6】実施の形態における燃料の中性子フルエンスに対する無限中性子増倍率の変化を説明するグラフである。
【図7】炉心高さと燃料の無限中性子増倍率との関係を説明するグラフである。
【図8】実施の形態における炉心の出力密度の変化および燃料の取換えを説明する図である。
【図9】実施の形態における炉心の概略部分断面図である。
【図10】実施の形態における間隔調整部材の拡大概略平面図である。
【図11】実施の形態における炉心の他の概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から図11を参照して、実施の形態における炉心および原子炉について説明する。本実施の形態における炉心は、主に高速中性子によりプルトニウムの核分裂を発生させる高速中性子炉である。本実施の形態における原子炉は、発電設備に配置されており、原子炉から流出する冷却材の熱を用いて発電を行なっている。
【0019】
図1は、本実施の形態における原子炉の概略図である。本実施の形態における発電設備は、原子炉1を備える。原子炉1は、原子炉容器9を含む。原子炉1は、原子炉容器9の内部に配置されている炉心10を含む。原子炉容器9の内部には、冷却材が流れている。本実施の形態における炉心10の周りには、反射体が配置されていないが、この形態に限られず、炉心10の周りに反射体が配置されていても構わない。
【0020】
冷却材は、矢印112に示すように、原子炉容器9に流入して、炉心10の内部を通過する。炉心10の熱は、冷却材に伝達される。本実施の形態における原子炉1は、冷却材が炉心10の下側から上側に向かって流れる。炉心10から流出した冷却材は、矢印111に示すように原子炉容器9から流出する。
【0021】
冷却材は、中性子の減速能力や中性子の吸収能力が小さな材料を用いることができる。本実施の形態においては、鉛−ビスマス冷却材が用いられている。本実施の形態においては、冷却材が反射体の機能を有する。原子炉の冷却材としては、鉛系冷却材(液体金属)の他に、ナトリウムを使用することができる。または、ヘリウム等のガス冷却材を用いることができる。また、鉛系冷却材としては、鉛−ビスマスの他に鉛のみや、同位体分離された鉛208を採用することができる。本実施の形態における炉心10は、鉛直方向が炉心の軸方向に相当する。
【0022】
図2に、本実施の形態における原子炉の炉心の概略平面図を示す。図2は、炉心の4分の1を示している。本実施の形態における炉心10は、平面形状がほぼ正六角形状に形成されている。原子炉の炉心は、この形態に限られず、平面視したときに、ほぼ円形となる任意の形状または円形に形成することができる。
【0023】
本実施の形態における炉心10は、燃料体としての燃料集合体21を含む。本実施の形態においては、複数の燃料集合体21が規則的に配列されている。本実施の形態における複数の燃料集合体21には、同一の新燃料が装荷されている。本実施の形態においては、新燃料として劣化ウランが装荷されている。
【0024】
図3に、本実施の形態における燃料集合体の概略斜視図を示す。燃料集合体21は、複数の燃料棒22を含む。燃料棒22は、長手方向の端部がノズル27により支持されている。または、燃料棒22は、燃料集合体21の内部に配置され、ノズル27に固定されている固定部材により支持されている。また、燃料棒22は、複数の支持格子25a,25bにより支持されている。支持格子25a,25bは、燃料棒22同士を互いに離して支持している。冷却材は、燃料棒22同士の間を流れて燃料棒22を冷却する。本実施の形態では支持格子により燃料棒同士の間の距離を保っているが、この形態に限られず、支持格子の代わりにワイヤースペーサー等を用いることができる。
【0025】
図4に、本実施の形態における燃料棒の概略斜視図を示す。図4では、燃料の燃焼が上側から下側に向かって移動する燃料棒を示している。また、被覆材の一部を破断して示している。本実施の形態における燃料棒22は、被覆材23を含む。被覆材23は、筒状に形成されている。被覆材23は、たとえばステンレス鋼で形成されている。燃料棒22は、燃料ペレット24a,24b,24cを含む。燃料ペレット24a,24b,24cは、被覆材23の内部に配置されている。燃料棒22は、栓29により封止されている。燃料ペレット24a,24b,24cは、コイルスプリング28により押圧されている。
【0026】
図4に示す燃料棒は、運転サイクルの初期の状態を示している。複数の燃料ペレット24a,24b,24cは、新燃料を含む燃料ペレット24a、燃焼途中の燃料ペレット24b、および燃焼が十分に進んだ燃料ペレット24cの順に配置されている。新燃料を含む燃料ペレット24aの部分により、炉心の新燃料部が画定される。燃焼途中の燃料ペレット24bの部分により、炉心の燃焼部が画定される。燃焼が進んだ燃料ペレット24cの部分により、炉心の燃焼が進んだ部分が画定される。
