説明

原子炉圧力容器の炉内機器管理方法及びその装置

【課題】原子炉圧力容器底部に有する炉内機器の範囲を限定して気中空間とすることにより、補修溶接若しくは、予防保全溶接に関する一連の作業を効率的に実施する工法を提供する。
【解決手段】原子炉圧力容器底部に林立する炉内機器を一度に全体を覆うシール装置と、シール装置の内空間に補修及び予防保全装置を設けた構成において、シール装置の内空間を水抜きし、気中空間とすることにより、管理作業(補修溶接及び予防保全溶接)が実施可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの供用期間中における原子炉圧力容器の炉内機器管理方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器底部に林立する炉内計装筒等炉内機器は、下鏡を貫通し溶接接合される構造となっている。この溶接部の予防保全若しくは補修を実施する方法としては、従来、水中環境下での作業となっているため水中で適用可能な方法に限定するか、対象部位を限定してその周囲を局部的に気中環境にするか、若しくは原子炉圧力容器内を水抜きして全体を気中環境とする方法が提供されている。
【0003】
ここで予防保全方法としては応力腐食割れの発生要因の一つである材料因子の観点から耐食性を有する溶接材を使用した肉盛溶接による表面改質の方法がある。また、補修方法としては、ひびの研削除去後に補修溶接を行う方法がある。そのため、予防保全及び補修のいずれの方法においても溶接ができることが好ましく、その際、原子炉圧力容器バウンダリの溶接を実施するためには、当該環境下で溶接前研磨,溶接,溶接後研磨,溶接寸法測定及び浸透探傷検査(PT)の手順全てが成立することが必須となり、従来は全て気中で実施していた。
【0004】
水中で適用可能な方法としては、水中溶接装置,研磨研削装置に関する公知例が複数提案されている。例えば、水中TIG溶接装置(特開平9−1347号公報)は、TIG溶接トーチ先端にドーム形成するガスを排出して溶接面の水を排除する方法が有る。また、水中研磨装置(特開2005−297090号公報)では、研削研磨するディスクグラインダとフードカバーを有する装置が提案されており、これらを個別に組み合わせる方法がある。
【0005】
対象部位を限定してその周囲を局部的に気中環境にする方法としては、例えば圧力容器貫通ハウジングの補修用カバー装置(特開平7−318681号公報)が提案されている。これは、原子炉圧力容器貫通ハウジングを囲む筒状のシール管を設定し、原子炉圧力容器貫通ハウジング1本の周囲を局所的に気中空間を形成するものである。
【0006】
原子炉圧力容器内を水抜きして全体を気中環境とする方法として中性子計測ハウジングの取替方法及びこれを用いる装置(特開2001−108784号公報)が提案されているが、沸騰水型原子炉(BWR)では原子炉の水抜きをしたときに水による遮へい効果が得られずオペレーションフロア上の放射線当量率が上昇するため、原子炉圧力容器フランジ面に厚い遮へい体を設定し水抜きを実施し、気中環境で中性子計測ハウジングの取替えを実施するものである。
【0007】
特開平5−312992号公報では特開2001−108784号公報と同様に圧力容器内の作業対象以下に水抜きを行った後に前記炉心シュラウドの上端フランジ面及びラグを利用してチャンバ本体を設置,固定し、更に、原子炉圧力容器内に設置されているジェットポンプ上部に位置するノズル部にシールプラグを設置し、前記原子炉圧力容器内下部への流入を防止し、各種ヘッドを挿入し、予防保全及び補修作業を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−1347号公報
【特許文献2】特開2005−297090号公報
【特許文献3】特開平7−318681号公報
【特許文献4】特開2001−108784号公報
【特許文献5】特開平5−312992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原子炉圧力容器の炉内機器を水中環境下で管理する方法は、個別に水中溶接装置,水中研磨装置を組み合わせる場合、溶接前研磨,溶接,溶接後研磨,溶接寸法測定及び浸透探傷検査(PT)の一連の作業の成立が必須となるが、現状水中での浸透探傷検査(PT)の技術は確立されていない。
【0010】
