説明

原子炉格納容器の圧力抑制室

【課題】圧力抑制室の構造において、構造壁の厚さ低減やそれに伴う原子炉建屋の小型化を可能とする。また、配管破断時の初期蒸気流入時の圧力抑制プール水温の上昇を抑制する。
【解決手段】圧力抑制室内に設置する円筒状の構造壁に、少なくとも最上段にあるベント管出口と同一高さでベント管出口と正対する周方向位置の領域に開口部を設けることにより、ベント管での蒸気の凝縮振動で発生する圧力の構造壁での反射を低減し、設計強度の低減を可能とする。また、開口部を通過して構造壁内外の圧力抑制プール水の混合を促進し、配管破断時の初期の蒸気流入時の蒸気凝縮による蓄熱に有効となる圧力抑制プール水量を増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントにおいて、原子炉圧力容器を内置する原子炉格納容器の一部を構成する、圧力抑制プールとウエットウエルからなる圧力抑制室の支持構造壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、原子炉圧力容器を内置する原子炉格納容器として、原子炉格納容器の上部の荷重を支えるため圧力抑制室内に円筒状の構造壁を設置したものとして、特許文献1が知られている。また、原子力プラントで設計上想定する原子炉の一次系配管破断時に、ベント管から流入する蒸気の凝縮時に発生する圧力抑制室壁に対する動荷重については、非特許文献1や非特許文献2に報告されている。さらに開口部を有するコンクリート製構造壁の強度については、非特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−85234号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「BWR.MARKII型格納容器圧力抑制系に加わる動荷重の評価指針」(原子力安全委員会)
【非特許文献2】「RCCV検討WG報告書」(原子炉安全専門審査会)
【非特許文献3】「開口部を有する原子炉建屋耐震壁の水平試験(その1)及び(その2)」(日本建築学会大会学術講演梗概集(昭和63年10月))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された原子炉格納容器では、圧力抑制室の圧力隔壁を形成する外壁の内側に、原子炉格納容器の上部荷重を受ける円筒状の構造壁を設置している。この円筒状の構造壁によって、圧力抑制室はベント管側の内側領域と圧力隔壁側の外側領域に区画される。両区画のプール水を貯める圧力抑制プールやプール上部の気相空間であるウェットウエルの連通のため、構造壁には局所的な開口部が設けられているが、ベント管の圧力抑制室への出口と同一高さでかつベント管出口の真正面部分の構造壁には開口部が設けられていない。
【0006】
原子力プラントで設計上想定することになっている原子炉の一次系配管破断時には、ベント管から流入する蒸気の凝縮振動によりベント管出口で圧力波が発生し、圧力抑制室の壁に動荷重が付加される。この事象については、非特許文献1及び非特許文献2に記載されている。壁に負荷される動荷重の大きさは、ベント管出口に正対する構造壁での反射等によって圧力波が増幅される度合いに依存する。
【0007】
また、従来技術では、圧力抑制プールが構造壁によってベント管出口側と原子炉格納容器の圧力隔壁側に区画されており、両圧力抑制プール間の流通は、ベント管出口に正対せず離れた位置に設置された開口部で連通していたため、両領域の冷却水の混合が制約されていた。このため、流入する蒸気を凝縮して圧力上昇を抑制することに有効に働く圧力抑制プールの水量は、配管破断時の初期には構造壁内側のベント管出口側に限定され、構造壁の外側の領域の水量は両領域の混合が進んだ一定時間経過後の圧力抑制にのみ有効となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、原子炉圧力容器を内置する原子炉格納容器を有し、該原子炉格納容器の一部を構成する圧力抑制プールとウエットウエルを有する圧力抑制室に原子炉格納容器上方の重量物を支える円筒状の構造壁を設置し、圧力抑制プールの壁に一次系配管からの蒸気を導くベント管のベント管出口を設けている原子炉格納容器において、構造壁に、ベント管のベント管出口と略同一高さで、ベント管出口に正対する周方向位置を含む部分に開口部を設置したことを特徴とする。
