説明

原子炉給水ノズル

【課題】原子炉圧力容器に付随する給水ノズル内に対する温度変動に起因した熱疲労を抑制して給水ノズルの構造健全性を向上する。
【解決手段】原子炉圧力容器11内に設けられ、給水系統が接続されている給水ノズル1と、その内側のサーマルスリーブ3と、その端部にT字管6を介して接続されたヘッダー管35と、そのヘッダー管35に接続された注水ノズル2とを基本構成として備える。給水ノズル1のノズルコーナ38からセーフエンド39までの水平距離の範囲で、0.11<δ/Di≦0.16 を満足するように給水ノズル1内面とサーマルスリーブ3外面との間の環状流路9の幅を広くする。但し、Diは給水ノズルの内径の最小値、δは給水ノズルの内径の最小値Diとサーマルスリーブの外径doの最大値との間の環状流路の幅である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、原子炉圧力容器への給水を司る原子炉給水ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
改良型沸騰水型原子炉に採用されている原子炉圧力容器の構成を図2に示す。その原子炉圧力容器11内のシュラウド12内に炉心17が設置される。核分裂性物質を含む炉心17で水を沸騰させ、沸騰によって生じた蒸気は温水と混合状態で気水分離器13に流入して液滴を含む蒸気と温水に分離される。
【0003】
気水分離器13で分離された温水は、給水ノズル1の注水ノズル2からの給水と混合して原子炉圧力容器11とシュラウド12との間に形成されたダウンカマ14を通り、原子炉圧力容器11底部に設けた再循環ポンプ15で駆動され、下部プレナム16を経由して炉心17に再循環される。
【0004】
一方、気水分離器13で分離された液滴を含む蒸気は、気水分離器13の上方に配置された蒸気乾燥器18で蒸気内の液滴が除去され、その後、主蒸気配管19を経由して高圧タービン,低圧タービンへと送られ、高圧タービン,低圧タービンの軸と連動した発電機で電気を発生させている。
【0005】
各タービンで用いられた蒸気は復水器で凝縮され水となり、その水は給水として各給水加熱器で温度調整されて給水ポンプで昇圧され、給水ノズル1の注水ノズル2を介して原子炉圧力容器11内に給水される。給水ノズル1は原子炉圧力容器11の周方向に複数設けられ、原子炉圧力容器11内でT字管により左右に分かれている。給水ノズル1の注水ノズル2の向きは、水平断面で温水と冷却水が均一に混合されるように、原子炉圧力容器11中心に向かう水平方向となっている。
【0006】
改良型沸騰水型原子炉の給水ノズルの構造を図3に示す。原子炉圧力容器11内で下降する高温の炉水7、その炉水よりも低温の給水8の温度差による熱応力,熱疲労を低減するため、給水ノズル1内部には、給水ノズル1と同心状にサーマルスリーブ3を設置して直接温度差のある二流体が接触することを回避している。
【0007】
その給水ノズル1の内面とサーマルスリーブ3の外面との間には環状流路9が設けられている。給水ノズル1の給水の入口1aに近い部位には、サーマルスリーブ3の一端が一体化されている。サーマルスリーブ3の他端である先端には、Tの字状のT字管6が接続され、そのT字管6の左右両端には左右のヘッダー管35が接続され、そのヘッダー管
35にはLの字状の注水ノズル2が複数個接続されている。
【0008】
注水ノズル2は、図3のように、ヘッダー管35の上部位置に接続され、給水の吐出口36は原子炉圧力容器11中心に向かう水平方向に向いている。給水は注水ノズル2の吐出口36から原子炉圧力容器11中心に向かう水平方向に吐出して原子炉圧力容器11内に給水される。給水の吐出口36の中心を通っている注水ノズル2の中心軸2aは、サーマルスリーブ3と給水ノズル1の共通の中心軸3aよりも上方に配置されている。ヘッダー管35の近傍には、図3に示すように、シュラウドヘッドボルト4やシュラウドヘッドボルトリング5が配置されている。
【0009】
原子炉の定格運転時の炉水の通常運転水位が図2(b)中に示したA−A矢視レベルの高さにあるので、その高さよりより低い位置に設けられている給水ノズル1内は高温の炉水によって満たされ、シュラウドヘッドボルトリング5や注水ノズル2やヘッダー管35やT字管6やサーマルスリーブ3は、その高温の炉水中に存在する。当然に、給水ノズル1内面とサーマルスリーブ3外面との間の環状流路9にも高温の炉水7が満たされている。
【0010】
通常の沸騰水型原子炉の設計ではまず、炉心の熱出力を決定し、その熱出力で最高の熱効率が得られるように主蒸気管以降の蒸気の流れを最適化している。具体的には、復水器で蒸気を水にすると熱サイクルの原理から通常の沸騰水型原子炉の圧力(約7MPa)ではエネルギーの2/3が排出される。
【0011】
そこで、主蒸気のうちの一部を抽気して給水加熱器における給水を加熱するために用いる。この場合、抽気蒸気の熱が回収されるため原子炉の熱効率は向上する。一般に再循環ポンプとジェットポンプを用いて、湿分分離器を備えている沸騰水型原子炉においては、主蒸気のうち最終的に低圧タービン出口から復水器に送られる蒸気の量は約55%で、残りの蒸気は給水の加熱に用いている。
【0012】
特開2005−201696号公報において、給水管,主蒸気配管,原子炉内の構造物にかかる負荷の増加を抑制するため、主蒸気流量及び給水流量を増加させずに給水温度を低下させる方法が提案されている。この際、給水ノズル部では高温の炉水と低温の給水との間には大きな温度差が生じ、前記給水ノズル部での熱応力及び熱疲労が懸念される。従って、耐熱応力や耐熱疲労に優れた給水システムが必要になる。
【0013】
また、給水ノズルの熱疲労の原因として、定格運転の給水時に発生する「高サイクル熱疲労」と給水停止時に発生する「低サイクル熱疲労」の両者が考えられる。定格運転の給水時には給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面との間の環状流路内は高温の炉水で満たされているが、サーマルスリーブ内の低温の給水により、サーマルスリーブの内外面で熱交換し、環状流路内の炉水には密度差が生じる。
【0014】
