説明

原子炉起動監視システム

【課題】炉水の減速材温度反応度係数が正になったとき、運転員に適切な情報を提供することができ、冷却材温度変化率を制限値以内に収めることができる原子炉起動時監視システムを提供する。
【解決手段】原子炉起動監視装置22は、演算処理装置33、減速材温度反応度係数判定装置23及び出力情報作成装置32を有する。減速材温度反応度係数判定装置23は、演算処理装置33で算出された原子炉周期逆数及び炉水温度変化率を入力し、制御棒操作停止後の経過時間情報、現在の原子炉周期逆数、制御棒操作停止時点からp秒が経過した時点での原子炉周期逆数及び制御棒操作停止時点からq秒前の時点での炉水温度変化率を用いて、減速材温度反応度係数が正か負かを判定する。判定により得られた正(または負)の表示情報が出力情報作成装置32で作成され、表示装置42に出力される。必要なガイダンスを音声出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉起動監視システムに係り、特に、減速材温度反応度係数が正値の特性を有する沸騰水型原子炉の起動時の監視を行うのに好適な原子力起動監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント、例えば沸騰水型原子炉(BWR)を用いた原子力発電プラントにおいては、原子炉の起動に際して、起動開始、臨界、定格圧力到達、発電機併入、定格出力到達の手順で原子炉出力を高めることが行われている。このうち、起動開始から臨界到達までは臨界過程、原子炉臨界から定格圧力到達までの間は昇温昇圧過程と呼ばれている。これらの過程では、タービンバイパス弁及び加減弁を閉じ、原子炉から蒸気が流出しない状態で炉心に挿入された制御棒を順次引き抜いていく操作が行われる。
【0003】
具体的には、原子炉の起動時には、運転員の操作により、まず、未臨界の原子炉から制御棒を徐々に引き抜いて、原子炉周期(中性子束φが元の値の2.71倍となるまでの時間)が100秒〜200秒程度の超過臨界にもっていく制御が行われる。ここまでの過程を臨界過程と呼ぶ。その後、原子炉を定格圧力まで昇圧する昇温昇圧過程が始まる。昇温昇圧過程の初期の炉水温度は通常80℃程度であり、定格圧力での炉水温度は約280℃である。
【0004】
この昇温昇圧過程の初期には、超過臨界により中性子束が増加し、それに伴って炉心内の燃料集合体において核反応がより活発化する。核加熱によって炉水温度も上昇する。従来のBWR炉心では減速材温度反応度係数が負である。このため、中性子減速材兼冷却材である炉水の温度が増加すると炉心に負の反応度が印加され、中性子束増加率が減少する。最終的には、中性子束が極大値をとった後、未臨界状態になって中性子束および原子炉出力が減少する。この効果は、燃料温度が増加すると負の反応度が印加されるドップラー効果によっても助長される。
【0005】
中性子検出器が原子炉出力レベルによって中性子源領域モニタ(SRM)と中間領域モニタ(IRM)に分かれているBWRプラントでは、昇温昇圧過程の初期において、運転員は中性子束の上昇に従ってIRMのレンジ切り替えを実施する。中性子束が極大値をとるまで通常制御棒の操作は行われない。SRM及びIRMの機能を統合した起動領域中性子モニタ(SRNM)を備えたBWRプラントでは、レンジ切り替え操作が不要である。したがって、運転員は中性子束が極大値になるまでプラント監視を行う。中性子束が極大値をとるまで、通常は40分程度を要する。
【0006】
中性子束が極大値になった後、運転員は中性子束の値を監視する。運転員は、中性子束の値がある程度上昇したところで、中性子束の値と中性子束レベルの目安(過去の運転実績から炉水の温度変化率が目標値付近となるとして得られた値)を比較し、中性子束の値が目安を大きく超えそうなときには制御棒を炉心に挿入する操作を行う。逆に、中性子束の値が目安を下回りそうなときには、運転員は制御棒を炉心から引き抜く操作を行う。このような制御棒操作を行う過程で、炉水温度が上昇すると減速材の密度が小さくなり、核分裂に寄与する中性子束の数が減少する。このため、全体としては炉水温度が上昇するにつれて制御棒を徐々に引き抜いていくことになる。
【0007】
中性子束が前記の極大値をとる理由は、中性子束と炉水温度の間に時間遅れがあるためである。中性子束の増加により原子炉熱出力が増加すると、加熱により炉水温度は上昇する。温度の高い炉水は炉心出口から上部プレナムに流入し、さらに上昇して気水分離器からダウンカマへ流出する。ダウンカマへ流出した高温水は、ダウンカマを下降し、下部プレナムを経て再び炉心に流入する。循環する炉水が炉心の上端から流出して再び炉心内に流入するまで、約2分程度を要する。その間においても中性子束は増加し、平衡状態になる中性子束レベルより高くなるため、中性子束が極大値を持つのである。
【0008】
BWRに用いられる最近の燃料集合体は、濃縮度を高めることによって高燃焼度化されている。これによって、燃料経済性の向上を図っている。核燃料を効率良く燃焼させるため、高燃焼度化された燃料集合体は、燃料物質の体積に対する水領域の体積を増やした設計になっている。複数のそのような燃料集合体が炉心に装荷されたBWRを運転した場合に、燃焼が進んだとき、炉水温度が低い場合に炉水の減速材温度反応度係数が正になる場合のあることがわかってきた。核燃料の燃焼が進むと減速材温度反応度係数は正側に移行する。但し、この場合でも、減速材温度が高くなると減速材温度反応度係数は負側に移行している。
【0009】
高燃焼度化された燃料集合体では燃料体積に対する水領域の体積を増した設計になっているので、中性子スペクトルが軟化(全中性子に対する熱中性子割合が増えていること)している。中性子スペクトルは核燃料の燃焼が進み核分裂性物質が減少しても軟化する。また、通常運転時(約280℃)に比べて炉水温度が低くなるほど水密度が大きくなるために、低温時の中性子スペクトルは定格運転時に比べて軟化する。
【0010】
原子炉は、一般的には、減速材反応度係数が負になるように設計されている。しかしながら、低温時の中性子スペクトルが軟化する場合には、減速材反応度係数が正になる可能性がある。炉水の減速材温度反応度係数が正になる燃料集合体は、中性子束が増加して発熱量が増えて炉水温度が上昇した場合に、正の反応度が印加され中性子束増加率が増加する。その結果として炉水温度変化率も増加する。
【0011】
