説明

原油タンク底板の腐食試験法並びにそれに基づいて選定された鋼材および原油タンク

【課題】本発明は、原油タンクにおいて、タンク底板の腐食形態を模擬・再現する腐食試験方法とその結果を用いた腐食予測法を提供することにより、耐食性に優れた鋼材および耐食性に優れた原油タンクを開発することを目的とする。
【解決手段】4〜15wt%のNaClを含有した水溶液を温度20℃〜50℃に保持し、鋼材を前記水溶液に浸漬し、体積%で、大気圧下でOガス2〜10%、COガス5〜20%、SOガス0.005〜0.1%、残部Nガスからなる混合ガスAと、大気圧下でHSガス0.05〜1%、残部Nガスからなる混合ガスBとを、交互に繰返し吹き込み、前記鋼材の腐食量又は孔食深さを測定することを特徴とする鋼材の腐食試験法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油タンクの油槽や原油を輸送あるいは貯蔵するためのタンク(以下、まとめて「原油タンク」と総称する)において、タンク底板の腐食形態を模擬・再現する腐食試験方法および腐食予測法と、これらを用いて選定される鋼材およびそれを用いたタンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーの原油タンクの底板においては、原油そのものの腐食抑制作用や原油タンク内面に形成される原油由来の保護性コート(以下、「オイルコート」と称す)の腐食抑制作用によって、使用される鋼材には腐食が生じないと考えられていた。
【0003】
しかし、最近の研究で、タンク底板の鋼材には、お椀型の形状の局部腐食(孔食)が発生することが明らかになった。局部腐食の原因としては、
(1)塩化ナトリウムを代表とする塩類が高濃度に溶解した凝集水の存在、
(2)過剰な洗浄によるオイルコートの離脱、
(3)原油中の硫化物の高濃度化、
(4)原油タンク内に防爆用に封入されたイナートガス中のO、CO、SOの高濃度化、
などの項目が挙げられている。なお、実際のドック検査時における原油タンク内の滞留水の分析では、高濃度の塩化物イオンと硫酸イオンが検出されている。
【0004】
ところで、上記全面腐食や局部腐食を抑制する最も有効な方法は、鋼材表面に重塗装を施し、鋼材を腐食環境から遮断する方法である。しかし、原油タンクの塗装作業は、その塗布面積が膨大である。また、塗装した場合であっても、塗膜の劣化により、約10年に1度は塗り替えが必要となるため、検査および塗装に多大な費用が発生する。さらに、重塗装した塗膜の損傷部分においては、原油タンク環境では、却って腐食が助長されることが指摘されている。
【0005】
上記のような腐食の問題を解決する上で、タンク底板への耐食性の優れた鋼材の適用は極めて有望な手段であり、今後、黒皮付きの耐食性に優れた鋼材、黒皮をブラスト処理で除去した耐食性に優れた鋼材、黒皮をブラスト処理で除去した後ジンクリッチプライマーを被覆した耐食性に優れた鋼材の使用が見込まれるが、耐食性の優れた鋼材を開発するにあたって実船での暴露試験でその耐食性を評価するのはコスト及び時間の観点から困難である。したがって、実験室的に事前に、実船のタンク底板の腐食形態を模擬、再現する腐食試験法が必要であり、以下の文献には、この観点で技術検討が行われている。
特許文献1では、鋼材を1wt%以上のNaClを含有する水溶液に浸漬し、2〜10vol%O−0.1〜20vol%HS−残部Nの混合ガスを吹き込む腐食試験法が開示されている。特許文献2では、天然海水と原油タンクから採取した原油スラッジを体積比で1:1に混合した溶液に鋼材を浸漬し、さらに、5vol%O−0.5vol%HS−10vol%CO−残部Nの混合ガスを吹き込む腐食試験法が開示されている。特許文献3では、鋼材を浸漬した人工海水中に、5vol%O−13vol%CO−0.02vol%SO−0.25vol%HS−残部Nガスからなる混合ガスを吹き込む腐食試験法が開示されている。さらに、特許文献4では、タンク底板に発生する孔食内部の環境に着眼し、10wt%のNaClを含有するpH0.5のHCl水溶液と、20wt%のNaClを含有するpH0.2のHCl水溶液にそれぞれ鋼材を浸漬する腐食試験法が開示されている。
