説明

原料粉末の製造方法

【課題】 本発明の目的は、臨界電流(Ic)等の超電導特性を向上させた超電導体を得るのに特に適する原料粉末の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、Bi2223相を含む超電導体の原料粉末の製造方法であって、上記原料粉末の前駆体は、Bi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相を含み、また上記製造方法は、第1熱処理工程と第2熱処理工程とを含み、そして上記第1熱処理工程は、0.01〜500Paの減圧下において上記原料粉末の前駆体を少なくとも0.1時間、400〜680℃の温度に保持する工程であり、上記第2熱処理工程は、大気圧下において上記第1熱処理工程を経た上記原料粉末の前駆体を少なくとも3時間、760〜820℃の温度に保持する工程であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi2223相を含む超電導体の原料粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、Bi2223相を含む超電導体をそのフィラメント部とし、そのフィラメント部をシース部で被覆してなる超電導線材が知られている。このような超電導線材の製造方法として、超電導体の原料粉末を金属管に充填した後、伸線加工や圧延加工を金属管に施すことによって得られた線材を焼結処理することにより、超電導体の原料粉末を焼結し、酸化物超電導線材を得る方法が知られている(たとえば特許文献1〜3)。
【0003】
これらの方法においては、臨界電流(Ic)等の超電導特性を向上させることを目的として、超電導体の原料粉末の組成を調整したり(特許文献2)、前処理を行なったり(特許文献1)、熱処理の条件を調節したりして(特許文献3)超電導線材が製造されていた。
【0004】
しかしながら、このような方法によって得られた超電導線材は、ある程度の臨界電流(Ic)の向上を達成できるものの、超電導線材の用途の拡大等によりさらに臨界電流(Ic)の向上が求められていた。
【特許文献1】特許第2567505号公報
【特許文献2】特許第3074753号公報
【特許文献3】特開2003−203532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、臨界電流(Ic)等の超電導特性を向上させた超電導体を得るのに特に適する原料粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、Bi2223相を含む超電導体の超電導特性を向上させるためには、超電導体自体の製造時の条件を制御するよりもその超電導体の原料粉末の製造時の条件を制御する方が効果的であるとの知見を得、この知見に基づきさらに検討を重ねることによりついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、Bi2223相を含む超電導体の原料粉末の製造方法であって、上記原料粉末の前駆体は、Bi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相を含み、また上記製造方法は、第1熱処理工程と第2熱処理工程とを含み、そして上記第1熱処理工程は、0.01〜500Paの減圧下において上記原料粉末の前駆体を少なくとも0.1時間、400〜680℃の温度に保持する工程であり、上記第2熱処理工程は、大気圧下において上記第1熱処理工程を経た上記原料粉末の前駆体を少なくとも3時間、760〜820℃の温度に保持する工程であることを特徴とする、原料粉末の製造方法に係るものである。
【0008】
ここで、本発明におけるBi2223相とは、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表されるBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導相のことである。より具体的には、(Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu310+Zという化学式で示されるものが含まれる。なお、式中zは、酸素含有量を示し、zが変化することで臨界温度(Tc)や臨界電流(Ic)が変化することが知られている。
【0009】
また、Bi2201相とは、ビスマスとストロンチウムと銅と酸素とを含み(0という数字が含まれているのは上記のBi2223相と比較すれば明らかなように構成元素としてカルシウムを実質的に含んでいないことを示す)、その原子比(酸素を除く)としてビスマス:ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:0:1と近似して表される酸化物相のことである。より具体的には、Bi2Sr2Cu16+Zという化学式で示されるものが含まれる。なお、式中zは、上記同様酸素含有量を示す。
【0010】
また、(Bi)Pb3221相とは、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が3:2:2:1と近似して表されるBi(ただし鉛リッチ)−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物相のことである。より具体的には、(Bi)Pb3Sr2Ca2Cu1Xという化学式で示されるものが含まれる。なお、式中xは、酸素含有量を示す。また、CuO相とは、酸化銅相のことである。