減速材温度反応度係数が正になる原子炉における出力制御方法が、特許文献1及び特許文献2にそれぞれ説明されている。特許文献1に記載されている出力制御方法は、炉水温度の測定値に基づいて炉水温度変化率を算出し、ある時刻における炉水温度変化率、炉水温度変化率制限値(上限値)及びある時刻より一定時間前の他の時刻に検出された中性子束に基づいて中性子束制限値を算出し、上記のある時刻に検出された中性子束がその中性子束制限値以上になったことを条件として、炉心内に制御棒を挿入する。特許文献1に記載された出力制御方法は、原子炉の臨界操作及び昇温昇圧操作時において行われる。特許文献1に記載の出力制御方法は、減速材温度係数が正になっている場合においても、炉水温度変化率を過大にならないように抑制することを狙っている。
【0012】
特許文献2に記載された原子炉の出力制御方法は、減速材温度反応度係数が正であっても負であっても同様に起動できるようにしている。その出力制御方法は、減速材温度反応度係数が正であっても減速材温度変化率を制限値以内に収めている。特許文献2に記載された出力制御方法では、具体的には、原子炉内の中性子束及び炉水温度を検出し、炉水温度検出値を用いて炉水温度変化率を算出し、この炉水温度変化率が設定値以上で検出した中性子束が増加傾向にあることを条件に、制御棒の挿入操作を行っている。この特許文献2は、制御棒操作を手動で行う場合には、運転員に対し、制御棒を挿入すべきタイミングに制御棒挿入操作を実施するようなガイダンスを表示することを記述している。
【0013】
【特許文献1】特開2005-241384号公報
【特許文献2】特開2005-207944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
最終的には高燃焼度用の燃料集合体でも、炉水温度が約150℃以上になると減速材温度反応度係数が負になり、さらに炉水中に気泡が発生して負のボイド反応度が印加される。このため、運転員が放置しても中性子束の増加は自動的に停止する。しかし、それまでの期間は中性子束及び炉水温度が増加する。減速材温度反応度係数が正になったときには、炉水温度変化率が温度変化率制限値(例えば55℃/h)を超えないように、制御棒の挿入操作を実施して反応度を低減する必要がある。したがって、減速材温度反応度係数が正の原子力発電プラントの起動においては、減速材温度反応度係数が負の原子力発電プラントと異なり、昇温昇圧過程の初期に制御棒挿入操作が必要になる。炉水の減速材温度反応度係数が正であるか負であるかは起動前の分析である程度は予想できるが、実際に起動しないと確認できず、また減速材温度反応度係数が正から負に変わったことを確認する手段はなかった。
【0015】
このような原子炉プラントに対して、特許文献1及び特許文献2は、上記したように、中性子束及び炉水温度のそれぞれの検出値から減速材温度反応度係数の正負を推定し、減速材温度反応度係数が正である場合に自動的に制御棒の挿入操作を実施する原子炉出力制御装置を記載している。最新のBWRプラントは制御棒挿入操作を自動化した原子炉出力制御装置を備えているが、それ以外の古いBWRプラントはその制御装置を備えておらず、運転員が手動にて全ての制御棒操作を行なっている。このようなプラントに対しては、上記文献に記載した制御棒自動制御装置を導入することはコストがかかる欠点がある。また、最新のBWRプラントにおいても自動制御には適用範囲があるので、炉心特性によっては手動で制御棒操作を実施する必要がある。
【0016】
特許文献2は、制御棒自動制御機能を使って、運転員の手動操作時に、制御棒挿入操作を実施するタイミングを示すガイダンスを表示する技術を記載している。この場合、なぜ制御棒の挿入操作が必要なのか理由が運転員に提示されないので、運転員が引き抜き操作と挿入操作を迷う可能性がある。また、炉水温度がある程度上昇すると減速材温度反応度係数が正から負に変わり、制御棒挿入操作は必要なくなる。しかしながら、運転員は、その状態が把握できないため、挿入操作の指示がでることを不要に待つことになる。さらに、制御棒挿入操作は制御棒引き抜き操作に比べて早急に行う必要があるため、挿入操作に備えて待機している運転員の負担が十分軽減できないという課題がある。
【0017】
本発明の目的は、炉水の減速材温度反応度係数が正になったとき、運転員に適切な情報を提供することができ、冷却材温度変化率を制限値以内に収めることができる原子炉起動時監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、中性子検出器で計測された中性子束、及び温度計により計測された炉水温度に基づいて減速材温度反応度係数が正であることを判定する判定手段と、この判定手段で減速材温度反応度係数が正であると判定されたときに減速材温度反応度係数が正であることを示す第1出力情報を作成する出力情報作成手段と、第1出力情報を入力する表示装置及び音声出力装置の少なくとも一つとを備えたことにある。
【0019】
本発明は、判定手段で減速材温度反応度係数が正であると判定されたときに、減速材温度反応度係数が正であることを示す第1出力情報を、表示装置及び音声出力装置の少なくとも一つに出力するので、運転員は、減速材温度反応度係数が正になったことを知ることができる。このため、運転員が適切に制御棒挿入操作を行うことができ、冷却材温度変化率を制限値以内に収めることができる。
【0020】
好ましくは、中性子検出器で計測された中性子束、及び温度計により計測された炉水温度に基づいて減速材温度反応度係数の正負を判定する判定手段と、この判定手段で減速材温度反応度係数が正であると判定されたときに減速材温度反応度係数が正であることを示す第1出力情報を作成し、その判定手段で前記減速材温度反応度係数が負であると判定されたときに減速材温度反応度係数が負であることを示す第2出力情報を作成する出力情報作成手段と、第1出力情報及び第2出力情報を入力する表示装置及び音声出力装置の少なくとも一つとを備えたことにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、炉水の減速材温度反応度係数が正になったとき、運転員に適切な情報を提供することができ、冷却材温度変化率を制限値以内に収めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