【0009】
また、原子炉格納容器の圧力抑制室において、ベント管出口を構造壁の同一周方向位置に、最上段から最下段まで縦方向に複数個設けたことを特徴とする。
【0010】
また、原子炉格納容器の圧力抑制室において、構造壁に開口部を少なくともベント管の最上段のベント管出口と略同一の高さに設けたことを特徴とする。
【0011】
また、原子炉格納容器の圧力抑制室において、圧力抑制室内に設置した構造壁に、最上段から最下段のベント管出口の高さ方向の領域で、ベント管出口に正対する周方向位置を含む部分に単一の開口部を設置したことを特徴とする。
【0012】
また、原子炉格納容器の圧力抑制室において、圧力抑制室内に設置した構造壁にベント管のベント管出口と略同一高さで、ベント管出口に正対する周方向位置を含む複数の周方向位置に複数の開口部を設置したことを特徴とする。
【0013】
さらに、原子炉格納容器の圧力抑制室において、圧力抑制室内に設置した構造壁に略同一高さに設けた構造壁周方向の開口部幅の総和を、略同一高さでの構造壁の周長の1%以上かつ30%以下としたことを特徴とする。
【0014】
本発明は、上記のように、圧力抑制室内に設置する円筒状の構造壁に、少なくとも最上段にあるベント管出口と略同一高さでベント管出口と正対する周方向位置の領域に開口部を設ける。ベント管出口と同一高さで正対する部分に開口部があると、伝播する圧力波は開口部を通過しより遠方にある圧力隔壁で反射するため、動荷重が小さくできる。
【0015】
また、上下方向に複数あるベント管出口の各高さにおいて正対する部分に複数の開口部を設けることで、動荷重低減の効果がある。さらに、設置した開口部を通過して構造壁で区画された圧力抑制プール間の冷却水の混合が促進され、圧力上昇の抑制に有効な圧力抑制プール水量が増大する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原子炉圧力容器を内置する原子炉格納容器を有し、該原子炉格納容器の一部を構成する圧力抑制プールとウエットウエルを有する圧力抑制室に原子炉格納容器上方の重量物を支える円筒状の構造壁を設置し、圧力抑制プールの壁に一次系配管からの蒸気を導くベント管のベント管出口を設けている原子炉格納容器において、構造壁に、ベント管のベント管出口と略同一高さで、ベント管出口に正対する周方向位置を含む部分に開口部を設置したことにより、原子力プラントで設計上想定が要求されている原子炉の一次系配管破断時に圧力抑制室内の構造壁に負荷される動荷重を低減できるので、構造壁の設計条件を緩和でき、構造壁の厚さ低減やそれに伴う原子炉建屋の小型化が可能となる。
【0017】
また、配管破断時の蒸気流入時初期の圧力抑制プール水温の上昇が抑制され、さらに圧力抑制室内の圧力上昇が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1における原子炉建屋の縦断面図である。
【図2】本発明の実施例1における圧力抑制室の縦断面図である。
【図3】本発明の実施例1における圧力抑制室内の構造壁の開口部を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例2における圧力抑制室内の構造壁の開口部を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例3における圧力抑制室内の構造壁の開口部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施例と図面について説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施例1を図1に示す。原子炉は、原子炉圧力容器1を内置する原子炉格納容器2を有し、原子炉格納容器2の一部を構成する圧力抑制プール3とウエットウエル4からなる圧力抑制室内に上方の重量物を支える円筒状の構造壁5を設置している。
【0021】
原子力プラントで設計上想定することになっている原子炉の一次系配管6の破断時には、原子炉圧力容器1を囲むドライウエル7に噴出した蒸気が、ベント管8を通って下方の圧力抑制プール3に流入し凝縮され、原子炉格納容器2の圧力上昇を抑制する。Wは圧力抑制プール3に貯留されるプール水である。
