説明

厨房用空気浄化装置

【課題】優れた浄化効率を確保しつつ、省スペース化を実現することができ、さらには、維持管理が容易で、維持コストも抑制できる厨房用空気浄化装置の提供。
【解決手段】電気加熱器具を用いた食材の加熱調理により発生する汚染空気を吸込口から吸い込み、これを浄化して吹出口から排出する厨房用空気浄化装置であって、吸込口と吹出口を連通する通路に、吸湿性、オイル吸着性及び親水性ガス吸着性を有する無機多孔質フィルターと、疎水性ガス吸着性を有する脱臭フィルターとを上流側から順に配置してなることを特徴とする厨房用空気浄化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厨房用空気浄化装置に関する。さらに詳しくは、簡易な構造でありながら優れた浄化効率を発揮できる厨房用空気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、キッチンにおける食材の加熱調理には、ガスコンロなどのガス燃焼加熱器具が利用されている。しかし、このガス燃焼加熱器具にあっては、食材の加熱調理により、二酸化炭素などの燃焼ガスを発生させることから、これらが室内に充満しないよう、大風量の換気扇を用いて屋外へ排出させる必要があった。
【0003】
これに対し、電気加熱器具を用いた場合においては、燃焼ガスを発生させないことから、食材の加熱調理により生じた汚染空気を必ずしも大風量の換気扇を用いて屋外へ排出させる必要がない。そして、この場合の汚染空気には、主として、オイルミスト、水蒸気、調理臭(親水性ガス、疎水性ガス)が含まれていることから、これらを除去して汚染空気を浄化させた後、再び室内へと排出する、室内循環型の厨房用空気浄化装置(以下、単に「浄化装置」という場合がある。)が用いられるようになってきている(特許文献1参照)。
【0004】
図12は、従来の浄化装置1の一実施形態を説明するための概略断面図である。従来の浄化装置1は、図12に示すとおり、外装ケース11内に、少なくとも、吸込口4とオイルフィルター8と冷却器9と加熱器10と送風機7と脱臭フィルター3と吹出口5とをそれぞれ有した構成をしており、以下のようにして汚染空気を浄化する。先ず、食材の電気加熱器具12による加熱調理で発生し、調理器具13の上方に立ち上がった汚染空気を、送風機7から得られる負圧により吸引して、吸込口4から浄化装置1内部に吸い込む。この吸込口4には金網状のオイルフィルター8が配置されており、このオイルフィルター8に汚染空気を通過させることにより、オイルミストを付着除去する。次に、オイルフィルター8を通過した汚染空気を冷却器9で強制冷却し、汚染空気に含まれる水蒸気を結露させる。これにより、汚染空気中の水分を冷却器9の表面に付着させて除去する。さらに、除湿された汚染空気を加熱器10で加熱乾燥させ、汚染空気の相対湿度を低下させた後、これを活性炭などを利用した脱臭フィルター3に通過させることで、調理臭を吸着除去する。そして、このようにして浄化された汚染空気を吹出口5を通して室内へ排出する。また、付着除去したオイルミストや水分はそれぞれ専用トレーに溜められて廃棄され、吸着除去した調理臭はフィルター交換により廃棄される。
【0005】
しかしながら、上記したような方法により汚染空気を浄化する場合には、以下のような課題があった。すなわち、汚染空気からオイルミスト、水蒸気及び調理臭を除去するのに、オイルフィルター、冷却器、脱臭フィルターといったそれぞれ別々の浄化手段を必要とした。また、脱臭フィルターの吸着能力を十分に発揮させるために加熱器を配置して汚染空気を加熱乾燥させる必要もあった。このため、浄化装置は過大となってしまい、多大な設置コストを要するばかりか、収納などに活用できるスペースや、キッチンのレイアウトが制限されてしまう問題があった。また、このような従来の浄化装置においては、上述したような冷却器や加熱器などの各機器やオイルフィルターのメンテナンスや、除去した汚染物質の個別廃棄が必要となるなど、維持管理も大変であり、さらには、各機器の使用により生じる電力などの維持コストも負担となっていた。また、ガスの吸着に用いる脱臭フィルターには、活性炭が多く利用されているが、活性炭は疎水性ガスの吸着性には優れているものの、親水性ガスの吸着性は劣っており、このような脱臭フィルターを用いた従来の浄化装置はあらゆる調理臭に対応できるものではなかった。
【0006】
このような問題に対して、特許文献2には、キッチンに面している壁の内側に浄化装置を設置させることが提案されており、また、特許文献3には、電気加熱器具を備えたキャビネット内に、キャビネットと一体的に浄化装置を設置させることが提案されている(図13参照)。これらの提案は、浄化装置を設置する位置や、浄化装置の各構成部材の配置方法を工夫したものであり、上記のような方法で汚染空気を浄化する浄化装置でありながら、キッチン全体をスマートな外観にすることが可能である。
【0007】
しかしながら、いずれの提案も、汚染空気を浄化する手段を変更するものではないため、十分な浄化性能を発揮させようとした場合、浄化装置自体は大型なものにせざる負えず、省スペース化を実現するのには限界があった。このため、特許文献2に提案されている浄化装置においては、壁内に設置させるのに大掛かりな設置作業が必要となり、また、一方で、浄化装置の設置場所は限定されることからキッチンのレイアウトが制限されてしまう問題もあった。また、特許文献3に提案されている浄化装置においては、キャビネット内の収納スペースが制限される問題があった。さらに、いずれの浄化装置も、浄化手段を変更するものではないため、上述したような、多大な維持管理や維持コストが必要となる問題や、多様の調理臭を浄化できない問題を依然として有していた。
【0008】
【特許文献1】実開平9−196423号公報
【特許文献2】特開平9−042730号公報
【特許文献3】特開2005−283060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、優れた浄化効率を確保しつつ、省スペース化を実現することができ、さらには、維持管理が容易で、維持コストも抑制できる厨房用空気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、電気加熱器具を用いた食材の加熱調理により発生する汚染空気を吸込口から吸い込み、これを浄化して吹出口から排出する厨房用空気浄化装置であって、吸込口と吹出口を連通する通路に、吸湿性、オイル吸着性及び親水性ガス吸着性を有する無機多孔質フィルターと、疎水性ガス吸着性を有する脱臭フィルターとを上流側から順に配置してなることを特徴とする厨房用空気浄化装置である。