高燃焼度化された燃料集合体を装荷した炉心における、原子炉起動時での減速材温度と減速材温度反応度係数の関係を、図4に示している。減速材温度が高いほど減速材温度反応度係数は負側に移行している。また、核燃料の燃焼が進むと減速材温度反応度係数は正側に移行している。中性子スペクトルと燃料反応度の関係を図5に示す。燃料集合体は、原則として冷温時から定格出力運転までの範囲において、中性子スペクトルが軟化すると反応度が増加する領域(減速材温度反応度係数が負になる領域)になるように設計している。これは、原子炉出力が増加して炉水温度が上昇したときに負の反応度が投入され、原子炉出力の増加を抑制する作用を期待しているためである。しかしながら、高燃焼度化燃料集合体は、想定したあらゆる条件において減速材温度反応度係数を負に設計することが難しくなっている。このため、炉水温度が低いときに燃焼度が大きくなった燃料集合体は、中性子スペクトルが軟化したときに反応度が減少する領域(減速材温度反応度係数が正の領域)に入り、過減速の状態になる可能性がある。このような場合でも、炉水温度が上昇し、水密度が減少して中性子スペクトルが硬化するに伴って減速材温度反応度係数が負側に移行し、通常150℃以上では減速材温度反応度係数は負になるように燃料集合体が設計されている。
【0023】
炉水の減速材温度反応度係数が正の燃料集合体は、中性子束が増加して発熱量が増えて炉水温度が上昇すると、正の反応度が印加され中性子束増加率が増加する。その結果として炉水温度変化率も増加する。前述した理由によって、運転員が放置しても中性子束の増加は自動的に停止する。しかしながら、中性子束の増加が停止するまでの期間では中性子束及び炉水温度は増加する。このため、減速材温度反応度係数が正になったときには、炉水温度変化率が温度変化率制限値を超えないように、制御棒を炉心に挿入して反応度を低減する必要がある。制御棒の操作方向を変えなければならない減速材温度反応度係数の負から正への変化(またはその逆の変化)が生じた場合には、この変化を運転員に迅速に勝つ正確に知らせる必要がある。炉水の減速材温度反応度係数が正であるか負であるかは起動前の分析である程度は予想できるが、実際に起動しないと確認できず、また減速材温度反応度係数が正から負に変わったことを確認する手段はなかった。
【0024】
本発明は、このようなニーズに対処するために成されたのである。
【0025】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉起動監視システムを、図1〜図3を用いて以下に説明する。本実施例の原子炉起動監視システムは、BWRに適用された一例である。
【0027】
BWRの原子炉1は、原子炉圧力容器2を備え、原子炉圧力容器2内に複数の燃料集合体(図示せず)が装荷された炉心3を配置している。これらの燃料集合体は、高燃焼度化された燃料集合体である。複数の中性子検出器12が炉心3内で燃料集合体間に配置されている。炉心3内で燃料集合体間に挿入される複数の制御棒4が設けられる。複数の制御棒駆動装置5がそれぞれの制御棒4に別々に連結される。各制御棒駆動装置5は、制御棒4を炉心3内に挿入し、及び制御棒4を炉心3から引き抜く操作を行う。制御棒駆動装置5は、水圧駆動の制御棒駆動装置である。制御棒駆動装置5として、ステップモータ(またはインダクションモータ)を用いた電動駆動の制御棒駆動装置を用いることも可能である。制御棒4の引抜き操作及び挿入操作により、燃料集合体に含まれる複数の燃料棒(図示せず)内の各燃料物質の核分裂反応が制御され、原子炉出力が調整される。各制御棒駆動装置5は、制御棒駆動制御装置10に接続される。制御棒位置検出器9が各制御棒駆動装置5にそれぞれ設置されている。これらの制御棒位置検出器9が制御棒駆動制御装置10に接続されている。
【0028】
定格出力での原子炉1の運転の概略を以下に説明する。原子炉圧力容器2内の冷却水は、再循環系配管6に流出し、再循環系配管6に設けられた再循環ポンプ(図示せず)により昇圧される。昇圧された冷却水は、再循環系配管6により、原子炉圧力容器2と炉心3との間に配置されたジェットポンプ(図示せず)のノズルに導かれ、このノズルから噴出される。ノズルから噴出された噴出流は、ノズル周囲に存在する冷却水をジェットポンプ内に吸引する。ジェットポンプから吐出された冷却水は、炉心3より下方に位置する下部プレナムを通って炉心3に供給される。炉心3を上昇する冷却水は、上記の核分裂反応により発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、炉心3の上方に配置された気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)によって水分が除去された後、主蒸気配管7を通ってタービン(図示せず)に導かれ、蒸気タービンを回転させる。蒸気タービンから排出された蒸気は、復水器(図示せず)で凝縮されて水となる。この水は、給水として給水配管8を通って原子炉圧力容器2内に供給される。
【0029】
制御棒駆動制御装置10は、該当する制御棒駆動装置5に制御棒操作指令(引抜き指令または挿入指令)を出力し、その制御棒駆動装置5に連結された制御棒4の操作(引抜き操作または挿入操作)を行う。制御棒4の炉心3内での挿入量情報(炉心3の軸方向における位置情報)は、制御棒位置検出器9によって検出され、制御棒駆動制御装置10に伝えられる。制御棒駆動制御装置10は、この情報に基づいて、指示通りに制御棒4が動作しているかを確認することができる。
【0030】
本実施例の原子炉起動監視システム21は、原子炉起動監視装置22、入力装置41、表示装置42及び音声出力装置43を備える。原子炉起動監視装置22は、演算処理装置33、減速材温度反応度係数判定装置23及び出力情報作成装置32を有する。演算処理装置33は、各中性子検出器12、再循環系配管6に設置された温度検出器14及び制御棒駆動制御装置10に接続される。温度検出器14は、再循環系配管6に流入する冷却水の温度を測定する。演算処理装置33は減速材温度反応度係数判定装置23及び出力情報作成装置32に接続され、減速材温度反応度係数判定装置23は出力情報作成装置32に接続される。
【0031】
減速材温度反応度係数判定装置23は、図2に示すように、減速材温度反応度係数判定器24,31を有する。減速材温度反応度係数判定器24は減速材温度反応度係数が正であるかを判定し、減速材温度反応度係数判定器31は減速材温度反応度係数が負であるかを判定する。減速材温度反応度係数判定器24は、制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期逆数判定部26、炉水温度変化率判定部28、減算器29A及びAND回路30を有する。原子炉周期逆数判定部26は減算器29Aに接続される。制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期逆数判定部26、炉水温度変化率判定部28及び減算器29AはAND回路30に接続される。制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期逆数判定部26、炉水温度変化率判定部28及び減算器29Aは、演算処理装置33に接続される。