【0027】
このように、本実施の形態における燃料棒22には、燃焼度が互いに異なる燃料ペレット24a,24b,24cが配置されている。一つの運転サイクルが終了した後には、たとえば、被覆材23を剥ぎ取り、燃焼が進んだ部分の燃料ペレットとそれ以外の燃料ペレットとを分離する。次に、新たな被覆材の内部に、新燃料を含む燃料ペレットおよび回収された燃料ペレット等を配置することにより、次の運転サイクルのための燃料棒を形成することができる。
【0028】
または、燃料ペレットの回収方法としては、それぞれの部分ごとに燃料棒を切断した後に、被覆材23を剥ぎ取っても構わない。この方法によっても、燃焼部および燃焼が進んだ部分に配置されていた燃料ペレットを回収することができる。
【0029】
図2から図4を参照して、本実施の形態における燃料集合体21の新燃料部に配置される燃料ペレットは、劣化ウランを含む。本実施の形態における燃料は、金属燃料であるが、この形態に限られず、例えば、窒化物燃料等を用いることができる。
【0030】
次に、本実施の形態における炉心の出力運転について説明する。本実施の形態においては、出力運転中に出力がほぼ一定に保たれる例について説明する。
【0031】
図5に、本実施の形態における炉心の燃焼の進行状況を説明する模式図を示す。図5は、炉心を軸方向に沿って切断したときの概略断面図である。図5は、複数回の運転サイクルを行なった後の第nサイクルの初期(BOC)の炉心と、第nサイクルの末期(EOC)の炉心とを示している。また、同一のサイクル長さおよび同一の燃料取替え方法で複数サイクル運転を行なった炉心を示している。径方向の位置rが零の軸が炉心軸である。
【0032】
本実施の形態における原子炉の炉心10は、運転サイクルの初期から末期にかけて燃焼部12が、新燃料部11に向けて移動する。すなわち、本実施の形態における炉心は、CANDLE燃焼を行なう。燃焼部12の移動する速度は、凡そ出力密度に比例し、燃料原子数密度に反比例する。
【0033】
本実施の形態における炉心の出力密度は、炉心の中央において高くなる。炉心の外周においては、中性子の漏れが多くなるために、径方向の外側に向かうほど出力密度が小さくなる。このため、燃焼部の軸方向の位置は、径方向の外側に向かうほど遅れた位置に配置される。
【0034】
本実施の形態における炉心10は、新燃料部11、燃焼部12および燃焼が進んだ部分13を含む。新燃料部11は、新燃料が配置されている部分である。燃焼部12は、自発的に中性子が発生し、燃料の燃焼が生じる部分である。燃焼部12では、核分裂が発生することにより実質に出力が生じている。燃焼が進んだ部分13は、燃焼が進んで、ほとんど出力を発生していない部分である。
【0035】
第nサイクルの初期の炉心において、新燃料部11は、炉心10の下部に配置されている。燃焼部12は、新燃料部11の上側に配置されている。燃焼部12には、前サイクルで既に燃焼が始まっていた燃料が配置されている。
【0036】
本実施の形態においては、運転サイクルの初期に配置された燃焼部12は、燃焼を開始する部分になる。燃焼部12から燃料の燃焼が開始され、矢印101に示すように、新燃料部11に向かう方向に燃焼が進行する。第nサイクルの燃焼が進行して運転サイクルの末期になった場合には、燃焼部12が炉心10の下端まで進行する。本実施の形態においては、新燃料部11がほとんどなくなるまで燃焼を継続している。運転サイクルの末期では、新燃料部11が残っていても構わない。
【0037】
図6に、本実施の形態における燃料の中性子フルエンスと無限中性子増倍率との関係を説明するグラフを示す。横軸が、中性子束を時間で積分した中性子フルエンスであり、縦軸が無限中性子増倍率kinfである。中性子フルエンスは、たとえば燃料の燃焼度に対応する量である。本実施の形態においては劣化ウランを燃料としている。劣化ウランは、たとえば、約99.8%のウラン238と、約0.2%のウラン235とを含む。ウラン238は、中性子を吸収することにより次の数1のように核変換する。ウラン238は、プルトニウム239に変換される。
【数1】

【0038】
中性子フルエンスが零の近傍では、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239が生成されることにより、無限中性子増倍率が上昇する。所定の中性子フルエンスに達すると、プルトニウム239等の存在量のウラン238の存在量に対する比が一定に近づき、更に核分裂生成物(FP)が蓄積して、無限中性子増倍率が徐々に減少する。このように、本実施の形態における燃料は、燃焼の初期において無限中性子増倍率が増加し、その後に徐々に無限中性子増倍率が減少する特性を有する。