【0011】
また、本発明の厨房用空気浄化装置は、無機多孔質フィルターが、無機多孔質材料を含む成形材料で形成された棒状体を集合してなるものであって、さらに、上記棒状体同士が交叉して接した状態の多数の接点を有し、かつ、これらの接点が3次元空間に点在し、各接点の周囲に隙間を形成してなる状態の3次元構造を有する実施形態であることが好ましい。また、この実施形態において、無機多孔質フィルターは、以下の形態であることが特に好ましい。第1は前記棒状体が連続した直線部分を有する曲線形状をしており、該曲線が規則的に或いは不規則に折り返されて3次元構造を形成している形態であり、第2は前記棒状体が曲線或いは直線形状を有したものであり、該棒状体を不規則な状態に複数積み上げられて3次元構造を形成している形態であり、第3は、前記棒状体が直線或いは曲線形状を有したものであり、該棒状体を同一平面上に互いに平行な隙間を介して複数配列して形成した構成を有するストライプ層を複数有し、かつ、該ストライプ層が、各ストライプ層を構成する棒状体同士が互いに交叉する状態に積み上げられて3次元構造を形成している形態である。また、本発明の厨房用空気浄化装置は、無機多孔質フィルターが、無機多孔質材料粒子の集合体により形成されている実施形態にすることもできる。
【0012】
また、本発明の厨房用空気浄化装置は、無機多孔質材料が、平均細孔半径が2〜8nm、比表面積が80m2/g以上、最高吸湿率が15%以上の珪質頁岩であることが好ましく、また、脱臭フィルターが、活性炭を含有するものであることが好ましい。さらに、本発明の厨房用空気浄化装置は、吸込口の開口面に、粗大粒子を除去するための不織布フィルターを配置させたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた浄化効率を確保しつつ、省スペース化を実現することができ、さらには、維持管理が容易で、維持コストも抑制できる厨房用空気浄化装置が提供される。
【0014】
より具体的には、本発明の浄化装置は、オイル吸着性、吸湿性、ガス吸着性(特に、親水性ガス吸着性)に優れた無機多孔質材料を用い、好ましくは、これらの吸着性を飛躍的に向上させる構造に形成させた無機多孔質フィルターを配置させたものであるため、従来の浄化装置のように、金網状のオイルフィルター、除湿を行うための冷却器、除湿後に加熱乾燥を行うための加熱器、脱臭フィルターをそれぞれ別々に配置させる必要がなく、これらの浄化効率を確保したまま、従来の浄化装置と比べて、格段な省スペース化を実現することが可能となる。また、本発明の浄化装置は、ガス吸着力(特に、親水性ガス吸着性)に優れた無機多孔質フィルターの下流側に、特に疎水性ガス吸着性に優れた活性炭フィルターなどの脱臭フィルターを配置させた構成であるため、電気加熱器具を用いた食材の加熱調理により発生する、あらゆる調理臭を浄化することができるものである。また、本発明の浄化装置は、このようにフィルターを用いて汚染空気を浄化させるものであるため、電力を消費させる機器の使用を必要最低限に抑えることができ、維持コストを低減できる。さらに、本発明の浄化装置は、フィルターを交換するだけで、容易に維持管理を行え得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の浄化装置を詳細に説明する。
本発明の浄化装置は、厨房内に設置されて、電気加熱器具を用いた食材の加熱調理により発生する汚染空気を浄化するための装置であり、従来の循環型の厨房用空気浄化装置と同じように、汚染空気を吸込口から吸い込み、これを浄化して、浄化された空気を吹出口から再び室内へ排出するためのものである。
【0016】
図1は、本発明の浄化装置1の構成を説明するための模式図である。図1に示すとおり、本発明の浄化装置1の特徴は、吸込口4と吹出口5を連通する通路6に、吸湿性、オイル吸着性及び親水性ガス吸着性を有する無機多孔質フィルター2と、疎水性ガス吸着性を有する脱臭フィルター3とを、上流側から順に、配置してなることにある。
【0017】
ここで、本発明に用いる無機多孔質フィルターとは、無機多孔質材料を基材に含有又は担持させたフィルターのことをいう。また、無機多孔質材料とは、内部に無数の微細な孔を有した無機材料のことをいう。具体的には、珪藻泥岩、珪質頁岩、アロフェン、イモゴライト、セピオライト又はゼオライトなどが挙げられる。このような無機多孔質材料は、優れた吸湿性を有し、また、ガス吸着性(特に、親水性ガス吸着性)及びオイルミスト吸着性にも優れていることが知られている。特に、本発明においては、平均細孔半径が2nm〜8nm、窒素法によるBET比表面積が80m2/g以上、15%以上の最高吸湿率を有する無機多孔質材料が好ましく、さらには、900℃までの耐熱性を有する無機多孔質材料がより好ましい。このような無機多孔質材料としては、例えば、北海道で産出される珪質頁岩などを挙げることができる。この珪質頁岩は、他の無機多孔質材料と比べても、特に優れた吸湿性(特に、高湿度領域において優れた吸湿性を有する)、ガス吸着性及びオイル吸着性を有しており、さらには、900℃以上の耐熱性を有している。したがって、このような珪質頁岩を用いた場合、無機多孔質フィルターの浄化効率がより優れたものとなるため、本発明の浄化装置で得られる効果をより効果的に発揮させることができる。なお、900℃以上の、高い耐熱性は、焼成による無機多孔質フィルターの再生を可能とさせる。さらに、珪質頁岩は、その細孔内に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩又は珪酸塩などのアルカリ性化合物を担持させたものでもよく、この場合、酸性ガス吸着性をより高めることができる。
【0018】
なお、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「最高吸湿率」とは、対象物を40℃、相対湿度0%の恒温恒湿槽に入れ72時間保持した後に測定する対象物の質量と、その後、25℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に入れ48時間保持した後に再度測定する対象物の質量とから算出される質量増加率のことを示す。
【0019】