【0011】
なお、本発明において、Bi2223相、Bi2201相、(Bi)Pb3221相、CuO相、および後述のBi2212相等の存在は、X線回折やSQUID(超電導量子干渉素子)磁束計による測定により確認することができる。
【0012】
一方、上記原料粉末の前駆体は、BiとPbとを含み、BiとPbとの組成比がPb/(Bi+Pb)で示される原子比として0.14以上0.2以下とすることが好ましい。また、上記原料粉末の前駆体は、Bi2201相を主相とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の超電導線材は、フィラメント部とそれを被覆するシース部とを有する超電導線材であって、上記フィラメント部は、上記の原料粉末の製造方法によって製造された原料粉末を用いて製造される超電導体により構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記構成を有する製造方法により得られる原料粉末から製造される超電導体は、高い臨界電流(Ic)を示し、優れた超電導特性が示される。このため、このようにして製造される超電導体をフィラメント部に有する超電導線材は、高い臨界電流(Ic)を示し、優れた超電導特性が示されるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<原料粉末の製造方法>
本発明の原料粉末の製造方法は、Bi2223相を含む超電導体の原料粉末の製造方法であり、後述の第1熱処理工程と第2熱処理工程とを含む。
【0016】
<Bi2223相を含む超電導体>
Bi2223相を含む超電導体とは、超電導体の超電導相としてBi2223相を含むものであり、好ましくはそのような超電導相の主相がBi2223相となるものである。なお主相とは、超電導相の中で最大の体積%を占める相をいう。このようなBi2223相を含む超電導体は、通常本発明の製造方法に従う原料粉末を焼結することにより製造することができる。
【0017】
ここで、上記のようなBi2223相は、結晶軸c軸よりもa軸、b軸方向に結晶の成長が非常に早いという特性を有するため、薄い板状結晶で構成されab面が揃った配向組織を有しやすいという特徴を有している。
【0018】
なお、上述の通り、超電導相の主相はBi2223相であるが、微量の他の成分が含まれていても良い。このような他の成分としては、たとえば、Bi2212相等を挙げることができる。Bi2212相とは、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:1:2と近似して表されるBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導相のことである((Bi,Pb)2212相と記すこともある)。より具体的には、(BiPb)2Sr2Ca1Cu28+Zという化学式で示されるものが含まれる。なお、式中zは、酸素含有量を示し、zが変化することで臨界温度(Tc)や臨界電流(Ic)が変化することが知られている。
【0019】
このような他の成分は、超電導相を流れる超電導電流を減少させるため、その存在量は僅少であればある程好ましく、以って超電導相としてはBi2223相の単相化が望まれる。
【0020】
すなわち、Bi2223相を含む超電導体は、高い臨界電流(Ic)を有するためには、Bi2223相が主相として(より好ましくは単相として)存在することが好ましく、さらにBi2223相の結晶が分厚くかつ大きく、しかも配向性良く成長することが好ましい。本発明の製造方法に従った原料粉末から製造されるBi2223相を含む超電導体は、この超電導体自体の製造方法にもよるが、95A、より好ましくは100A以上の臨界電流(Ic)を有したものとなる。
【0021】
<原料粉末およびその前駆体>
本発明の原料粉末の前駆体は、Bi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相を含む。すなわち、本発明の原料粉末は、該前駆体に対して後述の第1熱処理工程および第2熱処理工程を実行することにより製造されるものである。
【0022】
このような原料粉末の前駆体は、上記のBi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相を含む限り、他の成分を含んでいても差し支えない。通常このような原料粉末の前駆体は、Bi23、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOの各粉末を混合し、必要により焼結、粉砕して得られるものである。また、このような原料粉末の前駆体は、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、および銅の各イオンを含む溶液を高温雰囲気に噴射することにより溶媒を除去して得られるものであっても差し支えない。
【0023】
このような原料粉末の前駆体は、BiとPbとを含み、BiとPbとの組成比がPb/(Bi+Pb)で示される原子比として0.14以上0.2以下とすることが好ましい。その理由は、超電導体であるBi2223相を生成するためには、この原料粉末を焼結させ、Bi2212相にPbが入り込んだ(Bi,Pb)2212相を生成させる必要があり、これを生成させるためには上記原子比が0.14以上0.2以下となることが最適であるためである。