対象部位を限定してその周囲を局部的に気中環境にする方法である圧力容器貫通ハウジングの補修用カバー装置(特開平7−318681号公報)は、多数ある原子炉圧力容器貫通ハウジング溶接部の予防保全溶接を実施する場合、対象位置を変更する都度、本シール管の移設を実施するため作業性が悪い。特に溶接では前述した溶接前研磨,溶接,溶接後研磨,溶接寸法測定及び浸透探傷検査(PT)の一連の作業が1本ごとに完了するまで、本シール管を取外すことはできないため、非効率的である。
【0011】
原子炉圧力容器内の水抜きに関しては、沸騰水型原子炉(BWR)では厚い遮へい体の設定と膨大な量の原子炉水の排水処理が必要となる。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、原子炉圧力容器底部水中環境下においても炉内機器の管理作業(研磨,溶接,溶接後研磨,溶接寸法測定及び浸透探傷検査(PT))の一連の作業を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題を解決するための手段は炉心下部に林立する炉内機器を一度に複数を覆うカバー装置と、カバー装置内空間に補修及び予防保全装置を装備した構成において、補修及び予防保全装置を設定後、カバー装置を設置してカバー装置の内空間の水抜きを実施し、限定した範囲を気中空間とすることで達成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により原子炉内の全体の水抜きを不要とし、炉底部全数の炉内機器を対象として効率的に、かつ工事期間も比較的短期間で作業が行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例である、加圧水型原子炉の炉内機器の補修方法及び装置を示す。
【図2】本発明の一実施例である、共通アクセス装置の吊り下ろし状態を示す。
【図3】本発明の一実施例である、共通アクセス装置を原子炉圧力容器底部に着座した状態を示す。
【図4】本発明の一実施例である、カバー装置の吊り下ろし状態を示す。
【図5】本発明の一実施例である、作業台車上の案内筒支持部分を示す。
【図6】本発明の一実施例である、案内筒の連結部を示す。
【図7】本発明の一実施例である、カバー装置を原子炉圧力容器底部の下鏡に着座した状態を示す。
【図8】本発明の一実施例である、シール材7の拡大図。
【図9】本発明の一実施例である、シール部の変形例の拡大図。
【図10】本発明の一実施例である、カバー装置内水抜き状態を示す。
【図11】本発明の一実施例である、共通アクセス装置への各種装置ヘッドの取付け手順を示す。
【図12】本発明の一実施例である、各種装置ヘッド取付け金具の詳細構造を示す。
【図13】共通アクセス装置に各種装置ヘッドを取付けた後のケーブルとエアーホースの状態を示す。
【図14】本発明の一実施例である、カバー装置5と共通アクセス装置10を一体化した場合の操作手順を示す。
【図15】本発明の一実施例である、カバー装置5内をガスパージしてカバー装置5へのキャビティ水の進入防止例を示す。
【図16】作業手順を示すフロー図。
【図17】補修作業手順のフロー図。
【図18】予防保全作業手順のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を示す。
【0017】
本発明の第一目的は、原子炉圧力容器底部水中環境下においても炉内機器の管理作業(研磨,溶接,溶接後研磨,溶接寸法測定及び浸透探傷検査(PT))の一連の作業を可能とすることにある。
【0018】
本発明の第二の目的は、気中空間を確保するに当って、水抜きによる範囲を必要最小限とするとともに水遮へい効果を維持し、オペレーションフロア上での放射線当量率の増加を抑制することにある。
【0019】
本発明の第三の目的は、原子炉圧力容器内に林立する多数の炉内機器を効率的に補修及び予防保全を実施する方法を提供することにある。
【0020】
本発明の第四の目的は、補修及び予防保全手段に使用する各種装置から水中仕様を除外し、装置仕様の簡素化によるコスト低減を図ることにある。
【0021】
本発明の第一目的及び第二の目的は炉心下部に林立する炉内機器を一度に複数を覆うカバー装置と、カバー装置内空間に補修及び予防保全装置を装備した構成において、補修及び予防保全装置を設定後、カバー装置を設置してカバー装置の内空間の水抜きを実施し、限定した範囲を気中空間とすることで達成できる。