【0022】
実施例1では、圧力抑制室内に設置した構造壁5に、高さの異なる3段のベント管8のベント管出口9と同一の高さで、ベント管出口9と真正面に正対する位置を含む部分に、開口部10を設置している。
【0023】
図1の圧力抑制プール3とウエットウエル4を合わせた空間である圧力抑制室の縦断面を図2に示す。また、圧力抑制室内の構造壁5に設けた開口部10の模式図を図3に示す。
【0024】
実施例1では、高さの異なる3段の各ベント管出口9が設けられ、各ベント管出口9と同一の高さでベント管出口と真正面に正対する位置に開口部10を設置している。これらの開口部10は、構造壁5によって区画されるベント管出口9側の圧力抑制プール3と、原子炉格納容器2の圧力隔壁側の圧力抑制プール3の連通を促進させる。
【0025】
さらに、配管破断時に圧力抑制プール3に流入する蒸気が凝縮するときに、以下の作用がある。すなわち、圧力抑制プール3にベント管8を通って流入する蒸気によってベント管出口9で凝縮振動により圧力波が発生し、圧力抑制プール3内を伝播して正対する壁での反射などにより、構造壁5に動荷重が生じる。発生する動荷重は、最上段のベント管出口9より下側の領域で大きい(非特許文献1及び非特許文献2参照)。実施例1では、ベント管出口9で発生した圧力波のうち主要な直進する部分は、構造壁5で反射することなく開口部10を通って原子炉格納容器2の圧力隔壁まで到達し反射する。圧力波は進行する距離が長いほど減衰し、かつ開口部での圧損により減衰が促進されるため、結果として構造壁5等に対する動荷重が低減する。
【0026】
構造壁5に設置する開口部10の大きさは、圧力波源であるベント管出口9以上の断面積を持ち、かつ同一高さでベント管出口9の構造壁5周方向幅以上の幅があれば、伝播する圧力波の主要な部分を通過させることができる。開口部10の形状は円形には限定されない。図3において、Oは円筒形断面を持つ構造壁5の横断面の中心である。
【0027】
また同一高さにある開口部10の構造壁周方向の幅と全周長の比(複数のベント管が構造壁5の周方向に設けられているとき、ベント管1本の領域幅をL、開口部10の周方向幅をaとするとa/Lで表される比)が1%以上かつ30%以下であれば、構造壁5の過度な強度低下はない(非特許文献3参照)。
【0028】
なお、実施例1では、図2に示す様に高さ方向に3ヶ所あるベント管出口9に対応するすべての高さに開口部10を設置しているが、凝縮振動が最も厳しい最上段のベント管出口10に対応した高さのみに開口部を設置した場合でも、効果は小さくなるものの一定の動荷重の低減効果が期待できる。
【0029】
以上の作用により、実施例1によれば、構造壁5に対する動荷重が低減するため設計強度を低減可能で、構造壁の厚みを薄くでき、さらには原子炉格納容器の直径を小さくできる。
【0030】
また、配管破断時に流入する蒸気がベント管近傍で凝縮された相対的に高温のプール水Wは、圧力波に伴われて構造壁5のベント管出口9と同一高さでベント管出口9に正対した周方向位置に設置した開口部10を通って、構造壁5の内側だけではなく外側の圧力抑制プール3に流入して混合される。この結果、両圧力抑制プールの混合が促進され、蒸気凝縮による蓄熱に使用できる水量が事象発生の初期から増大し十分に確保される。この結果、圧力抑制プール3の水温上昇の抑制に伴い、圧力抑制室の圧力上昇が抑制される。
【実施例2】
【0031】
図4に、本発明の実施例2における開口部11を示す。実施例2では、最上段及び最下段のベント管出口9の高さ範囲で、ベント管に正対する構造壁5の周方向位置に単一の開口部11を設置している。すなわち、図1から図3に示した実施例1では開口部を各ベント管出口9の高さに正対する部分に分散配置したのに対し、実施例2では最上段から最下段までの範囲に連続した単一の開口部11を設置している。
【0032】
これにより、圧力波源であるベント管出口9から徐々に広がりながら伝播する圧力波を高さ方向および周方向でより広い領域において構造壁での反射を回避可能で、動荷重の低減効果が増大する。このときの開口部11の周方向の幅と全周長の比(図4でのa/L)を1%以上かつ30%以下とすることで構造壁5の過度な強度低下がないことは、実施例1と同じである。また、構造壁5の内側と外側の圧力抑制プール3の混合が促進されることも同様である。