このような機能を有する無機多孔質材料は、無機多孔質フィルター中に、20〜90質量%の範囲内で含有されていることが好ましい。この範囲内にすることにより、無機多孔質フィルターの強度と浄化効率を高い水準で確保することが可能となり、しいては、本発明の浄化装置に好適に用いることができるものとなる。より好ましい無機多孔質材料の含有量は、60〜80質量%の範囲内である。
【0020】
上述した、無機多孔質フィルターは、親水性ガス吸着性が特に優れる一方で、疎水性ガス吸着性が十分に得られない場合がある。このため、本発明の浄化装置では、無機多孔質フィルターの下流側に、疎水性ガス吸着性を有する脱臭フィルターを配置させている。これにより、あらゆる種類のガスを吸着除去することが可能となる。ここで、本発明に用いる脱臭フィルターは、疎水性ガス吸着性を有するものであれば、従来公知のいずれのものも使用できるが、本発明においては、活性炭、備長炭又は木炭などの炭を含有したフィルターを用いることが好ましい。より好ましくは、活性炭からなるフィルター又は活性炭を基材に含有若しくは担持させたフィルター、すなわち活性炭フィルターである。この活性炭フィルターには、さらに、アルギン酸や酸化カルシウム又は各種触媒などを担持させていてもよい。
【0021】
電気加熱器具を用いて食材を加熱調理した場合の汚染空気には、主として、オイルミスト、水蒸気、調理臭(疎水性ガス、親水性ガス)が含まれるが、本発明の浄化装置は、先ず、上流側に配置させた無機多孔質フィルターでオイルミスト、水蒸気、調理臭(特に、親水性ガス)を吸着除去する。この際、無機多孔質フィルターは、水分を多量に吸着するため、水分による影響により疎水性ガスの吸着性を十分に得られない場合がある。そこで、下流側に配置された脱臭フィルターで残った疎水性ガスを吸着除去する構成となっている(図1参照)。本発明の浄化装置は、フィルター毎に吸着する成分を機能分離させたものであることから、さらに、以下の効果が得られる。つまり、脱臭フィルターの表面に親水性ガスが付着することにより生じる疎水性ガス吸着性の低下を抑えることができ、脱臭フィルターをより効率的にかつ高寿命に用いることができる。このように、本発明の浄化装置は、簡易な構成で汚染空気を効果的に浄化できるものである。
【0022】
以下、本発明の浄化装置に用いる無機多孔質フィルターについて詳細に説明する。本発明の浄化装置において、好ましく用いることができる無機多孔質フィルターの形態は、無機多孔質材料を含む成形材料で形成された棒状体を集合してなり、さらに、上記棒状体同士が交叉して接した状態の多数の接点を有し、かつ、これらの接点が3次元空間に点在し、各接点の周囲に隙間を形成してなる状態の3次元構造を有するものである。この無機多孔質フィルターにおいて、フィルター内面風速は、0.1〜5.0m/s、好ましくは1.0〜5.0m/sの範囲内に調整されていることが好ましく、また、単位体積あたりに占めるフィルターの容積率が30〜80%の範囲内に調整されていることが好ましい。
【0023】
このような構造を有する無機多孔質フィルター2は、例えば、図4〜図6に示すとおり、上下左右のあらゆる方向に隙間を有したものであるため、この無機多孔質フィルターを通過する汚染空気の流れを乱して、汚染空気と棒状体2A表面との接触機会を増大させることができ、極めて優れた浄化効率を発揮することができる。また、このような構造を有する無機多孔質フィルター2は、浄化効率が優れているにもかかわらず、無機多孔質フィルター2内の通気抵抗を低く抑えることが可能である。したがって、このような構造を有する無機多孔質フィルターを配置した本発明の浄化装置は、汚染空気中に含まれるオイルミスト、水蒸気、ガスをより高い除去率で吸着除去することが可能となる。さらに、この無機多孔質フィルターの優れた通気性は、浄化装置内に配置させる送風機の大きさを必要最小限の大きさにすることを可能とさせる。
【0024】
このような構造の無機多孔質フィルターの棒状体は、直線形状或いは曲線形状のいずれであってもよく、また、その断面形状は、例えば、円形状又は角形状などにすることができる。好ましくは、比表面積が高く、汚染空気の浄化効率をより良好なものとできる断面円形状の棒状体である。また、棒状体の太さ(断面円形状の場合は直径)は、特に制限はないが、0.5mm〜10mmの範囲内であることが好ましい。棒状体の太さ(直径)をこの範囲内とすることで、微細な構造で優れた浄化効率を有しつつ、小型で生産性に優れた無機多孔質フィルターを得ることが可能となる。より好ましい棒状体の太さは、0.7mm〜3mmの範囲内である。
【0025】
上記構造の無機多孔質フィルターは、さらに、以下のような形態であることが特に好ましい。上記構造の無機多孔質フィルターの好ましい形態の第1は、前記棒状体が連続した直線部分を有する曲線形状をしており、該曲線が規則的に或いは不規則に折り返されて3次元構造を形成している形態である。具体的には、図4に示すような、固形の即席麺のような形状をしており、例えば、成形材料を棒状に連続で押出成形し、得られた棒状体を、棒状体の受けとなる容器を動かしながら充填させていくことにより得ることができる。また、押出成形した連続の棒状体を一度液媒体中で撹拌させた後、容器内に充填させることもでき、この場合、棒状体をより複雑に絡めることができる。ここで用いる容器としては、例えば、金網などの通気性の容器を用いることができ、この場合、通気性の容器に棒状体を充填させたままの状態で無機多孔質フィルターとすることができる。また、後述するように、棒状体を焼成固化させて一体化させた後、これを容器から取り出して得られたものを無機多孔質フィルターとしてもよい。このようにして得られる無機多孔質フィルターは、極めて生産性の高いものである。
【0026】
また、上記構造の無機多孔質フィルターの第2の好ましい形態は、前記棒状体が曲線或いは直線形状を有したものであり、該棒状体を不規則な状態に複数積み上げられて3次元構造を形成している形態である。すなわち、図5に示すように、複数の不連続な棒状体2Aを適度な通気性を有するように積み上げて形成されたものである。また、フィルター内に適度な隙間を容易に形成できるよう、各棒状体は、その一部において曲線形状を有するものであることが好ましく、また、各棒状体は、互いに不揃いであることが好ましい。また、この形態の無機多孔質フィルターは、例えば、成形材料を押出成形し、さらに、長さ10mm〜100mmの範囲にカットして得た棒状体を通気性の容器に充填することにより、又は、焼成固化したり接着剤などを塗布したりして一体化させることにより得ることができる。
【0027】