【0022】
第三の目的は、共通アクセス装置と各種装置ヘッドを有する装置構成において、カバー装置上部に連結した案内筒を介して溶接機ヘッド,研磨装置ヘッドと施工手順に応じて交換することで一連の溶接手順が可能となることと、共通アクセス装置に備えた旋回と径方向及び昇降により任意の位置にある炉内機器に各種装置ヘッドを設定可能とすることで、複数の炉内機器に対して連続した補修及び予防保全作業が可能となる。
【0023】
本発明の第四の目的は、水中環境下での装置設定は、共通アクセス装置を設定し、カバー装置を設置して気中空間を確保したのちに、案内筒を介して各種装置ヘッドを設定可能とすることにより水中仕様を共通アクセス装置に限定し、複雑な機能と有する各種装置ヘッドは気中仕様で成立する。
【0024】
本発明の効果は本発明により原子炉内の全体の水抜きを不要とし、炉底部全数の炉内機器を対象として効率的に、かつ工事期間も比較的短期間で作業が行え、さらに作業員の被ばく低減も図れ、しかも信頼性の高い補修及び予防保全作業の実施を提供することができる。
【実施例1】
【0025】
本発明において炉内機器管理とは補修または予防保全を行う作業をさす。また原子炉圧力容器底部を下鏡と呼ぶ。なお、本実施例では最適な方法として炉底部炉内機器全体を一度に覆う例を示すが、カバー装置は必ずしも全数を覆う必要はなく全体の半分や4分の1等でも構わない。
【0026】
図1に加圧水型原子炉(PWR)の炉内機器を対象とした一実施例を示す。
【0027】
加圧水型原子炉(PWR)は、低合金鋼にステンレス鋼で内張りした原子炉圧力容器1の内部に下鏡2を貫通し多数林立する炉内計装筒3と炉心支持金物4を有する。沸騰水型原子炉(BWR)と異なり、原子炉内構造物は、上部炉内構造物と下部炉内構造物に分割しキャビティに一時保管が可能であり、作業時は空間上の制約が大幅に軽減される。また、加圧水型原子炉(PWR)では、キャビティ内に炉内構造物を一時保管するが、原子炉側との仕切りがないため、キャビティ水を抜くことができない。
【0028】
このうち下鏡を貫通する炉内計装筒3の溶接部を対象にひびが無い場合は、応力腐食割れの要因の一つである材料の改善として、耐食性の優れた溶接材で炉内計装筒溶接部の外表面(接液面)に肉盛溶接を行い表面改質することで予防保全を図ることができる。また、ひびが有る場合は、ひび面を肉盛補修溶接して環境遮断することによりひびの進展を抑制するか、若しくはひびを研削除去し、その研削深さが構造物の強度上支障がある場合は埋め戻し溶接にて補修する手段がある。これらの対策は、いずれも溶接作業を要することから、炉内計装筒3を以下の手順にて気中空間17とする。
【0029】
カバー装置5とカバー装置上部に連結される案内筒6を有する構成において、カバー装置5を原子炉圧力容器1の下鏡2内壁に設置する。カバー装置5の外周にはシール材7を全周に有し原子炉水の進入を防止する構造とする。案内筒6は軸方向に対し複数に分割可能な構造とし、カバー装置5を原子炉圧力容器1底部に吊り下ろしながら連結していく。連結作業はオペレーションフロア8上を移動可能な作業台車9を使用して実施する。これに先立ち、カバー装置5内には事前に共通アクセス装置10を設置する。共通アクセス装置10は、複数の脚11を介して炉内計装筒3を把持して自身を固定する。共通アクセス装置10には旋回動作12と径方向動作13と昇降動作14を有するアーム15を備えて、水中環境下16で設定する。カバー装置5設置後、カバー装置5内の水抜きを実施し、カバー装置5内を気中空間17にする。その後、案内筒6をガイドとして各種装置用ヘッド18を吊り降ろし、アーム15に設定して補修及び予防保全作業を実施する。各種ヘッドとしては(1)目視検査ヘッド(VT) (2)超音波探傷検査ヘット(UT)(3)渦電流探傷検査ヘッド(ECT) (4)エッチング/レプリカ検査ヘッド (5)磁粉探傷検査ヘッド(MT) (6)浸透探傷検査ヘッド(PT) (7)研磨ヘッド (8)溶接ヘッド (9)WJPヘッド等が上げられる。
【0030】
本実施例で使用するヘッドは(6)PT (7)研磨 (8)溶接の3種類である。本カバー装置を利用することで、全体を気中環境として、その後炉内計装筒全数を溶接前研磨→溶接→溶接後研磨→溶接部検査(PT)まで順次連続して実施することにより工期短縮が図れる。
【0031】
図2から図5を用いて作業手順の詳細を示す。