【0039】
また、劣化ウランの未臨界度は大きいために、炉心の一部分を臨界以上にするためには、多くの中性子をウラン238に吸収させる必要がある。本実施の形態においては、このような条件を満たすように炉心の大きさを選定するとともに燃料集合体や燃料棒を設計している。
【0040】
上記のような炉心の構成を採用することにより、CANDLE燃焼を実施することができる。すなわち、炉心の径方向の全体にわたって出力が生じ、炉心の軸方向の一部の領域において燃焼部が生成される炉心を形成することができる。
【0041】
図7に、炉心高さを無限大にして燃焼を行なっているときの無限中性子増倍率のグラフを示す。横軸が炉心高さであり、縦軸が燃料の無限中性子増倍率を示している。本実施の形態においては、矢印101に示すように、燃焼部が新燃料部に向かって移動する。燃焼部は、無限中性子増倍率が1を超える領域を含む。実際の原子炉の炉心の高さは有限であり、この場合には、炉心の端部での無限中性子増倍率は、図7に示すグラフから僅かにずれる場合がある。
【0042】
図8に、本実施の形態における炉心の燃焼が進行する状態および燃料取り換えを説明するグラフを示す。図8には、第nサイクルの炉心の初期および末期のグラフと、第(n+1)サイクルの炉心の初期および末期のグラフが示されている。それぞれのグラフにおいては、炉心軸における出力密度、ウラン238の数密度および核分裂生成物の数密度が示されている。
【0043】
図7および図8を参照して、出力密度の最大点は、矢印101に示すように、新燃料部11が配置されている炉心下部に向けて移動する。本実施の形態における燃焼は、炉心の上端から下端に向かう方向に移動する。燃焼部が移動していく速度、すなわち、出力密度の最大点が移動する速度は、例えば、1年間に数cmである。このように、ゆっくりと燃焼部が移動する。ウラン238の数密度は、核変換されることにより燃焼部の下流側で小さくなる。また、核分裂生成物の数密度は、核分裂が生じることにより燃焼部の下流側で大きくなる。本実施の形態においては、燃焼部が、炉心のほぼ下端に達したときに燃焼を終了している。
【0044】
第nサイクルが終了すると燃焼が進んだ部分の一部の燃料を取り出す。第(n+1)サイクルの初期の炉心では、矢印117に示すように、第nサイクルにおいて炉心の下部に配置されている燃焼部を炉心の上部に配置して、燃焼を開始する部分として使用する。第(n+1)サイクルの炉心においては、炉心の下部に新たな新燃料部11を配置する。このような燃料交換を行なうことにより、第(n+1)サイクルの炉心においても、第nサイクルの炉心と同様の燃焼を行なうことができる。
【0045】
図9に、本実施の形態における炉心の概略部分断面図を示す。本実施の形態における炉心10は、バッフル板34の内部に配置されている。燃料集合体21は、長手方向が炉心10の軸方向とほぼ平行になるように配置されている。炉心10の下端部には、集合体下端支持部材32が配置されている。燃料集合体21の下端は、集合体下端支持部材32に固定されている。集合体下端支持部材32は、燃料集合体21を固定すればよいために、構造材として優れた材質を採用することができる。炉心10の上端部には、集合体上端支持部材33が配置されている。集合体上端支持部材33は、燃料集合体21の上端を移動可能に支持するように形成されている。燃料集合体21の上端は、外側に向かって移動可能なように集合体上端支持部材33に支持されている。
【0046】
本実施の形態における炉心10は、複数の燃料集合体21同士を互いに支持する間隔調整部材としての間隔調整板31を備える。間隔調整板31は、複数の支持格子25a,25bのうち、支持格子25aの部分に配置されている(図3参照)。間隔調整板31が配置されていない部分においては、互いに隣り合う燃料集合体21の支持格子25b同士の間には隙間が形成されている。
【0047】
図10に、本実施の形態における間隔調整板の概略平面図を示す。図9および図10を参照して、間隔調整板31は、燃料集合体21が挿入される穴部31aを有する。間隔調整板31の穴部31aは、燃料集合体21の支持格子25aに嵌合するように形成されている。本実施の形態における間隔調整板31は、炉心10に含まれる全ての燃料集合体21を支持するように形成されている。穴部31aに、燃料集合体21の支持格子25aが配置されることにより、隣り合う燃料集合体21同士を互いに拘束することができる。複数の燃料集合体21同士の間隔が定められる。
【0048】