また、上記構造の無機多孔質フィルターの第3の好ましい形態は、前記棒状体が直線或いは曲線形状を有したものであり、該棒状体を同一平面上に互いに平行な隙間を介して複数配列して形成した構成を有するストライプ層を複数有し、かつ、該ストライプ層が、各ストライプ層を構成する棒状体同士が互いに交叉する状態に積み上げられて3次元構造を形成している形態である。
【0028】
以下、この第3の好ましい形態について、さらに詳細に説明する。この形態における棒状体の長さは、特に制限はないが、5mm〜500mmであることが好ましい。ストライプ層は、このような棒状体を同一平面上に互いに平行に隙間を介して複数配列させた構成を有する。また、このストライプ層2Bは、図10に示すように、構成する各棒状体2A同士が、これらの少なくとも一方の端部、好ましくはこれらの両端部において連結されて一体化されている構成であってもよい。このように各棒状体が連結されて一体化されている構成のストライプ層とした場合、後述するように、無機多孔質フィルターの生産性をより優れたものとでき、低コストにできる。すなわち、浄化装置の維持コストをより抑えることが可能となる。また、各棒状体を一体的に連結させる部分は、成形加工を容易にするために各棒状体より幅広に形成してもよく、また、各棒状体の両端部において一体的に連結された構成のストライプ層を用いる場合においては、ストライプ層を構成する棒状体のうち両端に位置する棒状体は他の棒状体より幅広にしてもよい(図10参照)。このように形成させることで、これらの幅広部分のみを固着させることが可能となり、より簡単に無機多孔質フィルターを得ることができるようになる。
【0029】
また、各ストライプ層を構成する隣り合う棒状体間の距離のそれぞれは、0.5mm〜20mmの範囲内であることが好ましい。この距離が0.5mm未満の場合、無機多孔質フィルター内の通気抵抗が高くなる場合があり、一方、20mmを超える場合は、無機多孔質フィルターの浄化効率が低下する場合がある。本発明の浄化装置において、より好ましい棒状体間の距離は、0.7mm〜5mmの範囲内である。また、各ストライプ層において、同一平面上に配列される棒状体の配列数は、5本〜100本/100mmの範囲内であることが好ましい。
【0030】
また、各ストライプ層を構成する隣り合う棒状体間の距離のそれぞれは、等幅であってもよいし、非等幅であってもよい。等幅にした場合は、無機多孔質フィルター内の通気抵抗を適度な状態に調整することが容易となり、非等幅の場合は無機多孔質フィルター内を通過する汚染空気をより複雑に対流させ、汚染空気の滞留時間をより長くすることができる。
【0031】
また、このような構成を有するストライプ層は、隣接するストライプ層の棒状体同士が互いに非平行となるように、すなわち、棒状体の各接点の周囲に隙間を形成するように積層される。本発明の浄化装置において、この形態の無機多孔質フィルターは、5層以上、特に、30層以上、さらには、60層以上のストライプ層が積層されたものであることが好ましい。一方、200層以上を超える場合は、無機多孔質フィルターの強度が劣る場合や、無機多孔質フィルターが大きくなってしまい、浄化装置の小型化を実現できない場合がある。しかし、本発明において、この形態の無機多孔質フィルターにおける、棒状体の配列数やストライプ層の積層数は、上述した範囲に限定されるものではなく、無機多孔質フィルターを通過する空気の量や流速、浄化装置の大きさなどの環境条件に合わせて、適切な浄化効率が得られるように設定しておけばよい。
【0032】
また、上記第3の形態の無機多孔質フィルター2は、図8又は図9に示すように、あるストライプ層における各棒状体2Aの配置位置と、これの2層先のストライプ層における各棒状体2Aの配置位置とがずれた構造であってもよい。このような無機多孔質フィルターを用いることで、フィルター内を通過する汚染空気をより複雑に対流させることが可能となり、汚染空気の滞留時間をより長くし、浄化装置の浄化効率をより向上させることが可能となる。
【0033】
また、図6〜図9に示すように、隣接するストライプ層の棒状体2A同士は必ずしも直交している必要はなく、隣接するストライプ層の棒状体2A同士が互いに非平行となっていればよい。例えば、ベースとなるストライプ層の棒状体2Aと、このストライプ層に隣接して積層されるストライプ層の棒状体2Aとの角度を、5度〜175度の範囲内となるよう調整してストライプ層を積層することができる。一方、角度が0度を超えて5度未満である場合や、175度を超えて180度未満である場合は、隣接するストライプ層の棒状体同士の重なりにより、通気抵抗が大きくなってしまう場合がある。
【0034】
また、図10に示すように、各ストライプ層2Bの少なくとも一方の表面に突起2Cを形成させることで、図11に示すように、隣接するストライプ層同士が、その最表面間に突起2Cによる隙間を形成させた状態で隣接された形態にすることもできる。このような形態とすることで、無機多孔質フィルター内を通過する汚染空気をより複雑に対流させることが可能となり、汚染空気の滞留時間をより長くし、より優れた浄化効率を有する浄化装置にすることが可能となる。また、ストライプ層2B間に形成される隙間は、2.0mm以下であることが好ましい(図11参照)。
【0035】
また、本発明の浄化装置において、用いることができる無機多孔質フィルターの形態は、無機多孔質材料粒子の集合体により形成された構造を有するものであってもよい。ここで、無機多孔質材料粒子とは、無機多孔質原石からなる粒子又は無機多孔質材料を含む成形材料を押出成形した後、造粒して粒子化したものなども含まれる。この形態の無機多孔質フィルターは、通気性の容器に粒子を敷き詰めることにより得ることができる。また、無機多孔質フィルターは、他の形態であってもよく、上述した無機多孔質材料を含有するものであれば、いずれのものも本発明において用いることができる。
【0036】