【0032】
(ステップ1)
共通アクセス装置の設定手順を示す。
【0033】
図2は、共通アクセス装置10を原子炉圧力容器1底部に吊り下ろす状態である。共通アクセス装置10は吊り天秤20を介して天井クレーン21を利用して吊り下ろす。その際、天井クレーンのフック22を直接原子炉水に水没させることができない場合は、天井クレーンフック22との間に電動チェーンブロック23を介して吊り下ろす。なお、作業台車9の電動チェーンブロック19吊り代えて、吊り下ろす手段でも成立する。吊り天秤20は少なくとも3本の吊り位置で共通アクセス装置10を吊り下ろすもので、3本の吊り位置の長さを調整して、事前に共通アクセス装置10の水平度を確保した状態で吊り下ろしを行う。また、複数本の脚の角度は、支持対象とする炉内計装筒3の配置をもとに、事前にその位置に設定しておく。
【0034】
図3は、共通アクセス装置10を原子炉圧力容器1底部に着座した状態である。炉内計装筒3上部に脚を着座させたあと、炉内計装筒3を把持して固定する。把持方法は図示していないが空圧若しくは水圧シリンダの動作で可能である。脚11による把持は本図では一例として4箇所としているが、補修作業場所が重心バランスの確保できる位置であれば3箇所でも可能である。なお、共通アクセス装置の着座は、水中カメラを周囲に吊り降ろし、監視しながら実施する。
【0035】
(ステップ2)
カバー装置の設定手順を示す。
【0036】
図4は、カバー装置5を原子炉圧力容器1内に吊り下ろす状態である。本図はドーム形状のカバー装置5を一例としている。これは、原子炉圧力容器1内の炉内支持金物4と炉内計装筒3の最外周位置との隙間が大きく取れないことを考慮したためである。また、内空間に共通アクセス装置を設定するスペースを確保することが必要であり、カバー装置を着座させる場合、炉内支持金物の内側との隙間が通過するときに最小となるが、その後隙間寸法をできるだけ確保できるようにすることで、吊り降ろし作業性の向上を考慮したためである。
【0037】
カバー装置5は吊り天秤20を介して天井クレーン21を利用して吊り下ろす。その際天井クレーンフック22との間に電動チャーンブロック23を介して吊り下ろす。吊り天秤20は少なくとも3本の吊り位置でカバー装置を吊り下ろすもので、3本の吊り位置の長さを調整して、事前にカバー装置の水平度を確保した段階で吊り下ろしを行う。カバー装置5を吊り下ろしに当っては、カバー装置5の上部に案内筒6を連結する。案内筒6は軸方向に複数分割する構造となっており、連結部はシール構造となっている。案内筒6の連結はオペレーションフロア8を移動可能な作業台車9上の気中空間で作業者により実施する。作業台車9上には図4に示すようにU字型の案内筒支持材25を取付けて、U字部分に案内筒6を通した後にU字の開口部26を閉止して案内筒6をガイドするとともに傾きを抑制する。カバー装置5を吊り下ろしに伴い、案内筒6の上端が作業台車上の案内筒支持材25のレベルに降下したときに、一度吊り降ろしを停止して作業台車の作業台車用チェーンブロック19にて上段に取付ける案内筒6を吊り上げて連結する。なお、案内筒支持材25を案内筒6の接続フランジ部が通過するときには、ガイド部は開く機能を有しており干渉を防止できる。また、共通アクセス装置10からのケーブル27及びエアーホース28は、下側の案内筒6上部に固定されており、上段に案内筒6を連結した後に治具により案内筒6の最上段部まで引上げることにより、案内筒6を貫通して作業台車9上に設置された制御装置に接続される。ここで図6に示すように案内筒6の下段29は凹面形状、案内筒上段30を凸面形状としその円周状にシール31を有するもので、嵌め合わせ後にボルト32を差込み連結する。本作業をカバー装置5が原子炉圧力容器底部に着座するまで繰り返す。
【0038】
図7は、カバー装置5を原子炉圧力容器底部の下鏡2に着座した状態である。カバー装置5は、前作業で設置した共通アクセス装置24を含めて炉内計装筒3全数を覆う構造を有する。カバー装置5の外周には、原子炉圧力容器1の内壁面に馴染む弾性材がシール材7として全周に貼り付けられている。
【0039】
図8は、カバー装置5を原子炉圧力容器底部の下鏡2に着座した状態におけるシール材7の拡大図を示すものである。下鏡2の着座面は曲率を持った傾斜面であるため、カバー装置5の着座部は、傾斜面に合わせた形状とし、かつ、シール材7も傾斜面に合わせた形状とする。シール材7は、カバー装置5の自重により原子炉圧力容器底部の下鏡2に押付けられて収縮することにより、カバー装置5と原子炉圧力容器の下鏡2間がシールされて、カバー装置5内へのキャビティ水の進入を防止できる。
