説明

原子炉格納容器の冷却設備

【課題】原子炉格納容器の表面の製作精度に左右されることなく、原子炉格納容器の表面を均一に冷却することが可能となる原子炉格納容器の冷却設備を提供する。
【解決手段】原子炉格納容器2の上方に設けた散水ノズル12により冷却水を散水して冷却する原子炉格納容器の冷却設備であって、前記散水ノズル12は、前記原子炉格納容器2の中心軸に平行に回転可能な回転軸13と、該回転軸13から径方向外方に延出されると共に所定の方向に屈曲された複数のノズル部14とを備え、前記ノズル部14には冷却水の噴射力で前記回転軸13を回転させると共に冷却水を前記原子炉格納容器2の上面全体に噴射するための噴射方向を設定した複数の噴射孔15〜18が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器の冷却設備に係り、特に冷却水の水圧を利用して原子炉格納容器に効果的に冷却水を散水するようにした原子炉格納容器の冷却設備に関する。
【背景技術】
【0002】
現在設計されている原子炉格納容器の冷却設備は、図4に示すように原子炉建屋1の上部に設置された貯水槽10から冷却水11を緊急時に注水管25を介して原子炉格納容器2の上面部2aに注水し、冷却水11が原子炉格納容器2の表面を伝わって流れ落ちることで原子炉格納容器2を冷却するようになっている(特許文献1参照、以下、前者の冷却設備という)。具体的には、前記冷却水により原子炉格納容器2の外表面が直接冷却されると共に、原子炉格納容器2内の熱が気化熱に変えられることで原子炉格納容器全体が冷却されることになる。
【0003】
なお、他の冷却設備としては、原子炉格納容器の外面上方からスプレイヘッダにより冷却水を散布し、原子炉格納容器に傾斜して設けた冷却樋により冷却水を周方向に均等に再配分することで原子炉格納容器の外面を冷却するようにしたものも提案されている(特許文献2参照、以下、後者の冷却設備という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−296196号公報
【特許文献2】特開平6−317690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者の冷却設備においては、原子炉格納容器の表面が、その製作上から一様ではなく、表面に凹凸があるため、原子炉格納容器の表面において冷却水の流れ易い経路ができてしまう。その結果、原子炉格納容器の表面が均一に冷却されない可能性がある。
【0006】
なお、後者の冷却設備においては、原子炉格納容器の外面に冷却樋を溶接等で設ける必要があるため、製作が大変であり、溶接管理も難しい。
【0007】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、原子炉格納容器の表面の製作精度に左右されることなく原子炉格納容器の表面を均一に冷却することが可能となる原子炉格納容器の冷却設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、原子炉格納容器の上方に設けた散水ノズルにより冷却水を散水して冷却する原子炉格納容器の冷却設備であって、前記散水ノズルが、前記原子炉格納容器の中心軸に平行に回転可能な回転軸と、該回転軸から径方向外方に延出されると共に所定の方向に屈曲された複数のノズル部とを備え、前記ノズル部には冷却水の噴射力で前記回転軸を回転させると共に冷却水を前記原子炉格納容器の上面全体に噴射するための噴射方向を設定した複数の噴射孔が設けられていることを特徴とする。
【0009】
前記原子炉格納容器は原子炉建屋内に設けられ、該原子炉建屋の上部には冷却水を貯水した貯水槽が設けられ、該貯水槽から配管された給水管に前記散水ノズルの回転軸が接続され、前記貯水槽から供給される冷却水の水圧により前記ノズル部の噴射孔から冷却水を噴射すると共に散水ノズルを回転させるように構成されていることが好ましい。
【0010】
前記散水ノズルが前記原子炉格納容器の上方に互いに干渉しない状態で複数配設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原子炉格納容器の表面の製作精度に左右されることなく原子炉格納容器の表面を均一に冷却することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る原子炉格納容器の冷却設備を示す図である。