本実施の形態における間隔調整板31は、温度が上昇すると膨張する材質により形成されている。間隔調整板31は、熱膨張率が大きな材質にて形成されている。また、本実施の形態における間隔調整板31は、集合体下端支持部材32よりも熱膨張率の大きな材質にて形成されている。熱膨張率の大きな材質としては、ステンレス鋼を例示することができ、たとえばステンレス鋼のうちSUS304またはSUS316(日本工業規格(JIS)に基づく)を採用することができる。
【0049】
図9には、炉心の概略図に加えて、炉心の軸方向の出力密度および冷却材温度が示されている。実線により運転サイクルの初期(BOC)の状態が示されており、破線により運転サイクルの末期(EOC)の状態が示されている。出力密度の分布および冷却材温度の分布は、運転サイクルの初期から末期にかけて、矢印101に示すように、炉心の下端に向かって移動する。冷却材の温度は、炉心10の下端から上端に向かうにつれて上昇している。
【0050】
本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期に燃焼部の領域に配置されている。特に、本実施の形態においては、運転サイクルを通して燃焼部の領域に配置されている。すなわち、間隔調整板31は、運転サイクルの初期においても末期においても、燃焼部の領域の内部に配置されている。間隔調整板31は、運転サイクルの期間中を通して冷却材の温度が高くなる領域に配置されている。
【0051】
更に、本実施の形態における間隔調整板31は、炉心の軸方向において、運転サイクルの初期に出力密度がほぼ最大になる位置に配置されている。または、本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期において、炉心入口から炉心出口に向かう方向の冷却材の温度上昇が緩やかになった位置に配置されている。
【0052】
図11に、本実施の形態における炉心の他の概略部分断面図を示す。炉心10においては、冷却材が間隔調整板31に接触する。このため、冷却材の温度上昇に伴って、間隔調整板31の温度も上昇する。間隔調整板31は、温度が上昇すると矢印120に示すように、径方向の外側に向かって膨張する。
【0053】
燃料集合体21は、間隔調整板31により拘束されている。また、本実施の形態の炉心10は、燃料集合体21の下端が集合体下端支持部材32に固定されている。間隔調整板31が膨張すると、矢印121に示すように、燃料集合体21の上端が径方向の外側に向かう。それぞれの燃料集合体21の上端の移動距離は、炉心軸(r=0)を中心として、径方向の外側に向かうにつれて徐々に大きくなる。
【0054】
このように、冷却材の温度が上昇すると、それぞれの燃料集合体21同士の間隔が大きくなるために中性子の漏れが多くなる。炉心10の実効中性子増倍率を1未満にすることができて、炉心10に印加される反応度を負にすることができる。すなわち、本実施の形態における炉心10では、冷却材の温度が上昇したときには負の反応度が印加される。
【0055】
また、冷却材の温度が下降したときには、それぞれの燃料集合体21同士の間隔が小さくなるために中性子の漏れが少なくなる。炉心10には正の反応度が印加される。このように、本実施の形態における炉心10は、冷却材に関する温度係数を負にすることができる。
【0056】
燃料の温度係数は、ドップラー効果等により容易に負になるが、その絶対値は小さい。本実施の形態における冷却材に関する温度係数は、絶対値の大きな負の値にすることができる。本実施の形態の冷却材に関する温度係数は、燃料の温度係数よりも非常に大きな負の値にすることができる。このために、他の構造材等の温度係数が正であっても、炉心全体の温度係数を容易に負にすることができる。
【0057】
また、本実施の形態における炉心は、炉心の形状を変化させて冷却材に関する温度係数を小さくしているために、燃料集合体の本数が多い大型の炉心においても、冷却材に関する温度係数を負にすることができる。
【0058】
図9を参照して、本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期に燃焼部に含まれる領域に配置されている。この構成により、出力や冷却材流量等が変化して冷却材の温度が変化したときに、冷却材の温度変化幅の大きな領域に間隔調整板31を配置することができて、間隔調整板31の膨張量を大きくすることができる。間隔調整板31が膨張したときの燃料集合体21同士の間隔を大きくすることができて、冷却材に関する温度係数をより負の値にすることができる。
【0059】