【0040】
(ステップ3)
カバー装置の水抜き手順を示す。
【0041】
図9は、カバー装置内の水抜き状態である。
【0042】
加圧水型原子炉(PWR)の原子炉圧力容器1には水抜き用のドレンは持たないため、深井戸水中ポンプ33を準備して水抜きを実施する。原子炉圧力容器1底部の中心部まで深井戸水中ポンプ33を吊り下ろして設置し、深井戸水中ポンプ33に接続した排水ホース35をカバー装置5に連結した案内筒6を通して、排水口をキャビティ36内に設定する。これより、深井戸水中ポンプ33により吸引したカバー装置5内の原子炉水は、キャビティ36内に排水される。なお、キャビティ36内の水位調整はプラント所有の設備を利用する。なお、カバー装置5内を水抜きすることによりカバー装置5には水頭圧が加わり、カバー装置5を自重以外に更に原子炉圧力容器1内壁に押付ける力が加わるためシール効果を高める利点がある。この時、カバー装置5に加わる水頭圧によりカバー装置5が内側に変形してシール材7と原子炉圧力容器1内壁間に隙間ができることが懸念されるが、シール材7取付け部は、内側への変形がしにくい円形状でかつ、剛構造としておくことで内側への変形を防止している。
【0043】
カバー装置5内の排水が完了した時点で、原子炉圧力容器1底部の中心部に設置した深井戸水中ポンプ33と排水ホース35を引上げる。
【0044】
(ステップ4)
各種装置ヘッドの取付け手順を示す。
【0045】
図11は、共通アクセス装置10に各種装置用ヘッド18を取付ける手順である。
【0046】
共通アクセス装置10のアームに備えた各種装置ヘッド用取付け金具37を旋回動作12と径方向動作13を使用して平面上の案内筒位置に移動する。次に、各種装置用ヘッド18を作業台車9上から案内筒6に吊り下ろし、共通アクセス装置10のアーム15に備えた取付け金具37に設定する。この各種装置用ヘッド18を吊り下ろす際に、各種装置用ヘッド18に取付けられたケーブル27及びエアーホース28は、作業台車9に取付けられてガイドローラ38でガイドさせなが各種装置用ヘッド18に追従させて降ろして行く。図12に取付け金具37詳細構造を示す。取付け金具37は、アーム15の下側に取付けられ、径方向動作13を行うためのリニアガイド40とラック・ピニオン41を介して径方向駆動力を発生する電動機42,昇降動作14を行うためのリニアガイド43とボールネジ44を介して昇降駆動力を発生する電動機45及び各種装置用ヘッド18の回転動作46を行うためのベアリング47とギヤ48を介して回転駆動力を発生する電動機49、さらに各種装置用ヘッド18の着座位置を決めるための位置決めピン50を備えた受け座51と固定するクランプシリンダー52を有する構成とする。案内筒6を介して吊り下ろした各種装置用ヘッド18は、共通アクセス装置10のアーム15側で位置合わせを行い、位置決めピン50の方向に合わせてから受け座51に着座し、クランプシリンダー52により固定する。
【0047】
図13は、共通アクセス装置10に各種装置用ヘッド18を取付けた後に各種装置用ヘッド18を径方向動作13及び昇降動作14を行う場合のケーブル27とエアーホース28の状態を示すものである。作業台車9から案内筒6を経由して各種装置用ヘッド18に接続されたケーブル27とエアーホース28は、径方向動作13及び昇降動作14を行う際に、共通アクセス装置10のフレーム取付けられたガイドローラ39によりガイドされることにより、共通アクセス装置10のフレーム等に干渉することなく径方向動作13及び昇降動作14に追従可能となる。
【0048】
前記(ステップ1)から(ステップ4)の手順を実施することにより炉内機器の補修及び予防保全作業の準備が完了する。その後、炉内機器の補修及び予防保全作業を行う。
【0049】
炉内機器の補修及び予防保全作業では、各種装置ヘッドを施工手順に応じて交換し、溶接作業を実施する。溶接作業を実施する場合、施工対象面の溶接前研磨,溶接作業,溶接後研磨,溶接後寸法測定、及び溶接後検査(浸透探傷検査(PT))の一連の作業となる。そのため、各作業に対応した各種装置ヘッドを交換して施工作業を実施する。
【0050】