【0032】
減速材温度反応度係数判定器31は、制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期逆数判定部26、炉水温度変化率判定部28、減算器29B及びAND回路30Aを有する。制御棒停止経過時間判定部25、炉水温度変化率判定部28及び減算器29BがAND回路30Aに接続されている。減速材温度反応度係数判定器31は、原子炉周期逆数判定部26がAND回路30Aに接続されていない点を除いて、減速材温度反応度係数判定器24と同じ構成を有する。減速材温度反応度係数判定器31の制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期逆数判定部26、炉水温度変化率判定部28及び減算器29Bが、演算処理装置33に接続される。
【0033】
出力情報作成装置32は、AND回路30,30A、入力装置41、表示装置42及び音声出力装置43にそれぞれ接続される。入力装置41は演算処理装置33にも接続される。出力情報作成装置32は、AND回路30,30Aの出力情報を基に、図3に示すステップ34〜39の処理を繰り返し実行し、減速材温度反応度係数に関する表示情報を作成する。
【0034】
原子炉起動監視システム21の入力装置41は、制御操作盤上に設けられたスイッチ(引き抜き開始スイッチ及び挿入開始スイッチを含む)及びキーボード、計算機タッチパネル等を備えている。制御操作盤の前に座っている運転員は、表示装置42に表示された制御棒操作順を示す情報に基づいて該当する制御棒4の引抜き操作を行う場合に、その制御棒4を選択して引き抜き開始スイッチ(図示せず)を押す。これによって、該当する制御棒4の炉心3からの引き抜き操作が開始される。運転員は、表示装置42に表示された中性子束レベル等の情報を監視しながら、適当と判断したタイミングで引き抜き開始スイッチを押して制御棒4の操作を行う。
【0035】
原子炉起動監視装置22は、上記した原子炉1の起動時において、運転員の制御棒操作と制御棒駆動制御装置10を仲介する役割を有する。すなわち、制御棒駆動制御装置10の記憶装置(図示せず)は、未臨界状態から原子炉出力が定格出力になるまでの原子炉1の起動時における制御棒操作のシーケンス情報(炉心3から引き抜く制御棒4の引抜き順序及び引抜き量を規定)を記憶している。制御棒駆動制御装置10は、その記憶装置から読み出したこのシーケンス情報を、原子炉起動監視装置22の演算処理装置33に出力する。そのシーケンス情報は、さらに、出力情報作成装置32に取り込まれ、表示装置42に表示される。具体的には、制御棒駆動制御装置10は、現在の引き抜き制御棒の炉心半径方向における位置情報、炉心軸方向におけるこの制御棒4の引き抜き量情報、次に引き抜き操作する制御棒4の炉心半径方向における位置情報及びこの制御棒4の引き抜き操作量情報を原子炉起動監視装置22の演算処理装置33に出力する。これらの4つの情報は、表示装置42に表示される。このとき、表示装置22上の、該当する制御棒4の引き抜き操作表示ランプが点灯される。入力装置41から入力された引抜き操作を行う制御棒4の位置情報等の関連情報は、上記したように演算処理装置33を介して制御棒駆動制御装置10に入力される。
【0036】
原子炉1の起動時において、炉心3から制御棒4を引き抜いて炉心3を未臨界状態から臨界状態にし、さらに制御棒4を引き抜いて原子炉1の昇温昇圧過程を経て原子炉出力を上昇させて原子炉出力を定格出力まで上昇させる。このような原子炉1の起動時における制御棒操作は、そのシーケンス情報に基づいて手動により行われる。すなわち、運転員は、上記したように表示装置42に表示された制御棒操作シーケンス情報に基づいて、入力装置41から引抜き操作を行う制御棒4の炉心3の半径方向における位置情報及び引抜き量の情報を演算処理装置33に、順次、入力する。制御棒駆動制御装置10は、演算処理装置33から入力したそれらの情報に基づいて、該当する位置の制御棒4に連結された制御棒駆動装置5に制御棒引抜き指令を出力する。この制御棒駆動装置5は、その制御棒4を該当する引抜き量だけ炉心3から引き抜く。入力装置41から指定された制御棒4の引抜き操作が、順次、行われる。ただし、一本の制御棒4の炉心3からの引抜き操作が完了した後でないと、次の制御棒4の引抜き操作は実施できない。
【0037】
制御棒操作シーケンス情報に基づいた、運転員による上記した制御棒4の引抜き操作によって、炉心3が未臨界状態から臨界状態になり、炉心3内の中性子束が増加されて原子炉圧力容器2内の冷却水の温度が上昇する。冷却水温度が定格温度(例えば、約280℃)まで上昇し、その後、原子炉出力も定格出力まで上昇される。
【0038】
各中性子検出器12によって計測されて出力された各中性子束信号13の時系列情報、及び温度検出器14によって計測されて出力された冷却水温度信号15の時系列情報が、原子炉起動監視装置22の演算処理装置33にそれぞれ入力される。BWRでは炉心内温度を直接測らない場合が多いため、本実施例では、温度検出器14で計測した、再循環系配管6内を流れる冷却水の温度を、炉心3内の冷却水温度(以下、炉心冷却水温度という)として代用する。
【0039】
原子炉1の起動時において、原子炉起動監視装置22の演算処理装置33は、入力した中性子束信号13の時系列情報に基づいて原子炉周期を算出し、算出された原子炉周期を用いて原子炉周期の逆数を算出する。演算処理装置33は、入力した炉心冷却水温度信号15の時系列情報を用いて炉水温度変化率を算出する。さらに、制御棒駆動制御装置10は、操作(例えば、制御棒4の引き抜き操作)が実行された制御棒4ごとに、制御棒操作終了時に、制御棒操作終了信号を演算処理装置33に出力する。制御棒操作終了信号は、制御棒位置検出器9で検出された制御棒位置が操作終了後の制御棒設定位置(例えば、引き抜き操作量情報に基づいて設定)に到達したときに、制御棒駆動制御装置10から出力される。演算処理装置33は、タイマーによって制御棒操作終了信号を入力した後の経過時間、すなわち、制御棒操作停止時点からの経過時間を計測する。演算処理装置33は、算出した原子炉周期逆数及び炉水温度変化率を、それぞれに上記タイマーで発生する時間情報を付与して原子炉起動監視装置22の記憶装置(図示せず)に記憶する。演算処理装置33は、求めた原子炉周期及び炉水温度変化率、及び入力した中性子束信号13及び冷却水温度信号15を出力情報作成装置32に出力する。出力情報作成装置32は、入力装置41を介した運転員の求めに応じて、中性子束レベル、原子炉周期、炉心冷却水温度及び炉水温度変化率情報を表示装置42に出力し、これらの情報を表示装置42に表示させる。