【0006】
しかしながら、後述するように、上記の何れの試験法も、原油の積み下ろしを繰り返す実船の腐食環境を模擬・再現するものではなく、その結果、上記の実験室的試験で得られた結果が、再現試験であるのか促進試験であるのかの位置づけが科学的に実証されておらず、実験室的試験結果と実船での暴露試験結果の相関が不明確である。そのため、異なる材料間での優劣はある程度判定できるものの、実船のドック入りするインターバルである2.5年間での腐食挙動を想定した場合に、ある材料が充分な耐食性を有するか否かの判定はできないという問題がある。
【0007】
なお、2.5年毎のドック入りの際には、タンク底板に発生した深さ4mm以上7mm以下の孔食は塗料により、また深さ7mmを超える孔食は溶接による肉盛で補修することが国際条約で義務付けられており、耐食鋼開発においては、どのようにして2.5年後の孔食の深さを4mm以下に抑制するかが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−82963号公報
【特許文献2】特開2007−277616号公報
【特許文献3】特開2006−137963号公報
【特許文献4】特開2004−169048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するために、原油タンクにおいて、タンク底板の腐食形態を模擬・再現する腐食試験方法とその結果を用いた腐食予測法を提供することにより、これらを用いて原油タンクに適する耐食性の優れた鋼材および耐食性に優れた原油タンクを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明の構成により解決される。なお、本発明の原油タンク用鋼材は、厚鋼板、薄鋼板および形鋼を含むものである。
1. 4〜15wt%のNaClを含有した水溶液を温度20℃〜50℃に保持し、鋼材を前記水溶液に浸漬し、体積%で、大気圧下でOガス2〜10%、COガス5〜20%、SOガス0.005〜0.1%、残部Nガスからなる混合ガスAと、大気圧下でHSガス0.05〜1%、残部Nガスからなる混合ガスBとを、前記水溶液に交互に繰返し吹き込み、前記鋼材の腐食量又は孔食深さを測定すること特徴とする鋼材の腐食試験法。
2. 前記混合ガスA及び前記混合ガスBを交互に繰返し吹き込むサイクルが14〜49日であることを特徴とする1記載の鋼材の腐食試験法。
3. 前記鋼材が人工欠陥部を有する付着量0.01〜0.2g/cmのオイルコート模擬物質で覆われていることを特徴とする1または2記載の鋼材の腐食試験法。
4. 1〜3のいずれか1項に記載の鋼材の腐食試験法を用いることを特徴とする原油タンク用底板鋼材に使用された場合の腐食量又は孔食深さの予測手法。
5. 1〜3のいずれか1項に記載の鋼材の腐食試験法によって選定された原油タンク用鋼材。
6. 1〜3のいずれか1項に記載の鋼材の腐食試験法によって選定された原油タンク用鋼材を用いた原油を輸送または貯蔵するタンク。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原油タンクの油槽や原油を輸送あるいは貯蔵するためのタンク等の原油タンクの底板に用いた場合に、局部腐食を起こすことがない鋼材およびそれを適用した溶接継手を有する原油タンクを安価に提供することができるので、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実施するための腐食試験装置の概要を示す図である。
【図2】最大孔食深さと試験期間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。また、以下の説明において、気体(ガス)に関する%表示は、特に記載がない限り、体積%(vol%)を表している。
本発明の鋼材の腐食試験法を、上記範囲に限定する理由について説明する。
【0014】