次に予防保全方法についてその作業手順を説明する。VTでひびが無いことを確認し、その後予防保全溶接として、共通アクセス装置設定し、カバー装置設定する。その後、共通アクセス装置に設置された各種ヘッドを対象部位へ作業内容に応じてヘッド設定・交換(溶接前研磨→溶接→溶接後研磨→溶接部検査(PT))を行う。これらの作業を全数終了まで繰り返す。なおカバー装置を一度設定した後、作業を連続して行えるので作業時間短縮が図れる。その後装置を撤去する。その後WJPを行っても構わない。
【0051】
次に補修方法についてその作業手順を説明する。VTで万一ひびが見つかった場合に(2)UT (3)ECT (4)レプリカの手順で傷の位置,範囲の調査、及び傷の原因調査を実施後その部位に対して補修作業を行う。共通アクセス装置設定し、カバー装置設定する。その後、共通アクセス装置に設置された各種ヘッドを対象部位へ作業内容に応じてヘッド設定・交換(溶接前研磨→溶接→溶接後研磨→溶接部検査(PT))を行う。これらの作業を全数終了まで繰り返す。なおカバー装置を一度設定した後、作業を連続して行えるので作業時間短縮が図れる。
【0052】
予防保全及び補修を各種ヘッドにて一度に行え、本実施例により、全体を気中環境として、その後炉内計装筒全数を溶接前研磨→溶接→溶接後研磨→溶接部検査(PT)まで順次連続して実施することが可能となり工期短縮を図れる。
【実施例2】
【0053】
図14にカバー装置5と共通アクセス装置10を一体にした場合の実施例を示す。カバー装置5とカバー装置5上部に連結される案内筒6を有する構成において、カバー装置5を原子炉圧力容器1の下鏡2内壁に設置する。カバー装置5の外周にはシール材7を全周に有し原子炉水の進入を防止する構造とする。案内筒6は軸方向に対し複数に分割可能な構造とし、カバー装置5を原子炉圧力容器1底部に吊り下ろしながら連結していく。連結作業はオペレーションフロア8上を移動可能な作業台車9を使用して実施する。このカバー装置5設置作業において、カバー装置5内部には複数の脚11を介して共通アクセス装置10を吊り下げて一体型としておくことにより、共通アクセス装置10の設置作業が省略できると共に炉内計装筒3に共通アクセス装置10の荷重を付加することなく共通アクセス装置10の設置ができる。また自重と水頭圧を利用することでカバー装置と原子炉圧力容器は固定されるため、装置構成を単純化できる。その後、カバー装置5内を気中空間17にし、案内筒6をガイドとして各種装置用ヘッド18を吊り降ろし、アーム15に設定して補修及び予防保全作業を実施する。
【実施例3】
【0054】
図15にカバー装置5内をガスパージしてキャビティ36の水がカバー装置5内への進入防止を図った実施例を示す。
【0055】
カバー装置5内の原子炉水を吸引するときに水位の低下に伴いカバー装置5内の気中空間17は負圧となる。このとき、原子炉圧力容器1内壁にカバー装置5が着座したレベルの水頭圧よりも低下したときに外側のキャビティ水を負圧により引き込む力が生じるケースが考えられる。この場合、案内筒6よりガスパージ用ポンプ53とホース54を介してカバー装置5内のガスパージを実施し、内圧をカバー装置5が着座しているレベルの水頭圧よりも高くする。この時、案内筒6上部には予め閉止板55を取付けることによりカバー装置5と案内筒6内を閉空間としておく。尚、閉止板55を貫通するケーブル27,エアーホース28と閉止板55との間をシール用ゴム材でシールした構造となっておりパージガスがリークしない構造となっている。これによりリークを防ぐ効果が得られる。
【符号の説明】
【0056】
1 原子炉圧力容器
2 下鏡
3 炉内計装筒
4 炉心支持金物
5 カバー装置
6 案内筒
7 シール材
8 オペレーションフロア
9 作業台車
10 共通アクセス装置
11 脚
12 旋回動作
13 径方向動作
14 昇降動作
15 アーム
16 水中環境下
17 気中空間
18 各種装置用ヘッド
19 作業台車用チェーンブロック
20 吊り天秤
21 天井クレーン
22 天井クレーンフック
23 電動チェーンブロック
24 共通アクセス装置
25 案内筒支持材
26 開口部
27 ケーブル
28 エアーホース
29 案内筒下段
30 案内筒上段
31 シール
32 ボルト
33 深井戸水中ポンプ
34 電源ケーブル
35 排水ホース
36 キャビティ
37 取付け金具
38 ガイドローラ(上側)
39 ガイドローラ(下側)