【0040】
原子炉周期は中性子束の増加率を表す指標であり、原子炉周期が短いほど中性子束増加率が大きい。原子炉周期は中性子束信号13を用いて演算することができる。原子周期の算出は、例えば特開2005-241384号公報(特許文献1)に記載されている方法を用いて行うことができる。本実施例は、そのようにして算出された原子炉周期の逆数を利用している。原子炉周期の逆数は、数値が大きいほど中性子束増加率が大きく、数値が負の場合には中性子束が減少することを表すため、中性子束の変化率を連続的に表現できる指標である。
【0041】
演算処理装置33は、制御棒操作停止後の経過時間情報、減速材温度反応度係数判定装置23が判定を行う時点、すなわち、現在の原子炉周期逆数、記憶装置から読み出された、制御棒操作停止時点からp秒が経過した時点での原子炉周期逆数、及び制御棒操作停止時点からq秒前の時点での炉水温度変化率を、減速材温度反応度係数判定装置23の減速材温度反応度係数判定器24,31にそれぞれ出力する。制御棒操作時点からまだp秒が経過していない時点での原子炉周期逆数には、以前の値がそのままセットされている。減速材温度反応度係数判定装置23は、未臨界状態を臨界状態にする、制御棒操作のシーケンス情報に基づいて制御棒の手動操作が実行され、原子炉圧力容器2内の冷却水(減速材)の温度が上昇すると、減速材温度反応度係数判定器24,31によって、減速材温度反応度係数の正負が判定できるようになる。
【0042】
減速材温度反応度係数判定器24,31の各制御棒停止経過時間判定部25は、制御棒操作停止後の経過時間情報を入力し、この経過時間情報が制御棒操作停止した時点からS秒(S>p)が経過したときに「1」を出力する。S秒が経過する前では、「0」が各制御棒停止経過時間判定部25から出力される。減速材温度反応度係数判定器24,31の各原子炉周期逆数判定部26は、入力した現在の原子炉周期逆数に基づいてこの原子炉周期逆数が「正」または「負」であるかを判定する。原子炉周期逆数判定部26は、その原子炉周期逆数が「正」である場合には「1」を、逆に「負」である場合には「0」を出力する。減算器29A,29Bは、現在の原子炉周期逆数(以下、第1原子炉周期逆数という)及び制御棒操作停止時点からp秒経過した時点の原子炉周期逆数(以下、第2原子炉周期逆数という)を入力し、第1原子炉周期逆数から第2原子炉周期逆数を引く演算を実行する。減速材温度反応度係数判定器24の減算器29Aは、その演算で得られた値が「正」であれば「1」を出力し、その値が「負」であれば「0」を出力する。この減算器29Aが「1」を出力するとき、炉心3は中性子束増加率が増加している状態になっている。減速材温度反応度係数判定器31の減算器29Bは、その演算で得られた値が「負」であれば「1」を出力し、その値が「正」であれば「0」を出力する。この減算器29Bが「1」を出力するとき、炉心3は中性子束増加率が減少している状態になっている。減速材温度反応度係数判定器24,31の各炉水温度変化率判定部28は、入力した、制御棒操作停止時点からq秒前の時点での炉水温度変化率が「正」である場合に「1」を、その変化率が「負」である場合に「0」を出力する。
【0043】
減速材温度反応度係数判定器24のAND回路30は、制御棒停止経過時間判定部25から「1」(S秒経過)、原子炉周期逆数判定部26から「1」(「正」)、炉水温度変化率判定部28から「1」(「正」)、及び減算器29Aから「1」(「正」)を入力したとき、減速材温度反応度係数が「正」である条件が成立したことを示す「減速材温度反応度係数正」の情報を意味する「1」を出力する。減速材温度反応度係数判定器31のAND回路30Aは、制御棒停止経過時間判定部25、から「1」(S秒経過)、炉水温度変化率判定部28から「1」(「正」)、及び減算器29Bから「1」(「負」)を入力したとき、減速材温度反応度係数が「負」である条件が成立したことを示す「減速材温度反応度係数負」の情報を意味する「1」を出力する。
【0044】
上記したS秒及びp秒は、制御棒操作停止直後における過渡応答の影響を排除するために設定している。S秒の設定値は例えば120秒、p秒の設定値は例えば60秒とする。q秒は炉心中性子束測定値に対する炉水温度測定値の時間遅れを補償するもので、q秒の設定値は例えば120秒とする。減速材温度反応度係数が問題となる昇温昇圧過程の初期においては、制御棒シーケンス情報に基づいて操作される各制御棒の操作時間の間隔が通常2分以上であるため、この程度の遅れ時間の設定が適切である。減速材温度反応度係数判定器31で用いるS秒、p秒及びq秒の各値は、減速材温度反応度係数判定器24で用いるそれらの値と同じであるが、異なる値を用いることも可能である。
【0045】
なお、減速材温度反応度係数判定器24,31は、図2に示す以外の構成を用いることも可能である。例えば、減速材温度反応度係数判定器24,31の機能をプログラム化することである。減速材温度反応度係数判定装置23は、減速材温度反応度係数判定器24,31を用いないでそのプログラムを組み込み、減速材温度反応度係数の判定を行うことが可能である。
【0046】