本発明に用いる無機多孔質フィルターの成形材料には、バインダー成分としては、以下のものを含有することができる。例えば、ベントナイト、ミラクレー、水簸粘土、木節粘土、蛙目粘土若しくは活性白土などの粘土鉱物、セメントなどの水硬性材料、又は、ナイロン樹脂やポリプロピレン樹脂などの合成樹脂などが挙げられる。また、これらのうち、粘土鉱物は、天然鉱物から得られる無機多孔質材料に元来含まれるものをそのまま利用してもよい。この場合、成形材料中に含有されるバインダー成分の配合量は、例えば、成形材料中に、固形分換算で、10〜80質量%の範囲内とすることができる。バインダー成分の配合量が10質量%未満の場合は、耐久性のある無機多孔質フィルターが得られない場合があり、一方、80質量%を超える場合は、無機多孔質材料の機能が阻害される場合がある。無機多孔質フィルターは、粘土鉱物を含有させることにより、焼成固化して、棒状体又は粒子などの成形体を互いに固着して一体化させることもできる。また、これらの成形体を金網などの通気性容器に充填することによりこれらを一体化させることもできる。勿論、この場合においても、棒状体を焼成固化させてもよい。さらには、これらの成形体の表面に酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂などのエマルジョン接着剤などを塗布することによりこれらを一体化させてもよい。
【0037】
本発明に用いる無機多孔質フィルターは、その他にも、様々な機能性材料を棒状体又は粒子に担持又は含有させることができる。例えば、これらの表面に納豆菌及び/又は土壌菌を担持させることで、これらが吸着したオイルを分解し、より長期間使用できる無機多孔質フィルターを得ることが可能となる。また、これらの表面に酸化チタンを担持又は含有させることで、無機多孔質フィルターに光触媒機能を付与させることも可能となる。この場合、浄化装置内には光触媒を活性化させるための紫外線ランプを配置させることが好ましい。また、無機多孔質フィルターは、成形材料中にノルマルパラフィンを内包するマイクロカプセルを担持又は含有させることもできる。このノルマルパラフィンを内包したマイクロカプセルは、固液相変化を利用した潜熱蓄熱機能を有するため、無機多孔質フィルターの急激な温度変化を抑制することが可能となる。つまり、高温の汚染空気を浄化するのに用いる際、無機多孔質フィルターの急激な発熱を抑えることができ、これにともない無機多孔質フィルターを通過する汚染空気の温度を低い温度に制御し、浄化効率をより向上させることが可能となる。成形材料中におけるノルマルパラフィンを内包するマイクロカプセルの含有量は、固形分換算で、1.0〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0038】
また、無機多孔質フィルターには、基材中に、無機多孔質材料又はバインダー成分、さらには上述した機能性材料以外にも、他の様々な添加剤を含有させてもよい。例えば、補強剤、分散剤、増量剤又は着色剤などを含有させることができる。
【0039】
本発明に用いる無機多孔質フィルターを製造する方法については、特に制限はなく、例えば、上述で説明した他にも、様々な方法を用いることができる。また、図10に示すような、各棒状体2Aの少なくとも一方の端部が連結されて一体化されている構成のストライプ層2Bを積層させた形態の無機多孔質フィルターを製造する場合においては、以下の方法で製造することが可能である。先ず、無機多孔質材料とバインダー成分を含有する成形材料を、この構成のストライプ層が得られる金型を用いてプレス成形し、複数のストライプ層を作製する。また、ストライプ層は成形材料を平板状に成形した後、上記構成のストライプ層が得られるように打ち抜き加工することで作製してもよい。次に、得られたストライプ層を積層させた後、バインダー成分を固化させることで積層させたストライプ層同士を固着し、無機多孔質フィルターを得る。
【0040】
また、図6〜図9に示すような、各棒状体2Aがその端部において一体的に連結されていない構成のストライプ層を積層させた形態の無機多孔質フィルターを製造する場合においては、以下の方法で製造することが可能である。先ず、無機多孔質材料とバインダー成分を含有する成形材料を棒状に押出成形し、所定寸法にカットして、複数の棒状体を作製する。次に、得られた複数の棒状体を配列させて複数のストライプ層を作製する。その後、得られたストライプ層を積層させた後、バインダー成分を固化させることで積層させたストライプ層同士を固着し、無機多孔質フィルターを得る。
【0041】
これらの無機多孔質フィルターの製造方法において、プレス成形、打ち抜き加工又は押出成形するための装置や方法などは、特に制限はなく、従来公知の装置や方法を適宜選択して使用することができる。また、無機多孔質材料を造粒させる装置や方法も特に制限はない。また、押出成形により棒状体を得る場合に用いる押出金型の口金形状としては、所望とする棒状体の断面形状によって適宜調整できる。この場合、押出金型における口金の数は、1個でも複数でもよい。
【0042】
また、図6〜図9に示すような無機多孔質フィルターを押出成形を用いて製造する方法において、複数の棒状体を配列させてストライプ層を得る方法や、得られたストライプ層を積層させる方法は、特に制限はないが、例えば、以下の方法を用いることができる。例えば、上述した1層あたりに配列させる棒状体の本数だけ口金を有する押出金型を用いて棒状体を押出成形することで、これらが同一平面上に平行に配列されたストライプ層を得る。次に、得られたストライプ層を乗せた台を所定の角度回転させ、高さ調整する。その後、押出成形を再開し、先ほど得られたストライプ層の上に、新たなストライプ層を積層させる。この一連の作業を繰り返し、ストライプ層を順次積層させていく。この方法以外にも、1本ずつ押出成形された複数の棒状体を配列してストライプ層を形成し、得られたストライプ層を積層させてもよいが、この場合、生産性に劣る場合がある。なお、ストライプ層を所定数積層させた後に、必要により、各ストライプ層を密着させるための圧力を付与してもよい。
【0043】
また、無機多孔質フィルターを製造する方法において、未固化状態の成形材料の成形体(粒子、棒状体、ストライプ層)を固化させる方法は、特に制限はなく、使用するバインダー成分の種類により適宜変更することができる。例えば、バインダー成分として、粘土鉱物を用いる場合は、棒状体を焼成して固化させたり、粘土鉱物が有する自硬性を利用して、棒状体を固化させたりすることができる。例えば、珪質頁岩と粘土鉱物を含有する成形材料を用いた場合は、温度700〜950℃の範囲内で焼成することが好ましい。また、バインダー成分として水硬性材料を用いる場合は、棒状体を水和硬化するなどして固化させることができる。また、合成樹脂をバインダー成分として用いる場合は、棒状体を冷却するなどして固化させることができる。また、必要により、固化させる前に、乾燥工程を設けてもよい。
【0044】