40 リニアガイド(径方向移動用)
41 ラック・ピニオン
42 電動機(径方向駆動用)
43 リニアガイド(昇降駆動用)
44 ボールネジ
45 電動機(昇降駆動用)
46 回転動作
47 ベアリング
48 ギヤ
49 電動機(回転駆動用)
50 位置決めピン
51 受け座
52 クランプシリンダー
53 ガスパージ用ポンプ
54 ホース
55 閉止板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の炉底部管理方法において、
原子炉圧力容器下部に林立する複数の炉内機器を覆うカバー装置を前記原子炉圧力容器の下鏡面に設置し、
前記カバー装置の外空間の水は残し内空間の水抜きを行い、
前記内空間の炉内機器及び下鏡面の管理を行うことを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炉底部管理方法において、
前記炉内機器の管理は前記カバー装置内空間に設けられたアクセス装置に設置された作業ヘッドにより行うことを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の炉底部管理方法において、
前記アクセス装置は前記カバー装置の設定前に設置することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項4】
請求項2に記載の炉底部管理方法において、
前記アクセス装置は前記カバー装置と一体として設置することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記アクセス装置は、前記原子炉圧力容器底部の炉内機器に支持する脚と、旋回と径方向及び昇降方向の駆動機構を有するアームとを備えており、前記アクセス装置により前記作業ヘッドを管理対象である炉内機器に設定することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記カバー装置は原子炉圧力容器の下鏡の傾斜面に合わせた形状でかつシール材を有した着座部を有し、前記シール材と前記原子炉圧力容器の下鏡が接触することにより、前記カバー装置を設置することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の炉底部管理方法において、
前記シール材は、前記水抜きを行うことにより前記カバー装置内空間が気中環境になることによる水頭圧で押付けられ密閉することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記カバー装置は、ドーム形状又は円筒形状であって、前記内空間の水抜きにより前記カバー装置が前記原子炉内の水頭圧により前記原子炉圧力容器内壁へ押付けられることにより前記カバー装置が固定されることを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記カバー装置の上部に設けられた連結式案内筒により、前記カバー装置を原子炉圧力容器下鏡に設置することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記炉内機器の管理は前記カバー装置を原子炉圧力容器下鏡に設置した後に連続して行うことを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記炉内機器の管理は補修作業であることを特徴とした炉底部管理方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記炉内機器の管理は予防保全作業であることを特徴とした炉内機器の炉底部管理方法。
【請求項13】
請求項11に記載の炉底部管理方法において、
前記補修作業は、
前記アクセス装置のアームに設置された研磨ヘッドにより溶接前研磨し、
前記アクセス装置のアームに設置された溶接ヘッドにより溶接し、
前記アクセス装置のアームに設置された研磨ヘッドにより溶接後研磨し、
前記アクセス装置のアームに設置された浸透探傷検査ヘッドにより溶接部検査することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項14】
請求項12に記載の炉底部管理方法において、
前記予防保全作業は、
前記アクセス装置のアームに設置された研磨ヘッドにより溶接前研磨し、