減速材温度反応度係数判定装置23は、AND回路30,30Aの出力を出力情報作成装置32に出力する。ただし、AND回路30及びAND回路30Aから同時に減速材温度反応度係数正の情報及び減速材温度反応度係数負の情報は出力されない。出力情報作成装置32における出力情報の作成を、図3に示すステップ34〜40の処理手順に基づいて具体的に説明する。減速材温度反応度係数の正負を示すフラグは、「負」が初期設定されている(ステップ40)。このため、出力情報作成装置32は、「減速材温度反応度係数負」の表示情報を作成し(ステップ34)、この表示情報を表示装置42に出力する。表示装置42は減速材温度反応度係数負の情報を表示する。減速材温度反応度係数正の情報がAND回路30から入力されたとき(ステップ35)、第1音声情報、例えば「減速材温度反応度係数が正です。制御棒の挿入操作が必要です。」というガイダンスである音声情報が音声出力装置(例えばスピーカー)43に出力される(ステップ36)。減速材温度反応度係数正の表示情報が作成される(ステップ37)。この表示情報が表示装置42に出力されて表示される。この表示情報は、上記の第1音声情報を文字列化したものであってもよい。減速材温度反応度係数負の情報がAND回路30Aから入力されたとき(ステップ38)、第2音声情報、例えば「減速材温度反応度係数が負になりました。制御棒引き抜き操作が開始できます。」というガイダンスである音声情報が音声出力装置43に出力される(ステップ39)。減速材温度反応度係数負の表示情報が作成される(ステップ34)。この表示情報が表示装置42に出力されて表示される。ステップ34で作成された表示情報は、上記の第2音声情報を文字列化したものであってもよい。運転員は、表示装置42を見ることによって、減速材温度反応度係数が正であるか負であるかを知ることができる。第1及び第2音声情報が音声出力装置43から出力されるので、音声によって運転員に注意を喚起することが可能である。出力情報作成装置32は、原子炉の起動時において、減速材温度反応度係数正の情報を入力したときにはステップ36,37の処理を実行し、減速材温度反応度係数負の情報を入力したときにはステップ39,34の処理を実行する。
【0047】
減速材温度反応度係数判定装置23の出力、すなわち、AND回路30,30Aの出力が、演算処理装置33を介して制御棒駆動制御装置10に入力される。制御棒駆動制御装置10は、原子炉起動監視装置22から減速材温度反応度係数正の情報を入力した場合には、挿入操作を行う制御棒4の、前述した、炉心3での半径方向における位置情報及び挿入量情報を、原子炉起動監視装置22、具体的には演算処理装置33に出力する。それらの情報は、出力情報作成装置32を介して表示装置42に出力され表示される。また、挿入操作表示ランプが点灯される。運転員は、表示装置42に表示された、挿入操作を行うべき制御棒4の挿入操作を行う場合には、前述の挿入開始スイッチ(図示せず)を押す。これによって、所定の制御棒4が炉心3内に挿入される。運転員は、表示装置42に表示された中性子束レベル、原子炉周期及び炉水温度変化率情報を監視しながら、適当と判断したタイミングで挿入開始スイッチを押す。
【0048】
この制御棒4の挿入によって減速材温度反応度係数が負になった場合には、制御棒駆動制御装置10は、原子炉起動監視装置22から減速材温度反応度係数負の情報を入力する。制御棒駆動制御装置10は、次に引き抜き操作を行うべき制御棒4の、炉心3での半径方向における位置情報及び挿入量情報を記憶装置から読み出して、演算処理装置33に出力する。これらの情報は、表示装置42に表示される。運転員は、これらの情報に基づいて前述したように制御棒4の引き抜き操作を実行する。
【0049】
本実施例は、減速材温度反応度係数判定装置23によって、原子炉1の起動時、具体的には、未臨界状態を臨界状態にするとき、及び昇温昇圧過程のときにおける減速材温度反応度係数の正負を判定する。この判定の結果に基づいて、減速材温度反応度係数正の情報または減速材温度反応度係数負の情報が、表示装置42及び音声出力装置43によって運転員に告知することができる。このため、減速材温度反応度係数が負から正に変わったとき、運転員は、その変化を確実に知ることができる。運転員は、減速材温度反応度係数が正になったときに、手動操作により、炉心3への制御棒4の挿入操作を確実に行うことができる。この挿入操作により炉水温度変化率が低減されるので、昇温昇圧過程等の原子炉1の起動時において、炉水温度変化率が制限値を超えることを防止することができる。
【0050】
制御棒駆動制御装置10は、減速材温度反応度係数判定装置23から減速材温度反応度係数正の情報を入力したとき、挿入操作を行う次の制御棒4の、炉心3の半径方向での位置情報及び挿入量情報を原子炉起動時監視装置22に出力する。原子炉起動監視装置22は、これらの情報を表示装置42に表示させる。したがって、運転員は、制御棒4の挿入操作をすべきであるということだけでなく、挿入操作を行うべき制御棒4及び挿入量も知ることができる。運転員は、減速材温度反応度係数が正になったときに挿入操作を行うべき制御棒4を所定の挿入量だけ適切に炉心3に挿入することができる。
【0051】
減速材温度反応度係数が正から負に変わったときも、運転員は、同様にその変化を確実に知ることができる。運転員は、減速材温度反応度係数が負になったときに、制御棒4の引抜き操作を確実に行うことができる。この際、原子炉起動監視装置22は、制御棒駆動制御装置10から引抜き操作を行う次の制御棒4の、炉心3の半径方向での位置情報及び引抜き量情報を入力して、表示装置42に表示させる。運転員は、表示装置42に表示されたこれらの情報を見ることによって、減速材温度反応度係数が負になったときに手動操作により所定の制御棒4を所定の引き抜き量だけ適切に引き抜くことができる。
【0052】
本実施例は、減速材温度反応度係数が正になったとき、表示装置42に表示すると共に、音声出力装置43から音声により告知するので、運転員は、減速材温度反応度係数が正であることを確実に知ることができる。減速材温度反応度係数が負になったときも、表示装置42及び音声出力装置43を用いて、減速材温度反応度係数が負になったことを運転員に知らせるので、運転員は確実にその状態を知ることができる。
【0053】
本実施例は、減速材温度反応度係数に関する適切な情報を運転員に提供することができる。このため、運転員の、原子力プラントを監視する際の負担を軽減することができる。
【0054】
本実施例は、ロジック構成が単純な減速材温度反応度係数判定器24,31をそれぞれ用いている。このため、原子炉起動監視装置22の構成が単純化される。本実施例は、構成が単純であるため、新設の原子力プラントだけでなく、既設の原子力プラントにも容易に適用することができる。
【0055】
表示装置42及び音声出力装置43は、いずれか一方を用いることも可能である。
【実施例2】
【0056】