そのため、環状流路内の炉水は上部の高温部と下部の低温部に分離され、高低温水界面が環状流路内に形成される。定格運転の給水時には、給水ノズルの注水ノズルから放出された給水が炉内構造物に跳ね返り、その跳ね返り水が環状流路内に入り込み、ノズルコーナ部周辺の流体の温度を変動させるため、熱疲労に影響することが懸念される。
【0015】
そこで、給水ノズル本体のノズルコーナ側の内壁にテーパ部を設け、テーパ部の内径が圧力容器壁に向かって拡大する円錐状の凹部を形成し、給水ノズルで懸念される熱疲労を排除するものが実開昭59−8197号公報に記載されている。これより、ノズルコーナ部の環状流路の幅が広くなり、低温の跳ね返り水が環状流路内に入りやすくなると共に環状流路内の炉水との混合が促進される。
【0016】
一方、環状流路内の低温の跳ね返り水による温度変動は、テーパ部を設けたノズルコーナ側だけではなくノズルコーナ側から給水ノズルとサーマルスリーブ接続部であるセーフエンド側までの範囲で発生することが考えられる。給水ノズル部は、圧力容器壁と同様に圧力容器外部との境界部であり、熱疲労に関してはノズルコーナ側からセーフエンド側までの範囲で考えておく必要がある。
【0017】
しかし、従来例では、給水ノズル本体の内壁は、圧力容器壁に向かって拡大する円錐状の凹部を形成するテーパ部とテーパ部より奥の方に円筒面を形成する直線部からなっている。そのため、テーパ部より奥のセーフエンド側の環状流路内で発生する炉水の温度変動による熱疲労が懸念される。
【0018】
また、特開昭55−122196号公報では給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面との間の環状流路内にコレクタ部とガイド部を設置し、環状流路内に積極的に低温の跳ね返り水を導入させ循環するようにしている。給水ノズルの組み立て時、サーマルスリーブの中心軸は給水ノズルの中心軸と同一になっている、即ち、環状流路の幅が周方向で均等になっていることが望ましい。
【0019】
したがって、サーマルスリーブの外周面にガイド部を設ける場合、ガイド部の製作精度及びサーマルスリーブへの設置精度を高める必要がある。また、コレクタ部やガイド部の効果を十分に生かすためには、適切な寸法でコレクタ部やガイド部を製作し、適切な設置場所にコレクタ部やガイド部を設置する必要があり、それらの機能確認も必要である。
【0020】
一方、給水ノズル内壁の浸透試験を実施する際に、給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面には構造材は無い方が望ましく、従来例の構造ではコレクタ部やガイド部を考慮した前記試験方法を検討する必要がある。
【0021】
【特許文献1】特開2005−201696号公報
【特許文献2】実開昭59−8197号公報
【特許文献3】特開昭55−122196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図4に原子炉圧力容器内への給水時の給水ノズル1内の流体の温度分布及び流れの状態図を示す。給水ノズル1内面とサーマルスリーブ3外面との間の環状流路9には高温の炉水7が満たされているが、サーマルスリーブ3内には低温の給水8が流れているため、サーマルスリーブ3の内外面で熱交換する。
【0023】
このとき、環状流路9内では、サーマルスリーブ外面に接する高温の炉水7は熱交換により温度が低下し、温度低下した低温水21は密度が大きいため環状流路9の下部へ、高温水20は密度が小さいため環状流路9の上部へと密度差により分離して高低温水界面を生じる。しかし、高低温水界面22が静的に安定していれば、給水ノズル1やサーマルスリーブ3は静的熱応力発生だけの問題となる。
【0024】
しかしながら、給水時には注水ノズル2から原子炉圧力容器11中心方向に放出した低温の給水8が、注水ノズル2出口近傍に設置してあるシュラウドヘッドボルトリング5により給水ノズル1側に跳ね返り、環状流路9内の高低温水界面22へ作用して温度変動が生じる。
【0025】
これより、環状流路9内での温度変動が熱伝達を介して給水ノズル1内面及びサーマルスリーブ3外面へと伝播し、温度変動に起因した熱疲労がそれぞれの材料に発生することになるため、温度変動を低減する必要がある。なお、原子力圧力容器11内においては注水ノズル2上方から流下する高温の炉水流量が支配的な流れを形成しており、図4に示すシュラウドヘッドボルトリング5が無い場合にでも、給水は原子炉圧力容器の中央部に位置するスタンドパイプなどに衝突し、給水ノズル側へ跳ね返ることが懸念される。
【0026】
また、給水ノズル1の注水ノズル2から放出された跳ね返り水23はサーマルスリーブ3での熱交換や原子炉圧力容器11内に放出されたときに温度が上昇するが、高低温水界面22を形成する低温水21の温度より低いことが推定される。そのため、注水ノズル2から放出される跳ね返り水が直接高低温水界面22へ作用すると温度変動幅が大きくなり、給水ノズル1及びサーマルスリーブ3で熱疲労が発生しやすくなるため、この場合においても温度変動を低減する必要がある。
【0027】
一般に沸騰水型原子力発電システムにおいては、特に給水温度制御をしていないため、プラント全体の熱バランスの変化、具体的には復水器で蒸気を凝縮させる冷却材(海水の場合が多い)の温度変化などで、同一の沸騰水型原子力発電システムで同一の炉心,熱出力であっても1℃未満の範囲では変化しうる。出力向上時の炉心特性の低下を補うために給水温度を低下させる範囲とすれば、通常運転時の給水温度の振れ幅以上である1℃以上給水温度を下げればよい。
【0028】
ただし、給水は原子炉圧力容器に入るときに原子炉圧力容器内の飽和温度の水と混合する。したがって、給水管と原子炉圧力容器の間に温度差が生じる。給水温度を下げすぎるとこの部分で温度差が大きくなり、熱疲労の観点から設計限界を超える懸念がある。
【0029】