例えば、間隔調整板31を炉心10の下端の近傍に配置した場合には、運転サイクルの初期において間隔調整板31が燃焼部の外側に配置される。炉心10の下端の近傍では、核分裂による熱が冷却材に伝達されていないために、冷却材の温度変化幅が小さくなる。このために、間隔調整板31を十分に膨張させることができない。本実施の形態のように、間隔調整板31を燃焼部の領域に配置することにより、冷却材の温度が比較的高い領域に間隔調整板31を配置することができる。この領域では、冷却材の温度変化幅が大きくなるために、間隔調整板31を大きく膨張させることができる。冷却材に関する温度係数をより負の値にすることができる。
【0060】
また、間隔調整板31を燃焼部の領域に配置することにより、冷却材の温度変化幅が大きくなるために、間隔調整板31の体積が変化する速度が速くなる。冷却材の温度変化に応答性良く追従して、燃料集合体21同士の間隔を大きくしたり小さくしたりすることができる。すなわち、冷却材の温度変化に対する反応度の応答速度を向上させることができる。
【0061】
更に、本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期において冷却材温度が炉心出口の冷却材温度に近い値になる炉心の軸方向の位置に配置されている。冷却材温度は、主に燃焼部の出力密度が高くなる領域において、炉心入口から炉心出口に向けて大きく上昇する。図9を参照して、炉心は、炉心入口から炉心出口に向かって冷却材の温度が上昇する高上昇率領域131と、高上昇率領域131よりも温度の上昇率が小さくなる低上昇率領域132とを有する。低上昇率領域132は、高上昇率領域131よりも下流に配置される。図9には、運転サイクルの初期の高上昇率領域131および低上昇率領域132が示されている。本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期において冷却材の温度上昇が緩やかになる低上昇率領域132に配置されている。この構成を採用することにより、運転サイクルの初期から末期にかけて、間隔調整板31を低上昇率領域132内に配置することができる。運転サイクルの期間中に燃焼部が移動しても、間隔調整板31における冷却材温度があまり変化せず、膨張量も変化しない。このため、燃料の燃焼に伴う実効中性子増倍率の変化を抑制することができて、理想的なCANDLE燃焼を実現できる。また、燃料の燃焼に伴う冷却材に関する温度係数の変化を小さくすることができる。
【0062】
更に、間隔調整板31は、冷却材温度が炉心出口の冷却材温度に近い値になる範囲のうち、燃料集合体21同士の間隔が不変の集合体下端支持部材32に近い位置に配置することが好ましい。本実施の形態においては、炉心入口に近い位置に配置することが好ましい。たとえば、間隔調整板31は、運転サイクルの初期において低上昇率領域132の炉心入口側の端部に配置されることが好ましい。この構成により、間隔調整板31が膨張したときに燃料集合体同士の間隔を大きくすることができて、冷却材に関する温度係数をより負の値にすることができる。なお、間隔調整板31の位置は、この形態に限られず、たとえば、炉心出口に配置されていても構わない。
【0063】
本実施の形態における炉心は、燃料集合体の下端が集合体下端支持部材により固定されているが、この形態に限られず、燃料集合体体の下端は、燃料集合体の上端と同様に、径方向に移動可能に支持されていても構わない。たとえば、集合体下端支持部材は、冷却材の温度に応じて熱膨張するように形成されていても構わない。燃料集合体の下端に配置される集合体下端支持部材は、間隔調整部材と同様の材質で形成されていても構わない。
【0064】
本実施の形態において、間隔調整部材により間隔が調整される燃料体は燃料集合体を含むが、この形態に限られず、燃料体として燃料棒が採用されていても構わない。燃料棒を束にした燃料集合体が構成されておらずに、冷却材の流路が確保されるように燃料棒が直接的に間隔調整部材に支持されていても構わない。また、本実施の形態における間隔調整部材は、炉心に含まれる複数の燃料体のうち、全ての燃料体を支持するように形成されているが、この形態に限られず、一部の燃料体を支持するように形成されていても構わない。
【0065】
本実施の形態における間隔調整部材は、板状に形成されている間隔調整板を含むが、この形態に限られず、間隔調整部材は、互いに隣り合う燃料体同士の距離を温度に応じて調整するように形成されていれば構わない。たとえば、間隔調整部材は、線状に形成されたワイヤ等の部材を含んでいても構わない。または、間隔調整部材は、燃料集合体に取り付けられた熱膨張する塊状の部材であっても構わない。たとえば、間隔調整部材は、支持格子の外面に取り付けられた直方体状の部材を含み、燃料集合体が炉心に装荷されたときに、隣り合う燃料集合体の直方体状の部材同士が接触するように形成することができる。