本発明の他の実施例である実施例2の原子炉起動監視システムを、図6を用いて説明する。本実施例の原子炉起動監視システム21Aは、実施例1の原子炉起動監視システム21に炉心監視用計算機システム45を付加した構成を有する。炉心監視用計算機システム45は、中性子検出器12、温度検出器14、演算処理装置33及び制御棒駆動制御装置10にそれぞれ接続される。炉心監視用計算機システム45は、各中性子検出器12から出力された中性子束信号13及び温度検出器14から出力された冷却水温度信号15を入力する。炉心監視用計算機システム45は、これらの入力情報を用いて原子炉周期及び炉水温度変化率を算出する。さらに、炉心監視用計算機システム45は、算出された原子炉周期に基づいて原子炉周期逆数を求める。算出された原子炉周期逆数及び炉水温度変化率は、炉心監視用計算機システム45から演算処理装置33に入力される。炉心監視用計算機システム45は、実施例1における演算処理装置33で実行していた原子炉周期逆数及び炉水温度変化率の算出を行う。換言すれば、本実施例における原子炉起動監視装置22は、実施例1における原子炉起動監視装置22と、原子炉周期逆数及び炉水温度変化率を算出していない点で相違しているだけである。
【0057】
本実施例における原子炉起動監視装置22は、原子炉周期逆数及び炉水温度変化率を入力することによって、実施例1における原子炉起動監視装置22と同様に機能して、減速材温度反応度係数を判定する。本実施例においても、減速材温度反応度係数正の情報または減速材温度反応度係数負の情報が原子炉起動監視装置22から出力されて、表示装置42に表示される。さらに、第1音声情報または第2音声情報が音声出力装置43から出力される。
【0058】
本実施例も、実施例1で生じる効果を得ることができる。炉心監視用計算機システム45は、既存のBWRにも設置されており、中性子束信号13及び冷却水温度信号15が入力され、原子炉周期及び炉水温度変化率を算出している。本実施例は、その炉心監視用計算機システム45を利用しているので、原子炉起動監視装置22のシステム構成を実施例1におけるそのシステム構成よりも単純化することができる。
【実施例3】
【0059】
本発明の他の実施例である実施例3の原子炉起動監視システムを、図7を用いて説明する。本実施例の原子炉起動監視システム21Bは、実施例1の原子炉起動監視システム21において減速材温度反応度係数判定器24,31を含む減速材温度反応度係数判定装置23を減速材温度反応度係数判定器24B,31Bを含む減速材温度反応度係数判定装置23に替えた構成を有し、これら以外は実施例1の原子炉起動監視システム21と同じ構成を有する。実施例1における減速材温度反応度係数判定器24,31が原子炉周期逆数を指標として中性子束の増加率を評価するのに対し、本実施例における減速材温度反応度係数判定器24B,31Bは原子炉周期を指標としてそれを評価する。
【0060】
減速材温度反応度係数判定器24Bは、制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期判定部26B、炉水温度変化率判定部28、減算器46A及びAND回路30を有する。原子炉周期判定部26Bは減算器46Aに接続される。制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期判定部26B、炉水温度変化率判定部28及び減算器46AはAND回路30に接続される。制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期判定部26B、炉水温度変化率判定部28及び減算器46Aは、演算処理装置33に接続される。
【0061】
減速材温度反応度係数判定器31Bは、制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期判定部26B、炉水温度変化率判定部28、減算器46B及びAND回路30Aを有する。制御棒停止経過時間判定部25、炉水温度変化率判定部28及び減算器46BがAND回路30Aに接続されている。減速材温度反応度係数判定器31Bは、原子炉周期判定部26BがAND回路30Aに接続されていない点を除いて、減速材温度反応度係数判定器24Bと同じ構成を有する。減速材温度反応度係数判定器31Bの制御棒停止経過時間判定部25、原子炉周期判定部26B、炉水温度変化率判定部28及び減算器46Bが、演算処理装置33に接続される。
【0062】
本実施例における演算処理装置33は、制御棒操作停止後の経過時間情報、減速材温度反応度係数判定装置23が判定を行う時点、すなわち、現在の原子炉周期、記憶装置から読み出された、制御棒操作停止時点からp秒が経過した時点での原子炉周期、及び制御棒操作停止時点からq秒前の時点での炉水温度変化率を、減速材温度反応度係数判定装置23の減速材温度反応度係数判定器24B,31Bにそれぞれ出力する。
【0063】
減速材温度反応度係数判定器24B,31Bのそれぞれの制御棒停止経過時間判定部25及び炉水温度変化率判定部28は、減速材温度反応度係数判定器24,31のそれらと同様な判定を行う。減速材温度反応度係数判定器24B,31Bの各原子炉周期判定部26Bは、入力した現在の原子炉周期に基づいてこの原子炉周期が「正」または「負」であるかを判定する。原子炉周期判定部26Bは、その原子炉周期が「正」である場合には「1」を、逆に「負」である場合には「0」を出力する。
【0064】
減速材温度反応度係数判定器24Bの減算器46A及び減速材温度反応度係数判定器31Bの減算器46Bは、現在の原子炉周期(以下、第1原子炉周期という)及び制御棒操作停止時点からp秒経過した時点の原子炉周期(以下、第2原子炉周期逆数という)を入力し、第2原子炉周期から第1原子炉周期を引く演算を実行する。減算器46Aは、その演算で得られた値が「負」であれば「1」を出力し、その値が「正」であれば「0」を出力する。減算器46Aが「1」を出力するとき、炉心3は中性子束増加率が増加している状態になっている。減算器46Bは、その演算で得られた値が「正」であれば「1」を出力し、その値が「負」であれば「0」を出力する。この減算器46Bが「1」を出力するとき、炉心3は中性子束増加率が減少している状態になっている。
【0065】