本発明の目的は、原子炉圧力容器の給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの広い領域で熱疲労を簡単な構成で抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の目的を達成するための第1手段は、原子炉圧力容器に装備された給水ノズルと、前記給水ノズル内に装備され、セーフエンドが前記給水ノズルに接続されるとともに、反セーフエンド側がヘッダー管に連通しているサーマルスリーブと、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間の環状流路とを備えた原子炉給水ノズルにおいて、Diを前記給水ノズルの内径の最小値、δを前記給水ノズルの内径の最小値Diと前記サーマルスリーブの外径doの最大値との間の環状流路の幅であるとした際に、前記給水ノズルのノズルコーナから前記セーフエンドまでの水平距離の範囲で、0.11 <δ/
Di≦0.16 の関係式を満足する前記環状流路の幅を備えていることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0031】
同じく第2手段は、上記第1手段において、前記水平距離の範囲で、前記サーマルスリーブの外周面に前記ノズルコーナ側で前記セーフエンド側よりも前記サーマルスリーブの外径が小さくなる段差を有し、前記ノズルコーナに一番近い段差の位置は、Lが前記ノズルコーナから前記セーフエンドまでの水平距離、xが前記ノズルコーナから前記ノズルコーナに最も近い段差までの距離であるとした際に、0.35<x/L≦1 の関係式を満足する位置に配置されていることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0032】
同じく第3手段は、原子炉圧力容器に装備された給水ノズルと、前記給水ノズル内に装備され、セーフエンドが前記給水ノズルに接続されるとともに、反セーフエンド側がヘッダー管に連通しているサーマルスリーブと、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間の環状流路とを備えた原子炉給水ノズルにおいて、前記水平距離の範囲で、前記セーフエンドから前記ノズルコーナに近づくにしたがって前記給水ノズルの内径が拡大するテーパ形状であることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0033】
同じく第4手段は、原子炉圧力容器に装備された給水ノズルと、前記給水ノズル内に装備され、セーフエンドが前記給水ノズルに接続されるとともに、反セーフエンド側がヘッダー管に連通しているサーマルスリーブと、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間の環状流路と、を備えた原子炉給水ノズルにおいて、前記水平距離の範囲で、前記セーフエンドから前記ノズルコーナに近づくにしたがって前記サーマルスリーブの外径が縮小するテーパ形状であることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0034】
同じく第5手段は、上記第1手段又は第2手段において、前記水平距離の範囲で、前記サーマルスリーブの外周面に前記ノズルコーナ側で前記セーフエンド側よりも前記サーマルスリーブの外径が小さくなる段差を有し、前記ノズルコーナから前記ノズルコーナに一番近い段差の位置までの水平距離の範囲に位置する前記給水ノズルの内径をDiより大きくすることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0035】
同じく第6手段は、上記第1手段又は第2手段又は第5手段において、前記水平距離の範囲で、前記サーマルスリーブの外周面に前記ノズルコーナ側で前記セーフエンド側よりも前記サーマルスリーブの外径が小さくなる段差を有し、前記ノズルコーナから前記ノズルコーナに一番近い段差の位置までの水平距離の範囲に位置する前記給水ノズルの内面をノズルコーナに向かって前記給水ノズルの内径が拡大するテーパ形状になっていることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0036】
同じく第7手段は、第1手段から第6手段までのいずれか一手段において、前記原子炉圧力容器は、建設当初の原子炉の定格熱出力を前記建設の後に前記当初の定格熱出力を超えて上昇させた出力向上後の原子炉に適用されている原子炉圧力容器であることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【0037】
同じく第8手段は、上記第7手段において、前記原子炉は、前記給水ノズルの入口での水の温度を前記原子炉の建設当初の定格運転時のその温度よりも1℃以上低下させて前記原子炉圧力容器内に向けて導く給水系統が接続されていることを特徴とする原子炉給水ノズルである。
【発明の効果】
【0038】
この出願の発明によれば、給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲で高温の炉水と跳ね返り水の混合を促進して給水ノズル内面及びサーマルスリーブ外面に発生する熱応力を低減できるため、耐熱疲労に優れた給水ノズルを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の目的を達成するための各実施例による手段は概ね以下の通りである。即ち、第1の手段は、給水ノズル,サーマルスリーブ,T字管及び注水ノズルは定格運転時における原子炉圧力容器内の炉水の液面より下方に配置され、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲で給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面との間の環状流路の幅を広くすることである。
【0040】
第2の手段は、第1の手段に加えて、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲でサーマルスリーブの外周面にノズルコーナに向かってサーマルスリーブの外径が小さくなる段差があり、その中でノズルコーナに一番近い段差の位置をセーフエンド側に移動することである。
【0041】
第3の手段は、給水ノズルの中心軸に平行してセーフエンドからノズルコーナまでの水平距離の範囲で給水ノズルの内面がセーフエンドからノズルコーナに向かって拡大するテーパ形状になっていることである。