原油タンクでは、原油の積み下ろしが必ず繰り返される。タンクに原油を積載した場合には、原油由来の成分であるオイルコートが鋼材表面に形成され、さらにその上層に原油から分離した塩水層が形成される。この塩水は海水由来のものでは無く、採掘された原油にもともと含有されていた塩水であり、タンクに積み込んだ後に分離、沈殿したものであり、その塩分濃度は海水より濃い4〜15wt%のNaClを含有することが知られている。また、原油はHSを含有していることが知られており、それが積載した原油の気層部および底に分離した塩水層に抽出され、その濃度は0.05〜1%である。一方、タンク内部の原油の上層に存在する気層部には、防爆を目的としてイナートガスが常に供給される。イナートガスの成分範囲としては、Oガス2〜10%、COガス5〜20%、SOガス0.005〜0.1%、残部Nガス(以下「混合ガスA」と称する場合もある。)からなることが知られている。なお、原油積載時には、原油層の厚みは数十mに及ぶため、原油層の上部の気層に導入したイナートガス成分は、原油の下層に存在する塩水層に到達し得ない。以上のことを考慮すると、原油を積載した際のタンク底板部における腐食環境としては、オイルコートに被覆された鋼材が、0.05〜1%のHS、残部Nガスからなる混合ガス(以下「混合ガスB」と称する場合もある。)を吹き込んだ4〜15wt%のNaCl水溶液に浸漬されるというものである。なお、上記のO、CO、SO、HSの各ガス体積%および塩水のNaCl濃度は実船の調査結果から導かれたものであり、各々の範囲を外れた場合には原油タンク内部の腐食環境を代表するものとはなり得ない。
【0015】
一方、原油を排出したタンク底板部では、オイルコートに被覆された鋼材の上層に原油から分離した塩水が残留し、さらにその上層に気層が存在する。気層には防爆を目的として前記イナートガスが常時導入されているが、原油は、ほとんど残留していないため、HS濃度は極めて低い。塩水の上層には原油が実質的には存在しないため、塩水中にイナートガスの成分が供給されることになる。すなわち、原油を排出したタンクの底板部における腐食環境としては、オイルコートに被覆された鋼材が、Oガス2〜10%、COガス5〜20%、SOガス0.005〜0.1%、残部Nガスからなる混合ガスAを吹き込んだ4〜15wt%のNaCl水溶液に浸漬されるというものである。
【0016】
なお、タンク底板の温度としては、ヒーティングを施さない場合には20〜30℃、ヒーティングを施した場合には30〜50℃程度である。
【0017】
したがって、以上のことを考慮すると、本発明に用いる、原油タンクの底板の腐食形態を模擬するための環境条件としては、大気圧下でOガス2〜10%、COガス5〜20%、SOガス0.005〜0.1%、残部Nガスからなる混合ガスAと、大気圧下でHSガス0.05〜1%、残部Nガスからなる混合ガスBを、4〜15wt%のNaClを含有する20℃〜50℃の水溶液に、所定サイクルで交互に吹き込むことが必須である。
【0018】
上記混合ガスの交番サイクル、すなわち混合ガスA及び混合ガスBを交互に繰返し吹き込むサイクルは、腐食の模擬試験として、実船の原油積み下ろしのタイミングを考慮して14〜49日が好ましい。
【0019】
本発明では、交互に吹き込むガスの流量は、腐食反応に必要な量を充分に供給できるのであれば特段制限するものではないが、例えば溶液1Lにつき各混合ガスの流量を1〜10mL/minとすることが挙げられる。
【0020】
前述したように鋼材表面は原油由来のオイルコートで被覆されるが、このオイルコートには局所的に欠陥部が点在し、その部分は、鋼材露出部となるため、孔食が生じる。すなわち、オイルコート被覆部の欠陥部近傍の鋼材表面で酸素還元反応がおこり、その対反応として鋼材露出部で鉄の溶解反応がおこり、孔食が発生・成長する。
このような腐食状況を再現するため、本発明で用いる鋼材は、人工欠陥部を有する付着量0.01〜0.2g/cmのオイルコート模擬物質で覆われていることが好ましい。オイルコート模擬物質の付着量が0.01g/cm未満の場合にはオイルコート付着による効果が得られず、実環境から乖離するため好ましくない。一方、オイルコート模擬物質の付着量が0.2g/cmを超える場合には、試験準備が煩雑になるに見合うだけの特段の効果は見られないので好ましくない。