【0024】
このため、その原子比が0.14未満の場合、Pbが少ないために(Bi,Pb)2212相が生成されにくく、延いてはBi2223相が生成されにくくなり、その原子比が0.2を超えると、Pbが多いためBi2223相は生成されやすいものの、逆に非超電導相であるPb化合物が超電導相に残存し超電導特性を害することになる。
【0025】
なお、このようなBiとPbの原子比は、ICP発光分光分析装置にて定量分析することにより測定することができる。
【0026】
また、上記原料粉末の前駆体は、Bi2201相を主相とすることが好ましい。このようにBi2201相を主相とすることにより、超電導体であるBi2223相を生成するのに有利となる。
【0027】
<第1熱処理工程>
上記第1熱処理工程は、0.01〜500Paの減圧下において上記原料粉末の前駆体を少なくとも0.1時間、400〜680℃の温度に保持する工程である。この工程を経ることにより、原料粉末の前駆体中の(Bi)Pb3221相は分解し、Bi2201相とCa2PbO4とを生成すると考えられる。
【0028】
上記のように、超電導体であるBi2223相は、原料粉末の焼結時にBi2212相に対してPbが混入することによって生成するものと考えられる。したがって、上記のような原料粉末の前駆体から最終的に製造される原料粉末はBi2212相を高収率で含有することが好ましい。原料粉末がこのようにBi2212相を高濃度で含有することにより、結果的にBi2223相を単相として生成することになり、これにより超電導特性に優れた超電導体が得られることになる。
【0029】
また、このようなBi2223相は、原料粉末のBi2212相にPbとともにCaが供給されることにより生成すると考えられるが、その生成効率はCa源となるCa2PbO4がほぼ単独で存在する場合に最大となることが本発明者の研究により明らかとなっている。すなわち、同様のCa源である(Bi)Pb3221相を完全に分解し、Ca2PbO4を高収率で生成することが、結果的にBi2223相を最も高収率で生成することになる。これに対し(Bi)Pb3221相の分解が不十分であり、Ca源として(Bi)Pb3221相とCa2PbO4とが共存するとBi2223相の収率は低減することになる。
【0030】
本発明の上記第1熱処理工程を実行することにより、(Bi)Pb3221相の分解を促進し、高収率でCa2PbO4を得ることができるという特段の効果が示される。
【0031】
ここで、上記減圧条件が500Paを超えると、(Bi)Pb3221相がほとんど分解されず、高収率でCa2PbO4を得ることができなくなる。また、0.01Pa未満としてもCa2PbO4の生成効率に大差なく、却って製造設備が高価となり経済的に不利となる。このような減圧条件としてより好ましくは、その上限が300Pa、さらに好ましくは100Pa、その下限が1Pa、さらに好ましくは10Paである。
【0032】
また、上記保持温度が680℃を超えるとCuO相の凝集が生じ、このようなCuOの凝集相は原料粉末を焼結して超電導相を生成した後においても残存し、超電導特性を低減することになるため好ましくない。また、400℃未満の場合は、高収率でCa2PbO4を得ることができなくなる。このような保持温度としてより好ましくは、その上限が660℃、さらに好ましくは650℃、その下限が500℃、さらに好ましくは550℃である。
【0033】
また、上記保持時間は、少なくとも0.1時間となる限り、特に上限を規定する必要はなく、製造コストを考慮して決定することができる。また、0.1時間未満では、高収率でCa2PbO4を得ることができなくなる。
【0034】
なお、上記保持時間において、上記保持温度は必ずしも一定である必要はなく、たとえば400℃を超える保持温度まで室温より徐々に昇温させていき、その昇温段階において400℃を超える温度に延べ少なくとも0.1時間以上保持されているような場合も含まれるものとする。
【0035】
<第2熱処理工程>
上記第2熱処理工程は、大気圧下において上記第1熱処理工程を経た上記原料粉末の前駆体を少なくとも3時間、760〜820℃の温度に保持する工程である。この工程を経ることにより、さらに原料粉末の前駆体中の(Bi)Pb3221相の分解が促進され、Ca2PbO4を高収率で得ることができるとともに、Bi2212相を主相とする原料粉末が得られる。
【0036】
上記第1熱処理工程を経た上記原料粉末の前駆体は、一旦降温させることなく上記第1熱処理工程に続けてこの第2熱処理工程を実行することが好ましい。一旦降温させた後再昇温することによる構成相の変化はなく、単に熱処理時間が長くなり経済的に不利となるためである。
【0037】
ここで、上記保持温度が820℃を超えるとBi2223相が生成することになる。このように原料粉末中にBi2223相が生成すると、後に原料粉末を焼結して超電導体を製造する際において、このBi2223相が存在することにより、逆にBi2223相の結晶化が阻害され、Bi2223相を分厚く大きな結晶に成長させることができなくなる。Bi2223相の結晶が分厚く大きくなればなる程、高い臨界電流(Ic)が得られることから、このように原料粉末中にBi2223相が生成することは好ましくない。
【0038】