上述した無機多孔質フィルターを製造する方法は、上述した工程以外にも他の工程を含んでいてもよい。例えば、得られた無機多孔質フィルターを所望の大きさとなるようにカットする工程、機能性材料を担持させる工程などを含むことができる。
【0045】
このようにして得られる無機多孔質フィルターを、浄化装置の吸込口と吹出口を連通する通路に配置させる際の向きは、特に制限はないが、通気方向に対してストライプ層の面が正対するように配置することが好ましい。また、無機多孔質フィルターの大きさは、浄化装置内の通路の大きさや、必要な浄化性能により適宜調整される。さらに、上記構造の無機多孔質フィルターには、通路の断面形状に合わせた枠材を側面に取り付けていてもよい。また、通路に配置される無機多孔質フィルターは、1つでも、2つ以上でもよく、要求される浄化性能などに併せて適宜変更できる。本発明において、このような無機多孔質フィルターの吸着能力が飽和状態に達した際には、これを新しいものに交換することにより、簡単に、浄化装置の浄化能力を維持することができる。
【0046】
以下、本発明に用いる脱臭フィルターの形態について説明する。本発明において、脱臭フィルターの形態は、特に制限はなく、従来公知のいずれの形態であってもよい。活性炭フィルターを例にして説明すると、ハニカム状の基材に活性炭を担持させたハニカム状活性炭フィルターや、フェルト状の基材に活性炭を担持させたフェルト状活性炭フィルター、ひだ状に折り込まれた不織布からなる基材に活性炭を担持させたひだ状活性炭フィルターなどを用いることができる。また、通気性の容器内に活性炭粒子を敷き詰めた粒状活性炭フィルターを用いてもよく、さらには、上記した無機多孔質フィルターと同様の構造に形成させてもよい。
【0047】
また、本発明の浄化装置において、脱臭フィルターの大きさは、必要とされる疎水性ガスの吸着能力に応じて調整することができ、また、脱臭フィルターを複数配置させることにより、必要とされる疎水性ガスの吸着能力を満たしてもよい。本発明において、このような脱臭フィルターの吸着能力が飽和状態に達した際には、これを新しいものに交換することにより、簡単に、疎水性ガスの浄化能力を維持させることができる。
【0048】
本発明の浄化装置は、上述したように、無機多孔質フィルターと、脱臭フィルターとを、上流側からこの記載の順に配置させている限りにおいては、自由に設計することが可能である。したがって、無機多孔質フィルターと脱臭フィルター以外の部材、例えば、吸込口、吹出口、送風機、外装ケースなどは、従来の浄化装置と同様の素材や構造のものを採用でき、それぞれ好適なものを適宜選択して用いることができる。
【0049】
また、本発明の浄化装置は、その設置位置や外観形態に関しても、自由な設計が可能である。すなわち、従来公知であるいずれの形式の浄化装置にも適用できるものである。そして、本発明の浄化装置は、従来のいずれの形式の浄化装置に適用した場合においても、優れた浄化効率を確保しつつ、省スペース化を実現することを可能にするものである。以下に、本発明の浄化装置の具体的な実施形態を用いて説明する。
【0050】
図2は、本発明の浄化装置1の一実施形態を示す概略断面図である。図2に示す実施形態によると、先ず、電気加熱器具12を用いて発生した汚染空気を吸込口4から浄化装置1内に吸い込む。この際、汚染空気を浄化装置1内に効率良く吸い込むために送風機7が用いられる。また、吸込口4には、汚染空気中に含まれる粗大粒子を除去するための不織布フィルター(図示なし)が配置されていてもよい。浄化装置1内に吸い込まれた汚染空気は、次に、上述した構造の無機多孔質フィルター2を通過するようになっており、これにより、汚染空気中に含まれるオイルミスト、水蒸気、ガス(特に、親水性ガス)を高い除去効率で吸着除去する。無機多孔質フィルター2を通過した汚染空気は、さらに、脱臭フィルター3を通過するようになっており、これにより汚染空気中に残った疎水性ガスは吸着除去され、汚染空気は浄化される。浄化された汚染空気は、吹出口5から再び室内へ排出される。このように、本発明の浄化装置は、先で説明した、図12に示される従来の浄化装置と比べて、浄化装置の構造を大幅に簡略化することが可能である。
【0051】
図3は、本発明の浄化装置の他の実施形態を示す概略断面図である。図3に示される実施形態においても、電気加熱器具12を用いた食材の加熱調理により発生した汚染空気を吸込口4から吸い込み、これを無機多孔質フィルター2と脱臭フィルター3に通過させることで浄化し、吹出口5から排出する構成となっている。図13は、従来の浄化装置1の一実施形態を示す概略断面図であり、図3に示す実施形態と同様の形式のものである。図3及び図13に示すとおり、本発明の浄化装置は、このような形式の浄化装置に適用した場合においても、その構造を大幅に簡略化することが可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。
【0053】
<無機多孔質フィルターの作製>
(無機多孔質フィルター1)
成形材料として、北海道稚内層の珪質頁岩80質量%、粘土鉱物(比表面積40.8m2/g)20質量%を用いた。これらの成形材料を混合して湿式粉砕した後、これを真空押出成形機を用いて直径1mmの断面円形状の棒状体を連続で押出成形し、棒状体を折り返しながら、縦50mm×横50mm×長さ150mmの金網状の容器に充填した後、これを850℃で焼成固化することにより無機多孔質フィルター1を作製した。なお、得られた無機多孔質フィルター1における棒状体の充填量は、後述する方法で測定した差圧が42Paになるように調整されており、充填させた棒状体は130gであった。
【0054】
なお、無機多孔質フィルターの差圧は、ステンレス管からなる通路(縦50mm×横50mm×長さ150mm)内に無機多孔質フィルター1を配置させた後、吸込口の圧力と吹出口の圧力をそれぞれマノメーターで測定し、得られた実測値から算出することにより得た。
【0055】
(無機多孔質フィルター2)
成形材料として、北海道稚内層の珪質頁岩80質量%、粘土鉱物(比表面積40.8m2/g)20質量%を用いた。これらの成形材料を混合して湿式粉砕した後、これを真空押出成形機を用いて押出成形し、長さが30mm〜50mmになるようにカットした後、850℃で焼成固化することにより棒状体を作製した。得られた棒状体は、曲線形状或いは直線形状のものが混在しており、直径1mmの断面円形状をしている。これらの棒状体を縦50mm×横50mm×長さ150mmの金網状の容器に充填して無機多孔質フィルター2を作製した。なお、得られた無機多孔質フィルター2における棒状体の充填量は、上記と同様の方法で測定した差圧が42Paになるように調整されており、充填した棒状体は128.7gであった。