【0042】
第4の手段は、給水ノズルの中心軸に平行してセーフエンドからノズルコーナまでの水平距離の範囲でサーマルスリーブの外周面がセーフエンドからノズルコーナに向かって縮小するテーパ形状になっていることである。
【0043】
第5の手段は、第1,第2及び第4の手段に加えて、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからサーマルスリーブの外周面に設けたノズルコーナに最も近い段差までの水平距離の範囲に対応する給水ノズルの内径を大きくすることである。
【0044】
第6の手段は、第1,第2,第4及び第5の手段に加えて、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからサーマルスリーブの外周面に設けたノズルコーナに最も近い段差までの水平距離の範囲に対応する給水ノズル内面をノズルコーナに向かって拡大するテーパ形状にすることである。
【0045】
第7の手段は、既設、新設及び出力向上する原子力発電プラントに第1〜第6の手段に示す原子炉給水ノズルを採用することである。
【0046】
以下、本発明を原子力発電所の原子炉設備に適用した各実施例を図を用いて具体的に解説する。本発明の給水ノズルは図2に示した原子炉圧力容器11に採用されるものである。その原子炉圧力容器11内の高温の炉水7と給水ノズル1からの低温の給水8の流れについて説明する。
【0047】
図1のB−B断面より、図2に示した原子力圧力容器11内の気水分離器13で蒸気と分離された高温の炉水7(例えば、280℃)は、給水ノズル1の注水ノズル2の上方から流れてくる。その後、高温の炉水7は注水ノズル2から吐出された低温の給水8と混合して、ダウンカマ14を通り、再循環ポンプ15で駆動され、下部プレナム16を経由して炉心17に再循環される。
【0048】
低温の給水8は、給水管37から給水ノズル1内のサーマルスリーブ3を通り、T字管6で2方向に分流されてその二方向にあるヘッダー管35内を通って各注水ノズル2内に至り、その各注水ノズル2の吐出口36から原子炉圧力容器11内に吐出する。
【0049】
給水ノズル1の注水ノズル2の吐出口36の向きは、原子炉圧力容器11中心に向かう水平向きになっているので、原子炉圧力容器11内に吐出された低温の給水8は、原子炉圧力容器11中心に向かう水平方向へ移動,拡散しながら高温の炉水7と混合する。
【0050】
一方、給水ノズル1内面とサーマルスリーブ3外面との間の環状流路9には高温の炉水7が満たされているが、サーマルスリーブ3内には低温の給水8が流れているため、サーマルスリーブ3の内外面で熱交換する。このとき、環状流路9内では、サーマルスリーブ外面に接する高温の炉水7は熱交換により温度が低下し、温度低下した低温水21は密度が大きいため環状流路9の下部へ、高温水20は密度が小さいため環状流路9の上部へと密度差により分離して高低温水界面22を生じる。
【0051】
吐出された低温の給水8の一部は、原子炉圧力容器11内のシュラウドヘッドボルト4やシュラウドヘッドボルトリング5や炉内構造物により給水ノズル1側へ跳ね返り、環状流路9内の高低温水界面22へ作用して温度変動が生じる。これより、環状流路9内での温度変動が熱伝達を介して給水ノズル1内面及びサーマルスリーブ3外面へと伝播し、温度変動に起因した熱疲労がそれぞれの材料に発生することが懸念される。
【0052】
給水ノズルの構造健全性は、図5及び式(1)(2)に示す関係を用いて熱応力で評価することが出来る。給水ノズル壁面で発生する熱応力を小さくするためには、給水ノズル1内面とサーマルスリーブ3外面との間の環状流路9内の流体の温度変動幅ΔTf 及び熱伝達率hを小さくする必要がある。
【0053】
ΔTw ∝ f(ΔTf,h) (1)
σalt ∝ f(ΔTw) (2)
但し、ΔTw は給水ノズル壁面の温度変動幅、ΔTf は給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面との間の環状流路内の流体の温度変動幅、hは環状流路内の熱伝達率、σalt は給水ノズル壁面で発生する熱応力である。
【0054】
最終的な評価として、給水ノズル壁面で発生する熱応力σalt が材料の疲労限度σcr よりも低ければ、給水ノズルの熱疲労の問題は無いと考えられる。但し、実際には、疲労限度よりも低くなることは勿論であるが、安全裕度を考慮して、給水ノズルを設計製作する必要がある。
【0055】
次に、縮小モデル試験により得られた結果の概要について説明する。縮小モデル試験では、給水ノズル1内面とサーマルスリーブ3外面との間の環状流路9の幅を変えた試験を実施した。図6は給水ノズルの無次元軸方向距離x/Lに対する温度変動幅βmaxを示す。横軸には無次元軸方向距離x/Lを示す。xは図5に示すようにノズルコーナからの距離を示す。Lは給水ノズル1の中心軸に平行したノズルコーナ38からセーフエンド
39までの水平距離(図示なし)を示す。縦軸には任意の位置における給水ノズルの外周面上(周方向角度は0〜180°)から少し離れた流体の温度変動幅ΔTf が最大になるものβmaxを示す。
【0056】
図中の○印は従来例1(δ/Di≒0.11)、△印は従来例2(δ/Di<0.11)、□印は本発明(δ/Di>0.11 )を示す。なお、Diは給水ノズルの内径の最小値、δは給水ノズルの内径の最小値Diとサーマルスリーブの外径doの最大値との間の環状流路の幅を示す。無次元軸方向距離x/Lに対する流体の温度変動幅βmaxは、ノズルコーナ38側で大きくなり、セーフエンド39側で減衰し小さくなる。
【0057】
また、環状流路9の幅が広くなると流体の最大温度変動幅βmaxは小さくなる。環状流路9の幅を広げた構造では、温度変動幅βmaxが最大になる無次元軸方向距離で比較すると、従来例1の構造に対して本発明の構造では流体の最大温度変動幅は約10%低減される。
【0058】