【0066】
また、本実施の形態においては、炉心の軸方向の1箇所の位置に間隔調整板が配置されているが、この形態に限られず、複数の位置に間隔調整部材が配置されていても構わない。
【0067】
本実施の形態における燃料は、炉心に装荷する新燃料として劣化ウランを例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方を用いて、CANDLE燃焼を達成することができる。または、CANDLE燃焼を行なうことができる任意の高速中性子炉に、本発明を適用することができる。
【0068】
本実施の形態においては、運転サイクルの初期において前サイクルの燃焼部を新燃料部の上側に配置したが、この形態に限られず、新燃料部は、炉心の軸方向のうち、燃焼部のいずれか一方の端部に配置することができる。さらには、燃焼部の両側に新燃料部が配置されていても構わない。
【0069】
また、本実施の形態においては、運転サイクルの初期の燃焼を開始する部分は、前サイクルの運転サイクルの末期において、炉心の下部に配置されている燃料を使用しているが、この形態に限られず、運転サイクルの初期における燃焼を開始する部分は、中性子を自発的に発生するように形成されていれば構わない。たとえば、所定の濃度のプルトニウムや濃縮ウランなどを含む燃料が配置されていても構わない。更には、外部から中性子が供給されることにより、燃焼が開始されても構わない。
【0070】
また、本実施の形態における炉心は、炉心の軸方向が鉛直方向と平行になっているが、この形態に限られず、炉心の軸方向は水平方向と平行になっていても構わない。すなわち、本実施の形態における炉心を横置きにしても構わない。
【0071】
本実施の形態においては、発電設備に用いられる原子炉の炉心を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、任意の設備の原子炉に本発明を適用することができる。たとえば、船舶等の動力源として本発明の原子炉を用いることができる。
【0072】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。
【符号の説明】
【0073】
1 原子炉
10 炉心
11 新燃料部
12 燃焼部
13 燃焼が進んだ部分
21 燃料集合体
22 燃料棒
25a,25b 支持格子
31 間隔調整板
31a 穴部
32 集合体下端支持部材
131 高上昇率領域
132 低上昇率領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを備え、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、運転サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部がほぼ一定の形状を保ちながら新燃料部に向かう方向に移動する原子炉の炉心であって、
燃料棒または燃料集合体を含む燃料体と、
運転サイクルの初期に燃焼部に含まれる領域に配置され、複数の燃料体同士を互いに支持し、燃料体同士の間隔を定める間隔調整部材とを備え、
間隔調整部材は、温度が上昇すると膨張する材質で形成されており、
炉心の冷却材の温度が上昇したときに間隔調整部材が膨張し、燃料体同士の間隔が大きくなることを特徴とする、原子炉の炉心。
【請求項2】
炉心入口から炉心出口に向かって冷却材の温度が上昇する高上昇率領域と、高上昇率領域よりも下流に配置され、高上昇率領域よりも温度の上昇率が小さくなる低上昇率領域とを有し、
間隔調整部材は、運転サイクルの初期において低上昇率領域に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項3】
間隔調整部材は、穴部を有する間隔調整板を含み、
複数の燃料体は、穴部に支持されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の原子炉の炉心。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の原子炉の炉心と、
炉心が内部に配置されている原子炉容器とを備える、原子炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−167953(P2012−167953A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27483(P2011−27483)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)