前記アクセス装置のアームに設置された溶接ヘッドにより表面改質を行うための肉盛溶接し、
前記アクセス装置のアームに設置された研磨ヘッドにより溶接後研磨し、
前記アクセス装置のアームに設置された浸透探傷検査ヘッドにより溶接部検査することを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記水抜きは、水中ポンプを前記原子炉圧力容器底部に設置し、水抜きを行うことを特徴とした炉底部管理方法。
【請求項16】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の炉底部管理方法において、
前記炉内機器の管理は補修作業及び予防保全作業であることを特徴とした炉底部管理方法。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のいずれか一項に記載の炉内機器の炉底部管理方法において、
前記カバーは前記炉心下部に林立する炉内機器全体を一度に覆うことを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項18】
請求項1乃至請求項17のいずれか一項に記載の炉内機器の炉底部管理方法において、
前記炉底部管理方法は加圧水型原子炉を対象としたことを特徴とする炉底部管理方法。
【請求項19】
原子炉圧力容器の炉底部管理装置において、
前記炉心下部に林立する複数の炉内機器を覆うカバー装置と、
前記カバー装置で覆われた内空間に設けられた、炉内機器の管理を行うための作業ヘッドを設定するためのアクセス装置と、
前記カバー装置の外空間の水は残し内空間の水を抜くための排水手段とを有することを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項20】
請求項19に記載の炉内機器の炉底部管理装置において、
前記排水手段は水中ポンプであって、前記水中ポンプを前記原子炉圧力容器底部に設置したことを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項21】
請求項19乃至20のいずれか一項に記載の炉内機器の炉底部管理装置において、
前記アクセス装置は、前記原子炉圧力容器底部の炉内機器に支持する脚と、旋回と径方向及び昇降方向の駆動機構を有するアームとを備えたことを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項22】
請求項19乃至21のいずれか一項に記載の炉内機器の炉底部管理装置において、
前記カバー装置は原子炉圧力容器の下鏡の傾斜面に合わせた形状でかつシール材を有した着座部を有することを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項23】
請求項19乃至請求項22のいずれか一項に記載の炉底部管理装置において、
前記カバー装置は、前記内空間の水抜きにより前記カバー装置が前記原子炉内の水頭圧により押付け力が自重に付加されるドーム形状又は円筒形状とすることを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項24】
請求項19乃至請求項23のいずれか一項に記載の炉底部管理装置において、
前記カバー装置の上部には、原子炉圧力容器上部のオペレーションフロアまでの連結式の案内筒を有することを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項25】
請求項19乃至請求項24のいずれか一項に記載の炉底部管理装置において、
前記作業ヘットは、溶接ヘッド,研磨ヘッド、及び浸透探傷検査ヘッドであることを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項26】
請求項19乃至請求項25のいずれか一項に記載の炉底部管理装置において、
前記カバーは前記炉心下部に林立する炉内機器全体を一度に覆うことを特徴とする炉底部管理装置。
【請求項27】
請求項19乃至請求項26のいずれか一項に記載の炉底部管理装置において、
前記炉底部管理装置は加圧水型原子炉を対象としたことを特徴とする炉底部管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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