図7は給水ノズルの無次元軸方向距離に対する熱伝達率を示す。横軸に無次元軸方向距離x/L、縦軸には任意の位置における給水ノズルの外周面上(周方向角度は0〜180°)の熱伝達率hが最大になるものhmaxを示す。図には給水ノズルの軸方向で代表的な3点をプロットしている。図6と同様に、ノズルコーナ38側で熱伝達率は大きくなり、セーフエンド39側で熱伝達率は小さくなる。
【0059】
また、環状流路9の幅の影響については、熱伝達率hmaxが最大になる無次元軸方向距離で比較すると、従来例1より幅を狭くすると約5%熱伝達率が大きくなる。一方、従来例1と2では熱伝達率は従来とほぼ同様である。図6および図7の結果と式(1),
(2)から、無次元軸方向距離x/Lに対する熱応力はノズルコーナ38側で大きくなり、セーフエンド39側では小さくなることが推定される。
【0060】
次に、図8に環状流路の幅に対する温度変動幅を示す。横軸には環状流路9の幅δを給水ノズルの内径Diで割った無次元環状流路幅δ/Di、縦軸には従来例1の温度変動幅βmaxに対して、従来例2や本発明の温度変動幅の割合βcを示す。なお、βc導出時の温度変動幅は図5の温度変動幅の最大値とする。従来例1より環状流路9の幅を狭くすると温度変動幅βcは小さくなることが分かる。
【0061】
図9に環状流路の幅に対する熱伝達率を示す。横軸には環状流路9の幅δを給水ノズルの内径Diで割った無次元環状流路幅δ/Di、縦軸には従来例1の熱伝達率hmaxに対して、従来例2や本発明の熱伝達率の割合hcを示す。なお、hc導出時の熱伝達率は図6の熱伝達率の最大値とする。従来例1より環状流路9の幅が狭い範囲では熱伝達率はほぼ同等であると共に、熱伝達率も低いことが分かる。
【0062】
したがって、従来例1及び本発明の熱伝達率を下限値と考え、δ/Diの下限値は従来のδ/Di=0.11 とする。一方、環状流路9の幅を広げすぎると、サーマルスリーブ3内を低温の給水8が流れるときの圧力損失が増加して、給水ポンプの仕様を変更しなければならなくなる。
【0063】
そこで、サーマルスリーブ3の内径を狭くすることでサーマルスリーブ3内の給水の流速が増加することによる圧力損失の増加を、例えば10%以下に抑え、さらにサーマルスリーブ先端のT字管やヘッダー管の仕様を変更せず、サーマルスリーブの外径と給水ノズルの内径のみを変更する条件とすると、δ/Diの上限値はδ/Di=0.16となる。
【0064】
したがって、本発明の効果が得られるδ/Diの範囲は0.11<x/L≦0.16となる(従来例1のδ/Di=0.11 は含まない)。なお、寸法表示のある原子炉給水ノズルの製作図面からδ/Diを算出することで、本実施例を実現することが可能である。
【0065】
本発明の原子炉給水ノズルの別の実施例を図10に示す。本実施例の特徴は、給水ノズル1の中心軸3aに平行して給水ノズル1のノズルコーナ38からセーフエンド39までの水平距離の範囲でサーマルスリーブ3の外周面にノズルコーナ38に向かってサーマルスリーブ3の外径が小さくなる段差があり、サーマルスリーブ3の外周面のノズルコーナ38に一番近い段差40の位置をセーフエンド39側に移動することである。
【0066】
本実施例の場合、図1の実施例に加えて、さらにノズルコーナ38の環状流路9の空間スペースが広くなるため、高温の炉水7が環状流路9内に流入しやすくなり、高温の炉水7と低温の給水8の混合が促進され、確実に温度変動を低減できる。なお、段差の位置をセーフエンド39側に移動し環状流路9の幅を広くすることにより得られる効果と、図1の実施例のように給水ノズル1のノズルコーナ38からセーフエンド39までの環状流路9の幅を広くすることにより得られる効果は同様であると考えられる。
【0067】
図5に示す軸方向距離からx/Lの範囲を導出する。図1の実施例と同様に、x/Lの下限値は従来のx/L=0.35 とする。上限値は給水ノズル1のセーフエンド39と段差が一致するx/L=1とする。したがって、本発明の効果が得られるx/Lの範囲は
0.35<x/L≦1となる(従来例1のδ/Di=0.35は含まない)。なお、寸法表示のある原子炉給水ノズルの製作図面からx/Lを算出することで、本実施例を実現することが可能である。
【0068】
本発明の原子炉給水ノズルの別の実施例を図11に示す。本実施例の特徴は、給水ノズル1の中心軸3aに平行して給水ノズル1のノズルコーナ38からセーフエンド39までの水平距離の範囲でサーマルスリーブ3の外周面にノズルコーナ38に向かってサーマルスリーブ3の外径が小さくなるノズルコーナ38に一番近い段差の位置をセーフエンド
39に一致させ、サーマルスリーブ3外周面に段差を設けないことである。
【0069】
本実施例では、環状流路9の入口部のノズルコーナ38だけでなく、ノズルコーナ38からセーフエンド39までの水平距離の範囲において環状流路9の幅を広くすることで、給水ノズル1の注水ノズル2から放出された給水が炉内構造物に跳ね返り、その跳ね返り水が環状流路9内に入り易くなり、低温の給水8と環状流路9内の炉水の混合が促進され、環状流路9内の炉水の温度変動を低減でき、それに伴い熱応力も低減できる。また、サーマルスリーブ3の外周面の段差を削除することが出来るため、段差を製作するための物量及び費用を削減できるとともにサーマルスリーブ3の製作は容易となり、経済性が向上する。
【0070】
本発明の原子炉給水ノズルの別の実施例を図12に示す。本実施例の特徴は、給水ノズル1の中心軸3aに平行して給水ノズル1のセーフエンド39からノズルコーナ38までの水平距離の範囲で給水ノズル1の内面をセーフエンド39からノズルコーナ38に向かって拡大するテーパ形状にすることである。
【0071】
本実施例では、図1,図10や図11の実施例に加えて、環状流路9内の炉水の温度変動が大きいことが推定されるノズルコーナ38に近い環状流路9の幅を広くすることが出来るので、環状流路9内の高温の炉水と低温の跳ね返り水は混合しやすくなり、温度変動は小さくなる。それに伴い給水ノズル1内壁で発生する熱応力も低減できる。さらに、セーフエンド39側の環状流路9の幅は、図1の実施例に示すように0.11<δ/Di≦0.16の範囲にすることが望ましい。
【0072】
本発明の原子炉給水ノズルの別の実施例を図13に示す。本実施例の特徴は、給水ノズル1の中心軸3aに平行してセーフエンド39からノズルコーナ38までの水平距離の範囲でサーマルスリーブ3の外周面をセーフエンド39からノズルコーナ38に向かって縮小するテーパ形状にすることである。