【実施例3】
【0033】
図5に、本発明の実施例3における開口部12を示す。実施例3では、高さ方向にはベント管出口9と同一高さであり、周方向にはベント管出口と正対しない位置にも開口部12を設置している。このときの開口部12の周方向の幅の総和と全周長の比(図5でのΣa/L)を1%以上かつ30%以下とすることは上述の実施例1、実施例2と同じである。すなわち、実施例3では、各開口部の周方向の幅は相対的に小さいままで開口部を周方向に分散して設置している。
【0034】
実施例3によれば、実施例1に対しては圧力波源であるベント管出口9から徐々に広がりながら伝播する圧力波を周方向でより広い領域において構造壁での反射を回避でき、実施例2に対しては開口部での摩擦損失をより大きくでき、摩擦による各圧力波の減衰を増大できる。
【0035】
なお、開口部による周方向の欠損(図5でのΣa/L)が1%以上かつ30%以下であり、構造壁の過度な強度低下がないことは実施例1、実施例2と同じである。また、構造壁5の内側と外側の圧力抑制プール3の混合が促進されることも同様である。
【符号の説明】
【0036】
1…原子炉容器
2…原子炉格納容器
3…圧力抑制プール
4…ウエットウエル
5…構造壁
6…一次系配管
7…ドライウエル
8…ベント管
9…ベント管出口
10、11、12…開口部
W…プール水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器を内置する原子炉格納容器を有し、該原子炉格納容器の一部を構成する圧力抑制プールとウエットウエルを有する圧力抑制室に前記原子炉格納容器上方の重量物を支える円筒状の構造壁を設置し、前記圧力抑制プールの壁に一次系配管からの蒸気を導くベント管のベント管出口を設けている原子炉格納容器において、
前記構造壁に、前記ベント管の前記ベント管出口と略同一高さで、前記ベント管出口に正対する周方向位置を含む部分に開口部を設置したことを特徴とする原子炉格納容器の圧力抑制室。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉格納容器の圧力抑制室において、前記ベント管出口を前記構造壁の同一周方向位置に、最上段から最下段まで縦方向に複数個設けたことを特徴とする原子炉格納容器の圧力抑制室。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉格納容器の圧力抑制室において、前記構造壁に前記開口部を少なくとも前記ベント管の最上段の前記ベント管出口と略同一の高さに設けたことを特徴とする原子炉格納容器の圧力抑制室。
【請求項4】
請求項2に記載の原子炉格納容器の圧力抑制室において、前記圧力抑制室内に設置した前記構造壁に、最上段から最下段の前記ベント管出口の高さ方向の領域で、前記ベント管出口に正対する周方向位置を含む部分に単一の開口部を設置したことを特徴とする原子炉格納容器の圧力抑制室。
【請求項5】
請求項第1乃至3のいずれかに記載の原子炉格納容器の圧力抑制室において、前記圧力抑制室内に設置した前記構造壁に前記ベント管の前記ベント管出口と略同一高さで、前記ベント管出口に正対する周方向位置を含む複数の周方向位置に複数の開口部を設置したことを特徴とする原子炉格納容器の圧力抑制室。
【請求項6】
請求項第1項乃至5のいずれかに記載の原子炉格納容器の圧力抑制室において、前記圧力抑制室内に設置した前記構造壁に略同一高さに設けた構造壁周方向の開口部幅の総和を、前記略同一高さでの前記構造壁の周長の1%以上かつ30%以下としたことを特徴とする原子炉格納容器の圧力抑制室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247386(P2012−247386A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121410(P2011−121410)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】