本発明では、オイルコート模擬物質の組成を特に限定しないが、例えば、ワセリンにαオキシ水酸化鉄やマグネタイト、ヘマタイト等の鉄錆や硫黄を混合したものが挙げられる。その混合割合は例えば、ワセリン,αオキシ水酸化鉄,マグネタイトの混合物であれば、重量%でワセリン60〜93%に対して、αオキシ水酸化鉄5〜30%、マグネタイト2〜10%とすることが例示される。
本発明では、より実環境に即した結果を得るためには、実際に原油タンクに組み込まれる状態の鋼材表面としておくのが好ましいが、鋼材成分や、表面の被覆成分の優劣を評価する目的であれば、一定の表面状態として試験してもよい。例えば、鋼材成分の影響のみを評価したい場合は、鋼材の深さ方向の例えば、板厚1/4の地点等からサンプリングして評価してもよいし、表面の被覆成分を評価したい場合は、黒皮をブラスト処理で除去した後、被膜処理(ジンクリッチ処理等)を施してから試験してもよい。
なお、前述したように、実船において鋼材に孔食が発生する駆動力は、オイルコート模擬物質下でおこる酸素還元反応であるので、イナートガスに含有される酸素が塩水層に拡散し得ない原油積載時には、発生した孔食の成長は停止する。その後、再度原油を排出した場合には、イナートガスが充満している気層から塩水層に再度酸素が供給されるため、孔食の再成長および新規孔食の発生がおこる。このように、実船では、原油の積み下ろしに対応して孔食の発生・成長と停止が繰り返されており、実験室の試験にて、各種鋼材をタンク底板に適用した場合の2.5年後の腐食挙動を推定するためには、同様の現象をラボで再現することが重要である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0022】
表1に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉または転炉で溶製して鋼塊または連続鋳造して鋼スラブとし、これらを1150℃に再加熱後、仕上終了温度を800℃とする熱間圧延を施して、板厚25mmの鋼板とした。
【0023】
【表1】

【0024】
作製した鋼板に対して、以下の要領でタンク底板環境を模擬した腐食試験を行った。上記鋼板の板厚1/4の位置から、幅25mm×長さ50mm×厚さ5mmの矩形の小片を切り出し、その試験面をRz60の粗面とするようスチールブラスト処理を施した。一部のサンプルについては、さらに、その試験面にジンクリッチプライマー(セラボンド2000、中国塗料(株)製)を15〜25μmの厚さに塗装した。端面および裏面をテープでシールした後、中央部に直径5mmφの人工欠陥部を残して、試験面全面をオイルコート模擬物質を所定量塗布した。オイルコート模擬物質は、ワセリンとαオキシ水酸化鉄とマグネタイトを重量比で80:15:5で混合したものを用いた。
【0025】
内径280mm、高さ250mmの蓋付ガラス製のセルに10wt%のNaCl水溶液を6L入れ、1セルにつき20枚の試験片を浸漬した。上記セルを、溶液部分が浸るように浴に入れ、温度調整器を用いてセル内部の塩水が30±1℃になるように調整し、保持した。図1に腐食試験装置の概要を示す。図1で、ボンベ15が混合ガスA及びBである。
セル内部の塩水に、表2に示す混合ガスA1〜A13を、14、28、49日間吹き込んだ後に、表2に示す混合ガスB1〜B5を、14、28、49日間吹き込んだ。上記2種類の混合ガスを各ガス交番サイクルの欄の日数間流す腐食試験を1サイクルとし、1、2および4サイクル実施後に試験片を回収して、その腐食状況を評価した。なお、腐食試験は1条件につき20枚の試験片を用いて評価した。
【0026】
回収した試験片は、まず溶剤を用いてオイルコート模擬物質を除去した後に、端面および裏面のシールを剥がした。プライマーを施した試験片については、塗膜剥離剤を用いてジンクリッチプライマーを除去した。さらに、試験面に孔食の発生した試験片については、塩酸を用いて腐食性生物のみを除去した。各試験条件の内、最も深い孔食の直径と深さをノギスとデプスメーターで測定し、アスペクト比(孔食の深さ/孔食の直径)を求めた。
表3に実験結果を示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