【0073】
本実施例では、図12と同様に、環状流路9内の炉水の温度変動が大きいことが推定されるノズルコーナ38に近い環状流路9の幅を広くすることが出来るので、環状流路9内の高温の炉水7と低温の跳ね返り水は混合しやすくなり、温度変動は小さくなる。なお、図1や図12の実施例を組み合わせても問題ない。
【0074】
本発明の原子炉給水ノズルの別の実施例を図14に示す。本実施例の特徴は、給水ノズル1の中心軸3aに平行して給水ノズル1のノズルコーナ38からサーマルスリーブ3の外周面に設けたノズルコーナ38に最も近い段差までの水平距離zの範囲に対応する給水ノズル1の内径をDiより大きくすることである。なお、Diは給水ノズルの内径の最小値を示す。
【0075】
本実施例では、図1の実施例に加えて、給水ノズル1のノズルコーナ38からセーフエンド39までの範囲で温度変動を低減できる。さらに、環状流路9内の炉水の温度変動が大きいことが推定されるノズルコーナ38に近い環状流路9の幅を広くすることが出来るので、環状流路9内の高温の炉水と低温の跳ね返り水は混合しやすくなり、温度変動は小さくなる。さらに、セーフエンド39側の環状流路9の幅は、図1の実施例に示すように0.11<δ/Di≦0.16の範囲にすることが望ましい。
【0076】
本発明の原子炉給水ノズルの別の実施例を図15に示す。給水ノズル1の中心軸3aに平行して給水ノズル1のノズルコーナ38からサーマルスリーブ3の外周面に設けたノズルコーナ38に最も近い段差までの水平距離zの範囲に対応する給水ノズル1内面をノズルコーナに向かって拡大するテーパ形状にすることである。
【0077】
本実施例では、図14の実施例と同様に、給水ノズル1のノズルコーナ38からセーフエンド39までの範囲で温度変動を低減できる。また、ノズルコーナ38にテーパ部を設けることで、さらに高温の炉水7が環状流路9内に入りやすくなり、環状流路9内で高温の炉水7と給水の混合が促進し、温度変動を低減することが出来る。
【0078】
本発明の原子炉給水ノズルを用いた原子力発電システムの実施例を図16に示す。本実施例の特徴は、原子炉建設時の定格熱出力よりも熱出力を上昇させた出力向上後の原子炉であり、出力向上後の定格運転時の給水ノズル入口温度を原子炉建設時の定格運転時の給水ノズル入口温度よりも1℃以上低下させて運転することである。
【0079】
原子力発電所の原子炉は、図16のように、原子炉圧力容器11に接続されている主蒸気系統と給水系統を備えている。主蒸気系統は、原子炉圧力容器11内から蒸気を高圧タービン26及び低圧タービン28へ供給する系統である。即ち、原子炉圧力容器11内で発生した高温高圧な蒸気は、主蒸気配管19を通じて高圧タービン26に供給されてその高圧タービン26を回転するのに用いられる。
【0080】
その高圧タービン26で用いられた蒸気は湿分分離器27に供給されて湿分が低減される。湿分が低減された蒸気は低圧タービン28に供給されて低圧タービン28を回転するのに用いられる。このように主蒸気系統の各タービンで用いられた蒸気は、復水器29に供給され、そこで蒸気は凝縮されて低温の水となる。
【0081】
高圧タービン26と低圧タービン28が回転駆動されると、各タービンに接続されている発電機が各タービンの回転駆動力で駆動されて発電作用を発揮し、発電電力はケーブルで原子力発電所外へ送電されるように構成されている。
【0082】
各タービンで用いられた蒸気が復水器29で低温の水に戻された後に、その水は給水として給水系統で取り扱われる。給水系統は以下の通りである。即ち、給水系統は、復水器29で蒸気から生成した水を給水として給水管37に通して、給水ポンプ31でその給水を原子炉圧力容器11内に給水する。
【0083】
その給水管37の途中には、低圧給水加熱器30と高圧給水加熱器32とが直列に装備され、給水系統を通過中の給水を加熱する。給水系統の低圧給水加熱器30へは給水との熱交換対象流体として蒸気が湿分分離器27と低圧タービン28の中間段から抽出して供給されている。同じく、給水系統の高圧給水加熱器32には、給水との熱交換対象流体として蒸気が高圧タービン26の中間段と最終段から抽出して供給されている。
【0084】
高圧タービン26の最終段から抽出された蒸気を高圧給水加熱器32へ供給する配管の途中には、抽気流量調整弁33が設けられて高圧給水加熱器32へ供給する蒸気量を抽気流量調整弁33の開度調整で調整できる。また、給水系統には、高圧給水加熱器32を給水が迂回する給水バイパス管34や、高圧給水加熱器32内の熱源である蒸気を低圧給水加熱器30に供給する配管や、低圧給水加熱器30の熱源である蒸気等の流体を復水器
29に供給する配管等が付属する。
【0085】
給水系統は、給水ノズルの入口での給水の温度を前記原子炉の建設当初の定格運転時のその温度よりも1℃以上低下させて前記原子炉圧力容器11内に向けて導くことが出来るように、抽気流量調整弁33を建設当初の定格運転よりも絞る(閉じる方向)操作を行って、高圧タービン26内の蒸気(熱源)を高圧給水加熱器32へ供給する流量を減らす。あるいは、給水ポンプ31からの給水を高圧給水加熱器32に供給せず、給水バイパス管34に通して直接原子炉圧力容器11へ給水することで、給水ノズルの入口での給水の温度を、建設当初の定格運転時の給水ノズルの入口における給水温度よりも1℃以上低下させて出力向上運転条件とする。
【0086】
給水バイパス管34に流量調整弁を設けて、その流量調整弁の開度を調整して、給水バイパス管34と高圧給水加熱器32への給水の流量配分を調整し、給水ノズルの入口での給水温度を建設当初の定格運転時の給水ノズルの入口における給水温度よりも1℃以上低下させて出力向上運転条件としても良い。
【0087】
本実施例では、主蒸気流量及び給水流量を増加させずに給水温度を低下させて出力を向上する方法を採用している。つまり、原子炉圧力容器内の炉水の温度と給水の温度差が大きくなるため給水ノズル部の熱疲労が懸念されるが、図1の実施例の原子炉給水ノズルを設けることで、給水ノズルの熱応力及び熱疲労の発生を防止でき、給水ノズルの構造健全性を向上させることができる。