【図2】(a)は散水ノズルの平面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
【図3】原子炉格納容器の冷却設備の他の実施の形態を示す図である。
【図4】現在設計されている原子炉格納容器の冷却設備を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0014】
図1に示すように、コンクリート製の原子炉建屋(以下、建屋という)1の内部には鋼製の原子炉格納容器(以下、格納容器という)2が収容され、この格納容器2の内部には燃料集合体で構成される炉心を収容する原子炉圧力容器3及び蒸気発生器4が収容されている。本実施形態では、沸騰水型の原子炉に適用した場合を示しているが、本発明は、加圧水型原子炉など、あらゆる形式の原子炉に適用可能である。
【0015】
前記格納容器2は、突面状(ドーム状)の上部(上面部)2aと、円筒状の胴部2bと、突面上の底部(底面部)2cとを有している。格納容器2の胴部2bと建屋1との間には上方から円筒状の隔壁5が垂下されて設けられていると共に、この隔壁5を介して環状の外側通気路6と環状の内側通気路7が形成されている。
【0016】
建屋1の上壁部1aの周囲には空気入口8が設けられ、これら空気入口8から引き込まれた外気が外側通気路6を通って下方へ流れ、その隔壁5の下端でUターンして格納容器2の外面に沿いながら内側通気路7を通って加熱されながら上昇気流となり上方へ流れ、しかる後、建屋1の上部中央に設けられた排気口(煙突)9から建屋1の外部へ排出されるようになっている。
【0017】
前記建屋1の上部には、前記排気口9を囲んで環状の大容量の貯水槽(貯水タンク)10が設けられ、この貯水槽10内には冷却水11が貯水されている。そして、格納容器2の上方には、緊急時に冷却水11を格納容器2の上部2aに散水して格納容器2を冷却するための散水ノズル12が設けられている。
【0018】
前記散水ノズル12は、図2にも示すように、水平面に対して垂直の軸回り、すなわち原子炉格納容器2の中心軸に平行に回転可能な回転軸13と、該回転軸13から径方向外方に延出されると共に所定の方向に屈曲された複数(図示例では3本)のノズル部14とを備え、前記ノズル部14には冷却水の噴射力で前記散水ノズル12を回転軸13の軸回りに矢印B方向に回転させると共に冷却水を前記格納容器2の上面全体に噴射するための噴射方向を設定した複数の噴射孔15〜18が設けられている。
【0019】
前記貯水槽10から配管された給水管19に前記散水ノズル12の回転軸13が接続され、前記貯水槽10から供給される冷却水11の水圧(水頭圧)により前記ノズル部14の噴射孔15〜18から冷却水を噴射すると共に散水ノズル12を回転させるように構成されている。前記貯水槽10の底部には給水管19の基端部が接続され、この給水管19の先端部が前記排気口9下の中央部まで水平に延出され、更に先端部が下向きに屈曲されている。給水管19には開閉弁20が設けられ、この開閉弁20が緊急時に自動で開弁されるように構成されている。
【0020】
前記給水管19の先端部に中空の回転軸13の上端部が接続部21を介して接続されている。すなわち、鉛直方向に沿って配置された中空の回転軸13の上端部には、前記給水管19の先端部に接続される接続部21が回転軸13の軸回りに回転可能に設けられている。中空の回転軸13の下端部は閉塞されており、回転軸13に対して中空のノズル部14が連通接続されている。
【0021】
前記ノズル部14は、回転軸13に放射状に設けられ、それぞれが、平面へ字状及び側面逆へ字状に屈曲されている。すなわち、ノズル部14は、回転軸13に放射状に設けられた基部ノズル部14aと、各基部ノズル部14aの先端に回転方向とは反対方向で且つ上方へ屈曲して設けられた先端ノズル部14bとを有している。そして、基部ノズル部14a及び先端ノズル部14bには回転方向とは反対側で且つ斜め上方に向いて開口した噴射孔15,16がそれぞれ長手方向中間部に設けられている。また、先端ノズル部14bの先端部には斜め上方に向いた角度の異なる一対の噴射孔17,18が設けられている。更に、前記噴射孔15〜18は何れも、散水ノズル12の回転に寄与する向きに形成されている。なお、格納容器2の上部(上面部)2aの中央領域にも冷却水を散水するために、散水ノズル12の中央にも噴射孔(図示省略)が設けられていることが好ましい。