【0056】
(無機多孔質フィルター3)
成形材料として、北海層稚内層の粘土質珪質頁岩(粘土鉱物15質量%、珪質頁岩85質量%)70質量%、水簸粘土30質量%を用いた。これらの成形材料を混合して湿式粉砕した後、これをプレス成形機を用いて成形し、図10に示すような、ストライプ層の成形体を得た。ここで、プレス成形で用いた上下金型は、直径1mm、長さ45mmの円柱状の棒状体(ただし、両端に位置する棒状体は、厚さ1mm、幅2.5mm、長さ45mmの直方体状である。)が、1mmの隙間を介して平行に、等幅で24本配列され、さらに、各棒状体の両側が一体的に連結した構成のストライプ層の成形体(各棒状体を連結する部分は、厚さ1mm、幅2.5mm、長さ50mmの直方体状である。)が得られるものを使用した。次に、得られたストライプ層を、隣り合うストライプ層を構成する棒状体同士が垂直となるように150層積層させた後、これらを乾燥し、850℃で3時間焼成固化することにより棒状体同士を固着させて、無機多孔質フィルター3を得た。
【0057】
なお、得られた無機多孔質フィルター3は、全体の大きさが縦50mm・横50mm・長さ150mmである。得られた無機多孔質フィルター3の外観を目視で確認したところ、欠損などの成形不良は生じていなかった。また、無機多孔質フィルター3において、上記と同様の方法で、差圧を測定したところ42Paであった。
【0058】
<脱臭フィルター>
ひだ状に折り込まれた不織布基材の表面に活性炭が粘土系バインダーにより担持されている、縦50mm×横50mmの活性炭フィルター1を用いた。
【0059】
<浄化装置>
ステンレス管からなる通路(縦50mm×横50mm×長さ150mm)内に無機多孔質フィルター1を配置し、参考例1の浄化装置を得た。また、無機多孔質フィルター2、3についても、それぞれ、上記と同様に配置して、参考例2、3の浄化装置を得た。また、上記通路内に、上流側から、無機多孔質フィルター1と活性炭フィルター1を順に配置し、実施例1の浄化装置を得た。これらの浄化装置の吸込口には、標準ガス発生装置が配置されており、一定濃度に調整されたガス成分又はオイルミストが室内空気と混合されて吸込口から吸い込まれるようになっている。また、この浄化装置の吹出口には、シロッコファン(最大風量150m3/hr)が配置されており、測定装置内の通気風量は1.0〜2.5m3/hr(浄化フィルター内の面風速0.1〜0.24m/s)に制御されている。
【0060】
(浄化効率試験)
・ガス吸着試験(アンモニア)
参考例1〜3の浄化装置にそれぞれアンモニアを含む汚染空気を通過させた。浄化装置の吸込口におけるガス濃度(A1)と吹出口におけるガス濃度(B1)を測定し、アンモニアの浄化効率((A1−B1)/A1)を算出した。なお、アンモニアの吸込口における濃度は15〜20ppmに調整されている。測定は、低湿条件下(温度25℃、相対湿度20%、通気風量2.32m3/hr)と、高湿条件下(温度25℃、相対湿度70%、通気風量2.32m3/hr)で行った。低湿条件下において、参考例1〜3の浄化装置のいずれも、アンモニアの浄化効率は、5分後において67%以上であり、1時間後においても浄化効率は維持された。また、高湿条件下において、参考例1〜3の浄化装置のいずれも、アンモニアの浄化効率((A1−B1)/A1)は、5分後において70%以上であり、1時間後においても浄化効率は維持された。
【0061】
・ガス吸着試験(アセトアルデヒド)
参考例1〜3の浄化装置にそれぞれアセトアルデヒドを含む汚染空気を通過させた。浄化装置の吸込口におけるガス濃度(A2)と吹出口におけるガス濃度(B2)を測定し、アセトアルデヒドの浄化効率((A2−B2)/A2)を算出した。なお、アセトアルデヒドの吹出口における濃度は15〜20ppmに調整されている。測定は、低湿条件下(温度25℃、相対湿度20%、通気風量2.32m3/hr)と、高湿条件下(温度25℃、相対湿度70%、通気風量2.32m3/hr)で行った。低湿条件下において、参考例1〜3の浄化装置のいずれも、アセトアルデヒドの浄化効率((A2−B2)/A2)は、5分後において40%以上であり、1時間後においても浄化効率は維持された。また、高湿条件下において、参考例1〜3の浄化装置のいずれも、アセトアルデヒドの浄化効率((A2−B2)/A2)は、5分後において60%以上であり、1時間後においても浄化効率は維持された。
【0062】
・オイルミスト吸着試験
参考例1〜3の浄化装置の吸込口と吹出口の内壁面に、それぞれ、重量を測定しておいた濾紙を設置した。次に、100mlのビーカーに50mlのサラダ油を入れ、ホットスターラーにて160℃程度に加熱する。このとき発生するオイルミストを含む汚染空気を、参考例1〜3の浄化装置に風量2.2m3/hrで1時間通過させた。その後、吸込口と吹出口に設置した濾紙を取り外して、これらの重量を測定し、濾紙に付着したオイルミストの重量を算出した。浄化装置の吸込口におけるオイルミスト付着量(a1)と吹出口におけるオイルミスト付着量(b1)とから、オイルミストの浄化効率((a1−b1)/a1)を算出した。試験は、温度25℃、相対湿度30%の条件下で行った。参考例1〜3の浄化装置のいずれも、オイルミストの浄化効率((a1−b1)/a1)は、70%以上であった。
【0063】
・調理臭吸着試験
サンマを焼いて発生させた臭気を、ポンプを使ってガスバックに捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所、GCMS2010、DB−WAX、100−160℃(4℃/min))で臭気成分の定性分析を行った。さらに、ガスバックに捕集した臭気を、参考例1〜3の浄化装置にそれぞれ通過させた後、再度ガスバックに捕集し、上記と同様の方法で臭気成分の定性分析を行った。浄化装置を通過させる前に行った定性分析では、アルデヒド類が最も多く、次いで、有機酸やアルコール類、さらに脂肪酸由来の油分が検出されていたのに対し、参考例1〜3の浄化装置を通過させた後に行った定性分析では、これらの臭気成分のいずれのピークも検出できなかった。
【0064】
・湿気吸着試験