【0088】
このように、通常運転時の給水温度の振れ幅以上である1℃以上給水温度を下げれば良い。但し、給水は、原子炉圧力容器11に入るときに原子炉圧力容器11内の飽和温度の水と混合することから、給水ノズル部に温度差が生じる。給水温度を下げすぎるとこの部分で温度差が大きくなり、熱疲労の観点から設計限界を超える可能性があるので、その懸念が無いように設計限界との兼ね合いも考慮して下げ幅を設定する。
【0089】
図16において、Qは原子炉圧力容器内で生成される熱出力百分率を、Gは図16の系統内の質量流量百分率を、Hは同じくエンタルピ(kJ/kg)を示す。図16ではQ=
105とあるのは、原子炉建設当初の定格熱出力の熱出力百分率Qが100%であったものを建設後に105%まで出力向上したことを意味している。
【0090】
以上のように、既存の沸騰水型原子炉の給水システムを本発明のいずれかの実施例による給水システムに代替し、出力を向上した運転を行えば、例え給水温度が従来よりも低下しても十分に高信頼性の維持が出来、現状のプラント運転前に比べて電気出力の増加が図れる有効な原子力発電システムとなる。
【0091】
本発明の実施例によれば、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲で給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面との間の環状流路の幅を広くすることで、高温の炉水と跳ね返り水の混合を促進でき、温度変動を低減でき、それに伴い給水ノズル内面及びサーマルスリーブ外面に発生する熱応力を低減できるため、耐熱疲労に優れた給水ノズルを実現できる。
【0092】
また、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲でサーマルスリーブの外周面にノズルコーナに向かってサーマルスリーブの外径が小さくなる段差がある場合において、サーマルスリーブの外周面のノズルコーナに一番近い段差の位置をセーフエンド側に移動することで、給水ノズル内のノズルコーナ側の環状流路の幅を広げることができ、高温の炉水と跳ね返り水の混合を促進でき、温度変動を低減できる。また、一層確実に熱応力及び熱疲労を抑制できる構造健全性を向上させた給水ノズルを実現できる。
【0093】
また、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲で給水ノズルの内面をセーフエンドからノズルコーナに向かって拡大するテーパ形状とすることで、ノズルコーナ部の環状流路の幅を広げることができ、さらに炉水と給水の混合を促進できる。
【0094】
また、給水ノズルの中心軸に平行してノズルコーナからセーフエンドまでの水平距離の範囲でサーマルスリーブの外周面がセーフエンドからノズルコーナに向かって縮小するテーパ形状とすることで、さらに環状流路内の高温の炉水と給水ノズルの注水ノズルからの低温の給水の混合促進につながる。
【0095】
また、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからサーマルスリーブの外周面に設けたノズルコーナに最も近い段差までの水平距離の範囲に対応する給水ノズルの内径を大きくすることで、ノズルコーナの環状流路の幅を広くすることができ、特に熱疲労が懸念されるノズルコーナの環状流路内の炉水の温度変動を低減できるため、耐熱疲労に優れた給水ノズルを実現できる。
【0096】
また、給水ノズルの中心軸に平行して給水ノズルのノズルコーナからサーマルスリーブの外周面に設けたノズルコーナに最も近い段差までの水平距離の範囲に対応する給水ノズル内面をノズルコーナに向かって拡大するテーパ形状とすることで、ノズルコーナの環状流路の幅を広くすることができ、耐熱疲労に優れた給水ノズルを実現できる。
【0097】
また、原子炉建設時の定格熱出力よりも熱出力を上昇させた出力向上後の原子炉に本発明の原子炉給水ノズル設けても、給水ノズルの構造健全性を向上させることができる。
【0098】
また、原子炉建設時の定格熱出力よりも熱出力を上昇させた出力向上後の原子炉に請求項1から請求項6に示す原子炉給水ノズルを、出力向上後の定格運転時の給水ノズル入口温度を原子炉建設時の定格運転時の給水ノズル入口温度よりも1℃以上低下させた出力向上運転する原子力発電システムに設けても、給水ノズルの構造健全性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、原子炉圧力容器に付属する給水ノズルに利用分野がある。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の好適な実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図2】原子炉圧力容器を示す図にして、(a)図は(b)図のA−A矢視断面図、(b)図は原子炉圧力容器の縦断面の概略図である。
【図3】従来の原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図4】図3の従来の給水ノズル部の温度分布を示す図である。
【図5】図3の従来の給水ノズル部の熱疲労評価に関する評価指標の説明図である。
【図6】原子炉給水ノズル部の軸方向距離と温度変動幅との関係グラフ図である。
【図7】原子炉給水ノズル部の軸方向距離と熱伝達率との関係グラフ図である。
【図8】原子炉給水ノズル部の環状流路の幅と温度変動幅との関係グラフ図である。
【図9】原子炉給水ノズル部の環状流路の幅と熱伝達率との関係グラフ図である。
【図10】本発明の他の実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図11】本発明の他の実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図12】本発明の他の実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図13】本発明の他の実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図14】本発明の他の実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図15】本発明の他の実施例である原子炉給水ノズルを示す図にして、(a)図は原子炉圧力容器内側から周囲構造物とともに給水ノズルの正面を見た図であり、(b)図は(a)図のB−B矢視断面図である。