また、760℃未満の場合は、高収率でBi2212相を得ることができなくなる。したがって、このような保持温度としてより好ましくは、その上限が815℃、さらに好ましくは810℃、その下限が770℃、さらに好ましくは780℃である。
【0039】
また、上記保持時間は、少なくとも3時間となる限り、特に上限を規定する必要はなく、製造コストを考慮して決定することができる。また、3時間未満では、高収率でBi2212相を得ることができなくなる。
【0040】
なお、上記保持時間の間、圧力は大気圧とすればよく、上記第1熱処理工程のように減圧にする必要はない。逆に減圧条件とすると、CuO相の凝集が生じ、このようなCuOの凝集相は原料粉末を焼結して超電導相を生成した後においても残存し、超電導特性を低減することになるため好ましくない。
【0041】
このようにして、本発明の原料粉末は、上記の第1熱処理工程と第2熱処理工程とを経ることにより、Bi2212相を主相として含み、他にCa源としてCa2PbO4を含むが実質的に(Bi)Pb3221相は含有しない構成のものとして製造される。
【0042】
<超電導線材>
本発明の超電導線材は、フィラメント部とそれを被覆するシース部とを有する超電導線材であって、上記フィラメント部は、上記の原料粉末の製造方法によって製造された原料粉末を用いて製造される超電導体により構成されるものである。
【0043】
このような超電導線材は通常、充填工程、伸線工程、圧延工程および焼結工程等を経ることにより製造される。この充填工程、伸線工程、圧延工程および焼結工程の4工程は、この順で実行されることが好ましい。
【0044】
そして上記充填工程において、上記の製造方法により製造された原料粉末を、シース部を構成することになる金属管に充填し、伸線工程、圧延工程を経た後、焼結工程により、この原料粉末が焼結されBi2223相を含む超電導体が生成し、超電導線材が形成されることになる。
【0045】
このようにして得られる超電導線材は、高い臨界電流(Ic)を示すため、たとえば、ケーブル、マグネット、変圧器、電流リード、電力貯蔵装置等の用途に利用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
まず、Bi23、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOの各粉末を5.38:1.00:3.74:2.69:3.24の割合(質量比)で混合したものを、加熱溶融後粉砕することにより原料粉末の前駆体を得た。この原料粉末の前駆体をX線回折にて測定することにより、Bi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相が含まれていることを確認した。また、この原料粉末の前駆体のPb/(Bi+Pb)で示される原子比は、0.16であった。
【0048】
次いで、この原料粉末の前駆体を100Paの減圧下において室温(20℃)から600℃まで3時間かけて昇温させる(昇温速度:約3.2℃/分)ことにより、第1熱処理工程を実行した。この第1熱処理工程において、実質的に400℃以上の温度に約62分間(約1.03時間)保持したことになる。
【0049】
続いて、大気圧下において上記の第1熱処理工程を経た原料粉末の前駆体を一旦降温させることなく連続的に800℃まで2時間かけて昇温させ(昇温速度:約1.7℃/分)、引き続き大気圧下その800℃において10時間保持することにより第2熱処理工程を実行した。その後、3時間かけて室温(20℃)まで降温させた(降温速度:約4.3℃/分)。この第2熱処理工程(一部降温工程も含む)において、実質的に760℃以上の温度に約10.5時間保持したことになる。
【0050】
このようにして上記原料粉末の前駆体から製造された原料粉末をX線回折により測定し、(Bi)Pb3221相とCa2PbO4とのピーク強度を相対評価したところ、Ca2PbO4が単独で生成していることを確認した(図1参照)。なお、ここでピーク強度の相対評価とは、(Bi)Pb3221相の(110)面の回折ピーク強度とCa2PbO4の(110)面の回折ピーク強度とを相対比較したものをいう。
【0051】
また、この原料粉末が、主相としてBi2212相を含むこともX線回折により確認した。
【0052】
続いて、このようにして得られた原料粉末を用いて、フィラメント部とそれを被覆するシース部とを有する超電導線材を製造した。まず、該原料粉末をシース部を構成することになる銀管に充填した。次いで、この銀管を伸線および圧延した後、約820℃で50時間焼結することにより超電導線材を製造した。
【0053】
このようにして得られた超電導線材は、上記の原料粉末により製造された超電導体によりフィラメント部が構成され、かつX線回折によりその超電導体は主相としてBi2223相を含むことを確認した。この超電導線材について、液体窒素(77K)中、4端子法により臨界電流(Ic)を測定したところ、102Aであった(表1参照)。
【0054】
<比較例1〜3>
実施例1において、第1熱処理工程を窒素雰囲気(窒素分圧1atmとする雰囲気、比較例1とする)、大気雰囲気(比較例2とする)および酸素雰囲気(酸素分圧1atmとする雰囲気、比較例3とする)で各行なうことを除き、他は全て実施例1と同様にして原料粉末を製造した。
【0055】