無機多孔質フィルター1〜3を、それぞれ、温度25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ48時間保持した後、質量を測定した。次に、これらを、温度25℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽に入れ24時間保持し、再度質量を測定した。測定した質量の増加率をそれぞれ算出したところ、無機多孔質フィルター1〜3はいずれも10%以上の質量増加が見られた。
【0065】
(長期間の使用試験)
上記の、オイルミスト吸着試験後に、参考例1〜3の浄化装置の吸込口と吹出口の圧力をマノメーターで測定し、無機多孔質フィルター1〜3の差圧をそれぞれ算出した。得られた無機多孔質フィルター1〜3の差圧はいずれも42Paであり、オイルミスト吸着試験前の各無機多孔質フィルターの差圧と全く差はなかった。
【0066】
(疎水性ガス吸着試験)
参考例1の浄化装置に硫化メチルを含む汚染空気を通過させた。浄化装置の吸込口におけるガス濃度(A3)と吹出口におけるガス濃度(B3)を測定し、硫化メチルの浄化効率((A3−B3)/A3)を算出した。なお、硫化メチルの吸込口における濃度は15〜20ppmに調整されている。測定は、低湿条件下(温度25℃、相対湿度20%、通気風量2.1m3/hr)で行った。低湿条件下において、参考例1の浄化装置の硫化メチルの浄化効率((A3−B3)/A3)は、30分後において、20%程度であった。
【0067】
実施例1の浄化装置に、上記の疎水性ガス吸着試験と同様の方法で、硫化メチルを含む汚染空気を通過させた。硫化メチルの浄化効率((A3−B3)/A3)は、30分後において75%であった。すなわち、実施例1の浄化装置は、参考例1の浄化装置に比べて、疎水性ガスの吸着力が向上していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の浄化装置の構成を説明するための模式図。
【図2】本発明の浄化装置の一実施形態を示す概略断面図。
【図3】本発明の浄化装置の他の実施形態を示す概略断面図。
【図4】無機多孔質フィルターの一実施形態を示す斜視図。
【図5】無機多孔質フィルターの他の実施形態を示す斜視図
【図6】無機多孔質フィルターの他の実施形態を示す正面図。
【図7】図6に示す無機多孔質フィルターの部分平面図。
【図8】無機多孔質フィルターの他の実施形態を示す正面図。
【図9】図8に示す無機多孔質フィルターの部分平面図。
【図10】無機多孔質フィルターを構成するストライプ層を説明する説明図。
【図11】無機多孔質フィルターの他の実施形態を説明する正面図。
【図12】従来の浄化装置の一実施形態を示す概略断面図。
【図13】従来の浄化装置の他の実施形態を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0069】
1:厨房用空気浄化装置
2:無機多孔質フィルター
2A:棒状体
2B:ストライプ層
2C:突起
2D:容器
3:脱臭フィルター
4:吸込口
5:吹出口
6:通路
7:送風機
8:オイルフィルター
9:冷却器
10:加熱器
11:外装ケース
12:電気加熱器具
13:調理器具
14:キャビネット
15:壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気加熱器具を用いた食材の加熱調理により発生する汚染空気を吸込口から吸い込み、これを浄化して吹出口から排出する厨房用空気浄化装置であって、吸込口と吹出口を連通する通路に、吸湿性、オイル吸着性及び親水性ガス吸着性を有する無機多孔質フィルターと、疎水性ガス吸着性を有する脱臭フィルターとを上流側から順に配置してなることを特徴とする厨房用空気浄化装置。
【請求項2】
無機多孔質フィルターが、無機多孔質材料を含む成形材料で形成された棒状体を集合してなるものであって、さらに、上記棒状体同士が交叉して接した状態の多数の接点を有し、かつ、これらの接点が3次元空間に点在し、各接点の周囲に隙間を形成してなる状態の3次元構造を有するものである請求項1に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項3】
前記棒状体が連続した直線部分を有する曲線形状をしており、該曲線が規則的に或いは不規則に折り返されて3次元構造を形成している請求項2に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項4】
前記棒状体が曲線或いは直線形状を有したものであり、該棒状体を不規則な状態に複数積み上げられて3次元構造を形成している請求項2に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項5】
前記棒状体が直線或いは曲線形状を有したものであり、該棒状体を同一平面上に互いに平行な隙間を介して複数配列して形成した構成を有するストライプ層を複数有し、かつ、該ストライプ層が、各ストライプ層を構成する棒状体同士が互いに交叉する状態に積み上げられて3次元構造を形成している請求項2に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項6】
無機多孔質フィルターが、無機多孔質材料粒子の集合体により形成されている請求項1に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項7】
無機多孔質材料が、平均細孔半径が2〜8nm、比表面積が80m2/g以上、最高吸湿率が15%以上の珪質頁岩である請求項1〜6のいずれか1項に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項8】
脱臭フィルターが、活性炭を含有するものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の厨房用空気浄化装置。
【請求項9】
さらに、吸込口の開口面に、粗大粒子を除去するための不織布フィルターを配置させた請求項1〜8のいずれか1項に記載の厨房用空気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−213759(P2009−213759A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62444(P2008−62444)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(506106866)株式会社自然素材研究所 (21)
【出願人】(000237053)富士スレート株式会社 (10)
【Fターム(参考)】