【図16】本発明の実施例である原子炉給水ノズルを用いた原子力発電所の主蒸気及び給水系統図である。
【符号の説明】
【0101】
1…給水ノズル、2…注水ノズル、3…サーマルスリーブ、3a…中心軸、4…シュラウドヘッドボルト、5…シュラウドヘッドボルトリング、6…T字管、7…高温の炉水、8…低温の給水、9…環状流路、11…原子炉圧力容器、12…シュラウド、13…気水分離器、14…ダウンカマ、15…再循環ポンプ、16…下部プレナム、17…炉心、
18…蒸気乾燥器、19…主蒸気配管、20…高温水、21…低温水、22…高低温水界面、23…跳ね返り水、24…連通管、25,35…ヘッダー管、26…高圧タービン、27…湿分分離器、28…低圧タービン、29…復水器、30…低圧給水加熱器、31…給水ポンプ、32…高圧給水加熱器、33…抽気流量調整弁、34…給水バイパス管、
36,36a,36b…吐出口、37…給水管、38…ノズルコーナ、39…セーフエンド、40…段差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器に装備された給水ノズルと、
前記給水ノズル内に装備され、セーフエンドが前記給水ノズルに接続されるとともに、反セーフエンド側がヘッダー管に連通しているサーマルスリーブと、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間の環状流路と、
を備えた原子炉給水ノズルにおいて、
Diを前記給水ノズルの内径の最小値、δを前記給水ノズルの内径の最小値Diと前記サーマルスリーブの外径doの最大値との間の環状流路の幅であるとした際に、
前記給水ノズルのノズルコーナから前記セーフエンドまでの水平距離の範囲で、0.11<δ/Di≦0.16 の関係式を満足する前記環状流路の幅を備えていることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項2】
請求項1において、前記水平距離の範囲で、前記サーマルスリーブの外周面に前記ノズルコーナ側で前記セーフエンド側よりも前記サーマルスリーブの外径が小さくなる段差を有し、前記ノズルコーナに一番近い段差の位置は、Lが前記ノズルコーナから前記セーフエンドまでの水平距離、xが前記ノズルコーナから前記ノズルコーナに最も近い段差までの距離であるとした際に、0.35<x/L≦1 の関係式を満足する位置に配置されていることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項3】
原子炉圧力容器に装備された給水ノズルと、
前記給水ノズル内に装備され、セーフエンドが前記給水ノズルに接続されるとともに、反セーフエンド側がヘッダー管に連通しているサーマルスリーブと、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間の環状流路と、
を備えた原子炉給水ノズルにおいて、
前記水平距離の範囲で、前記セーフエンドから前記ノズルコーナに近づくにしたがって前記給水ノズルの内径が拡大するテーパ形状であることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項4】
原子炉圧力容器に装備された給水ノズルと、
前記給水ノズル内に装備され、セーフエンドが前記給水ノズルに接続されるとともに、反セーフエンド側がヘッダー管に連通しているサーマルスリーブと、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間の環状流路と、
を備えた原子炉給水ノズルにおいて、
前記水平距離の範囲で、前記セーフエンドから前記ノズルコーナに近づくにしたがって前記サーマルスリーブの外径が縮小するテーパ形状であることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、前記水平距離の範囲で、前記サーマルスリーブの外周面に前記ノズルコーナ側で前記セーフエンド側よりも前記サーマルスリーブの外径が小さくなる段差を有し、前記ノズルコーナから前記ノズルコーナに一番近い段差の位置までの水平距離の範囲に位置する前記給水ノズルの内径をDiより大きくすることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項6】
請求項1又は請求項2又は請求項5において、前記水平距離の範囲で、前記サーマルスリーブの外周面に前記ノズルコーナ側で前記セーフエンド側よりも前記サーマルスリーブの外径が小さくなる段差を有し、前記ノズルコーナから前記ノズルコーナに一番近い段差の位置までの水平距離の範囲に位置する前記給水ノズルの内面をノズルコーナに向かって前記給水ノズルの内径が拡大するテーパ形状になっていることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項において、前記原子炉圧力容器は、建設当初の原子炉の定格熱出力を前記建設の後に前記当初の定格熱出力を超えて上昇させた出力向上後の原子炉に適用されている原子炉圧力容器であることを特徴とする原子炉給水ノズル。
【請求項8】
請求項7において、前記原子炉は、前記給水ノズルの入口での水の温度を前記原子炉の建設当初の定格運転時のその温度よりも1℃以上低下させて前記原子炉圧力容器内に向けて導く給水系統が接続されていることを特徴とする原子炉給水ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−278814(P2007−278814A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104810(P2006−104810)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)