このようにして製造された原料粉末それぞれについて、実施例1と同様にしてX線回折測定を行ない、Ca2PbO4と(Bi)Pb3221相とのピーク強度を相対評価したところ、図1に示したような結果が得られた。すなわち、Ca2PbO4と(Bi)Pb3221相とのピーク強度の相対評価は、それぞれ比較例1では48.7%、51.3%、比較例2では46.5%、53.5%、比較例3では50.3%、49.7%であった。
【0056】
また、このような原料粉末を用いて実施例1と同様にして超電導線材を製造し、実施例1と同様にして臨界電流(Ic)を測定した結果を、以下の表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1より明らかな通り、比較例1〜3に比し、実施例1の超電導線材において高い臨界電流(Ic)が示された。これにより、原料粉末のCa源としてCa2PbO4が単独で存在することが有利であることは明らかであり、かつCa2PbO4を単独で存在させるためには本発明の原料粉末の製造方法を採用することが有利であることが理解される。
【0059】
<実施例2>
まず、Bi、Pb、Sr、Ca、Cuをイオンとして含む(モル比1.7:0.33:1.87:1.98:3.00)硝酸塩水溶液を加熱炉に供給し、乾燥大気を45dm3/minで供給させながら750℃で噴霧熱分解することにより原料粉末の前駆体を得た。
【0060】
この原料粉末の前駆体をX線回折にて測定することにより、Bi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相が含まれていることを確認した。また、この原料粉末の前駆体のPb/(Bi+Pb)で示される原子比は、0.16であった。
【0061】
次いで、この原料粉末の前駆体を100Paの減圧下において室温(20℃)から600℃まで3時間かけて昇温させる(昇温速度:約3.3℃/分)ことにより、第1熱処理工程を実行した。この第1熱処理工程において、実質的に400℃以上の温度に約60分間(約1時間)保持したことになる。
【0062】
続いて、大気圧下において上記の第1熱処理工程を経た原料粉末の前駆体を一旦降温させることなく連続的に800℃まで2時間かけて昇温させ(昇温速度:約1.7℃/分)、引き続き大気圧下その800℃において10時間保持することにより第2熱処理工程を実行した。その後、3時間かけて室温(20℃)まで降温させた(降温速度:約4.3℃/分)。この第2処理工程(一部降温工程も含む)において、実質的に760℃以上の温度に約10.5時間保持したことになる。
【0063】
このようにして製造された原料粉末をX線回折により測定し、実施例1と同様にして(Bi)Pb3221相とCa2PbO4とのピーク強度を相対評価したところ、Ca2PbO4が単独で生成していることを確認した。また、この原料粉末が、主相としてBi2212相を含むこともX線回折により確認した。
【0064】
続いて、上記で得られた原料粉末を用いて実施例1と同様にして超電導線材を製造した。このようにして得られた超電導線材は、上記の原料粉末により製造された超電導体によりフィラメント部が構成され、かつX線回折によりその超電導体は主相としてBi2223相を含むことを確認した。この超電導線材について、液体窒素(77K)中、4端子法により臨界電流(Ic)を測定したところ、110Aであった。
【0065】
このようにして得られた超電導線材は、上記のように実施例1のものと同様、優れた超電導特性を有するものであった。
【0066】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】Ca2PbO4と(Bi)Pb3221相とのX線回折のピーク強度の相対評価を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2223相を含む超電導体の原料粉末の製造方法であって、
前記原料粉末の前駆体は、Bi2201相、(Bi)Pb3221相およびCuO相を含み、
前記製造方法は、第1熱処理工程と第2熱処理工程とを含み、
前記第1熱処理工程は、0.01〜500Paの減圧下において前記原料粉末の前駆体を少なくとも0.1時間、400〜680℃の温度に保持する工程であり、
前記第2熱処理工程は、大気圧下において前記第1熱処理工程を経た前記原料粉末の前駆体を少なくとも3時間、760〜820℃の温度に保持する工程であることを特徴とする、原料粉末の製造方法。
【請求項2】
前記原料粉末の前駆体は、BiとPbとを含み、BiとPbとの組成比がPb/(Bi+Pb)で示される原子比として0.14以上0.2以下となることを特徴とする、請求項1記載の原料粉末の製造方法。
【請求項3】
前記原料粉末の前駆体は、Bi2201相を主相とすることを特徴とする、請求項1記載の原料粉末の製造方法。
【請求項4】
フィラメント部とそれを被覆するシース部とを有する超電導線材であって、
前記フィラメント部は、請求項1記載の原料粉末の製造方法によって製造された原料粉末を用いて製造される超電導体により構成されることを特徴とする、超電導線材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−82992(P2006−82992A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266943(P2004−266943)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】