一般にタンク底板に発生する孔食のアスペクト比はおよそ4程度であることが知られており、本実施例では、アスペクト比が3〜5の範囲に収まれば、実船における鋼材の腐食形態を模擬・再現できていると判断した。混合ガスAの組成が大気圧下でO2ガス2〜10%、CO2ガス5〜20%、SO2ガス0.005〜0.1%、残部N2ガスの範囲内に収まり、混合ガスBの組成が大気圧下でH2Sガス0.05〜1%、残部N2ガスの範囲内に収まり、かつ、混合ガスAと混合ガスBを交番で吹き込んだ本発明例1〜9では、生成した孔食のアスペクト比が3〜5の範囲に収まり、実船のタンク底板の腐食形態を模擬・再現できた。
【0030】
一方、混合ガスAの組成が大気圧下でO2ガス2〜10%、CO2ガス5〜20%、SO2ガス0.005〜0.1%、残部N2ガスの範囲外である、或いは、混合ガスBの組成が大気圧下でH2Sガス0.05〜1%、残部N2ガスの範囲外である比較例1〜9の場合には、混合ガスAと混合ガスBを交番で吹き込んだ場合でもアスペクト比は3〜5の範囲に収まらず実船のタンク底板の腐食形態を模擬・再現できなかった。また、混合ガスAと混合ガスBを交番で吹き込まなかった比較例10、11の場合には、混合ガスAの組成が大気圧下でO2ガス2〜10%、CO2ガス5〜20%、SO2ガス0.005〜0.1%、残部N2ガスの範囲に、或いは、混合ガスBの組成が大気圧下でH2Sガス0.05〜1%、残部N2ガスの範囲に収まったにもかかわらず、アスペクト比は3〜5の範囲に収まらず実船のタンク底板の腐食形態を模擬・再現できなかった。
【0031】
次に、同一試験環境で試験サイクルのみを変化させた本発明例7〜9の平均孔食深さの結果を用いて、y=axbの式を用いて近似し、2.5年後の外挿値を求めた。ここでyは最大孔食深さ(mm)、xは試験期間(day)である。図2に結果を示す。最小二乗法近似の結果、a値は0.038、b値は0.585となり、この式を用いて2.5年(9125日)後の最大孔食深さを推定する7.9mmとなった。従来の実船のタンク底板の調査結果より、従来鋼を用いた場合には2.5年毎のドック入りの際に7mm以上孔食が散見されることが知られており、本発明の腐食試験による予測値と一致した。
【符号の説明】
【0032】
11: セル
12: 蓋
13: 浴
14: 循環水温調器
15: ボンベ
16: ガス管
17: 流量計
18: バブラー
19: 塩水
20: 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4〜15wt%のNaClを含有した水溶液を温度20℃〜50℃に保持し、鋼材を前記水溶液に浸漬し、体積%で、大気圧下でOガス2〜10%、COガス5〜20%、SOガス0.005〜0.1%、残部Nガスからなる混合ガスAと、大気圧下でHSガス0.05〜1%、残部Nガスからなる混合ガスBとを、前記水溶液に交互に繰返し吹き込み、前記鋼材の腐食量又は孔食深さを測定すること特徴とする鋼材の腐食試験法。
【請求項2】
前記混合ガスA及び前記混合ガスBを交互に繰返し吹き込むサイクルが14〜49日であることを特徴とする請求項1記載の鋼材の腐食試験法。
【請求項3】
前記鋼材が人工欠陥部を有する付着量0.01〜0.2g/cmのオイルコート模擬物質で覆われていることを特徴とする請求項1または2記載の鋼材の腐食試験法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材の腐食試験法を用いることを特徴とする原油タンク用底板鋼材に使用された場合の腐食量又は孔食深さの予測手法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材の腐食試験法によって選定された原油タンク用鋼材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材の腐食試験法によって選定された原油タンク用鋼材を用いた原油を輸送または貯蔵するタンク。

【図1】
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【図2】
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