減速材温度反応度係数判定器24BのAND回路30は、制御棒停止経過時間判定部25から「1」(S秒経過)、原子炉周期判定部26Bから「1」(「正」)、炉水温度変化率判定部28から「1」(「正」)、及び減算器46Aから「1」(「負」)を入力したとき、減速材温度反応度係数が「正」である条件が成立したことを示す「減速材温度反応度係数正」の情報を意味する「1」を出力する。減速材温度反応度係数判定器31BのAND回路30Aは、制御棒停止経過時間判定部25から「1」(S秒経過)、炉水温度変化率判定部28から「1」(「正」)、及び減算器46Bから「1」(「正」)を入力したとき、減速材温度反応度係数が「負」である条件が成立したことを示す「減速材温度反応度係数負」の情報を意味する「1」を出力する。また、本実施例では原子炉周期を判定に利用しているが、中性子束を演算して算出した原子炉周期の代わりに中性子束をそのまま用いて中性子束の増加率を評価し、中性子増加率が増大していることを減速材温度反応度係数正」、中性子増加率が減少していることを減速材温度反応度係数負」の判定情報の一部として利用することも可能である。
【0066】
出力情報作成装置32は、AND回路30,30Aのそれぞれからの出力を入力し、実施例1と同様に図3に示すステップ34〜40の処理手順に基づいて出力情報(表示情報及び音声情報)を作成する。表示情報は表示装置42に表示され、音声情報は音声出力装置43から出力される。
【0067】
減速材温度反応度係数判定器24B,31Bを含む原子炉起動監視システム21Bも、原子炉の起動時において、運転員の制御棒操作と制御棒駆動制御装置10を仲介する役割を有する。本実施例においても、原子炉の起動時において、実施例1と同様な制御棒操作を行うことができる。本実施例は、実施例1で生じる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉起動監視システムの構成図である。
【図2】図1に示す減速材温度反応度係数判定装置の詳細構成図である。
【図3】図1に示す出力情報作成装置の詳細構成図である。
【図4】減速材温度と減速材温度反応度係数の関係を示す特性図である。
【図5】中性子スペクトルと燃料反応度の関係を示す特性図である。
【図6】本発明の他の実施例である実施例2の原子炉起動監視システムの構成図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例3の原子炉起動監視システムに用いられる減速材温度反応度係数判定装置の構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1…原子炉、2…原子炉圧力容器、3…炉心、4…制御棒、5…制御棒駆動装置、9…制御棒位置検出器、10…制御棒駆動制御装置、12…中性子検出器、14…温度検出器、21,21A,21B…原子炉起動監視システム、22…原子炉起動監視装置、23…減速材温度反応度係数判定装置、24,24B,31,31B…減速材温度反応度係数判定器、25…制御棒停止経過時間判定部、26…原子炉周期逆数判定部、26B…原子炉周期判定部、28…炉水温度変化率判定部、29…減算器、30,30A…AND回路、32…出力情報作成装置、33…演算処理装置、42…表示装置、43…音声出力装置、45…炉心性能監視装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子検出器で計測された中性子束、及び温度計により計測された炉水温度に基づいて減速材温度反応度係数が正であることを判定する判定手段と、前記判定手段で前記減速材温度反応度係数が正であると判定されたときに減速材温度反応度係数が正であることを示す第1出力情報を作成する出力情報作成手段と、前記第1出力情報を入力する表示装置及び音声出力装置の少なくとも一つとを備えたことを特徴とする原子炉起動監視システム。
【請求項2】
中性子検出器で計測された中性子束、及び温度計により計測された炉水温度に基づいて減速材温度反応度係数の正負を判定する判定手段と、前記判定手段で前記減速材温度反応度係数が正であると判定されたときに減速材温度反応度係数が正であることを示す第1出力情報を作成し、前記判定手段で前記減速材温度反応度係数が負であると判定されたときに減速材温度反応度係数が負であることを示す第2出力情報を作成する出力情報作成手段と、前記第1出力情報及び前記第2出力情報を入力する表示装置及び音声出力装置の少なくとも一つとを備えたことを特徴とする原子炉起動監視システム。
【請求項3】
前記第1出力情報が制御棒の挿入情報を含んでいる請求項1または請求項2に記載の原子炉起動監視システム。
【請求項4】
前記第2出力情報が制御棒の引抜き情報を含んでいる請求項2に記載の原子炉起動監視システム。
【請求項5】
前記判定手段は、制御棒操作停止時点から設定時間が経過したとき、前記中性子束に基づいて算出された原子炉周期または原子炉周期逆数、及び前記炉水温度に基づいて算出された炉水温度変化率に基づいて、前記減速材温度反応度係数が正であることを判定する請求項1または請求項2に記載の原子炉起動監視システム。
【請求項6】
前記判定手段は、制御棒操作停止時点から設定時間が経過したとき、前記中性子束に基づいて算出された原子炉周期または原子炉周期逆数、及び前記炉水温度に基づいて算出された炉水温度変化率に基づいて、前記減速材温度反応度係数が負であることを判定する請求項2に記載の原子炉起動監視システム。
【請求項7】
前記判定手段は、制御棒操作停止時点から第1設定時間が経過したとき、前記中性子束に基づいて算出された第1原子炉周期または第1原子炉周期逆数、前記炉水温度に基づいて算出された炉水温度変化率、及び前記制御棒操作停止時点から前記第1設定時間よりも短い第2設定時間経過した時点での第2原子炉周期から、前記第1原子炉周期を減算して得られた正の値、及び前記第1原子炉周期逆数から、第2設定時間経過した時点での第2原子炉周期逆数を減算して得られた正の値のいずれかの正の値に基づいて、前記減速材温度反応度係数が正であることを判定する請求項1または請求項2に記載の原子炉起動監視システム。
【請求項8】
前記判定手段は、制御棒操作停止時点から第1設定時間が経過したとき、前記中性子束に基づいて算出された第1原子炉周期または第1原子炉周期逆数、前記炉水温度に基づいて算出された炉水温度変化率、及び前記第1原子炉周期から、前記制御棒操作停止時点から前記第1設定時間よりも短い第2設定時間経過した時点での第2原子炉周期を減算して得られた負の値、及び前記第1原子炉周期逆数から、第2設定時間経過した時点での第2原子炉周期逆数を減算して得られた負の値のいずれかの負の値に基づいて、前記減速材温度反応度係数が正であることを判定する請求項2に記載の原子炉起動監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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