【0022】
以上の構成からなる原子炉格納容器の冷却設備によれば、格納容器2の上方に冷却水を散水する散水ノズル12を有し、該散水ノズル12が、前記格納容器2の中心軸に平行に回転可能な回転軸13と、該回転軸13から径方向外方に延出されると共に所定の方向に屈曲された複数のノズル部14とを備え、前記ノズル部14には冷却水の噴射力で前記回転軸13を回転させると共に冷却水を前記格納容器2の上部2a全体に噴射するための噴射方向を設定した複数の噴射孔15〜18が設けられているため、格納容器2の表面の製作精度に左右されることなく格納容器2の表面を均一に冷却することが可能となる。
【0023】
また、前記格納容器2は建屋1内に収容され、該建屋1の上部には冷却水11を貯水した貯水槽10が設けられ、該貯水槽10から配管された給水管19に前記散水ノズル12の回転軸13が接続され、前記貯水槽10から供給される冷却水11の水圧により前記ノズル部14の噴射孔15〜18から冷却水を噴射すると共に散水ノズル12を回転させるように構成されているため、緊急時に特別な動力を必要としないで格納容器2の上部(上面部)2a全体に冷却水を効果的に散水することができる。
【0024】
図3は原子炉格納容器の冷却設備の他の実施の形態を示す図である。図3の実施の形態において、図1の実施の形態と同一部分には同一の参照符号が付されている。図3に示すように、格納容器2の上方には複数の散水ノズル12が互いに干渉しない状態で配設されている。散水ノズル12は互いに干渉したり、建屋1の屋根部1bに干渉したりしない大きさ、すなわち図1の実施の形態の散水ノズル12よりも小さいサイズに設定されている。
【0025】
貯水槽10の底部には複数の給水管19の基端部が接続され、各給水管19の先端部が前記排気口9の周縁部近傍まで水平に延出され、更に各先端部が下向きに屈曲されている。これらの給水管19の先端部に散水ノズル12がそれぞれ回転可能に接続されている。なお、散水ノズル12の構成は前記実施形態と同様であるため、説明を省略する。図3の実施の形態によれば、図1の実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 原子炉建屋
2 原子炉格納容器
10 貯水槽
11 冷却水
13 回転軸
14 ノズル部
15〜18 噴射孔
19 給水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の上方に設けた散水ノズルにより冷却水を散水して冷却する原子炉格納容器の冷却設備であって、前記散水ノズルは、前記原子炉格納容器の中心軸に平行に回転可能な回転軸と、該回転軸から径方向外方に延出されると共に所定の方向に屈曲された複数のノズル部とを備え、前記ノズル部には冷却水の噴射力で前記回転軸を回転させると共に冷却水を前記原子炉格納容器の上面全体に噴射するための噴射方向を設定した複数の噴射孔が設けられていることを特徴とする原子炉格納容器の冷却設備。
【請求項2】
前記原子炉格納容器は原子炉建屋内に設けられ、該原子炉建屋の上部には冷却水を貯水した貯水槽が設けられ、該貯水槽から配管された給水管に前記散水ノズルの回転軸が接続され、前記貯水槽から供給される冷却水の水圧により前記ノズル部の噴射孔から冷却水を噴射すると共に散水ノズルを回転させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の原子炉格納容器の冷却設備。
【請求項3】
前記散水ノズルが前記原子炉格納容器の上方に互いに干渉しない状態で複数配設されていることを特徴とする請求項1記載の原子炉格納容器の冷却設備。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−122885(P2012−122885A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274711(P2010−274711)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】